ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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さーて、魔女の館編の始まりです。

注意:この小説は自分の推しTRPGシステムのステマみたいなところがあります。今回は割とそれが顕著です。



その14.惨劇に至る

「会議を始めるでちよー!!」

 

 デーリッチの掛け声と共に、王国会議が始まった。

 

「では、まず個別の活動報告と行こうか」

 

 続いて、ローズマリーが個別活動の報告を求めた。

 以下、王国民の活動報告です。

 

 ――ルークが行商の中で掘り出し物を手に入れてきたようです。

 ……いったいどんな面白いアイテムなんでしょうね。

 アイテムを一つ入手します。

 

 ――☆エル・マリアッチ*1 火薬を満載した伝説のギター。(魔法/炎/魔+103/S:ロックンロール)魔法とはロックンロールのことだ。

 

「何それ、楽器?」

「ただの楽器じゃないんだなあこれが。ここをこうするとだな……ッ!」

 

 そう言ってマリアッチをいじくると、なんと先端から火が噴き出した。

 

「うわッ!?」

「このように火が出る」

「ちょっと、危ないですよ!」

 

 許可なく拠点内で火を出したことにローズマリーが注意する。

 

「すっげーッ!」

「次、ヅッチーの番な!」

 

 対称的に、ステキギミックに目を光らせるお子様's。

 その反応にルークもまんざらではない様子。

 というか彼が一番新しい玩具を手にした子供のようにはしゃいでいる。おい二十代。

 

「とまあこのように、珍しく素敵で有用なおたからが見つかったのでございます。音楽の趣味がある方にでも装備させればいいんじゃないでしょうかね」

「確かに面白いけど、なんでギターから火を出すの?必要ないよね?」

 

 誰に装備させるのがオススメか説明するルークに、ローズマリーのツッコミが入る。

 非常に残念なことに、どうやら楽器と火器を融合させることに意義が見いだせなかったらしい。

 

 やれやれ、と肩をすくめるルーク。

 そのまま真顔でローズマリーの顔を見る。

 

「別に火を出す必要はないけど、あったほうがいいじゃないですか」

「え?」

「出せるなら出したいじゃないですか」

「えぇ……?」

 

 やってみたかったからやりました。

 それ以外の理由など、浪漫には不要なのだ。

 

「あー、わかるわかる」

「無粋だよなー、余計な理由なんて」

 

 馬鹿丸出しの悪ふざけの産物。

 そんな代物に対して予想以上に肯定意見が飛んでくることにローズマリーは困惑を隠しきれない。

 

「ま、まあ武器として使えるならいいのかな……?」

 

 釈然としないが、装備品として有用なものなのでありがたくつかわせてもらうということで決定した。

 

 

――探索場所の提案

 

「ずごごっ、ずごごごご……っ!」

 

 紙パックジュースの容器がぺこんぺこんと鳴り響く。

 最後の一滴まで飲み干すデーリッチ流の飲み方を行っている時にその知らせはやってきた。

 

「大変よデーリッチ!」

 

 ヘルラージュからの提案ということは、秘密結社絡みでの要件であるのだろうか。

 

 続いてやってきたルークが依頼の内容を説明していく。

 

 依頼主はクックコッコ村。

 ついこの間依頼をこなしたばかりの場所。

 家畜泥棒の一件が解決したというのに、またもや同じような問題が発生した。

 今度はその場で家畜の血だけが抜かれて死んでいるという奇怪な形で、被害が継続しているらしい。

 

「前の時と被害状況が同じだから、性懲りも無くやってきたということでしょう」

 

 情報を聞くに、以前に盗まれた家畜も、村の近辺で血だけを抜かれて死んでいたのを発見されていたとのこと。

 被害の規模は小さいものだが、薄気味悪いので解決してほしいという依頼が秘密結社に舞い込んできたのだった。

 

「しかし、秘密結社いいように使われているなあ。

 秘密結社としてそれでいいんでちか?」

 

 悪の秘密結社なのに、すっかりトラブルシューティング請負業者みたいなことになっていることに疑問の声が上がる。

 

