ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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乱戦回。


その28.死線を越えて

-耐久戦-

 

「まずは分断しなさい。魔法使いを始末すれば、後は押しつぶすのみです」

 

 アプリコの指揮に従い、魔導装甲兵が動く。

 重厚な鎧を纏いならその動きは素早く、ハグレ王国と召喚士組、そしてアルカナとそれぞれの戦線は分断された。

 

「シノブ、メニャーニャ!!」

「こっちは大丈夫、心配しないで!!」

「先輩方はそっちの敵を片付けてください!!」

 

 エステルは親友と後輩に向かって叫ぶと、すぐに答えが返ってきた。

 こちら側にやってきた魔導兵は5人。

 シノブ達に向かったのは10人。

 

 ではアルカナは?

 

「先生!!」

 

 魔導兵たちの向こう。洞窟の出口に繋がる唯一の道の前。

 アルカナは一人、ジェスターと対峙していた。

 

「私は大丈夫だ!いいから自分の身を守りたまえ!!」

「……わかったわ!!」

 

 そう告げると、エステルは王国民と共に戦闘を開始した。

 アルカナは今回の主犯格に向き直る。

 

「おや、可愛い生徒たちの救援に行かなくていいのかな?」

「冗談を言うな。お前の相手をできるのは私ぐらいだろうに」

「ククク。違いない。さて、私達が殺し合うのも一興だが。どうだね? お互いの軍勢のどちらが優れているか比べると言うのは」

「却下。実のところ、私けっこうムカついてんだわ。以前から準備していた実験を邪魔されて、お気に入りの部下も潰された。……だからさ、遠路はるばる悪いんだけど、私に倒されてくれ」

「――――その余裕、どこまで持つか」

 

 ジェスターの黒き魔力が膨れ上がる。

 呼応するように、彼の足元からナニカが這い出して来る。

 

 それはコールタールのように黒く、粘性があり、しかして人や獣のようなカタチを形成する。

 絶えず流動する体を持ったエーテル体の魔獣たちは、瞬く間に一個小隊ほどの群れを成して、アルカナの前に立ちはだかった。

 

「――――魔素のゴーレムか。確かに、十三位(サーディス)の出身たるお前にとってはこの程度造作もないのだろうな」

「如何にも、始祖ガルタナが司る虚数こそ、我が真髄と知るがいい」

 

 白翼の一族十三家は、それぞれが得意分野とする魔法がある。

 アルカナの一位(クラウン)は霊子星術。

 六位(ヘキサ)ならば錬金術。

 そして、十三位(サーディス)のジェスターは、宇宙を構成する二大要素(星と虚)の片割れたる闇・虚数魔法。

 

 ジェスターの属性はアルカナと正反対に位置し、また互いを補い合う。白翼の始祖たる混沌の王、ガルタナ・クラウン・アルバトロスが修めた属性は星と虚数。その直系たるアルカナは星を受け継ぎ、ジェスターは虚数を修めた。

 互いを喰らい合うように相克する対極の属性であるがゆえに、ジェスターはアルカナの敵として十分な資質を備えていた。

 

「さあ、蹂躙の時だ! この大陸に積もりし数多の悪。それに押しつぶされる結末こそ貴様には相応しい!!」

 

 怨念、憎悪、嫉妬、憤怒。

 

 ありとあらゆる悪性情報が実体化したそれは、あらゆるものを侵し分解する呪いとして怒涛の如く押し寄せる。

 並大抵の戦士、魔術師なら為すすべなく押しつぶされる。さしものアルカナとて、飲み込まれればただでは済まないだろう。

 殺到する魔物を前に、アルカナは静かに杖を構え、天球儀を回転させる。

 

 そして、

 

「いいえ。それには及ばないわ。だって、

 

 

――――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 人工の星を周囲に浮かび上がらせ、アルカナは不敵にほほ笑んだ。

 

 

 

 

 

 

 エステルは魔法で火炎を浴びせるも、魔導兵は涼し気に立っている。

 それどころか、最前列に出てきたエステルに向けて剣を振るった。

 

「……!!」

「おらあ!……なんだこりゃ重てえ!?」

 

