ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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簡易ステータス
ルーク トレジャーハンター 副リーダー
特技タイプ
物理アタッカー
魔攻と防御が低く、それ以外は割と均等に伸びるのでドーピングが腐りにくい。
物理全般に弱耐性があり、HPとMPが毎ターン3%再生する。
統率3 運動6 知力4 技術8 魅力1

一般的にシーフと呼ばれる感じのキャラです。
自称トレジャーハンターであり、実際に「おたから」と呼ばれるアイテムもいくつか保有している。


注意:本作は時折原作ゲームを意識した演出が入ります。


その2.初仕事と瓦解とボス戦と

 その日、彼らは海岸の高台で待ち合わせていた。

 次元の塔は入る時点で手段が限られており、その上どこの国にも属していないため司法の手が及ばないダンジョン。まさに非合法品を受け渡すには最適とも呼べる場所だ。

 

 本来であれば何事もなく済まされるはずの取引。しかし、それを見逃さない者たちがいた!

 

「な、なんだてめえら!?」

「ふふふ……、私達はお前達の商品を横取りに来た悪党だよ」

 

 ブツを運び、受け渡し相手を待っていた山賊たちは目の前に現れた謎の四人組に驚愕する。

 ギガース山賊団という二人組の山賊団。かつてハーピー族の少女に金銭をだまし取られ、その報復として身柄を売り飛ばそうとしたところを立国直後のハグレ王国に懲らしめられた。そんな経歴を持つ彼らは、懲りることなく非合法の薬物取引に手を染めようとしていたのだが、そこをこの四人組に割り込まれたのだ。

 

 高く柔らかい声色は女のものと辛うじてわかるが、彼女たちは一様に暗色の衣類で全身をすっぽりと覆っており、夜の闇に紛れて全貌がつかめない。

 取引品を強奪に来たという言動から、自分たちの情報が流れていたという事実が山賊たちを揺さぶる。

 

「てめえら、一体何者だ!」

 

 だが彼らとて一端の犯罪者。山賊二人組の内、サブっぽい男が臆することなく闖入者へと啖呵を切った。

 

「フ、私たちは――」

 

 四人組の中でリーダー格と思わしき人物が、闇の中でもわかる不適な笑みを浮かべた。

 

 そこでちょうど月の光が差し込み、四人の姿が見えるように――

 

 

 ……見えるように――

 

 

見ての通りの者よ!

「見て何もわからねえよ!」

 

 

 そこに立っていたのはかっこいいポーズを決める女と男となすびなすびだった。

 

 具体的には、きわどいドレスを着た女性とスタイリッシュなスーツを着た仮面の男性が背中合わせで立ち、その両脇をなすびの着ぐるみを来た少女が固めている。いやあ、なんなのでしょうね。この集団。

 

「地の文ですら混乱してるぞ!?」

「私たち、秘密結社ヘルラージュ!」

「予想と全然違う答えが返ってきた!?」

(予想通りの反応が返ってきたなあ……)

 

 キメキメの名乗りを上げるヘルラージュに対する山賊たちの反応を見てしみじみと遠い目をする仮面の男性は、もちろんだが副リーダーのルーク。そして横のなすび怪人二人はデーリッチとローズマリーである。

 

 アジトの更衣室から出てきたデーリッチとローズマリーは、立派ななすび怪人へと変貌を遂げていた。それを見たルークの口からは思わず「マジで?」と言葉が漏れ、「マジですわ」と自信満々にヘルラージュが返した。そのあまりの自信に満ちたドヤ顔には、流石の彼も反論する気が失せてしまった。

 それに変な格好をしている連中なんて異世界からの召喚者――ハグレに満ちた世界の中では大量にいる。だから人間大のなすびがうろうろしていても大して目立ちは……いや目立つなこれ。

 

 ちなみになんで戦闘員がなすびなのかと言うと、「ヘルラージュのヘルはヘルシーのヘルだから」という理由である。本当かどうかは彼女の名付け親にでも訊くしかないだろうが、そんな機会は未来永劫やってこないのであった。*1

 

