ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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繋ぎの回。
ダンジョンを攻略したり、登場回数の低いキャラとの会話だったり。


その12.彼ら彼女の一幕・弐

『地をつかさどりし六魔』

 

「それじゃあメンバーを決めるでちよーっ!」

「呼ばれた人はこっちに来て、装備品の更新も忘れずにね」

 

 元気いっぱいのデーリッチの声に、ハグレ王国の面々は一同に会し、ローズマリーの指示を待っていた。

 

 次元の塔四層。

 新たに解放されたそこは、巨大な竜の卵というトンデモな代物が眠る魔窟であった。

 

 訪れた当初は卵も孵る様子もないので、ひとまず放置して探索に集中していたデーリッチ達。

 中ボスも倒し、そこからは長らく次元の塔を訪れていなかったが、ザンブラコの事件や妖精王国との戦争を通じ、これから先にはより強力な存在が敵として立ちふさがるのかを想定する必要が出てきたため、彼女らは戦力の増強を課題にして後半戦に挑むことにした。

 そんなわけで再び次元の塔四層に足を運んだデーリッチ一行であったが、そこで彼女らは驚きの光景を再び目にすることになった。

 

「あれ?」

「確か此処に卵があったはずだよね……?」

 

 卵があったはずの場所を確認するとなんと、からっぽ。

 通信を飛ばしてきたヘルパーさんから話を聞くに、卵の存在を嗅ぎ回っていたはむすけ&ドラゴンが卵を四層頂上まで持ち去ったと言う。

 中身を復活させようとしているのだろうか理由は不明だが、捕らえるべきだと急いで最上部へと昇っていくデーリッチ達。

 

 とりあえず陣取っていたボスを倒して、脇にあった通路を進んでいく先には大部屋が広がっており、そこの中央にお目当てのものは鎮座していた。

 

「うわーっ、本当にありましたー……」

「どうやってここまで移動させたんだか、あの小さなドラゴンがやったなら大したパワーですが」

 

 あの竜と自身の三倍はありそうなこの卵を比べ、どらごん君の膂力に感心するルーク。

 

「しかし、どうしましょう。私たちがここから動かそうにも、これほどの大きさですし……」

「うーん、ゼニヤッタとマッスルで何とかかな?」

「じゃあマッスル連れてくるでち?」 

「その間に来たらどうするよ?」

「そもそも、転送ゲート通るのこれ?」

 

 あーでもないこーでもない。

 そうやって話し合っていると、はむすけ&ドラゴンが上機嫌で帰ってくる。

 問い詰めてみれば、案の定中身の竜を孵化させて刷り込み効果で従えようとしていた模様。

 あまりにストレートな動機に、乱暴な真似はしていないだろうとローズマリーは言う。

 だが、

 

「ちょっと暖めてたらヒビが入ってきたんで、慌てて餌の買い付けに行ってたんだよねー」

 

 と呑気に口走るはむすけに、一同は卵を振り返る。

 

「何かヒビが大きくなっていないでちか!?今にも割れそうでちよ!?」

 

 見れば、既に半分以上に亀裂が走っている。しかもちょっと震えてる。健康な証ですね(震え声)

 かつて地上を荒らしに荒らした伝説に名高き六魔、その一角たる地竜がここに蘇ろうとしていた。

 

 もうすぐ産まれるのかなーっと未だに呑気に口走るはむすけに、ローズマリーが中に入るのは世界を滅ぼしかねない魔物だと警告する。

 しかしはむすけはそれを聞いたところで萎縮するどころか、より調子に乗り出す。

 

「おっと君たちの威勢もここまでだ。そんな卵の中身がボクの味方につけば……。後はどうなるか、わかるね?」

「つまりアンタをここで始末すれば良いということですね?」

「ひっ!?この人容赦ねえ!?」

「身の程を知れって言ってんですよ」

 

 はむすけの言葉に間髪入れずに銃を突き付けて牽制するルーク。

 この男、ヘルラージュを見捨てて逃げたはむすけへの恨みは忘れていなかった。

 そんな風ににらみ合いをしている間も卵の亀裂は止まらない。

 

「って、そんなこと言ってる場合じゃないでちよ!」

「いけない、卵が――!!」

 

 そして卵は完全に割れ、巨大な影が姿を見せる。

 

 その地を揺るがす産声は、滅びと殺戮の時が来たことへの、歓声であったのだろうか。

 

――地竜の影が出現!

