ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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更新が遅れてすまないね。


その50.帝都動乱・一日目(3)

『一日目・工業区』

 

 

 

「この辺りだな」

 

 ジョルジュからの情報を頼りに、ルーク達はその情報の出どころである工業区のはずれまで来ていた。

 時刻は14時を回った頃合い。

 あれから30分ほど歩いた計算になる。

 辺りは工場が立ち並び、人気は全くと言ってない。

レンガとコンクリートの褪せた色彩で描かれた風景は、華やかさに満ちた商業区とは真逆の閉塞感で満ちていた。

 

「おそらくあの建物だ。証言とも一致する」

 

 彼らの視線の先、一ブロック挟んだ距離にある家屋。

 今まさに、ローブを着た男が入っていった建物をルークは指さした。

 

 ルークたちは通りがかった住人から話を聞いて、今のようにローブ姿の人間が何度か出入りしているという証言を得ていた。ここの住民たちにとっては数日に何度かある光景らしく、怪しさのわりに何か問題が発生したということもないので通報は行っていなかったらしい。

 それでも、近づきがたい雰囲気があるため、住人たちは皆、無意識にこの建物を避け、いつの間にか話題にも出すことは無かったという。

 

 レンガ造りの横に広い二階建て。

 玄関のドアは色褪せており、郵便口は内側から塞がれている。

 窓も全て内側から板を打ち付けられており、中の様子を確認することは不可能。

 徹底的に、内部の様子を見せないよう細工されていた。

 

 だが、それはルークにとってはあまり関係のない事柄だった。

 

「一階も二階も誰もいねえな。中の連中は全員地下室だ」

「ほんと便利ねえそれ」

「そうでもないっすよ。めちゃくちゃ入り組んでいたり深かったりする場所は流石に見えませんからね」

 

 彼の持つおたから、《覗き屋の双眼鏡》によって内部の様子は筒抜けだからだ。

 何を話しているかは不明だが、どこにいるか、何をしているかはこの通り丸わかりとなる。空間の影響をモロに受けるのか、次元の塔や自然の洞窟ではあまり役に立たないが、こうした人工物に覆われた場所でなら極めて強力なアイテムと言えるだろう。

 

 魔術師姿の男たち(中には呪術専門だとわかる見た目もいた)は地下に造られた大部屋で何事かを話し合っているらしい。

 人数は3人。

 その傍らには大量の木箱や麻袋が積み上げられている。

 床には魔法陣が描かれ、詳細は不明だが魔術の触媒にでも使う物品も多かった。

 

「どう思います?」

 

 ルークは所感をミアラージュに尋ねる。ミアラージュはまじまじと扉、あるいは建物全体を観察してから言った。

 

「どう見ても魔術工房ね。誰も気づかないのは、軽い人払いの魔術がかけてあるからよ。明らかな違和感を、違和感のまま受け入れさせる。窓を塞いでいるのは中に溜めた魔力を霧散させないためね。どんな術であっても、力場を維持するためには自分の魔力は一定範囲に満たしておく必要がある。私の祭壇もそうだったでしょう? まあ、私の場合は死者の霊も満ちていたから、ちょっと違うかもしれないけど」

「ああ。あのずっと薄気味悪い感じはそういうことだったのか……」

 

 ミアラージュの解説を聞いてルークは過去に魔女の館で感じた倦怠感の正体に納得する。死者の霊気が充満していたなら、常に背筋が凍ったように錯覚してもおかしくなかったわけだ。

 

 ミアラージュの解説で、この建物に対する疑念もほぼ確信へと変わった。

 市街地の真っただ中に工房を作っている。それも許可されていない場所に。そして徹底的に部外者を遠ざけている。

 この建物は、限りなく黒に近いグレーだ。

 

「それじゃあ作戦会議といこう。もし連中がクロだった場合、ある程度の戦闘になる」

 

 ジュリアの言葉に全員が同意する。

 もし、などと前置きしているが、十中八九荒事になることは言わずともわかっていた。

 

