ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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原作がログアウトした3章後半戦はじまるよー。


その41.サハギン前線のようです(1)

『動乱の先触れ』

 

 ハグレ王国。

 

 今日も今日とて王国会議はつつがなく進行しており、皆がそれぞれの活動内容を報告していく。

 

 皆でてこてこ山へとピクニックに行ったり。

 

 柚葉の金魚売りが何一つ実を結ばずレアイベントを無駄にしたり。

 

 イリスの持ってきたジャンクフードに王国民が食いついたり。

 

 ドリントル主催の儀式で呼び出したUFOからジャムを貰うついでに、ルークがアブダクションされかけたり。

 

 特別なイベントが特別じゃない感じで流されていく中、彼の報告は少し違った。

 

「……これを見てくれませんかね」

 

 報告者であるルークが取り出したのは一枚のチラシ。

 

 その内容は……おお、なんたることか!

 召喚士の用いる魔法陣の中心に配置されているのは、帝国の国章。それをさらに上から×印を重ねたという極めて挑発的なマークを描いたポスターである!!

 

「これは……」

「こんなポスターが街中に堂々と張り付けられていましてね」

 

 遡ること少し。ルークは行商の活動で、ある酒場に立ち寄った。そこの掲示板に目立つように張り付けられていたのがこのポスターであった。

 

「他にも色々とビラが撒かれていましたよ」

 

 そう言ってルークは次々とチラシを提出する。それらは共通してハグレを讃えるような文言や帝都や召喚士協会を批判する文章が書かれ、決起や抵抗を煽るように赤い色や振りかざした武器などでデザインされており、同じ組織の名を記していた。

 

「『召喚人解放戦線』……?」

 

 解放や戦線といった穏やかじゃないワードを用いたこの組織は、どこからどう見ても政治的な目的を持った組織だ。

 

「ハグレについての云々を主張する権利団体ってだけなら特別珍しくはないが……やっぱりこれは」

「大方、連中の組織の名前でしょうね」

 

 今の情勢で帝都に喧嘩を売る者など、彼ら以外には考えられない。

 そんなルークの意見にローズマリーも同意する。

 

「そういえば、僕もこの前似たようなものを見た覚えがあるよ」

「本当かアルフレッド? こちらではそのようなものを見た覚えは無かったな」

「だとしたら、うちの領域内には貼られてないってことですかね」

 

 ジュリアやアルフレッドなど、世間の情勢に詳しい者達からも目撃情報が相次いだ。どうやら相当な範囲にばら撒かれており、尚且つハグレ王国の影響が強い地域は避けているようだった。その事実もこれがマクスウェルやアプリコの属する組織であるという確信を強めていた。

 

「それと、最近どっかの領主館が襲撃を受けたって新聞に書いてあっただろ? これはもしかするかもしれませんよ」 

 

 此処の所、帝国領各地では物騒な事件も増えている。ハグレ王国とは直接関係のない出来事であったために感心も薄かったが、直近の事情も合わせると結び付けない方が難しいだろう。

 

 

 危機的アトモスフィアが会議室に張りつめる。

 その時だった。

 

 

「どうも。会議中だが邪魔させてもらうよ」

 

 ハグレ王国の会議に割り込むようにしてアルカナが現れた。いっそすがすがしいまでのタイミングだった。

 

「アルカナさん、いいところに」

「ご機嫌麗しゅう参謀殿。国王殿も息災のようで」

 

 デーリッチに対して恭しく礼をした後、長机の上に広げられたプロパガンダ広報紙をアルカナは見た。彼女はおもむろに懐からあるものを取り出す。

 それは卓上に広げられたものとほぼ同じ紙だった。

 

「ふむ。どうやら()()については知っているようだね。なら話は早い」

「アルカナさんのほうでもこの組織について何かあったんですか?」

「ちょっと違うね。でもこれが絡んでいるのは確か」

 

 少し間を置いてから、アルカナは本題を口にした。 

 

「率直に言おう。エルフ王国に跳んでもらいたい。向こうにアンカーは設置済みだから、周辺地域にスポーンしていちいち歩いたりする心配はいらないよ」

「……ついに攻めてきたんですか?」

 

 問いに返ってきたのは、頷き。

 アルカナの説明は端的だったが、ローズマリーにはそれが何を意味するのか理解した。

 

 

 エルフとサハギンの、戦争が始まるのだ。

 

 

 

 

 

 

