◯ルーク 主人公その1。ヘルラージュの右腕。
◯アルカナ 主人公その2。原作を壊した張本人。
◯シノブ アルカナに囲われている。今回の作戦には同行していない。
〇エステル なんだかんだ中心人物なピンク。
◯メニャーニャ この世界でも感情が重い。
◯ヤエ、ジュリア、ドリントル、柚葉 今回のパーティメンバー。
◯ジェスター 黒幕その1。残機は無限。
◯ウォルナット・ハグルマ オリ敵キャラ。名前はダイスで決めた。
部下から異常事態の報告を受け、ウォルナット・ハグルマ資本卿は神殿へと入室した。
「何が起きました?」
「こ、これをご覧ください」
部下のウオスキが指で示した先にある、戦略机の上。
そこには机の半分を覆う羊皮紙が広げられていた。
そしてその紙面には、今回生成された迷宮の間取り図、配置された魔物たち、罠などが記されており、それらはめまぐるしく動いてリアルタイムで状況を伝えている。
そして、壁を無視してこちらへと突き進む存在もまた、ばっちりと記されていた。
「な……っ!?」
「やつら、廃棄場より一直線にこちらへと向かってきております!」
常軌を逸した光景を前にウォルナットは絶句する。
彼はハグレ王国が用いた手段についてすぐに理解できた。
何という事か。よりにもよって悪名高きあのアイテムを敵が用いているのだ。
「ええい。何故もぐら棒なんて代物を奴らが持っている! この世界では無縁の筈のアイテムを! まさかわざわざ配置したわけじゃありませんね!?」
「そんなわけないでありますよ! 迷核の効果で自動的に生成されたものとしか……」
「クソが! 何もそこまで忠実に再現しなくてもよいでしょうが!!」
ウォルナットは叱咤すると、ウオスキが慌てて言い訳を述べる。
「迷宮生成アルゴリズムを再現する以上、アイテムの出現を制御するのは不可能です!」
「口答えするな!!」
「ひええ!!」
実際ウオスキの言い分は正しい。元の世界でも完全に解明することができていない理論なのだ。それを再現するだけでも相当な技術力を必要とするのに、改良しろというのは無理がある。
だが苛立ちと共に放たれたウォルナットの蹴りが、ウオスキからそれ以上の意見を奪いとった。
彼は離れて久しい百万迷宮の忌まわしき采配に内心で毒づき、それから部下に命令を下す。
「だがまあいい! あの兵器を出せば奴らとて一たまりもないでしょうからね!! すぐに用意をしなさい!!!」
「は、はいぃぃぃ!!」
『騒がしいな』
ヴェールをかき分け、脳漿喰いが姿を現す。
常人であれば発狂は免れないような存在感を放つそれ。しかしウォルナットは動じることなく応対する。
「ええ。ええ。まもなく
『ほう……』
獲物を前に舌なめずりをするかのように触手がわななく様子を見て、ウォルナットはほくそ笑んだ。
もとより、最初からそういう目的で彼らを呼び出したのだ。
ここでしっかり役に立ってもらわねばならない。
己の野望を確たるものにするために、ウォルナットは侵入者を迎撃する準備に取り掛かった。
◇
ハグレ王国が迷宮の掘削作業を開始してしばらく。
もぐら棒の効果は凄まじいもので、みるみるうちに岩盤が削れ最奥部までの通路を突貫工事で作っていく。
ざっくざくと道が出来上がっていく様を見てルークが感嘆の息を漏らす。
「ほんとすげえなこれ。まるで伝説にある黄金の鶴橋だ」
「ふむ、空間にかけられた魔法を強制解除して破壊しているのか。何らかの魔法がかかったアイテムだろうね。術式の癖を見るにドワーフの系譜に伝わる秘術とかが絡んでいるのかな。私にゃよくわからん」
「いやそこまで分析できるだけで相当すごいぞ……?」
「うーん、シノブならもっと詳しいこととか分かると思うんだけど。私なんて膨大な知識を照らし合わせて推測を行ってるだけだし」
「あんたら二人はちょっとINT振り切れてるの理解して!?」
しれっとアルカナが分析する様を見てエステルが抗議めいた声をあげる。
これから敵陣に乗り込むと言うのに、二人の間には緊張感は感じられない。
「お気楽ですねえ……」
「何にせよ、私たちはいきなり敵陣の奥に突っ込むわけですが。大丈夫かな?」
