ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

55 / 89
あらかじめ言っておきます。
お姉ちゃん推しの方々ごめんなさい。


その54.帝都動乱・一日目(7)

『窮地に一生』

 

 

 

「ひとまず備蓄の霊薬を飲ませた。失った体力はこれで補えるはずだ」

「よかった……」

 

 召喚士協会。医療室。

 

 アルカナの応急処置でルークはひとまず助かり、ヘルラージュは安堵の息を吐いた。

 

 下水道を脱出したヘルラージュ達は、そのまま召喚士協会へと直行。ルークの容態を見たメニャーニャが、すぐにアルカナへと連絡し、診断と応急処置が行われた。現在ルークは奥の病室で寝かされている。

 

「だが、それは損害を埋め直しただけだ。呪いはまだ持続している。このままでは再び体力が奪われるだけ、そして奪われる体力は時間と共に増加していく。早急に解呪が必要だ」

「そんな……!」

 

 アルカナが続けて言った無情な事実にヘルラージュは再び表情を暗くする。

 そんなヘルをエステルが励ます。

 廃墟に向かったエステル達も、屍人の群れを片付けてここに集合していた。炎魔法を扱えるエステルがいたことと、屍人以外の敵がいなかったことで掃討には時間がかからなかった。

 

「そんなに落ち込むなよヘルちん。あいつがその程度で死ぬタマじゃないでしょ」

「それでも……」

 

 その言葉はほとんど気休めだ。エステルもルークにかかった呪いについては目にしている。あれはかなり悪質な呪いだ。真っ当な魔術師であればまず学ぶことすらない類のもの。《サバト・クラブ》が黒魔術師の集いと知識では知っていたが、このレベルの呪いを扱える人材がいたというのは想定外だった。

 部屋が暗い雰囲気に包まれる中、メニャーニャが咳払いをして話を切り出した。 

 

「それで、どうしてこのような事態になったんですか? 午後の分の報告も兼ねてお願いします」

「あ、うん。それじゃあどこから話せばいいやら……」

「それでは僭越ながら、私が説明をしてよろしいでしょうか?」

「頼みます。ところで貴方は……?」

「ああ、私は始末ヶ原薙彦と申します。この度ルーク達の仕事に協力することになりました。ところで小柄で猫のような愛らしいお嬢さん。今夜のご予定などは?」

「え、あの、いきなり何なんです?」

 

 自己紹介と同時に速攻でナンパを仕掛けにかかった薙彦に、この状況でかと周囲の者はドン引きした。

 

「おいおい、私の可愛い生徒にコナかけるなよ《ナギナタボーイ》」

「これは失敬。《スターゲイザー》のお気に入りに手をだすほど私も無謀ではありません。この話は忘れてください」

「はあ……」

 

 薙彦はあっさりと引き下がった。

 

「さて、それでは説明するとしましょうか」

 

 

 かくかくしかじか。

 

 

「はぁ。下水道に乗り込んだらそこにキメラが徘徊していて、それを倒したら今度はグエンとアドベラに遭遇してそのまま戦闘になった。結果、グエンは討伐、アドベラは左腕を奪ったが逃げられたと。そして先輩のほうは居住区の廃墟がアンデッドの巣窟になっていてこれを駆除してきたわけですね。何で誰もかれもやばいものばかりに当たってくるんですか?」

「よく生きて帰ってこれたね君たち。流石にアドベラを相手じゃ荷が重いと思ってたよ?」

 

 あまりにも出来事が多すぎることに頭を悩ますメニャーニャとは対照的に、一日目で想像以上の成果だとアルカナは感心した。

 

「成果だけ挙げれば、私たちは既にある程度の脅威を削ぐことに成功したと言える。仮にアドベラを放置していれば、彼女は近いうちに、それこそ式典の最中にでも屍人の群れを放って混乱に陥れていたはずだからね。居住区の廃宿はおそらくはアジトかアンデッドの倉庫だったのだろう。どちらも潰した以上、アドベラは帝都から去るか焦って何かしらのアクションを起こすはずだ。今度はメンバーを揃えてそこを叩くとしよう。何せよ、お手柄だ諸君」

 

 アルカナは極めて冷静に見解を口にし、ルーク達の成果を褒めたたえた。

 