「あら、困っている人がいたら手を貸すのは当然の事でしょう?」

 

 さらりと言ってのけるヘルラージュ。

 彼女を知らない人が見れば、どうみても悪を志している秘密結社のボスだなんて思いもしないだろう。

 

「最近は善行を隠さなくなってきたな……」

「ヘルに悪事なんて似合いませんからね。彼女が満足してるならそれでいいんですよ」

「ルーク君的にもいいんでちか?」

 

 悪の、という触れ込みが形骸化していることをデーリッチは当組織の副官に尋ねる。

 元々が悪党みたいなものだからか、秘密結社が善良化していることに悩んでいるのではと思われたらしい。

 

「別に悪党だからって悪事にこだわってるわけじゃないので」

 

 ルークにとって悪事は目的ではなく手段である。

 

 飽くまでそれが解決手段になるから悪事を選ぶのであって、悪事そのものは目標でも実績でもなんでもない。というか悪事なんてハイリスクハイリターンで割に合わないものであるから、好き好んでやる奴などただのアホだ。実際、冒険者の半分は教養とモラルに欠けたアホか浪漫を追い求める馬鹿のどっちかだ。依頼の内容によっては盗賊まがいのことをやるのだから、違いなど自己認識の差でしかない。

 

 そんな中で一定の収入を確立できていたルークは後者に属する人間だ。

 彼は自身の悪徳に対して一種の美学のようなものを持っている。

 

 盗むなら同じろくでもない奴らから。

 殺すのは相手が手を出してきてから。

 

 合法的に、人道的に目的が達成できるならそっちで構わないのがルークのスタンスである。

 

 悪党にも、超えてはならない一線があり、そのことをはき違えた瞬間、同じ社会のクズでも決定的な差が生まれてしまうと彼は考えていた。

 大なり小なり法的にアレな部分がある冒険者の中でも、割とアウト寄りな経歴をしている彼が冒険者としてやっていけたのもこうした価値観があったからだろう。

 

 当然ながらそれは詭弁だ。躊躇いなく悪事を選べる以上、何をどう取り繕うとも自分がその辺の盗賊たちと同じ穴のムジナであることを、彼は十分に理解している。

 しかしそういう根っこの部分で悪に成り切れない中途半端さが、気を抜けば死あるのみの世界でのらりくらりと生きてこれた証拠だろうし、善人の極みみたいなヘルラージュとコンビを組めている理由なのだろう。

 

 

 ルークは話題を依頼内容の説明に戻す。

 

「犯人の目星はついてましてね。どうもあの村の近くには魔女の家ホラーハウスっていう、あからさまに怪しい建物があるんですが、ここに住む人間が血を抜いているって言う話だ」

 

 盗まれた家畜が発見されたのもその近辺だということで、犯人の目星はおおよそついていた。

 じゃあ村の人間で解決すればいいじゃんとなるのだが、色々と嫌な噂があるようで、村の人たちは近寄りたがらないそうだ。

 

「なるほど、中に入る魔女らしき者を怖がっているんでちね」

「というわけでお願いできないかしら。報酬もだすってことですわ」

「別にいいでちよ」

 

 どうせ行くところもなかったので、王国の冒険先として採用された魔女の家。

 

 そこへの探索メンバーを集めている最中、ルークがやけに挙動不審というかぶつぶつと何かを呟いていた。

 

「魔女の家、血を抜かれる、神隠し……」

「なんだか元気ないね、どうしたんだい?」

 

 普段らしからぬ士気の低いルークを見て、ローズマリーが心配する。

 

「いや別に……、ただ行き先にちょっと不安というか疑いがありまして」

「それってどんなの?一応言ってみてくれ」

「そこ、《サバト・クラブ》のアジトとかじゃないですよね?」

「え?あー……どうだろう。行ってみないとわからないかなあ。

 でもそうだな。確かにそういう集団の拠点の可能性もあるのか」

「なんでちかそれ?」

 

