ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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その45.サハギン戦線のようです(5)

 アルカナを目掛け、タロスが前進する。

 その踏み込みの一つ一つが殺人級のストンピング。アルカナは横に跳んで躱しながら杖を振るう。

 

「はっ!」

 

 杖の一撃を、巨大な右手が受け止める。

 反撃で振るわれた巨腕を、賢者は軽やかな動きで躱す。

 巨人は口を開いて迸る魔力の奔流を吐き出すが、光輝く魔力の壁によって散らされる。

 その間に足元へと潜り込んだアルカナが巨人の膝を打ち据える。

 金属のぶつかる音、わずかに軋むような音が混ざるが、依然として巨人の機能に問題は無かった。

 

 ウォルナットは戦いの余波が及ばないように距離を取りながらも、指示を下せるように油断のない目で戦いを観察していた。

 

「ふむ。所詮は魔法使いの悪あがきですね」

 

 アルカナはおそらく、関節部に打撃を集中させることによって破壊しようとしている。そのようにウォルナットは考えた。

 確かに魔力や気によって強化された打撃斬撃はタロスには有効だ。だがもとよりタロスは青銅を含めた強固な素材で造られており、生半可な物理攻撃は寄せ付けない。純粋な魔法使いであるアルカナでは、いくら魔力で強化した打撃でもそもそもの防御自体を突破することができない。このまま続けても、体力が尽きてタロスの巨体に蹂躙されるのが関の山と言ったところだろう。

 

「ですが……」

 

 それも仲間が合流すればまた別の話となる。

 今はまだ兵隊の相手をしているが、いかんせん戦況はサハギン側が不利だ。

 脳漿喰いの精神攻撃で少しは減らせるかと思ったが、そこは歴戦の冒険者と言ったところか、予想以上にしぶとい。

 

 ウォルナットは祭壇に向けて叫ぶ。

 

「貴方も少しは本気を出しなさい!」

『わかっているとも』

 

 脳漿喰いが少々苛立たし気な声をあげる。

 人間の抵抗で状況が思い通りに動かないことは、彼にとっても許しがたいことだ。

 

『無能どもめ。……まあよい、手ずから縊り殺すとしよう』

 

 脳漿喰いは先ほどよりも強力な精神感応を行使する。

 対象は一人に絞られるが、一切の抵抗を許さないほどの精神汚染を引き起こすそれの標的は、彼から見て最も弱そうな人間に向けられた。

 

「ぐああああっ!?」

 

 精神を揺さぶられ、ルークは再び苦悶する。

 脳漿喰いは祭壇から降り、ルークへと近づいていく。

 無能な眷属ではなく、自分の手で縊り殺すつもりだ。

 

『仲間が目の前で貪られる悲痛を味わうとしよう』

「ルーク!」

「邪魔はさせんぎゃ!」

 

 ジュリアが助けに向かおうとするが、サハギン達が道を阻む。

 

「邪魔はあんた達よ!」

 

 エステルが劫火を放つが、サハギンは焼けるのも厭わずに槍を振るう。

 彼らは『決して通すな』と脳波による命令を受け取っており、畏怖と忠誠によって恐怖の感情をかき消されている。彼らは常に死兵のようなものなのだ。

 

 魔人がルークの数歩先にまで接近する。

 

『お前の苦悶はどのような味であろうな』

 

 触手をわななかせ、悍ましい声が響く。

 脳漿喰いがあと少し接近すれば、その触手はルークの仮面を剥ぎ取り、頭蓋へと侵入して脳を直に啜るだろう。魔人はルークの抵抗する様子を楽しむためにわざと緩慢な歩みで進んでいた。

 

 命の危機を前にしてルークは動くことすらままならないか?

 

 答えは否。

 

 ルークは頭痛に顔を歪めながらも脳漿喰いを睨み返す。

 彼にとってみれば、同じような命の危機など何度だって経験している。そのたびに様々な機転を利かせ、時には運に助けられて乗り越えてきたのだ。

 

 ならば、今回だって乗り越えられない道理はない。 

 何より、彼女の目の届かぬところで死ぬなど、他ならぬ自分自身が許さなかった。

 

「負けるかよ!!」

 

 ルークは精神攻撃に対抗するべく、オリジナル配合のきつけ薬を過剰摂取(オーバードーズ)する。

 通常は幻覚などへの対抗策として用意しているものを、今回はそれを精神干渉を強引に跳ねのけるために使用した。

 

