ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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調子乗ってるので投稿します。
二次創作の醍醐味は行間を描写できるとこだと思うの。

感想、誤字脱字報告は歓迎です。


その11.妖精戦争(後)

 投石機攻略は、想定以上に順調に進んだ。

 

 妖精達に相性の良いパーティを組んだからというのもあるが、ルークに扇動されたヘルラージュが常時TP60回復とかいうぶっ飛び状態で活躍したのだ。

 

「ヘルズラカニト!ヘルズラカニト!おまけのヘルズラカニト!」

「へもげーーー!?」

「うーわひっど」

「蚊取り線香以上にポトポト落ちていくのう」

 

 投石機の弾丸を輸送する部隊を待ち伏せし、妖精達を瞬殺して(殺してはいない)見事に弾丸の奪取に成功。

 

「非戦闘員の命などいらない。さっさと馬と積み荷を置いて来た道を戻ると言い」

「見逃すのかい?馬鹿にしやがって……!」

 

 降伏と撤退を勧告するローズマリーに悪態をつく妖精達。

 

 

「そうか?

 

……じゃあ投石の弾の代わりにお前たちの首を詰めて投げてやろう。ご立派な最期を飾れるぞ

 

 

「ひ、ひぃいいい!?」

「逃げろおぉおお!」

「ひゃーっ、おっかねえ」

「俺より悪党の才能ある台詞吐くんじゃないですよマリーさん……」

「相変わらず、悪い台詞を言う時は顔がイキイキしてますなー」

 

 ドスの効いた脅し文句。

 そのあまりの気迫に、妖精だけでなくハグレ王国の面々まで戦慄する。

 妖精たちは蜘蛛の子を散らす様に逃げ出していく。

 

 これで投石の補充は阻止できた。

 あとは投石部隊を制圧し、デーリッチたち正面部隊に合図を送るだけだ。

 

 道なりに進めば、高台にあっさりとたどり着いた。

 妖精たちは玩具を与えられた子供の様にはしゃぎながら拠点目掛けて石を発射していた。

 

 もっと叩き込んでやろう――、そんな残忍な言葉を口走る妖精たちにやってきたのは、投石の補充では無く、ハグレ王国の制圧部隊だった。

 

 ハグレ王国の奇襲にどよめきが走るも、妖精たちは応戦を選択した。

 

 

 確かに妖精たちは強くなった。

 マナジャムを摂取できるようになったおかげで、並みの冒険者とも引けを取らないだけの戦いができるようになった。さらには戦闘訓練や、魔力量の増大方法など、()()()()()から戦力の増強を施されてきた。

 それだけに、妖精たちには目の前の敵から逃げるという発想は浮かばなかった。

 

 だが、それはそれ。

 いくら妖精が短期間で強くなったからと言って、一人一人が強力な能力を持つハグレ王国の面々相手では五分の戦いがやっと。加えて言えば、彼女たちは確実に勝利を掴むために、徹底的に妖精への有利な属性を得意とするメンバーで固めている王国が圧倒的に優勢であった。

 

 あっという間に投石部隊のリーダーが追い詰められる。

 だが彼女たちにも意地がある。

 最後の悪あがきだと拠点へ攻撃するように投石機へと一匹の妖精が戦線を離脱して取り付こうとした。

 

 しかし、奇襲に奇襲を重ねるのがハグレ王国ならぬ秘密結社流。

 投石機の影からぬっと手が伸び、今まさに投石機を動かそうとしていた妖精の細腕を掴んだ。

 

「――え?」

「はい、ご苦労様。そしていってらっしゃい」

「ひゃっ、う、うわああああ!?」

 

 妖精は勢いよく崖側へ投げ飛ばされた。

 そのまま妖精は崖下に落下していく。

 人間には厳しい高さだが、妖精たちには羽根がある。

 まあなんとかなるだろう。

 

「なっ!? いつの間に!?」

「隠密を暴く訓練はしてこなかったようだな? 一匹たりともこっちに視線を向けてこなかったぞ」

 

