『そのころ、秘密結社は』
エステル達が召喚を試み、みんなが拠点の周りを探し回っている頃。
周辺地域での呼びかけを終えて、俺は拠点へと戻っていた。
「ふう……」
一仕事終えたというのに、俺の心は晴れないまま。
それもそのはず、俺は今日も成果を挙げられていなかった。
デーリッチが消えて数日。冒険者時代のコネやら何やらを惜しみなく利用して捜索に励んだはいいものの、二日間の結果としてデーリッチの目撃情報どころか手掛かりの一つすら見つからない。
かつて亜侠として活躍していた頃は
とは言え、見つからなかったというのも絞り込みを行うためには大事な情報。皆と共有するために談話室に向かう。
そこに大量の書き込みがされた地図が広げられ、本格的な作戦会議用の空間として出来上がっている一角に俺は一直線に歩いていく。
「ただいま帰りましたよっと」
俺に気が付いたローズマリーが顔を上げる。
既に何人か帰ってきていたが、結果はよろしくないようで皆一様に顔が暗い。多分鏡で見たら俺も同じ顔をしているのだろう。
「そっちはどうだった?」
「全然ダメですね。知り合いにもそれらしい人物を見かけたら連絡するように頼んできたが、あまり期待はできそうにない。一応聞くが、お前らは?」
何もなかったことを報告すると、ローズマリーはやっぱりかという顔で俯いた。
俺が今日向かったのは帝都に近い街。昼間っから酒場にいる顔見知り連中に片っ端から声をかけてみたが、やはり有力な情報は得られず。
見かけたら連絡してほしいと金貨を渡してきたが、それほど期待はしていない。精々が念のため、といったところだ。
「いんや、全く見つからねえ」
「傭兵の知り合いを回ってきたが、皆知らないとさ」
「こうも探して見つからないと、流石に疲労も溜まるね……」
妖精王国、サムサ村、世界樹、ザンブラコ、クックコッコ村。
これ以外にも俺たちが訪れたことのある場所はすべて手を伸ばした。
街道沿いなどの人通りが多い場所なら、誰かが倒れていればすぐに見つかる。3日間もあれば、何かしらの情報が入ってくるはずだった。
だから、その全てで何のてがかりも得られないとなると、やはり異世界なのだろうか。そうなってしまえば、俺にできることはもうなくなってしまう。
「あら、おかえり」
「……ミアさん」
声をかけられた方向に目をやる。
そこには小さな姉分がこっちに手を振っていた。
「その顔、何も見つからなかったようね」
「俺を揶揄いに来ましたか?」
「まさか。空振りなのは私だって同じよ」
ヘルとミアさんは秘密結社として一緒に捜索を行っていた。
秘密結社ヘルラージュの人望はかなり高い。デーリッチがいなくなったことを話せば大人から子供まで協力に駆けつけてくれたのだとヘルが昨日得意げに言っていたのを思い出す。
「ところでヘルは?」
「自室で休んでるわ。行ったり来たりしたから疲れちゃってね。私は食堂に行くところよ。一緒にどう?」
「それなら俺も」
一息入れて心を落ち着けたかったところなので、同伴することにした。
お互いの状況を伝えながら約一週間ぐらい前に新しくなった食堂へと向かう。
拠点の左側を開通して作られた土産物屋は食堂も兼ねており、今ではここで食事を摂ることが当たり前となった。食事の質は向上したので個人的には満足している。もうローテーションで食事を作って微妙な奴の当番にげんなりすることが無くなったというのは気分的に大きい。何が悲しくてサイキックご飯とかいう訳の分からないものを食わされなきゃならんのだ。
「ミア様にルークか、何にしますかい?」
「珈琲でも飲む?」
「ゲソは要りませんよ」
変なものを勧められる前に先手を打つ。この姉がゲテモノ好きなのは周知の事実だ。
生前からの困った癖だとヘルがぼやいていたのを聞いたのだが、ドリントルの姫さんが実際の被害にあったことでゲテモノ度合いが相当やばいことが判明した。
「あら残念、今はオクラがマイブームよ」
どのみちゲテモノじゃねえか。
「そんなもの飲むのはミア様ぐらいでしょうよ。ほら、できたぞ」
「ありがとよ」
幸い、食堂に立っているのは至極まともな感性を持っているキャサリンなので安心できる。