「私たちがやるべきは悠長な作戦会議じゃなくて迅速な破壊工作だからね。高度な柔軟性を以って臨機応変に対応していこうじゃないか」
「世間一般にそれは無策っていうんだよ!?」
アルカナの身もふたもない発言にローズマリーのツッコミが冴えわたる。
「冗談冗談。あちらさんもこんな手段でやってくるなんて想像してない筈だし。特別やばいのがいたら私が引き受けるから」
「話に合った巨大兵器とやらですか」
「それよそれ」
ハグルマは巨大な機械の兵器を開発している。
そのようなことを、彼女たちはスパイクから聞き出していた。
そしてそれらのテクノロジーが古代人の兵器に匹敵する代物であろうことは、彼らが魔導鎧の量産に着手しているという事実から想像することは難しくなかった。
「結局アドリブなんですね……」
「ま、いつもの通りなんでちね。頑張るしかないかぁ」
しばらく掘り進んでいくと、急に視界が大きく開けた。
そこは神殿のような部屋で、祭壇奥の一部分はヴェールで仕切られている。
だが何より注目するべきは、部屋の中央に座す者達だ。
「ようこそハグレ王国の方々! それにアルカナ卿! よくぞここまで来たとでも言っておきましょうか!!」
黒い背広に整えた髪型という、この場所には決してそぐわない姿と、ギラギラと野心的な笑みを浮かべるその表情が不調和を引き起こしており、不気味さすら感じさせる。
「……なに、あの恰好? ルークの気取った服に似てる「おいこら」けど、ちょっと地味よね?」
「一部の商人が用いる
「ふむ。その外見、神聖ハグルマ資本主義教団のウォルナット殿とお見受けするがいかに?」
「その通り、よく調べているようですね! ですが少々語弊があります。私はハグルマ資本主義神聖共和国が始祖ハグルマの下に働く資本卿ウォルナット・ハグルマ。この世界に我が国の経済基盤を拓き、より大きな利益を始祖へ捧げるべく遣わされた者です!!」
ウォルナットはまくし立てるような名乗り口上を述べる。それはこれまでに見てきた相手とは全く異なる未知の振る舞いで、デーリッチ達の頭に困惑が浮かぶ。
「な、なに言ってんのこいつ?」
「色々ややこしいこと言ってるけど……要するに別の世界から侵略活動に来ましたよってことですかね?」
「物騒な言い方をする。経済の発展とは時に武力の衝突も必要とするだけなのです」
メニャーニャの推測をウォルナットは肯定する。資本主義が行き着く先は帝国主義の侵略行動であることは、何らおかしなことでもない。
「だからって戦争を吹っ掛けるのは間違ってるんじゃないの!?」
エステルの憤慨をウォルナットは鼻で笑った。もとより無数の中小国家がひしめく世界から来たハグルマの人間にとっては、金儲けのために、種族一つ、国一つ滅ぼすことを厭わないのは大して異常な思想ではなかった。
「元々我らの経済活動を阻んだのは帝国のほうです。それにこの世界のエルフは我々には少々そりが合わず、隣人たるサハギン達もまた彼女らと長年争っている。そこに私たちはビジネスを見出し、求めるであろう軍備を提供して差し上げたまでのこと。つまりは軍需経済ですよ」
「たかだか小遣い稼ぎのために我らに攻め入ろうなどとは、甘く見られたものですね。貴方がたの教団とやらはここで経営破綻してもらいましょうか」
クリストファーが弓を引き絞り、いつでも戦闘に入れる態勢を取る。
以前に接触してきた折に、巧妙にカモフラージュされたエルフに不利な内容の取引を持ち掛けてきた連中に、彼は決して容赦しない。
「ははは。この世界のエルフはやはり話が通じませんか。最初は良きビジネスパートナーになれるかと思ったのですが、いやはや残念で仕方ありません」
「サハギンどもを崇める者達など、もとより論じるに値しませんよ」
異界からの尖兵は自分達の世界の同じ名前であるがゆえに、自分達を受け入れない彼らを相容れないと断じ、弓使いは敵対種族に味方する人間への嫌悪を隠さない。どこまでも話は平行線である以上、残るは互いの矜持と生存を賭けた闘争のみ。