 妖精を投げ落とした張本人――ルークが呆れ果てたように言った。

 ルークは戦闘の最中、身を隠したまま後列と入れ替わった。そうして敵の意識から完全に外れた彼は、そのまま戦線を迂回して投石機へとたどり着き、身を潜めていた。

 

 できる限り鹵獲する。

 しかし投石攻撃が開始されるようなら破壊工作に。

 

 風と投擲武器の嵐は、彼の強みを最大限に活かせるようにその身を隠してくれたのだ。

 

「ヘルズラカニト!」

 

 そうして出来上がった隙を見逃さず、ヘルラージュは妖精たちの周囲を真空へと変える。

 空気の破裂。

 宙に浮く妖精には効果覿面と、ついに投石部隊は一掃された。

 そうしてハグレ王国は投石機を掌握することに成功した。

 

「ようし、これで攻守交代。そっくり入れ替わったわけだ」

「ぐぬぬーっ! でも投石機は頑丈だ、簡単に破壊はできない! そのままにらみ合っていろ……!」

 

 投石機を破壊しようと背を向けたら集中砲火だと妖精隊長が指示を出す。だがかなづち大明神は投石の詰まった箱を崖下へと蹴っ飛ばしてしまった。一応、先ほどの妖精が落ちた方角とは別の方に。

 

 もはや弾が補給されることはなく、投石機はただデカイだけの置物と化した。

 

「これで後は君達の排除に専念できるという訳だ」

「そして手前らの首を投石代わりに本陣にいる女王サマにお届けしてやろうじゃないか。なあ参謀殿?」

「ひっ……!?」

「……流石にしないからね?

 まあいい。今だけなら降参を認めてやる。妖精王国に心臓をささげて投石機と運命を共にするか。それとも恥を知り生き延びるか」

 

 二択から選べと勧告するローズマリー。

 すると投石部隊の隊長は降参を宣言し、命乞いを始める。

 

「全部プリシラの命令だったんだ! も、元からハグレ王国に逆らう気なんて無かったのに、プリシラが怖くてつい――、」

 

 口から飛び出したのは、聞くに堪えない責任転嫁。

 先ほどまで喜々として攻撃の指示を出していたというのに、見事なまでに手のひらを返す。

 それはないだろう、と部下の妖精たちが避難がましい目で隊長を睨み、ハグレ王国の面々も眉を顰める。

 

 そして、そこまで言った途端、彼女の耳に風切り音が聞こえ、すぐ後ろの木に何かが付き立つ音が響いた。

 

 一拍置いて、妖精の弾力ある頬に一筋の赤い線が走る。

 唖然として振り向けば、そこには短剣が深々と突き刺さっている。

 

 投石隊長が恐る恐る向き直ると、一切表情を変えることなくルークが次の短剣を手に取っていた。

 

「……ん、どうした? 続きがあるなら言ってみろよ」

 

 恐ろしいほどに侮蔑と嫌悪に満ちた声。

 謝罪も弁明も無駄。妖精が次に何か言葉を発すれば、間髪入れずその刃は眉間に突き刺さるだろう。

 妖精達は瞬く間に逃げ出した。勇敢にも残って戦おうとする者はだれ一人としていなかった。ここは臆病で自分本位な妖精らしかった。

 

「……出過ぎた真似をしました」

 

 ルークは少し気恥ずかしそうに言った。

 先ほどの彼は無表情に近かったが、その内側ではかなりの激情が渦巻いていた。

 義を重んじる彼にとってあの発言は許容し難いものだった。

 

「いいよ。私もあの言い訳は聞き苦しかったからね」

「それでも流石だ。ローズマリーさん。一人も死なせずに投石機を攻略してしまった。ルークさんもフォローありがとうございます。崖下に落ちた子も大丈夫でしょう。妖精はあれでは死因になりませんよ」

「大明神殿が言うならば大丈夫なんでしょうが……余計なことしましたか?」

「まあ、多少の過激な手段は止むをえませんから気に病む必要はありません」

「さて、甘いのはここまでです。ここからは少し、辛い思いをしなくてはなりません」

 