 聞いたことのない組織名に疑問を浮かべるデーリッチと、

 心配の原因に合点がいった何人か。

 

「絵にかいたような邪悪儀式をやってるイカレた魔女集会ですよ。

 別に強いってわけじゃないんですが、雰囲気が好きになれないっすね」

 

 ――《サバト・クラブ》とは、黒魔術を探求する魔術師たちの同好会の一つである。

 生贄や薬物を好んで儀式に使用し、時には他の魔術団体や宗教組織との抗争を行うことから帝国では犯罪組織の一つとして認定されている。冒険者が探索に入った廃墟や遺跡が彼らの儀式場として利用されており、過激派に襲われて帰ってこなかったりする。というのもありふれた話で、『冒険者が関わりたくない組織ランキング』の上位を常にキープしている。そんな組織だ。

 

 ルークの懸念を聞いた何人かが同じように顔を顰めたことからも、その悪名が知れ渡っていることが伺えるだろう。

 

「えっ、何そのはた迷惑な組織」

「奴らがこんなわかりやすい痕跡を残すとは思えねえけど、犯罪組織の末端はポンコツしかいねえからなあ」

 

 過去の経験則から、組織ぐるみで行う犯行の大体は足が付かないため、とてもわかりやすい証拠がある今回の一件は無関係だと判断する。

 

「随分と知っているようだね?」 

「以前に仕事で連中とやり合ってひどい目にあったからな……。もう煮えたぎる鍋の上で吊るされるのは勘弁だよ」

「わー壮絶ー」

 

 かつてルークは、依頼の一環で結社に連れ去られた少女を奪還するためにアジトへと忍び込んだことがある。その時に救出対象を逃がすことに成功したものの、代わりに自分が生贄になりかけたのは苦い過去だ。酩酊状態の中、逆さの視界と湯気と共に立ち上る薬の据えた臭いは今でも思い出せる。

 

「よく生きて帰ってこれたわねアンタ」

 

 召喚士協会でも要注意団体として挙げられていた組織に喧嘩を売って生還している事実にエステルは呆れ混じりに感心する。

 

「伊達に修羅場は潜ってないんですよ

 ……って言いたいけど、大体は荒事担当が正面からぶっ飛ばして解決してるんですよね」

 

 冒険者稼業の中で数々の犯罪組織と渡り合ってきた思い出がよみがえる。

 

 ――甲冑を来た騎馬暴走族と、讃美歌を背景にデッドヒートを繰り広げ、

 

 ――あるいは、深海種族(サハギンとか)を崇める資本主義教団の事務所に乗り込んで債権書を奪取し、

 

 ――はたまた、ハグレのサーカス団に偽装した暗殺ギルドからの暗殺者から護衛対象を守り通したりした。

 

 そのいずれも自分一人では死んでいた状況であり、ルークや親分であったエルヴィス大徳寺が下準備を行い、獣人の参謀が策を練り、べらぼうに強い褐色有角の女性であったり、薙刀を使う和国の青年が正面から乗り込んで混乱させた隙に、目的を達成してきたのである。

 

 当然その中で修羅場のど真ん中に放り出されたことも数知れず。

 

 時には物影に隠れ、時には死力を尽くして戦い、時には運任せのギャンブルに挑み、時には死んだふりでやりすごす。

 

 生存能力に秀でたルークの戦闘スタイルはそうやって培われてきたものである。彼がハグレ王国に属するようになった後も、それら犯罪組織など日陰に潜む脅威への警戒は欠かしていない。

 

 既に読者の皆様は知っているだろうが、今回の一件はそうした組織とは無関係であり、ルークの心配は杞憂である。だからと言ってもう一度そんな連中を相手にしたいかと言えば嫌に決まっているので、彼はこうして関わり合いにならないよう祈っているのだった。

 

「もう、貴方がしゃんとしなくてどうするのですか。いきますわよ!」

 

 そんな行きたくないオーラを出しているルークをヘルラージュが叱咤する。

 

「ヘルのやつ、話を聞いたあたりからやたら張り切っているんですよね。自分の得意分野だからか?」

 

 いつもなら危険性の高い場所には及び腰になるヘルラージュ。

 それが霊的スポットともなればなおさらだ。

 

 しかし、今回ばかりはこの場の誰よりも意欲を見せている。

 

 それほどまでに犯人が許せなかったのだろうか。

 

 ……いや、どちらかといえば焦っている?

