具体的にはルークの内面描写とか説明を端折り過ぎてるなと思った部分の量を盛りました。
気が向いたらどうぞ。
『一日目・商業区』
班分けを終えたハグレ王国の仲間たちは、各自の好きな方向へと解散していった。
あっという間に残ったのは広域哨戒を担当するエステル隊のみだった。
「さて、どこから探せばいいんだこれ……?」
エステルは帝都の地図を見ながらつぶやく。
彼女達の目的は帝都に潜伏するテロ容疑者の捜索と無力化。
だが帝都は広く、入り組んでいる。
元々、大陸有数の規模を誇っていた街だが、召喚術によって多くの種族と世界の生活様式が入り混じったことにより、その複雑さは好き勝手に積み上げた積み木の城が如くだ。
その中から何の手掛かりも無しに特定の人間を発見するというのは、砂漠の中に一粒落ちた砂金を見つけ出すようなものだ。
エステルが地図とにらめっこしていると、ルークがヘルラージュを連れてすたこらと歩き出した。
「まずはこっちだ。ついてこい」
「あ、待ちなさいよ!」
迷いのない足取りで進む彼をエステル達は慌てて追う。
ルークは繁華街へ入り、最初の角を曲がる。しばらく進んでいき、ある建物の前で立ち止まった。大きく目立つワイン樽の看板は、その建物が酒場であることを示しており、看板には『サモンバッカス』と店名が掲げられていた。
「あれ、ここって確か……」
追い付いたエステルは見覚えのある看板に立ち止まる。確か先生が贔屓にしていた店だなと、飲みに行ったきり帰ってこない師をシノブと共に迎えに行った記憶が蘇る。
ルークはお構いなしに店の中へと入り、ラージュ姉妹もそれに追随した。
「ああなるほど。そういう事か」
「ジュリアさん? ちょっと待ってよ」
一人得心したジュリアも店内へ入り、我に返ったエステルがその後に続いた。
カランコロンと小気味よい音が鳴る。
店の中は昼間だろうとお構いなく賑わっており、客の視線の多くが新しく入ってきた者へと注がれる。
「お、かわいい子が入ってきたじゃねえか」
「野郎と一緒かよ、ここはアベックが来るところじゃねえぞ」
「ガキまで連れてんじゃねえか。なんだ子守りか?」
野次を飛ばす酔いどれたち。
ルークとヘルはそれらを意に介することなくお互いに言葉を交わした。
「それじゃ、リーダー。いつも通りに行きましょう」
「ええ。それじゃあ私はこっちで話を聞いてくるわね」
「私は?」
「お姉ちゃんはエステルさん達についてあげたほうがいいと思うわね。こういうところでの情報収集とかあまり慣れて無さそうだから、それに店の外で聞き込みもしてもらいたいし……」
「ん、わかったわ」
ルークはカウンターに、ヘルラージュは客のいるテーブルへと向かう。
ここまでくれば流石にエステルもルークの行動の意図を理解する。
彼は最初からこの店で情報を集めるつもりだった。
この広く入り組んだ帝都をしらみつぶしにしたとして、テロリストを発見するのには時間がかかりすぎる。
ならば少しでも効率を上げるために情報収集を行うのは自然な考えだ。
人の集まる場所で聞き込みをすれば、何かしらの情報は得られる。特に冒険者やハグレの集まるこの店ならば、話の中に飛び交う情報の種類は多い。まさにうってつけの場所だ。
そして彼らは手分けして聞き込みを行う。
ルークは情報を握る専門家との取引を行うのが得意で、聞き上手のヘルは大勢から多数の情報を聞き出すのが得意だ。これが秘密結社の情報収集、互いの長所を活かした冒険者時代からの行動ルーチンである。
「流石に手慣れてるなあ」
「あいつ、酒場で聞き込みするならそう言えばいいじゃない」
あまりの無駄の無さにジュリアが感心し、エステルは口を尖らせながらも彼らの手際の良さは認めざるをえなかった。
そこにヘルと話を終えたミアラージュがやってきた。