 これからプリシラ本隊に向けて投石機を使用してもらうとローズマリーは言った。

 それに対してかなづち大明神は、投石が直撃しない保証はないと言った。いくら戦意を削ぐことが目的とは言え、誰かに直撃或いは破片などが当たる可能性は決して低くはないのだ。

 

 ローズマリーはそれを受け入れた。

 彼女とて犠牲が出る可能性はこちらの指揮官を選んだ時から覚悟の上。双方犠牲なしの勝利にこだわって足を止めるなど愚の骨頂。大事な国王の道を切り開くために、後味の悪い役目を請け負うことにためらいはなかった。

 

「分かりました。しかし責任は折半ですな。……あなたみたいな人に勝ってもらえれば妖精達の未来は暗くない。その代わり戦後処理、よろしく頼みましたよ」

 

 そう言ったかなづち大明神の声は、まさしく妖精達を案じながらも厳しく見守る神にふさわしい威厳に満ちていた。

 

「恩に着ます。あなたを連れてきてよかった。これであの子達に道を作ってやれる……」

 

 ここでローズマリーに一つの誤算があった。

 それは、ここに集った者達が罪悪感を二人に任せっぱなしにする連中ではなかったことだ。

 覚悟を決めた二人に手乗りサイズの女神さまが声をかける。

 

「ローズマリー。大明神。それはお主らだけの責任ではないぞ」

「……ティーティー様?」

「ここには目の効く奴や風を読むことに長けた連中が集って居る。まさかそいつらの助力を借りずにいるつもりか?」

「しかし……」

「おいおい。此処まで来て待機ってのはないですよ姐御」

「多少興味があるって言ったろ? 実際の使い心地も体験しておかなちゃなあ?」

「風を読むのも投げるのも得意ハオ! 全部当てて見せるハオ!」

「これハオ、当ててはいかんのじゃぞ」

「……ハオ?」

「そうですよ。それにそういう事なら、ここに適任がいるじゃないか。そうとは思いませんか、リーダー?」

「……ええ。私だって、最早この程度で尻込みしていられませんわ!」

 

 次々と名乗りを上げる王国民達。

 参謀は、目頭から思わず熱いものが零れそうになるのをぐっとこらえた。

 

「これで、責任は八等分ってわけですね。どうしますか? 指揮官」

「……みんな、ありがとう。さあ、作戦成功の合図を!」

「おうよ!」

 

 参謀の声に、道化師が拳銃を掲げ引金を引く。

 甲高い銃声が三発、西の空に木霊した。

 

――それを、水晶の鳥が見届けていた。

 

 

 

 

 

 

 ローズマリー達が妖精王国の投石部隊を制圧した頃。

 西に大きく離れた帝都、召喚士協会にてその様子を眺める者がいた。

 

「ふーん。中々の切れ物だね、あのローズマリーって子」

「あらかじめ輸送部隊を襲撃しておいて、兵器を奪取したときに自分達が使えるようにする。

 成程、合理的です」

 

 水晶玉に映し出されたローズマリー達の姿。

 彼女らがテキパキと投石機の準備をする様を、白髪の魔術師は興味深く見つめていた。

 

「うん?あれは人間じゃないね。成程、古代のゴーレムか。それにあの風魔法使いの術、どこかで聞いた覚えがある気がするな……」

「ところで、先輩の姿が見えなかったようですが……」

 

 茶髪を二つに纏めた召喚士は、馴染みの人物が姿を見せない事実に不満な様子。

 

「エステルは正面突破の部隊だろ。切り込み役はアイツの専売特許だし、状況判断能力も問題ない。

 ……とか言ってたら、正面の部隊が進軍を始めたな。やっぱり、エステルはそっち側か」

「えっ、どこですか!?」

「ぐわっ。身を乗り出すなメニャーニャ!全く、あいつらの目が届かない場所だとここまで悪化するとは思ってなかったぞ……」

 

