ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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めっちゃ短い話の集まり。


その40.彼ら彼女らの一幕・伍

『食道楽』

 

 ハグレ王国。ちゃきちゃきカフェ。

 

 和国料理、特に寿司を重点して扱うこの新規店舗は瞬く間に人気を博しており、今日もまた新たな客が訪れていた。

 

「へいおまち」

 

 店主の柚葉が持ってきた料理。盆の上には茶碗によそわれた米の上には新鮮な鮪の切り身を醤油に漬けたもの。海苔。大葉。白胡麻が乗せられており、食欲をそそる香ばしいかおりを漂わせている。その横には野菜の浅漬けが添えられ、その他には急須があった。

 

 出されたそれに満足げに頷き、客……ラプスは箸を手に取った。

 

「いただきます」

 

 ラプスは食材と料理人への感謝を込めた礼儀正しい挨拶をする。生まれた時から叩き込まれてきた食の作法だ。

 まずは切り身を一切れ食べる。醤油とみりんと生姜の混合液によく漬けられた鮪は、海の風味をより複雑で味わい深いものにしており美味だ。

 次に白米と合わせて口に運ぶ。胡麻の香ばしさと大葉の爽やかさが調和して旨い。白米が口の中に残る濃い味を流していくため飽きることもない。

 

 半分ほど食べた後、急須に入っただし汁を回しかける。赤身が白く変色して縮み、香ばしさはさらに増した。ラプスはそれを啜るようにかきこむ。だし汁の熱によって少々固くなった赤身は、食感の変化によって異なる味わいをもたらす。

 勢いを止めることなく最後の一口。米の一粒、汁の一滴も残さずにたいらげ、茶碗と箸を置く。そのテーブルの上には、既にいくつかの平皿が空の状態で積み重なっていた。

 

「ごちそうさま。店主、お勘定」

「あいよ」

 

 すぐさまやってきた柚葉に金貨を渡し、ラプスは店を出た。

 

 ラプスはおもむろにメモを取り出しチェックを付ける。その部分には「ちゃきちゃきカフェ」と記されており、さらに上には「モーモードリンク」、「愛情おむすび」、「ベーカリーパン」など王国の食事処の名前が余すところなく記されていた。

 

「んー、今日はこれぐらいにしとくか」

 

 また来るときには新しい店でもできているのだろう。ラプスはそう思い、腹をさすりながらどこへなく去って行った。

 

 武に生きる蒼海の龍。

 彼女の趣味は、その街の食を制覇することだった。

 

 

 

 

『研究室にて』

 

 召喚士協会。

 

 メニャーニャは忙しかった。時空アンカーの改良。古代兵器の復元。さらには己が考案した新型大砲についての発注に加えて、彼女は下の召喚士たちや外部との手続きの書類を捌く事務仕事に追われていたのだ。こういう時に頼りになるアルカナはいない。エルフ王国への視察か、あるいは各地で発生している魔物騒動への対処で方々を飛び回っているのだ。協会長はすでに書類の海に沈んだ。

 

「ふう……」

 

 一区切りがついたところでメニャーニャは椅子に体重を投げ出した。かつて在籍していた貴族の名残である無駄に高級な椅子だが、今この時ばかりは彼女を癒していた。できることならアルカナに甘やかされたい。自分からは絶対口に出してやらないが。

 

「お疲れ様、メニャーニャ」

 

 机に突っ伏していたメニャーニャの前にマグカップが差し出される。

 視線だけを動かすと、そこにはシノブがいた。

 

「シノブ先輩……」

「あったかいもの、どうぞ」

「はぁ。あったかいものどうも」

 

 若干申し訳なく思いながらもマグカップを受け取る。カフェインが程よく疲弊した脳と体に染み渡って気が緩む。そんな後輩の様子を見てシノブは和みつつ、その激務っぷりを心配した。

 

「私も手伝った方がいい?」

「お気持ちはありがたいですが、私の管轄なので」

 

 シノブは協会に間借りしている状態だが、手続きを踏んで戻ってきたわけではない。アルカナが私的に抱える助手というのが適切な表現で、そんな彼女に事務仕事を任せるのは色々と気が引ける。

 

「メニャーニャは一人で抱え込んじゃうから心配よ」

「どの口が言うんですか」

 

 思い詰めた挙句、一人で野に下ろうとした人物に言われても説得力がない。

 