「ここはヘルとアイツに任せて、私たちは外で情報収集するわよ」
「確かにここは二人の独壇場らしいからな」
エステル達が店を後にするのを尻目に、ルークはカウンター席に腰を下ろしていた。
「とりあえず軽いの一杯」
ルークは席について開口一番に注文する。
間もなくしてエールが出され、ルークはそれを飲み干した。
ルークがグラスを置いてすぐ、バーテンが質問した。
「《おたから使い》だな?」
「ああ」
突如問われる彼の二つ名。
しかしルークはあらかじめその質問が来ることを分かっていたように肯定した。
「伝言を受け取っている」
ルークはバーテンが差し出した封筒を受け取り、そのまま中に入った紙を確認する。
しばし読み込んでから満足そうに頷き、再度封筒に入れ直してから懐にしまった。
これで彼が来た理由の一つは完了した。
「ありがとよ。それでだバーテンさんよ、最近変な連中の噂とか聞いたことは無いか。特に外から来た連中でさ」
ルークは臨時衛兵証を見せつけるようにして問う。
すると横から割り込む声があった。
「よう仮面の兄ちゃん、あんたも衛兵バイトか」
ルークが話しかけてきた方向を見ると、そこには太眉で筋肉質な男がカウンターに肘をつけていた。
擦り切れた胴着を身に纏う巨漢の姿にルークは見覚えがあった。
「久しぶりだな。相変わらずあのおっぱいの嬢ちゃんと仲いいみたいで羨ましいぜ」
「あんたは……闘技場にいたおっぱい紳士!」
「ジョルジュ長岡だ! 名前は流石に覚えていてほしかったなあ!?」
「でも好きなんでしょ?」
「うん!」
元気よくジョルジュは頷く。それは無邪気でどこか清々しさすら感じられた。
ジョルジュ長岡。
彼は以前、ハグレ王国が闘技場に出場した折に最初に戦った武道家だ。
見た目通りのパワーファイターかと思えば、遠距離武器として魔鎖を得物にする中々の知性派だったとルークは記憶している。ついでに言えば、重度のおっぱい星人であることも分かっていた。
彼もまた旅人であることは知っていたが、しかしこんな場所で出会ったことは思いがけない偶然だった。
「お前相変わらずだな……」
「へっ、褒めんなよ」
「褒めてねえよ。それで、何だってお前がここにいる」
「そりゃ俺も傭兵だからな」
ほらよ、と見せてきたのはルークの手にあるものと同じ臨時衛兵であることを示すネームタグだった。
「なんだお前もか」
「俺も食い扶持稼ぐためにはあそこで戦ってるだけじゃちと苦しくてな。順位を上げてから姐さんやリューコちゃんが容赦ねえんだわ」
「そりゃあの二人相手は無理だろ……」
ハグレ王国が優勝した後の闘技場については、以前に王国を訪れていたラプスからある程度の事情は聞いている。
悪魔たちの娯楽として優勝者が出た後も続けているらしく、むしろチャンプが出たということで腕に自信のあるやつらが一層集まるようになっていた。
ラプスもトップランカーとして次々と現れる対戦者をぶちのめしているが、中々骨のある相手が来ないと愚痴をこぼしていたことから、それなりに戦えるジョルジュにスパーリングと称してボコっているのだろう。
「まあ姐さんのナイスサイズな乳を合法的に至近距離で拝めるのは役得だけどな」
「ほんとブレねえなお前……」
一周回って敬意すら覚え始めるルークだった。
「それで、お前もここで情報収集か?」
「いや、俺は景気づけに酒飲んでるだけ」
ジョルジュは手に持ったジョッキの中身をぐびりと煽った。
よく見れば顔がほんのり赤く、どうやら結構前から飲んでいることが見て取れる。
明確な職務怠慢である。
「おいおい……」
「ま、ここで情報を集めるのは流石姐さんの仲間だ。どんな話題でも酒のつまみにするからなここの連中は。流石に衛兵が聞きに来ることはほとんどねえけどな」