「さて、一応言っておこうかハグルマよ。私は帝国議会より直々の調査命令を受けて此処に来ている。エルフ王国は帝国の属国かつハグレ王国の同盟国であり、これらへの侵略活動に対して我々は友軍として迎撃する義務がある。だがこの場で停戦し、賠償行為に応じるならば必要以上の攻撃を行うつもりはない。君達の返答は如何なるものか聞かせてもらおう」
本来であれば問答無用で叩き潰しても構わないのだが、こうした形式上の呼びかけをそれなりに重んじるアルカナは律儀にも勧告を行う。
常人であれば委縮するであろう、堂々とした気品さと威圧感を放つアルカナに、この地でハグルマの勢力を築き上げた男は物おじせずに言い返した。
「勿論、我らは帝国への恭順は受け入れません。始祖ハグルマはこう仰られた。『金の下に全ては平等』。すなわち、我々の経済活動を阻むのであれば何者であれ叩き潰します」
もとより彼らとて引くつもりはなく、むしろここがお前たちの墓場になるのだと宣告する。
「交渉決裂か――。仕方ない、エステル、メニャーニャ、構えろ」
「ええ!」
「了解です」
アルカナが呼びかけると、エステルは杖と炎符を取り出し、メニャーニャが無造作に手を広げると袖口からは電磁ビットが飛び出した。
「やっぱりこうなるか」
「仕方ないわね、悪しき暗黒経済組織はこのサイキッカーヤエちゃんが成敗してやろうじゃない!」
「では大将首を頂戴するとしよう。ところでデーリッチよ、この戦いで首級が一番大きい者がダイミョーとして取り立てられるのか?」
「柚葉ちゃんは何言ってるでちか!? そんな制度はうちにありません!」
「ちぇー」
好き勝手なことを口走りながらも戦闘態勢に移行する王国民たち。
それを余裕と受け取ったのか、ウォルナットはわざとらしく肩を竦めた。
「威勢だけはよろしいことですね。貴方がたはいかがいたしますか?」
『そうだな……』
直後、くぐもった声が石室に響く。
デーリッチ達はそれにうすら寒い感覚を覚え、そちらへと視線を向けた。
ヴェールをかき分け、声の主が現れ出ると、一同の目はそれに釘付けとなる。
のたうち、絡み合う触手の束。
粘液を滴らせながらなおも蠢く触手の中心からは悪意に満ちた視線が放たれている。
魚人を従える支配種族、脳漿喰いである。
「あれが例の支配者ってか……」
「見るだけでいやになりそう」
その冒涜的な見た目に、通常ならば発狂しかけてもおかしくはないのだが、ハグレ王国にとってみればこの程度の感覚は何度か経験済みである。
それは、古代種の魔物が蔓延る山の奥地。
あるいは、死者と悪魔の巣窟たる冥界。
怯えることのなく立ち向かってくる者達の感情を読みとり、深海の魔人は上質な獲物を前にした身勝手な高揚感に満たされる。
『確かに、中々質のよい人間が揃っているな。存分にいたぶるとしよう』
「というわけで出番です、働きなさい」
「ははっ、拙者がせっかく考えた迷宮を台無しにした報いをうけさせてやります!!」
上司からの命令にダンジョンオタクが手元の疑似迷核を操作する。
その様子を見てアルカナは目を細める。
「……なるほど、あれがこの辺り一帯の空間を捻じ曲げてる原因か」
「おやおや。見抜かれてしまいましたか」
「よくもまああんなクソ複雑な魔術式を作れたものだね」
「
ウォルナットが百万迷宮時代にて技術班として研究していた迷核解析技術。自分達の世界そのものを覆う魔術式の結晶を人工的に再現するというコンセプトで開発されたそれは、稚拙な猿真似ではあったものの、この世界の一部を迷宮に書き換えることに成功していた。
そしてそんな危険極まりない代物を自在に扱うことができるのが、ダンジョンオタクと呼ばれる者達である。迷宮に精通する知識人だが、自分の考えた迷宮に拘り過ぎるのが玉に瑕である。そんな彼も上司の言う事には律儀に従い、効果的なバトルフィールドを作成する。
ゴゴンと重たい音を立てて周囲の壁の一部がせりあがり、中から魚人を中心とした兵隊が流れ込んできた。その数、およそ百人余り。
「げげっ!」
「参ったな……」
「さらにそれだけではありません。見よ!」
ウォルナットの号令が響く。
一瞬の間を置いて、断続的な地響きの音が鳴り響く。
音は段々と近づいてくる。
そして、先ほど兵隊が入ってきた場所から、それが姿を現した。
「これが我がハグルマの兵器、対魔法鉄人こと、タロスです!!」