「とにかく、あなた達の商品は私たちが貰い受けます」

「黙って置いていけば命は取らねえから安心しな」

 

 ヘルラージュの言葉に続いてルークが恐喝する。仮面の下から覗く冷徹な眼光と相まって、山賊たちよりもよっぽど凄みを出している。少なくとも堅気の人間が出せる雰囲気ではない。だが横のなすび二人のせいでイマイチ決まっていない。

 だが、ここで素直に明け渡しては山賊団の名折れ。なすび怪人にどこか既視感を覚えながらも、負けていられるかとギガース山賊団はそれぞれの得物を構えた。

 

「まあ素直に渡すわきゃねえよなあ」

 

 最初から分かっていた決裂に、ルークも腰を低く落として右手に両刃の短剣*2を構える。ヘルと戦闘員なすび達も魔法の準備を始め、一触即発の雰囲気が辺りに満ちる。

 

「おいお前達、何の騒ぎだこれは!? ……いや本当に何だこれは!?」

 

 睨み合いの最中、山賊の後ろから杖を持った魔法使いの男が現れた。彼は山賊たちの取引相手だ。

 ダークウィザードもやっぱりというか何というか、なすびを従えた男女という珍妙な集団という光景に対して戸惑いながらも、山賊たちの様子からヘルラージュ達が敵であることを理解して杖を構える。

 それが切っ掛けに膠着が破られ、戦いの火蓋が切られた。

 

「行きなさい。ナス&ビー!」

「「きー!」」

 

 ヘルラージュの号令になすびコスが気に入ってきた戦闘員二人がノリノリで山賊達へと襲い掛かる。

 

 最初のターン! クェイク! フレイム!

 二人のなすび怪人(デーリッチとローズマリー)が魔法を放ち、山賊達は困惑のまま対処に追われる。

 

「ええいちくしょう!」

「兄貴!こいつらただのなすびじゃねえですぜ!」

「何なんだよ今日は! 悪夢みてえな冗談だぜ!」

 

 腐ってもそれなりの場数を踏んでいる山賊たちは魔法を捌く。その攻防を隠れ蓑として、彼も行動を起こしていた。

 

「――冗談で済めばいいな」

「は? ……あれ、あの伊達野郎はどこに行った!?」

 

 ――ルークはシャドウハイドを使用した!

 隠密状態(狙われ率低下、回避率上昇)が付与される。(4ターン)

 気配を断ち物陰に身を隠すシーフの基本技だ!

 

 いつの間にか姿を隠したルークの声だけが響く。ヘルラージュ達からは見え、山賊からは見えにくい場所に位置取ることで瞬く間に気配を消し去った。

 姿見えぬ敵に山賊たちは意識を向け、声を頼りに攻撃を繰り出す。

 

「くそっ!」

 

 山賊弟分(サブ)はデススラッシュを繰り出した!

 ミス! ルークにダメージを与えることができない!

 

「ええい!」

 

 ダークウィザードはブリザードⅡを唱えた!

 ミス! ルークにダメージを与えることができない!

 

 苦し紛れに繰り出される雑な軌道を読み切り、ルークは山賊たちの攻撃を余裕で回避した。

 

「……すごいな、魔法も回避できるのか」(なすび)

「これぐらいしか取り柄はないですがね。それで、どうやって戦います?」

「ふむ、盗賊、戦士、魔法使いとバランスが取れているパーティだ。一気に行く必要があるな」(なすび)

「この場合、一人にターゲットを絞るのがいいんでちね?」(なすび)

「そうだ、まず何としても一人片付けることを優先して動こう」(ナスビー)

「それならまず盗賊から狙うのがいいかも」(へるらじゅ)

「オーケーオーケー、それなら手早くやってしまいましょう」

 

 ひそひそ相談するなすび達という、珍妙極まる光景を見せつけられた山賊は困惑を隠せず、そしてそれは刻一刻と状況の変化する戦闘においては隙でしかない。

 きらり、と反射された月光が山賊の視界を照らした時には、すでに彼は山賊の喉元へと迫っていた。

 

「――という訳でだ、まず一人目」

「……え? ぎゃぁ!?」

 

 ――ルークは影から忍び寄って死の一撃を振るった!(会心あり、隠密状態で高確率即死)

 会心の一撃!

