ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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今までで一番原作崩壊が激しい部分だと思います。


その22.集う者たち

 特務召喚士アルカナとの会合の日。

 ハグレ王国一行は、地図に示された場所の座標に転移した。

 

 事前に下調べを行ったところ、ケモフサ村とはハグレの村であるとわかった。

 いや、実際にハグレ獣人指定区と書かれていたので、地図にもそう記されていただけなのだが。

 

 通常、ハグレの集落は帝都発行の地図に記されない。

 

 ハグレの集まりに賊が襲うのを防ぐためだとか、あるいは単純にハグレを国民として認めずにいるだけか。

 

 様々な事情や陰謀が絡んでのことではあるものの、例外として、特定の区域については記載される。

 

 その例外こそ、ハグレ指定区の事だ。

 

 貴族が直に治める領地として認められたハグレ集落は、ハグレの村としてではなく『貴族の領土』として扱われるのだ。

 とは言っても、この大陸にハグレを領土に入れたがる貴族など殆どなく、この制度も形だけのものという意味合いが強い。帝都での生活が長いエステルも、ハグレの事情に詳しいローズマリーでさえ、十年前の法律書を開かなければ知ることはなかっただろう。それぐらいにはマイナーな制度だ。

 

 

 そんな事情もあり、この世界の住人がハグレの村と聞いて思い浮かぶのは閉鎖的なコミュニティだ。

 

 ハグレ同士の団結や発起を防ぐために、他の集落との交流は厳密に監視され、ひどいところでは往来での談笑すら禁じられているなど、帝都からの抑圧によって自由な暮らしなど夢のまた夢の、奴隷よりはマシ程度の境遇だ。

 

 そんな環境故に、ここも重苦しい雰囲気が漂っているものと思われたのだが――――

 

「わーお、これは中々の景観」

 

 転移の光が収まり、視界に飛び込んできた風景。

 

 それは、彼女らの予想をはるかに上回るものだった。

 

――――森は大きく開かれ、大規模に広がる芋畑。

 

――――とてとてとて、と街道を赤いスカーフがお揃いの小鬼族が行き来している。

 

――――獣人を始めとしたハグレ達は農作業に勤しみ、時折どこからか笑い声も上がっている。

 

 そんな村の中心には大きな酒蔵がででんと鎮座しており、今も煙を噴き上げており、芋と麹の匂いが村の入り口にまで届いている。

 

 静かだが、決して寂れてはいない。

 活気に満ちた集落の風景が目の前には広がっていた。

 

「これがハグレの村だって?その辺の町よりもよっぽど栄えているじゃないか……」

 

 規模で言えば、ハグレ王国が友好を結んできた村よりも大きく、ザンブラコよりは小さいと言ったところか。

 一行が村の光景に目を配らせていると、話しかけてくる者がいた。

 

「妙な光と共に何者かが現れたと聞いて、様子を見に来てみれば……もしや、ハグレ王国の方々でしょうか?」

 

 青白い雷光のごとき体毛をした、厳めしい顔の獣人と、温和な顔立ちに眼鏡をかけたいかにも知的な雰囲気の獣人。どちらも狼系の獣人ではあるものの、纏う雰囲気は正反対のものだ。

 

「あ、はい。貴方は……?」

「ああ、申し遅れました。私はマーロウ。このケモフサ村の村長をやっております。本日はアルカナ殿のお客人が来ると言う事で、皆さんを出迎えに参りました」

「これはご丁寧に……!」

 

 青い獣人こと、マーロウが自己紹介する。

 まさかの村長直々のお出迎え。

 

「それで、そちらの方は?」

「ああ、こちらは――――」

「……アプリコさん?」

 

 マーロウが隣の獣人を紹介する前に、彼の名前をルークが言った。

 

「誰かと思えば。久しぶりだねルーク。チームが解散した時以来だったかな?」

「おや、知り合いだったのか?」

「以前にも話したかな。昔の冒険者チームに加わっていた子供ですよ。私の智慧もいつの間にか盗んでいくぐらいには、頭の回る子でしたなあ」

「アンタらから一つも学ばないんじゃあ、すぐに野垂れ死にするぐらいには弱っちいっすから」

「悪知恵と悪運に恵まれたガキがよく言う」

 