おおよそ5メートルはあるかという巨大な身体。
青銅色の表面には迷宮のような幾何学模様が刻まれ、マナの光で脈打っている。
あらゆるものをためらいなくひき潰す暴力の化身が、デーリッチたちを見下ろした。
「こいつが巨大兵器ってわけか……!」
「偉大なる方に少々
ウォルナットの指示によって動くことを示すように、タロスは両手を掲げ、逆三角形のシルエットを強調した。
その威圧的な姿に対して、一行は恐れることなく挑戦的な視線を向ける。
「へっ、いまさらこの程度で怖気づくかっての」
「そうじゃな、あの戦艦列車の方が何倍も恐ろしかったわい」
「ではアルカナ殿。よろしく頼む」
「オーケー。それじゃあ開幕は派手にいこうじゃないか」
ジュリアに促され、アルカナが先頭に立つ。
「これだけ広ければ崩落の危険もあるまい。――
アルカナは詠唱をすっ飛ばして全体攻撃魔法を発動する。不意打ち気味に放たれた星の光は、敵陣を軽く薙ぎ払った。
「ぎゃーっ!?」
『先手をとって魔法を撃つ』
自らがエステルに対して教えた言葉を、アルカナは実践して見せた。
戦場を撫でたこの一撃によって、一部の魔物たちは反応する間もなく焼かれ、焦げ、倒れ伏した。
だがそれはごくわずかな数だけだ。
魔導鎧を身につけた兵士は流星の一撃を耐え凌ぎ、青銅の巨人に至っては表面に触れる前に光線が霧散した。
「うげ、厄介だなそりゃ」
アルカナは何ともなかったように立つタロスの姿に苦々しい声をあげる。いや、事実何ともなったのだろう。あれは軽減では無い、文字通り
半分、いや三分の一は減らせると試算していたのだが、当てが外れた。その巨体によってかなりの攻撃が遮られた。減らせたののは精々二十余りといったところか。
「その通り。このタロスV-13はあらゆる魔法を無効化します!」
ウォルナットは得意げな声で語る。
どういう原理かは不明だが、あの巨人は魔法が効かないようだった。
タロスは腕を持ち上げ、拳をアルカナめがけて叩きつける。
「ちぃ!」
アルカナは跳んで回避する。砕けた床の破片が飛び散り、土煙が巻き上がる。
『ゆけ』
「お任せあれ!」
それに乗じて脳漿喰いがサハギン達をけしかける。
支配階級に直々に指揮される彼らの士気は極めて高い。
余計なことを何も考えることなく、ただ敵を手に持った三叉槍で串刺しにし、その苦悶を捧げることのみを目的として突撃する。
一番先頭のサハギンの槍と、前に出たジュリアの構えた盾が硬い音を立ててぶつかり合う。
「はあっ!!」
「ぐぎゃっ」
しばしの取っ組み合いを制したのはジュリアだった。サハギンを押し返し、左手に持った剣で止めを刺し、別の方向から突き出された槍を転がって躱す。
追撃しようとするサハギンだったが、前方から飛来した炎への反応が遅れて呑みこまれた。その正体はエステルの放ったフレイムである。追随していたサハギンも同様に炙られ、後退を強いられている。
「助かった」
「どういたしまして」
ジュリアと短い意思疎通の後、エステルは視線を仲間に向ける。
自分の炎にローズマリーがフレイムを加えた劫火の真っただ中を魔導兵が突っ込んでくるが、それを予測して配置された柚葉が迎撃する。彼女は見事な剣筋で接合部を切り裂き、瞬く間にこれを倒した。その間にチャージを終えたヤエのサイコバインドがサハギン達をいつものように押しつぶした。負傷した者がいればデーリッチが即座に回復する。
ルークが道中で拾った素材から作った即席のバクチクを投げる。ドリントルがこれを撃ち抜き、空中で炸裂させて騒音と光による攪乱を行う。いくら熱狂しているとはいえ、感覚器官を揺さぶられるのは堪えるようで、魔物たちがぎゃあぎゃあと混乱して喚き出す。
そこを狙ってクリストファーの魔法矢が宙を飛んでいく。恐ろしいほど的確に放たれたそれはサハギン達を仕留めていくが、タロスには腕を振るうだけで叩き落とされてしまった。武器を持たぬスパイクは巻き添えにならぬように距離を取りながらも、何かできることはないか注意深く戦線を観察しているようだった。
「くっ……」
「魔法は効かない、矢も通りづらい。こりゃ骨が折れそうだ」