 重い一撃、しかしニワカマッスルがそれを受け止めた。

 盾と剣が押し合うが、相手の予想以上の膂力に、マッスルが押され始めている。

 

「ふんっ!」

「!?」

 

 横から殴りかかったジーナのハンマーによる一撃が、バケツヘルムを凹ませよろめかせる。

 相手の力が緩んだ瞬間に、ニワカマッスルは盾を押し込み、魔導兵を弾き飛ばした。

 

「すまねえ、ジーナの姐さん!」

「情けないわね。って言いたいけれど、アンタが押し負けそうになるって相当のようね」

「ああ、だが筋肉って感じじゃねえなありゃ!」

「どういう判別の仕方だよ。まあ、鎧で強化されてるんだろうね」

 

 筋肉言語で鎧にからくりがあることを見抜いたニワカマッスルにジーナが呆れながらも同意する。

 実際、先ほどの痛打をものともせずに魔導兵は立ち上がる。

 

「危ねえ……ッ! しかし、こいつら割と鈍いぞ!」

「そのようですわね」

「いやゼニヤッタさんは何で魔法型なのに正面から殴り合えてるの……?」

 

 ルークは魔導兵の攻撃を回避しながら、相手が素早さに劣ることを見抜く。ゼニヤッタは氷魔法の効果が薄いと見るや、肉弾戦に切り替えていた。悪魔ってすごい。

 

「フラッシュアイ!」

「……!?」

「どうやら暗闇は有効みたいね!」

 

 サイキッカーヤエの左目が光を放ち、イイ感じに魔導兵の目を眩ませる。

 王国民の戦いを観察し、ローズマリーは魔導兵への対策を講じる。

 

「ふむ、どうやら状態異常の類は効くみたいだな。からめ手で着実に体力を削れ!」

「果たしてどうでしょうかな。……六の陣!」

 

 それに応じるようにアプリコが号令をかける。

 すると、シノブ達のほうに向かっていた魔導兵のうち3人がくるりと向きを変えてハグレ王国へと襲い掛かった。

 

「何ッ!?ぐわっ!!」

「きゃあ!?」

 

 思わぬ場所からの不意打ちに、マッスルとゼニヤッタが負傷する。

 

「二人とも!?くっ、戦闘に加わらないと思っていたら、指揮官か!」

「生憎、戦場を盤の如く操るのには長けていまして。……二十の陣!」

「今度は何だ!?」

 

 アプリコが号令と共に、持っていた物を投げ放った。

 それは地面に激突すると、白い煙が充満し周囲を覆い始める。

 

「煙幕だと!?」

 

 隊列が乱れたのに乗じて、魔導兵が殺到する。

 ルークは間一髪攻撃を避け、この煙幕を利用して身を隠した。

 

「アプリコさんの指揮は相当やべえ! 今までどんな劣勢も覆してきやがった。勝ち馬に乗ってるときなら猶更だ!!」

 

 ハグレ戦争において猛威を振るった智将が、最大の敵として立ちはだかる。

 数年前、間近で彼の策略を見ていたルークはかつてないほどの声で警告を飛ばす。

 

「キュアオール!」

「サンキュー!これで見えるようになったぜ!!」

 

 デーリッチが前衛の暗闇状態を解除する。

 視界を確保できたニワカマッスルは、魔導兵の攻撃を一身に受け止める。

 

「陣の十八。そこの子供です。彼女こそが要、一気に攻め落としなさい」

「……!!」

 

 その言葉に魔導兵が一斉に向きを変え、デーリッチ目掛けて走り出した。

 

「まずい! デーリッチに狙いが定まった!!」

「国王様!!」

 

 リカバー薬でエステルの回復に回っていたローズマリーが警告を飛ばすが、既に魔導兵はデーリッチに肉薄している。

 ゼニヤッタが一人叩き落とすも、全ての魔導兵を退けること叶わず。

 物量という暴力に、哀れ叩き潰されるデーリッチ……!