 二人のやり取りから、獣人の素性にハグレ王国の面々も思い当たった。

 

――《夜明けのトロピカル.com》

 様々な種族、人種の言語センスをちゃんぽんして生まれた珍妙な名前の亜侠*1集団。

 過半数がハグレで組まれた彼らの大暴れは、痛快な活躍で紙面を賑わせ、この世界に鬱屈した思いを抱えるハグレ達を笑わせたという。

 ルークがかつて所属していたそのチームの一員が、このアプリコという獣人だった。

 

「改めて自己紹介を。私はアプリコ。二年ほど前からこの村に身を置かせてもらっている者です。マーロウ殿とは昔の馴染みで、今も彼の補佐のような役目をしております。それ以外の経歴と言えば……彼から聞いているのではないでしょうか?」

「後はそうだな、旦那のチームで参謀やってたんだ。とても頭が切れてさ、大胆な襲撃計画とか、全部この人が立案したんだ」

「懐かしいものですね。今でもエルヴィスさんのむさくるしい顔は鮮明に思い出せます」 

「褒めてんの、それ?」

 

 過去の仲間との思わぬ再開に、ルークは顔を綻ばせる。

 対するアプリコも、顔が長い毛で遮られているためわかりづらいが、喜んでいることが分かるぐらいには口数が多い。

 年齢は一回りどころか二回りも離れているのに、お互い気安く軽口をたたき合う。

 一行も仲間の中に顔見知りがいたことに少々驚きはするも、彼の経歴を考えれば特別おかしなことでもなく、すぐに受け入れた。

 

「それで、先生は……?」

「ここにいるとも」 

 

 エステルが今回の依頼主であるアルカナについて訪ねると、間髪入れずに村のほうから本人が歩いてやってきた。

 

「やあハグレ王国の皆さん。遠路はるばるようこそ。一度私の屋敷に案内したいと思う。村の観光とかはそのあとでよろしいかな?」

「はい。とは言っても、そこまで時間をかけたわけでもないのですが……」

 

 ワープにかけた時間、おおよそ1分弱。

 

「ああ、確かにその通りだな。ならば、屋敷への案内がてら村も見て歩こうじゃないか。多少遠回りになるけど、いいかな?」

「ええ、問題ないですよ」

 

 それならと観光案内を買って出たアルカナに、ローズマリーもハグレ中心の村に興味があるため、これを承諾した。

 

 

 

 

 

 

 村の風景に目をやりながら、一行はアルカナ主導の元歩いていた。

 

「しかし、改めて見ても立派な畑と酒蔵だ……」

「やっぱりそこに目が行くか。まあ、この村で見るものっていったらあれぐらいしかないけどね」

「あの畑、何を育ててるんでち?」

「芋だよ。パッポコ芋っていう芋が植えてある。そしてあの酒蔵で酒として醸造することで、ここの経済は成り立ってる」 

「ふむふむ」

「そうやって興味深く持ってくれると、この村の開発に携わった者としては冥利に尽きるね」

 

 アルカナの説明を聞きながら一生懸命にメモを取るベル。彼は一端の商人として、王国の先輩とも呼べるこのハグレ村から、一つでも有意義な情報を手に入れようと頑張っているのだ。

 そんなベルの商魂たくましさにアルカナは感心する。

 

「この村では芋が主な農作物でね、それを用いた酒造も当然のように発展した。それでできた酒を交易した利益を税として私に納めることで、ある程度の自由な暮らしを認められているわけだ。見たことはないかい?パッポコ芋の焼酎が村や町の片隅に売られているのを」

 

 ここの特産物として酒通や農民の間では有名なのさ、とアルカナは語る。

 村の経済の流れを説明され、ローズマリーも村の発展具合に納得がいった。

 