 

 

 

――ぐおおおおおおぅーーーん……!!

 

「……」

 

 見るだけで他を圧倒する存在感、大地を震わせる雄叫び、穢れを竜の形に押し込めたような()()を前に、ハグレ王国の面々は言葉を失っていた。

 

「……はむすけ、これ手懐けるんだってな?やってみせろよ」

「……すみません。祖父の七回忌があるのでこれで失礼させていただきます」

 

 さっきまでの調子はどこへやら、逃げようとするはむすけだったが、

 

「おっと、念のためお前を握っておいてよかったよ。いつも逃げられるからな」

 

 参謀さんはそんなことは許さなかった。がっちりとロックを決められたはむすけに逃亡は認められていない!

 

「ご、ご冗談でしょう?ボク、卵あたためただけなんで――」

「いや、大戦犯でしょう?」

 

 産まれた原因が自分にあるというのに、はむすけは苦し紛れの言い訳を繰り出そうとするがバッサリと切って捨てられる。

 

「いいからドラゴンに乗ってお前も戦え!」

「ひいいいいっ!」

 

 ローズマリーのドスの効いた声には従うほかなく、はむすけ&ドラゴンがパーティの9人目として戦闘に参加することになった。

 

「それで、こいつは何属性が効くんです?」

「竜というからには氷属性が効くと思うんだが……」

「はいはい。ではパパッといきましょう」

 

 ルークはパーティの間を駆け抜け、特技型の仲間たちの武器を氷属性のそれに素早く交換していく。

 

「よーし、これで準備完了!」

「相変わらず手際が良いわね」

 

 装備を受け取りながらジーナが感心する。

 普段から相手の武器を奪い取ることなどに使われるスリ技能だが、応用すれば武器を戦闘中に受け渡す事もできなくはないのである。

 でも防具は流石に無理です。事前に耐性を確認してから挑みましょう。

 

――ぐおおおおおおぅーーーん……!!

 

 地竜が嘶きとともに体から胞子をまき散らす。

 

「うわっ、なんだこりゃ」

「これは……地面から地竜にエネルギーを送っているのか?だとしたら素早く倒さないと大技を連発されてしまうぞ……!!」

「まとめて薙ぎ払うしかないってことか?」

「これはちまちま削るより一撃でぶちのめすほうがいいかもしれないわね!」

 

 ローズマリーの分析により、地竜への攻撃と並行して全体攻撃で胞子を片付けていく仲間達。

 作戦は短期決戦。

 一撃で決めるべくアタッカーは自己強化に集中し、それ以外の面々が露払いと支援を行う。

 

「ちっ、しぶといじゃない。中々剥がせないよ」

「胞子なら風使って吹き飛ばせるんじゃないですか!?誰かいますか!?」

「それなら私の出番だねー!」

 

 全体攻撃で胞子が消えないことに面倒だな、とジーナは思う。

 ルークは今現在パーティにいる仲間の中で風属性の特技が得意な面々を前に出すよう呼びかける。

 ハピコが前に出て、地竜の大地を介した攻撃をいなしながら竜巻を生み出す。

 

「あっ、どらごん君が風のブレス使えるっす」

「じゃあやれ!今すぐ!」

「うひぃ!?そこまで怒らなくてもいいじゃないっすか!」

 

 若干キレ気味のルークに急かされ、どらごん君がブレスを吐き出す。

 風のブレスは竜巻と相乗的な効果を発揮し、胞子を一つも残さずに吹き飛ばしていく。

 竜族の意地をここで見せてやると言わんばかりだ!