 薬物の効果はすぐに顕れる。血管が拡張し、アドレナリンが大量に分泌される。

 視界の明度が跳ね上がり、周囲の動きが緩慢になった。

 

 

 ――余談ではあるが、今この時、この場所は非常に特殊な環境となっていた。

 迷宮化という空間の変調。

 ここからさらに奥に次元ポータルが存在することによる世界観の乱れ。

 精神攻撃を受け、自己と他者の境目があいまいとなっている状態。

 古来より薬物は神々との交信のために用いられたという伝承。

 

 それらすべての要因が重なり合い、今ここに奇跡(6ゾロ)を引き起こす。

 

 

 ――酩酊した彼の耳に、神々しい声が飛び込んできた。

 

『聞こえますか……聞こえますかそこの冒険者さん』

(((あ、あんたは誰だ?)))

『私はダンジョンの女神。その名も女神オブダンジョンです。今はあなたの心に直接語りかけています』

(((ダンジョンの……女神!?)))

『そこのダンジョンのあやふや加減ととあなたの精神状態がなんやかんやして世界とか作品とかの壁を越えてつながりました』

 

 ルークの脳へ直に語りかける神々しい存在! その名も女神オブダンジョン!! 通称メガちゃん!!!

 だがその説明のなんと胡乱なことか! そもそも登場が若干早い!!

 当然だが誰にもその姿は見えていない!

 ルークの酩酊した視界にのみその姿は映っている!!

 

『貴方は記念するべき出張サービス一人目のお客様、つまりここで死ぬ運命ではなっしんぐ。この場を生き残るための方法を教えましょう』

(((わかった!何をすればいい!?)))

 

 ニューロンの速度で会話が繰り広げられる。

 ルークはこの胡乱な女神の存在を一ミリも疑っていない。

 その食い気味な様子に、メガちゃんは若干引きながらも助言を与える。

 

『すぐにあのタコ怪人をぶちのめすのです。触手攻撃が来るのでABBABA右右左の順番で避けるのです』

(((なるほどな!)))

 

 どこかおかしい指示だが、バッドトリップ状態のルークは何の迷いも無くそれを受け入れる。

 

「うおおおっ!!」 

「ルーク!?」

 

 もだえていたかと思えばいきなり突撃し出した仲間の姿に、ローズマリーが驚きの声をあげる。

 

『ほう? 自分から向かってくるとは殊勝な心掛けよ……』

 

 自分の精神干渉が効いたと受け止めた脳漿喰いが哀れな男を仕留めるべく触手を突き出す。

 並みの冒険者であれば躱せぬ速度で放たれる触手による反応攻撃!

 だが現在ガンギマリ状態のルークの目にはゆっくりとした動きとして見えている。神々しい声を聞いたことによって、彼の反射神経と敏捷性は限界を突破していた。

 

 彼は残虐な刺突攻撃を回避して、回避して、回避した。

 

『ヌ!?』

 

 まさか全て回避されるとは思ってもいなかった怪人の目は驚愕に見開かれる。彼は滑るような短剣の一撃を回避することができなかった。

 

『グヌッ!?』

 

 細い胴体に刃が深々と突き刺さり、銅を含んだ青い血液がにじみ出る。

 脳漿喰いは痛覚に悶えながらも引きはがそうとする、その前にルークは短剣をねじり上げて心臓を破壊した。

 

『グヌァーー!?』

 

 触手と四肢がガクガクと痙攣する。

 ルークが短剣を引き抜くと、青い血を吹き出しながら深海の貴族は仰向けに倒れる。

 

「……はっ! 俺は何を!?」

「ルーク君、かなり変な動きしてたでちよ……」

(((お供え物は駄菓子屋のお菓子詰め合わせにするのですよー……)))

 

 ルークはそこで我に返った。

 脳裏に響いていた幼い神の声はもう聞こえず、記憶からも薄れかけている。

 彼の認識では無我夢中になったらいつの間にか敵を倒していたことになっている。

 大活躍のはずなのだが、なんだか素直に喜べない。

 

「まあいいや。おいっ、こいつは死んだぞ! 見ろ!!」

 

 ルークは敵の細い首を掴み、祭壇の全てに見えるように掲げて叫んだ。

 息絶えた支配者の姿を見て、サハギン達の間に動揺が走る。

 

「そ、そんな……」

「貴族さまがしんだぎゃ……」

「俺達も殺されるだぎゃ……?」

 