「ああ、なるほど。確かにハグレの集落とは思えないほどの発展ぶりだと思いましたが。貴方という後ろ盾があったからこそですか」

「そういうこと。私も末端の貴族位を得た以上は、領地を治めて利益を出さなければいけないからね。あまり肥沃じゃない土地でも育つ作物として、芋が選ばれたわけさ。流石にちょっと増えすぎて引いてるけど」

 

 とは言え、ハグレ指定区に対しては米も麦も税を上乗せされ、おまけにやせた土地の多かった当時のケモフサ村では主食とするには不安があった。

 

 そこで目を付けたのが芋だった。

 

 特にパッポコ芋は過剰なまでの繁殖力ゆえに、帝都では毛嫌いされていたため、在庫処分もかくやといわんばかりの安価で仕入れることができた。

 

 そうして栽培を始めると、増えるわ増えるわ。

 

 あっという間に村の食料を賄えるまでに育った芋は、勢いに任せて畑の規模を拡張し続けた。

 

 そうなると穀物が余る。

 すると主食以外の用途に回る。

 

 という訳で、酒蔵まで作られた。

 

 パッポコ芋の甘い風味で作られた芋焼酎は、独特な風味はあれど甘みが近隣の村人たちに好まれ、いつの間にやら評判が広まった。

 

 今では行商人との定期的な交易まで行うぐらいには、産業として定着した。お酒は正義。アルコールを讃えよ。

 

「この世界の人間だろうと、ハグレだろうと価値の共有できるものの一つが酒だ。故に、ここの経済を支えるものとして酒が選ばれたのも必然と言えるだろう」

「とかなんとか言っておりますが、最初はアルカナ殿が帝都での酒の高騰を煩わしがって、ここで隠れて酒を造っていたのが発端なのですよ」

「密造酒じゃん!」

「あ、てめ。それを言うなら君だってクーちゃんに隠れて酒を飲みたがっていたじゃないか」

「はて、なんのことやら」

 

 とんでもない裏事情をマーロウに暴露される。アルカナもマーロウの隠し事を突っついてはみるものの、既に娘から禁酒令が下る一歩手前の彼に隙は無い。既に陥落済みの要塞には逆に攻める所などないのだ。

 

「こやつ……。まあ、それだけを生業にすると色々偏っちゃうから、彼みたいな戦士の男たちには魔物退治とか護衛とか、そういう仕事も請け負ってもらってるんだけど」

「はは、この老いぼれでも役に立つのなら、いくらでも働いてみせましょう」

「頼りにしてるわよ」

 

 長年の相棒。

 

 そう形容するのがふさわしい二人のやり取りを見て、ローズマリーはハグレと良好な関係を結べている召喚士の彼女こそ、自分たちの理想に手をかけているのだと考えていた。

 

 

 

 

 

 

 あれから歩いて数分程度。

 

「さて、着いた。あんまり立派とは言い難いけれど、ここが村の役場を兼ねた、私の屋敷だよ」

「うわーすっごい」

「先生こんなとこに住んでたのね……」

 

 ハグレ王国一行の前には、貴族の館――――というよりは村役場と家が合体したような建物がででんと立っていた。

 そこまで大きくはないが、建物のところどころに誂えた装飾によって威圧感が何倍にも引き上げられている。

 

「なんか匂わねえか?」

「そうだな、香ばしいというより、辛いか?」

 

 ニワカマッスルが鼻をひくひくさせて、ジュリアもそれに同意した。

 かすかにツンとする匂いが漂っている。刺激的な匂いは、確かに香辛料のそれだ。

 

「――――では、私達はこの辺りで切り上げさせていただきたく。屋敷の中に入るのは、お客人であるあなた方のみで大丈夫でしょう」

「そうだね。ここまで付き添いご苦労さま。後で君の家へと伺おう」

「それでは皆さん、また後ほど」

 

 マーロウとアプリコとはここで別れることとなった。

 狼系の獣人の彼らにとって、ここまでの刺激臭はつらいものがあるのだろう。そそくさと村のほうに戻っていった。

 