「大丈夫ですよ。手の抜き方はどこぞのろくでなしから十分学んでますから」

 

 メニャーニャは冗談めかして言った。状況は過酷だが、研究設備も整っている今の環境は快適そのものであった。

 

「こら、先生を悪く行ったらだめよ」

「そうは言いますがね、あの人シノブさんにも普段からべったりじゃないですか。いい年してるのにどうかとは思いますよ」

「確かに先生は普段はだらしないけど、あれだけ頑張ってらっしゃるのならそれでもいいと私は思うわ」

 

 師のシノブに対する割と過剰な溺愛っぷりを指摘してみたが、どっちもどっちな様子に駄目だこりゃとメニャーニャは肩を竦めた。先ほど自分も構われたいと思っていたのは棚に上げている。それもこれもアルカナが世話焼きなのが悪い。

 

「ところでメニャーニャ。あれの件についてなんだけど」

「ああ。あれですか」

 

 話は一転し、以前に鹵獲した兵器について語り合う。

 手加減とか考えている暇がないぐらいの激戦で得られた戦利品はほとんどスクラップも同然だったが、ほぼ無事なものを一機だけ確保することに成功できた。

 

「実は、マナ吸収の仕組みを何かに転用できないか考えてるのよ」

「奇遇ですね。私もいくつか考えているんですよ」

「あら、それは気になるわね」

「ええ。今作ってるのに流用できそうな仕組みがいくつか」

 

 相対したときは末恐ろしい代物だったが、いざ解体してみるとあれやこれやと案が浮かびあがり、自分の研究に組み込みたい欲求が沸き上がっていた。

 それに未知のテクノロジーを見せられ、研究者としての血が騒いでいるのはどうやらシノブも同じだったらしい。

 

 彼女らはお互いの見解を言い合いながら、師の帰りを待つ。

 

 そんな、穏やかな時間の一幕であった。

 

 

 

『大暴走』

 

 帝都近辺の街道。

 

 帝国管轄の大きな街に繋がり、貨物馬車や旅人、冒険者が行き交う帝国の動脈ともいえる道だが、この日は話が違った。

 この日は悪名高き集団がこの辺りを占領し、爆走と略奪を行うことで有名な日だったからだ。

 

 甲冑を着こんだ者、処刑人を思わせる格好の者、苦行者めいた者などが三段シートで馬を駆る。その後ろには巨大な馬車が続き、パイプオルガンによる讃美歌がかき鳴らされ、乗り込んだ修道士によるコーラスが響き渡る。

 十字の旗をはためかせ、高らかに駆け抜ける彼らの中には人間の他、獣人や亜人種が見受けられる。彼らは種族による差別を行わない。彼らとそれ以外を区別するのは教義である。

 

 彼らの名は装甲十字軍。

 

 主の威光をこの世界に示すという名目で、殺人、強姦、掠奪を行う最悪の暴走族である。

 

 哀れな生贄を求め、狂信的な暴走を行う彼らを恐れて多くの者が脇道に逸れる。彼らも小物にはいちいち目をくれなかった。

 

 十字軍の目的は目の前を走る一つの馬車。

 彼らが悪魔の手先と定めるエルフ王国から現れた馬車を捕らえ、異端審問にかけるべく追跡を行っている。しかし、彼らは想定外の抵抗に遭っていた。

 

「おのれ、忌まわしい魔術師めが……!」

 

 流星によって騎馬を撃ち抜かれ、また一人脱落していく様子を見て特攻隊長のバルトマは顔を歪める。

 馬車に乗っているのは何人かの召喚士であり、包囲しようとする十字軍を魔法で迎撃しているのだ。

 無論、この程度で怯むものはいない。

 

「嘗めんじゃねッコラー!」

「異端審問だ夜露死苦ゥ!」

 

『右の頬を打たれたら左の頬で相手を粉砕せよ』、『罪なきもののみが石を投げよ……我らに罪なし』などの恐るべきスローガンに従い、彼らは果敢に武器を振りかざしていく。というかほぼただの暴走族である。

 

「ははは。騒がしい奴らだ」

「笑ってる場合じゃないお。あいつらしつこいお」

 

