ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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その43.サハギン戦線のようです(3)

 ハグルマ第三工場、神殿部。

 

 対象とした空間を迷宮に作り替える疑似迷核を起動したところで、ウオスキは侵入者を察知した。

 

「むほっ。やつらが入ってきましたぞ」

 

 待ち望んだ瞬間に、ウオスキは気色の悪い喜びの声をあげる。

 そしてその後ろにあるヴェールで区切られた向こう側から、この世の生物とは思えないような声色で語りかけてくる存在がいた。

 

『人間よ、これは何事か?』

「ああ。お客様……なんてことはない。ただの侵入者ですよ」

『侵入者とな……、つまりは愚かにも贄になりにきたものか?』

 

 その深人の音階に興味の色が混ざる。

 人間の恐怖に彩られた脳髄を何よりの嗜好品とする深海の貴族は、自ら人間を狩りに赴くような真似はせずに、哀れな犠牲者がやってくるのを待ち望んでいた。

 

「その解釈でよろしいですよ。貴方がたはここで控えていただければいい。何せむこうからやってくるのですからね」

『うむ……』

 

 支配欲と嗜虐性に満ちた脳漿喰い(マインドフレア)を適当にあしらい、ウオスキは戦略机にかじりつく。エルフたちに振舞ったビジネス言葉はどこへやら。とっくの前に本性が露わとなっている。

 彼はせこせこと間取り図に駒を配置し、疑似迷核をいじっていく。彼は現在、この基地内部を迷宮に作り替えるための操作を行っているのだ。

 

「ここをこうしてあっちにはこれを……ドゥフフ」

 

 そうして迷核を操作し終えると、この施設を迷宮に作り替えるべく部屋全体が揺れ始める。

 

「デュフフ。私の考えた迷宮をこの世界の人間にも味わってもらえるというのは……いいですなぁ」

 

 自らの作品との呼べるこの迷宮が阿鼻叫喚と血で染まる瞬間を想像し、ウオスキは恍惚の笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

『迷宮探索』

 

 

 

 地震はほどなくして収まり、身を低くしていた彼らはゆっくりと立ち上がった。

 

「何だったんだ一体……?」

「地震……ですかね?」

「こんなタイミングでか? 目の前の洞窟が一番揺れてたようにも見えたけど」

「となると奴らの仕掛けでしょうか。そこの魚人は何か知っていますか?」

「いや……知らない」

 

 クリストファーが問いかけるも、スパイクも先ほどの現象については心当たりがなく、首を横に振った。

 一番内部に詳しい人物から情報が出なかったことで、ルークは内心で警戒の度合いを一段階上げた。

 

「とにかく何が起こるかわからん。警戒だけは怠らないように」

 

 内部に足を踏み入れた一行は、まず空気の変化を最初に感じ取った。

 どこか爽やかさのあった山道とは異なり、石造りの質素な通路が続いているこの場所はひんやりとした風と湿り気を帯びた磯臭さの混ざった奇妙な空気に満ちている。

 壁には装飾らしきものも無く、松明の炎だけが点々と照らしている先はほの暗い闇に覆われ、お世辞にも見通しが良いとは言えない。

 まるで世界そのものを切り取って別の世界と入れ替えたかのようだ。

 

「なんだここは、まるで迷宮みたいだ」

「確かに暗いが、見たところ一本道だな」

 

 少し進んでいくとすぐに空間が開けた。

 通路と同じく、石畳で形成された飾り気のない部屋。

 だがそんなことはどうでもいい。

 彼らにとって最も大事なのは、部屋の中でうろつく多数の深人だ。

 

「おおっと、モンスターハウスだ!!」

「いや、洒落になってませんよ!!」

 

 おどけた反応を示した白いのにツッコミをいれる緑色、だが突然のエンカウントにも一行は慌てず迅速に武器を構える。

 あちら側も侵入者に気が付いたのか武器を振りかざし、襲い掛かってきた。

 

「SHAAAAA!」

「ふんっ!」

 