 

 だとしたら、何に?

 

 その疑問に答えが出ないまま、ルークは探索メンバーへと加わったのであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ここがあの魔女のハウスね」

 

 魔女の館は鬱蒼とした森の中にあり、あまり手入れがされていない様子からまさしく「出る」といった雰囲気を出していた。

 

 少なくとも外観は住居としての様相を保ってはいたものの、いざ足を踏み入れれば、黴臭さを出している木造の床板がそこら中に穴をあけている、廃墟そのものであった。

 

「おおよそ人が住む場所とは思えなねえな」

「魔女と呼ばれるぐらいだから、人じゃなくて魔物かもしれませんわね」

「でもでも、ハト時計があるでち!」

 

 デーリッチの言う通り、玄関にはハト時計が飾ってあった。

 

「魔女さんも、意外と私達と同じような価値観を持っているかもしれないでちよ?」

「なるほど、そういうところに真っ先に気が付くとはさすがは国王」

 

 実用性の高い時計よりも、洒落たカラクリ時計を優先しているという意見に、ルークは素直に感心する。

 

「もっと褒めてもよいでちよ!」

「図に乗るなよ小娘」

「えっ!?」

 

 唐突な上げ落としに驚愕を隠せない。

 

「冗談だよ」

「冗談でちか」

 

「いえーい」

「いえーい」  

 

 この程度のやり取りは普通なのでいちいち深刻に受け取ったりはしないのが王国クオリティ。

 適度にディスった後は拳を交わしてチャラにするのだ。

 

「何遊んでるの……?

 まあ、ここに誰かが住んでいるのは間違いなさそ――」 

 

「いらっしゃあああーい!」

 

「「ぎゃああああっ!!」」

 

 会話の途中で、ハト時計から大声と共に飛び出してきたものに心臓を跳ね上げられる一行。

 

「いやぁ、団体さんやないかい!キャサリンもええ仕事するやん!歓迎するで!

 で、あんたら何リットルコースや!?」

「な、なにこれ、ハト……?

 いや、カラスなの……?」

「その、目玉が……外にこぼれて……」

 

 声高らかにまくし立てるソレは、ハトではなくカラスだった。

 しかも目玉がポロリと零れ落ちている。そんなサービスシーンはいらないなあ。

 

「え?うわーーーーっ!外に飛び出た勢いで目玉も飛び出しとる~~~~!!

 どないしましょ!どないしましょ!」

 

 ……なーんて、ゾンビジョーク(笑)!

 ワイ死んでるから元からやってーの。

 面白かった?おもろかった?」

 

「(#^ω^)ビキビキ」

「い、いや全然……」

「さ、さよかあ……」

 

 せっかくの客人なので楽しませようとしたらしいが、見事に滑ったゾンビカラスはしょげ込んでしまう。

 こちらを来客と認識していることに疑問を持ったヘルラージュが、失血事件の調査に来たのだと言うと、

 

「ん?魔女様のために血をドバドバ流してくれるんちゃうんか?」

 

 ゾンビカラスは客じゃないならギャグの披露損やんかーと騒ぎ出し、

 

「ほな、入場料として強制的に流血してもろうます!以上!」

 

 と、言いたいだけ言って時計の中へと引っ込んでしまった。

 

「何だったんだ今のは……?」

「血を抜くとか言ってたからてっきり戦闘になるのかと思ったでち」

「でも、今の会話、もしかしなくても有力な証拠なのでは?」

「特に調べずとも、あちらさんから血を集めてますって言ってるようなものだしな。

 こちらから聞く手間が省けたのはいい」

「ですが、家畜だけではなく人間の血を集めようとしている……」

「なるほど、これは危険だ。早くに懲らしめて止める必要がありそうだね……」

「ええ……。

 ギッタンギッタンにしてやらないと!」 

 