 山賊弟分(サブ)に4754のダメージ!

 山賊弟分(サブ)を倒した!

 

「おお! さっそくやっつけたでち!」

「会心と即死の組み合わせってえげつないなあ……」

 

 死角からの不意打ちによって相手を一撃で切り伏せたルークの腕前に感嘆の声が挙がる。

 

「サブ!? この伊達野郎が!」

「ちっ……!」

 

 弟分へと攻撃を仕掛けたことで姿を晒したルークに山賊兄貴は怒りに満ちた一撃を放った。

 流石に山賊兄貴のヒートコンボを捌き切れず、ルークのスーツに焼け焦げた裂傷が作られる。

 

「ヘルズラカニト!」

「ぎゃあ!」

 

 だがそこをカバーするのがヘルラージュだ。

 彼女が操る魔法は古代魔法と呼ばれる極めて高度な魔法。その奥義であるヘルズラカニトはマナを操作して空気を破壊するという極めて凶悪な魔法だ。

 眼前の空気を破裂させられたことによる窒息で山賊兄貴がダウンする。

 

「残ったのは俺一人かよ!」

 

 最後に残ったダークウィザードは魔法の猛攻に耐え、全体魔法で一掃しようと杖を振りかざした。そこで彼は右手がやけに軽いことに気が付いた。

 

「……あれ?」

「探しものはこれかな?」

 

 呼びかける声に視線を向ければ、自分の相棒がルークの手に握られていた。

 

 ――ルークは一瞬の隙をついて得物を奪い取りにかかった!

 ダークウィザードの攻撃と魔攻が大幅に減少!

 

「俺の杖ェ!?」

 

 魔力の下がった魔法使いというただの雑魚も軽くシバかれ、山賊達は経験値とゴールド、そしてブツを置いて逃げ帰る羽目になるのだった。

 

「いえーい!」

「作戦成功よ、早いうちにアジトに戻りましょう!」

 

 

 

 

 

 

 意気揚々と品物を回収し、アジトへと帰還した秘密結社ヘルラージュ。

 

「本当に凄いことしちゃったわね……!」

「向こうも向こうで妙に聞き分けが良かったり、悪事って感じはありませんがね」

「結構サマになってたでちよ。これなら、秘密結社やっていけるんではないでちか?」

 

 ヘルラージュは今後の活動に思いを馳せ、その横でルークは宝箱の中身を検分していた。

 無味無臭でアルコールと同様の効果を持つ「またたびハーブ」。ルーク達が普段生活している帝国領内では違法薬物と指定されている品だ。

 

「また微妙に危険なの取り扱ってんなぁ」

 

 違法な薬物の取り扱いならばルークの出番である。彼は裏社会の事情にもいくつか精通しており、適当に売り捌くなり別の用途に活用するなりと色々利用価値を見出すことができる。

 とりあえずこの危険品は秘密結社が預かる事となり、約束通りデーリッチ達には次元の塔の鍵が渡された。

 

「じゃあ私たちは塔の先を目指すのでこれで、色々お世話になりました」

「さよならでちー!またでちー!」

「いえいえ、ここまで付き合っていただいたのでこっちが礼を言いたいぐらいですよ」

 

 そして名残惜しくも彼女たちには冒険へと戻る時が来る。

 ルークはヘルラージュの妄言に付き合ってくれた二人へと礼儀正しく感謝を示し、笑顔で彼女達を見送ろうと――

 

「ちょ、ちょっとお待ちになって!秘密結社はどうしますの!?」

「え? 辞めますけど……」

 

 ここで二人を逃してしまうわけにはいかないとヘルラージュが引き留めにかかる。

 元々そういう条件だったとはいえ、ノリが良くて強くて何より一緒にいて楽しい二人を逃すことなどヘルにはできない。

 

「お願い! 貴方達がいないと駄目なの!」

「別に二人で秘密結社やればいいじゃないですか」

「嫌よ! 悪いことのバランスがとれないわ!」

「それはそれでなんか傷つくんだが?」

 

