ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

20 / 86
略してサタスペ。

ファンタジーって軒並み倫理観がシビアなので現代だと立派な犯罪でもなあなあで許されるとこありますよね。

端折れるところは端折っていきたい。


その20.サタデーナイトスペースオペラ・エピソードⅠ

――次元の塔解放のお知らせ。

 

 様々な世界に繋がるかの塔にはあらゆる常識は通用しない。

 現にこれまでの階層は雪原に悪魔の屋敷。秘密結社アジトの浜辺に地底洞窟と、何一つとして統一感がない。

 

 そして今回の五層はなんと宇宙都市で、しかもそこは宇宙海賊が占拠中らしく、何が何だかもうてんやわんや。中を開けるまでどんな世界に繋がっているのかはヘルパーさんにも分からず、これでは希望か絶望の二択な分パンドラの箱がマシというものだ。

 

 まさかまさかのスペースアドベンチャーに肝の据わったハグレ王国の民も驚きを隠せず、特に反応を示したのが二人いた。

 

「宇宙都市!?」

「宇宙海賊!?」

 

 宇宙都市という単語にヤエが、宇宙海賊にはルークが自分の出番かと立ち上がる。

 前者は念願の主役かと期待を膨らませ、後者は海賊相手なら自分の得意分野だと主張する。

 

「ついに……、ついにスペースヤエちゃん編の幕開けね!」

「これは秘密結社の出番だな?」 

 

「は?」

「お?」

 

 お互いの見せ場を食い合う事態に、一触即発の雰囲気。

 

「宇宙なら正義のサイキッカーたるこの私が適任でしょう?」

「いやいや、犯罪組織の相手なら俺にも心得がだな……」

 

「はいそこ!喧嘩しない!!」

「「はーい」」

 

 

 そんなやり取りがあったのも先日の話。

 魔女の館の事件を解決した折に、偶然の出会いを果たした召喚士・アルカナとの会合までの五日間を有効活用しようと、ハグレ王国は意気揚々と攻略に乗り出した。

 

 同行メンバーは以下の通り。

 ヤエ!雪乃!ヅッチー!ジュリア!ヘルラージュ!ルーク!ミアラージュ!

 

 この人選は揉めかけた両者の希望を最大限に尊重した他、新入りのミアラージュとの親睦を深める意味合いもある。

 ブレーキ役としてジュリアもいるため、そうそうひどい事にはならないと思われたが……

 

「おうおう、お嬢ちゃんたち見たところ冒険者だな?ここは俺たちのシマだぜ。通行料ってのが必要だろう?500Gだ、払いな」

 

 足を踏み入れて早々、見るからに海賊という風体の男たちがデーリッチ達を見るなり難癖をつけてきた。

 

「どうするでち?」

「そんなの、断固拒否に決まってるでしょ」

「でも、結構強そうですよ?」

「確かに、これまでに出会った山賊たちとは別次元の強さに見える」

 

 雪乃の指摘する通り、宇宙海賊は武装も弓とカトラスと備えており、本人たちの練度も決して侮れないものであることが見てわかった。少なくとも、どこぞの山賊団よりは手ごわい相手だというのがローズマリーの見立てであった。

 

「でも~、別に敵わないわけじゃないでちよね?」

「まあまあ、ひとまずここは私が行きましょう」

「ならず者との交渉なら適役か……任せた」

「ちょっと、大丈夫なの?」

 

 面倒なので戦って追い払おうと考えるデーリッチを制止し、交渉役としてルークが前に出ようとする。

 特に重装備という訳でもない彼が単身で前に出ることに、ミアラージュが疑問の声を上げる。

 

「ええ。一応考えはありますよ」

「えー?こんなの私のサイキックパワーで蹴散らして……」

「それじゃあ、これよろしく」

「え、何この紙?……へえ、面白いじゃない」

 

 ヤエに何かを押し付けると、ルークは海賊たちに近寄り、フレンドリーな対応で話しかけた。

 

「やあやあ、見たところ話に聞く宇宙海賊さんのようで」

「あぁん?何だ兄ちゃん、あんたが払ってくれるのか?」

 

