ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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あばばばばば!?

失礼。
どういう訳か日間ランキング14位を獲得し、UA数ももりっと増えてお気に入り数が倍になったことに驚きを隠せない作者です。
多くの人の手に取ってもらえたのなら、それだけで幸いです。

では、今回も非常に調子に乗った回です。

羞恥ブレーキをぶっ壊して書いたのでお楽しみに。


その16.ミアラージュの幽鬱

「これまでにも説明したように、魔法には数多くの分野、体系があるわけで――」

 

 小学校で授業を受けながら、自分の事について考える。

 

 ――私、ミアラージュという命は穢れている。

 

 物心ついたころより古神交霊術という黒魔術を学んできた私は、幼くして人の業とでも呼ぶべき悪に呑まれ落ちた。

 しかし、その才を惜しんだ両親の手によって骸のまま息を吹き返し、他者の精髄を糧に再びこの世を生きることとなった。

 

 現世に呼び戻した両親は生きてはいない。

 他ならぬ私がその生を断ったからで、今の身体はその二人の血によって維持されている。

 

 五年以上前のことではあったが、優秀な魔術師であった彼らの魔力は潤沢で、皮肉にも今の私を今日まで生きながらえさせるのに不足はなかった。

 

 とは言え、それも尽き欠けようとしているのだが。

 

 数日も経てば、私の身体を維持する魔力は枯渇し、この身体は瞬く間に土くれへと変わるであろう。

 

 それは当然の結末だろう。

 死んでいるものが崩れ落ちるのは、自然の理であるからだ。

 

 しかし、だからと言ってこのまま塵に還るわけにはいかない。 

 

 醜く第二の生にしがみつこうという訳ではない。

 ただ、やるべきことが残っているのだ。

 

 両親の血が最後の食事などと覚悟しておきながら、彼女たちのささやかな捧げものに気づかないふりをしているのも、やらなければいけないものがあるから。

 

 ――私の望みは、ただ一人生き残った最愛の妹ヘルにその生を断たれること。

 

 自らの存在と共に、その血の呪縛が消え去ることを目的として、私は死者の群れを率いてあの子を待ち続けている。

 

「魔法を学ぶには、この帝国なら帝都の大学に入学して、魔法学基礎を受講するのが手っ取り早い道だ。そこから召喚術について学ぶなら、召喚士協会に加入する。治癒魔法なら、医療隊に入隊するというように、魔術師としての専門性が分かれるわけだね。

 また、そういった道とは別に家が魔法を研究しているといった場合もある。それなら家庭内での教育で小さい頃から身に着けていくことになる。こうした場合は、皆もあまり知らないタイプの魔法魔術を研究していることも多いから面白いね。まさしく一子相伝だ」

 

 特別講師である()()が、魔術師の家系について教えている。

 

 ――私の専売特許として、無機物に死霊を憑依させることができる。

 

 降霊術を研究していた家に生まれたからか、私はもとより霊的な存在に対する親和性が高く、当然のようにそれらを意のままにすることができた。

 

 霊を降ろす依り代は主に人形だが、その気になれば人型から離れた器物に自我を与え、生物として稼働させることも可能だ。

 

 数ある降霊術の中でも、そこまでできる術者はそういないだろう。

 

 即ち、自分こそが自らの家系の中での最高傑作であり、ミアという存在がヘルの心にいる限りは、ラージュという呪縛はあの子の中にあり続けている。

 

 そのような重荷を、あの子に背負わせるなどあってはならない。

 

 闇に生きる自分に光を与えてくれたあの子は、光の中で生きるべきなのだ。

 

 

 

 

 

 ――とはいえ、いつ戻ってくるのかわからないあの子を、齢十前後の肉体で止まったままの自分一人で待ち続けるというのも色々と無理があるわけで、それまでの生活を浮遊霊たちと供養を兼ねて過ごしているのだ。

 

 