 そんな彼らを見てアルカナは苦笑した。然り、これは召喚士協会の馬車である。エルフ王国との作戦会議を終えた帰路の途中、狙ったかのように十字軍と出くわした。そして難癖をつけられ、こうして逃げながら応戦しているのだった。

 

「サンダー!」

「アイス!」

 

 協会に属する召喚士が魔法を放ち、十字軍を後退させる。しかし一部の者は魔法を打ち払い、執拗に追いすがってきた。フックロープやモーニングスターを持ち出し、馬車に直接攻撃を試みる者もいたが、そうした危険存在はアルカナが直々に撃ち落としていった。時折飛来する矢はブーンがYの字めいた巨大戦斧を振り回して叩き落としている。

 

「召喚士の方々、どうするんですかい!?」

 

 御者台から声がかけられる。御者の手綱を握る力がより強くなった。

 

「このまま突っ切ってもらいたい。流石に彼らも、帝都の真ん前まではやってこないからね」

「あいよ! さあ、もうひとっ走りいくぜてめえら!」

 

 御者は手綱を引き締め、馬に命じた。彼はこの辺りで名を馳せる生粋の走り屋であった。彼の駆る二頭の馬もまた、主人と共に走りに命を懸ける猛者である。力強い嘶きが空に響いた。

 

 

 

『今日から君も』

 

 ハグレ王国、土産物店。

 

 今日も今日とて、王国民からの特産品アイデアが寄せられる。

 

『ようデーリッチ。折り入って相談があるんだけどよ。秘密結社に足りないものが何なのか、俺は悩んできた。そしてこの前気が付いたんだ、シンボルがないって。そりゃ嘗められるに決まってるさ。こういう組織はちゃんと組織の象徴があるってのに、俺達にはそれが無かったんだ。というわけで、秘密結社のグッズをよろしく頼むぜ。バッジとかワッペンとか、身につけられるやつが良いと思う』

 

 と、ルークの発案があり。

 

「あんたもアイデア投げっぱなしかい! ……仕方ないわね。確かに、うちのゆるゆる秘密結社も何かしら掲げるものがあればシャキっとすると思うわ。しかしバッジって……。男子ってホントこういうの好きよね。というか秘密結社がらみの特産品ダブったじゃない。別にいいけど」

 

 と、ミアラージュが製作に取り掛かったのが3日前の事。

 

 

「できたわよー!」

「おお!」

 

 ミアラージュの言葉に、ルークやヘルラージュは勢いよく立ち上がった。

 ミアが持ってきたもの。それは紫色に輝く缶バッジだ。

 

「これで秘密結社に入りたいと駄々をこねる子供も満足ね!」

 

 秘密結社バッジ!

 その名の通り秘密結社ヘルラージュの構成員であることを示すバッジである!

 

「ちなみに五種類用意したわ。これを駄菓子屋のガチャガチャにでも入れておけば子供たちの行列ができるでしょうね」

「それ最後の一個だけ出ないやつだな」

「お姉ちゃん中々のワルですわね」

「商売の事も考えなきゃいけないでしょ」

 

 こういうのにはお約束のコレクション要素も欠かさない。コンプリートを目指す子供たちの財布を空っぽにする恐ろしいものが世に解き放たれた瞬間である。

 

 そんな話は置いておいて、ようやく秘密結社のシンボルが完成したのだ。

 

「それじゃあ、身に着けさせてもらいますよ」

「はい、待った」

 

 早速バッジを装着しようとしたルークだが、ミアの手によって止められる。

 

「およ?」

「あなた達には別のを用意してるのよ」

「なんですと?」

「はい。こっちが正規の構成員用よ」

 

 そう言ってミアが取りだしたのは缶バッジとは異なる襟章だった。

 

「ちゃんとあなた達の服に合うようにデザインしたんだからね」

「わあ、早速着けましょう!」

「ああ!」

 

 きらりと光る紫の襟章は、ヘルのドレスとルークのスーツの両方にアクセントを加える。花を象ったと思わしき六芒星の形はどこか魔術的なアイテムらしさも感じさせ、ミステリアスさに磨きがかかっていた。

 

「おお……! 実際に装着してみるとやっぱり自分達のシンボルなんだなって実感が湧いてくるぜ」

 

 まさか自分達専用のものが用意されるとは思ってもいなかったルークにとってこれは大満足なものだった。これでナスビスーツによるゆるゆるな雰囲気は幾らか引き締められたと思いたい。