「さあようこそ私の家へ。一応先客がいるけど、そこまで遠慮はしなくていいよ」

「いや流石にそれはちょっと……」

「先客って、具体的に誰よ」

 

 エステルとしては予想は立っているものの、一応聞いておくことにした。

 

「シノブ」

「ぶっ」

 

 ストレートに名前を出されたものだから、思わず噴き出す。

 

「隠し立てとか一切なしか」

「入ればわかるんだし、隠す必要ないだろ?」

 

 それはそうなのだが、もう少しプライバシーというものを考えてほしいとローズマリーは思った。

 まあ、この場にいるほぼ全員関係者みたいなものだから別にいいのかもしれないが。

 

「……まあいいわ、シノブはどこ?」

「今なら食堂にいるな」

「ちょっ、エステル!?」

 

 アルカナから居場所を聞いてエステルが一人、先行する。

 

 玄関を抜け、案内板の通りに食堂まで走り抜ける。多少行儀が悪いものの、親友の名前を聞いた以上は、いてもたってもいられないのだ。

 

「シノブ――――」

 

 食堂までたどり着き、彼女の名前を呼びながら力強く扉を開い

 

 

 ――――て。

 

 

 

 

 

 

「ん、はむ。んぐ。むぐ。

 

 あら、来たのねエステル。小腹が空いてたから、軽く食事をいただいてるわ」

 

 

 なんか、親友がマーボー食ってる。

 

 

「――――」

 

 言葉がない。

 なんで今飯食ってるの?

 なんであんな煮立った地獄の窯みたいな麻婆豆腐食べてるの?

 それもすごい勢いで。

 

 額に汗を滲ませながら、水など不要。一度手を止めたら二度と匙なんて動かないわ、という修羅めいた気迫。

 

 もしかして美味いの?

 あんなラー油と唐辛子を百年煮込んで、とどめにデスソースもぶち込んだようなあの煉獄の炎以上にまっかっかな料理が。

 半分減ってるのにちょっと離れたこっちにまで刺激臭を届かせてくるようなあれが美味しいって言うの?

 

 エステルの中で思い出がめぐる。

 

 確かに昔からシノブは辛いものが好きだった。

 でもあんな見るからに俺外道マーボー今後トモヨロシクみたいな芥子(スパイス)の悪魔合体みたいな代物を食っていた覚えはない。

 

 あれ?でも協会の食堂で食べてたカレーに「物足りないわ」って言って手持ちの一味をドバっと盛ってたようなそれを見てメニャーニャがドン引きしていたような。

 

「ちょっとエステル。一人で先に行かないで――――え?」

 

 ほら、後からきた皆も固まってる。

 

 明らかに異常なこの光景にどんな反応示したらいいか困ってるじゃない。

 

 そんな事を意にも介さず、既に残るは二口分。

 

 マジで?完食するの?と一行が喉を鳴らした時。

 

 不意に、シノブの手が止まった。

 

「――――」

 

 視線があった。

 アメジストのような瞳がエステルを見つめて、

 

 

「――――食べる?」

「食うか――――!!」

 

 

 エステルは全力で返答した。

 シノブはわかりやすく眉を八の字に下げて、もきゅりと麻婆を平らげた。

 

 ――え、もしかしてシノブ、私の返答にがっかりしたの?

 

「ふう。ごめんなさい。少し行儀の悪いところを見せてしまったわね。ハグレ王国の皆さんも、お久しぶりですね。初めましての方も、いるかしら?」

 

 口元を拭い、シノブが一行に挨拶する。

 

「え、ええ。お久しぶりですね。シノブさん」

「あーうん。なんか色々言おうかと思ったけど。もういいや」

「えー?何よその反応」

 

 トゲチーク山での一件での棘のある対応はどこへやら。目の前の彼女がギャグキャラ特有のオーラを発していることにローズマリーも戸惑っている。

 あんなシリアス全開の別れ方をしたというのに、再開の絵面がこれではどうにも気が引き締まらない。

 

「まあ、元気なようで安心したわ」

「ええ、エステルも相変わらず元気そうね」

 