 サバト・クラブは帝都からも違法団体として認定されている組織だ。警備に属する職業であれば、アジトへと強引に押し入っての制圧も法で許可されている。

 

 では、そんな組織が今まで活動を続けられているのはなぜか。

 理由は簡単。

 彼らの規模が不明瞭だからだ。

 サバト・クラブの母体は黒魔術の研究団体だ。

 黒魔術――死霊術や呪術を始めとして、倫理をあまりに逸脱するが故に禁止された魔術の研究者は常に法の監視から逃れる日陰者だ。彼らは互いのノウハウや知識を共有するために自然と社会の目を盗んでの集会を行うようになり、それが次第に街を越えるようになった。それがサバト・クラブの始まり。

 

 そうした背景から、構成員のほとんどは黒魔術師だ。

 その中には危険な術の使い手も何人か存在し、自警団や冒険者が下手に手を出して痛い目にあうことも何度かあったためか、迂闊に手を出せない組織として人知れず幅を利かせていた。

 

 だがルーク達はハグレ王国。

 帝都どころか、大陸を探しても上位に位置するだけの経験を積んできた彼らであれば、決して分の悪い相手ではない。

 不覚を取らないよう戦略を立てて動けば、問題なく制圧できるだろう。

 

「肝心なのは初撃だな。最初の攻防でどれだけ有利に立てるかで勝敗が決まるだろう」

「オッケー。それならこっちの得意分野だ」

 

 人払いで十分事足りるということか、玄関に鍵はかかっていなかった。

 あるいはそもそも侵入者事態を想定していない、か。

 ここが集会所として機能しているのなら、確かに鍵をかける必要は薄い。

 玄関に足を踏み入れた途端、甘い匂いが彼らの鼻腔を刺激した。

 ハーブ、スパイス、生薬。

 様々なものが入り混じったそれらの匂いは、ここが裏社会に属する場所であることを如実に示している。

 

 一階は外からの光が取り入れられておらず、ほの暗い闇で満ちている。だが向かう場所などわかっている。あらかじめ見た場所に忍び足で向かうと、そこには地下への階段が存在した。

 足音を立てないように下って行き、一つだけある扉の前で立ち止まる。香の匂いはより強くなっていた。

 聞き耳を立てると、話し声が聞こえてきた。

 

「……例のブツは……」

「既に運び込んでいる。今夜指定の場所まで運ぶぞ」

「そうか、追加の発注分は?」

「問題ない。明日には商会から届く手はずだ」

「ところでアドベラの奴はどうした」

「帝都に入ったとは聞いたがそれっきりだ。大方墓場で死体探しか、あの殺人鬼と共に調()()に励んでいるのだろうよ」

「全く、何を考えているのだあの女は」

「まあ、何をしようが構わんがな。互いの研究に口出しはしないのが我らの信条だ」

 

(やっぱり、何かを運び込んでいるな。それにあの死霊術師の名前まで……)

 

 どうやら彼らは帝都に何かを運び込んでいるらしい。それも非正規の手段でだ。これだけでも介入する口実は出来上がったが、さらなる情報を得られるかもしれないと、ルークはさらに耳を澄ました。

 

「しかし、実にいい取引ですね」

「何人かの召喚士くずれを受け入れていたことが功を奏したというべきか。おかげでよい取引先と物資の仕入れルートを構築できたというもの」

「反対意見も多かったですがね」

「魔術の探求に励まぬ怠け者だと謗る声もあったが、議長の英断は流石だったな」

「それで、取引先の貴族はなんだっけか。あいつも元召喚士なんだろう?」

「ああ、()()()()()()と言ったかな。古代技術の専攻だから我々とは縁もゆかりもないが金払いは良い。協会と敵対していると言うから手を貸すことが決まったわけだ」

 

(――ビンゴ)

 

 期待通り。

 この状況で最も怪しむべき相手の名前を出してくれたことに、ルークは心の中でほくそ笑んだ。

 ちらり、とヘルラージュ達を見る。彼女たちも多少の驚きはあれど、声をあげたりなどはしなかった。

 