 

「んぐんぐんぐ……おっしゃー!今から本気出ーす!!」

「いや最初から本気だしとけよ……」

 

 こたつ蜜柑を呑み終えたこたつドラゴンが、やる気満々と言ったようにこたつから出て立ち上がる。

 せめてボス戦なんだからもうちょっと早めにやる気だしてもらえないだろうかという野暮なツッコミもあるが、ここからが彼女の本領発揮なのだ。

 とりあえずこたつドラゴンは後衛に下げ、前衛達はアイスファーントやスノーソードで地竜の体力を削りながらTPを稼いでいく。

 途中でヘルパーさんの通信が入り、こちらに向かいながらの遠隔操作で支援が受けられ、ハグレ王国は地竜に痛烈な一撃をお見舞いする準備が整い始めていた。

 

 それを知ってか知らずか、地竜はその口からしめった風を吹いて前衛達に疫病を付与しようとしてくる。

 攻撃役が倒れてはならないと後衛から出てくる仲間達。

 

「ぎゃああああ!死ぬ、死ぬ!」

「むぎゃーーっ!」

「デーリッチちゃん!ルークさん!回復薬です!」

 

 疫病に罹ったデーリッチとルークはベルのとっておきQQ箱で即座に回復される。というかローズマリーとベルの二人は疫病無効なのでこの二人しか状態異常になっていない。

 そのまま地竜にデバフをかけてから、後衛と入れ替わる二人。

 

「ひーっ……疫病は怖いでち」

「ご無事ですか国王様?……これでも、喰らいなさい!」

 

 静かな怒りを抱いたゼニヤッタの拒絶の印が、地竜の氷耐性を著しく下げる。

 

「うおおおお!寒いっじゃーん!!」

 

 こたつドラゴンはホワイトアウトを放った!

 

――ぐおおおおおおぅーーーん……!!

 

 絶対零度の弾丸が地竜に突き刺さり、見てわかるほどの手ごたえを感じさせる。

 残り体力は一割と言ったところだろう。

 

「よっしゃ!」

「はいっ、ジーナさん!」

「よし、いい加減これでも喰らって倒れな!」

 

 ベルが決定打を確かなものにするべく、ジーナへの援護を行う。

 からくり大博打を乗せた渾身の一撃をジーナが叩き込んだ……!

 

 

 

「それが、この子なんですの?」

「もっけ、もっけ♪」

 

 ハグレ王国拠点。

 ヘルラージュはルーク達から話を聞きながら、目の前にいる小さなドラゴンを見やる。

 

 その仔ドラゴンは卵の殻を下半身に履いてつぶらな瞳を興味津々とばかりに拠点のあちこちに向けている。

 

「はい。わたくしも驚きましたわ」

「いやー、今になっても訳が分からんわ……」

「あんなデカブツの本体が、まさかこんなかわいいのになっちまうなんてねえ」

 

 ゼニヤッタやルークが未だに戸惑っているのに対し、ジーナは面白がって仔ドラゴンを見ている。

 そう、この子供のドラゴン。何を隠そうあの地竜の成れの果てなのである。

 

 ジーナの一撃が止めとなり、地竜は倒された。

 デーリッチ達は残された卵の殻を処分しようとしたところ、地竜の鳴き声が再び卵の中から聞こえてきたのである。なおはむすけは既にどこかへ逃げ去っていた。

 すでに体力の殆どを使い果たしたハグレ王国に再度戦闘を行うだけの余力はなく、仕方なしに撤退をしようとしたところ……

 

「もっけー!」

 

 と気の抜けた声と共にデーリッチの膝ぐらいの大きさのドラゴンが殻の中から現れたのである。

 戦闘が終わってようやく駆けつけたヘルパーさん曰く、無理に復活を速めたせいで、邪悪な魂と肉体の融合が上手く行っておらず、先ほど倒したのは邪悪な力のほうであると。そして残った純粋無垢な肉体はこうして幼体として残ったらしい。

 

 どうやらデーリッチを親と思い込んでいるらしく、なんやかんやあってハグレ王国で引き取ることになった地竜こと、地竜ちゃんなのであった。

 