 エルフ王国へとゲートを開けたハグレ王国の面々は執務室へと通される。

 

「ようこそエルフ王国へ。私が女王のリリィ。歓迎するわ」

 

 上座には気丈さを漂わせる美しい金髪の女性、このエルフ王国の女王であるリリィが座っていた。

 女王との挨拶もほどほどに、アルカナが口を開く。

 

「それじゃあ改めて、現状について説明しよう。エルフとサハギンの拮抗状態がハグルマ教団の介入によってサハギン側に傾き始めた。ここまでは以前に説明したとおりだ」

 

 アルカナが目くばせをすると、リリィ女王は話し始める。

 

「あんた達も戦った魔導鎧だっけ? 確かにサハギンが身に着けてきた鎧も同じ感じの仕組みだったわ。でも仕掛けが分かれば対策できないものじゃない。だから正直に言って、あんたたちの助力もそこまでいらない筈だった」

「だった?」

「そうもいかなくなったのさ。ほら、この組織だよ」

 

 アルカナは先ほどの革命ポスターをひらひらと揺らしてみせる。

 

「各地のハグレ集落に使者を送って扇動やら勧誘やらしてるって話さ」

「そうね。ここにもその使者とやらが来たわ」

 

 リリィの脳裏に蘇るのは、ビジネススーツに身を包んだ男の姿。飾り気のないその恰好からはちぐはぐな磯の香りを強い香水でかき消そうとした努力の痕跡が感じとれ、少なくとも見てくれだけならばただの人間だった。

 

 エルフたちの警戒心に満ちた視線を一身に浴びながらも、その男……ウオスキと名乗った営業マンは臆することなくこう述べた。ハグレの解放のため自分達と同盟を結ぼうではないかと。

 

『同盟って……一応聞くけど、私達とサハギンのことを分かってて言ってるんでしょうね?』

『勿論存じておりますとも。確かにあなた方と我らの隣人たちは()()仲が悪い。とは言え、私達は同じ境遇にあります。かつて生まれた地から遠く離された挙句ハグレなどという誹りを受けたもの同士として、そして今は種族の確執あれど今は共通の敵を持つ同志として手を取り合い戦うべき。今こそ狼藉を繰り返した帝都に気高きエルフの誇りとやらを見せつけるときであると、我らが代表から言葉を預かっております』

 

 とにかくよく口が回る男だ。彼自身がそう思っていなかろうと、これだけの口上を顔色を変えずにまくし立てられるのは称賛に値する。その巧みなセールストークで、多くの村や冒険者を顧客に仕立て上げてきたのだろう。警戒と猜疑に満ちていたリリィすらも、つい耳を傾けかけるほどだった。

 

 とにかくまずはハグレとして団結し帝都を攻める。

 そこから先の話は、各種族の意志を尊重しようではないか。

 

 概ねそのようなことを言ってきたのが、数日前の事になる。

 

「それで、何て答えたの?」

「勿論――突っぱねてやったに決まってるでしょ。あんな見え見えの欺瞞に引っ掛かるわけないじゃない」

 

 愛想笑いを顔に貼り付けてはいるものの、その振る舞いの節々の奥底にはエルフを見下す素振りが見えた。よく隠してはいるものの、その程度の感情を読み取れぬほどエルフ女王は愚かではない。

 

 そして何より――

 

『確かあなた方は今、召喚士協会の重鎮……アルカナと言いましたか。その者と懇意にしているようですね。親切心から申し上げますがね、それはおそらく我らを飼いならそうとする欺瞞です。彼女は十年間もハグレの懐柔を試みてきました。戦う気概を奪う悪魔の罠です。それはそうでしょう。召喚士としての名誉を回復させるにはハグレを言葉巧みに洗脳し、あたかも協力させているように見せかけ意のままに操れるようにするのが最も効果的だと考えているのです。そしてハグレの中には嘆かわしくも絆され、我らの言葉に耳を傾けぬ軟弱者まで出てしまった。聞けばかの猛将マーロウすらも彼女に牙を抜かれたというではないですか。ですが! 聡明なあなた方エルフは違う。かような帝都の工作活動に騙されることなく真に戦う相手を見ることが『そう、もういいわ』――え?』

 

 召喚士協会への戦意を煽るために行ったであろうこの言葉こそが決定的だった。

 

 リリィは手に持ったワインの中身をウオスキへとぶちまける。

 整えた髪が乱れ、唖然とするその顔にエルフ女王は言い放った。

 