 

「これでもっと悪の秘密結社としての印象が強まったわ。ありがとうお姉ちゃん!」

「何言ってんの。発案者はルークじゃない」

「あっ……、そうでしたわ。ルーク君、お手柄ですわ!」

「いやあ。俺のふんわりしたアイデアをちゃんとデザインに纏めてくれたミアさんのおかげっすよ」

「そう? だったら二人の為に作ってあげた甲斐があるわね」

 

 ミアラージュはにやにやしながら特大の爆弾を投げ放った。

 

「……え?」

「ナスビスーツにそんなおしゃれなの似合うわけないでしょ。だから二人が付ける用よ、それ」

 

 二人のため。

 つまり彼ら専用の特注品。

 ……二人だけの、お揃いのデザイン。

 

(え、もしやこれペアルック?)

(ルーク君とお、お揃いなの!?) 

 

 その事実に気が付いた二人はほぼ同時に頬を赤らめる。

 そんな二人をミアは生暖かい目で見るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

『――という訳で、こちら怪人用缶バッジとなります。デーリッチには礼として、五つ揃ったセットをあげることにした。怪人たちの分は別にあるからこれは王国用だな。装備品として使えるからガンガン使ってくれ』

 

 ――装飾品:☆秘密結社バッジ(風属性+20%、近接+20%)を手に入れた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでこの形って何なんです?」

 

 襟章の形が気になったルークがミアに尋ねる。

 

「ああ、モチーフ? もちろん茄子の花よ」

「やっぱり茄子なんかーい!」

 

 結局茄子からは逃れられないのであった。

 

 

 

『深淵を覗いた末路』

 

 ある洞窟を一組の冒険者グループが探索していた。

 それはこの洞窟の深くにのみ自生する薬草類を採取してくるクエストを受諾したからだ。

 

「ねえ。何だかおかしくない?」

 

 魔法使いの女が不安げに言った。

 彼女はここまでの道中に言いようのない違和感を感じていたが、それが何なのかをはっきりと理解できず、今まで口に出せなかった。その違和感は進むたびに強くなっていき、彼女の中では最早無視できないほどにまで育っていた。

 

「あ? どこがおかしいんだよ?」

「そうですよ。洞窟に入ってから特に何もなかったじゃないですか」

 

 戦士の言葉に僧侶も頷く。実際、彼らの旅路は順調だった。

 村から遠く離れたこの場所へ向かう途中、何度か魔物と戦闘したものの敵では無く、さらに洞窟に入ってからは魔物に遭遇することは無かった。

 

「だから、何もないのがちょっとおかしいなって……」

 

 彼らが事前に調べた限り、この洞窟の奥部は海に近くサハギンなどの水棲種の魔物が多く生息しているという情報だった。洞窟を進んでそれなりに時間がたつ。だと言うのに魔物との遭遇がないことを魔法使いは怪しいと思っていた。

 

「サハギンは群れるんだろ? そいつらがひっそりと過ごしてるだけじゃねーのか」

 

 サハギンは人間とほぼ同じ知性を持つ。

 ハグレとして迫害傾向にある彼らは、こうして洞窟に身を潜めることが多く、また冒険者と出くわしても縄張りを侵さない限りは襲ってこないのである。

 

 だから特に心配することじゃないと戦士は主張するが、魔法使いの懸念はそれだけじゃなかった。

 

「それに周りを見てよ。明らかに洞窟じゃなくなってるわよ」

「言われてみれば。やけに整っていますねここは……」

 

 僧侶が辺りを見回しながら言った。岩肌が露出していた壁はいつの間にか苔生した石畳に変わっていた。

 明らかにおかしい。事前情報には自然洞窟だと記してあった。だというのに、高度な人工物が存在する。サハギンがこのような建築は行わないはず。明らかに不自然であった。

 

 僧侶の額に冷や汗が滴る。

 始めは軽いと思っていた行程が、まるで奈落への下り坂に思えてきたのだ。

 

「何だか嫌な予感がします。まるで我らが神の加護が届かぬような……」

「ほら! やっぱりおかしいって」

「だとしてもよ。草をちょちょいと取ってくるだけだろ? なら心配する必要もねえって。冒険者なんだからある程度のアクシデントは承知の上じゃねえか」

 