 意気揚々と戦っていた筈のサハギン達は我に返ったかのように次々と戦意を喪失していく。

 恐らくは脳漿喰いの放つ精神波によって、本来持つ畏れの感情の上から無意識の忠誠を刷り込まれていたのだろう。アイデンティティの喪失と死の恐怖が蘇ったことで、彼らは戦うことへの疑問を抱き始める。

 この世界に召喚された支配者は二体。だがもう一体は直々にエルフ王国を攻める戦線へと赴いている。つまりこの場で指揮できる存在はいなくなった。

 

 士気が揺らいだのを察知したジュリアは声を張り上げる。

 

「武器を捨てて降伏しろ! そうすれば命までは取らない!!」

 

 歴戦の戦士が発する威圧が祭壇に響き渡る。

 

 困惑と恐怖が伝わり、戦線が崩れ始めた。

 後ろずさりながら逃げ出そうとする者がいる。

 槍を取り落とし、そのまま手を上げて降伏する者もいた。

 

「落ち着きなさい! まだ我々にはこの兵器があります!!」

 

 ウォルナットがサハギン達を鼓舞するべく叫んだ。

 彼は支配者の断末魔の悲鳴を聞きながらも、勝利を諦めてはいなかった。

 

「代わりの支配階級などいくらでも呼び寄せられます。それに、このタロスがいればどうとでもなりますからね!!」

「流石にそれは、余裕があり過ぎなんじゃない?」

 

 相対するアルカナの杖は魔法モードに変形しており、その先には手のひら大の光球。

 魔力を極限にまで圧縮されたそれは、正真正銘の星の如く輝いていた。

 アルカナは物理攻撃も効果がないことに業を煮やし、新たな魔法を繰り出そうとしているのだと考えたウォルナットはその無駄な足掻きを嘲笑う。

 

「魔法は効かないと言っているでしょう!」

「うん。並の魔法は効かないだろうね。だがこれならどうかな?」

 

 そう言ってアルカナは、()()()()()()()()()()()()を発射した。

 流星じみたそれはタロスの肩口へと衝突する寸前で阻まれる。表面の幾何学的な紋様が浮かび上がり、魔力を拡散させる。

 

 ――そして、幾何学模様がひしゃげた。

 

「……は?」

「正直こいつを制御するのめっちゃ疲れたからさ。とっとと終わらせるぞ」

 

 先ほどまで杖による打撃で戦っていたのは、このための布石。時間をかけて制御したそれを、悟られぬようにするためのカムフラージュだ。

 高密度なマナエネルギーの塊を直に押し付けられ、表面に施された対魔法装甲が軋むような音を上げる。

 

 アルカナが用いた術は、言ってしまえばそれまでの魔法とあまり大差はない。

 ただ、それを限界を超えてため込んだという但し書きが付くが。

 

 いくら、魔法を無効化する術があるとはいえ、それが本当にどんな高度な術でも無効できるだろうか?

 答えは否。

 

 無効化の原理を作用させるために何らかの動力を用いている以上は、それが人の手で創られたものである以上は、何事にも限界というものが存在する。

 それは時間か、許容量か、あるいは種類か。

 

 アルカナはまず魔法を構成する術式に干渉するものだと考え、杖を強化して物理で攻めることを試した。これはある程度は成功だったが、元々の耐久力を突破するのに時間がかかり過ぎる。

 

 次に彼女は許容量が存在するとあたりをつけ、極限の魔力量を一点に叩きつけることにした。

 これは通常の魔法使い……エステルやメニャーニャでも不可能な試みだ。

 アルカナやシノブのようなずば抜けた魔力量を持つ逸材でもなければ、実現できない試みと言える。だからこそ、可能だったともいえるだろう。いくらハグルマが技術的に優れているからと言って、そこまでの耐久力試験を行う事は難しいのだから。

 

 当然だがこんな無茶苦茶な理屈を実現するのは危険だ。

 魔力を限界まで高めれえばそれだけ暴発のリスクも跳ね上がる。

 最悪、行き場を失った魔力が荒れ狂い、その場で大爆発を引き起こすのだ。

 そうなればよくて杖と片腕と失うだろうし、最悪の場合なら即死する。

 

 だが、彼女はそれをやって見せた。

 

 現にタロスの対魔法装甲は許容範囲外の高密度な魔力による負荷を与えられ、みるみるうちに魔術式が芸術的とすら言えるカタチを失っていく。

 なんと恐るべき白翼の一族が伝えし精密な魔力制御技術だろうか。

 