 一見して男一人、女七人と言う事もあってか、明らかに下に見るような態度で海賊チーフはルークに接する。

 そんな海賊の舐め切った対応にもルークは涼しい顔で、かつ穏やかに笑いかけた。

 

「ま、こちらも荒事は避けたいからね。それに女の子の陰に隠れるとか、男としてダメでしょ」

「へえ、中々聞き分け良いじゃねえの」

 

(ねえ、本当に払ってしまうの?情けないわね)

(まあまあお姉ちゃん。あのルーク君が素直に言う事を聞くとは思いませんわ)

 

 ミアラージュとしては、相手の要求通りに金を払ってしまうのは面白くも無いようだが、妹がそれをたしなめるので、大人しく見届けることにした。

 

 ルークは懐から布袋を取り出して見せると、海賊チーフも気を良くして手を差し出す。そのまま彼の手には、ずっしりとした重みが加算された。

 

「おっほ!?こりゃ中々入ってるな」

 

 袋越しでもわかる確かな硬貨の感触、中を開けてみれば、しっかりとゴールド貨幣が顔を覗かせる。

 すんなりとカツアゲが成功してしまったことに若干拍子抜けながらも、上質な装備をしているから羽振りもいいのだと海賊チーフは一人納得して金貨を分配する作業に入る。

 だから、一目散に背を向けたルークを気に留めるようなこともなかった。

 

「へへっ、話が分かる奴らは大歓迎だぜ」

「それじゃあ、私達はこれで」

 

 ルークはそそくさとデーリッチたちの方に走って戻ってきた。その様子は何かから必死に距離を置こうとしているようにも見えた。

 

「んじゃ、後よろしく」

「オッケー」 

「ん?こいつぁなんだ…?」

 

 海賊が金貨を取り出すと、何やら黒い粉が付着していることに違和感を覚えた。何だっけこれ、確かどっかで見たような……?

 そしてその答えは、すぐに身をもって知ることとなる。

 

「サンダー!」

 

 雷光が一筋、宇宙都市に走る。

 

 ルークの合図でヤエの手から放たれたそれは、誰も傷つけることなく、ただある一点に着弾した。

――海賊の手に収まったコイン袋だ。

 

 雷撃は布袋を焼き、そして袋の底にたんまりと詰められた黒色火薬に引火する。

 

 直後、すさまじい轟音と爆炎が海賊たちを襲った。

 

 

「ぐ、ぐえええ!?」

「ぎゃああああ!?」

 

 硬貨は即席の弾丸となって海賊たちを蹂躙する。

 無傷の者はおらず、爆心地にいた海賊チーフに至っては既に戦闘不能の有様だ。

 

「お、中々派手にいったな」

「ええ、悪党にはお似合いの爆発ね」

 

 盛大な爆発にお子様達は目を輝かせ、下手人二人は意地の悪い笑みを浮かべて海賊達が慌てふためく様を眺める。これには拠点のピンクの人も大笑いするだろう。

 先ほどルークがヤエに渡したメモの内容はこうだ。

 

『袋に火薬詰めたからいい感じのところで着火して』

 

 アバウトな内容だが、ヤエが実際に成功させるだけの技量を持っていると信じていると言えば美談っぽく聞こえるだろうか。

 

「よっしゃ。今のうちに制圧だー!」

「おーっ!」

「イエーイ!」

 

 爆弾魔さながらの所業を行ったルークは、満面の笑みで号令をかけ、デーリッチやヅッチーがうっきうきの表情で突撃する。

 

 やはりこの男、やることがえげつない。

 

「何をするのかと思ったら、まるで子供の悪戯ね」

「ミアさん、顔、顔」

 

 呆れたようにミアラージュは言うものの、こちらを侮った海賊がまんまと引っ掛かったのを見て、その顔には喜びの笑みが浮かんでいた。

 

 こうして、先制攻撃に成功したハグレ王国は宇宙海賊を拘束した。

 

 そうして何が始まるのかって?尋問である。

 

「おらっ、お前ら知ってること全部吐きな」

「い、言わねえぞ!ぜってえ言わねえぞ、ぎゃあぁああ!!」

 