 鮫人がこん棒を振り下ろす。ルークは屈んで避け、流れるような動きで斬り返す。

 その肌は強靭な外皮で覆われており、生半可な攻撃は軽傷にしかならないだろう。だがルークの一撃は急所を捉え、その体に深々と刃を突き立てていた。短剣を抜けば鮫人はごぼりと血を吐き出し、倒れた。

 少し離れたところで壁に手を付けて何かを調べているアルカナが、石像の魔物ガーゴイルを片手間に光線でハチの巣にしながらルークの一撃を称賛した。

 

「お見事!」

「こんなの朝飯前ですよ。 てか何やってんですかあんたは!」

「さっきから妙な感覚を覚えててね。……やっぱりそうか。部屋の空間面が弄られてる。何だこの魔術アルゴリズムは」

 

 ぶつくさと呟くアルカナを尻目に、ルークは迫ってきたサハギンの槍を躱しながらスローイングナイフを投げて迎撃する。

 その一方ではヤエのサイコチャージで気力を受け取った柚葉が敵陣を駆け抜けて多くの兵士を切り伏せている。

 また一方ではエステルとメニャーニャの召喚士コンビも慣れた手つきで兵士を焼いていく。

 そしてドリントルとクリストファーが、射撃による援護で死角からの攻撃を許さない。

 

 そんな戦いを一歩離れたところからスパイクは眺めていた。

 その瞳から第三者が感情が読み取ることは難しいが、彼らの戦いぶりに何らかの思いを抱いていることは瞭然だった。

 回復用に控えていたローズマリーがその様子を見て話しかける。

 

「大丈夫ですか? 先ほどと言い、さっきまで自分達と一緒だった仲間が攻撃されているのを見ると言うのは少し……」

「……」

「うっ」

 

 ぎょろりとした目がローズマリーを見る。ローズマリーは彼に敵意がないことはわかっているが少しびくっとして、スパイクは少々居心地が悪そうにしてから言った。

 

「……あれが俺にむけて振るわれなかったことを幸運に思ってる」

「なるほど」

 

 同族が苛烈な攻撃に晒されているのを見て出てきた言葉は自分の身の心配だった。これが一方的な掠奪を目的とするならばまた抱く感想も違ったかもしれない。だが始めに仕掛けたのはあちらであり、とっくの前に袂は分かっている。

 ローズマリーは最初、彼が気弱な男だと思っていたが、どうやら思いのほか強かな男であるらしい。

 

 またたく間に戦闘は終わり、ハグレ王国のみがその場に立っていた。

 

 とはいえ流石に無傷とはいかず、各々回復を済ませた後、ルークが他に罠などがないかの探索を行い始めた。

 彼は次の部屋に繋がる通路を見て、顔をしかめた。

 

「おい、これはどっちに進めばいいんだ……?」

「何だって?」

 

 ハグレ王国はこの基地に突入するに当たって、スパイクから事前に情報を得ている。彼の話では真っ直ぐ道なりに進めば良いという話だった。

 だがどういうことだろうか? 道は二手に分かれていた。それどころかいたるところから不穏な罠の気配がむんむんしている!

 

 例えばそこの床には落とし穴が仕組まれている。感圧スイッチを見つけ、作動しないように細工をしたが、僅かな切れ目を発見できていなければまんまとかかっていた可能性がある。

 

 ルークの記憶から、過去の冒険で遭遇した悪辣なトラップの数々が掘り起こされる。

 だがそんな彼の懸念とは別の問題が起ころうとしていた。

 

「どういうことです? よもや我々を謀りましたか?」

「ち、違う! この部屋だって俺の記憶じゃこんな間取りだった覚えはない!」

「どうだか。その顔色では嘘をついているかどうかもわかりませんね」

 

 一気に不信感を募らせたクリストファーがスパイクに向けて弓を引き絞る。誰かの陰に隠れようものならその前に眉間を射抜かれることだろう。

 一触即発の雰囲気にローズマリーが慌てて割って入る。捕虜としてスパイクの身柄を預かった以上、ここで害するような真似は絶対に避けたかった。

 

