何も見えない真っ暗な場所に私は立っていた。
自分がどこにいるかさえも分からない。
「ねぇ、あなたはどんな存在になりたい?」
どこからか誰かが鈍い声で私に問いかけてきた。
「どんな、存在…か…そんなことにどんな意味が」
そして、目覚まし時計のアラームで私の意識は覚醒する。
「ふぁ~、なんか変な夢だった。自分がどんな存在になりたいか…か」
起きないと。
私は火狐瑞葉19歳、両親は14年前に殺された、とても優しい両親だった。
それからは祖母の家で暮らし、高校卒業と同時に今住んでいる名古屋に移り住んだ。
未だに犯人は捕まっていない。
私はいつも通り身支度を済ませ、大学に向かった。
◇
大学はバカ騒ぎする奴や逆に大人しい奴もいる。
私はどちらかというと大人しい方だ。正直、あんな猿同然のギャーギャー騒ぐことしか知らない奴らとは関わりたくない。
いつもと同じように私は教室の前から2番目の窓側の席に腰を降ろす。
「ねーねー」と言いながら私の肩をポンポンと叩いてきたのは
今までこのキャンパス内で見たことがない女の子だった。
まぁ、沢山の生徒がいるんだ知らない生徒がいても当たり前だ。
「隣、いい?」
私は「どうぞ」と短く答えた。
「ありがとねー。私、夜月雫あなたは?」
勝手に自己紹介してきてこっちも自己紹介させよとか普通に迷惑。
「・・・・・・」
「ねぇ。聞いてる?」
「・・・・・・」
「えい」
雫は瑞葉の、後頭部を教材で叩いた。
「痛った!何をするだ君は!」
「反応が無いから教材で殴った」
「わかってるよ!君の常識はどうなっているんだ!」
雫はきょとーんとしたまま言葉を発さなく一方的に怒鳴られ続けた。
「はぁーもう。朝から疲れた」
「なら、怒鳴らなければいいんじゃない?」
「原因を作った君が何を言うか!」
「あなたのそんな顔初めて見たわ」
「からかうな!私も人だ怒ったりもする」
気が付けば教室にいた生徒の目は全部私に向いていた。
それに気づいた瑞葉は、荷物を持ち教室から出ていった。
「待って!」
雫も自身の荷物を持ち瑞葉を追いかけた。
◇
人は過剰なストレス、何か辛い事に直面すると自分を守るために別の自分を生み出してしまう、簡単にいうと別人格ってやつだ。
なら私なんて今も今までもストレスしかない!
いっそ死んでやろうかなんて考えもした。
親無しだから他者に馬鹿にされ、差別されてきた。
私が何をした?私が罪を課せられるような事でも、働いたか?否、そんな事はしてない。
もう、こんな辛いことだらけの世界なんて消えてしまえばいい。
瑞葉は教室から出たあと、そのままずっと走り続けていた。
ぶつけることのない、自分の怒りを抱きながら。
30分くらいそのまま走り続けた。
気づくと私は知らない裏路地に来てしまっていた。
「ここ、何処?」
「おい、嬢ちゃん」
来た道の方を向くと自分より一回り大きいいかにも柄の悪そうな男数人が瑞葉の周りを囲っていた。
「ん?」
「暇なら、俺達と遊ばない~?」
「嫌、暇じゃないから」
次の瞬間、男達のうちの一人がが瑞葉の左手を掴んだ。
「離して」
「そんな事言うなよ~別にただ楽しい事するだけなんだしさぁあ?」
助けてくれそうな人はいない。
裏路地だから、大声出したって多分表通りの人に聞こえない。
なら、どうすれば…。
その時、『僕と変われ』と何処からか聞こえた。
「今、何か言った?」
「はぁ?言ってないが?大丈夫かお前?」
この人も、知らないと…。
『もう、辛い事は嫌なんだろ?なら、僕に任せて』
まただ、だけど今度は意識がかすれて…。
「おぉい!コイツ、急に倒れやがったぞ」
「ま、良いんじゃね?やることには変わんねぇし」
『そろそろ、頃合かな』
「それも……って、女はどこに行った?て、あぁぁぁぁぁぁぁ!!腕がぁぁぁ!」
一瞬、目を離したら腕は切り落とされ、瑞葉が消えたのだから。
「お、おい!とりあえず抑えとけ!」
「別れてさっきの女を探せ!」
◇
瑞葉を追いかけ、大学近辺の駅まで来ていた。
「結局、追いかけて授業すっぽかして来ちゃったけど、まぁいっか」
どこに行ったかも分からない、あの子を追いかけて来たものの手がかりが一つもない。