 自分がねぐらとしている館の掃除や料理は、そうした霊を憑依させた器具を専属で雇わせている。

 

 未練のみでこの世に留まっている自我の希薄な人形たちを一斉に管理するためとはいえ、回復の遅い自らの魔力を消費することは決して善いこととは言えないが、彼らを拾い上げた術者としての責務だ。それに費やされる血と罪は自分が背負えばいい。

 

 館の要職に就いている彼らと家にいる多数のゾンビ人形の違う点は、私が彼らの感覚をその気になれば把握できるということだ。

 

 憑依させた後は自意識に任せっきりのゾンビ人形たちとは異なり、私が直に魔力で動かしているからこそできる芸当で、学校にいる間も館の様子は認識することができる。

 

 だから侵入者が来ようものなら、すぐにでも駆けつけることができる。

 

「――」

 

 久しぶりに起こした箒から、来客の報せが入った。

 

 相手は家畜の変死について魔女を探しに来たということ。

 名前は知らないようだが、正体については当たりがついた。

 確信と言ってもいいだろう。

 

 ……その時を告げるように、鐘が鳴った。

 

 授業の終わりを告げるそれが、今の私には自らの終わりを示しているように聞こえた。

 

「さて、本日はここでおしまいだ。

 宿題として、この紙に軽く感想でも書いて、明日提出すること」

 

 丁度いい。

 今から帰れば、あの子と鉢合わせることもできるだろう。

 

 だから、ここで切り上げる。

 

「ごめんなさい。私、今日はここで帰らなくちゃいけないの」

 

 多くの血に濡れた平穏を捨てる覚悟。

 

 自分を取り巻く全てが終わる時を惜しく思いながら、

 しかし踏みとどまることはせずに、

 終わりへの一歩を踏み出すことにした。

 

「ミアちゃん。またねー!」

 

 ――かけられた声。

 

 数か月、ほんのひと時だけ、友人だった子。

 それは仮初の日常なれど、確かに私を構成していたものの一つだった。

 それも、今日で終わりだ。

 

 だと、言うのに。

 

「……ええ、また明日」

 

 無視して帰ればいいものの、そんな返事をしてしまった。

 幼い学友たちを騙すことに罪悪感を感じつつ、

 しかし真実を伝えることもできずに、叶いもしない約束をしてしまう。

 

 なんという足枷、

 

 なんという感傷、

 

 しかし、それがこの穢れた身体に残った人間性なのだろうと考えると、少しだけこの未練が嬉しくも思えた。

 

 それでも、私は踏み出さなければならない。

 さあ、清算をする時だ。

 

 最愛の者の手で自らの命を終わらせる。

 

 それがこの私、ミアラージュに許された、ただ一つの結末だ。

 

 

 

 

 

 昼休みの教室。

 

 隣の席の生徒が、ミアラージュの机から何かを発見する。

 

「せんせー、ミアちゃんが忘れ物していったよー」

 

 それはつい先ほど宿題として提示されたレポート用紙。

 発見した生徒は珍しいなと思っていた。

 彼女は遅刻も欠席もなく、忘れ物をしたこともなかったのだから。

 

「何だって?彼女の家を知っている子はいるかい?」

「ううん。誰もミアちゃんの家に遊びに行ったことないし。

 一緒に帰ってもすぐに別れちゃうから」

 

 放課後での繋がりが薄いミアラージュではあるが、人当たりが良く年上のお姉さんのような安心感をもって接することのできる彼女を避ける子は少ない。だからこそ級友も彼女が物を忘れていったことを自然に先生へと伝えた。特別講師という肩書きだが、むしろこの状況なら適任である。

 

「そうか、では先生が直接渡しに行くとしよう。

 丁度今日の予定はこれで終わりだからね。

 知らせてくれてありがとう」

 

 そう言って教師は生徒の頭を撫でる。

 生徒もご満悦だ。

 

「えへへー」

 

 

 

 

「では手始めに。『お星さまの言う通り(アストロ・ガイド)

