ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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前回のあらすじ。
聞き込みで有力な情報を手に入れたぞ!
ギルドで情報を手に入れたぞ!

ちょっと展開がぐだぐだしてきたので巻き入ります。


その58.帝都動乱・二日目(3)

『二日目・工業区』

 

 

 

「ういーっす。そっちはどうだ……って、なんだこの状況」

「あだだだだだだルーク助けあばばばばば」

「お、ようやく来たか。ちょっと待ってくれよ。今コイツに灸を据えているところだから」

 

 

 鍛冶ギルドに到着したルーク達の目の前に広がっていたのは、薙彦がジーナにアームロックを決められているという意味不明な光景であった。

 

「あの……ジュリアさん。これは一体何なのですか?」

「気にする必要はないよ。こいつ(薙彦)が仕事さぼってナンパしてただけだから」

「あっ、そっすか」

 

 その一言で全員が納得した。

 戦いにおいては活躍するというのに、普段がこれだ。

 昼行灯を演じているとかではなく、素で遊び人気質のダメ人間が薙彦である。

 ルークは思い出す。デカい依頼を成功させて大きな稼ぎを得た夜にエルヴィスと薙彦に連れられて繁華街で遊び惚け、また二束三文の生活に元通りとなった時のことを。そうしてアプリコから呆れられ、ラプスに二人纏めて折檻を受ける。

 そんなダメ人間を間近で見てきたおかげで、ルークは金勘定だけは厳密にやるようになり、一人でも生きていけるだけの処世術を身に着けたのであった。

 

 

「うごごご……肩が……稼働部位のないプラモデルみたいな感じに……」

「わかんねえよその例え」

「皆揃ったようだね。それじゃあ情報を整理しよう」

 

 やっと解放されて悶絶する薙彦は軽く流され、ジュリアは鍛冶ギルドで聞いた話を、ルークも聞き込みで得られた情報を交換する。

 

「検問をパスするための偽装か、連中もなかなかやるわね」

「ギルドが発行する証明証なんてそうそう偽造できないわよ。ギルドの親方達か、出資している貴族たちの証印が無ければ偽物だってすぐにわかるわ」

「つまり、それができる連中が容疑者ということだ。身内ならとっくの前に洗い出されてるはずだろうから、残るは貴族だ」

 

 ルーク達が聞いた荷馬車が運ばれていった方角は商会に出資する貴族が住む屋敷が多い地域だ。それを考えれば、解放軍が裏で繋がりを持った貴族を通じて何らかの物資を運び込んだのは間違いないだろう。

 

「貴族が一枚噛んでるってのはまあ想定内だったが、ギルドを敵に回す真似やるか普通」

「解放軍が関わってるならおかしくはない話だろう。何せ、ことが上手く進めば自分たちの天下だ」

 

 帝国の職人ギルド、特に鉄工ギルドはその偏屈さと躊躇いのなさからそんじょそこらのマフィアよりも恐れられている。仮にギルドの名前を騙ろうものなら、それは帝都そのものを敵に回すのと同義なのだ。

 だが、今は丁度いいことに帝都へ喧嘩を売っている威勢のいいテロ組織がある。彼らと何らかの関係を結んでいるのであれば、ギルドを敵に回そうが関係ないということだろう。

 

「んじゃ次は、そのオーリョウ工業に金出してる貴族を探れば、解放戦線の足取りも掴めるかもしれねえってことだな」

「え、できるのそれ? ギルドの名前に無いってことは、裏を返せば調べる手がかりがないと思うんだけどさ」

「よく言うだろ。餅は餅屋。商人のことは、同じ商人に聞けってな」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「なるほど。それで私たちのところに来たと」

 

 

 要件を聞いて、アイスブルーの髪を持つ美妖精、プリシラは合点がいったと頷く。

 

 ここは商業区のプリシラ商会帝都支部。

 ルーク達が出来立てほやほやの新築事務所を訪れてみれば、社長である妖精王国の恐るべき素晴らしい参謀はちょうど事務作業を行っているところだった。

 突然の来訪ではあったものの、相手がルーク達ならばむしろ待っていたとばかりに席を用意してくれた。

 

「そういうことだ。アポも無しだったから大丈夫かと少し心配だったのだが」

「いえいえ。アルカナさんから話は聞いてますから、ハグレ王国の皆さんであれば問題ありませんよ」

「助かるよ。それで、オーリョウ工業についての情報について知っていることはあるだろうか」

 

 出てきた名前を聞いたプリシラはむむ、と少し考えるそぶりを見せる。

 