 使い魔が視点を移した先、ハグレ王国の主力部隊が妖精本隊の突破を開始した様子がそのままダイレクトにアルカナの下へと転送される。

 白髪の魔術師――アルカナは、茶髪の召喚士――メニャーニャがエステルの姿を目に納めようとする様子に苦笑を漏らす。

 

 そう、ここは召喚士協会の幹部、アルカナの研究室。

 数日前、マナ温泉で休暇を満喫していたアルカナは妖精王国へと戻ってきたプリシラ達から帝都への退去を求められた。客分である身を戦争に巻き込むわけにもいかないという理由から、マナジャムを土産に持たされて帰ってきたアルカナは帝都へと戻ってきたのだ。

 しかしその際に、アルカナは使い魔をこっそりと放ち、何が起こっているのか確認しようとした。その結果が妖精達のハグレ王国への進軍だ。

 そんなわけで、今現在アルカナの個室内では、ハグレ王国対妖精王国の戦争鑑賞会が行われていた。

 

 こう言うと滅茶苦茶趣味の悪い催しに聞こえるかもしれない。事実、最初に誘われたメニャーニャがそう言ったが、れっきとして大義ある行いなのだとアルカナは主張した。

 

 ハグレ達の小競り合いが無視できないレベルにまで発展するのならば帝都としても知らないふりをするわけにもいかない。故にこうして妖精王国と関係を持つ自分が監督する。

 いつの間に妖精王国はお前の監査下に入ったんだと、その主張に明らかな屁理屈を感じたメニャーニャであったものの、敬愛するエステルが関わってくるということもあってか、口では拒絶の意を示しながらも、こうしてアルカナの出歯亀に同席しているのだった。

 

「ところで、帝都にはこの事は伝えたのですか?」

「勿論。ただまあ、連中は『結果だけ確認してこい』なんて淡泊な答えしか返してこなかった。ハグレと妖精がぶつかり合っている様なんて興味ないんだろうさ。勝った方を帝都に併合する、両方潰れてくれれば儲けものってとこだろう」

「そんな他人事みたいな……。一応大陸の西側も帝国の領土でしたよね?」

「ほぼ独立地帯だろ。そもそも下手にハグレを刺激するぐらいならじわじわと飼い殺しにするのが今の帝都だ。弾圧も懐柔もできない中途半端が今って訳だよ。

 やれやれ、これでは到底、繁栄には程遠い」

 

 ハグレ戦争から10年。未だに及び腰な帝国の在り方を、アルカナはそう嗤った。

 

 そうこう話しているうちに、戦況は本陣での戦いへと移行する。

 

 厳冬なる魔力を手にしたプリシラただ一人に、ハグレ王国一行は攻めあぐねている。

 雪乃が出した雪だるまをバリケードとして冷気を遮断しているようだが、アルカナの技術で魔力効率が引き上げられているプリシラの魔法は出力で押し切ろうとする。

 しかし、技術を手にしたところでレベルが足りなければ意味が無い。

 限界を迎えるプリシラだが、知った事かと暴走覚悟で魔力を酷使しようとする。

 

 それを見たヅッチーはいい提案があると静止する。

 私とお前の一騎打ちだ。自分の一撃を耐えてみろ、と。

 上等だ。とプリシラは応える。

 

「へえ、一騎打ち。いいじゃない、お姉さんそういうの大好きだよ」

「あのまま全員で攻めていたら難なく勝てるでしょうに、どうしてああいう非効率な真似を……」

「効率極めてたら得られないものもあるってことよ」

 

 そういうアルカナは拳を硬く握り、決闘を見守っている。

 

 極寒の女神の冷気(ジオブリザード)から放たれる断罪の一撃(ギロチンスカイ)。それを目もくらむ国津の雷霆(タケミナカタバースト)が貫く、神話の再現ともいうべき光景があった。

 