ちゃんとした珈琲を受け取り代金を渡そうとすると、片手で制止された。
「ただで結構。俺は捜索に加われねえからよ、これぐらいはサービスだ」
「……ありがとよ」
「おう。それでもっと働いてくれ」
不気味に見えるが気さくな人形である。割とガチめにぶっ壊したこともあるが、こうして仲間となってからは同じ姉妹を慕う間柄として俺たちは一種の連帯感を感じつつあった。
軽く礼を言ってからミアさんと向かい合わせで座る。
――苦みと熱が、精神を落ち着かせる。
淀んだ思考が澄み渡る。
しかし気持ちが晴れることは無く、むしろ現状をしっかりと整理できた分だけため息が増える。
「はあ……」
「何よ、一息入れたってのにまだ辛気臭い」
「人探しには慣れてるというのに何も見つかりませんでしたーじゃ、気も滅入りますよ」
「情けないわね。ま、ただの冒険者じゃあ仕方ないか」
「冒険者を何だと思ってるんですか」
妙に辛辣な言葉が投げかけられる。
ミアさんが王国に加わってからもう二週間ぐらい経つ。最初はお互いに殺し合った関係で少々接し方に戸惑ったものだが、数日も顔を会わせ続ければ意外なほどに打ち解けられた。ヘルという共通の人物が間にいたことで、仲間以上の身内として意識していたことも助けになった。しかし、なんだか俺との距離感が他の連中よりも異様に短いと思う。気安いというか言葉に遠慮がないというか、多少雑に接しても大丈夫な人間として見られてるような気がする。
「使い潰しのきく小間使い」
「はっきりと言いましたねぇ!?」
その答えを聞いてみれば案の定。彼女の中では俺は雑用だったらしい。でも冒険者なんて十把一絡げのやくざ稼業だから否定はできない。
俺はさらに盗賊稼業にまで手を染めてたぐらいのチンピラだからなおさらだ。
元々古い魔術を研究する家系だったのなら、雇う側としての冒険者についての認識なんてそんなものだろう。
「冗談よ。こうして茶化すぐらいしないとすぐ暗くなるんだもの」
そう言って笑うミアさんだが、普段俺を雑用係としてこき使ってるのを考えると半分は本気で言ってると思う。
――意外なことに、ミアさんは俺とヘルの関係について何も言ってこない。
ミアさんがヘルを溺愛しているのは丸わかりだ。
同じ屋根の下で暮らすことになった以上は、ある程度の干渉はあると思ったのだが、これが驚くほど何もないのだ。自慢じゃないが、自分が褒められた人間でないことは理解しているつもりだ。
……この際だ。聞いておくとするか。
「一応聞きますけど、ミアさんって俺の事どう思ってるんですか?」
「随分直球に聞いてきたわね……」
流石にストレートすぎた質問にミアさんは呆れている。
我ながららしくないとは思うが、相手がヘルの姉なのでこうするしか思いつかなかったのだ。
「前にも言ったと思うけど、貴方とヘルの関係については私が口を挟むつもりはないのよ。あの子には自由に生きてほしいもの」
「それでも相手の素性については思うところとかあったりするんじゃないのか?」
負い目があるのは分かるが、それはそれとして姉として妹の相手を気にしないわけではないだろう。
「そりゃ気にならないわけないじゃない。その上で、貴方ならいいかなって思ってるのよ」
……それは、
「随分とまあ、評価してくれてるんですね」
「言っとくけどね、あんまりふしだらな関係を築いていたら姉として物申したわよ。けれど貴方達ときたらキスの一つもしてるところすら誰も見たことがないって言うじゃない! 流石に潔癖すぎて若干引いたわ!!」
「あー……」
言われて納得する。
二人で出かけることはあるけれど、恐らく一部の連中が期待しているような展開には発展せずに拠点へと帰るし。
二人きりになったからと言って、特に何かするわけでもなし。
時折ヘルが抱き着いてくるが、それは概ね誰かに甘えたい時。俺からそういうことはまずやらない。
そういうことを考えなかったと言えば嘘にはなるが、実際にやるかと言われると躊躇いが生じるのも確か。
元々ヘルの目的は復讐で、俺はそのための手伝いに付き合っている。だからそういうのは復讐の妨げになると、一線を越えない建前があったのだろう。
――では、それが無くなった今は?