「オーリョウ工業……あまり聞かない名前ですね」

「ああ。何せマイナーな商会だからそちらの情報網にも引っ掛かっているかどうか怪しいのだが」

 

 

 

「確かこのリストの中に……あったあった、これですね。オーリョウ工業。1年前に設立された企業で、内容は廃品回収とリサイクル。帝都の目が届かない遠方での営業が主なのでギルドが存在を把握していないのは当然ですね。出資先はドロブネ伯爵。ハグレ由来のアイテムを蒐集することが趣味で、出資している商人を経由して集めていたようです。ですが、本来なら宮廷に報告しなければならないアイテムをを横領していることが発覚し処罰として集めたアイテムの他に財産の五割を没収されていますね。このオーリョウ商会以外にもいくつか小さな商会を所有していますが、どれもこれもハグレが持つアイテムを集めるためのフロント企業です。これはついでなのですが、ハグルマとも秘密裏に取引を行っていたみたいです」

 

 

 

「おい、何かすぐに出てきたんだが? しかもめっちゃ詳しいんだけど。ねえ、ちょっとその分厚いバインダーなに? なんかところどころに脅威度とか対処済とか書いてあるのなに?」

「企業秘密です」

 

 ちょっと悩んだかと思えば即座に資料を出してきたプリシラにルークは思わずツッコんでしまった。

 

「まあそう言う訳ですので帝都からテロ組織に鞍替えする動機は十分ですね。検挙前は工業区に大きなハグレ道具の研究所を構えていたらしいですし、そのコネが残っているのなら偽造することも難しくはない。ほぼ黒と見ていいでしょう」

「流石だな。今最も勢いのある商会という評判は伊達ではないらしい」

「おだててもサービスはありませんよー」

 

 ジュリアの皮肉めかした賛辞をなんでもないように笑うプリシラ。

 一体この商会はどこまでの事情を掴んでいるのか、そしてその集めた情報を何に使うつもりなのか。

 気になる一同ではあるが、聞いたら最後、自分たちもその何かに巻き込まれそうな気がして聞くことはできないのであった。

 

「それじゃ次はそのドロブネ伯爵の屋敷から証拠を取ってくればいいのか?」

「いやいや。一応協会からの雇われとは言え、私たちが直に貴族の館に押し入るのはまずくないか?」

「いやほら、ここはこう華麗に忍び込んで証拠を盗んでくるとかさ。ルークそういうの慣れてるでしょ」

「下準備も無しにか? 悪いがとてもじゃないが無理だな。行くなら夜だ」

 

 本職(ルーク)からもダメ出しを受ける始末。彼からしてみれば白昼堂々帝都のど真ん中で襲撃を仕掛けるなど、警備が厳重すぎてやってられないのだから当然なのだが。

 

「じゃあ暗殺ギルドか丑三つ時処刑互助会でも探すか?」

「つってもどこにいるのか探さなきゃ行かんだろ」

「え? (カルマ)のアジトならここから外壁側に向かったドヤ街にありますよ」

 

 しれっと情報を吐き出す薙彦。

 

「何で知ってんだお前」

「その手の人間からすれば公然の秘密みたいなものでして。表向きは安宿『ストレイ』ですが、その裏手にある住宅地の廃墟が連中のアジトです」

 

 既に所在が分かり切っている暗殺ギルドであった。

 

「マジかよ……暗殺ギルドよく成り立ってんな」

「なんだかんだ裏社会じゃ有名どころですからね」

 

 何はともあれ、居場所がわかっているなら好都合。

 

「それじゃ、いっちょブチかましに行くわよ!」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 暗殺ギルド・(カルマ)

 

 

 帝国の裏社会において、彼らの名を知らない者はいない。

 召喚成立期以前より続く暗殺集団。

 何よりも数を重視したその連携戦術は、一人二人ならば格上であったとしても仕留めてきた。

 

 エステルもデーリッチ達の救援が無ければ成すすべなく追い込まれていたことを考えれば、生半可な覚悟で挑んでいい相手ではない。

 ないのだが……。

 

 

「はーい。この程度ね」

「ま、アジトわかってりゃこんなもんだわな」

「おのれ……まさか我々が襲撃を受けるとは……」

 

 

 それも、襲撃を仕掛ける側であった場合の話だ。

 

 大口の依頼を受け、かつての失敗による汚名を返上できると色めきだっていた暗殺者たちは、根城としていた集合住宅地廃墟に突然乗り込んできたルーク達の電撃作戦によって戦闘描写すらなく倒されてしまった。

 所在を知られたところでわざわざ乗り込んでくる馬鹿もいない。という慢心もあっただろう。

 

 だが、何よりも相手が悪かった。

 