 

「オオオオッ!」

「……!?」

 

 マーロウがデーリッチの前へと躍り出て、雷狼で魔導兵を蹴散らす。

 そのまま最も体制を崩した一人に肉薄。

 魔導兵も激しく抵抗するが、マーロウが鎧の接合部に刃を突き刺し、雷を流し込むことでようやく沈黙する。ようやく1体減り、残り14体。

 

「ご無事ですかな?」

「ありがとうでち!」

「国王様!ああ、ありがとうございます……!!」

「礼には及びません。将を守るのは当然のことなれば。しかし、彼が敵に回るとこうも手ごわいとは」

 

 分断したかと思えば、合流させ、また別の形に分断させる。

 ハグレ戦争の折、寄せ集めの上に数で劣った反乱軍を遊撃兵として巧みに操り、いくつもの要塞を陥落させた智将アプリコ。

 かつて轡を並べて戦った戦友の恐ろしさを再確認させられ、マーロウは冷や汗を流す。

 

 最大戦力のアルカナは、敵の首魁と魔術を激しく打ち合っており、とてもじゃないが援護を飛ばす暇などない。

 

 状況は、ハグレ王国側が圧倒的に劣勢だった。

 

 

 

 

 

 デーリッチとローズマリーを中心として守るようにハグレ王国は戦っていた。

 

「パンドラゲートは!?」

「それが……、うんともすんとも言わんでち」

 

 パンドラゲートを用いて、拠点あるいはケモフサ村まで逃げることも考えたが、キーオブパンドラは反応を示さない。

 

「だめ!今ここは大気中のマナが急激に減っています。そんな状況でキーオブパンドラは使えない!」

「そうか、トゲチーク山の状況と同じか!」

 

 魔導兵の向こうから飛んできたシノブの声で、ローズマリーがトゲチーク山で同じくパンドラが使えなくなったことを思い出す。

 

「おや、どうしたのかい? もしやお得意の転移が使えなくて困っているのかな? それは大変だね!!」

 

 マクスウェルの嘲笑が響き渡る。無論全て想定の上。

 彼も召喚士の端くれとして、アルカナ達が召喚術実験を行う場所にあたりをつけていたのだ。

 

「退路を断たせるのは戦の定石ですよ。陣の二です、かき乱しなさい」

 

 戦闘に参加せずに高みの見物を決め込んでいる彼に、アプリコは少々呆れながらも指示を下していく。

 仲間たちの間へ割り込むように移動する魔導兵に、隊列が無理やりシャッフルされる。

 

「ちっ、こいつらうざったらしい動きして……!ほら、マッスル!!」

「あんがとよっ!おらエセ筋肉野郎、これでも喰らいなっ!!」

 

 普段通りの戦い方ができないことにエステルが苛立つも、魔法で一掃できない以上は支援に回るしかない。フィールドオブファイアで強化されたニワカマッスルのヒートタックルが魔導兵を吹き飛ばす。

 

 並みの兵士であればノックアウトされる一撃だが、魔導兵はまだ立ち上がる。

 

「げ、まだ起き上がんのかよ」

「魔法を吸収しなくても相当なタフネスじゃないのよ……!」

 

 確かに手ごたえはあった。しかし鎧そのものが呼吸しているように光を脈打たせて、中身の兵士を回復しているのだ。

 

「……なぜ光っている?」

 

 そこでルークが違和感に気づく。

 そう、先の魔導兵は魔法を受けていないにも関わらず、装甲がマナ吸収の光を放っているからだ。

 

「あの鎧、大気中から僅かなマナを吸収してるのか!」

「そうとも! わずかでもマナがあれば、こいつらはいくらでも立ち上がるのさ。死なない兵士の恐ろしさに震えながら死んでいくといい!!!」

 

 エステルの言葉をマクスウェルが得意げに肯定する。

 相手の意志を挫こうとしたのだろうが、それはハグレ王国にとっての光明だった。

 

「そうか、ならば数を減らせばパンドラが使えるかも……!」

「とりあえず、デーリッチだけでも逃がそう! そうすれば援軍を連れてこれる……!! デーリッチ、いけるか!?」

「うーん……。チャージできてる感覚はあるけど、進みが遅いでち」

 

 今も尚、キーオブパンドラの発動に注力するデーリッチ。

 だが、進捗は喜ばしくないようだ。

 