無意識に目を逸らしていた部分に、目を向けさせられる。
「じゃあ逆に聞くけど、貴方はヘルの事をどう思ってるのよ」
「俺たちの関係って、相棒とか戦友とか上司と部下とかそういうのが混ざっているから一概に恋愛関係って言いづらいというか。割とそういうのを意識してこなかったというか」
「じゃあヘルが普段からあんな恰好してて男のくせに何の魅力も感じないって言うの??」
「すんません嘘つきましたたまにというか割と毎日グッときてます」
正直あの恰好は最初見た時どうかと思ったが、同時にひどくそそられたのも事実だし、ヘルが抱き着いてくるときにあの柔らかな二つの山が当たってくる時、色々と高ぶる者を抑え込むのに必死だったりする。
「正直でよろしい。……皆から聞いてはいたけど、本当に奥手なのねえ。一度や二度くらい手を出していてもおかしくはないはずなのにねえ」
やれやれと言ったように肩を竦めるミアさん。
「仮にも姉がそういうこと言うのはどうかと思いますよ」
「あら、姉だからこそ気になるんじゃない。
――――それで、本当の所はどうなのよ?」
先ほどの揶揄うような様子とは打って変わって、真剣な眼差しを向けられる。
「……」
「真面目に答えなさい」
生半可な答えは許さないと、視線だけで人を殺せそうなまでの威圧感が発せられる。
……そうだ。
唯一の肉親である以上、お互いに抱く感情の深さは筆舌に尽くし難い。
そんな彼女が今、自分を見定めようとしている。
なあなあで許されていたところを、わざわざ自分で焚きつけたのだから、ここで誤魔化すのは筋が通らない。
――覚悟を決める。
「……好きだよ。俺はヘルのことが好きだ。あいつのためにならなんだってやれる」
俺は一目見た時からヘルラージュという女性に恋をしている。
彼女と過ごした日々はかつて旦那たちと暴れた日々に勝る。
ヘルの側に、できることならずっといたい。
これはまぎれもない俺の本心だ。
そんな俺の答えを聞いたミアさんはそう、とだけ言って微笑んだ。
「それならいいわ。これだけ一途に思われてるなら、あの子も本望ね。
――そうでしょう、ヘル?」
「――――!?」
慌てて振り向くが、しかし誰もいない。
「冗談よ」
してやったり、と悪戯を成功させた仕掛人は意地の悪い笑みを浮かべている。
心臓が止まるかと思った。
流石にこれをヘルに聞かれるのは恥ずかしさが天元突破して死ねる。
「冗談じゃない……。あいつが聞いてないことがわかってるからこうして喋ったのに、ヘルに聞かれていたらあいつにどんな顔で会えばいいんですか」
しかし、我ながらよく喋ったなと思う。
こんなぶっちゃけ話、マッスルとかの男仲間にすら話したりはしない。
おそらく昔の仲間にも話さない。
じゃあ何故ミアさんには話せたのか。
姉と、相棒。
関係は違えど、同じ相手を想う間柄だからこそこうして話せたのだろうと、俺は思う。
「悪かったわよ。聞きたいことも聞けたから満足したし、もういいわ」
「というかここ食堂なんだから誰が聞いてるかわかんねえってのに」
何せハグレ王国は色恋に餓えた女の巣窟。
こんな話題をしていれば誰かが食いついてくるのは明白だった。
「誰も聞いてないわよ。皆デーリッチを探しているんだから」
その言葉にハッとなって食堂を見渡せば、入ってきたときと同じでガランとしている。
「……静かですね」
「ええ、不自然なくらいよ」
そうだ。
そもそもこの時間なら誰かしらいる筈なのに、利用しているのは俺達だけ。
――今のハグレ王国には活気がない。
普段ならばガキ共のはしゃぎ声や、ピンクを中心とした姦し話で賑やかな食堂も、このように静寂に包まれている。
それは、とても寂しいものだった。
「あの子がいないだけで、こうも違ってくるのね」
そう言ったミアさんもまた、デーリッチの明るさに救われた者の一人。