 流石に口を割らない海賊に、ルークは使い終えた割りばしを折るよりも気軽に小指をへし折ってみせた。

 海賊チーフの喚き声が響く中、雪だるまに埋められた形で拘束されている下っ端たちもローズマリーから尋問を受けていた。

 

「まずは君たちの目的から聞こうじゃないか。何、話してもらえれば無事に解放しよう」

「だが、あまり喋るのが遅いと君達には宇宙の永旅(ながたび)に出てもらうことになるだろうな」

「よーし、新記録狙っちゃいますよぉ!」

 

 練習だと言わんばかりに雪だるまを遠くに蹴り飛ばす雪乃をジュリアが指し示すと、宇宙海賊たちも恐怖と寒さで身を震わせる。

 

「言います、言いますからあぁぁぁ!!」

 

 そうして尋問を続けると、宇宙海賊について以下の事が判明した。

 

 まず、彼らはこの宇宙都市を乗っ取って略奪の限りを尽くしていること。

 次に、彼らのアジトに入るには鍵が必要で、今の海賊たちはその鍵を持っていないこと。

 最後に、彼らは宇宙都市の列車を乗っ取り、戦艦列車として乗り回していること。

 

 何故か組織名だけは断固として言わなかったものの、これ以上の情報を絞り出すのに時間を割くわけにもいかず、一行は尋問を終了することにした。

 

「それじゃあ、解放してやる」

「お、覚えてろよ!」

 

 雪だるまから抜け出した下っ端たちは、コッテコテの捨てセリフを吐きながら去っていった。

 

 

 

 

 

 

 一行が階段を上ると、建物が立ち並ぶエリアに出た。

 上と下にも建物が並ぶエリアが繋がっていることから、どうやらここは都市の中央部にあたるらしい。運搬用なのだろうか、道の真ん中には線路が敷かれている。

 

 民家も立ち並んではいるものの、その扉は固く閉ざされていた。

 街には海賊や魔物が我が物顔で闊歩しており、何より目を引くのは線路の上を爆走している列車だった。

 

「うわあああああ!?」

「何じゃこりゃああああああ!?」

 

 こちらを見るや問答無用で砲撃を放ってきた列車に、デーリッチ達は敗走していた。

 

 反撃を試みてはみたものの、攻撃はすべからく装甲に弾かれ、耐えるのがちょっと無理そうな砲撃が飛んでくるのでは敵う訳も無く、命からがら線路から逃げ出したのである。

 

 追撃が飛んでくる様子はなく、どうやら海賊たちにとっては線路上にいた邪魔者を払った程度の認識なのだろう。ハグレ王国一行には必要以上に攻撃を仕掛けてくることはないようだった。

 

「あの野郎、嘗めやがって……」

「魔法も特技も効かない防御力と、あの攻撃力。真正面から突っ込んでも奴らの言う通りひき潰されるだけだな」

「でも、物理攻撃だけだから防御固めていけばなんとかなりそうじゃないでちか?」

「それは駄目ね。ああいうのは無理やり突破したら何か大事な手順をすっ飛ばしてしまうから、撃破できても無かったことになるだけよ」*1

「ヤエちゃん、その発言色々と危ないからね?」

 

 あんなのが走り回っているとおちおち探索もできないということで、とりあえず対策を話し合う一行だが、良さげなアイデアは出てこなかった。

 

「それじゃあ民家を訪ねて話を聞いてみましょう。街の人たちが何か知っているかもしれませんわ」

「確かに、ノックすれば話ぐらいは応じてくれるかもね」

 

 ヘルラージュの提案により、ハグレ王国一行は民家を訪ねて回ることにした。

 

 ルークの予想では、自分達も海賊と同じよそ者であるから住民には警戒されるのではないかと考えていたのだが、意外にも住人たちは話に応じてくれた。

 彼らも魔物を引き連れて街を闊歩する宇宙海賊にはほとほと頭を悩ませているのだろう。そこに宇宙海賊に立ち向かおうとする者達がいるのなら、冒険者でもなんでもいいから頼りたくなるというもの。

 

 そしてそれは住民達の中でも同じ考えを持つ者がいたらしく、レジスタンスが結成されたとある民家から情報が得られた。

 

 レジスタンスというぐらいなのだから、あの戦艦列車についても何かしらの情報を持っているのだろうということで、ひとまず接触してみようということになった。

 