「だろうよ。でもここが一番いいと思った」
「その心は?」
「裏路地の話題を探るならまずここだろ」
その言葉を聞いた途端、ジョルジュの緩んだ表情が引き締まった。
「……なるほど。お前さんらはそっちを知りたがってるのか」
「そっちも何か知ってるみたいだな」
「まあ多少はな。俺はストリートファイトで鳴らした口だから、そういう話題は自然と耳に入ってくるのさ」
「じゃあそんなアンタに一つ聞こうか。最近帝都で怪しい連中を見かけたとかの話はあったか?」
ルークはカウンターにエール一杯分の硬貨を置いた。
「おっ、気前がいいじゃないの。そうだな。つっても今の帝都じゃ怪しいやつなんざ結構いると思うぜ。例えばこの間は四丁目で魔法使いのローブをきた連中がうろついていたらしい。おそらく『サバト・クラブ』あたりが集会でもしてたんだろうって噂だ」
早速アルカナから伝えられた組織の名前が出てきた。
ルークとしては黒魔術集団に関わるのは気が引けるがそれは個人的な事情。仕事としては幸先が良いのだと思考を切り替え、さらに情報を深掘りしていく。
「ほうほう、そいつらが具体的に何をやってたとかは分かるか?」
「うーん、悪いがそこまでは知らないな」
その顔を見て嘘はないと判断し、ルークは話題を切り上げた。
元々個人的な用事のついで。必要以上にこだわって時間を浪費するぐらいならば実際に見に行った方が良いだろう。
「じゃあその話はそこまででいい。他には何か目撃情報とかあるか?」
「いや、これ以上は特にないぜ。一昨日来たばかりだからな」
「そうか、ありがとよ」
「俺も色々情報集めるから、何かあったら飲み代おごってくれや」
「考えとくわ」
ルークは席を立ち、そのままテーブルで客と談笑しているヘルラージュを見る。
彼女の方もどうやらかなり盛り上がっていた。
ヘルは周りの客の話に笑顔で相槌を打っており、その可愛らしさと艶めかしさを兼ね備えた仕草に男たちはさらに上機嫌になっておぼつかない言葉と情報を彼女に貢いでいく。
ルークが近寄ると、ヘルはすぐに気が付いて振り向いた。
「あら、もう終わったの?」
「まあね。ミアさんたちと合流しましょ」
「はーい。それじゃあ、皆さんお話ありがとうございました!」
ルークの言葉に従いヘルも席を立つ。朗らかな笑みでお礼をするのも忘れない。
「そんなぁ!? もっと話を聞いてくれよ」
「せっかくかわい子ちゃんが来てくれたのにもう行っちゃうのかよぉ」
「かーっ、この色男が!」
当然だが客たちから残念がる声が挙がるが、ヘルはルークにくっついて店を出て行ってしまった。
現実の非情さに涙を流す男たち。中には崩れ落ちる者までいる。
羨望の視線を背中に突き刺されながら、ルークは店の外に集まっていた3人と合流する。
「お待たせしました」
「何かいい情報あった?」
「工業区のはずれにモグリの魔術師が集まってるらしい。一応見ておくべきだとは思いますね」
「私もそれっぽいのはいくつか聞けましたわ。でも身長3メートルの巨人とか、廃墟に浮かぶ人魂とか、ただの都市伝説っぽかったわね。まさか街の中に魔物が湧くことはないでしょうし。あ、でもゴースト系なら出てきてもおかしくはないのかしら……?」
やはりヘルのほうは収穫が薄かったらしい。
あの店は情報のやり取りには便利だが、無造作に情報を掘り当てるには与太話が多すぎる。
実際、ルークは依頼とは異なる用事のために寄ったのであって、情報収集はそのついでだった。
「こっちも大体同じね。下水道に行ったきり戻ってこない人間がいて、人食いワニが潜んでいるってさ」
「私はいささか、いやかなり物騒な話を聞いたな。どうやらここ数日立て続けに死体が上がってるようだ」
対して、ジュリアが持ってきた情報はかなりピンポイントだった。