 シノブの屈託のない微笑みは、協会にいたころとまるで変わっていなかった。

 

「それで、どうしてここにいるの?」

「勿論、先生の手伝いです。正確には共同研究者なのですが、今回の一件も、それを説明するために皆さんを集めたのです」

「というと、やはり……」

「ところで、ハグレ王国の方々はそれで全員ですか?」

「え、まあ……」

 

 いつものように8人でやってきていた。

 現在はデーリッチ、ローズマリー、ニワカマッスル、ティーティー様、エステル、ジュリア、ルーク、ベルの8人である。

 どこも不備があるはずはないが、王国民は個性派揃い。特定分野で必要な人員でもいたのだろうか。

 

「誰かいてほしい人でもいたの?」

「いえ、そういう訳では。ただ、先生は()()()()()()()()()を招待したと言っていましたので、もっと大勢でやってくるものだとばかり」

「え?」

 

 シノブの言葉を聞き、アルカナのほうを見やる。

 

「そうだね。ハグレ王国の者全員をもてなす準備がこちらにはある。」

 

 そう言えば、彼女は確かに「王国と共に来い」と言っていた。

 それはエステルにむけての事だと思っていたが、まさかホントに王国民全てと共に来いという意味だったらしい。

 

「でも、結構な大所帯ですよ。それを一挙に転移させるとなると――――」

 

 キーオブパンドラによる人員輸送は強力だ。

 しかし使用にはデーリッチの魔力を消費するため、そう短時間に多用はできず、また人数や質量、移動距離によって消費魔力は比例し、回数によって乗算される。

 だから、探索中の人員入れ替えも回復可能な安全地帯でなければ行えないし。戦闘パーティも8人を越えての編成はそうそうない。

 そのあたりのデメリットをアルカナに説明すると、

 

「問題ないよ。そういうのはあらかじめ考慮済みさ。シノブ、例の物は?」

 

 はい、とシノブは頷き――――

 

 

 

 

「待たせたおね。麻婆豆腐のお替りだお」

 

 

 

 

 ゴトンゴトン。

 二つ目三つ目と新たな麻婆豆腐が、テーブルに置かれた。

 

「ありがとうございます。ブーンさん。

 ――――では」

 

 新たにレンゲを手に取るシノブ。

 

 ……どうやらお替りまで頼んでいたらしい。

 怒涛の辛味はアルカナも予想していなかったらしく、彼女を含めた、シノブ以外の全員が頬を引き攣らせる。

 

 というか、そこの白饅頭みたいな料理人に見覚えがあるんだけど。

 こちらに軽く会釈しただけで引っ込んでいきおったぞあやつ。

 しかしめっちゃ料理人の服装似合うな。

 

「――――」

 

 また、目が合った。

 

 シノブは再びエステルを見据えて、

 

「――――食べる?」

「――――食べない」

 

 問いかけ、エステルは全力で返答した。

 

「――んんっ。ところでシノブ。例の物は?」

「ああはい。それなら()()()が最後の点検をしていたところです」

「そうか。飯の邪魔して悪かったな。では皆さん、こちらへ来てもらいたい」

 

 そう言って先導するアルカナの姿は、一刻も早く立ち去ろうという思いが伝わってきた。見ているだけでも辛くなってくるのだろう。

 

「それじゃあ、シノブ、また後で」

「ええ、また後でね。エステル」

 

 満足そうに激辛麻婆豆腐を頬張る親友を見て、エステルは安心していた。

 

 

 

 

 

 

「ここが君達ハグレ王国のために用意した部屋の一つだ。

 さて――――入るぞ、メニャーニャ」

「えっ、メニャーニャ!?」

 

 アルカナ先導の元入ったのは、それなりの広さを持った客室。

 主張しすぎない程度に装飾が施されたその部屋のど真ん中で、何やら魔法陣を前にぶつぶつとつぶやいている者が一人。

 

「ここの循環係数を上げれば魔力効率が上がって……いやいや、そうすると今度はこっちの負担が大きくなるし……。でも対象があのS級装置であることを考えたら別にそこまで上げなくてもいいのか?いやでも、どこまで負荷に耐えられるかはテストしたほうが……ん?」