 戦士は敢えてそれらの違和感から目を逸らした。どの道、この依頼を完遂できなければ赤字なのだ。ならば多少の不確定要素を許容するしかない。そう己に言い聞かせた。

 

 そのままパーティが先に進むと、不意に先が開けた。

 薄い光が見え、強い磯の香りが彼らを出迎えた。

 ……おそらくは、サハギンの住処か。

 

「俺が行く」

 

 戦士が様子を見にいった。不測の事態に備えるため、彼が斥候の役割も担っているのだ。

 何かが飛び出してくる可能性を警戒しながら、壁に身を寄せ、恐る恐るといった様子で顔を出す。

 もしサハギンとかちあった場合、極力戦闘は避けたい。友好的に接するべくまずは様子を伺おうとした……

 

「なんだ、こりゃあ……?」

 

 戦士は目の前に広がっていた光景に目を剥いた。

 

 ――そこは大きく開けた空間だった。

 かがり火によって薄く照らされた壁や床には、解読不能な言語で描かれた呪文がびっしり刻まれている。

 ゆらりゆらりと、巨大な魚が空中を泳ぎ、その底には何らかの陸生動物の骨が散乱している。

 それは記憶にあるサハギンの住居とはかけ離れており、彼の冒険の中でも明らかに異常な光景がそこにはあった。

 

 戦士の脳裏にある言葉がよみがえる。

 

『不用意に深淵を覗き込めばたちまち引きずり込まれる』

 

 自分達は今まさに深淵へ足を踏み入れようとしていたのだと気が付いた。

 

「おい、引き返すぞ。ここはやば――」

 

 戦士は慌てて二人に呼び掛けようとした。

 それは既に遅い試みだった。彼らはとっくの前に足を踏み外していたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「おや? もう帰るのかね? 折角の人間だ、歓迎してやろうではないか」

 

 

 

 

 

 

 

 戦士の肩に手が置かれた。

 気配は一切感じなかった。

 戦士の全身から体温がさっと引いた。

 声の主は極めて冷静に、どこか感心した様子で語りかけてきた。

 

 戦士は振り向こうとしたが、できなかった。

 頭を押さえつけられ、固定されているのだ。

 

「あ、あ……」

「よい苦悶だ。もっと味合わせたまえ」

 

 僧侶と魔法使いにはその姿が見えていた。

 薄明りに照らされたその存在が!

 蛸のような頭部を持ち、貴族めいた服に身を包んだ人型の異形の姿が!

 

「おやおや。これはこれは冒険者ですか」

 

 恐怖で足をすくませる彼らの元へ姿を現したのは、この場に似つかわしくないビジネススーツに身を包んだ男であった。この異常事態を目撃しながら平然とする様は、冒険者たちの味方ではないことを雄弁に語っていた。

 

「まさかここまで侵入するとは……、早いうちに祭壇の場所を移した方がよいかもしれませんね」

「ハグルマよ、こやつらは貴様らと関係のある者か?」

「皆目見当もございません」

 

 ハグルマが頭を横に振ると、蛸頭の異形は喜ぶような声で言った。

 

「ならば我らのものにして構わんな?」

「ええ。今運ばせましょう」 

 

 パチン。と男が指を鳴らすと鱗に覆われたサハギンが続々と現れ、彼らを拘束する。ここに住んでいたサハギン達は最早ハグルマの支配下にあった。

 冒険者たちは必死で抵抗したが、すぐにそれは徒労に終わった。

 

「さあ下僕どもよ、この者らを祭壇へと運べ」

 

 蛸頭の異形――脳漿喰らい(マインドフレア)と呼ばれる深人はサハギンたちへ哀れな生贄を祭壇へ運ぶように命じた。

 深海に潜むおぞましき貴人は、己の手の中にいる戦士の顔を覗き込んだ。

 

「久方ぶりの食事だ。長く苦しんでもらうぞ人間」

 

 戦士に許されたのは、悲鳴だけだった。




『装甲十字軍』
元ネタはサタスペに出てくる同名の独立盟約。湾岸高速を讃美歌をかき鳴らしハーレーに乗って暴走するキジルシ集団である。


という訳で掌編5つをお届けしました。
次から原作で言うマリネリス渓谷の辺りに入ります。原作とは全然違う内容になるのでこれぐらいの進行度という目安ぐらいにお考え下さい。
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