『お前たちの話を聞く価値はない。金輪際うちの門をくぐる事を禁じるわ。……二度とその面を私の前に見せるな』

 

 普段ならばこのような無礼者相手には激昂していた筈だ。しかしこの時彼女は自分でも驚くほどに冷静だった。側近たちからしてみれば、あれほどに冷え切った声を出す女王の姿を見たことはこれまでに無かった。

 

『ぎっ……! 下手に出ていれば調子に乗って!! 所詮文明の良さを知らぬ野蛮な田舎者の集落風情が、我ら偉大なるハグルマの文明と大いなる深人の神と親愛なる同盟者の兵力による圧倒的暴力の前に蹂躙されて後悔しなさい!!』

『負け惜しみが長い! とっとと帰れ!!』

 

 などと言いながら逃げ帰っていったのは記憶に新しい。 

 

 実際、これはほぼ挑発に近く、最初から同盟を結ぶことは当てにしていなかったのだろう。この数日の間でサハギン達は各地に散逸した種族を集結させ、エルフ王国に向けて進軍を開始したのだ。

 

 

「……と、まあそういうことで今まさに戦争が始まるかの瀬戸際なのよ」

「なんというか……勝手に自滅してるよねそいつ」

 

 心底腹立たしいと言った様子でリリィが語った内容にエステル含め他の者達も呆れた様子。

 

「ま、もともと人の弱みに付け込んで商売してる連中だ。ナチュラルに相手を見下してんのが裏目に出たのさ」

 

 けらけらと笑ったアルカナだったが、すぐにその表情からは笑みが消えた。此処から先は、冗談を言ってる暇がないのだ。

 

「それで、そちらが把握しているサハギン軍の戦力は?」

「……さっき戻ってきた偵察の報告だと、ざっと5千」

 

 リリィは苦虫を噛み潰したような顔で言った。

 それを聞いてアルカナは自分の耳を疑った。

 以前の進軍の時だと千人にも満たない数だった。

 明らかに増えている。

 

「内訳は?」

「こないだあんたが言ってた魔導鎧をつけたサハギン達が6割ぐらい。宙に浮かぶ金魚を乗騎にしてるのもほんの僅かだけどいたわ」

「残り4割は?」

烏賊(イカ)ロスに河童、ほかにも見たことが無い種族がいた。ここ最近で見違えるほどに数を増やしてんのよ。数だけで言うなら、ハグレの中で最も多いでしょうね」

 

 そのことを聞いて、アルカナはおおよその事情を把握した。どうみても帝国が把握しているサハギン族の数よりずっと多い。だとすると、恐らくは極めて大規模な召喚……いや世界間の接続が行われている。事態は想像以上に面倒なことになっているようだ。正直頭が痛くなる思いだ。

 

「……大体わかった。連中、十中八九召喚を行ってる。ハグルマが選択的な召喚を行って、サハギンを始めとした深人種(ディープワン)の数を意図的に増やしているんだ。それでこの世界のサハギン達の気を大きくして抱き込んだんだろう。帝都より先にエルフに戦争を仕掛けたのは、おそらく試金石だな」

 

 何せあちら側のバックにいるのは種族そのものを崇拝対象にするカルト組織だ。

 その崇拝対象と種族単位で敵対している相手ならば、同じハグレだろうと滅ぼしても構わないと言う魂胆なのだろう。その上で同盟を持ち掛けてきたというのだから、面の皮が厚いどころの話ではない。

 

「私達で新兵器の威力を確かめようって訳? 冗談じゃないわ」

 

 やっぱり突っぱねて良かったわとリリィは鼻を鳴らす。

 

 仮に手を結んだとして、帝都への侵攻が完了した後に帰す刀で自分達をも支配下に置く気満々だったのだ。あるいは、そのまま滅ぼすつもりかもしれない。

 

 どちらにせよ、嘗められっぱなしで黙っているリリィではないのだった。

 

「あいつらは徹底的に凹ますわ」

「ですがどうするんですか? 流石に私たちでもその数を真正面からというのは……」

 

 エルフ王国の兵力は数百人程度。

 他集落からの助力を期待しようにも、合流までには時間がかかる。

 いくらハグレ王国が強力とは言え、多勢に無勢と言わざるを得ない。

 