 

 アルカナに呼ばれて、茶髪をツーサイドアップにした少女――――メニャーニャは振り向き、ようやくこちらに気が付いたようだった。

 

「ああ、アルカナさん。ちょっと没頭していたようでしたね。すみません」

「いや、構わんよ。装置の具合はどうだい?」

「稼働に支障はないですね。効率とか負荷とか色々調整したい部分はありますが、それは後に回しましょう」

 

 メニャーニャは少し身だしなみを整え、ハグレ王国の方を向き、

 

「そちらはハグレ王国の皆さんですね。私、帝都召喚士協会で一級召喚士を務めているメニャーニャと申します」

 

 と、礼儀正しく挨拶をした。

 

「これはどうも、国王補佐のローズマリーです」

「国王のデーリッチでち!」

「なるほど、噂通りの王様だ。今回は先生とシノブさんの助手という形で参加しています。よろしくお願いしますね」

 

「よっす!メニャーニャ、久しぶり!」

 

 エステルがメニャーニャに対して再会の喜びを露わにする。

 

 しかしメニャーニャはそんな彼女に目もくれず、他のメンバーに対して顔合わせをしていた。

 

「そちらは傭兵のジュリアさん、そちらは南の世界樹の神様ですね。どうも」

「ああ、これはご丁寧にどうも」

「うむ、よろしく頼むぞ」

「あのー。メニャーニャ?」

 

 エステルが何か言っているが無視して、次は男組のほうに向いて挨拶する。

 

「貴方たちについてはよく知りませんが……。ニワカマッスルさん、ルークさん、ベルさん。でよろしいですね?」

「お、おう。よろしく頼む、頼みます」

「何恐縮してんだ……。どうもメニャーニャさん。俺はルーク、おたから使い(ガジェットマスター)って言った方が、冒険者の間では通じてるかもしれないな。王国じゃあ行商人まがいのことやってる」

「あ、どうも。道具屋のベルです。よろしくお願いします!」

「ええ、皆さん。こちらこそよろしくお願いしますね」

「ああ、それでだな。いい加減そこのピンクが五月蠅いのでどうにかしてもらえないか?」

「ちょっとー!?メニャーニャさーん!?」

 

 残った一人。

 エステルがメニャーニャの気を引こうとぶんぶん手を振ったり、大声をあげたりしてこれ以上なくうっとうしい。

 

「え……?ああ!そうでしたそうでした!!ハグレ王国はゴリラを連れていると聞いていましたから、そちらにも挨拶は必要でしたね」

 

 と、メニャーニャはようやくエステルと目を合わせて。

 

「――――どうも。ピンクゴリラのエステルさん。メニャーニャです。都会から森に移り住んだ気分はどうですか?」

「私に恨みでもあんのかおんどりゃあ!?」

 

 エステル、今年一番のツッコミが炸裂した。

 

 

 

 

 

 

「まあ冗談はこれぐらいにして。お久しぶりですねエステル先輩。野垂れ死にしていないようでなにより」

 

 挨拶をし直したメニャーニャだが、その発言には依然として皮肉が混ざっている。

 

「……あんた前よりトゲあるわね。もしかして連絡しなかったこと怒ってる?」

「ええ。ええ。別に怒ってたりしませんよ。先輩が元気なのは知っていましたから。妖精達と戦争始めたと聞いた時は何やってんだと思いましたが、生き残ったのは流石と言っておきましょうか」

「それはどうも……てか、なんで妖精王国の件知ってんの?」

 

 妖精王国との戦争については、小競り合い規模で済んだことから近隣の村以外ではそこまで噂になっていないはずだ。

 

「先生が話してましたから」

「ああ、成る程……どうせマジックアイテムでのぞき見とかしてたんでしょうね」

「げ、ばれてる」

「シノブと連絡取り合ってる時点でそういうアイテム持ってるのは予想済みよ」

 