「ま、やつが何を企もうが興味はない。我らは我らの目的を遂行すればいいわけだ」

 

 魔術師は次々と煙をふかして、恍惚とした表情になる。

 これ以上ないほどに油断しきっている。

 ……乗り込むには絶好のチャンスだ。

 

「頃合いだな。突入するぞ」

「おう」 

 

 ジュリアの声と同時、ルークが扉を蹴り開ける。

 大きな音を立てて扉が乱雑に開かれる。

 

 それにより中にいた者の視線は全てそちらに向いた。

 完全にリラックスしていたからだろう。突然の不審者に、彼らの対応は遅れた。

 

 ルークは一歩踏み込み、一番近くにいたローブ姿の男に拳を突き出した。

 

「ゴガ……ッ!?」

 

 真っ直ぐに伸びた拳が腹部に突き刺さる。

 男は内臓への衝撃に耐えきれず、空気を吐き出す。

 ルークはそのまま首を引っ掴み、男を頭から床に突っ込ませた。

 

「な……っ!?」

 

 男は床に叩きつけられた衝撃で気を失った。

 それに目もくれることなく、ルークは驚愕する魔術師たちに言った。

 

「さて、俺たちは衛兵だ。ここに怪しい集会が行われている通報を受けてきたわけだが……弁明はあるか?」

「貴様っ!」

 

 魔術師の一人が慌てて取り出した杖がルークに向けられる。

 杖の先から放たれる冷気。

 それを予測していたルークは横に跳んで魔法を回避する。

 

kmitiy(鎌鼬よ)!」

 

 聞きなれない言語の怒号が轟く。

 襤褸布を羽織り、怪しげな瓶や元の姿を想像したくない形状の干物などを腰から吊り下げた呪術師が風の呪いを飛ばす。

 直撃すれば人間を容易く切り裂く風の刃。

 着地の瞬間を狙って放たれたそれをルークは回避しきれない。

 だが、横から飛んだつむじ風が明後日の方向へと吹き散らした。

 

「やらせませんわ!」

「ナイスだリーダー!」

 

 ヘルラージュの援護を受けたルークはそのまま呪術師へと突進する。

 大部屋とは言え狭い空間内。

 彼らの合間は5メートルあるかないか。

 ルークは一息で距離を詰め、そのまま肩から背中にかけてを叩きつけた。

 格闘技ボディチェック! 拳法によっては鉄山靠、パワータックルと呼ばれる、己の質量を余さず敵に伝える強力な技だ!

 

「ぐおっ!」

 

 体当たりの衝撃で、呪術師の身に着けていた不可思議な装飾品が床に落ちる。

 呪術師はたたらを踏むも、衝撃に耐えて敵意の視線をルークに向けた。

 

「おのれ……っ!」

 

 呪術師の目が怪しく光る。

 どれだけ早く唱えようと十秒はかかる詠唱を、彼独自の技術で端折ることで二秒にまで縮める。

 至近距離で呪いが放たれる。

 だがルークは体当たりの勢いを利用し、回転して肘を叩き込んだ。

 

「ごはっ……!」

 

 側頭部を強打されれば人間の意識は容易く落ちる。

 ルークを凝視したまま呪術師は床に倒れる。

 紫色の光が明滅し、震える手でルークを指さしたのを最後に動かなくなった。

 

「……?」

 

 最後の行動に訝しんだものの、ルークは呪術師の気絶を確認して彼から視線を外した。

 

 ルークの得意分野は奇襲と室内での乱闘だ。

 彼は亜侠として組んでいた仲間たちから様々な戦い方を聞き学んでいる。

 エルヴィスからは何が何でも勝つ路地裏仕込みの喧嘩殺法を。アプリコからはナイフ、爆弾、トラップの扱いを含めた軍隊式格闘術を。ラプスからは持ち前の龍宮振蹴拳からの武術の心得を。和国人の青年からは禅の心による気配遮断を。彼らが時折教えるその戦闘技術は、全てがルークの糧である。