 すがりつくヘルラージュに二人は困ったなあという表情をする。

 ローズマリーは唯一ヘルラージュを諭せそうな男に助けを求める。

 

「ルークさんからもなんとか言ってやってくださいよ」

「ヘルさんが自発的にやろうとすることだから止めるつもりはない。という事でどうか」

「……そういえば秘密結社に付き合ってる側でしたね」

 

 秘密結社について心配する言動はあれど、その内容に否定的な意見は一切述べていない。良識があるかと思えば、実際は一番最初に妄言に付き合っている人間がルークだったことにローズマリーは今更ながら気が付いた。

 

 そもそもハグレ王国に属している身で、このままでいるつもりはないとローズマリーは言う。

 じゃあハグレ王国では悪いことOK? とヘルラージュが問うもデーリッチが駄目でちとバッサリ斬り捨て、へなちょこメンタルのヘルラージュはよよよと崩れ落ちてしまう。

 その様子を見てもルークは何も言わない。ただ、ヘルラージュがどういう対応をするのかだけに注視している。

 

「分かりましたわ。もういいです……!」

 

 何処へなりとも行ってしまいなさい。ただし塔の先には簡単に進めると思わないことですとデーリッチ達は二人をアジトから閉め出してしまう。

 二人がアジトから出ていく際、ルークが二人へと声を掛けた。

 

「そういう訳ですので、レベルでも上げておくのがいいんじゃないですかね?」

 

 と、あんまりアドバイスになってない言葉と共に特技書と魔法書をいくつか手渡してきたのであった。

 

 

 割といっぱいスキル書を貰った!

 ……でも被りが多くないか?

 

 

「餞別と慰謝料と思ってください。それでは」

 

 ルークはアジトの扉を閉めた。

 

(ま、久々に暴れられて楽しかったけどな)

 

 いざ引き留めようにも言葉が出なかった自分にため息をつき、鍵をかける。ハグレの集団。社会のはみ出し者たちが集まって国を名乗っている。そこに惹かれるものは無くもないが、彼女が望まないのなら自分もまた留まるのみ。

 ルークは何か慰めの言葉でもかけようかと思った途端、ヘルラージュにしがみ着かれた。

 

「うわーん! く"や"し"い"~~!!」

「おいおい、泣かないでくださいよみっともない」

 

 さっきまでの威勢はなんとやら。

 びえんびえんと泣きじゃくるヘルラージュを、ルークは振り払うような真似はせず、頭に手を置いて安心させる。こういう時の彼女は単純に寂しさが溢れているだけで、少ししたら立ち直るのは分かっているのだ。

 

 だから、この後何をすればいいのかもルークには大体わかっていた。

 

「それで、どうするか決まっているんだよな。ヘルさんよ?」

 

 かしこまった丁寧口調を脱ぎ捨てて、ルークはヘルラージュに問いかける。

 顔を上げたヘルラージュは、びしっと胸に手を当てて答えた。

 

「決まってます、最上階に先回りして彼女達を連れ戻すのです!」

「そうか。分かった」

 

 二つ返事で了承する。

 もとより彼の基準はヘルラージュだ。

 彼女がいいといったのなら、それに従うまでだ。

 

「まずは勧誘です!流石に八人相手では二人で勝てません」

「だよなあ……」

 

 都合よくこっちに味方してくれる冒険者が現れればいいのだが、そう美味い話もないよなあとルークは思った。

 

 

 

 

 

 

「まさか本当に勧誘してくるとは」

 

 ところ変わって次元の塔三層最上部。

 ハグレ王国を待ち受けるために佇むヘルラージュの側でルークは独り言を口にする。

 その視線の先には新たな協力者。新しい仲間を探しにいったヘルラージュは、宣言通りに一人……いや二匹? 加えてきたのである。

 

「見なさいルーク君、ちゃんと仲間を連れてきましたわ!!」

「はむすけでーす! 下のはどらごん君。僕もハグレ王国には個人的な恨みがあるのでヘルちんに加勢しまーす! よろしくお願いしますっすよ旦那!」

 