「ちょっと落ち着いてください! まずはちゃんと話を聞いて……!」

「これが落ち着いていられますか!? 私はリリィのために戦っているのです! 万が一しくじれば、それは彼女の信頼に泥を塗るだけでなく、一転して状況を不利にさせるのです!!」

 

 仲裁されてもクリストファーの不信感は収まらない。リリィ女王の側近として一定の自負を持つ彼は、斥候としての務めを果たすべく脅威への警戒を怠らまいと己に課している。それゆえか、むしろ外敵には必要以上に敏感になっており、サハギンについての嫌悪もエルフ王国の中でも一二を争うほどには強かった。

 

「まあまあまあ! 彼の言葉に嘘はなかった筈だ。君もそれはわかってただろう?」

 

 アルカナは空気の隙間を縫うようにして二人を遮った。

 クリストファーもリリィと懇意であるアルカナにに割って入られては弓を納めざるを得ず、しかし正面からはっきりと異議を述べた。

 

「ですが現に異なる。その説明はどうつけるつもりで?」

「さっきの揺れ、明らかにおかしかった。それに空間のマナが乱れている。まるで奥にあった部屋をいきなり玄関に持ってきたように空気の差が激しいんだ。奴らが彼の知らない何らかの仕掛けを作動させたとは考えられないだろうか?」

「……つまり、あれでここの内部が変化したとでも?」

「そこまで導けたのなら話が早いよ。サハギンどもの黒幕は召喚技術まで身に着けた連中だ。空間を弄ることぐらいできてもおかしくないさ」

「……なるほど、一理あります」

 

 アルカナの分析に納得したのか、クリストファーは追及を取りやめた。

 

「……ふぅ。どうなることかと思ったわよ」

 

 張りつめた雰囲気が解け、エステルは思わずため息を吐いた。

 

「いくらエルフとサハギンと仲が悪いとはいえ、ここまでですか……」

 

 メニャーニャは話に聞いていたよりも苛烈な反応に驚きを隠し切れておらず、ドリントルが苦言を呈した。

 

「のうクリスや、お主の懸念も分かるが少々当たりが強すぎるぞ。そちら事情もある故にすぐに直せとは言わんが、こやつは降伏したいわば捕虜じゃ。あまり手荒な扱いはエルフ全体の評判を下げることにもなりかねん。それはお主の本意ではあるまい?」

「すみません。やはりサハギン相手となるとつい……」

 

 蘊蓄ある忠告にクリストファーは少しばつが悪そうな顔をした。彼はエルフの紳士故に、必要以上に相手の心情を悪くすることを好まない。これが仮に女エルフだった場合まず間違いなくサハギンだろうがギルマンだろうがお構いなしに嫌味と皮肉を言い放って面倒な事態に発展していただろう。

 

「一応言っておくが、俺はギルマンだぞ」

「そうは言うけどマジで違いが分からないのよね。どこが違うの?」

「ほら、ここのヒレの形が違う。あと足は全体で見ても俺の方が長い」

「わ、分からねーっ!」

「しかもみみっちい!!」

 

 そんな誤差レベルの違いを指摘されてもわからない。サハギン達とはお互いしっかり違うと分かるようだが、日本人から見てアメリカ人とイギリス人の違いがわからないのと同じだ。

 

 クリストファーは空気を変えるべく率先して話題を切り出した。

 

「しかし、こうなると迂闊に進むのは危険ではないでしょうか」

「そうですね。多少時間はかかりますが、入念に探索を行った方がいいでしょう」

 

 ローズマリーはさっきからこめかみに指を当ててうんうん唸っているサイキッカーに声をかけた。

 

「ところで、ヤエちゃんは相手のいる場所とかわかったりしない?」

「今やってるわよ。でも中々難しいわね」

「えー、本当にできるのか?」

 

 いまいちテレパシーについて信用しきってないルークが野次を飛ばす。

 