 派手で強力な魔法を使えるわけでも、ハグレのように特殊な能力や秀でた身体能力があるわけでもない。だが基本中の基本ともいえる泥臭く陰湿ともいえる戦い方が彼の真骨頂であった。

 

「せいっ!」

「ぐあっ!」

 

 氷魔法を用いた魔術師が、ルークに向けて魔法を放とうとした。

 だがここに乗り込んできたのは彼だけではない。

 盾を構えて突進したジュリアによって、氷魔法使いもあっけなく叩きのめされた。

 

「よっし、制圧完了」

「お疲れ様ですわ」

「ナイスアシストだよ。リーダー」

「いえいえ。それほどでもありませんわ! でももっと褒めていいのよ!」

「はいはい」

 

 どやっとしているヘルラージュの頭を撫でれば、彼女はご満悦の笑みを浮かべる。

 その子供っぽい仕草もルークからすればいつ見ても飽きることはない。というか一日に一度は見ておきたい。何なら彼女の笑顔だけで死んでも蘇れる。そんな彼であった。

 

「それで、こいつらどうする? 色々聞き出しておく?」

 

 エステルが倒れ伏した魔術師を見る。

 

「いや、仮に増援が来ると面倒だな。早く連行したほうがいいだろう」

「さっき立ち聞きしてるだけでも結構な情報は得られましたからね。マクスウェルについては、後でじっくり聞けばいい」

 

 ルークは魔術師の武器を取り上げ、縄で縛ってからその中の一人を背負いあげた。

 いくつかの証拠物品と共に詰所に連れて行けば、後は正規の衛視が駆けつけてくれるだろう。

 

 こうして、最初の目標はいともあっさりと終わったのであった。

 

 

 そして黒魔術師たちを衛兵詰所へと連行し終えた後、時刻は午後3時になろうとしていた。

 

「なんかお腹空いたわね」

「そろそろ3時よね。そういえば私らお昼食べてなかったわ」

「それなら、一旦戻って腹ごしらえでもしようか」

「あ、じゃあ俺が店決めていいか?」

「いいわよー」

「不味いとこ紹介したら承知しないわよ?」

 

 呑気なことを言いながら、彼らは大通りへと足を運んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

『幕間・レッツ女子力!』

 

 

 

 帝都・商業区。

 

 レストラン街。

 

 諸外国または異世界の食文化も取り入れたこのストリートは、美味しいものからゲテモノな珍味まで、あらゆる嗜好、あらゆる種族のニーズに答える通称『グルメ通り』。

 

 食べなれた味を求めて、あるいは新しい食を開拓するため、今日も今日とて食道楽な人間がそこに押し寄せてくる観光名所としても有名な場所らしいです。

 

 当然そこには、甘いものに目がない女の子たちもいるわけでして……、

 

「わあ、このデニッシュ外がサクサクで中がふわふわ。そしてメープルのトロっとした甘みがすごい。サクふわトロ!」

「アツアツの生地にほどよく溶けたソフトクリーム。やっぱり暑さと冷たさのギャップは人気なんですね」

「くぅ……! 駄目だと分かっててもこの威力には逆らえない……!!」

「もぐもぐもぐもぐ」

 

 とある喫茶店の一角。

 大テーブルを囲む四人+一柱の女の子たち。

 ヤエちゃん。ハオちゃん。ティーティー様。クウェウリさん。

 そして私、雪乃。

 レストランでお昼ご飯を堪能した私たちは、しばらく散策した後にこの喫茶店でおやつとしゃれ込んでいました。

 

「おぬしらよく食うのう」

 

 私たちはアップルパイとチーズケーキを楽しみ終えています。

 つまりこのデニッシュアイスで三品目です。一体その華奢な身体のどこに入っているのかと聞かれれば、どこにも収まっていないと答えるかな。女の子にとっておやつは無限大だからね!