「プリシラちゃん。負けちゃったかあ、次にあったらもっと鍛えてやるとしようかねえ」

「仮にも先生が手を貸したというのに、あまり残念そうじゃないですね?」

「そりゃそうさ。魔力を効率的に運用できるようになって、歴戦の戦士にちょっとしごかれても、うちのエステルが敵になってる以上、彼女は根本的な部分で負けてるのさ」

「……なーるほど。確かにそれはそうですね♪」

 

 アルカナは決して妖精王国を馬鹿にしたわけではなく、クソ真っ直ぐで熱血な自分の生徒を信頼していると言い、後輩もまたそれに同意する。

 

「それじゃあ、私はこれで。シノブ先輩がこっちに遺した研究がまだ終わってないんです」

「はいはい。また用があったら呼ぶからねー」

 

 そうして退室するメニャーニャを、アルカナは手をひらひらと振って見送った。

 

「さて、と。私も見るだけ見たし。こっちの仕事に戻るとしよう」

 

 アルカナは水晶の前で手を横にスライドさせ、映像の受信を停止、同時に使い魔への帰還命令を送信する。そして山ほどに積まれた資料の山を手に取り、今後の予定を固めていく。

 

「やれやれ、クックコッコ村の小学校への臨時講師にケモフサ村への顔出しに……全くやることが多いな」

 

 

 

 

 

 

 ――怒涛の戦いから一週間後。

 

 戦争を仕掛けたということで通常ならば首謀者、この場合は指揮官についてなんらかの処分が下されるものであるが、ヅッチーが妖精達全員で責任を取ると宣言し、プリシラもこれに承諾したため、明確に処罰された者はいなかった。

 

 少数精鋭のハグレ王国はともかく、その倍はいた妖精王国では少なからず妖精に犠牲がでると踏まれていたが、ハグレ王国が無力化を徹底したこともあって、意外なことに両王国の死者は確認できた中では0。

 投石による被害も殆どなく、精々が物資の損耗であったため、妖精王国からハグレ王国に多額の賠償金を支払うということで、両王国は和解となった。

 

 問題は、その賠償金の取り分についてなのだが。

 

「はーい。私30万!」

「あーっ、秘密結社にも30万!」

「それならうちの宣伝費用も!」

「金額は全員等分だからね?」

 

 大金に浮かれてか、好き勝手なことを言う王国民達。

 当然ながらローズマリーの静止が入り、ひとまず一人1万Gをそれぞれのお財布に、残りを施設や物資の補填費用に充て。そうして余った分は国庫に収められることになった。

 

「しっかし300万Gも払わせろとか、末恐ろしいなあの妖精さん」

「全くだ。経済的な攻撃を仕掛けてこなかったのは本当にありがたいとしか言いようがないよ」

 

 図書室にて財務に勤しむローズマリーに、手伝いに訪れていたルークが今回のプリシラが行った提案への感想を述べる。

 負傷者を装って慰謝料をふんだくろうとうろちょろしているハピコも賠償金の割り当てに不平不満を述べていたが、当初提示されたその金額を聞くと逆に言葉を詰まらせてしまった。

 プリシラは妖精達の労働意欲を煽るために、ハグレ王国が当初指定した賠償金額の3倍以上もの額を吹っ掛け返したのだ。仮にそれを呑んでいれば、いつの間にか借金関係が逆転していたなどということになりかねず、最終的に120万Gで手を打つことになったのである。

 

 ローズマリーはそこに恐るべきはプリシラの商才を見た。

 指揮官としてではなく、商人としての戦いをハグレ王国に仕掛けていたら、何年後の王国はどうなっていたのかわからないだろうと語った。

 二人はザンブラコでの影響力を思い出し、ローズマリーの話したそれが悪い妄想ではないことを理解した。

 

「君もヘルちんが借りを作ったりしないように、お金の扱いは気をつけることだね」

「そうですね。しっかりと見張っておきますよ」

「とか言って、アンタが一番ポカやらかしそうだとは思うけどね。見るからに博打でスるタイプだし」

 

 ローズマリーの忠告にハピコが茶々入れをする。

 