「何よ、今更ケチでもつける気?」

「いやそんなつもりはねえけどさ、むしろ変なところに接続しちまわないか心配で……」

「そんなことないわよ!! 見てなさい今に探知してやるから……あっきたきた。10時の方向からなんかめっちゃオタク臭い感じの思念がバリバリ伝わってきた」

「やっぱり変なとこに繋がってない?」

「いやいやダンジョンへの情熱とか感じるから多分ここのボス的なやつよ」

「ダンジョンへの情熱って何だよ」

 

 ヤエの超能力の一種である精神感応(テレパシー)能力を用いた思考傍受(サイコメトリー)の説明はいまいちうさん臭いが、方向に関しては有力な情報を得ることができた。

 未知が入り組んでいるにしろ、その思念の距離をたどっていけば何とかなるはずだからだ。

 

「しかもこいつダンジョンの構造を垂れ流しじゃない。これなら地図まで書けそうね!」

 

 と言いながらヤエは紙に迷宮の地図を書き始める。

 なんだか時間がかかりそうな見通しなので、並行して探索を進めることにした。

 

 デーリッチ達がひとまず罠に警戒しながら右手の通路を進んでいくと、なにやらごちゃごちゃとした部屋に出た。

 肉を食った後の骨や壊れた武器、後は廃材などが放置されている。ここは廃棄物を一時的に置いておくゴミ置き場(ダストシュート)だ。

 

「うわー、ガラクタまみれね」

「ここはハズレか……ん?」

「どうしたルーク?」

「いや、ちょっと変なものが……」

 

 この部屋から先に続く道はない。

 とっとと引き返そうかと言うとき、ルークの視界に何かが留まった。

 部屋の隅に近づいて確認してみれば、それは死体だ。それも人間のものだ。

 

「あらら。これはまたひでえな」

「仏だな……ナムナム」

 

 柚葉が両手を合わせてぶつぶつと何かを唱え出したのを尻目に、ルークは死体を検分する。

装備はそのままに、白骨化が半分まで進んでいる。

 

「なんでこんなとこに冒険者が……?」

「さてな。せっかくだ、遺品ぐらいは持ち帰ってやろうぜ」

 

 恐らくは、ここがただの洞窟と思い不用意に足を踏み入れた冒険者たちの成れの果てだろう。ルークは軽く十字を切り、その死体を漁りだした。使えるものは拝借しようとする、冒険者時代からの習慣であった。

 ほどなくして、あるアイテムを見つけ出す。

 

 そのヘンテコな見た目に、一同は首を傾げる。

 

「何でちか?」

「先にくっついてるのは……もぐらかな?」

「また変なアイテムじゃのう」

 

 10フィート棒の先端にもぐらがくっついただけの簡素な見た目をしている。

 だが、迷宮の壁に触れた途端、それはまるで土をシャベルで掘り起こすように、石でできた壁をざっくりと削り取った。

 

「……これは!」

 

 

 

 

 デーリッチ達は☆もぐら棒*1を入手した。

 

「ほら、完成したわよ! ……って何よそのアイテム」

 

 意気揚々と殴り書きの地図を掲げたヤエがルークの手元を覗き込んだ。

 ダンジョンの終わりは、近い。

 

 

 

 

 

 

『地上の戦い』

 

 

 

 一方そのころ、エルフ王国では戦いの幕が切って落とされていた。

 

「うおーっ! 進軍だぎゃーっ!!」

「総員、打てーーっ!」

 

 槍を掲げて迫りくる魚人たちを、エルフたちが魔法で迎撃する。

 

 サハギン達は数が多さを活かし、密集した陣形による突破を狙う。

 見晴らしの悪い木々の合間を縫うように飛来する矢と魔法を、サハギン達は防ぎきれない。

 だが、被弾をしようとも彼らはお構いなしに進軍を行う。

 

 一人が倒れれば、二人が進む。

 十人が倒れれば、二十人が進む。

 

 圧倒的なまでの人数差に任せた進軍は、愚直ではあるものの、確かにその歩みを前へと進めていく。

 

 サハギン達に死の恐怖はない。

 

 かつてよりいがみあっていた種族との雌雄を決する使命感。

 数多くの同族と行軍を共にすることによる集団同一視。

 背後に控えている偉大なる存在への忠誠心。

 

 そして何より!

