ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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ここからほぼオリジナル展開になります。
とは言っても大筋が原作と乖離するかと言われるとそうでもなかったり。


その26.すべてがうまく進むとは限らない

 あれから数日経ち。

 

 アルカナは『帰還計画』についての協力を得るために妖精王国へと赴いた。

 

 プリシラとしても、帝都との関係を結びつける窓口としてアルカナを介することは悪くないと考えたのだろう。特に逡巡する素振りも無くこれを快諾した。

 他にも、シノブへの個人的な恩もあるのだろうと考えられたが、当のプリシラは何も語らなかった。むしろマナジャムを渡してから以来に出会ったプリシラの急激な成長には、さしものシノブも目を丸くしていたのがエステルの記憶には新しい。

 

 そして、エルフ王国との協力関係の締結についてだが。

 これまた翌日に、アルカナは弟子達やプリシラを引き連れて、エルフ王国のリリィ女王と面会した。

 

 エルフは長命種の代表格として知られ、排他的な種族としても有名でもある。

 それ故に、同種のハグレを受け入れていることが原因で、帝都との仲は良好とは言い難い。むしろハグレエルフの技術特許が奪われている関係で険悪といってもいい。

 

 友好的種族である妖精を仲立ちにしても尚、交渉は難航するかと思われたのだが……

 

「エルフ王国と話をつけてきたよ」

「いや、早いな!?」

 

 なんととんとん拍子で話が進み、事業への協力を取り付けてしまった。

 

 ――――始めは、召喚士協会が他種族からまた色々と搾り取ろうとするつもりかと警戒するリリィだったが、帰還事業についての計画書を提出すると、その猜疑的な態度は一変した。

 

 エルフの頭目として恥じぬ聡明さによって、送還技術についての理論が決してでたらめでは無く、帰還計画が嘘っぱちの類でないことを理解したのである。

 

「あんた達がでたらめ言ってるわけじゃないのは理解した。私達としても、こちらが保護したエルフを元の世界に戻してやれるのなら拒む理由も特にない。でもね、散々こっちから特許だの資源だの奪った挙句、元のおうちに帰してあげましょう。ってのは虫の良すぎる話とは思わない?」

「正論だな。そのことについて責任とれる連中が協会(うち)に残っているかと言われればまあ殆どいないんだけど」

「私の目の前にいるじゃない、古株のあんたが。うちとしては、これ以上帝都にでかい面されるわけにはいかない。ハグレ王国や妖精王国と同盟を結ばせて帝都に対抗させようってからには、帝都が強硬策を取ってきた場合についても考えているんでしょうね?」

 

 そう、いくら強力な種族で構成される3つの国家が結託したからと言って、帝都が問答無用で制圧に乗り出した場合、無事で済む保証はない。

 

「成る程、そちらの言い分は理解した。という訳でプリシラちゃん、後は任せたわ」

「分かりました。ではお話ししましょうか、リリィさん」

「えっ」

 

 そこから先はプリシラのワンサイドゲームだった。

 横から見ていたアルカナは大爆笑。

 曰く、

 

「まっさか私が提案する前にやってるとかちょっと予想できんかったわ」

「いえいえ。アルカナさんが協会との取引を行ってくれたからですよ」

 

 そう。とっくの前にプリシラは帝都への対抗策を取っていたのである。

 

 ハグレ王国との戦争後、賠償金で減った損害を取り戻すためにプリシラは奔走していた。

 この時に役立ったのが、アルカナが協会の名義でマナジャムを取引した際についでに結んだ帝都との交易許可だった。

 妖精王国はプリシラ商会として、帝都に出入りする商人達と接触。帝都の貿易網とは異なる独自の販路を開拓し、帝都の経済に入り込むことに成功した。

 そうして得た多額の利益で、今度は帝都の企業の株や国債を1割ほどを押さえつけた。これがおおよそ200万G(ゴールド)。ハグレ王国に支払った賠償金が120万G(ゴールド)なので、すでに賄いきっている計算になる。何とたくましき妖精の商売根性か。

 

 つまり妖精王国と戦争になれば、そっくりそのまま200万G(ゴールド)もの損害が出る。経済への影響を考えれば、実際の金額はそれ以上になるだろう。

 この時点で妖精王国は安全を確保しているようなもの。経済制裁すらも怖くない。

 相互ゲートを用いてエルフ王国が刃向かわないという保証のために、金を積むことさえ不可能ではないのだ。

 

 これを聞いたリリィ女王は呆気にとられたものの、にっくき帝都へ一泡吹かせられると分かり、ひとまずは協力することを約束した。

 