明るさの中心だった彼女の不在は、この王国に影を落としていた。
「寂しいわね」
「そうですね」
「こうしている間にも、あの子も私達を探してるのでしょうね」
「そうでしょうね」
「……デーリッチがいなかったら、私もヘルと一緒に暮らしたりできなかったのよね」
「……そうだな」
「絶対に、見つけるわよ」
「……ああ、勿論だ」
彼女がかけがえのない存在であることを実感し、俺達は決意を新たにする。
――――デーリッチのいる世界が見つかったという報せが入ったのは、そのすぐ後の事だった。
◇
『異世界へ行く者たち』
水没都市ゲート前。
既にハグレ王国の国民は集合を済ませていた。
「じゃあ、今からデーリッチを助けに行くためのメンバーを選ぶんだけど……」
「我こそはと思う奴は手を挙げろー!」
『はーい!』
いつの間にやら仕切り役を分捕ったアルカナが異世界へ向かう勇士を呼びかけると、集ったハグレ王国民総勢20名全員が威勢よく手を挙げ、参加の意思を見せる。
「……全員挙げましたね」
「非常に慕われていて結構」
デーリッチを助けたいと思う友。
王の下に馳せ参じようとする臣下達。
その決意は、ここにいる皆の心に。
「……皆、ありがとう。」
「じゃあ、異世界に行くメンバーを編成するわ。マリー、選定は任せたわよ」
「え、みんなで行かないのかい?」
何せ稀代の召喚士が管理する時空ゲートだ。
一人二人なんてケチな真似は言わず、王国民全員で迎えに行ってやりたいと思っていたのだが、エステルは惜しむように事情を口にする。
「ええ、残念だけど10人が限度。実際の所、もっと多くの人数を運んでも問題はないんだけど……」
「ここから魔物が出てこないとは限らないし、何よりこっち側の世界で緊急事態が起きた場合が危険だ。明確にハグレ王国を敵視している組織がいる以上、いつ拠点が襲撃を受けるかは分からない」
「だから、半分ずつに分けて10人。心苦しいかもしれないけど、そこは納得してちょうだい」
アルカナ達が懸念しているのは、魔導兵について。
たった15体でハグレ王国の精鋭8人を追い詰めたあの強力な兵士を保有する革命組織が、デーリッチの救出に成功するまで大人しく動きを潜めてくれているとは限らない。
首魁だったジェスターは一度撃破したが、頭脳となる者達は未だ健在なのだ。
だから、彼らが王国が混乱している最中を狙ってくる可能性を考慮する必要があった。
デーリッチを救出できたとして、返るべき場所が無くなっては元も子もないのだから。
「私とシノブはゲートの管理に残るため、救助隊には参加できない。残念だがね」
その後ふざけるように自分達が行くとバランス崩壊するからねー。とか言っているが、恐らく自分達に大役を任せようという心遣いだろう。エステルはそう解釈した。
「先生やシノブがいれば楽勝だったかもしれないけど仕方ないか」
「じゃあ、残り9人を選ばなくちゃいけないのか」
「私は確定で連れて行ってもらうわよ。向こうで何があるか分からない以上、召喚士が一人はついていた方が安全よ」
「わかった。それじゃあ残り8人を決めるとしよう」
そうしてローズマリーは集った仲間達の意気込みを聞いていくことにした。
(※全員分書いてると文字数キリないんで採用されたメンバーだけ抜粋していきます)
【ベロベロス】
「きりっ!」
ハグレ王国最初の加入者にして、デーリッチの忠実な番犬ベロベロス。
おりこうさんモードのスマートな目つきでローズマリーを真っ直ぐと見つめる。
「何か意気込みとかあれば、答えてくれると嬉しいんだけど」
「わうんわうん!」
「なになに、デーリッチの匂いならよく覚えてる!僕を連れて行って!……だとよ」
「成る程、確かに森の中にいるかもしれないならベロベロスの嗅覚は頼りになる」