 ついには装甲をぶち抜かれ、右の肩から先が脱落した。

 

「馬鹿なーっ!?」

「ほら、このままスクラップにしてやる」

「何を……! たかが片腕をくれてやった程度で調子に乗るか!!」

 

 破壊されたのはたかが片手。されど片手。

 重心のバランスを欠いた巨人は残る腕を振るうも、その勢いは先ほどまでと比べておぼつかない。

 そして何より、その堅牢な護りを形成していた魔術式が、腕から伝わってきた崩壊を受けて不安定となっていた。

 アルカナはさっと一撃を避けて魔法を放つ。

 

流星よ(スターⅨ)

 

 崩壊した肩の断面に流星が飛び込んだ。

 炸裂した魔力が内側から巨人の胸部を破壊し、爆発がさらに姿勢を崩す。

 右半身が大きく崩壊し、さらにもう片腕が床に突き刺さった状態だったためにタロスは背中から地面に倒れた。

 その目の光が明滅する。

 

「あとはとどめだ!」

「ウオスキ! 援護をしなさい!!」

 

 ウォルナットは焦り、部下に罠を発生させるように命令を下す。

 だが、

 

「ぐふう」

「厄介な真似をしてくれたのう。じゃがこれでしまいじゃ」

「悪いけど、こいつは正義のサイキッカーが成敗させてもらったわ」

 

 ドリントルとヤエによってダンジョンオタクは行間で倒されていた。

 

「何ィーッ!?」

「コスモインストール。はいよろしく」

「うむ」

 

 アルカナは柚葉の肩を叩いて魔法を発動する。

 

 コスモインストール。味方の攻撃に一時的な星属性を追加し、かつ星属性の攻撃を強化する属性憑依魔法(エンチャント・インストーラ)の一種。六属性ごとに存在するそれは、星属性にもしっかりと存在した。

 それを物理攻撃力の高い味方に施せばどうなるか?

 読者の皆様も、この場に入る者達も、その答えをまもなく知ることになるだろう!

 

 柚葉は刀をゆらりと一直線に持ち上げ、勢いよく振り下ろした。

 

「チェストーーッ!」

 

 一閃!

 

 光り輝く太刀筋は、強固なまでの巨人の頭を、胴体ごと問答無用でかち割った!!

 

 真っ二つにされた巨人の頭部からごろりと何かが転げ落ちる。

 赤く輝く小さな小さな星は、アルカナの足にぶつかると、ぱりんと割れて輝きを失った。

 

「あ、ああ……」

 

 ウォルナットは唖然とした様子で後ずさる。

 

「さて、神妙にお縄についてもらおうか」

「貴方にはエルフ王国を攻めている軍を撤退させてもらう必要があります。大人しくなさい」

 

 アルカナとクリストファーは、ウォルナットの手に縄をかけるべく詰め寄った。

 そこでウォルナットはハッと我に返り、慌てて懐からスプレー缶を取り出した。

 

「なんだそれは?」

「っ、《タグスプレー》! そいつ逃げる気だ!」

 

 それがおたからであることを見抜いたルークが叫ぶ。

 

「何ッ!?」

「おおっと、詳しい方がいましたか。ですが遅い」

「させません!」

 

 クリストファーが矢を放つ。

 だがウォルナットはすぐ近くにいたサハギンを引き寄せ、肉の盾にしてこれを防いだ。

 

「ぎゃっ!?」

「おおっとあぶない」

「くっ、何と卑怯な」

「ははっ、ビジネスとは往々にしてそう言うものです。そして私は損切りのタイミングも見誤らないもの。そこの部下はくれてやりましょう。それでは」

 

 そう言うと、最初からいなかったかのようにウォルナットは姿を消した。

 

「……また逃げられたか」

「ルーク、あれが何かわかるならどこに逃げたかもわかる?」

「無理。あれはただ名前書いた場所に戻れるだけの一方通行だからな」

「どいつもこいつも一瞬で消えるのだけは得意よね。面倒くさいったらありゃしないわ」

「いやそれ、私たちにも言えるからね?」

「それで、こやつの処遇はどうするかのう?」

「そうだった」

 

 ドリントルがのびているウオスキを指さした。

 エステルが駆け寄り、肩を掴んで揺らす。

 