 ただし、同盟を結ぶに当たってある条件を求めた。

 その内容とは――――、

 

「サハギン族の撃退ですか」

「どうやらここ最近になって活気づいているようでね。エルフとの衝突が続いているようなんだ」

 

 エルフとサハギンは極めて仲が悪い。これはハグレ召喚が成立する前から知られるぐらいには常識的な話で、今回も小競り合いもその一環に過ぎない。

 と、思われたのだがどうやら様子が異なる模様らしい。

 

 少数民族であるエルフとしては、繁殖力の強いサハギンには数的不利を取っていたものの、弓と魔法による遠距離戦闘によって対抗できていた。

 しかし今回のサハギンはそうした魔法への耐性が強い装備を用意しており、辛くも撃退できたものの、次に侵攻してきた場合、より数を増してくるだろう。

 そうなれば、勝利を収められるかは怪しい。

 

「どうやら《神聖ハグルマ資本主義教団》ってのが背後にいるようなんだ。帝国領土での活動は控え目だから目立たなかったけど、数年前から諸外国を中心に勢力を伸ばして、最近だと帝都付近の村にも手を伸ばしているみたいだね」

 

 異常事態の裏に存在するのは、ローズマリーには初耳の組織だった。その場にいた者たちにも聞き覚えがないようだったが、反応を示したものが一人。

 

「また嫌な名前が出てきましたね」

「おやルーク、君が知ってるってことはもしかして結構な組織だったりするのかい?」

「教団って名前の通り、連中はサハギンを始めとした海の種族を崇めてる。傭兵、商売、金貸し、金儲けなら何でもやる連中さ。実際それで実効支配下に置かれた国もあったはずっすよ」

 

 ルークはかつて、ある依頼でハグルマ教団の事務所へ債権書を盗むために乗り込んだ経験がある。

 その時に連中は、召喚術を用いてサハギンを始めとした海の魔物を呼び出し、ルーク達へとけしかけたのである。

 目的のブツを手に入れ、命からがら逃げだすことに成功したからよかったものの、一歩間違えれば自分はこの王国にいなかっただろうと彼は語った。

 

「ああ、思い出した。確か傭兵仲間にそんな名前の金融会社から金を借りていた奴がいたな。いつの間にか顔を見なくなっていたが」

「間違いなく身ぐるみどころか身柄差し押さえられてるよね、それ」

 

 闇金に手を出したのだから、まあ自業自得だろうとジュリアは言った。

 名も知れぬ哀れな傭兵の末路にルークは内心手を合わせた。

 

「小国とはいえ、国一つを支配下に置くほどの経済組織ね……。ついさきほどそんな話を聞いたような」

「いやですね。私達がそんな野蛮な真似するわけないじゃないですか。もっと人道的なやり取りで済ませますよ私達は」

 

 プリシラも例の一件で反省しているので、波風を立てるやり方は好まないのだった。むしろ静かにじわじわと蝕むようなやり方に変わっただけの様にも思えるが、きっと気のせいだ。

 

「しかし、サハギンもハグレなんですよね?だとするとうちが大きく事を構えるのは……」

「何言ってるでちか。助けを求めてるなら助けてやらねばいかんでちよ。それに、むやみやたらと奪おうとするのは悪い事でち。だったら懲らしめるのがハグレ王国の正義でち」

 

 ローズマリーはハグレ同士で大規模な戦闘を行うことに難色を示すものの、デーリッチの主張したことにも一理ある。放置すればエルフとサハギン間だけの問題ではなくなるだろう。何せ背後には種族単位で神聖視する組織がいるのだ。調子づいて他の種族へ侵攻してこない保証はどこにもない。

 

 ローズマリーは少し悩んだものの、友軍として参加することを決意した。

 

「よーし、では後で手紙を送っておこう。そうしたら晴れて実験の開始だ。国王陛下とエステルは決定として、君達の中からも何人か付き添ってもらうから。呼びかけておいてくれないか」

「はい、わかりました」

 

 それについてはいつもの冒険と大して変わりないので、ローズマリーも了承する。

 そうして打ち合わせをしていると、入ってくる者がいた。

 それは雪乃で、来客が来たことを伝えに来たのであった。

 

「あのー。お客さんが来てますよー」

「ん? 誰が来たんだい?」

「紫の猫みたいな人ですよ。なんだかもふもふしてます」

「あー、ヴィオか。なら私宛てだわ」

 