 それが子ドラゴンに乗ったハムスターなので、大丈夫かなこれと思いつつ実力を訊いてみると割と強そうだった。どらごん君が。

 そのせいか「あれ?これいけるんじゃね?」とルークは思ってしまうのだった。この男、思慮深いようで存外博打狂いである。

 

 そんなこんなでハグレ王国一行が上層を越えてきたのを出迎える秘密結社。デーリッチが率いるパーティは見たことの無い顔ぶれも何人か混ざっており、ルークが以前見かけた者は半数ほどだった。状況に合わせて即座に入れ替えられる人員がいることに王国としての層の厚さが伺え、ルークの中で警戒度が上昇する。

 これは最悪、()()()も出さなければいけないだろうと自分の持つ特殊な手段の中から何が最適化をルークが思案する中、ヘルラージュはハグレ王国と言葉を交わす。

 

 ヘルラージュが名乗り口上を行う際に一層の人の台本を間違えて読んだりと、いまいち締まらない雰囲気だが、しっかり戦って決着をつけようという流れに。

 

「じゃあボス戦ということで、俺も本気でいきますか」

「ルーク君も戦うんでちか?」

「そりゃあ勿論」

 

 とことん付き合ってやろうと決めているので、とは言葉にせずルークはヘルラージュの隣に並び立ち、仮面を装着し短剣を構えた。

 仮面から覗く飄々とした目つきはギラギラと鋭くなり、敵対者を刈る影の刃は容赦を捨てた。

 

「三対八、だが人数の有利で勝てるほど、秘密結社(俺たち二人)は甘くねえぞ」

「さあ行くわよっ、秘密結社を取り戻せー!」

 

 ヘルラージュが出現!

 ルークが出現!

 はむすけ&どらごんが出現!

 

「ルークを先に押さえろ! 回避力を上げられたら一人ずつやられていくと思え!」

「OK! サイキックパワー!」

 

 ローズマリーの指揮の下、先手を取ったのはハグレ王国のサイキッカーヤエ。サイコバインドによる謎フィールドで全体を押さえつけにかかる!

 

「雷と麻痺か!」

「スタンは無効っすけど麻痺は普通に効くっす!」

 

 ルークは行動を阻害されることは逃れるも、どらごん君は痺れて攻撃ができない。そこに集中してハグレ王国の攻撃が続く!

 

「集中攻撃で落としに来やがって! ヘル!」

「『禍神降ろし』!」

 

 はむすけが滅多打ちにされるのを見たルークの助言に従い、ヘルラージュは己の奥義たる魔法を行使する。古き神々の力を借り受ける彼女の魔法は、このように味方を超絶強化することもできるのだ。

 

「うっひょー! なんかすごいパワーが出るっす!」

 

 麻痺から解放されたはむすけにヘルラージュが禍神の力を憑依させる。力溢れるどらごん君が雷撃を放ち、ハグレ王国の前衛を混乱させる!

 

「あちらも中々役割分担ができているようだな……」

「俺を忘れてもらっちゃあいかんな!」

 

 ルークが一刀両断の勢いでローズマリーに斬りかかる!

 だが刃が届く前にその刃は盾に阻まれる。赤い髪を後ろに編んだ女戦士が、参謀の間に割って入ったのだ。彼女の名はジュリア。献身の大盾と名高き腕利きの傭兵は、ルークの盗賊に近い戦い方を完璧に対処していた。

 

「チッ……!!」

「悪いが、その一撃はいただけないな」

「……その赤髪と大楯、さては傭兵隊長のジュリアか」

「良く知っているじゃないか!」

「職業柄、情報には詳しくねえとな!」

 

 傭兵隊長が致命の一撃を防ぎきる。弾き飛ばされたルークは彼女の素性を看破し、相当の使い手であることを理解する。ジュリアもまたルークが戦い慣れした人物であることを見抜いた。

 

 ルークが着地すると同時に、雷が鳴り響き、冷気が周囲に満ちる。ハグレ王国から放たれた魔法が秘密結社を襲ったのだ。

 

「うひゃあ! これはもうだめだー! ヘルちん! 旦那! 後は任せたZE!」

「あれ!? ちょっとはむすけ!? 何逃げてるのよ!?」

「あんにゃろ、やっぱり畜生は畜生だったか……」

 

 猛攻に不利を悟ったのかはむすけ&どらごんは勝手に逃走を始め、ヘルラージュが目に見えてうろたえ始める。

 

 ルークの思考が巡る。

 

 このまま戦闘を続けても敗北の色は濃い。負けてしまえばデーリッチたちが秘密結社に戻ってくることはないだろう。

 

 ――そうなれば、どうなる?