「それで、彼はどういう呪いを受けた?」

「えっと、カースィムっていう呪術師による応報の呪いとアドベラは言っていたわ……」

「カースィム……ああ、君達が昼間に捕まえたグルルガンダ族の呪術師か」

「グルルガンダ……?」

「昔、そういう部族があったんだ。大国の侵略に巻き込まれて滅んだが、末裔は細々と生き延びていると聞いていた。その特徴的な民族衣装を私は知っていたにすぎないよ」

「へぇー」

「彼らが扱う呪術はアニミズム、シャーマニズム、死霊魔術の複合のようなもので、その実態には謎が多い。帝国魔導局でも一時期残された石碑などから解析を試みてはいたがすぐに研究を打ち切っている。だがその魔法体系は明らかに我々が用いるものとは法則を異にしており、彼らの文明自体もまた帝国を中心とした大陸系とは発展具合が低い。このことから、グルルガンダ族やバルバル族などの辺境文明は古代人の末裔では無く、元々この世界に発生していた原住民からの進化なのではないかと私はいま考えついたところで」

「長いよ! いったいどこまで解説する気だ!!」

「おっとすまない。あまり触れる機会のない知識だからつい熱が入ってしまった」

 

 いつもの癖が発動してしまったことをエステルに注意され、アルカナは気まずそうに話を戻した。

 

「それで、応報の呪いだが。文字通り、これは術者を害したものに災いを与えるものだ。その効果は術者に与えた危害応じて強くなる。ルークが死んでいないのは術者を気絶にとどめたからだろう。仮に殺していた場合、彼はアドベラとの戦いで死んでいた筈だ。そのあたりは幸運だったな」

「それで、この呪いを解くことができるの?」

「残念だが、一朝一夕では解けない呪いだな。グルルガンダ族の呪術は効果がシンプルな分原理が強力だ。しかも術者を殺せば効果はさらに強くなる怨念の類ときた」

「先生でも無理なのか……?」

 

 アルカナですら数日かかるという事実に、エステルは絶望感を感じ始める。しかしまだ、解決策を知る者がここにはいた。

 

「方法ならまだあるわね」

「お姉ちゃん、それ本当!?」

「ええ。それもヘル、あなたにしかできないことよ」

 

 ミアラージュの話をヘルラージュは食い入るように聞き始める。何であれ、彼が助かるのなら縋るつもりであった。

 

「こういう呪いはね、対象が限定的なものなの。だから他の人間に呪いを移してしまえばその効果は弱くなるわ。そして、私たちラージュの家系は呪いに対する強い抵抗力を持っているわ。特にヘルはその性質がとても強いから、ヘルに移してしまえば呪いは弱くなって解呪は簡単にできるはずよ」

「なーんだ! それなら簡単じゃないか!!」

 

 エステルが安心したと笑う。

 

「分かったわ。それでお姉ちゃん、呪いを移すのってどうやるの?」

「そうね。呪詛転嫁の術は私が使うとして、ヘルには呪いを移すための下準備をしてもらうわ。呪いを移すにはまず呪われている相手との深い結びつきが必要になる。ヘルとルークの繋がりは元々深いから、もうひと段階後押しすれば簡単に呪いを移すことができるわね。手っ取り早いのがお互いの肉体を接触させることね。肉体に触れる面積も広い方が呪いを移しやすいから、出来る限り密着してもらったほうがいいわ」

 

 どこか遠回しな言い方をするミアラージュ。だがヘルラージュはその意味を理解できた。できてしまった。

 

「……ねえ、お姉ちゃん、ちょっと待って」

「まあ、つまり、あれよ」

 

 少々頬を赤らめながら、ミアラージュは弩級の問題発言をぶちかました。

 

「ヘル、今夜はあいつと一緒に寝なさい」

 

 

 

 

 

 

『月夜の邂逅』

 

 

 

 同刻。既に日は落ち、天蓋には月が昇っている。

 

 ある路地裏。

 

 暗く入り組んだ建物と建物の隙間を、一人の女性が歩いていた。

 

 褐色の肌。片方が折れた角。深海のような青紫色の髪。

 我々でいうチャイナドレスに身を包んだ彼女は、少し開いた場所にて足を止めた。

 

 建物同士の形状によって出来上がった、一辺十数メートル程度の四角い空間。

 それは複雑な構造によって自然発生した都市の死角。

 表通りからは見えぬ内側(はらわた)の中心で、彼女は来た道を振り返った。

 

「――そろそろ出てきたらどうだ? 昼間っからちょろちょろとついてきやがってよ」

 

 その言葉に応え、男は広間へと進み出る。

 暗がりより出でた男、月の光がその姿を鮮明に映し出す。

 

 体長は百九十センチ。研鑽を続けてきたことを証明する引き締まった筋肉。一目で強者とわかる男は、鉄のごとき表情でラプスに問いかけた。

 

「その片角、『波濤戦士』とお見受けする」 

「ご名答だ。そういうあんたは、『始末屋』だな?」

 