「結局あの哺乳類がやったことは結果的には良かったってことかね」

「ああ、はむすけ?まあ、確かに奴が卵を暖めたのがきっかけでうちの戦力も増えたってことなんでしょうが、どうも釈然としませんね」

 

 ルークは未だ今回の原因であり、功労者になってしまったはむすけに対して思うところがある様子。

 

「なんだ、まだ怒ってるのかい?」

「どういうことですの?」

「ルークさんは、はむすけさんがヘルさんを見捨てて逃げたことに対してまだ怒っている。ということです。しかしはむすけさんの助けがなければ勝てなかったのも事実ですので、態度を表に出しづらいと言ったところでしょうか」

「女々しいねえ」

「おい、わざわざ言わなくてもいいだろ……!」

「あら、失礼いたしました」

 

 自分の考えを当てられたことにうろたえ出すルーク。

 その様子にきょとんとした後、ヘルラージュは軽く笑みを浮かべた。

 

「あら、そうでしたの。別にもう過ぎたことですし構いませんのよ?」*1

「ですがねぇ……」

「ふふ、私のために怒ってくれてるのね。ありがとう。それで十分ですから、ルーク君が苛々する必要はないのよ?」

「……ま、ヘルさんが気にしていないならいいですが」

 

 ヘルラージュの笑顔にルークは毒気を抜かれ、ヘルラージュの隣に座り込んだ。

 その様子を見ていたジーナはあまりのチョロさに呆れる。チョロいのはお互い様という訳だ。

 

「やれやれ、相も変わらずだこと。見てるこっちはお腹いっぱいよ」

「仲が良いのはよろしいことですわ」

「もっけー♪」

 

 こうして新しい仲間が加わり、よりいっそう賑やかになっていくハグレ王国なのであった。

 

 

 

『男らしさと恰好つけ方』

 

 ハグレ王国道具屋店主、ベルにはある悩みがある。

 

――男らしくなりたい。

 

 童顔低身長である彼は、昔からよく女の子に間違えられていた。

 そのため彼は緑色の服や半ズボンなど男性的なファッションに身を包むことで男らしさを前に出そうとしているものの、今度は男装の少女と勘違いされてしまっている。

 王国に来てからも、度々女の子に間違えられるということで彼は他の男性陣に男らしさの秘訣を聞いて回っていた。

 

「ですので、ルークさんにも何かアドバイスを頂けたらと思いまして!」

「……うん、大体お前がここに来た理由はわかった」

 

 今日は王国きっての伊達男、ルークに男らしさを聞いているようだ。

 

「君が男らしさを聞いて回ってるのは知ってる。この前はアルフレッドに聞きにいったんだろ?」

「アルフレッドさんからは男らしい心が大事だって教わりました!」

「いや、答え出てるじゃん。もうそれでいいじゃん」

「まあ、そう言われるとそうなんですけど。それでも、ルークさんは他の人とは違う意味での男らしさがあると感じまして!」

 

 洒落たスーツを着こなし、飄々としながらも時に剣呑な威圧感を放ち、戦闘では必要最低限の的確な一撃で相手を仕留める彼のスタイリッシュさも学んでみたいと言う。

 そう言われるとまんざらでもなく思い、相談に乗ってやろうかという気分になるルークであったが、

 

「しかし、男らしさか。改めて聞かれると自分でも悩むな」

 

 昔から男としての特徴はあったルークからすると、その質問はむしろ解答に困るものだった。

 

「やっぱり服装なんですか?僕もそういうかっちりした服を着れば男らしさが増すのでしょうか!?」

「いや、君が着たところで背伸びしてる微笑ましい子供からは抜け出せないと思うぞ」

「ええ……」

「俺も前々からこの服を着ていたわけでもないんだよ。昔はこういうかっこつけたスーツじゃなくてもっと無骨な奴だった」

 

 思い返すのは、よくある盗賊の恰好の上にジャケットを来ただけの飾り気のない姿の自分。

 礼服であることは昔から共通していたが、所々の装飾に意匠を凝らすというのはヘルラージュと行動を共にしてからの事である。

 そう考えると、この服を気に入っているのだと改めてルークは思った。それはきっとデザインの問題ではないのだろう。

 