 

 ちなみにこれかなりおっきい。

 男の人の手のひらぐらいの直径が合って、一人で食べきるにはなかなかのボリュームがあったりします。

 メニューには一回り小さいサイズもあったけど、そんなのに妥協する私たちでは無く、遠慮なくオリジナルサイズを頼んでやりました。

 食べ盛りを嘗めるなかれ!

 

 あ、でもヤエちゃんはちょっと食べるのを控えた方が良いかもしれない。私としてはぷにぷに具合がちょうどいいから一向に構わないんだけど、ヤエちゃんがいつも体重計とにらめっこしているのは知ってるから。多分帰ってきてからまた悲鳴をあげるんだろうなあ。

 

「ティーティー様は食べないの?」

「わしには少々重すぎるのう。この両手に収まるぐらいでちょうどいいわい」

 

 と、ティーティー様は小さな手を広げて見せました。かわいい。

 

「その代わりと言っちゃなんじゃが、わしも色々と楽しませてもらっておる。普段は茶葉になぞあまりこだわらんが、たまにはこういうのも悪くはない」

 

 そういうティーティー様の周りにはいくつかのティーカップが存在しており、その総てが紅茶で満たされていました。

 紅茶の神様として、この店の紅茶を茶葉ごとに用意して、文字通り全身で堪能するつもりらしいです。いつもはハオちゃんが淹れているから、特に紅茶の種類も変わったりはしないって聞きました。なんとなくもったいないなと思ったのでティーティー様親衛隊の一人として、ティーティー様には楽しんでもらいたいなと思う。

 

「ピクニックも楽しいですけど、こうして街でスイーツを楽しむのも楽しいですね」

「当たり前じゃない。おしゃれ、スイーツ、恋バナは女子の特権よ」

 

 ヤエちゃんの言う通り!

 女の子は色んなものを楽しむ権利がある!!

 なのにうちの王国ときたら女の子がいっぱいだというのに、女子力の高い人たちが少ないのです! 

 私はハグレ王国女子力向上委員会(今設立した)の一員として、ここのお菓子を食べたあとは帝都のお洒落な服をみんなで見て回ったりしてみたいなと思ってる。

 

 え、恋バナ?

 

 恋愛についてはルークさんとヘルさんだけで結構お腹いっぱい。あの二人は手を繋いだりキスしたりとかはないんだけど、その分普段の接し方が甘々でホント見せつけてるんじゃないかってぐらい。多分ヘルさんはわざとやってる。ドジなお姉さんに見せかけた肉食獣ですよありゃあ……!!

 

 そんなわけだからクウェウリさんが王国にやってきた数日間はベルくんがドギマギしてるのは新鮮だったなあ。女の子に間違えられていたのは可哀そうだったけどそんなベルくんもかわいいよね。

 

「ハオ、みんなと一緒ならどこでも楽しいよ! この前もティーティー様と活動写真視にいったよ!」

「意外と教養溢れる趣味持ってるわよね」

 

 ハオちゃんは国語とか算数は苦手だけどセンスは良いタイプ。食べられない野草とかお肉の捌き方とか意外とためになる生活の知識は持っているのは流石森の巫女さんって感じ。

 

「それなら明日辺りにでも皆で見に行ってみる?」

「あ、賛成です! 実は前々から興味があったんですよ。ケモフサ村では演劇団があるんですが、結構前から話題に上がってまして」

 

 うきうきした様子でパンフレットを取り出すクウェウリさん。

 人見知りなようでいて、案外アグレッシブなお姉さん。

 ケモフサ村には劇団があって、お父さんのマーロウさんはそこの座長もしているようです。中々迫力ある演技が魅力的とのことで、いつか見てみたいなと思ってます。

 

 それと、ピクニックを提案したのもクウェウリさんで、この時のヤエちゃんは目いっぱいおめかししてとても可愛い。普段はサイキッカーとしてのスーツを着てるから変な目で見られがちだけど、実はかなりのお洒落パワーを持っているのは現役JKたる私にはお見通しなのです。この後滅茶苦茶おめかしした。