「通り魔か……、どのあたりで?」
「それが詳しいことはわからなかった。場所が散逸しすぎて、ただ殺されたと言う噂が一人歩きしてるようだ。衛兵として動いていることを伝えたら、じゃあもう安心だ。なんて勝手に喜ばれたよ」
わざわざ祭りの雰囲気を壊してまで殺人事件に怯える必要はない。
そんなものは専門家に任せて、自分達は祭りを楽しむ。
そういった図々しさは人間の長所とも言えるが、現在の帝都の立場を考えるとあまり好ましいとは言えなかった。
やはりというべきか、全ての情報が不確定すぎる。
「う~ん。どれも充分に怪しいけど、同時にうさん臭いわね」
「片っ端から当たっていくしかねえだろ。リーダー、どこから行きます?」
「それじゃルーク君の案件から行きましょう。場所もはっきりしているようですし」
「りょーかい」
方針を決定し、彼らは西へ足取りを進めていく。
これが、彼らにとって長い3日間の始まりだった。
◇
『幕間・ある伝承』
一方そのころ。
商業区、大通り。
ドリントルはアクセサリーの露店の前で、商品を眺めていた。
ルビーの指輪を手に取り、試しとばかりに指にはめる。
「ほう、これは中々良い細工じゃの」
「お嬢さんによく似合ってると思いますよ。まるで王族のようになったとは思いませんか?」
まさか目の前にいるのが本物の王族などとはつゆにも思わず、店員が売り文句を口にする。
「おいおい。仮にも姫様がそんなチープな代物を身に着けるのか?」
そんなドリントルと行動を共にするのは、冥界姫イリス。
冷や水をぶっかけるような言葉に店員が眉を顰める。
彼女の言う通り、この店の商品の半分はイミテーションで、もう半分は割れ物を再利用した型落ち品だ。
だがそんなことは露店で庶民でも手に取れる値段で売っていることからも、名言されているようなものだろう。
「何を言うか。確かに素材は安いかもしれんが、本物に見せようと言う努力は確かじゃ。そういう努力はむしろ喜ばしいかと思うがの」
「ふーん」
「それにこういうのも思い出じゃよ。そうじゃの、これを一つもらおうか」
「あ、ありがとうございます」
店員もその口ぶりからただ者ではないことを察したのか、どこか萎縮しながらも代金を受け取った。
それをイリスはどうでもよさげに見ていた。
そのまま大通りの店を冷やかしていくと、唐突にドリントルが呟いた。
「のう、イリスよ」
「
「その、なんというか、お主微妙に機嫌が悪くないか? 悪魔というからにはこういうのは好きじゃと思うのだが」
「ま、ごちゃごちゃしてるのはワタシ好みではある。まあ、そうでなくとも愉快な国だ」
一見して対照的に見えるこの二人だが、高貴な身分同士、姫君同士という共通点もあってか、この二人は意外と話が合うらしい。
共通の友人であるゼニヤッタが間に入っていることも理由の一つだと思われたが、二人きりで会っても中々話の話題には困らなかったようだ。
そして高貴な身分である以上、目の前の相手の機微を読み取るぐらいは造作もない。
故にドリントルは、イリスが積極的に露店を見ているように見えて、彼女が常に別の事を考えて言えることに気が付いた。
「お主にはそう見えたかの?」
「嗚呼。退廃と欲望に満ちてお先真っ暗なところとかが特にな」
「うーん、この悪魔観。恐るべし」
ドリントルも庶民文化については自由だとか堅苦しくないとかの理由で好きなのだが、イリスのそれはやはり愛でる部分が人間とはズレている。
それでいて、第三者からは人間と同じような素振りに見えるのだから性質が悪い。
「となると、お主があまり祭りを楽しんでいないように見えたのはわらわの気のせいじゃったかの」
「私の態度がケアレスだと?」
「そのように見えただけじゃよ」