「しかし、どういうことだ?彼らの練度自体は大したことはない。だというのに、あまりにも従順すぎる」

「ええ、それに先ほどから言葉どころか雄たけび一つ発しません。その辺の傭兵を雇っているにしては妙だ」

 

 目まぐるしく変わっていくアプリコの作戦指示に、魔導兵は戸惑うことなく従っていることにマーロウは訝しみ、強化用装置で援護に回っていたメニャーニャもそれに同意する。

 

「そうだろうとも! そいつらは自我を調律済みだからね。何も考えず、ただ敵を殺す事だけに従事する。だからそこの獣人の口うるさい作戦だって文句言わずに従えているのだッ!? 何をする!?」

「失礼。あまりにもこちらの情報を吐き出すものですからてっきりスパイかと。貴方は技術者だ、戦う気が無いのなら黙ってみているといい」

「……獣風情が」

 

 自分の事でもないのに得意げに話すマクスウェルだが、アプリコが魔法を飛ばして黙らせる。

 

「さて、彼がべらべらと喋ってしまいましたので隠す必要もなくなりましたね」

「自我の調律だと? どういう意味だ!!」

「言葉の通り。彼らは錬金術で最初から兵士として作られた生命です。将に従って敵を倒す以外の知識も役割も、彼らには生まれた時からないのですよ」

 

 その言葉を聞いて、思い当たるのは一つしかない。

 

「まさか……ホムンクルス!?」

「正解ですよ。聡明なお嬢さん」

 

 シノブが導き出した答えはホムンクルス。

 錬金術の叡智が一つ。

 正真正銘の人造人間。

 

 誰だって知っている造られし生命の代表格こそ、魔導兵の正体なのだ!

 

「ホムンクルスだって!?そんな技術まで奴らは手にしているのか!!」

「正確には同志ジェスターが、ですがね」

 

 資源さえあれば兵士をいくらでも増産できる軍隊など、悪夢以外の何物でもない。

 ローズマリーは帝都ですら確認されていない未知の技術をジェスター達が手にしていることに戦慄する。

 

 しかし、ハグレ王国の中には別の考え方をする者もいた。

 

「えっ!? 人造人間!? そんな非道な輩はこのサイキッカーヤエちゃんが成敗してくれるわ!」

「はいはい。今ふざけてると死ぬからね!!……だが都合がいい。みんな、もう躊躇っている余裕はない!一人でも多く鎧を無効化してくれ!!」

 

 自分好みの悪党が出たと喜ぶヤエちゃんをローズマリーが叱りつけ、転移用のマナを稼ぐために、一人でも多くの魔導兵を倒すように指示する。

 その言葉を聞き、既に何人かは動き出していた。

 

「なるほど。ならもう躊躇う必要はないな」

「そのようですわね」

「……!?」

 

 ゼニヤッタの攻撃が魔導兵のヘルムに直撃し、目の部分を保護するガラスをたたき割った。

 のけ反った隙に、ルークが魔導兵のゼロ距離にまで接近する。

 バケツヘルムの隙間から見える瞳が、反射的に揺れた。

 ルークは迷わずそこにホルスターから抜いたS&W M36チーフスペシャルの銃口をねじ込み、引き金を引いた。

 

「が……ッ!?」

 

 断末魔の叫びで、ついに声を上げる。

 ヘルムの中で反射した弾丸に頭蓋を蹂躙され、絶命した魔導兵は隙間から鮮血を吹き出しながら崩れ落ちた。残り13体。

 

「お見事です」 

「そっちもですよ」

 

 ハグレ王国のスタンスとしてむやみな殺人は犯さないものだが、相手がホムンクルスと分かった以上、ルークに躊躇う気持ちはない。それはゼニヤッタも同じのようで、特に何か言うまでもなく息の合った残虐プレイが繰り広げられたのだった。

 

 そしてシノブもまた、手加減というものを捨てていた。

 

「サモンゼウス!」

「……!!」

 

 強烈な雷光が魔導兵を撃ち抜く。

 魔導兵ががっくりと膝をつき、同時に与えられたマナによって装甲が再生の輝きを放つ。

 しかし、それは彼がいる場合には致命的な隙だった。

 