 

 杖を取りだし呪文を唱え、天体球(ホロスフィア)をじっくりと見る。

 

「――『後をつける』か、『出待ちする』か。

 

 う~ん、待つにしてもどこで待つかを示してくれないか。

 では、素直に後を追いかけるとしよう。どこに行ったかぐらいは自分で調べられるしね」

 

 星辰が示した二つの曖昧な選択肢。

 彼女はその中から比較的明確な前者を選択した。

 

「さてと、『白き翼を広げよう(キャッチ・アップ・ユー)』」

 

 ポウ。と蛍光色のラインが浮かび上がる。

 教師の視界には、ミアラージュの希薄な魔力の痕跡が映し出されているのだ。

 

 たったそれだけの魔術だが、それだけのことを実現するための理論は決して簡単なものではなく、彼女が相当な魔術の腕を誇ることが見て取れる。

 何を隠そう、この女性は帝都から特別講師として訪れている召喚士だった。

 

「って、村から出てるじゃないか。

 仕方ないな。のんびり後を追うとしよう」

 

 白い髪を後ろにまとめ、眼鏡の位置を直しながらアルカナは足を進めることにした。

 

 

――演者たちの合流まで、後僅か。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……どういうことなんだこれは!?ここに来る前から、君には分かっていたのか!?」

 

 最奥で待つ。

 そう言ってミアラージュが消えた後、立ち尽くすヘルラージュにローズマリーが問い詰める。

 彼女が異様なまでに依頼への意欲を示した事、館の仕掛けに詳しい事、これまでの不審な点は、あらかじめ知っていたのならば説明が付くからだ。

 

「……ここから先は私、一人で行きます。皆さんは先に拠点に戻っていてください」

「ヘルちん!?」

 

 説明に応じず、一人で事を進めようとするヘルラージュに、思わず怒鳴り声をあげてしまうローズマリー。

 

 それをデーリッチが嗜め、改めて説明を要求する。

 これは最早自分一人の問題ではないのだぞと。

 

「彼にはこの事を知らせたのか?」

 

 ローズマリーは、唯一ヘルラージュと昔から行動を共にしていた男が、この複雑な事情を把握していたのかを訪ねる。

 

「いえ、殆ど。姉の存在を知らせた程度です。それが仇と同じまでは言ってません。

 

 ……言えるわけ、ないでしょう……!!」

 

 ヘルラージュの押し殺すような声に、非難の声を上げる者はいなかった。

 果たして自分の身内が仇になった場合、親しい人物にそれを打ち明けられるかなどと言われて、はいと答えられることの方が少ないだろう。

 

「……」

 

 ルークは黙ったままだ。

 

「私達は秘密結社ヘルラージュでち。それとも、こんなものは嘘の絆だったんでちかね?」

「そ、そんなことは……」

 

 秘密結社は四人の絆。相談もなしとは水臭い。

 そして王国で悪事を覚えると言った手前、道半ばで手放すなど許さんと国王が言った。

 

「四人一緒でちよ?

 一人でなんて行かせないでち」

 

 仲間外れこそが何よりの不義理。

 王国の依頼として受け入れた時点で、既に一人の問題ではなくなっているのだから。

 

「だから、ね?話せることだけでも話してくれないでちか?」

 

 ハグレの王国、その頂点に立つ幼き王は、そう言って笑いかけた。

 普段通りの、お日様のような笑顔で。

 

「……なかなかお上手ですわね」

 

 ヘルラージュも毒気を抜かれたのか、観念したように話し出す。

 

「ローズマリーさん。ごめんなさい……。

 薄々は感づいておりました。

 

 最初か確信を持っていたわけではありませんの。

 ただ、似ているなって……」

「似ている?」

「血を欲しがるところが、昔見た姉の症状とそっくりだった……」

 

 そしてヘルラージュは語る。

 

 ラージュ家に起こった悲劇を。

 