 凄腕の傭兵にハグレ二人。稀代の黒魔術師に一流の冒険者が一斉に乗り込んでくれば、正面からの戦いには不慣れな暗殺者たちはひとたまりも無かった。

 

 死屍累々の形相を呈したアジトの中で、無事に立っているのはハグレ王国の八人のみである。

 

 

「あっけなかったわねー。リベンジ成功なのはいいけど、ちょっと暴れ足りないわ」

「き……貴様はまさかあの時の……!」

 

 また意識のある髭面の暗殺者が特徴的なピンク色の髪を認めて震え出す。

 

「そーよ。悪いけど今回も暗殺は諦めな。あんた達がマクスウェルの奴から依頼を受けていることぐらいとっくの前に筒抜けよ」

「クソっ……」

 

 観念したのか、髭面はがっくりと項垂れて動かなくなった。

 

 

「さて。こいつらはもう済んだとして、これからどうするの?」

「ふむ、夜まではまだ結構あるな」

「ではジュリアさん、私と街でも歩きますか?」

「そう言って私にたかるつもりだろう。その手には乗らんぞ」

「……そうだな」

 

 

 ふと、何かを考えこんでいたルークはヘルラージュを見た。

 

 

「リーダー」

「なあに?」

「ちょいと付き合ってくれないか。行きてえところがある」

 

 

 

 ◇

 

 

 

 商業区の広場。

 多くの人々が安らぐ憩いの場では、聖十字教会が主催のフリーマーケットが行われている。

 お祭りムードの現在はその最盛況とも呼べる状態で、中でもある露店ブースは人でごった返していた。

 

 

「このポーションを二つくれないか」

「このランチセットをお願いするわ」

「モーモードリンクを箱でくれ!」

「おい、それは俺が先に頼んだ奴だぞ!」

 

「皆さん、慌てないで喧嘩しないでください! 在庫はいっぱいありますから!」

「はいどうぞ。よければ王国の方にも来てくださいね」

「勇気凛々、元気ハツラツ、モーモードリンクが大人気だ!」

「安いよ安いよー! 帝都じゃ今だけしか買えないハグレ王国グッズが安いよー!」

 

 ベルは諍いを起こしかける客を宥め、その側ではクウェウリが商品を包んで笑顔と共に手渡す。その傍らではニワカマッスルたちが呼び込みを行っている。ベロベロスの火噴きやヤエの超能力によるパフォーマンスも合わさって凄まじい集客率だ。

 

 ベル謹製の各種ポーション類や、わざわざ転移ゲートを使ってまで持ってきた王国ベーカリーの焼きたてパンは大人気で、他にもモーモードリンクや人造人間など、ハグレ王国が誇る人気商品は飛ぶように売れていた。

 

 人が捌けてきた辺りで、ベルは座り込む。

 そこへ、にこやかにクウェウリが声をかけてきた。

 

「ふう。こんなに忙しいのは流石に疲れるなあ」

「お疲れ様ベルくん」

「クウェウリさんもお疲れ様」

 

 年上で同じ獣人のクウェウリとは夜の散歩に出かける仲だ。

 普段はクウェウリのほうがお姉さんとして振舞い、少女にも見えるベルとは姉弟のように接している一方、商売人としてはベルのほうが経験豊かでクウェウリのほうが色々と教わることも多い。総じて良好かつ健全な仲を築けていると言っていいだろう。

 

 だが、端から見て同じような印象を抱かれるかはまた別の話。

 いわんや、それが父親であるならば。

 

 

 

「……随分と、楽しそうじゃないかベルくん」

 

 

 

 後方から響いた、稲妻めいた声。

 

 

「――ッ!?」

 

 ベルが総毛立って振り向くと、そこには青い体毛をした狼の獣人――マーロウが木箱を抱えながらベルを見下ろしていた。

 

 

「マ、マーロウさん!?」

「パパ、どうしてここに!?」

「元気そうだなクウェウリ」

 

 ここにいない筈の人物の登場に驚く一行。

 娘へ穏やかな笑みを見せてから、マーロウは事情を話し出す。

 

「実は私も当時のハグレ代表として式典に出席することになっていてね。アルカナ殿から話は聞いていないかい?」

「あっ、だからそんな恰好をしていたのね」

 

 よくよく見ればマーロウは普段の戦士の装いとは異なりきちんとした服装に身を包んでおり、野性的などう猛さよりもダンディズム溢れる雰囲気を醸し出している。

 

「ああ。それとついでにケモフサ村の特産品を売りに来たんだ――っと!」

「うわあっ!?」

 