 それで、そのレジスタンスのアジトというのが――

 

「井戸、井戸……ああ、これか」

 

 街角に備えられた井戸。

 そこを降りた先の地下に、レジスタンスのアジトはあるらしく、一行は都市の中で唯一存在する井戸の前に立っていた。

 

「情報によると、この井戸の下らしいな」

「水は張ってない。拠点を構えるのにも支障はないな」

 

 ルークが井戸を覗き込んで下を確認する。

 ここから井戸の底までは目算だが飛び降りられない高さではなく、着地時に水に足を取られるといった心配もない。なら安心して飛び込めると判断する。

 

「それじゃ、先行しますよ」

 

 ひょいと身を躍らせ、ルークの姿は瞬く間に井戸の底に消えていった。

 

「大丈夫でちー?」

「……ああ、問題ねえ。皆もこっちに来てくれ!」

 

 デーリッチの呼びかけに、少し間を置いて返事が来る。

 問題はないと判断して、待機していた者達も井戸に飛び込んだ。

 

「ほいっ」

「よいしょっと」

「よっと……ヤエちゃーん、大丈夫?」

 

 井戸の入り口から真下の地点には苔や草が茂っており、衝撃を随分と和らげてくれる。

 続々と着地に成功するが、難がありそうなのが数名。

 特にヤエは以前に拠点の床板をぶち抜いた実績(前科)があるので心配されている。

 

「問題ないわ……ごふぅ!?」

「ヤエちゃーん!?」

「盛大に尻から落ちたわね……」

 

 フラグを見事に回収するその在り様はまさしくサイキッカー(芸人)の鏡。

 そうして皆も無事に?井戸の底へと着地したのだが、問題のへたれが一人。

 

「ぴゃあ"あ"あ"あ"あ"あ"!!」

「ヘル!?今受け止めて……!?」

「おっと」

 

 情けない悲鳴を上げながら落っこちてきたヘルラージュ。このままでは受け身も取れずに激突しかねず、ミアラージュが慌てて駆け寄ろうとする。だが、いつの間にやらルークが落下地点に立って腕を構えていた。

 そして、受け身も取れないような状態で落下するヘルラージュを、ルークは抱えるように受け止めた。

 

「おぉ~~~!!」

 

 そんなルークの雄姿に、周りから歓声があがる。

 

「はわわわわわわ……ありがとうございます」

「ふぅ……、なんとなくこうなる気がしたから備えておいて正解だったぜ」

「ああもう、心配させないでよね?」

「しかし、井戸の中ってこうなっていたんだな……」

 

 ローズマリーの言う通り、井戸の中は大きな空洞となっていた。

 削りだした壁から吊り下げられたランタン。明らかに人の手が入っていることが見て取れる光景だ。

 

「こんな所に、本当にレジスタンスが集まっているのだろうか……」

「コングラッチュレイショーン!!」

「わぁ!?」

「ヒューッ!中々クールじゃねーかお前さん達!いいもん見させてもらったぜ、合格だ!!」

 

 物陰から現れた戦士と思わしき男性は、ご機嫌な様子で一行に話しかける。

 

「ようこそレジスタンスへ!井戸の中へ飛び込む勇気こそがレジスタンスの入団試験!歓迎するぜ、新入り!」

「いや、私達は別に入団希望ってわけじゃ――」

「分かってる分かってる。そう簡単に裏は見せられないよな?だが、ここにいる皆の気持ちは一つ!海賊を倒したいという気持ちだけで繋がってるんだ!信じてくれ!」

「え、ええと、だからね?」

 

 ローズマリーが事情を話そうとするが、男は一人勝手に納得して話を進めてしまう。

 

「リーダーはこっちだ。案内しよう」

 

 そして男は奥へと行ってしまった。

 

「話、聞いてくれないなぁ」

「まあまあ。どうせあの列車を何とかしないことには満足に探索もできないんだし、現地の連中に恩を売っておくのも悪くはないとは思いますよ」

「まあ、確かにそうなんだけども、ううむ……」

「ほんとに大丈夫なんでちかねえ」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ハグレ王国はレジスタンスのリーダーと顔合わせをすることになったのだが――