 このまま放っておけば、人的被害が出るということで改めて魔女の討伐を目標に掲げることとなった。

 ヘルラージュも意気揚々とやる気を出している。

 それは普段の彼女らしくはなく、彼がそれを見咎めるのも当然ではあった。

 

「……ヘルさん?」

「ん?」

「いや、そんなにやる気だしているのも珍しいなと。

 いつになく好戦的じゃないか」

「あ、あら?私はいつも通りよ」

「……本当にそうか?」

「そうですわ。ほら、館を探してみましょうよ。

 あなたの好きそうなおたからもあるんじゃないですか?」

「……まあ、そうですね。慰謝料として何か貰っていこうじゃないか。

 調度品自体は値打ちものも混ざってそうだからな」

 

 やはり様子がおかしいと訝しむルークだが、

 早く行きましょうと急かすヘルラージュの言葉も最もなので、一行は館の先へと足を進めることにした。

 

 ……その横でヘルラージュがほっとしたのを、彼は見逃さなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「流石は魔女が住む館だ。何もかもか動き出して襲ってきてもおかしくねえ」

「全くね。あの箒もひとりでにうごくばかりか、喋り出すんだから」

「しかも、ただ動いているんじゃなくてアンデッドのようだね」

「正直、もう帰りたいです……」

 

 館を探索する一行に立ちはだかったのは、動く人形や玩具といった呪物系(フェティッシュ)のモンスターばかり。

 

 有効な炎属性で縦横無尽の大活躍をするエステル。

 さらにアンデットモンスターでもあるので、その道のプロフェッショナルであるアルフレッドも活躍してくれている。普段は地味だから、こういう時に活躍しておかないとね!

 

 道具に詳しそうだからという理由で採用されたベルはビックリドッキリなホラー展開にやられ、弱音を吐き出している。

 

「しっかりしろベル。まだキャサリンとやらも見つかってないんだからさ」

 

 ネジ巻き天使にとどめを刺しながらルークが発破をかける。

 

 

 最初に乗り込んだ一階の大部屋で遭遇したのは、ひとりでに動く魔法の箒だった。

 大事な客が来るということで久しぶりに動かされたというそれからは、キャサリンという人形が館の外の出来事について取り仕切っているという情報を聞くことができた。失血事件に関わっているというのもその人形だということで、館の探索の目的をキャサリンの発見に定めた。

 

 そうして色々と目を配らせてみると、いたるところに貼られた注意書きのすべてにキャサリンの名前が書いてある。

 館のあれこれを采配しているとだけあって、こうした事も仕事の内ということだろうか。

 

 モンスターを一掃した後は、部屋の中を物色する。

 

「ぐえーっ!?」

 

 何らかの仕掛けがないか、本棚を捜索するルークだったが、腐った床板を踏み抜いてしまい盛大に転ぶ。

 

「大丈夫ですか!?」

「痛てて……ん?なんだこれ」

 

 穴から這い上がると、頭の上に本が被さっていることに気が付いた。

 

 手に取ってみれば、やけに薄い本であることがわかる。

 

 中身は漫画らしい。しかしコミックスにしては大きく、雑誌としては薄い。

 

 表紙を見てみる。

 

 

 ――そこには裸の女性が官能的なポーズをとったイラストが描かれていた。

 

 うん、そういうものなんだ。

 

――おたから『☆エロ同人*2(混乱、沈黙耐性+100%)』を入手しました。

 

「……」

 

 まさかまさかなアイテムに、思わず頬が引きつる。

 パーティの全員が駆け寄っていたこともあり、手元のそれは皆の知るところ。

 

「あの、これは」

「うわ、サイテー」

 

 白い目で見るエステル。

 助けを求めるように見れば、目を逸らすベルとアルフレッド。

 ブリギットはニタニタと笑うだけで何も言わない。

 デーリッチはローズマリーに目隠しをされている。

 