 

 そうして色々話し込んでいると、ついつい口が緩くなってしまう。

 

「私、女子会がこんなに楽しいものだとは知りませんでした。村では同じぐらいの女の子はいなかったから」

 

 そんなことをクウェウリさんがとても嬉しそうに言ったものだから、私も特に考えなしにぽろっと口から言葉が零れ出た。それこそ自分でもなんでかは分からなかった。

 

「私も、こうしてみんなと甘いもの食べに来てると思い出すなあ。友達と学校の帰りにスイーツ食べに寄ったこと……」

「あら、雪乃さんそれは……」

「雪花ちゃん。いまごろどうしてるかなあ」

「……」

 

 いけないな。

 今はこんなに楽しいのに、ふと皆の事を思い出しちゃう。

 どんなにこの世界の生活を楽しんでいても、

 私はいつも、こうやって元の世界のことを考えちゃう――。

 

「雪乃……」

「すみません。何だか嫌なことを思い出させてしまいましたか……?」

「ううん。違うよ。私、こうしてみんなと一緒にこんなおしゃべりするのは楽しいよ」

「そうだよ! みんな一緒ならどこでも楽しいハオ!」

「ありがとうハオちゃん」

 

 こういう時にハオちゃんの元気の良さは頼りになるなぁ。

 ……でも、

 

「でも、やっぱり。私の友達も連れてこれたらもっと楽しいだろうなぁって……」

 

 一度考えだした望郷の思いは止まらなくて。

 無理やりに前向きな言葉をひねり出すのが精いっぱいだった。

 

「う”う”う”う”う”う”~~~~」

 

 そんな私のナイーブな考えは、どこからかやってきた野太い泣き声にかき消されました。

 泣き声のする方向を見ると、そこには白い髪が綺麗な大人の女性が――って、

 

「あ、アルカナさん!?」

「お”ね”え”ざん”感動し”た”~~~~~。雪乃ちゃんは絶対に元の世界に帰してあげるからね~~~~~」

 

 一体いつからいたのでしょう。

 そこには私たちハグレ王国を帝都にご招待してくださった召喚士の偉くて強い人、髪の色が似てることもあって密かなリスペクト対象のアルカナさんが咽び泣いていました。

 ですが今の彼女はその美しい見た目に反した漢泣き。

 普段はセクシーな声もだみ声で台無しです。

 

「というかなんでこの店に!?」

「研究者にはカロリーが必要なの! それ以外にも色々頭使う事ばかりなんだから糖分は適宜補給しないとダメなのよ」

 

 そう言うアルカナさんの前にはジョッキサイズのパフェがでかでかと鎮座していた。

 チョコバナナとイチゴ。両方乗せの贅沢パフェだ。

 私たちですらこの威容に挑むのはためらわれたと言うのに、この人は単身でもう半分以上を食べ終えている……!!

 53万はあるだろう女子力(おなごぢから)に私の中でのリスペクトポイントがまた上がった瞬間です。

 

「わざわざ近くに座ってきおって。さっきからハオたちのことをちらちら気にしておったじゃろ」

「気配を消してまで聞き耳立ててましたよね……」

「あれ、ばれてる?」

「あんなわざとらしいまでのは逆にバレバレでしたよ」

「あっちゃあ……」

 

 流石はクウェウリさん。長い付き合いだからこそ分かるというものですね。

 

「大方、雪乃が気になっての事じゃろ」

「え、そうなの?」

 

 それは何だか意外でした。

 アルカナさんはハグレ王国の皆とよく話をするけど、それはローズマリーさんやドリントルさんだったり、あるいはジュリアさんに福ちゃんなど言ってしまえばインテリや大人な方々との会話が多いです。後はそう、デーリッチやヅッチーなどの小さい子供組との相手もしています。なので、どのどっちでもない私はアルカナさんと接する機会があまりなくて、ちょっと悪い言い方になっちゃうけど、その他大勢として見られているのかな……なんて思ってました。