「オイオイ。俺がそんな大ポカやらかすわけないだろ。こう見えて勝てるかどうかの見極めはできると自負している」

「そう言ってさ、こないだトランプ大会でイカサマしてバレてたじゃん?」

「大丈夫大丈夫。バレたらまずい相手にはイカサマしないようにしている」

「いや、そもそもうちでも駄目だからね?」

 

 引き際は心得ていますから、とルークの信憑性の無い自信を見せられたローズマリー。この男、堅実なようで、盛大なヘマをやらかしそうな不安定さがある。

 

 実際、彼はこれより一年ほど後、よりにもよって自分が原因で彼女に多大な借りを作ってしまい、その解決に秘密結社が奔走する羽目になるのだが……

 それは、未来のお話。

 

 

 

 

 ――皆が互いの健勝を讃える宴会の中。

 ヘルラージュの下に、彼はグラスを片手に歩いていった。

 

「……あっ、ルーク君」

「お疲れ様ヘルさん。いやあ、兵士の真似事なんて慣れないことするもんじゃないよ全く」

「そうですわ。何だってあの時私ははしゃぎ回って……、ああもうお恥ずかしい!」

「そんな恥ずかしがるなって……、貴方が頑張ったから、こちらも楽に済んだんです。感謝してますよ」

「そう、それならいいのです。それで、私は立派に勤めを果たしたんですのよね?」

 

 ちらっちらっとルークに目配せするヘルラージュ。

 彼はしょうがないなぁと肩をすくめて、

 

「確かに、今回も立派だったよ。リーダー」

「……!!」

「これで満足ですか?」

 

 ヘルラージュは感極まってルークの腕に抱き着き、ぶんぶんと上機嫌に首を縦に振る。頬が赤らんでいるあたり、相当酔っている。

 彼女の頭に手を置いて、撫でる。

 

(あーあ、これだから彼女と一緒にいたいんだろうなあ、俺)

 

 などと、思いながら彼の心は達成感に満ちていたのであった。

 

「あ、ヘルちんがルークに抱き着いてるぞ!」

「なんだなんだ!やるじゃないか!」

「ひゅーひゅーっ!」

「ええい茶化すな手前ら!」

 

 

――第1章「遺跡と浜辺と妖精の国」完。

 

 

 

 

 

『第1章・アウトロ』

 

「クソックソッ、あの老害めが!おかげで何もかもが台無しだ!!」

 

 帝都の繁華街。その酒場の一つ。

 そこで酒を飲み愚痴をこぼす男が一人。

 

 彼の名はマクスウェル。

 かつて召喚士協会に所属していた一級召喚士であり、シノブを追い落とすためにエステルの罪を偽装し、挙句の果てには暗殺者を派遣した張本人であり、

 

 現在は、その地位の全てを失った人間である。

 

 エステルの暗殺に失敗した彼は、罪の偽装を行ったことで自分自身が牢獄に入る羽目となり、数か月後に金を積んだ司法取引で出所した後は、協会を追放された召喚士として名誉をはく奪され、こうして酒場で飲んだくれとして過ごす毎日。

 かつて部下として引き連れていた者は未だに牢の中か、彼を見限り離れていった。

 今現在の協会に残っている召喚士は、殆どアルカナ派閥のもとだと言っても過言ではなく、これまでに築き上げた全てが彼女に掻っ攫われたと彼は次第に思い始めていた。

 

 実際の所、彼の計画が頓挫したのはハグレ王国がエステルの救助と南の世界樹に関わっていたからであり、そもそも悪いことをしていたのはマクスウェル自身の方なのだが、全てアルカナが悪いのだと彼の頭の中では結論づき始めている。

 

「それもこれも全部アルカナのせいだ。あいつが余計な真似をしなければ」

 

「……今、アルカナと言ったな?」

 

 酒場の喧噪にかき消されるマクスウェルのぼやきだが、酒場にいた一人の人物がそれを拾い上げた。

 

 その人物はマクスウェルの前まで来ると、立ったまま彼を見下ろし口を開いた。

 

「なんだよ、お前?」

 