「まあ、流石にそんな無茶は言わないよ。それに召喚が行われてるならいくら叩いたところで無駄でしょうし」

「ではどうする?」

「簡単だ。まずは補給路を断つ」

 

 アルカナの予想ではこうだ。

 

 サハギン達を呼び寄せている召喚ゲートがあると仮定、これを封鎖して増援を無くすことができる。そうでなくとも前線基地を後ろから叩き、サハギン軍を撤退させる。

 

 そのための工作隊として選ばれたのが、ハグレ王国だった。

 

 

「なるほど……」

「問題は、連中の拠点がどこにあるのかって話なのだけれど……」

「それについても探らせてる最中ね。そろそろ帰ってくるはずよ」

 

 と、まるでリリィの言葉を待っていたかのように、執務室のドアがノックされる。

 

「リリィ女王! 斥候隊が帰還しました!!」

「入っていいわよ」

 

 入ってきたのは整った顔立ちの男エルフだ。その油断なき足取りからは彼が一角の戦士であることが伺える。彼はハグレ王国の面々を一瞥し、リリィの前まで歩み寄り、そして跪いた。

 

「ただいま帰還しましたリリィ女王陛下」

「ご苦労様、クリス。相変わらず堅苦しいわね。それで、どうだったの?」

 

 無駄な前置きは不要とばかりに、リリィは結果の報告を促す。

 

「はい。サハギン族の拠点を突きとめました」

「そう、なら早速攻めに行って。そこのハグレ王国と一緒にね」

「なるほど。彼女達がハグレ王国……」

 

 クリス、と呼ばれたエルフは立ち上がりハグレ王国に向き直る。

 

「クリストファーです。よろしくお願いします」

 

 エルフ男性は紳士であるとの評判に違わぬ見事なお辞儀だった。

 

「道案内はクリスに任せるわ。少々礼儀にうるさくて堅苦しい奴だけど、うちでは一番の弓使いよ」

「わかりました。ですが、そうするとそちらは戦力がいなくなってしまうのでは……?」

 

 数で劣勢な以上、自分達の中で強力な戦士は防衛に回した方がいいのではないかとローズマリーは心配する。

 

「問題ありませんよ。そのために私たちが呼ばれたのです」

 

 後ろからかけられた渋い声に振り向く。

 そこには青い体毛の屈強な戦士、マーロウが立っていた。

 

「マーロウさん!?」

「お久しぶりですね皆さん。どうやら国王殿を無事に救出できたようでなによりです」

「貴方もこの戦いに?」

「ええ。私もその解放戦線とやらには思うところがありますので」

 

 マーロウはそう言い、ぐっと拳を握りしめる。理不尽への義憤を表すように体の表面に電光が迸る。雷を得意とする彼は、水棲種族で構成されるサハギン軍を迎撃するのにあたってこれ以上なく適任であると言えた。

 彼をこの場に呼んだ張本人であるアルカナが詳細を説明する。

 

「マーロウには正面部隊に加わってもらうつもりだよ。彼ならばサハギンをしばらくは寄せ付けないだろうね」

「まあ、私もいるんですけどね」

「メニャーニャ!?」

「お久しぶりですー。私も先輩方に同行させてもらいますよ」

 

 ひょっこりと姿を現したメニャーニャに、エステルが驚く。

 

「とりあえず魔導兵器を三機配備してきました。皆さん使い方を説明したらすぐに理解してくれました。流石はエルフというべきですかね」

「魔導、兵器……?」

「君達トゲチーク山の遺跡に行ったでしょ? その時のアレよ」

「……え、アレ!?」

 

 そう、本作では1ページ分も割かれずにぶっ倒されたアレである。

 

「いつの間にかメニャーニャが復元に成功してたみたいでね。ひとまずマナジャム突っ込んで動かせるようにしたから試運転がてら防衛に役立ってもらうのよ」

 

 敵がこちらの知らない技術を持ち出してきた以上、こちらも新しい力を手にする必要があった。そこでメニャーニャが前から個人的に研究していた古代兵器に白羽の矢が当たったのである。

 

「流石に新型大砲は許可が下りませんでしたので使えませんがね」

 

 協会で開発に取り組んでいる新型大砲のお披露目ができないのが残念だとメニャーニャは肩を落とす。貴族派を締め出したことで皮肉にも研究機関としての側面が強まった協会では、ほぼ欠陥兵器だった大砲の改良研究が異例な速度で進められている。彼女も口を挟んだ身として実践投入をしたかったのだが、色々あって叶わなかったのだ。