「おーい、起きろ起きろ」

「あばばばばばば」

「いやいや、そんなに揺らしたら逆効果だって」

「ぶふぅー……、あ、あれ!? 拙者なぜ縛られて!? 資本卿はどこへ!?」

「ついさっき逃げたよ。お前は捕虜として扱わせてもらう」

「そ、そんなっ」

 

 見捨てられたことがよほどショックだったのか、ウオスキはブルブルと震え出す。

 そんな様子を完全に無視して、アルカナは尋問を始める。

 

「それで、ここに召喚ゲートがあると言う話だが」

「た、確かに奥に隠せと言われましたが」

「じゃあ地表付近までこことそのゲートを動かしてもらおうか」

「そ、それは」

 

 迷宮を動かせという命令に、迷宮職人としてのプライドから抵抗する。

 アルカナは露骨に面倒くさそうな顔をした。

 

「ルーク君や」

「何ですか」

「利き手の指以外はやってよろしい」

「了解」

 

 かなり端的に尋問どころか拷問の話を始めだした。ひどいなこいつら。

 

「ひ、人の心が無いのですか!」

「いやお前らが言うなよ」

「それに君ぃ、リリィちゃんに私を悪魔だの淫売だの好き放題言ったらしいじゃないか。そこのところ分かってるのかな?」

「ぐへえ!」

 

 アルカナはウオスキの顔面を靴で踏みにじる。

 どうやら勧誘の際に彼が用いた醜聞について結構根に持っていたらしい。

 その様子を見てローズマリーが冷や汗を流す。

 

「……あの、いいんですか? あの人、仮にも帝都から代表で来てるんですよね?」

「それだけのことをされる理由はありますから。私もできるなら一発かましてやりたいぐらいですね」

 

 メニャーニャがシュッシュッとシャドーボクシングをして見せる。許可があればその右ストレートが横隔膜どころか顔面に突き刺さることは間違いないだろう。

 

「メニャーニャ、最近先生に似てきたよな」

 

 エステルは後輩が段々お茶目度を増してきたことを喜ぶべきか、それともアルカナ(ダメ人間)の性格に近づいているのを嘆くべきか悩んでいた。

 

「哀れだけど同情の価値なしね。一応エスカレートする前に止めましょうか」

 

 流石に見てられなくなってきたので、ヤエの言葉で一同は意気揚々と脅すアルカナを止めに入ることにした。

 哀れな男の声が木霊する。

 

「わ、わかりましたああああ!!」

 

 最早彼に選択の自由などなかったのであった。

 

 

 

 

 

 

 それからそれから。

 

「お手柄よあんた達!」

 

 エルフ王国の応接室。

 リリィ女王はこの上なくご機嫌な顔でハグレ王国とアルカナ達を見渡した。

 

 あの後、戦況の流れはこうだ。

 

 リリィ女王率いる防衛軍は善戦していたものの、数に押されかけていた。

 深人たちを寄せ付けなかった魔導兵器も、段々と出力が落ち始めていた。

 

 そんな時、盛大な爆発音が戦場から離れた場所から響き渡り、一筋の極光が空を駆けた。

 

 直後に基地の方向立ち昇る煙を見て、サハギン軍に動揺が走る。

 そうして乱れたサハギン達を、エルフ軍は押し返し始めた。

 

 それから間もなくして、戦場の反対側よりアルカナ達が本陣へと突入。

 ふんぞり返っていたもう一人の脳漿喰いをあっさりと倒し、サハギン軍はあえなく潰走。

 召喚された魔物たちもエルフ軍に追い込まれ、基地の表面に出ていた次元ゲートから元の世界へと帰って行った。

 そのあとはキーオブパンドラでゲートを封鎖し、現在エルフ王国で終戦処理を行っているのであった。

 

「これでしばらくはやつらも攻めてはこないはずよ。本当にありがとう。それにしても、やっぱりあんたは滅茶苦茶な真似するわね」

 

 タロスを打ち破ったときの事を指しているのだろう。

 アルカナはその戦いを回想し、賞賛する様な口ぶりでいった。

 

「流石に、あのタロスは少し冷や汗をかいたさ。私の全力を二発も受けてなお動いてやがった。他に私が本気を出して死ななかったのは、10年前のあいつぐらいだったよ」

 

 その言葉に反応したのは、同じく10年前を知るマーロウだった。

 

「ああ、アレですか……。今はどうしているので?」

「監獄にぶち込まれたっきりだな。流石に奴は色々やりすぎた」

 