 

 ――また一人になるのか?

 

 ――また一人にするのか?

 

 かつて自分達の仲間が去っていった時に感じた虚無。己の心にぽっかりと穴を空けたあの空虚が蘇る。その感触を、今度は彼女が味わうと言うのか。

 

 かつての記憶が逆流し、思考が冒険者のものから貴族たちを相手どった義賊……すなわち亜侠のものへと変わる。

 

「……結局は博打か、仕方ねえか」

 

 ()()は緊急事態でも無ければ非常にリスクの高い手段ではあるものの、成功すればアドバンテージを取ることができる。逆転の目があるとすればそれしか無い。

 どうしようもなく運頼みの破れかぶれ。しかしそれが自分らしいと彼はシニカルに笑った。

 

()()()()、こうなったら()()を使うぞ!」

「えっ、それってもしかして()()のこと!?待って待って!」

「何だ……? 何をしてくるつもりだ?」

 

 ルークが腰に吊り下げたポーチに手を突っ込み、手のひらサイズの物体を取り出す。それを見てヘルラージュは顔を真っ青にし、慌てて手で頭を覆いしゃがみ込む。

 明らかに普通じゃない様子を見てローズマリーが警戒を強める。

 取り出された()()()に対してあたりをつけたのは王国の鍛冶屋ジーナだった。

 

「……銃? それにしては随分と小さいじゃないの」

「あれは拳銃ね。気を付けて、あれでも充分威力は出るどころかこの世界のものよりも上等よ」

「任せな。俺の筋肉で防ぎきってやる」

 

 ルークが取り出したのは鉄砲、銃と呼ばれる遠距離武器。

 しかしその形状は帝都で製造されている先込め式単発銃(マスケット)ではなく、手のひらより少し大きい程度の片手で扱える、所謂拳銃というものだ。

 そのことを元の世界由来の知識からヤエは大きさに惑わされないように呼びかけ、逞しき牛人のニワカマッスルが一行の盾となるべく前に出る。牛人の鍛え上げられた筋肉は天然の防弾チョッキとも形容できる。

 常人ならば致命傷を負わせられるだろうが、即時回復の魔法がある冒険者パーティにはあまり脅威とは言えなかった。

 

「でもあれで形勢が変わるとは思えないんでちがね」

「ハッ、もとより悪あがきだよ!」

 

 体裁を繕うことをやめたのか、ルークが粗雑な口調で声を荒げる。懐から取り出した一発の弾丸を装填し、ハグレ王国に銃口を向け引金を引いた。

 

「いけ! 《死の弾丸》!!」

 

 ルークはデッドリーバレットを撃った!

 生死をかけたギャンブル! 死神は誰を標的に選んだか!?

 

 破裂音と共に音を置き去りにする速度で鉛玉が飛んでいく。幸いにも、その一瞬で被弾した者はいなかった。

安堵したのも一瞬、ハグレ王国を通り過ぎたはずの弾丸は曲線を描き、180度の方向転換!