 

「知らない間に協会が物騒になっていってる気がする……」

「元々平和ボケしてただけよ。仮にも研究機関だってのに足の引っ張り合いばかりしてた昔よりはマシになったってぐらいだけど」

 

 かつての古巣がどんどん兵器を量産している事実に顔を引き攣らせたエステルに、アルカナは今までが何もしていなかったのだと自嘲するように吐き捨てた。

 

「ところでシノブは?」

「悪いけどあの子はお留守番。こんな作戦に突き合わせるのはちょっとね」

 

 いくら人智を越えた力を持っていようとその精神は荒事に向いていない。トゲチーク山で魔物を殲滅した時とは状況も違う。そんな彼女に明確に知性ある存在を害させるのは割り切りの強いアルカナとて憚られた。

 

「しかし、よくもまあこんなに兵器を持ち出すことを帝都は許したわね」

「まあそうだな。実のところ、今回の一件はそもそも協会に帝都から直々に下された命令なのよ」

「帝国が? あんたじゃなくて?」

 

 ハグレを冷遇すれど手助けを行わないことに定評のある帝国がエルフに救援を出すとは到底思えず、リリィはアルカナに事の仔細を訊ねる。

 

「上層部もこの前の領主館襲撃で流石に危機感を持ったみたいでね。今ここで君達を放置すればエルフ王国がそっくりそのまま解放軍の前線基地に早変わり。そうなれば帝都は地理的にも戦略的にも不利に立たされる。なので協会が調査を兼ねて救援に向かわされた。オーケー?」

「オーケー。せいぜい義を果たさせてあげるわよ」

「全くだ」

 

 どうせハグレ王国と妖精王国に強みの経済すら乗っ取られかけているのだ。帝国が見栄を張る程度は大目に見てやることにした。

 そんな思いを込めて皮肉たっぷりに言ってやれば、アルカナはおかしそうに笑った。 

 

 

 

 

 

 

 サハギン軍はどうやら川を遡ってエルフ王国の領土まで進行してきているらしく、河口付近の洞窟が拠点の入り口だと推測された。

 クリストファーの先導を受け、ハグレ王国調査隊は川を下っていく。

 

「へぇー……クリスくんはリリィちゃんの幼馴染なんでちか」 

「先代からの付き合いがある、程度ですけどね」

 

 デーリッチの興味深そうな言葉に、クリストファーは照れくさそうに笑った。

 彼は思いのほか気さくなエルフで、ハグレ王国の面々ともすぐに打ち解けた。あの堅苦しい振るまいは女王の前で意図的に行っているとのこと。

 

「リリィは礼儀を軽んじすぎなのですよ。革新的と言えばいいかもしれないですが、あそこまで奔放だと逆に足を掬われる危険がある」

「わらわが言えたものでもないが、王族とはどこでも世知辛いものじゃのう」

 

 クリストファーは苦笑交じりに語る。エルフ王国の凝り固まった体制を一挙に改革した女王の政治手腕は目を見張るものだ。しかしその分敵も多く、その奔放な在り方は人に好かれやすい反面、必要以上の接近を許す事にもなる。何事もバランスが重要なのだ。この辺りは長い歴史を持つが故の弊害とも言えた。

 ドリントルも政治の闇を知っているというか政争から逃げてきた身なのでその言葉には真剣な表情で同意する。

 

「確かに、エルフの高貴なイメージとは少々違うよねあの子」

「でも高慢ちきなのは典型的なエルフのまんまじゃない?」

「それは違いないですね」

 

 ヤエの冗談めかした物言いにもクリストファーは笑って対応する。まさに紳士であった。

 

 勿論彼は人当たりがよいだけではない。リリィが言っていたように弓矢の扱いに長ける彼は、レンジャーとしての技能にも恵まれていた。

 

「む、待ってください」

 

 談笑を交えながら進んでいると、クリストファーが一行を制止した。

 

「あれは……」

 

 

 

 ――前方に目を凝らせば、魚類に手足をつけたようなサハギンの群れ。

 中には宙を泳ぐ巨大なキンギョに鞍をつけて乗りこなしている者もいる。空飛ぶ金魚とはよく言ったもの。まさにそのまんまだ。

 

「うわっ、ほんとに魚が宙泳いでる」

「どうする? あっちはまだ気づいてないようだけど?」

「近くに隠れる場所は……なさそうだ」

「もう少し目立つ真似は避けたかったが……贅沢は言ってられませんね」

 

 ジュリアが戦闘を回避できないか周囲を探るも、無理だと悟り盾を構えた。各々も武器や魔法の準備をし、油断なく相手の出方を伺う。

 

 サハギン達もこちら側に気が付いたらしく、リーダーらしき者が何やら手に持った小型機械に向けてだぎゃだぎゃ言っている。

 メニャーニャはそれが何なのかすぐに推測した。

 ……通信機だ! それもこの世界では実用化されていない携帯電話だ!!