 何か、色々と衝撃的だった。

 

「ようこそレジスタンスへ!わらわはリーダーのドリントルじゃ。ドリンピア星の第一王女をやっておる」

「????????」

 

 スケスケのスカート。胸と下半身を申し訳程度に隠したような下着同然の衣装。マントで隠れているものの、目のやりどころに困るとかそういうレベルではなく、ヘルラージュのほうがまだ貞淑だと言える恰好をしたレジスタンスのリーダー――ドリントルと名乗ったその女性は、おまけにドリンピア星とかいう星の第一王女様なんだって。

 

「成程、反骨心溢れる顔つきをしておる。これは頼もしい新入りがやってきたのう」

 

 ハグレ王国の面々を見て満足げに頷くドリントルだが、当の本人達は彼女が姫と名乗ったことに困惑している。 

 

「おいおい、どんな人物がリーダーやってるのかと思ってたらお姫様がでてきたぞ……」

「ううむ、まさか王族とはな」

「驚きですぅ……」

「あのー、デーリッチも国王だけどプリンセスだからね?」

「あ、ごめんごめん忘れてた」

「ひどい!?」

「およ?何じゃその反応は……もしや、わらわのことを知らんのか?」

「ふむ……この者たち、町民データベースに該当する顔がありませんぞ」

「うええっ!?そいつ喋るの!?ていうか顔キモッ!!」

 

 ドリントルの側で浮遊していた青色のUFOが喋り出したことに驚愕する一行。妙に凛々しい顔つきの人面がくっついているのがミスマッチを引き起こしている。

 

「なんと、怪しい奴らめ!名を名乗れい!」 

「私達からすれば君達の方が百倍怪しいんだけど……ま、まあ説明させてください」

 

 

 ――かくかくしかじか。

 

 

「なるほどのう」

「わかってくれましたか?」

「うむ!お主らはとても頼りになる連中じゃということがわかった!そうじゃ、一緒に宇宙海賊を倒さぬか?」

「いや、その前にあなた達の素性を明らかにしてください」

 

 改めて共闘の依頼を持ち掛けてきたドリントルに、ローズマリーは詳細な説明を要求する。

 

 ドリントル姫曰く、彼女はお目付け役のユーフォニアと共に宇宙を放浪中の身であるという。

 そして宇宙を放浪している最中にこの宇宙都市に寄り付き、住民たちと交流を深めていたところを宇宙海賊が襲来をかけてきたと。

 住民達にはよくしてもらったため、恩返しができないかと悩んでいた矢先のアクシデント。

 ここで立ち上がらなければ姫の名が廃るということで、ドリントルを筆頭にレジスタンスが結成されたという。

 

 以上の経緯を説明し、改めてレジスタンスに力を貸してほしいと言うドリントル達に、具体案はあるのかとローズマリーが問う。

 

「うむ、相手は百戦錬磨の海賊。ちょっとやそっとの武装では、軍隊でもないわらわ達に勝ち目はない。だが、一つ奪えそうなものがある。戦艦列車じゃ」

 

 曰く、戦艦列車のメンテナンスを行う技師は町民から徴発された者達であり、戦艦列車の強固なバリア装甲もあの圧倒的な砲撃も彼らが制御を担っている。つまりは海賊たちにとっても欠かせない人材であり、その技師の懐柔にレジスタンスは成功したのだ。

 

「流石はわらわのカリスマと言ったところか」

 

 かんらかんらと笑うドリントル。その佇まい一つとっても高貴な生まれの者であるということがデーリッチ達にも伝わってくる。

 

 ただし、ここで問題となる点もいくつか存在する。

 

 まず、寝返った技師を放置すれば殺される。

 また、事を起こすにしても宇宙海賊に隙が無くては作戦決行も難しい。

 

 そういう訳で考え出されたのが、外と内、両面から攻める共同作戦である。

 列車の外から陽動を行い、その隙に内側に侵入したレジスタンスによって列車の制圧を行う。

 

 悪くない作戦だとローズマリーは感心するも、同時に陽動部隊の負担が大きすぎるという懸念があった。

 何せあの戦艦列車の猛攻に晒されるのだ。相当な実力者でなければとてもじゃないが役割の遂行は不可能だろう。

 問題点を口にしたところ、何やら周囲の目線が自分達に集まっていることにハグレ王国一行は気が付いた。

 