「やっぱ物理攻撃ですかね」
アルカナが軽く魔力弾を撃ちながら有効打を探る。
メニャーニャも並んで電撃を放ったが、表面に浮かぶ幾何学の力場によって弾かれてしまう。
しかし彼女は矢には魔法に対しての防御が働いていなかったことを目ざとく指摘する。
「だろうね。つまり、こうだ!」
アルカナは天球儀を格納し、杖を打撃モードへと切り替える。本来なら大っぴらに魔法が使えない市街地での襲撃で用いるための機能だが、魔物相手でも充分に戦えるだけの力はある。
瞬時に距離を詰め、タロスの手首を杖で打擲する。。
彼女の杖は特殊な魔法鉱石を芯に用い、霊木で作られた高い魔力伝導率を誇る。ゆえにアルカナの魔力を込めて強化された一撃の威力は一流の戦士の剣戟に匹敵する。
先ほどの魔法とは異なり、鈍い音が響きわたる。
いくら魔法を無効化する高度な術式とはいえ、物質に込められた魔力を消し去ることはできない。すなわち、魔力で強化された武器による攻撃ならば通用する。
「いよっし! メニャーニャ、お前はエステルたちに加わってやれ。こいつは私が片付けちゃる」
「わかりました!」
アルカナは手ごたえを確信し、ウォルナットが僅かに眉を顰める。
(流石に速すぎる。これが白翼か)
弱点を見抜かれる可能性はあったが、それを僅か1,2回の打ち合いでともなると流石に想定外だ。流石は最高峰の魔術一族の主席にして、歴代最高の出来と呼ばれるだけの存在だけのことはある。
「ですが、その程度でどうにかなるとは思わないことですね!!」
ウォルナットは自分が雇い入れた深人の方向を見やる。
配下の戦績が芳しくないことに気が付いたのか、彼はようやく重い腰を上げたようだ。
脳漿喰いは目を怪しく光らせ、サハギン達と格闘するルーク達を見た!
「ぐああっ!?」
ルークの視界が突如として乱れた。まるで世界全てを極彩色に塗り替えたように目の前が歪み始め、自分の存在を見失いかけそうになる。
頭を直接かき混ぜられたかのような錯覚によってルークはたたらを踏み、苦痛に顔を歪めた。こみ上げそうになる吐き気を必死でこらえ、現実の短剣を強く握る。
「ルーク!?」
「精神攻撃だと!?」
「回復を……!」
「他に混乱した人はいないですか!?」
異変に気が付いたデーリッチがキュアオールを詠唱する。
精神攻撃それそのものに目立った負傷はない。だが、攻撃の手を中断させられ、無防備状態に陥りかねないというのは、この乱戦下においては致命傷にも等しい。
メニャーニャは周りを見渡し、他に重篤な症状を受けた者がいないかを探した。
エステルは抵抗に成功していた。ヤエは超能力由来の精神力によってあまり大した影響は受けていないらしい。
特にひどかったのはクリストファーだ。彼は顔を青くして膝をついたところにタロスの踏みつけが襲い掛かった。
「危ない!」
誰かから警告が飛んだ。
クリストファーは転がり、間一髪のところで躱した。だが、踏み付けの衝撃と砕けた破片が彼を傷つける。美しい顔が苦痛にあえぎ、血を吐き出す。
「ぐ……、ヒール……」
「まずい! いますぐそこを離れろ!」
回復魔法を唱えようとするが、発動しない。
いや、発動するにはするのだが、いつもよりも時間がかかっている。
空間の変動を感知したアルカナが叫ぶが、クリストファーは即座に動き出すことができないほどにダメージを受けている。
「むふふ……無駄ですぞ」
ウオスキが無様を見て笑みを浮かべる。
タロスの攻撃で誘導できる場所に向けて、彼は迷核変動のスキルを用いて封印の罠をついさっき設置したのだ。
その封印は、特定の長さ以下で発動する魔法のみを封じ込めると言う限定的なものだったが、それはとっさの判断が必要な乱戦においては、これ以上なく効果的な罠であった。
「あやつの仕業か!」
ドリントルがダンジョンオタク目掛けてグラニュー砲を撃つ。
命中はしなかったが、足元に当てられたウオスキは情けない悲鳴をあげた。
「くうっ、仕留められんか!」
「それより、彼が危ない!」
今やクリストファーに誰も援護を飛ばすことはできない。アルカナはタロスを牽制しており手が回らない。デーリッチ達も、兵士に囲まれて手が届かない!