 彼女の、暗い旅路の幕開けを。

 

 

 

 ……ラージュ家の顛末。

 

 天才として期待を一身に引き受けた姉と、その影に隠れていた妹。

 

 あらゆる術を瞬く間に身に着け、一族の歴史でも比類する者無き最高傑作であったミアラージュ。

 早々に才能を見切られ、令嬢としての躾け以外は普通の子として育てられたヘルラージュ。

 

 対照的な二人ではあったが、故に互いの足りない部分を埋め合うように、非常に仲睦まじい日々を過ごしていた。

 

 しかし古神交霊術とは古のまつろわぬ神々を呼び出す黒魔術。

 死の世界を見る以上は、死に近づくのは必然の理。

 

 故に誘惑を、呪詛をはねのけるだけの精神が不可欠となるのだが、

 才能に目がくらんだ両親によって常軌を逸した修行を課されていたミアラージュは、しかしその技量の成熟と対比するように幼い精神が追い付いていなかった。

 

 訓練の最中に術式が暴走したミアラージュは、そのまま眠るように息を引き取った。

 

 ミアラージュというかけがえのない人間を失ったことに、家族の皆が悲しみに打ち震えた。

 

 だが、それだけでは済まないのが魔術師というものの性。

 

 長女がいなくなれば、次女に白羽の矢が立つのは当然のことだった。

 

 代替品でもいい。姉のいた証を残したい。

 ヘルラージュは両親の代わりに愛してくれた姉のようになるべく、交霊術の訓練にひたすらに励み、後継者として恥じぬだけの才能を発揮し、一人前の魔術師として恥じぬだけの実力を身に着けていった。

 両親も五年、六年経てば笑顔を取り戻した。

 

 ――よかった。

 私でも継承者としての責任を果たせるのだ。

 ヘルラージュはそう自負し、より一層修行に励んでいった。

 

 

 

 ――だが、一度目がくらんだ人間というのは盲のまま。

 

 ミアラージュという最高傑作を事故で失った程度で、両親は諦めをつけることなどできなかったのだ。

 

 幸いにも、自分達には失った者を取り戻すための手段がある。

 死者を呼ぶのであれば、そのまま現世に留めおくことも不可能ではないだろう。

 

 そうしてヘルラージュを継承者として育て上げる一方で、両親はミアラージュを蘇生するための術をっ研究し始めた。

 笑顔を取り戻していたのは、死者蘇生の術の完成が近づいていたから。

 

 そうして、交霊術の奥義『黄泉還り』は行われ、ミアラージュはこの世界に再び生を受けた。

 

 当初はその事実に戸惑いながらも、元の家族の形を取り戻すことができたことにヘルラージュも喜んだ。 

 

 ――だが術は完全ではなかった。

 そもそも死したものの霊を降ろす術から発展したかの奥義は、死を癒して生を与えるものでは無かったのだろう。

 ミアラージュの肉体は飽くまで死体であり、故に生者ではなく死にぞこない(ゾンビ)であった彼女は、日に日にある者を求めるようになった。

 

 それは生き血。

 

 その異常行動を鎮めるため、最初はペットが犠牲になった。

 

 それが消えれば、今度は村の家畜が消えた。

 

 それでも足りなかったのか、礼拝堂から死体が消えた。

 

 ――それらの骨は裏庭から見つかった。

 

 やがて屋敷から死後幾ばくも無い死体までもが発見され、ミアラージュを諫めていた両親も、最早止められぬと覚悟を決め、彼女を止めるべく立ち向かった。

 

 始めは言い争いだったのだろうが、それで解決するはずも無く、実力行使による大きな音が何度も鳴り響いた。

 

 ――轟音が止み、静寂が訪れた。

 

 全てが終わるのを震えて待っていたヘルラージュが姉の部屋で見たのは、両親の生首を持って笑う姉の姿だった。

 

 最善は、あの場で自分も立ち上がり、狂った姉を討つことだったのだろう。

 だができなかった。

 

 狂っても最愛の姉だったからか?