 

「来ました、魔導兵です!!」

「そう、お早いお出ましね!」

 

 エルフの弓兵がその姿を確認し、最前線で指揮を執るリリィ女王へと通達する。

 

 現れたのは魔力光を表面に波打たせる金属鎧を纏った大型のサハギン。

 すなわち、魔導鎧を身に着けた精鋭兵である。

 

「やらいでかっ!」

 

 進軍する部隊の正面に立ち、魔導サハギン兵は飛来する魔法を一身に引き受ける。

 

 通常のサハギンならば既に死んでいる威力のそれを、しかし魔導サハギン兵は耐えきる。

 

 そして吸収した魔力によって負傷を癒し、残る力を活力へと変換する!

 

「ぐははは、無敵だぎゃ!」

 

 マクスウェルによって復元され、ジェスターの手によって改善され、そしてハグルマによって量産された対魔導兵器の性能にサハギンは高笑いをあげる。

 

 何より彼らを支えるのは、この兵器を授けたハグルマがいること!

 深人を顧客として惜しみない支援をする資本主義教団の存在こそが、長年虐げれられた反動による万能感をサハギン族へともたらしていたのだ!

 

『進め! ススメ! 殺せ! コロセ!!

 

 最早サハギン族は殺戮と略奪の集団と化しており、その戦意は一ミリとて衰える様子はない。

 彼らに入り混じっている百万迷宮から訪れた他の種族も同様に、支配種族からの侵略命令を遂行するべくエルフ王国へと迫っていく。

 

 だが、それだけでエルフが臆すると言うのも、また間違いであろう。

 リリィ女王は待っていたとばかりに粛々と準備を進める。

 

「魔法弓、用意!」

 

 弓兵エルフが雷を纏った弓を魔導サハギン兵目掛けて次々と引き絞る。

 

「撃てーっ!!」 

 

 号令と共に雷の矢が一斉に放たれる。

 

「無駄なことだぎゃ!」

 

 魔導サハギン兵は再び仁王立ちでこれを受け止めようとする。

 矢による負傷はあるだろうが、そんなものは吸収した魔力で回復すればよいだけの……

 

「ぎゃばーっ!?」

「な、なんだとーっ!?」

 

 一斉に降り注いだ雷の矢を、確かに魔導鎧は防いだ。

 だがそれは最初の話。

 

 一発、十発、三十発と集中的に射かけられた矢は、鎧の接合部、あるいはヘルムの覗き穴へと異様なまでの正確さで突き刺さっていく!

 そして矢に纏った雷が魔導鎧に次々と伝い、機構部分を感電させ、機能不全へと追いやる。

 

 矢だるまとなったサハギン兵が仰向けに倒れる。

 無敵と誇った魔導鎧の撃破は、サハギン部隊に少なくない衝撃を与えた。

 

「魔導鎧一騎、撃破しました!」

「よし、次は東からくる鎧に向けて準備しなさい! 奴らはすぐ来るわよ!!」

「了解しました!」

 

 エルフ軍はサハギン部隊の勢いが弱まったことを確認すると、別方向から進軍する魔導鎧への準備を始める。

 

「小癪だぎゃ。突撃だぎゃ! あの鎧にかかりっきりになってる今がチャンスだぎゃ!!」

 

 だがサハギンも慣れたもの。

 彼らの一斉射撃が魔導兵用に温存されたものであることを看破し、すぐに突撃を開始する。

 

 防衛陣へと殺到していくサハギン兵。

 やはり魔導兵を優先して落としているからか、先ほどよりも降り注ぐ魔法が少なくなっており、少しの被害で掻い潜ることに成功する。

 

 ――やはりだ。これでエルフどもはおしまいだ。

 