「……いや、それは正しいナ。いいか、プリンセス。確かに私は注意散漫だったさ。だが無理もないだろう? あの白翼の女がいるとなれば、それだけで気にする出来事だからな」
「およ? お主はアルカナのことを知っておるのか?」
白翼の一族について知っているのは、ケモフサ村に集った時の面々のみ。
つまりハグレ王国の大半なのだが、最近になって加入したイリスはその例外だ。
彼女はアルカナ含めて、王国に加わっていない彼女の関係者との接点が薄い。
アルカナは王国と協力関係を結んでいるとはいえ、積極的に日常を共に過ごす相手ではないがゆえに、関係を深める機会はおのずと冒険の時や、定期的な訪問の時に限られる。
そうした時間に於いて、イリスがアルカナと接していたということはドリントルの記憶にはない。彼女も王国の人間関係をすべて把握しているとは言い難いので自分の知らない所で接していたらそれまでなのだが、どうにもそう言う訳ではないらしい。
イリスの口ぶりはアルカナというよりは、白翼の一族に向けてのものに聞こえたからだ。
「知らねーな。あの女と顔を合わせたのはこれで三度目ダ。それとまともな会話は一度だってしてませんネ。ワタシが知ってるのは
「前……、というと白翼の一族の誰かということかの?」
「正確にはそのルーツだ。あの末裔どもはいくつか見てきたが、あれだけオリジンにそっくりなのも珍しいな」
「オリジンとな?」
「あいつらはな、一人の魔術師の弟子なんだよ。二千年以上も前の魔術師の弟子たちが、今の今までその秘術を伝承し続けているのサ」
思いがけないところから発せられたアルカナの魔術についての新事実。
彼女の言葉を信じるならば、アルカナが用いる魔術は文字通り二千年以上もの歴史を誇ることになる。
白翼の技術はこの世界のものよりも遥かに高度だ。それはこの世界に埋もれていた古代文明にも匹敵する。
いや、彼女らの技術とは、もう一つの古代文明と言っても過言ではないのだろう。
この世界で学んだ知識と、自分の知識、そしてイリスが語った事実がドリントルの中で結びついていく。
「ふうむ、となると白翼とはやはり彼らのことなのじゃろうか。……それで、お主は何故そんなことを知っておる。この世界には来たのは殆ど初めてなんじゃろ?」
「そのアンサーはイージーだ。その魔術師は二千年以上も生き続けていて、その弟子はいたる世界にばら撒かれているんだよ。そして私はその魔術師の顔を見たことがある。それだけの話サ」
「なんじゃと?」
「その魔術師の名はガルタナ。星と混沌を操り、何もかもを俯瞰するいけすかない野郎だよ」
心の底からの嫌悪感に満ちた表情で、イリスはその名を口にした。
「めちゃくちゃ嫌っておるな」
「当たり前だ。ただの人間が私やパパの根源である混沌に触れて正気を保つどころか好き勝手に操ってるんだ。悪意や堕落を拒むんじゃなくて、受け入れながら輝きやがるなんざ、気持ち悪い事この上ない」
嫌悪と好奇の混ざった感情を乗せてイリスは饒舌に語る。
そこまで聞き、イリスがアルカナを意識している理由も嫌悪なのだろうかと疑問に思った。
「となると、お主はアルカナも嫌いなのか?」
ドリントルから見て、アルカナという人物は強い存在だった。
自分の様に一度は国と理想に裏切られておきながらも、彼女は現実から逃げずに立ち向かっている。
世界がままならないことを理解していながら、それでも社会を良い方向に変えようと動き続けている。
人間が醜いことを知っていながら、それでも人の善性は美しいのだと信じている。
その在り様は確かに矛盾だ。
だが、それが人間というものだ。
どれだけの矛盾を抱えていようと、前に進み続けることができるのが人間の美点だ。
ただ、アルカナはそれが人一倍強いだけ。
彼女と同じ、あるいはそれ以上の強さを持った人間だって探せばいるだろう。