連絡先ぐらい交換すればよかったかも。
『なぁ、私なら分かるかもしれないぜ』
「いや、無理でしょ」
『もしかしたら、私達と同じものかもしれないぜ?』
私と同じということはあの子もアナザーワンという事になる。
アナザーワンそれは、異能持ちの別人格を持つ人のことである。
彼女が言うには、4年前私が友人を無くした時、自分の中で生まれたらしい。
彼女の存在に気づいたのは丁度、1年前。
当時、剣道部で遅くまで練習があるのが当たり前になっていた。その日も日も沈んだ夜の8時に練習が終わり、街灯が町を照らす中私は下校していた。
「疲れたー、今日は課題も無いし来週から剣道の大会だから生活の基盤もしっかりしないと」
家は、学校の近所にあり、いつも踏切を渡った所の分かれ道の右を通って帰宅していた。
だが、その日だけはもうひとつの道を通って帰宅しようとした。
「にゃははははは!」
「?!」
自分の周りに人影なんてない中、声だけはハッキリと聞こえる。
直ぐに肩にカバーをしてかけていた竹刀を取り出し構えた。
「にゃははははは!そんなんで、何かできると思ってんの?」
「誰なの!いい加減出てきて!」
「別に隠れてなんて居ないにゃ。もう、仕方ない」
電信柱から何かが降りてきた。
それが、街灯の真下に来た時、私は目を疑った。
明らかに人間では、無かった。
見た事の無い服装で背中には、漫画やアニメなどに出る竜の翼や尻尾、両腕は鉤爪のような形をしていた。
「初めまして。私は二ビル」
「な、何の用ですか」
「用?そんなもの無いにゃ」
「なら…」
「でーもー、暇だからさ楽しませてよ。その命を使って」
「命って…」
次の瞬間、そいつが私に襲いかかってきた。
突進され、その勢いで私は後ろに止まっていたトラックに叩きつけられた。
「がっ…あ…」
「そんな1回でダウンされたら困るにゃ〜私が飽きるまで頑張って!」
「こ、この、キチガイが…」
「まだ、喋れるならいけるのにゃ~。行っくよー」
その後も、一方的な攻撃は続き竹刀で防ごうとしたが意味も無く竹刀ごと切り裂かれた。
このままだと、本当に死んでしまう逃げようにもあれが相手だと逃げれられるなんて到底思えない。
死にたくない、まだやりたいこといっぱいあるのに…。
そんな思いと共に涙が溢れていく。
『なら、変わって…』
突然、知らない女の子の声が頭の中に響く。
「え…?」
「ほらほらー、次行くからさー立つにゃ~」
『死にたくないなら、変わって…この状況からあなたを生き残らせてあげる。あなたはただ体を委ねるだけでいい』
死ぬぐらいだったら…。
「もう!どうにでもなれ!」
その瞬間、意識が掠れていった。
『後は、私に任せな』
「あれ?死んじゃった?なーんだもう少し、いけると思ったのににゃ~。仕方ない、終わらせるかにゃ」
爪で体を貫こうとしたその時。
雫は、二ビルの手をがっちり掴んでいた。
「おい、これ以上この子を傷つけるってんなら私が相手をするぜ?」
「なんか、変わったかにゃ?まぁ、続けるとするかにゃ!」
「クリエイション…」
高速で向かって来た二ビルの翼を切り落とした。
二ビルはそのまま、地面に落ちた。
「な、何が起きた?!」
二ビルが雫の手に目をやると折れた竹刀に水のようなものが渦巻いていた。
「水圧って言うのはさ。銃を超えたりするんだぜ?」
「この、クソアマがァァァァァァァ」
「君は相手を間違えた。君の敗因はそれだけだ」
その言葉だけ言い、二ビルの体切り裂いた。
「さてと、よっと」
竹刀に渦巻いていた水は、二ビルの死体を飲み込みそのまま消滅した。
◇
どこを探しても見当たらない。
「変わってあげる。けど!男の子にナンパとかはやめて」
『はいよー』
「前、誤解解くの大変だったんだから!」
この状況、他の人から見たらただの変人なんだよね。
なので、極力外では話さないようにしてる。
『ふーん』
殴れないけど、今ほどコイツを殴りたい。
「頼むよ?黎」
『りょーかーい。後で牛丼食べていい?』
「やめて、太りたくないせめて小盛にして」
『はいよー』
今日も私は黎と変わり生きていく。