 サハギンコマンダーの顔が掠奪と蹂躙の喜びに歪む。

 だが、防衛陣地の目と鼻の先と言うところで、彼らは驚きのものを目にすることになった。

 

「あ……?」

 

 それは浮遊する鉄の騎兵。

 

 敵対存在を感知し、無感情に鎌首をもたげたそれは、二つのアームの間にバチバチと雷を迸らせる。

 

 ――まずい。

 

 ――あれを止めろ。

 

 嫌な予感がしたサハギンコマンダーは、すぐにそれを最優先攻撃対象と認め、一斉攻撃を呼びかけた。

 

「か、かかれっ――」

 

 

 

 

 その号令は、雷撃にかき消された。

 

 

 

 

 

 

 後方で雷鳴が轟いたのを、前線で暴れるマーロウの耳は捉えていた。

 

「ふむ、今の所防衛はしっかりしているようだな」

 

 烏賊ロスの触手を薙ぎ払い、鮫人の振りかぶるこん棒を真っ向から叩き斬る。

 

 マーロウは最前線を守る防衛隊として、新たにこの世界へとやってきた未知数な魔物たちの相手を担当していた。

 

 元々この世界に暮らしていたサハギン達をいたずらに殺したくはないという心情は少なからずあった。だからと言って、果敢に向かってくる彼らに対して手加減をする、などという侮辱をするつもりも無い。

 

 サハギン族は自分達の利益を得るために他者から奪う道を選んだ。

 ならば、自分にできるのは戦士として剣を向ける事のみである。

 

 振われる刃は電光を纏い、海に生きるものどもを蹴散らしていく。

 敵の軍勢は数は多いが、その陣形や戦術には粗が多い。

 

 それを見てマーロウは悟った。自分がこの戦いに参戦したごく個人的な目的である人物はおそらくこの戦には関わっていない。あれは今頃、何処か別の場所で同じ獣人を纏めて策を練っているのだろう。

 であれば、マーロウがここを離れる理由は無くなった。今はエルフ達のために刃を振るうことが最善の選択だった。

 

「だが……、いつまで持つ?」

 

 マーロウには一つ懸念事項があった。

 それは古代兵器の運用時間である。

 稼働に莫大なマナエネルギーを消費するそれは、サハギンどころか魔導兵すらも焼き払える威力を誇る反面、攻撃を継続できる時間は驚くほどに短い。

 

 マナジャムを用いた高密度マナ燃料によってある程度の戦闘は可能になっているが、果たしてこの大規模な戦闘に於いてどれだけ持つかは分からない。

 雨でも降れば話は別だが、それは高望みと言うものだ。

 

 その上、サハギン達は召喚によっていくらでも軍勢を補填できる。かなりの数を雑魚でかさ増ししていたが、物量で押し切られる可能性は高い。

 ある意味、古代兵器の稼働限界がそのままエルフ王国の限界なのだ。

 

 ハグレ王国がハグルマの祭壇を叩き潰すまで、こうして持ちこたえなければならない。

 

 だが、ハグレ王国ならば成し遂げるだろう。

 彼女ならば、やって見せるだろう。

 

「信じているぞ、アルカナッ!!」

 

 雄叫びと共に放たれた雷狼が、己を包囲する魚人たちを薙ぎ払った。

*1
自分のいる部屋から隣接する八方向の好きな部屋に通路を作る。当然だが道中にあった部屋はガン無視されるのでせっかく作った迷宮を台無しにされてGMは涙目になる。迷宮キングダムのアップデートが入り流石にナーフされた。




〇クリストファー
紳士だよ。サハギン以外にはね。


あんまり探索パートに時間を割いても間延びするだけなのでキャラのやり取りを挟みつつサクサク進んでいきます。

それはそれとして割を食ってる仲間たちが結構いる事実。
ルークとラージュ姉妹を覗いて残り4人をやりくりするのって結構難しいですね……。


サハギン戦線も残り約2話の予定です。
感想とここすきとお気に入りがあると作者のやる気が増します。
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