 彼らが互いの顔を合わせたことは無い。

 だが、お互いの事は良く知っている。

 

 片や、華奢な体躯からは想像もつかぬ怪力と、滝の如き流麗なる技を使う女武闘家。

 片や、その剛力と人間性を見せぬ振る舞いから裏社会にて畏れられた寡黙な殺し屋。

 

 どちらも世間に知られる大陸有数の猛者。

 故にこそ、彼らは名乗り合った。

 

「あたしはラプス」

「……ノック」

「それで、あんたはあたしに何の用だ?」

 

 ラプスの問いを受け、ノックは両手を広げる。

 抑え込まれていた闘気が溢れ、空気を歪ませる。

 石像の如き顔の両端をわずかに吊り上げ、始末屋は答えた。

 

「昼間……一目見た時より、私の胸には確信があった」

 

 虚無的な瞳に確かな光が宿る。

 眉一つ動かさぬ冷酷な始末屋と言われた彼は、確かな期待を込めて言った。

 

「お前ならば……我が渇きを満たしてくれる。我が命を揺さぶるほどの使い手よ」

「はっ、あたしをストーキングするからどんなもの好きかと思ったが、そういう口か」

 

「この手であらゆる者を屠っては来たが、未だこの身体を震わす者は現れず。ならばこの国を相手取ればと思ったが……存外、間違いではなかったようだ」

「はっ、難儀な性分だねえ。というかいいのか? 『始末屋』であるあんたがこんな娑婆にいるってことは、()()()()()だろ?」

「ごもっともだ。だが此度の雇い主は相当に酔狂でな。ならばこの場で私が酔狂に身を投じても文句はあるまい」

「そうかい。けど、悪いがあんたの誘いには乗れねえな」

「……何故だ」

 

 失望の乗った殺意が膨れ上がる。

 ラプスはそれを涼しい顔で受け流し、

「何故って、あんたが無粋だからだよ。わざわざこんな時間に声かけて、この格好の女に対する口説き文句がそれとは、風流ってものがないんじゃねえのか?」

 

 指を付きつけ、軽蔑するように言った。

 

「……それは失礼をした。では深海の令嬢よ。どうかこの乾いた身に、潤いを齎してはくれないか?」

 

 ラプスはため息を吐き、

 

 ――その両腕に水龍が渦巻いた。

 

「――まあ、ナンパとしては及第点だ。いいぜ、今夜は()()に付き合ってやるよ」

 

 それは半刻にも満たぬ逢瀬。

 だが彼らにとっては、何よりも濃密な語り合いが始まった。

 

 

 

 

 

 

『愛の証』

 

 

 致死の呪いに蝕まれたルークを救うためにミアラージュが出した解決策。だがその内容は衝撃的であった。

 

「る、ルーク君とど、どどど同衾!?」

 

 ヘルラージュの狼狽も当然である。

 ミアラージュが提示した解決法――ルークと褥を共にし、自分に呪いを移して分解するというものなのだが、それはうら若き乙女であり、もっと言えばキスすらできていないヘルにとっては非常に勇気のいるものだった。

 

「もっと言えばがっつり結びつける必要があるわ」

「それはつまり……こうじゃな?」

 

 アルカナは片方の指で輪を作り、もう片方の指を立てて抜き差しした。何やってんだこの大人は。

 

「そういうことになるわね」

「そういうことにって、どういうことなんですの!?」

「え、言わなきゃわからないの? それは――」

「何をすればいいのかなんてわかってます! 私が言いたいのはそういう問題じゃないの!!」

 

 抗議するヘルラージュ。当然彼女の言いたいことなどミアラージュは分かっている。だがそれはそれとしてこのままではルークを助けることができないのだ。姉としても心苦しい手段ではあるのだが、妹が大人の階段をようやく登るであろうことも考え(あと妹がルークに対して積極性を見せながらもその先に行くことを躊躇っていることがそろそろじれったかったので)、心を鬼にして妹の背中を押すのであった。

 

「何を今更恥ずかしがってるのよ。ルークとの関係を一歩進められないって悩んでたのはあなたじゃない」

「そ、そそそそうだけども!?」

「あ、もしかして怖いの? 大丈夫よ、痛いのは一瞬だし、慣れてくればそう悪いものじゃないわ」

「いやいやそういう問題じゃなくて!? というかお姉ちゃんなんで知ってるような口ぶりなの!?」

 

 妹の追求に、暫しの沈黙が訪れる。

 全員の視線がミアラージュに向き、彼女は妹から目を逸らして言った。

 