それこそ、自分達が支える国王のように。
以前、アルカナはケモフサ村での会合で、有無を言わさずにハグレ王国を従えようとした。
多少は穿った表現だが、事実としてアルカナは自らの理想のため、自分達をその大きな渦に巻き込もうとした。
ローズマリーはその時何も言うことができなかった。
政治について多少は心得のあるドリントルも、彼女が行ってきた手練手管の粗を見つけることができなかった。
だがあの時、デーリッチはアルカナに対して真っ向から異議を唱えた。
「このやり方に従え」に「そのやり方はよくない」と、小さな王は賢者に対して、己の光の一端を示してみせた。
そのうえで、彼女の思想を知り、それを受け入れた。
デーリッチは上下関係では無く、対等な関係で共に歩みたいと言ったのだ。
大きなものに導かれるのではなく、小さな自分の目で道を決めるために。
そうした「強さ」を持った人間たちのことを、ドリントルは密かにリスペクトしていたし、輝かしいとさえ思っていた。
そして、彼女達がこの世界の抱える歪みにどうやって立ち向かい、どのような国を作るのか。
それを間近で見ていたいと、ドリントルは思っていた。
そんなアルカナの先祖である一人の魔術師。
ガルタナはアルカナの象徴とも呼べる星の光と、ジェスターが操る混沌の闇を自在に操る。
それは闇から生まれたイリスにとっては生理的に受け入れがたいものだ。
故に、彼の理想を受け継いだアルカナもまたイリスにとっては嫌悪の対象なのだと思っていたが、意に反してイリスは首を振った。
「いや、むしろ面白いと思ってる。確かにあの女の匂いは嫌いだが、生き様については話は別だ」
「うん? 先祖が嫌いなら子孫であるアルカナについてもそうなのではないか?」
「確かにあの魔術師は個人的に嫌なやつだ。私は人間どもが善悪に惑いながらあがく様が面白いし、奴はそんな人間どもの全てを尊いとほざいている。悪魔よりも悪魔らしいことを口走る奴だが、そいつの理想を愚直に信じて実現しようとするガキ共はむしろ見ていて面白いのサ」
善も悪も、すべて受け入れて人は前に進める。
それは人間に欲望と堕落を齎すイリスからすれば、確かに夢物語で気持ちが悪い。
だが、その荒唐無稽が形になると言うのなら、それはそれで気になるということらしい。
だからといって、その有様を実際に悦楽の対象とする悪魔の価値観はイマイチ測りづらいわけだが。
「ううむ。わかるようなわからんような……」
「ま、悪魔なりの浪漫ダ。聞き流してくだサーイ。私も祭りの熱に浮かされて柄にもない事を話し過ぎマシタ」
イリスはアルカナの話題を打ち切った。
そして誰に向けるでもなく、独り言を口にした。
「この世界を守りたがるのも白翼で、壊したがるのも白翼。まさにあの男のような混沌の状況。私にとってはこれ以上なく興味を惹かれる演目ダナ」
イリスは悪魔らしい意地の悪い笑みを浮かべる。
自らを打ち破った者達の歩みに付き合うのは良い暇つぶしになると思ったのだが、それに思わぬおまけがついてくるとは思ってもいなかった。
輝く星の瞬きと、全てを飲み込む混沌。
果たしてこの世界はどちらに染まるのか。
ああ、かの魔王が愛した人間たちよ。
白翼の系譜に連なる者よ。
精々みじめに生きあがいてみよ。
それはきっと、己を飽きさせることがないのだから。
白翼がらみの話題は定期的に出しておきたい。
〇ガルタナ・クラウン・アルバトロス
アルカナやジェスターの先祖。
本筋に絡むことはほとんどないのでご安心。
〇サモンバッカス
ぶっちゃけJailHouse。
帝都をスタート地点にするならこの酒場が導入に良いと思います。
〇イリス→アルカナ
一緒にいたくはないけど眺める分にはむしろ良いということ。