「……」

「……」

「え、なに、この視線?」

(あ、いやな予感)

 

「お願いじゃあ。お主たちが外から攻めておくれ!」

「え、えぇ!?」

 

 薄々予想していた通り、やはりお鉢が回ってきた。

 

「話を聞けば、ハグレ王国様こそ、百選練磨を越える精鋭揃いの軍団!」

「町を助けると思って、な?報酬は前金5000G!成功した暁には15000G出そう!頼む!」

 

 ここまで懇願されてしまうと断りづらいのが人情というもの。

 宇宙海賊を排除するという目的で来たという事もあって、一行はこの大役を引き受ける事を決めたのであった。 

 

 

 

 ◇

 

 

 

 再び戦艦列車に戦闘を挑み、信号弾を打ち上げる。

 ジュリア隊長、及びにヅッチーと交代したかなづち大明神が猛攻を防いでいると、その時は訪れた。

 

 あれだけ飛んできた砲撃が、ピタリと止まったのである。

 

「む、砲撃が止んだな」

「どうやら作戦は成功したようですね」

 

 放送から聞こえてくる音声から察するに、レジスタンスは無事に列車へと侵入し、技師達の確保に成功したのだろう。

 ご丁寧に慌てふためく様が艦外まで丸聞こえで、ここが好機とハグレ王国は一転して攻撃態勢に移る。

 剣戟、弓矢、魔法。

 ありとあらゆる種類の攻撃がバリアの剥がれたアダマン装甲に突き刺さり、傷つけ凹ませていく。

 

「く、くそっ!おい、手動に切り替えて手作業で弾を込めろ!それ以外の奴らは管制室を乗っ取り返せ!」「あいつら、直接動かすつもりだ」

「ふむふむ。それならこうしてみようかしら。

 ――ねえ、そこの貴方、ちょっとお話いいかしら?」

 

 弓で大砲部分を狙撃していたルークは、海賊達が弾込めを行っている様子を確認する。《覗き屋の双眼鏡》にかかれば、内部の様子も丸っとお見通しであった。

 

 このままでは砲撃が再開されて面倒なことになるなとルークが思っていると、ミアラージュがブツブツと何かを呟き始めた。

 一方で宇宙海賊は装填を終えて、今なお外壁に取りつこうと接近してくる者達を一掃するべく操縦桿を引く。

 しかし、弾丸が発射される様子は一向にない。

 

「あ、あれ?大砲が動かねえ?」

「あなた顔色が優れないわよ。何か悩みでもあるのではないかしら?

 

 

 

 ――ふむふむ。それなら弾丸を吐き出すのを一度やめて休憩するべきじゃないかしら。誰だって休みは必要だもの。奮発してもっといい油でも刺してみたら気分も変わるわよきっと」

 

 返ってくる答えなどないのに、誰かがそこにいるように話し続けるミアラージュ。

 

「――うんうん。いつでも相談に乗ってあげるわ。もっと話したい事とかあるでしょう?あなたの顔を見れば一発でわかったわ」

「……え、何やったの?」

「あれは物神*2ですわ。悪霊を取りつかせて、ポルターガイストを意図的に引き起こしているといったところでしょう。代わりにお姉ちゃんは無防備になるので、その場しのぎにしかならないとは思いますが……」

「な、成る程。しかし端から見るとやべー絵面だな……」

 

 主砲と会話しているミアラージュに代わってヘルラージュが解説する。

 確かに相手の装備品を一つ無力化できるという強力な技なのだが、第三者視点だと虚空とお話している痛い人にしか見えないのが欠点だ。

 

「こらそこ!聞こえてるわよ!……きゃあ!!」

「へへっ、変な事してくれやがって。これでも喰らいなっ!」

「くっ……。ちょっとルーク。責任もって何とかしてきなさいな」

「はいはい」 

 

 ルークはするりと射撃を潜り抜け、列車の外装に取りつく。

 彼は外装の僅かな出っ張りや装飾などに手をかけ、まるで猿のように登っていく。その速さは常人から見て異常なほどのスピードで、屋根へと登り終える。ルークは連結部へと走っていき、あっという間に一行からは姿が見えなくなってしまった。