「……ええと、血液の代わりになるものを探してた時に、試しにちょっと」

「お姉ちゃーん!?」

「大丈夫よ。お互い初めてだったし、相手もそういう時期に入ったばかりの年齢だったから。それに合意の上で出来る限り気持ちよくしようと努力したから。それに、無理やり血を抜き取るよりも問題は無いでしょう?」

「大問題な発言ばかり出てきたんですけど!?」

 

 まさか姉がその見た目で花を散らしていたなどとはつゆにも思っておらず、大ショックを受けるヘル。これには他の者も大なり小なり衝撃だった。

 

「みんなには内緒にしとこうか……」

「そうね……」

 

 この事実はハグレ王国の仲間には強く秘すことをジュリアとエステルは誓った。

 

「とにかく、あんたがどうこうしないとあいつから呪いを引っぺがすのは難しいわね。どうしてもって言うなら、私が代わりにやるけど。貴女はそれでいいの?」

「うっ……それは……」

 

 ミアラージュが代替案も提示するが、それはつまり、自分がルークの危機を救うのに何もできないと言うのと同じだ。ヘルラージュにとってはある意味そちらの方が最も残酷な選択である。

 

(ねえ、それってつまり見た目年下な姉に彼氏を寝取られるってことじゃ……)

(言ってやるな)

(中々倒錯したシチュエーションですねえ)

 

「こらそこ、聞こえてますわよ!」

 

 外野のひそひそ話を一喝して黙らせる。確かにそうだが、そうではあるのだが問題は断じてそこではない。

 だが、踏み切れない思いと、譲れない想いがあるだけだ。

 

「それで、どうするのよ。あんたはやるの!? やらないの!?」

 

 姉の叱咤が鐘のように脳内に反響する。

 

 答えなど、決まっている。

 だが、それでいいのかという疑問が自分の中から離れない。

 

 それはささやかな自分の欲望(エゴ)

 誰かに強制されてではなく、自分自身でその結果にたどり着きたかった。

 それは自分の過去と一つのけじめをつけたあの館での戦いから、ずっと抱いて来た想い。

 正真正銘、彼と生きて一つになりたいという、少女の願い。

 

 彼の顔を思い浮かべるたびに思わず笑みがこぼれて、

 彼が傷つくたびに駆け寄ってしまいたくなる。

 それはこんな自分についていくと決めてくれた彼への、確かな恋慕だった。

 

 彼が昔の仲間と再会して嬉しそうな顔をするたびに、形容しがたい感情がわずかに自分の中に渦巻いた。つい先日に、彼がまた窮地に陥ったと聞いたときは、何故無理を言って同行を願わなかったのか自分を攻めた。その後に彼と一緒の時間を過ごした時は、一晩中笑みが収まらなかった。そして、そこから先を言い出せない自分がこれほどに意気地なしなのかと思った。

 

 だから、今回の帝都での滞在はそのきっかけになると思った。

 そのための手順も、三日前から考えてきた。

 けれど、それをこんな状況で迎えるとは思いもしなかった。

 

 つまりこれは、ただの意地だ。

 誰にも譲れない、乙女の意地。

 

 ……けれど、それで彼を救えないと言うのならば、

 

 そんな意地は、捨ててしまえばいい。

 

「……わかったわお姉ちゃん。私、やる」

「ええ。それでこそ私の妹よ、ヘル」

 

 ヘルラージュの決断を、ミアラージュは誇らしい顔で受け入れた。

 

(……なんだかとても重大な決断ですけど、結局は〇〇〇の相談なんですよねえ)

(こら、これでもあいつの命がかかってるんだから茶化すなよ)

(ま、ここは素直にヘルちんが大人になったのを祝おうじゃないか)

 

「だから聞こえてますわよ!?」

 

 内容が内容なだけにイマイチシリアスになり切れない外野であった。

 

 そこで、ドアをノックする音が響いた。

 

『先生、メニャーニャ、大丈夫ですか?』

「ああ。入っていいよシノブ」

 

 許可が得られると、シノブが部屋の中に入ってきた。

 

「ええと、皆さんが宿に戻ってきたので一応報告にきました」

「そういえばもういい時間だったわね」

 

 エステルが時計を見れば、時刻は夜の8時に差し掛かろうとしていた。帝都を好き勝手に観光していたハグレ王国の面々も、宿屋へと戻ってくる時間だ。

 

「ふむ、ではちょうどいいから私たちは一度席を外すとしよう」

「そうですね。あまり大勢がいるとお二人も施術に集中できないでしょうし」

「えー!? ちょっと、この流れでいなくなるのかなりあれなんだけど!?」

 