 やってきたのはロマネスクだった。

 なんでアルカナがここにいるのかわかったのかと言えば、何となくと答えた。

 猫には不思議な力があると言われるが、その一環なのだろうか。

 

「お初にお目にかかりますな。ローズマリー殿」

「初めましてこちらこそ……で、私達に用、ではないですよね?」

「そうであるな。アルカナ殿。例の件で報告に来た」

「何々?ここで言ってくれて構わんよ」

 

 彼には各地のハグレの様子などを巡回して貰っているのだ。

 ここにいる面々ならば、公開しても構わないだろうと判断した。

 

「どうやらハグレを対象とした、戦いの蜂起させるようなデモ活動が行われている様子。

 それと、各地のサハギン族が一か所に集結し始めている模様。恐らく近いうちに大規模な交戦が開始されるかと」

「ふむ。これは少し計画も早める必要がありそうね」

 

 この10年で世情も移り行くものだが、いつまでたってもハグレとこの世界の人間の軋轢は解消されない。

 だというのに、ハグレ同士でも種族の軋轢が存在している。

 種族間で生態や文化が異なれば、相容れぬのは仕方のないことだが、それでこの世界の人間たちから危険視されるのは本意ではない。

 自分が行ってきたことが無駄にならないよう、改めてアルカナは計画への熱意を新たにした。

 

「ところで()()は?一応あの子も水棲種でしょ」

「彼女もそのあたりの世情は把握しておるようですが、あまり興味がないようでしたな。それに、彼女の性格は吾輩も少々掴みづらく。」

「私だってよくわからんよ。もう一人のほうならまだ話が合うんだが……」

「彼女?」 

「ああ、個人的なハグレの友人だよ。スキュラっていう半人半タコな種族でね、サハギンとは若干仲悪いかもしれないから大丈夫かなーって」

 

 ある事情で海を渡る場合に懇意にしているハグレの女性については何を考えてるのか不明な所が多く、それゆえにどの勢力にも属さない彼女の事をアルカナは心配する。

 

「成る程……、心配ならこちらで保護しましょうか?」

「ありがたいね。でもそこはほら、会ってみてからということで。

 まあ、あの子普通に強いから心配はいらないかもしれない。海なら概ね敵なしよ」

 

 以前に海中でサメを絞め殺したという話を思い出し、語ってみればその場にいた全員が反応に困ったように笑っていた。

 

 

 

「へくちっ!んん~?誰か噂でもしましたか~~??」

 

 その頃、水中だと言うのに器用にくしゃみをするスキュラの姿があったとか。

 

 

 

 

 

 

 どことも知れぬ場所。

 石材で形作られた、無機質な空間。

 

 空間に立ち並ぶは巨大な硝子瓶。

 その中には一つずつ、成人サイズの人間が意識なく浮かんでいる。

 

 いかにも怪しい実験をしていますと言った感じの場所で、男は自らが放った斥候からの報告を聞いていた。

 

「……以上です。翌日には、かの召喚士たちはハグレ王国を引き連れ、その場所へと赴くとのこと」

「ああ、感謝する。では彼らには手筈通りにしろと伝え給え」

「ええ。わかりました」

 

 斥候へと指示を出し、その男は思わずといったように笑みが漏れた。

 積年の思いを成就させる。

 愚か者どもの目を曇らせる彼女を越え、己の評価を改めさせる。

 

 そのために、この大陸へと訪れた。

 そのために、この世界を正すのだ。 

 

「ようやく……ようやくだ。

 アルカナ、貴様の首を戴く時が来た。

 そうして私は、この腐りはてた世界を今一度……」

 

 怨念と執着に塗れたその声を、聞き届ける者はいなかった。

 

 

 

 

 

 

 水晶洞窟。

 

 ケモフサ村から20分ほど歩いて着くその場所は、文字通りあらゆる場所が高純度の水晶に覆われた神秘的な光景の広がる場所だ。

 しかし、その光景とは裏腹に、水晶を目当てにくる商人や村の住人はいない。

 

 何故かと言えば、この洞窟は古代種の魔物が生息する危険地帯なのだ。

 それはかつてハグレ王国がトゲチーク山の地下で遭遇し、撤退戦を余儀なくされた時と同じ生態環境であるということだ。

 

 そのため魔物退治をしようにも本格的な準備が必要だったのだが……

 

「はーい、一か所に集めましたよー」

「雷霆よ!」

「ぬうううん!!」

 

 魔物たちのとっての不幸は、ここに揃ったのが最高レベルの実力者たちであったことだろう。

 

 メニャーニャの制空超電磁ビットが宙に浮くクラゲ型魔物を手下ごと押さえつけ、

 シノブが召喚した主神の雷霆がその悉くを焼き尽くし、

 とどめにマーロウの雷狼が全てを薙ぎ払った。

 

 哀れクリスタルネウザー君は爆発四散!