 

「先生、あいつら無線通信機なんて使ってますよ!」

「何ぃー!? こちとらまだモールス信号レベルだと言うのに、けしからん!!」

「ぶちのめしましょう!」

「OK!」

 

 文明マウントを取られた気分になった二人は怒りのまま突撃する!! ……いや、あんたらも似たようなもん開発してますよね?

 

「おんどりゃーっ! 覚悟ぉー!!」

「だぎゃ!? お前は星の!?」

 

 いきなり突っ込んできた二人にリーダー格のサハギンは面食らい、対応が遅れてしまった。

 アルカナが流星弾で敵を薙ぎ払い、打ち漏らしをメニャーニャの雷魔法が焼き焦がしていく!

 その鬼神の如き暴れっぷりにサハギン達は成すすべなく打ち倒されていく!!

 

「ぎょえーーーっ!?」

「うろたえるなっ、二人で突っ込んできたなら囲んでしまえばいぎゃっ!?」

 

 キンギョに騎乗していた隊長サハギンが突如地面に叩き落される。

 見ればキンギョは頭部を矢で貫かれ絶命している!

 クリストファーによる援護射撃だ!

 

「や、やっぱりばけもんだぎゃ。た、退却--ッ!!」

 

 これはたまったものじゃないとサハギンリーダーが退却指示を出す。彼女達の怒涛の攻撃に恐慌と混乱の最中にあったサハギン達は我先にと逃げ出していき、あっと言う間に来た道を戻っていってしまった。

 

「うっわ、圧倒的だな……」

「追撃しましょうか?」

「いや、まだいい。必要以上に殺すつもりはないから」

「……承知」

 

 クリストファーが弓矢をつがえるのをアルカナは制止する。サハギンを敵視している彼も、強行するつもりはないらしく素直に弓を下げた。

 

 彼らを率いるより上の存在が出てきたなら話は別だが、今はまだむやみやたらと屍を築くつもりはない。精々刃向かう気を無くしてくれれば御の字と言ったところだ。

 

 

 残ったものをアルカナは見渡す。幸い目当てのものはすぐに見つかった。

 当たり所が悪く死んだサハギンやキンギョの中に紛れ込むように、まだ息のあるものがみじろぎするのをアルカナは見逃さなかった。

 

「もしもし、起きているかな?」

「!?」

 

 狸寝入りが見抜かれてた魚人は、慌てて起き上がった。

 反射的に皆が身構えるも、その魚人が襲い掛かってくる様子はない。

 彼はかぶりを振り、取り落とした武器を拾うのも惜しいと慌てて両手を上げた。

 

「……逃げないのか?」

「みすみす逃がしてくれるのか?」

 

 驚いたことに、その魚人の口から出てきたのは訛りの少ない言葉だった。

よく見れば、彼は人型に近い姿をしている。成長するにつれ竜めいた姿に成長するサハギンとはまるで逆だ。アルカナは彼が厳密には異なる種族であることを長年の経験で感じ取った。

 

「お前……、サハギンではないな?」

「俺は降伏する。頼む、助けてくれ。もうあんな連中の支配は沢山だ」

 

 両手を上げたまま、その()()()()は助命を懇願した。




段々と原作から乖離していくとキャラ崩壊してないか恐れてます。

〇リリィ女王
原作だとプリシラの手玉に取られてる印象の強い人。資料集を見るとめっちゃ有能でびびる。


〇クリストファー
今回のゲストオリキャラその1。
エルフ族の男性で弓の名手。野伏力も高い。

女王の信頼を受ける精鋭で、彼も期待に応えんと忠誠を捧げる。
奔放な女王と対照的に礼儀正しいが、皮肉とジョークを愛する気さくな一面も見せる。


〇召喚人解放戦線
ハグレを中心とした反帝国組織。いいネーミングが思いつかなかった。
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