 

 

 

 

 

 

「はいどーも」

「な、どこから入って……!?」

 

 するり、と列車内部への侵入を見事に果たしたルーク。

 砲台にいた海賊は虚を突かれ、簡単に無力化させられる。

 

「一丁あがりっと」

「へっ、一人で入り込んでくるとはいい度胸だな……っ!?」

「制圧じゃー!おや?おぬしは」

 

 もう一人の海賊が襲い掛かろうとしたところ、入ってきたドリントルのひつじショットで眠らされる。

 そのままルークはレジスタンスと合流し、未だ抵抗を続ける宇宙海賊を列車から叩き落していく。

 形勢は完全にレジスタンスへと傾いており、宇宙海賊は列車の端の端まで追い詰められていた。

 

「列車はわらわ達が占領した。もうじき外からハグレ王国の者達がやってくる。大人しく降伏するのが身のためじゃぞ?」

 

 最早逆転は不可能であり、ドリントルは海賊達に降伏するように呼び掛ける。

 

「乗っ取られる……?この列車が?へへっ……ありえねえ……」

 

 ここの海賊達をまとめていたであろう男は、手に持っていた小型機械のスイッチを押した。

 

「う、うわああああああ!?」

「ありえねえ!ありえねえ!全部ぶっとばしてやらああああああ!!」

 

 敗北を受け入れることができなかった海賊隊長の取った行動は、列車諸共に自爆することだった。

 そんな苦し紛れの行動は、部下の海賊達にとってはたまったものではない。

 彼らは次々と列車から飛び降りていき、ハグレ王国に降伏することを選んだ。

  

「てめえ!」

「ぐふっ」

 

 何をしたかを理解したルークは錯乱する海賊隊長の顎を蹴り上げて昏倒させる。

 

「こやつ、自爆装置なんぞ隠し持っておったか!こうなればルーク、お主が解除するのじゃ!」

「面倒な真似しやがって。だがこういう見せ場も悪くは……」

 

 恐らくはこのまま自分が解除することになるのだろう。

 意図せずして大役を担ったことに焦りと期待が沸き上がる中、ルークは奪い取ったリモコンを見る。

 

 [青] start

 [赤] cancel

 

「……」

「……」

 

 ぽち。

 

 赤のボタンを押せば、リモコンの画面には「操作を取り消しました」と表示されている。どうやら自爆の阻止は成功したようだった。

 装甲の一部が破壊され、そこからお馴染みの顔ぶれが次々と入ってくる。

 自爆装置をなんとかするべくデーリッチ達も乗り込んできたようだった。

 

「あ、ここにいたでち!」

「自爆装置はどこ!?このサイキッカーヤエがバッチリ解決してあげるわ!!」

「おお、おぬしら!うむ、それについても問題はない。つい先ほど、解決したばかりじゃよ。かんらかんら♪」

「あっ、その手にあるのはもしや!?どうやら先を越されてしまったようね……」

「……なんか、釈然としない」

 

 全員無事で完全勝利なのだが、最後の最後ではしごを外されたような感覚に襲われるルークなのだった。

 

 

 ――剥ぎ取り結果

 《☆RPG-7(消耗品)》

 《メンタルモンスター》×3

 《ヒール白菜》×3

 《リバイヴポーション(蘇生)》×3

*1
実際に撃破できますが、なかったことにしてやり直しになります

*2
元ネタはサタスペのスキル。対象の装備アイテムを一つ選び、次に自分が行動をするまで使用不可能にする強力なスキル。なお対応カルマはキジルシである




おおむね原作通りなんだけど細部が違う回でした。
前半の海賊相手に悪戯を仕掛ける所など、徹底的に相手を貶めるのはルーク君の得意分野ですね。
ルーク君の大暴れはまだまだ続きます。ここを過ぎればしばらく主役がアルカナ先生に代わるので多少はね?
水着イベントになれば独壇場といっても過言ではないのですが果たしていつになるやら。

次回更新は年が明けてからになるでしょう。
それでは皆さん、来年もどうか本作を応援よろしくお願いいたします。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。