 

 ――違う。

 

 

「私はただ、怖かった。

 

 怖くて、逃げてしまった――」 

 

 恐怖から逃げた。その後悔の念と共に涙を零す。

 どうしようもなく臆病な自分が、ただただ嫌になった。

 

 そうしてヘルラージュは旅に出た。

 

 最初はただ生きることだけを考えた。

 

 冒険者として生きるだけの実力はあるものの、それ以外の世渡りの知識などほとんどなく、あるとすれば話を聞いていたら勝手に人が手を貸してくれる程度のもの。

 それでも何とか生きることができた。

 愛想を振りまくという稀有な才能こそが、彼女を生かし続けたのだ。

 

 彼と出会ったのは、そこから二年ほど経ったころの話だ。

 

 ある魔物退治の依頼で組んだことがきっかけで、行動を共にし始めた。

 

――彼は自分に足りない力を全部持っていた。

 

 命の危険を顧みないだけの胆力。

 本音と嘘、その両方を扱えるだけの強かさ。

 時に非道をもためらわない決断力。

 悪でありながら、同じ悪のみを相手にする義侠心。

 ……自分の事を心配してくる癖に、彼自身もどこか間の抜けている愛嬌。

 

 そして、悪事を成し遂げられることを、決して誇ろうとはしない善性があった。

 

 ただの悪党であれば、恐らくは早々に決裂があっただろう。

 

 彼が善人とは程遠い人物であることは理解していたが、それでも不思議と信頼できるだけの何かがあったのだ。それはきっと、義理堅さ、生真面目さといった彼の生来の部分だ。だからこそ、彼女も信頼を寄せることができた。

 

 そうして二人で得意な部分を分担することで、日々の時間にもある程度の余裕ができた。

 

 余裕ができて、復讐のためにどうするべきかを考え始めた。

 

 だから秘密結社を立ち上げた。

 漫画に出てくるような、悪逆非道の秘密結社を。

 そうすれば、非道な人間になれる。

 仇を討つために、どのような手段でも選ぶことができるように。

 

 

 

「以上が、私が彼女を追っている理由です……」

「そうか……」

 

 事の顛末を語り終えたヘルラージュ。

 

 想像を絶する壮絶さに、王国の皆はかける言葉も見当たらない。

 ただ、彼女が悪にこだわった理由。

 その決断に至るだけの重さを、強く噛み締めた。

 

「どうでしょう……。まだ、こんな私に力を貸してくれますか?」

 

 今度こそ逃げるわけにはいかない。

 故に手段は択ばない。

 

 ヘルラージュは恥を承知の上で頼み込む。

 みんなの力が必要だと、どうか手を貸してほしいと。

 

「良いのかい?君はもう一度、いや、今までで一番嫌な思いをしなければいけない。それでも、出来るのかい?」

 

「やりますわ。今度こそ、逃げません!……逃げられません!」

 

 最愛の姉に、再び死を。

 その目は決意に満ちていた。

 

「そうでちか。なら、もう何も言わなくていいでちね。皆もそうでちよね?」

 

 応!と仲間達からも力強い言葉が返ってくる。

 きっと、この場にいない者達も、同じように答えてくれるだろう。

 

「(嗚呼、私は、素晴らしい仲間に恵まれました)」

 

 ヘルラージュはただただ感謝した。

 こんな自分にはもったいないぐらいの、輝かんばかりの仲間達に。

 

 これより始まるのは秘密結社の大一番。

 過去最大の作戦となるだろう。

 

 そして、彼女が最後に伝えるべき言葉が、ただ一人に残っていた。

 

「ようやく決心したか」

 

 沈黙を貫いていた男が口を開いた。

 

「ええ。皆のおかげで。

 そして貴方には、改めて言わなければなりませんね」

 

 ヘルラージュは最初の仲間に顔を向ける。

 