「それまではさ、他の冒険者や賊にナメられないようにって旦那が用意してくれた服だったんだがな、ヘルと秘密結社を始めてからは『もっとカッコよくしてくださいます?』って言ってこれを仕立ててくれたんだよ」

「へえ……ヘルラージュさん裁縫が上手なんですね」

「あれで飯食えるぐらいには器用だよ。実際、ぬいぐるみショップなんて建てたからな。あ、人造人間工房のことな。あいつに一々訂正させるの面倒だからちゃんと工房って言ってやれよ?」

「わかりました。しかし、そう見てみるとお二人って正反対ですよね。男らしいルークさんに対して、とても女らしいヘルラージュさんって感じで」

「まあ、そうだな。女子力の極値みたいなやつだよヘルは……んん!?」

 

 その時、ルークに閃きが走る。

 

「そうだな。ここは逆転の発想といこうじゃないか」

「と言うと?」

「君は男なのに女らしく見える。ならば女なのに男前な奴を見ることで、男らしさが何なのかを見出すんだ」

「ほうほう!」

 

 互いに妙案だという様に頷くが、話は明らかに斜め上の方向に行っている。

 

「ということでまずは男らしい女性をリストアップだ!」

「そうですね、ジュリアさんは前に聞きましたから……あっかなづち大明神さん!あの人の懐の広さは男前です!」

「大明神か、確かに器も体もデカイよな。でも彼女の男らしさって大半がセクハラ系だと思うんだよ」

「つまり?」

「おっさん臭い。安心感や頼りがいはあるんだが、それを男のカッコいいとみるのは絶対に違うな」

「あー、なるほど……」

「それを言ったらエルヴィスの旦那も酒と女と博打にだらしないダメ親父だったし、隙があるのも余裕のある振る舞いが出来る証拠なのかもな」

「確かに、たこ焼き屋のおじさんも頑固なところとかが男らしさに繋がっていたのかも」

「たこ焼きラーメン……うっ頭が」

 

 自分達が世話になった人物を思い浮かべながらもどこか要領を得ないまま、男らしさとは何かを探る議論は続いていく。

 

「逆に、俺が男っぽいと思う女と言ったらピンクだな」

「ピンク……? あ、エステルさんのことですか。あの人はなんというか、その、女の人っぽい体形をしていると思うのですが……」

 

 ボディラインが浮き出た姿のエステルを思い浮かべるベル。特にやましい気持ちはなくとも印象に残ってしまう彼女のセクシーボディを意識してみると、ちょっと恥ずかしくなってきてしまい頬を赤らめる。

 

「んん? アイツが女らしいのは見た目ぐらいだろ。昔っから運動靴で屋根の上をぴょんぴょんと飛び回ってガキ大将の座をほしいままにしていたのがアイツだ。召喚士になったからと言っておしとやかになったとでも? いや分かるぜ。あいつはシティガールのふりをしたゴリラだってな」

「へえ、よく知っている、ん、です、ね……?」

「ま、あいつは3つ上の俺を舎弟扱いしたぐらいだしなあ。あの頃の俺がモヤシだったのはあるけど、それ以上に野生児だったよ」

 

 エステルの野性味あふれる過去を明かしながら意地の悪い笑みを浮かべるルーク。

 話に夢中なのか、彼はこの部屋に訪れていた()()の存在に気づいていなかった。

 

「それに、確かアイツ旦那の話を受けてよその縄張りのひみつ基地にロケット花火を大量にぶち込んだこともあったんだったか。今も先手でフレイムを叩き込む役割だから大して変わってねえな」

「そーいうアンタは、昔からネチッこい女々しい部分は変わってないみたいじゃない? それにあのロケット装置作ったのはアンタでしょうが」

「そうそう、あれは傑作の玩具だった……って、え?」

 

 その言葉にルークが声の方向を向くと、額に青筋を立てた爆炎ピンクのエステルさん。

 