「ぬうん!!」

「……!?」

 

 上空より雷鳥が爪と牙を突き立て、一気に叩きつける。

 マーロウの強靭な一撃を受け、魔導兵は完全に沈黙した。

 魔導兵、残り12体。

 

「ここまでやってようやく3体……それで、どう?いけそうかしら?」

 

 戦況を確認していたエステルがパンドラゲートの様子を尋ねると、デーリッチはキーオブパンドラと未だににらめっこ中。

 

「うむむ……もう少しってところで止まってるでち」

「あと一体、削れればなんとかってところだよ。しかし、相当にきついぞこれは……!!」

 

 実のところ、急所を破壊するか、回復が追い付かないだけのダメージを与える。あるいはシノブのように吸収しきれないぐらい強力な魔法(特に雷属性が好ましい)で機能不全に陥らせるかと、概ねごり押し以外の攻略法はないに等しく、あと12体も同じことをするとなると流石にリソースが足りない。

 

 これがまだ無造作にかかってくるならば対処しようがある。

 結局のところ、局所的に優勢なようでいて全体では劣勢なのだ。

 

 こうしている間にもアプリコが指示を出し、魔導兵がこちらへの波状攻撃を仕掛けてきている。

 

 ニワカマッスルとマーロウが盾役となり、ヤエのサイコバインドやシノブのサモンゼウスで打ち払っても魔法故に決定打とならず、後から回復した魔導兵が突撃してくる。

 はっきり言って押し切られかけている。

 

 するとここで、後衛に戻ってきたジーナが口を開く。

 

「ねえ?あと一体でも減らせればいいのよね?」

「ああ、そうすればデーリッチだけでも転移で逃がせるはずだよ「そう、分かったわ」……って!?」

 

 ローズマリーの返答を聞き、ジーナは一人突貫する。

 パーティ行動を外れての突撃に、ローズマリーは驚く。

 

「ちょっと待て! 君は何をする気だ!?」

「別に、ただちょっと贅沢するだけよ」

 

 単身突撃してきたジーナに気が付き、魔導兵が迎撃するべく武器を振るう。

 容易く躱し、ジーナは天魔断ちを構える。

 普段のものとは異なる、力を溜めての下段構え。

 狙うは接合部。

 

「はあっ!!」

「……!!」

 

 

 ジーナは武器の破損を顧みずに力の限り振り抜いた!

 

 

 雷を帯びた刃が魔導装甲に食い込む。

 魔導鎧は刃より放出されるマナを吸収しようとして――――、

 

「!?」

「しゃらくさいのよ!!」

 

 一閃!!!

 

 鎧なんぞ知ったことかと、切り伏せる。

 ジーナの一撃は、見事魔導鎧を両断してみせ、魔導装甲兵は爆発四散!

 

「やった!! ってジーナちゃん!武器が!!」

 

 デーリッチの言う通り。

 ジーナが振るった天魔断ちは刃が粉々に砕け散り、後には柄だけが残った。

 

「ああ。今のは様物(ためしもの)ってやつよ。この通り一発でイカれちまうからね。鍛冶屋たる者、武器にそんな真似する訳にはいかないでしょ?」

 

 様物(ためしもの)

 あるいは試剣術。

 武器の試し切りを行う技であるそれは、極めれば武器の性能を十分に発揮できる匠の技となる。

 

 そして、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 武器の強度を顧みず、ただの一撃で使い潰すという鍛冶屋にとっての外道の技。

 無論ジーナもこの技を会得しており、普段は禁じているものの、今回は今までにない危機的状況。

 鍛冶屋としてのプライドを捨て、仲間の為に名刀を使い潰すことを微塵も躊躇いはしなかった。

 

「さ、一体減らしたんだからとっとと逃げな!!」

「ありがとう……!デーリッチ、いけるか!?」

「おう!行くでち!」

 

 ハンマーで次の兵に殴りかかるジーナ。

 これで残り11体。

 

「おい、やられてるじゃないか! このまま押し切られたらどうするんだ!!」

「焦ることはない。どうやら彼らも無理をしているようだ。このまま堅実に攻めていけば陥落する」

 