 最初から、それこそ仲間を得た時から、決着は自分一人でつけるのだと心に決めていた。

 いくら死者であり、殺戮に狂ったとはいえども、家族殺しの業を他人に背負わせるなどヘルラージュは選べなかった。

 

 それが彼ならば尚更である。

 数年前、この身一つで旅に出た頃。助けとなってくれる人はあれど、決して優しくはない世界。姉に並ぶために身に着けた魔術を駆使して日銭を稼ぐ中で、彼には出会った時から助けられてばかりだった。

 

 彼からは様々な事を教わった。

 悪とは言えずとも、ほんの少しだけずる賢くなれた。

 

 彼と共に過ごす時間は楽しかった。

 時には取らねばならない、しかし自分にはできない手段(あくぎょう)を彼は引き請けてくれた。

 

 感謝してもし尽くせないほどの恩がある。

 

 ――仲間たちの力を借りることを決めた。

 

 だからこそ、今ここで言わねばならない。

 彼には、特別に尽くさねばならない礼儀があった。

 

「……貴方と旅をしてきた理由がここにあります。

 ルーク君。貴方も力を貸してください。

 私と一緒に、戦ってください。

 お願いします!」

 

 ヘルラージュは深く頭を下げる。

 最大の敬意を示し、その上で助力を願う。

 

「……」

 

 彼が彼女にかける思いは王国の誰もが知っている。

 値打ち物には目ざとく、損得にはうるさいくせに、割に合わない作戦や、一銭の稼ぎにならない活動にも不平不満を漏らさず参加していた。

 

 だから、悪態をつきつつもすぐに了承すると考えていた。

 

 だからこそ、その答えは誰にも予想できなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌だね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……えっ?」

「嫌だと言ったんですよ。聞こえませんでしたかこのバカリーダー」

「なっ……!」

 

 ヘルラージュの懇願をルークは一蹴する。

 皮肉ですらない、あまりに率直な罵倒。

 これには流石のヘルラージュも悲しみを通り越して怒りを露にした。

 

 仲間達からも非難の声が挙がる。

 

「おいルーク!てめえそりゃどういう了見だ!!」

「ちょっと!?断るにしても流石にそんな言い方はないだろ……!!」

「ここまで来て全部蹴っ飛ばすってか!?見損なったぞ!!」

「どういうことですかルークさん!説明してください!」

 

 しかしルークは表情一つ変えずに、ヘルラージュと顔を向き合わせる。

 

 懇願を否定された怒り。

 ついてきてくれない悲しみ。

 巻き込まなくてよいのかという喜び。

 

 あらゆる感情はないまぜになって、ただ問いだけが口に出る。

 

「……どうしてですか」

「貴女が何にもわかってないからですよ。全く、ここまで自覚がないとは怒りを越して呆れ返る」

「貴方の為を思ってこうして頼んでいるのに、どうしてそんなことを言うのですか!」

 

 普段の様に指示を出すわけにはいかない。

 いつもの秘密結社活動のように勝算があるわけではない。むしろ分は悪いだろう。

 本当に、命の危険だってあるのだ。

 

 だからこそ、ついてきてくれると信頼している彼にも筋を通すためにこうして頼み込む真似をした。

 

 だと、いうのに――

 

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 ――その一言で、全部が吹き飛んだ。

 

 

 

「え?」

「貴女は秘密結社ヘルラージュのリーダーだ。

 だったら、副リーダーの俺を付き合わせるのにお願いなんてする必要ないんだよ。

 

 ――ただ命令すればいいんだ。いつも通りに『ついてこい』って。

 その一言だけで、俺は動いてやる」

 

 

 『彼女に最後まで寄り添う』

 その誓いは不変。 

 

 だからと言って、ただはいはいと頼みを聞き入れるなど悪党としてのプライドが許さない。

 

 それが最も大事なお願いとあらば猶更だ。

 

 誠意には誠意を、無法には無法を。

 