 

「あーうん、実際君達を見かけたから入ったんだよね。普段の君達がこの街をどんな様子で楽しんでくれているのかちょっと気になってさ」

 

 普段の気丈で余裕ある振る舞いをするアルカナさんにしては珍しい、少し照れくさそうな顔をしてから、彼女は頷きました。

 その仕草も、大人っぽさに垣間見える女の子らしさとして魅力的に見えました。

 アルカナさんの言葉は不思議と耳を傾けたくなります。

 それはたぶんカリスマというものなんだなって私は思う。デーリッチとか、ドリントルさんが持つような人を惹き付ける才能を、アルカナさんもまた持っている。

 それはアルカナさんも自覚していて、だからこそこの人は私たちの事を気にかけてくれるのかな。なんて思ったり。

 

「……この街は召喚術によって発展を遂げた。ハグレの技術を、尊厳を奪ってだ。その結果として彼らは怒り、反乱が起きた。それは失敗に終わり、厚顔にもこの世界の住人はハグレを危険なものだと見なすようになった。今はそれなりに緩和してきたけどさ、10年前の反発っぷりは酷かったのよ」

 

 まるで自分の罪を告解するようにアルカナさんは語ります。

 私はあまりよく実感できていないけど、確かにこの世界に来たばかりの頃、出会った人たちにハグレと呼ばれたのは覚えています。私は皆さんと大体同じような見た目でしたから乱暴な接し方は去れませんでしたが、なんだか腫物を扱うような態度だったのは覚えています。

 

 ……それが、10年前は普通だったとしたら。

 きっと、その時から暮らしているみんなは嫌な気持ちになるんだろう。

 突然連れてこられたこの世界の事を、嫌いになってしまう人も多かったのだろう。

 そういう人たちが不満を抱えた結果が、解放軍を作ってしまったと考えると、なんだか彼らにも同情してしまいそうになる。

 まあ、実際に何をやってるのかとか何が目的なのかとかを見てるので、懲らしめることに変わりはないのですが。

 

 

「それに、君の事情は聞いている。元の世界から突然この世界に呼び出された。誰が、何の目的で呼び出されたのかもわからずに」

 

 私はサムサ村近辺の雪原に召喚された。

 私を呼び出したであろう召喚士はいませんでした。

 気づいたら、知らない場所にいた。それが私の、この世界での最初の記憶です。

 

 それはおそらく、この世界で時たま発生してきた魔物出現プロセスと同様に、無造作に開いた次元の穴へと落ちたのが原因なのだろうと、シノブさんやメニャーニャさんが分析していました。もしかしたら、マッスルさんやハピコちゃんと違って元の世界の記憶があるのはそのためかもしれない。などとも言っていました。もし家族や親友の事を思い出せなかったら。私はそのことを考えるたびにゾッとします。

 

 

 なので、私がこの世界にやってきた原因が召喚士の方々にあるとは決して断言はできませんし、私も誰かに恨みの言葉をぶつけるつもりはありません。

 

 

 でも―――、

 

 

 でも、もしかしたら召喚士の誰かが近くで召喚実験を行い、座標がズレて私は別の場所に呼び出されたのかもしれない。

 そうでなくとも、召喚術が確立したことによって空間が不安定になり、次元の穴が自然にできやすくなっていたから、私はやってきたのかもしれない。

 

 真相は誰も知りません。

 もしかしたらただ運が悪かっただけで、誰の責任に問える話ではないのかもしれません。

 

 それでも、私がこの世界でハグレとして扱われたのは本当の事。

 雪乃というどこにでもいるような女子高生が、異世界からの異分子になってしまい、決して好意的に見られない存在になってしまったというまぎれもない事実を、アルカナさんは深刻に受け止めていました。

 だからなのかな。この人が私に向ける視線を、なんだかとても暖かいと感じている。 

 