 数の差を埋められたことにマクスウェルがうろたえるも、疲弊しきっていることを理解しているアプリコは落ち着いて状況を観察する。

 

 そこに、声が響いた。

 

「――――ゲートオープン!」

 

「何ッ!?」

 

 その光に相手全員の注意が向く。

 その一瞬だけで十分だった。

 

「よしっ、成功だ!みんなッ、援軍が来るまでできるだけ持ちこたえ――ッ!?」

 

 それと同時、轟音。

 

「今度は何ッ!?」

 

 出口の方からの爆発音。

 

 そちらを向けば、五体満足のアルカナが立っている。

 

 彼女は、今まさに上半身を失ったジェスターの遺体がゆっくりと己の影に沈んでいくところを見届けていた。

 

 

 

 

 

 

 ふわり、とアルカナを軸として3つの星が公転を開始する。

 

三連星(トライスター)

 

 3つの衛星から魔力の弾丸が放たれ、迫りくる黒泥の魔物を倒していく。

 

「ははははは! どうしたアルカナ!! この程度で精一杯かね!?」

 

 アルカナが迎撃以外に魔法を行使する素振りはない。

 

 一発一発が悪意の獣を撃ち抜き、蒸発させる。

 

 総じて300発が放たれたところで、互いの攻撃は収まった。

 

「……いやね。この程度で私を討ち取ろうとか。冗談にもほどがあるでしょうに」

「確かに、軽い挨拶で殺されるようであれば、わざわざこの場に来た甲斐がないというもの」

「――星よ(スターⅨ)!」

「――我が影よ、世界を削れ!」

 

 星の光と、影の刃。

 

 襲い来る影を光が打ち消す。

 

 双方の実力は互角。

 

 ――否!

 

「ちぃ!」

 

 ジェスターが後退する。

 直後、先ほどまでいた地点の影が爆ぜ飛んだ。

 

星光よ(ステラⅨ)!」

 

 星属性の全体攻撃魔法により、魔物を生む影が焼き払われる。

 

「……流石だよ。小手先の勝負ではそちらに分があるようだ。しかし我が影より湧き出る魔力は無尽。貴様がいくら体内で魔力を練ったところでこのマナ薄き環境でどれだけ持つことか。そら、貴様の大事な仲間も我が軍勢に蹂躙されている頃合い――」

 

「――――ゲートオープン!」

 

 転移の光が、周囲を照らす。

 

「何ッ!?転移だと!!」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()とは予想できなかったジェスターは、ほんの一瞬だけそちらに気がとられた。

 

 その一瞬だけで、十分だった。

 

「――――その憧憬は流星のように(アド・アストラ)

 

「――――な」  

 

 民間人も一人いる以上、派手な魔法を使えなかったのは事実。

 下手に魔法を打ち合えば、周囲への被害はおろか、この洞窟が崩落する危険性すらあった。

 故に、迎撃に留めて機会を伺っていた。

 

 

 衛星帯を纏わせた拳を振りぬく。

 

 影が刃となって襲い掛かるが、流星を捉えることはできない。

 

 魔力によって極限まで強化されたアルカナの拳は、寸分たがわずジェスターの心臓を撃ち抜き――――

 

 星の爆発の如く炸裂させた魔力が、胴体を粉みじんに吹き飛ばした。

 




〇ジェスター
レベル150。
影、怨念などの闇・虚数魔法の使い手。

〇アルカナ
レベル300。
星魔法は純粋なエネルギーとして扱う場合最も強力。

〇アプリコ
軍師ユニット。
ターン開始時に状態異常付与やデバフ、魔法型に挑発効果を付与してくる。

〇魔導型機動装甲具
魔法ダメージ8割削減→HP回復→強化というプロセスのため一撃でHPをごっそり削られるとただのガラクタになる。あと物理に乗った属性攻撃は有効。
アプリコが直に指揮を執っていたため、ボノソルジャー並みの鬱陶しさを発揮している。

戦闘終了条件〇6ターン経過+魔導兵を4体減らす。

勢い重視で書いたのでおかしな部分が合ったら指摘お願いします。

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