「好き勝手言ってくれたようね!アンタはいっぺん燃え尽きな、ファイア!」

「グワーーーーッ!?」

「ちょっと、エステルさーん!?拠点で魔法はダメですよーっ!」

 

 問答無用で黒焦げだと魔法を放つエステル。

 ファイアを至近距離で受けたルークは床を転がり、ジャケットを素早く脱いでパタパタと火を消しにかかる。すると驚くように火はあっさりと消えた。

 防刃防火素材で作られた秘密結社スーツは、喧嘩程度の魔法なら難なく耐えるのである。

 

「ちっ。本当に燃えにくいわねそのスーツ」

「そりゃヘルが作ったからな。あいつが魔術関係の代物に手を抜くわけねえだろ」

 

 ジャケットに穴が開いてないか確かめてから着直すルーク。

 

「仮にどこか焦げてたりしたら、ヘルに頼まなきゃいけないだろうが。こんな下らないことで燃やしたなんて言ったら俺が呆れられるわ」

「そりゃアンタの自業自得だし?乙女の秘密をペラペラと喋るデリカシーの無いアンタにはお似合いよ」

「デリカシーという言葉がお前に適用されるとは思えないね」

 

「あ?」

「お?」

 

 またもや一触即発の雰囲気。

 

「なんだやるのか?」

「アンタこそ、べそかいてもしらないわよ?」

「あ、あのーー!喧嘩はダメです――!」

「ダーツで決着だ!」

「ダーツ!?」

 

 どこからともなくダーツ盤を取り出すルーク。

 実際の所、彼がベルの相談に乗ったのはダーツをやる相手がいないことで暇を持て余していたからである。

 

「アンタの得意分野ね!?良いわ、受けてやろうじゃない。ルールは!?」

「カウントアップ(点数取り)!」

「上等!!」

 

 そうしてダッシュするエステルとルーク。

 去り際、「あ、そうそう」とルークはベルの方を向き直り

 

「お前は十分男らしいぜ。なんたって街のために一人で冒険に出るぐらいなんだからな!」

 

 そう言ってルークはエステルを追って遊戯室へと走り去っていった。

 

 結局、男らしさが何なのかは教えてもらえなかったが、彼と彼女のやり取りを見て、その一片は学んだ気がする。

 そういうのはきっと、自分がどう生きてきたかという積み重ねが必要なのだ。

 

「よーし、地道に鍛えよう!」

 

 とりあえず、背を伸ばすところから始めよう。ベルはそう意気込んだ。

 

 なお、ダーツ勝負については、大差をつけてルークがリードしていたところに途中参加してきた雪乃が普通に高得点を出しながら足投げをやって見せたり、ハオが全弾ブルズアイに入れるなどの離れ業を見せつけてきたことで、うやむやになったとさ。

 

 

 

*1
なおヘルちんも根に持ってる節はある(水着イベント3章を参照)……さんしょうをさんしょう。なんちゃって




ルーク
結構根に持つタイプ。
投げ物系の遊びが得意。
ヘルラージュの隣にいたい。

ヘルラージュ
魔法関係、特に呪術や交霊術についての造詣は深く、秘密結社の装備も色々考えて作られている。
ルークが隣にいてほしい。

エステル
ルークとは悪ガキ仲間。
彼を真っ向からぶん殴って舎弟にしたんだってさ。

ゼニヤッタ
デーリッチを国王と呼び慕う数少ない忠臣。

ジーナ
くそっ、じれったいなあの二人……

地竜ちゃん
かわいい。原作だと使う人と使わない人とではっきり分かれる印象。

ベル
男らしさを聞いて回る。
彼はようやく登り始めたばかりだからよ、この果てしなく遠い男坂をよ……

エルヴィス・大徳寺
度々ルークの口から出てくる人物。
ミスター・ハグレの異名で世間を賑わせ、彼らの活躍は差別に苦しむハグレ達にとっては痛快な与太話として親しまれてきた。
出身は大阪。

次回から原作三章の時系列。
ざくざくアクターズ・ウォーキング第二章『演者たちは一同に会する』
ご期待ください。

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