 ――いつもいつも、振り回されるのは自分の方だ。

 悪だくみに付き合わせることもあったが、それにしても大元の発端は彼女であった。

 

 ここまで自分を強引に巻き込んできた以上は、それに相応しいだけの気概を見せてもらいたいとルークは考えていた。

 既に命を預けているのだから、そう振る舞えばいい。

 

 つまりこれは、いつもと変わらない意趣返しだ。

 

 

 普段通りやれと言う、彼からの願いだ。

 

 

 ――ああ、そうか。

 

 

「……ついてきてくれるのですか?こんな私に」

 

 秘密結社を立ち上げたのは、姉の業に対するだけの悪徳を積むため。

 その理由は決して間違っていない。

 

 だが――

 実際の所、私は側にいてくれる誰かを、

 

 彼との関係を、私は明確な形で求めていたのだろう。

 

「ああ。一生ついていってやる。

 それこそ地獄の底までな」

 

 涙が止まらない。

 

 こんな自分の、側にいてほしいという願いを受け入れてくれるのだ。

 どうしようもない臆病者の隣にいたいと、言ってくれるのだ。

 

 ならば、それに応えるのが正真正銘の礼儀というもの――!

 

「……だったら!

 

 私についてきなさい!

 この復讐に!何も得るもののないこの戦いに!

 貴方は私の側で、死ぬ気で戦いなさい!

 そして絶対に生き残りなさい!

 秘密結社の【面子】にかけて、これは命令です!

 答えなさい、ルーク!」

 

 溢れ出す感情のままに命令(こくはく)する。

 答えはすぐに返ってきた。

 

「――嗚呼!

 

 お前を馬鹿にする奴は問答無用で潰す!

 秘密結社を嘗めた奴は徹底的にぶちのめす!

 それが悪党の役目だ、俺の仕事だ!

 その命令を承知した。リーダー・ヘルラージュ!」

 

 男も負けじと啖呵を切る(くちづけをかえす)

 

 ――返せない恩があるのはこちらのほうだ。

 

 失った青春。

 乾いた日々。

 遠ざかる夢。

 

 色を失った世界から自分を救い上げたのは他ならぬ君だ。

 

 だから自分の居場所はそこなのだと、高らかに告げる。

 

 ここがいいのだと、魂で叫ぶ。

 

 こんな自分を相方として選んだ君の隣で、君の悪を代行することをここに誓おうーー。

 

 

 

 決意に満ちた紫眼と、不敵に笑う翠眼。

 

 双眸は見つめ合わせ、互いの意思を確かめ合う。

 

「……ぷっ」

「……へっ」

 

 沈黙を破ったのはどっちからだったか。

 似合わないことをしたなと、互いに笑いが漏れる。

 

「ありがとう」

「こちらこそ」

 

 

 その何の飾り気も無い言葉こそが、紛れもない本心だった。

 

 

「よし!それじゃあ行こうじゃねえか!リーダーの姉貴ぶっ飛ばして、拠点で盛大に祝おうじゃないか!」

 

 いきなり始まった盛大なロマンスに固まっていた王国の面々は、その一言で我に返った。

 

「……そうだな。ヘルちんが臆病者でないことを、彼女に見せつけてやろうじゃないか!」

「にっしっし!それでこそでちね!ルーク君、板についた悪役っぷりでちたよ!これならヘルちんが悪党になれる日も近いかな?」

 

 秘密結社の戦闘員二人は、その意気だと前に出る。

 

「いやー、それにしてもやるじゃねえかルーク。すまねえな、ひどいこと言っちまって。あんなに男らしい告白、俺でも惚れ惚れするぜ」

「言っとくけど、真似するんじゃないわよマッスル。普通なら最初に断わった時点で平手打ちされておしまいだからね?まったく、デリカシーってもんが欠けてるわねアイツ」

「やれやれ。どうなることかとヒヤヒヤしたよ。それに女性にあんなこと言うのは、僕もちょっと頂けないかな」

「というか見てるこっちが恥ずかしいわ。ほら、ベル君なんてテレパシーでもないのに共感性羞恥でオーバーヒートしてるわよ」

「……ぷしゅー」

 