 

 高レベルの雷属性使いが問答無用の猛攻で叩きのめしたことで、晴れてこの場所は絶好の召喚ゲート設営場所となったのである。

 

「よっしゃ、次元の穴はこの先だ。ついてきてくれ」

「久々に見たけど相変わらずえげつないわね……」

 

 目の前で引き起こされた惨状を見て、ハグレ王国から応援にきていた者達は顔を引き攣らせる。

 何せ3人の平均レベルは90。アルカナを含めれば140と圧倒的だ。

 もうこいつらだけでいいんじゃないだろうかと思う者もいるが、彼女らは実験に集中する必要があるため、不測の事態に備えるためには手の空いている者は必要だった。

 

「ところで、クーは元気にしておりますかな?」

「クウェウリさんですか?ええ、皆さんとも打ち解けていますよ」

「そうですか、それは良かった」

 

 道中、マーロウは数日前にアルカナの紹介でハグレ王国で生活するようになった自分の娘、クウェウリの様子にいて訊ねる。

 心配で仕方がないといった様子の彼だが、ローズマリーの返答を聞いて顔を綻ばせていた。

 

「娘は子供たちと遊ぶような経験も少なく、人見知りの激しい娘になってしまいました。

 そこへ一転、若者の多い環境。変な輩に誑かされてしまうのではと気が気でなかったのです」

「そうでもないですよ。ハピコを始めとして、ヤエちゃんに雪乃、エステルにドリントルにヘルちんと皆と仲良くお話しますし、獣人同士で気が合うのかベル君と散歩も言ってるようですよ」

「友達ができたようでなにより。……んん?()()()?それはもしや、あの獣人の少年のことか??」

「え、ええそうですが」

 

 ローズマリーとしては、友達の輪を広げていることを伝えただけのつもりだったが、マーロウはその親バカっぷりを発揮し、最後の言葉を聞き逃さなかった。

 

「まさかあの少年が……!?やはり少年とは言え男はケダモノか……ッ!!」

「いやいやいや。待ってください!?まだそう決まったわけじゃ……」

「そうして楽観しているうちに男は女の子を毒牙にかけているものだッ!!

 そこの男のようにな!!」

「え、俺!?」

 

 今回も雑に連れてこられたルークに矛先が向く。

 

「アプリコ殿からは相当な悪戯小僧だと聞いていた。成る程、確かに女性の目を惹くような恰好をしている。そうして都で相当遊んでいるのだろう!?」

「謂れなき風評被害ッ!?」

 

 それもこれも恰好つけた服装をしているからである。 

 ヘルラージュの抜群のセンスが発揮された礼服は、誰から見ても良いものだと感じるのだろう。

 しかしルークはペテン師っぽく見られることもあるため、マーロウが誤解するのも詮無き事だった。

 

「いやあルーク君に限ってそれはナイナイ。彼、軽薄そうな見た目してめっちゃ一途だもん」

「そーそー。ヘルちん以外の女子には目もくれないってやつー」

「ああまで尽くしてくれる男と、仲のいい姉がいるんだから、ヘルちんも幸せ者よね」

「む。そうなのか?こんな細身の男が……。やはり人は見た目によらないものだな」

「いきなり態度変わるの調子狂うんですけどっ!?」

 

 マーロウはルークについて、仲間たちからの話を聞くたびに評価を改め、一端の漢として認めるような素振りを見せる。

 二転三転する彼の態度は、親バカここに極まれりといったところだ。

 強面の彼ではあるが、意外にも愛嬌ある面を見せて、ハグレ王国の者達と打ち解けていった。

 

 そんなやり取りを召喚士組は微笑ましそうに眺めている。

 

「賑やかだねえ」

「緊張感の欠片もなさそうですがね」

「しかしボーイフレンドか……。お前たちもいずれ、立派な相手を見つけるんだろうなあ。……やだーっ!シノブは私の下にいてーーっ!!」

「はいはい、私は側にいますよ」

「隣で惚気ないでくださいよ、全く」

 

 これから世界の行く末を左右する事態が待ち受けているとも知らず、彼女達は希望を胸に進んでいた。

 

 

 

 

 

 

「しかし、ここも遺跡じみてるんだな……」

 