「私には、かつて召喚術の成立を見た者として、君達が()()()と呼ばれ迫害されるようになった責任の一端がある。だから、君達がこの街に受けいれられるように色々と講じてみたわけなんだけど……。余計なお世話だったかな」

「い、いえ! アルカナさんは頑張ってると思います!! この街は賑やかで楽しいし、ヤエちゃんたちとこうして遊べてるのは、アルカナさんが招待してくれたおかげです」

 

 私は思わず口を開いていました。

 割と人見知りのきらいがあると自覚している身としては、中々に信じられないことですが。この時の私にはアルカナさんへの物怖じなどはありませんでした。

 

『自分達の世界を嫌いにならないでほしい』

 そんな願いを、いったいどうして無下にできるのでしょうか。

 

 アルカナさんは私の言葉を聞いてちょっと嬉しそうにして私に手を伸ばしてきました。

 

「それはそれとして、前から思っていたことだけど君は綺麗だよね」

 

 そう言いながら私なんかよりもっと綺麗だと思う手が私の髪を触りました。

 

「ひゃっ!?」

「クリスタル色、よい髪だ。肌も滑らかで新雪のように美しい。それにその瞳も氷の結晶のよう。まさに氷の妖精なのだろう」

 

 くすぐったくて思わず声をあげてしまった。

 その次は肌を眺め、目を合わせて。

 満月めいた金色の瞳の輝きに、同じ女性同士であっても目を奪われそうになりました。

 というか私、口説かれてる?

 

「あの、ちょっと」

「――さぞかし、愛されて育ってきたのだろうね」

 

 その言葉は、まるでお母さんが母親を慈しむようで。とても深い悲しみに満ちていることが、伝わってきました。

 

「雪乃君。……君は、自分の家族が、世界が好きかい?」

「えっ――」

 

 突然の質問に、思考が目まぐるしく遡る。

 

 ――元の世界の記憶。

 

 お父さん。

 お母さん。

 弟の風太。

 親友のセッちゃん。

 学校の皆。

 雪だるまスポーツ。

 

 今になってわかった。何の変哲もない。とても輝かしくかけがえの無かった日々。

 目の前の人が大切にしたいと願う、ありのままの日常。

 

「――はい。今すぐにでも会いたいほどに大好きです」

 

 今すぐにでも寂しさで泣きたくなるのをこらえながら、私は笑って見せました。

 

 アルカナさんはしばらく私の顔を眺めてから、とても満足そうに頷きました。

 

「――うん。それはよかった」

 

 それは、いつもの微笑みでは無く。

 心から喜ぶ、星のような笑顔でした。

 

 

 

 

 

 

「ところでティーティー様。これどうするの?」

 

 これ、とはティーティー様が漬かっていたいくつかの紅茶のこと。

 確かに、紅茶は飲み物。

 注文したのだから、ちゃんと飲まないともったいないしお店にも失礼だよね、なんて思いました。でも、ティーティー様は紅茶を堪能したのだから別にいいのかなあ?

 

「まあ、このままじゃな」

「えー。残しちゃうの?」

「わしがマナを吸った出涸らしじゃよ。というか人が漬かっていたものじゃぞ? まさか誰かに飲ませる気か?」

「ははは。後利益とかありそうだけどね。例えば今ここにいる客から立候補した人先着順にプレゼントとかしてみたら――」

 

 ガタタタッ。

 席を立つ音に周りを見れば、何人かのお客さんが立ち上がっており、ティーティー様の視線を認めるやおずおずと着席していきました。

 

「……今のは流石に引くぞ」

「ごめん。なんかごめん」

 

 いたたまれなくなったのかアルカナさんが謝罪しました。

 ティーティー様、愛されてます。




〇イベント:『工房』

 魔術師2人と呪術師1人との戦闘。
 あんまり粘り過ぎると一階からもう一人魔術師が来て奇襲が成立しなくなっていた。
 聞き耳や忍び足にファンブルしていたら当然気づかれて、奇襲失敗どころか不利な状態で戦闘が開始していた。
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