 既にタネのほとんどが割れているアルカナであった。

 そうして顔合わせも終えたところで、話題は部屋の真ん中で存在を主張している機械に移る。

 

「ところで、その装置についてなんだけど」

「メニャーニャ、説明よろしく」

「ええ、何で私が……まあいいでしょう。不肖このメニャーニャが、ハグレ王国の皆さんに説明したします。エステル先輩も、ちゃんと聞くように」

 

 と、前置きしてメニャーニャは説明を始める。

 

「結論から言いますと、これは通信装置です」

「通信装置?」

「地下遺跡にあった計測器や制御装置、そうしたものの仕組みを流用して作りました。知ってますね?」

「え、ええ」

「それは結構。これが行う効果は単純で、周囲の空間について演算を行い、そのデータを特定の装置に向けて送信し続けます。――――今回の場合は、キーオブパンドラです」

「え、これ?」

 

 デーリッチの持つキーオブパンドラ。

 見てくれこそ巨大な鍵型の杖であるものの、その実態は古代人の作成した空間操作用のハイデバイスであり、分類としては機械にあたる。

 つまり、理論上は他の装置との接続が可能なのだ。

 

「マナエネルギーで動作する以上、魔力信号で通信することは可能……。特に、高次デバイスであるそちらからなら接続も用意でしょうね」

「今の技術で作成された装置でも、古代装置と接続できることはヘンテ鉱山の一件で判明済みだからね。ならば、情報をやり取りすることも不可能ではない」

「つまり、何が言いたいかというと。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「!?」

 

 告げられた結果に、一同は驚愕する。

 

「名付けて、時空アンカー!召喚術の進歩になりうる、革命の第一歩さ」

「な、なるほど……」

「ああ、それでみんなを連れてくればいいんでちね!?」

 

 言いたいことは単純。負担を軽減するための設備を用意したので、遠慮なく全員をここに呼び寄せて構わないということだ。

 

正解(エサクタ)!あの時ゲート移動を体験してから、自分なりに色々と考えてみたわけさ。あらかじめ研究が進んでいた分野だったのも幸いしたが、こうして完成にこぎつけ、君達にお披露目できるのは嬉しいものだね」 

「じゃあ問題なくみんなをここに呼べるでち。じゃあ早速拠点と繋げるでちよ」

「デーリッチ、ちょっと待った」

「およ?」

「一つ、よろしいですか?」

「何だね?」

 

 そうしてキーオブパンドラに時空アンカーの情報を読み込ませようとするデーリッチだったが、ローズマリーがそれを一旦止めさせた。

 

「これが相当高度な装置であることは私でもわかります。そんな代物を私達のためだけにこの装置を用意した?それこそありえない。そんなことをしても、あなた達には何のメリットもない。アルカナさん。この装置の用途は、もっと別にあるのではないですか?」

「いい質問だな、その答えはイエスだ。飽くまでこれは試験運用さ。まずはこの世界の中での転移で試しておく必要があり、本命はもっと別にあるとも」

 

 探りを入れてきたローズマリーに、アルカナは嬉しそうに答えた。

 

「やっぱり……!」

「とはいえ、だ。散々言ったように、説明はもう少し後だ。ささやかながら祝宴を用意している、まずは君達をもてなさせてほしい。我々の目的について王国の皆の前で話す。それでいいかい?」

「……はあ、わかりました」 

*1
チンピラ系冒険者のこと。使い捨て




〇ケモフサ村
アルカナがリアルシムシティやった結果魔改造された。
まあ直轄で管理するならこれぐらいはやるでしょ。
酒蔵を作ったのは隠れて酒を飲みたがったアルカナの指示によるもの。

〇アプリコ
夜明けのトロピカル.comの参謀。オールドイングリッシュ系。
「青空オレンジ」の名で知られ、主に作戦立案を担当した。
かつてのハグレ戦争でもその策謀を駆使したという。

〇シノブ
辛いもの大好き。
麻婆パロはいつかやりたかった。

〇ブーン
ブーン系の( ^ω^)のいいとこ全部のせみたいなやつ。
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