無防備な隙を晒したクリストファー。そこにサハギン達が殺到する!!
「死ね! エルフ!」
因縁の相手を仕留めるべく血走った目でサハギンが槍を振るう。
ここまでかと、クリストファーはせめてもの抵抗に矢を握る。
だが、横から割って入るものがいた。
それは彼らと同じ魚人だった。
自分達の同族が攻撃を遮ったことにサハギンは面食らった。
「なんだぎゃ!?」
「……ふん」
その狼狽の隙を見逃さず、死体から奪った槍を手に、スパイクは凄まじい膂力でサハギン達をはじき返した!
「貴方は……!」
クリストファーは驚愕の目で彼を見た。
何故自分を助けるのか。同行しているとはいえ、敵意を向け、散々疑った相手だ。だと言うのに、どうして。
それを言葉にすることはできなかったが、その考えはスパイクに伝わったようで彼は不愛想な顔で呟いた。
「お前を死なせては降伏した意味がなくなるだろう」
エルフとの戦争で降伏した以上、同行するエルフが死んだとあっては真っ先に疑いがかかる。だから助けたと説明するが、そういう割には嫌々助けたとは思えなかった。
実際、彼はそういう損得勘定は抜きにしてクリストファーを助けた。つまり、自分のプライドを傷つけ舞と、気遣われたのだ。クリストファーにはそれが分かってしまった。
「スパイク! お前エルフなんかに味方するぎゃか!?」
赤いサハギンが怒鳴る。スパイクはそのサハギンに見覚えがあった。彼はスパイクが身を寄せていた集落のリーダーである。
そういえば、ハグルマを喜々として受け入れたのもこいつだったなとスパイクは一人思い返す。
「エルフに味方するつもりはないが、あんなわけのわからん奴に従うつもりもない」
「あれは素晴らしきかただぎゃ。我ら海に住まう者の貴族だぎゃ!」
「俺には、最初見た時から嫌な奴にしか見えなかったよ。とにかく俺はお前たちと一緒に死にに行くのはまっぴら御免だ」
サハギンリーダーは槍を振るいながらスパイクを罵る。
彼の眼は狂信と血に酔っている。
「この裏切りものめ!」
「うるさい、俺は自由に生きる!!」
「何が自由だぎゃ! 偉大なるお方のもとで戦える意味を捨てた愚か者がほざくじゃねえぎゃ!!」
「俺の生きる意味は俺が決める! あんな訳の分からん連中にへつらうよりはマシだ!!」
今も精神を揺さぶる恐怖に抗うために、スパイクは抵抗の言葉を口にする。
「今の今まで帝国の人間にへつらってた奴が言うか!」
「それはお前も同じだろうが!」
「俺たちは違う、選ばれたんだぎゃ!」
「他所からきた訳の分からん連中から与えられた意味がそれほど美しいか!」
「所詮俺達と別のとこから来た奴には理解できんだぎゃや!」
「構わん! 俺の世界は俺の中にあればいい!!」
「だったらそのまま独りで死ね!!」
怒号と共に突き出された三叉槍の穂先がスパイクの鱗の隙間に突き刺さりかける。
……だが!
「ふんっ!」
「ぐぎゃっ!?」
同じく三つ又の刃がそれを絡めとっていた。
凄まじい膂力を再び発揮し、スパイクはサハギンリーダーを押し飛ばした!
「忘れたのか? 俺を集落で一番の力持ちともてはやしたことをよ」
スパイクはそのままサハギンリーダーの首元を槍で突き刺し、止めを刺した。
それは、流されるままに生きてきた自分への訣別でもあった。
「……まあ、俺を受け入れてくれたことには感謝してるがな」
それもここまでだと、スパイクは自嘲した。
「きさまーっ!」
リーダーを殺されたサハギン達が怒りのままに突撃する。
スパイクが迎撃しようと構えたその時、サハギンの眉間に矢が突き刺さった。
振り向けば、クリストファーは立ち上がり、弓を構えていた。時間を得たことで回復は間に合い、既に戦闘は問題ない。
彼は複雑な視線でスパイクを見つめた。
「……」
「……」
互いにかける言葉は無い。
そうしている間にも、ガーゴイルが彼らに向かって襲い掛かる。
どちらが先だったか。
二人は武器を構え直して並び立った。
長くなってきたのでここらで分割します。