 まるで見計らったかのようなタイミングにヘルラージュは何者かの作為を感じていた。

 

「それでは、ごゆっくりな」

「まあそのなんだ、頑張れよ、ヘルちん!」

「ははっ、これでルークもようやく卒業ですか。何だか感慨深いですねえ」

「ああそうだ。薙彦、君はこれからアルフレッドの下に突き出すつもりだが。色々覚悟はできているか?」

「え、何故ですか?」

「決まってるだろう? 姉のジーナに君がどれだけ彼から借金を滞納しているか報告するからだ」

「あっ、死んだなこいつ」

 

 だがヘルの叫びむなしく、帝都探索隊の面々が外に出て行ってしまう。

 

「まあまあヘル君、とりあえずここには誰も入らないように通達しておくよ」

「はい、助かります……」

「あの……私そう言うのはよく知らないので何かアドバイスとかはできませんが、が、頑張ってください!」

「シノブさん、もしかして部屋の外で聞いていました?」

「はい、ちょっとだけ……」

 

 そういって残りの召喚士組も出ていった。アルカナの配慮が身に染みる。

 

 残ったのは、ラージュ姉妹と、病室にいるルークだけだ。

 

「さて、時間も惜しいから始めるわよ」

「わかったわ」

「とにかく、ヘルはルークと繋がりを深めることだけすればいいわ。その後に呪いを移して解呪するのは私の仕事よ。それまでは私もここで待ってるから、()()()()済ませてきなさい。ちゃんとこの時の為に選んだ()()も、ちゃっかり身に着けてるんでしょ?」

「も、もうお姉ちゃんったら!」

 

 なおも揶揄うように言う姉に頬を膨らまして、ヘルは病室のドアをノックした。

 

「ルーク君、起きてますか?」

「ああ、起きてるよ」

 

 返ってきた声は、いつも通りの彼だった。

 

 ――この声をこれからも聴けるかどうかは、自分にかかっている。

 意を決して、彼女はドアを開けた。

 

「よう、手間かけちまったな。リーダー」

 

 清潔なベッドの上でルークが上体を起こしている。

 診察のために、上半身には何も纏っていなかった。

 

 服の上からでは分からない、控え目だがちゃんと鍛えられた肉体。

 度重なる冒険の中で、次第と身についていった彼の修練の証。

 

 一瞬それに見惚れるヘルだが、心臓を中心に未だまとわりつく呪いを確認して、息を呑んだ。

 

「……ルーク君、あの」

「わかってる。呪いを解くんだろ? 早くしようぜ」

「……あの、もしかして聞こえて……?」

「あれだけ騒いでいたら聞こえるに決まってるだろ? ったく、お互い不本意なことになっちまったな」

 

 ベッドから下り、ため息をついて、どこか諦めたように語るルーク。

 それを見てヘルにある考えがよぎってしまう。

 

 ――自分とは嫌なのか?

 

「……あの、もしかして私とは――っ!?」

 

 

 その不安を言う前に、彼女の口が塞がれる。

 

 

 柔らかいものが唇に触れ、歯の隙間から何かが入ってきた。

 最初は目を見開いて戸惑っていた彼女も、目を閉じてその感覚に没頭する。 

 

 

 短く、そして永遠の様に長い時間。

 惜しむようなそのひと時は続き、

 

 

 やがて二人は口を離し、お互いを見つめ合った。

 

「――本当はずっと、俺だってこうしたいと思っていた」

「……」

「でもよ、どうやって言い出そうかって思う度に、拒絶されたらどうしようって思って。結局今までの関係で満足してた」

「ルーク君……」

「……あの時、お前が俺のために怒ってくれたのがとても嬉しかった。お前に俺を庇わせたことが、とても情けなかった」

「私も、ルーク君が立ち上がってくれたのがとても嬉しかった。そして、あなたを呪いから守れなかったことが、とても悔しかった。今度こそ貴方が死んでしまわないかと、とても怖かった。……だから、私は貴方の命を感じたい」

 

 お互いの思いを吐露する。

 それを聞いてルークもまた、意を決した。

 

「……呪いを解くとか、そういうのはどうでもいい。これは俺の純粋な気持ちだ。

 ――好きだ、ヘル。俺は、ただお前が欲しい」

「……ええ、私も貴方が欲しいわ、ルーク」

 

 再び唇を重ねる。今度はどちらからでもなく、お互いが同時であった。

 

 そして、この行為の目的も、何もかもを忘れて、

 

 彼らはただ、お互いを求めあった。




やることはやった。悔いはない。





次回は一日目で描写しきれなかったハグレ王国側の出来事になります。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。