 当時を思い返すアルカナの言葉に、マーロウも無言で肯定を示した。

 そんな余談は置いておき、戦後処理の話に戻る。

 

「それで、残りのサハギン達はどうしてる?」

「とっとと元の棲み処に帰ってもらったわよ。わざわざ捕虜にする場所もないし、あんた達が連れてきたあの人間も、落とし前をつけてもらったら帝都に引き渡すつもり」

「ん、承知した。他に私たちからすることはあるかい?」

「今のところはないわね。何かあったら遣いを飛ばすわ」

 

 帝都とエルフ王国の間の取引はひとまずこれで終了した。

 

「わかった。ハグレ王国もそれでよいかい?」

「ええ。それで問題ありませんよ」

「あんた達には別途謝礼金を用意させてもらうわ。とはいえ、うちも厳しいからあまり出せないけど」

「無理しなくていいですからね?」

「舐めないでよ。なんなら宝物庫の中から埃かぶってるのをいくつか進呈してもいいわ」

「女王陛下、流石にそれは控え目にしてくださいよ」

「なによー」

 

 結構歴史あるものまで贈呈しかねない勢いのリリィをクリストファーが嗜める。

 二人のやり取りを横に、アルカナはマーロウに言った。彼の奮闘なければ、おそらくエルフ王国は落とされていただろう。

 

「マーロウもお疲れ様。君の武勲はハグレ王国の祝勝会で盛大に讃えてやろう」

「などと言っておりますが、ローズマリーさんはいいのですか?」

「構いませんよ。貴方なら大歓迎です。デーリッチ達も喜ぶでしょう」

「クウェウリちゃんが腕を振るって料理を作ってくれるからね。娘の手料理、久々に食べたいだろ?」

「むう。クウェウリの料理を出されては参加せざるを得ませんな……!!」

 

 マーロウが王国民との呑み比べに参加して、クウェウリに盛大に叱られるまであと数時間であった。

 

 するとそこ、でクリストファーがアルカナに向き直った。

 

「ところでアルカナ殿、彼はどうするのです?」

「スパイク君の事なら、ひとまず私の知り合いに預かってもらうよ」

 

 ハグレ王国に降伏し共に戦ったギルマン、スパイクの身柄はアルカナが引き取ることになった。

 裏切った手前今更サハギン達の集落に戻るわけにもいかず、エルフ王国で捕虜となるのはお互いの精神的によくない。ハグレ王国が預かる線もあったが、他ならぬスパイク自身がそれを望まなかった。彼は静かに暮らすことを望み、そうするのにちょうどよい場所をアルカナは知っていた。

 

「彼が行くのはリゾート地だよ。青い海と白い砂浜だ。羨ましいか?」

「まさか。私はこの山と自然を愛してます。ですがまあ、状況が落ち着いたら、顔を見せるぐらいはしてやってもいいかもしれませんね」

 

 それを横で聞いていたリリィは意外そうな顔をした。

 この幼馴染は堅物で、礼儀にうるさく、種族の中でも特にサハギンへの敵意が激しかった筈だ。そんな彼が共闘したとはいえ魚人の身を案じるなど、にわかには信じがたかった。

 

「そういえばクリス、あんた窮地をサハギンに助けられたんだって? ならそのサハギンだけは別なのかしら?」

「まさか」

 

 リリィの言葉にクリストファーは苦笑いした。

 

「サハギンなんて、到底好きにはなれませんよ」

「じゃあそいつは何なの? 魚人でしょ」

「まあ、そうですね」

 

 クリストファーは一呼吸おいてから紳士的に言った。

 

 

 

「彼は自分をギルマンだと言ってました。でしたら、私もそれを尊重するだけです」

 

 

 

 




〇クリストファーとスパイク
今回のオリキャラゲスト2人。
サハギン戦線を書くに当たって、ただハグルマをぶちのめして終わりにはしたくなかった。かと言って原作のようにこの世界に対するハグレのスタンスを描写するのは無理があった。
ではどうするかということで、ハグレが様々な世界から召喚されることに焦点を当てた。種族間の感情やら、よく似てるけど違う種族、別の世界での同じ種族など、原作では話が取っ散らかるので触れられていないと推測した部分を掘り下げてみることにした。

〇ルーク
こいつは結構ボンクラなのを皆に知ってもらいたかった。
ただそれだけなんだ。

〇メガちゃん
口調おかしくても許して。
らんだむダンジョンも傑作だからプレイしようね。
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