「わんっ!」
ブリギットが翻訳した内容を聞いて、ローズマリーは納得する。
「よし、君を第一のメンバーにする。……いけるかい?」
「わぉぉーん!!」
絶対に助けるという意志を示す雄たけびが、地下遺跡に木霊した。
【ニワカマッスル】
次に猛烈アピールをかましてきたのは、王国の力自慢ニワカマッスル。
「姐御!是非俺を連れて行ってくれ!」
「マッスル……!」
「筋肉こそ最強の言語! 鍛えた体はどんなものにも負けねえぜ!!」
普段は暑苦しく、有事の際には幾度となく頼りにしてきた自慢の筋肉。
異世界という前人未踏の地において、彼がいるだけでどれだけ心強くなるだろうか。
「そうだね。じゃあ君にも頼みたい。その筋肉で私達を、……デーリッチを守ってくれ」
「おう! 任せときな!!」
己の後ろこそが安全圏なのだと、牛男は豪快にポーズを決めた。
【ゼニヤッタ】
次に我こそはと進み出たのは、優雅なる悪夢の異名を持つ忠臣ゼニヤッタ。
普段は他人を立てる彼女だが、今回は譲れないと確固たる意志を持ってローズマリーに進言する。
「孤独は人を焦らせます。国王様の目の届く範囲に、
次元の塔に館と共に独りで転移することになった彼女だからこそ、孤独の辛さは人一倍理解している。
凍てつく氷のように決して揺るがないその忠誠心が、今はとても頼もしい。
「うん。君がいればあの子もすぐに笑顔になれる。一緒に来てくれないか」
「はい……! 国王様のためならば、地の果てだって向かいますわ!!」
最早この悪魔を止められるものは、誰一人としていないだろう。
【ブリギット】
「ブリちん……」
「おっと、俺にお呼び出しがかかるとはな。丁度異世界旅行にしゃれ込みたかったところだ。――なんてな。選ばれたからにはベストを尽くしてやる」
真剣な表情でやってきたローズマリーに、軽い調子で語るのは古代ゴーレムのブリギット。
視覚、聴覚、嗅覚。
生命の持つそれらとは別に、魔力に熱源と様々なセンサーが彼女には備えられている。
あらゆる探知能力を用いて探す必要がある以上、様々な反応を追う事の出来る彼女はまさに適任だった。
「君の持ってる機能。その全部を活用してもらいたいんだ」
「子守りなら得意だ。迷子探しもな。お疲れな王様を、しっかりと介抱してやるよ」
ある意味本業に戻ったなと、ゲートキーパーは子を想う母のような笑みを浮かべた。
【ベル】
道具屋として王国に多大な貢献を行ってくれている少年ベル。
この救出作戦においても商品を持ち込み、臨時で道具屋を開設してくれている心強い彼は――、
「よし、決定」
「え、そんなあっさり!?」
ベルはアピールするまでもなく自分が即決されたことに戸惑ってしまう。
彼の様子にローズマリーは頬を掻いて理由を話す。
「ああ、ごめん。軽く決めたわけじゃないんだ。君がいてくれるならデーリッチの手当てがすぐできるだろうと考えたら、ね。……いけるね?」
それはすなわち信頼の証。
決して他の仲間を軽んじているわけでは無く、むしろ選ばれなかったの皆の分まで任せられるという重圧にして男の誉れ。
感激に涙が出そうになるが、それは救出が成功してからだとぐっとこらえる。
「はい!絶対にお役に立ちます!!」
今この時、彼はまさしく立派な男だった。
【ヘルラージュ】
秘密結社のリーダーとして、デーリッチやローズマリーと特別な絆を結んできたヘルラージュ。
回復に支援、攻撃と万能な役割をこなせる彼女に白羽の矢が突き刺さったのは、必然だったのだろう。
「ヘルちん」
「は、はい!」
ローズマリーに声をかけられて、ヘルラージュは緊張する。
「君を救助隊のメンバーとして選びたいんだけど、いいかな?」
「えっ、は、はい!大丈夫よ!」
異世界への恐れはある。
しかしそれ以上にデーリッチを案ずる気持ちが大きく、決して拒みはしない。