 そうでない者達も、王国の仲間を見捨てたりはしない。

 ただ、彼の女心を考えないやり方には少々呆れていた。

 

「しかし、あんなの明らかに告白のやり方じゃないでしょうに。

 どこでそんなの覚えてくるのさ」

「……ヘルの読んでた漫画。そこに出てくる組織のトップが、部下に命令を下すシーンだよ。あれがきっかけで秘密結社ができたようなものだからな」

 

「へー。ふーん。へー。」

「何だよその雑な反応は!!」

 

「いやべっつにー?」

 

 エステルはにやにやと笑みを浮かべ、今後は彼を弄る際の鉄板ネタが出来たと思った。

 

 そして彼らは館の奥、儀式の前へと足を進める。

 

 何もかもをすっきり終わらせて、皆で帰るために。

 

 

 

 

 

 ……はて、何か大事なイベントが欠けたような?

 

「あのー。オレ、忘れられてない?」

 

 関節を外されたまま放置された人形が、一人呟いた。

 呼び止めようにも既に声の届く距離にはおらず、唯一動く片足であがいてみるも、殆ど動くことは叶わなかった。

 

「……ちくしょう。このままじゃ魔女様も妹さんもロクな結末にならねえ……!!」

 

 彼らの心意義は素晴らしいが、そもそも前提が間違っている。

 全てが終わる前にそれを訂正しなければ、取り返しのつかない後悔が残る。

 

「おや、呪物とは珍しい」

「!?誰だアンタ」

「少しここに用があるだけの者だ。主人が帰ってきているはずなのだが、ミアラージュはどこに?」

「……まあいい、この際誰だって構わねえ。頼む、魔女様の元に案内してやるから関節を嵌めてくれ。見ての通り動けねえんだ」

 

 その人物は部屋を見渡し、館の奥に続く通路で視線を止めた。

 

「……いいよ。概ね何が起こったのかは把握した。

 全く、こんなに焦がすとはエステルも派手にやるものだね」

 

 

 ――星術師アルカナ、少々遅れて到着。

 どうやら王国の忘れ物も、彼女が拾うことになったようだ。

 

 

 

 




ロマンスとか書けるわけないでしょ作者の恋愛は1ですよ!?

DD「じゃあ二人には互いの【トリコ】を代償に書き込んでね」

こんな告白現実でやったら最初の段階で振られること間違いなしなのでみんなは真似しないように。

次回予告
ヘル「姉さん、行きますわ!!!私達の力を見せてあげます!!!」
ミア「ならば見せてみなさい!!!」
ルーク「行くぞッ。これが僕たちの絆の証……愛と正義と欲望のトライアングルフラッシュだ!!!」
ミア「ゴフッ。見事だ、光の者達よ……」
マリー「え?ちょっと!?台本と違いません!?もっとこう、皆の力とフォーメーションを駆使したような……」
ヘル「ルーク君、例のものを」
ルーク「これでどうか内密に……」
マリー「買収!?そこまでする!?」
???「そして次なる戦いの舞台はなんと宇宙!立ちはだかるは暗黒大王ハインリヒ!」
マリー「ちょっと!?貴方の出番はあと数話はかかりますよ!?」
???「え、デジマ?ちょっと早まってしもうたか……」
ヤエ「次回、スペースヤエちゃん第45話『ギャラクシーエクスプレス666』来週も、見て頂戴!」
マリー「タイトルまで変わってるじゃないですか!もうめちゃくちゃですよ!!」

アルカナ「畜生!乗っ取られた!」

(魔女の館編)MVPは誰?

  • ヘルラージュ
  • ルーク
  • ローズマリー
  • デーリッチ
  • その他
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