 

「え、私!? ぎゃああああ!」

 

 ハグレ王国で一番の巨体を誇る妖精神、かなづち大明神ことかなちゃんは己の避けられない運命を直感して叫ぶ。

 その大きな背中に銃弾が突き刺さり、断末魔の悲鳴と共にかなちゃんははずしんと大きく地面を揺さぶりうつぶせに横たわった。

 

「かなちゃーん!?」

「問答無用の即死攻撃か……!!」

「でも、そんなすごいのがあるなら最初から使えばいいじゃないでちか?」

 

 タフネスに優れるかなちゃんが一撃で倒される威力の技を最初から使用しなかったことにデーリッチは疑問を抱く。

 

「簡単な話だ……!! この弾丸は敵も味方も関係なく一人に当たる無差別技だからな!!」

 

 《死の弾丸》は死神のきまぐれを引き起こす呪物。そこに人の意思が介在する余地はない。敵と味方の区別はなく、誰を死の淵に連れていくかはすべて死神の手に委ねられる。

 亜侠の口から語られたのは、そんな身も蓋もない効果だった。

 

「思ったよりひどい攻撃だったー!?」

「なんて奴だ……ヘルちんに当たるとは考えなかったのか!?」

 

 いくら蘇生手段があるとは言え、自分含めた味方にまで即死の危険性がある博打狂の弾丸を使用するなどやけっぱちにも程がある。

 身もふたもない真相に驚愕と非難を浴びせる面々。

 

「当然。ですがヘルは普段のツキが悪い分ここぞという時はやってくれますので」

 

 だがルークは涼しい顔。口調も取り繕ったような敬語に戻ってしれっとそんなことをのたまった。

 

「信頼しているのか信用していないのか……!!」

「だがあれは多用できない代物と見た。準備行動があるから気を付けて前衛と後衛を入れ替えろ!」

「……こたっちゃんこたっちゃん、準備できた?」

「ばっちりじゃん!」

 

 予想外の隠し玉に王国が警戒を最大限にする中、攻撃が終わったことを知ったヘルラージュは震えながら起き上がった。

 

「びえ"え"え"~! 怖かった~!!」

「泣くのは後にしてくれ。それより禍神降ろしをくれ、ここで押し切る。頼むぜリーダー」

「……分かりました!」

 

 泣きつくヘルラージュを優しくどかし、今望めるだけの援護を要請してルークは短剣を構える。

 彼は前衛の回復が追い付く前に会心狙いで大技を連続で放つつもりだった。彼女もそれに応えた。

 

「『禍神降ろし』!」

「よし、喰らいやがれ!」

 

 ルークは一気呵成に突撃する。

 繰り出すのは己の最大の技のサプライザル(影に潜む一撃)

 隠密状態ではないので即死は狙えないが、ならば会心の一撃に集中力を注ぎ込むだけの話。

 まず一人を一撃で崩して、そこから瓦解させる。

 

 狙うならば、チームの要である彼女だ。

 前衛の中で一番近くにいたデーリッチ目掛けて矢のように突き進む。

 

 流石に秘密結社の一員なので不殺ということで柄で殴るように逆手で振りかぶり――、

 

 

 

 

 

 

「ごぶはぁっ!?」

 

 

――ルークは空高く吹き飛ばされた。

 

 

 腹部への強烈な衝撃。

 的確に抉るような激痛。

 一瞬にして朦朧とする意識の中、彼の視線は自然とかの王へと向かう。

 

 ヘルラージュがぽかんと口を開く。デーリッチはニヤリと笑う。

 

 

――そこにあるのはこたつだった。

 

 

 こたつから顔をだした竜人、こたつドラゴンはデーリッチと視線を交わしドヤ顔で親指を立て合った。

 

(マジかよ)

 

 みぞおちにこたつの角を喰らって宙を舞ったルークは、解せぬと言った表情で地面に叩きつけられて気絶した。

 

「ルークくーん!?」

 

 相棒の戦闘不能とMPの枯渇により手も足も出なくなったヘルラージュは戦意喪失。

 

 これにて戦闘終了。ハグレ王国のMVPは地味にTPを貯め続けこたつカウンターを温存したこどらであった。

*1
多分お姉ちゃんもわからない

*2
キンジャールっていいます




みんな大好きこたつカウンター

ルーク君はヘルちんに対して甘々です。
彼が持ち出した拳銃はS&W M36チーフスペシャル。そして撃ったのは《死の弾丸》という「アジアンパンクRPG サタスペ」に登場するおたからです。
秘密結社戦ですが原作と比べて個々のHPは減っております。

彼の導入は次回で終了。
ハグレ王国と彼が本格的に関わる話です。

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