「リーダー……」
「うん、大丈夫! デーリッチちゃんはもっとつらい目に合っているのです、私がこの程度で臆してなるものですか!」
いつの日かデーリッチからもらった勇気、それを今ヘルラージュは燃やすのだ。
【ルーク】
ヘルラージュの副官として、また縁の下の力持ちとして役に立ってきた男。ルーク。
彼女が立ち上がると言うのなら、彼が付いていかない道理はない。
「ま、リーダーがこんなんだから俺もつれていってくださいよ。ええ、斥候に交渉、汚れ役までなんでもやってやりますからね」
ヘルラージュのフォロー役として、ルークは自分を勧めつつ長所をアピールすることを忘れない。
現地の人間と接触する可能性を考えれば、交渉役をこなせる彼は確かに適任と言えるか。
「うんわかった。ルーク、君に同行をお願いしたい」
「ああ。デーリッチも立派な俺たちのリーダーだからな。二度も頭を失うのは御免だ……!!何が何でも助けてやるよ!!」
この世界の、魔法使いでもなんでもない。
ただの人間であるルークは、ハグレの王様を助けるために未知へと挑む。
【ミアラージュ】
無論、秘密結社に新しく入った彼女も強い意志を露わにする。
「あら、二人を採用しておいて私だけ仲間外れってのはひどいんじゃない?」
「ミアさん……」
「私があの子に受けた恩はね、まだ全然返し切れてないの。だから、私も連れて行きなさい。私がいれば、あの子を死なせることは、絶対にないから」
かつて神童と呼ばれた少女は、今度こそ大事なものを救うためにその才覚を振るわんとする。
「うん、君が最後のメンバーだ」
「ええ、大船に乗ったつもりでいればいいわ」
尊大にも取れるその態度。
しかし絶望に屈せずに立ち向かえるその在り方こそ、デーリッチを助けるのに必要なものである。
「これでメンバーは決まったわね」
「ああ、選ばれなかった皆はすまないけど……」
申し訳なさそうな顔で待機する仲間たちを見渡す。
返ってきたのは、溢れんばかりの激励だった。
「何、心配しなさんな」
「相棒のピンチに駆け付けられないのは残念だけどよ。その代わり、こっちはしっかり守っておいてやるよ!!」
「私達の思いは、君達に託したとも」
「ああ、だから安心して向かってくれ!」
「うむ、わらわたちに任せておくがよい!」
「ぐごごごごーっ!!」
「エステル……、絶対にデーリッチさんを助けてきて」
「シノブも、私達の帰り道を用意しておいてね」
「素晴らしいな。これこそが人の輝き。友を救わんとする決意の灯の何と美しきことか……!!」
白翼の賢者の目には、一人ひとりが眩い星の輝きを放っているように見えた。
離れていても、心は一つ。
拠点を守る彼らの後押しを受けて、ローズマリーは捜索隊に合図を示す。
「皆、準備はいいかな? じゃあ、行こう!!」
――――応!!
雄たけびと共に、彼らはゲートへと飛び込んだ。
ローズマリー。
エステル。
ベロベロス。
ニワカマッスル。
ゼニヤッタ。
ブリギット。
ベル。
ヘルラージュ。
ルーク。
ミアラージュ。
ハグレ王国異世界捜索隊総勢10名。
国王デーリッチの救出のため、異世界へと足を踏み入れる――――!!
〇ミアちん
男女の仲は推進していく派。というか予想以上にピュアな関係にお前らはよしろや!とお怒り気味。
ルークのことは弟みたいに思ってる。揶揄うと面白い。
〇10人編成
8人とか足りねえ!でも全員はキャパオーバーや!
なので書きたいと思ったメンバーを選びました。
選ばれなかったキャラについて?君が書くのです!!!
〇ブリギット
お前も異世界に連れて行くんだよ!
彼女だけどうしても連れていけないのはおかしくない??
さあ、ついに異世界に突入したハグレ王国!
1話に収まるか2話構成になるかは微妙な所です。