 ルークの言った通り、先ほど通った通路には神殿めいた柱*1が並んでいた。

 つまり、この洞窟もかつて古代人が関わった何らかの施設、その成れの果てなのだろう。

 

「ま、機械っぽい機械とかは見かけられないから、何らかの施設かというと違うのかもしれないけどね」

「あるいは、何もかも崩れてなくなったか、ですね。洞窟一面の水晶ともなれば、元々はマグマでも流れていたんでしょうね」

「無情なものだね」

 

 時間の流れに思いを馳せつつ、奥へと進む。

 そうして突き当たった、開けた空間。

 洞窟の最深部に位置するこの場所に、次元の穴は存在した。

 後はここを利用して、望んだ世界への相互ゲートを作り出すことが実験の目的だった。

 

「さて、と。では早速、ゲート実験を始めよう。

 シノブ、メニャーニャ。準備を」

 

 アルカナはてきぱきと指示を出していく。

 シノブが魔法陣を展開し、召喚魔法を発動する。

 メニャーニャは時空アンカーを起動させ、ゲートの計測を開始する。

 

 対象となる世界は、まずは獣人の世界。

 ケモフサ村の住民の中から、帰還を望む者を平等にくじで選び、その世界に繋げられるように術式を制御しているのだ。

 

「対象世界とのマナ濃度差、計測完了。

 マナオニオンの投下を開始してください」

 

 マナオニオンが洞窟内に配置され、マナ濃度が高められていく。

 

「ああ、やっと帰れるんだ……。父さん、母さん……」

 

 くじで選ばれた獣人が故郷へと帰れることに、感涙で顔を濡らす。

 一行には最早見慣れた黒い穴が広がり、あちら側と繋がろうとする……

 

 まさにその時だった。

 

 

 

 

崩れよ(Thwart)

 

 

 

 

 ――――空間に、詠唱が木霊した。

 

 ERROR!ERROR!

 

 計器がけたたましいアラーム音をかき鳴らす。

 

「マナ濃度、急激に減少……!」

「なに……!?」

「召喚魔法、成立できません!?」

 

 マナオニオンは健在。

 ならば、空間内のマナが急速に枯渇しているということ。

 しかし、向こうの世界へとマナが流れていくような感覚を召喚士達は感じず、むしろこちら側へと急激にマナが流れ込んできているのを感知していた。 

 召喚ゲートは安定しない.

 このままでは、予測しない魔物がこちら側へと飛び込んでくる可能性があり非常に危険だ。

 

「くっ……、仕方ない!キーオブパンドラで閉鎖を!!」

「わかったでち!」

 

 そのため、当初の打ち合わせ通りに、問答無用でゲートの閉鎖を実行した。

 

 最強の召喚装置によって召喚ゲートが瞬く間に封鎖される。

 ひとまず、魔物が発生するなどの問題は解消したと見ていい。

 だが、今度は空間内のマナが乱れた原因を発見する必要があった。

 

 先ほど木霊した何者かの言葉。

 それが召喚式を妨害したのは明らかで、

 つまりそれは、第三者がこの場にいると言うこと。

 

「空間内のマナ、未だに減少……これは、おそらく誰かがこの空間に干渉しています!」

「ああ、先ほど聞こえた詠唱は明らかに打消呪文(カウンタースペル)。私ですら使えないのに、ここにいる者ができる芸当じゃない。私達以外の何かがいるな!?」

「見張りは村の者がしていたはずですが……!!」

 

 マーロウの言う通り、水晶洞窟の入り口ではブーンとアプリコが見張りを行っている。

 何者が現れようとも、手練れの彼らならば対抗できるはずだ。

 

 では、見張りが素通しした場合は?

 

「先生、後ろ――!!」

 

 後ろから、近づく影。

 エステルが気づき、警告する。

 アルカナが振り向いた時には、その人物は短剣を持った右手を既に振りかぶっており、

 

 

 

 ――――刃が、突き立てられた。

 

*1
実際にマップでも柱が並んだ通路がある。説明ないけど人工物っぽいので本作ではそう扱う




異世界編はちゃんとやります。

〇神聖ハグルマ資本主義教団
元ネタは迷宮キングダムの国家《ハグルマ資本主義神聖共和国》。深海種族を崇拝しているのも元ネタ通り。というかあちら側の世界のハグルマ国民が召喚されて、迫害されるサハギンのための組織を興したのが始まり。
ただエルフとは定義が違うため敵視している。
※エルフはまよキンだと半透明の体にウサギのような耳という人型のクリオネみたいな種族。

〇スキュラの女性
ばっぽいーん!!
実際に絡むのはまだまだ先。

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