「マリーさん、これは事故で」

「いいから早くしまいなさい」

「アッハイ」

 

 そして、ルークの視線はある意味一番危険な自分のリーダーへと向かった。

 これではどう言い訳しようが社会的に詰んでいる。

 最後の望みは、彼女に託された。

 

「なあ、リーダーは、わかってくれるよな……?」

「ルーク君」

「……はい」

 

 そんな彼の言葉に、頬を赤らめ、おずおずと尋ねるヘルラージュ。

 

「ルーク君も、その、やっぱりそういうのがお好き……なんですの?」

「ご、誤解じゃーーー!!」

 

 

『ゾンビ人形たちへ、本棚や壺の中にアイテムを隠すな。あと、エロ本は見つけ次第没収。

                                 ――キャサリン』

 

 

 ◇

 

 

 

「全くひどい目にあった」

「いやあ、ごめんごめん。機嫌直しなよ」

「お前らも少しぐらい何とか言ってくれよ全くよお」

「あはは、僕もああいうのはあまり見たことがなくて……」

「ベルのやつなんか初心な反応丸出しだったよなあ?」

「やめてくださいよブリギットさん!」

 

 すっかりへそを曲げてしまったルーク。

 

「まあまあ、俺はわかってるからよ」

「マッスル……」

 

 肩を叩いて慰めるニワカマッスルに、ルークは男の友情を感じた。

 

――後で俺にも貸せよな。

 

――てめえわかってねえじゃねえか。

 

 その友情は一瞬で崩れた。

 

 

 何故か片方に柱が設置されているため、壁に寄って進むことを強制される廊下。

 しかも等間隔でハト……カラス時計があり、これだけで何するかが見え見えである。

 

「はぁい、どうも「ちょいやっさーッ!」

 ――ぐへっ!?」

 

 そうして現れたゾンビカラスに間髪入れずナイフを投げつけるルーク。

 もはや見境なしである。

 

「なんやなんや!せっかく壁際歩いてくれてるってのに、そこで無粋な真似せんでもええんとちゃいまっか!?」

「うるせえ!ホラーなら本棚にエロ本なんざ仕込むなや!」

「あー、それは屋敷の中で働いとるゾンビ人形共の仕業や。ワイの知るところやないで」

「ゾンビなのか人形なのかどっちなんだ……」

「まあええ。兄ちゃんのせいで興が削がれてしもうたから簡潔に言うわ。

 この先の労働区画、ゾンビ人形が動いとるから噛まれずに気を付けて突破して来いよ。ほな!」

 

 また言うだけ言ってゾンビカラスは引っ込んでしまう。

 というか、なんで別の場所に設置された時計をさも当然のように行き来しているんだろうか。

 

 しかも、疑問が残るキーワードばかり残していった。

 

「しかしゾンビ?人形?労働区?どういうことだろう……?」

 

 ローズマリーの疑問に答えたのは、ヘルラージュだった。

 

 箒やカラスと同じように、人形に死者の魂を憑依させているからゾンビ人形と呼ばれている。

 それがこの屋敷で働いているのだろうと彼女は説明する。

 

「なるほど。それにしても随分と詳しいね?」

「昔似たような術を見たことがあって……。まだはっきりとはしないのだけど……」

 

 それきり、ヘルラージュは黙ってしまった。

 詳細を語ってくれないことにローズマリーは困惑するが、ルークはその理由を何となくだが察していた。

 

 おそらくヘルラージュは犯人に心当たりがある。

 しかしそれを言うことができない。

 そんな相手など、彼女の目的を考えればおのずと限られてくる。

 

 ……黙っているのは仲間を不安がらせないための彼女の優しさか、あるいは私情に付き合わせる後ろめたさか。

 

 ならば、自分は最後まで寄り添おう。

 それが彼女に付いていくと決めた自分が、返礼とできるものだから。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 部屋にみっちり詰まっていたゾンビ人形。