 泥酔しているが流石に気が付き、マクスウェルはその人物を見返す。

 フードに覆われその風貌はよくわからないが、合間より見える照明の反射からするに眼鏡か何かを身に着けているか。

 

「元一級召喚士のマクスウェルだな?」

「……そうだよ、何か用か?」

「貴殿の力を借りたい。協会で頭角を示していたという頭脳を、このような場で腐らせておくのはもったいない」

「……へえ、どこの誰かは知らないけど、分かってるじゃないか」

 

 声の質から判断できたのは男であること。それ以外は不明。

 普段であればこのような素性も知れぬ相手の話に乗る事すらしなかっただろうが、泥酔していたことによる思考の低下、相手が自らの実力を讃えたという事実から彼は気を良くし、まあ話ぐらいなら聞いてやろうと考えていた。

 

「一応確認しておくが、貴殿が言ったアルカナとは、アルカナ・クラウンの事で合っているな?」

「ああそうさ。10年以上前に大陸の外の名家から来たとかなんとかいうが、所詮帝国のお情けで栄誉爵位を持っているだけの三流貴族だ。だというのにあの女はいつもいつも僕の邪魔を……!」

 

 憎々し気にアルカナの事を語るマクスウェル。

 それを聞き、男はフードの下で笑みを浮かべる。

 

「そうかそうか。それは重畳。いや人違いである可能性は薄かったのだが、君の証言で確定した。これも星々の巡り合わせというべきか。つまり君は、アルカナを貶めたいと思うのだな?」

「……何が言いたい?」

「簡単だとも。私も彼女には因縁があってね。こうして志を共にする者を探していたのだ。君の事は同士から聞いていてね、ここで出会えたのはまさしく幸運だったよ」

「……聞かせろ」

「では」

 

 フードの男が指を鳴らすと、二人の耳に届いていた周囲のざわめきがパタリ、と止んだ。

 

「これは……」

「簡易ながらの人避けだ。あの女も使用できる初歩的な魔術の一環さ。私はあの女の魔術を良く知っている。奴の出身も、その秘密もだ。

 ――私の目的は彼女を亡き者にする事。そのための仕掛けは用意できている。ああ、君が執着しているという人物についてもついでに排除できるはずだ。資金も後ろ盾も確保済みでね、後はこうして知恵ある同士を集めているわけだ。雑用は工房でいくらでも造れるが、君の様に真に計画の助けとなれる者となるのは希少だ」

 

「へえ、それで?」

 

「聞けば古代文明の遺産を研究していたようだな。

 ――我々はそれの確保に成功している。未だ協会でも発見されていない代物をだ。それの復元を頼みたい。」

「僕を迎え入れるには万全って訳か。面白いじゃないか、乗ってやる。このマクスウェル様の研究が必要っていうなら、その手助けをさせてやる」

 

「……調子のよい男め。まあいい。我々のアジトへと案内しようじゃないか。これからよろしく頼むよ、同士マクスウェル」

 

 フードの男は立ち上がり、手を指し伸ばす。

 一応の友好を、という訳か。いいだろう。

 マクスウェルも立ち上がりその手を握る。

 

「ああよろしく。それで?君は何と呼べば良いのかな?」

「……サーディス。それが今の私の名だよ」

 

 そうして二人は酒場を出て、夜の闇へと消えてゆく。

 

――帝都、ひいてはこの大陸を巡る陰謀は、未だ始まったばかりである。

 

 




ルーク
ダーティファイト上等。
王国に来てからは自重しているがこれでも昔は結構えぐい手段使ってた。

ヘルラージュ
チョロイン。
その気にさせてしまえば敵無しと言っても過言ではない……ヒロインじゃな?

投げ飛ばされた妖精さん
あの後、何とか妖精王国に戻ってきたらしいですよ。

メニャーニャ
先輩の勇姿を生中継で見てご満悦。この作品だとアルカナがいるので協会の面倒事に忙殺されていたりはしない。

次回から次元の塔4層だったりキャラ同士の補完を挟んだ後、原作3章に行きます。

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