 食事の時間を告げる鐘を鳴らすことで、無事食堂へと彼らを誘導することに成功する。

 そうしてゾンビ人形の部屋を抜けた先、何故か隔離されている部屋を見つけた一行。

 

「何か隠されてるのか?」

 

 部屋の前にあった『騒音公害』の貼り紙の意味もわからないので、部屋に入ってみる。

 

 するとそこにはぷるんぷるんな何かがいた。

 

「ぼえええー♪

 ぼええーん♪」

 

「ぐごっ、なんでちかこの怪音波。

 頭が割れるようでち!?」

 

 どうやら歌声らしきものを発しているようだが、明らかに音程が合っておらず、不協和音となってこちらの脳をよくない意味で揺さぶってくる。

 

 紫色のスライムはこちらに気が付いたのか、歌うのを止めて一行を見た。

 

「……何あれ、スライム?」

「3つの身体が一つになってんのか、面白えな」

 

 聞いていた時間が僅かだったからか、スライムたちを観察する時間が生まれる。

 

 ローズマリーが相手をしている中で出た情報は、そのスライムは三人一組で、ボーカルユニット「スライミーズ」というようで、アイドル志望のスライムのようだ。

 彼女たちはハグレ王国をアイドルのスカウトと勘違いしたらしく、一曲披露しようと言ってくる。

 そんな胡乱な情報を上手く呑み込めず、困惑するローズマリー。

 

 話をする間を掴めず、話を聞く気もなく、突発リサイタルが始まろうとしていた。

 

 ――時に、趣味というものは極めれば武器になる。

 

 人に限らず知性あるものは趣味を持っており、それは生を謳歌する上では欠かせないものの筈だ。

 

 ならば、趣味に命を賭して戦うことができないわけがあろうか?

 

 生きざまを刻み込んだ武器。趣味的武器。

 

 スポーツが趣味なら野球バット。

 

 家事が趣味ならば大根ということもあるだろう。

 

 読書が趣味なら栞で人の首を刎ねることすら不可能ではない。

 

 その形は一つどころにとどまらず、あらゆるものが武器となりうる。

 

 大阪と呼ばれる都市では一般的であったそれを、彼はよく知っていた。

 

 故にこの中で真っ先にその危険性を把握できたのも、彼であった。

 

「――やばい」

「え?」

 

 ……いや、違う。

 

 動悸が激しくなる

         /趣味的になんて収まらない

 

 冷や汗が止まらない

          /目の前の相手は非常識だ

 

 

 全身が、運命が、生命の危機を訴えている――!

 

 

「今日は聴いていってください!私達のデビュー曲!

 

 

「まずい!今すぐゲートをひら――」

 

 

 ――『ラブリースライミーズ!!』

 

 

 

 デーリッチ達は敗北した。

 

 

 

 

 

*1
おたから。銃火器どころかロケランまで内蔵されてるギター型武器。元ネタは言わずもがな映画「デスペラード」。サタスペにはアクション映画のパロディがこれでもかと詰め込まれているのでルルブを読むだけでも飽きない。買おう

*2
おたから。異性とひと悶着あった後にお互いがトリコになる。サタスペにはこんなものまで登場する。どうかしてるんじゃないの?




先達の方の作品を参考にしてはいるので、似たり寄ったりな展開にならぬように気を付けておりますが、キャラクターのチョイスとかが被りかねないのでひやひやしております。

キャラクターの掘り下げって案外むずかしいものですね。

以下今作オリジナル要素の解説コーナー
《サバト・クラブ》
ルークが今回の容疑者に挙げた組織。
元ネタはまんま黒魔女集会。

ハグレや戦争難民が大量にいるこの世界の治安について考えてみたところ、犯罪組織とかいっぱいいてもいいよねってことで軽率に生み出された。
今回ルークの回想に出てきた組織についても色々元ネタがあるので当ててみるのもいいでしょう。

次回も色々とフルスロットルな回になります。

(魔女の館編)MVPは誰?

  • ヘルラージュ
  • ルーク
  • ローズマリー
  • デーリッチ
  • その他

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