 ドスン。とベルの前に大きな音を立てておかれた箱の中には、パッポコ芋を使った特産品がぎっしりと詰まっていた。

 

「折角だ、君たちの隣に出店させてもらっても構わないかな?」

「だ、大丈夫ですよ……」

 

 

 そうしてケモフサ村の住人達との共同出店が開始されたわけだが。

 

 

「…………」

 

 

 どっかりと座り込んだマーロウから発せられる無言の威圧感によって、ベルどころか他の者達もイマイチ集中できないのであった。

 

 

「あの、マーロウさん。もう少し覇気を抑えてくれると……」

「大丈夫だ。私はきちんとわかっているとも。ああそうだ。飽くまで彼らとは先輩後輩。同じ獣人として姉弟のように仲睦まじくしているだけだとも。だからやましい関係になどなってはいないともクウェウリはしっかりしているから悪い男に誑かされる心配は必要ないとも」

 

 

 自分に言い聞かせるように呟くマーロウだが、その威圧感は収まるどころかますます高まっている。

 

 

「こりゃ駄目だね。オルグ、あれはほっといて店番に専念じゃい」

「わかりましたよ……」

 

 

 幸い、彼の気迫に気圧されてか客も諍いなど起こさずに大人しく並んでくれたので問題が起きることなく時間は過ぎていったのだが、ベルは終始落ち着かなかった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 帝都住居区外れ。帝国霊園。

 外壁に近い場所に設けられたそこは、生涯を終えた帝都民が行き着く最後の場所。

 

 聖十字教の石碑が立ち並び、死者たちが眠る安息の寝床。

 

 だが、それは生前、専用の墓を持つに足る財産を遺した者たちの話。

 

 自分の墓を買う金の無かった貧民、身よりのハッキリしなかった流れ者たちが何処に行くのかと言えば、中央に立つ合葬墓。十把一絡げに骨が納められるそこに、ルークの父親も貧民の例に漏れずこの中へと納まっていた。

 

 

「用事って、墓参りでしたのね」

「ああ。つっても、今まで碌に参ったことなんかねえけどな」

 

 そう言ってルークが懐から取り出したのは、小さな紙箱。蓋状になっている上部を開ければ、中から十二本の白い円柱が顔を出した。その中から一本を取り出し、先端を口に咥える。

 

 次に火を付けようと懐を弄ったルークは、そこで自分の失態に気が付いた。 

 

「……ピンク、火ぃくれ、火」

「はいはい。私はマッチ棒じゃないっての……ってかルーク、煙草吸うんだ」

「ええ。私が出会った頃はよく吸ってましたわ」

 

 ルークはかつて煙草を吸っていた。元々実の父親が喫煙家であったから煙草自体はよく買いに行かされたことで馴染みがあり、亜侠チームを組んでいたころはチーム全員が吸っていたことでルークも吸うようになった。エルヴィスは安いシガレットを愛飲し、ルークもそれに倣った。アプリコは葉巻の質に強いこだわりを持っており、ラプスが戦闘の後に煙管をくゆらせる姿はそれだけで絵になった。薙彦は吸う機会こそ稀ではあったが、割と何でも嗜む派だ。

 

 この時ルークが煙草を吸った理由は父親への香の代わりだ。上等な香を焚くよりも、マーケットで安売りしている煙草の方が親族もいない孤独な父への弔いには合っている。

 そしてもう一人、ある意味では真の父親として慕っていたかもしれない恩師へ、一方的に語りかけるために――。

 

「ルーク。私にも一つ」

「ん」

「どうも」

 

 薙彦は煙草を一本受け取り、そのままマッチで火を付ける。

 

「――うん。安い味ですねえ」

 

 口ではそう言いながらも、薙彦は満足そうに煙を吐いた。

 

 墓碑の前で紫煙が燻る。

 思い草を食みながら、二人はどこでもない場所に視線を向けた。

 

「ああ。なんとなく匂いに覚えがあると思えば、これはエルヴィスさんの好きな銘柄でしたか」

 

 煙を目で追いながら、薙彦は懐かしむように言った。

 

「この前市場で見かけてさ。つい買っちまった。でもよ、うちの拠点じゃ大っぴらに吸えねえから湿気るところだった」

「昔も背伸びして吸おうとしてましたよねえ。そのたびに()せてましたが、今ではもう慣れましたか」

「かもな。つっても、ヘルと組んでからは殆ど吸ってねえがな」

「それはまたどうして?」

「ヘルが嫌な顔するからだな。俺だってヘルにヤニの匂いつけるのは嫌だったし、煙草の代金も割と馬鹿にならねえからきっぱり止めた」

「はいはい。お熱いですねえ」

 

 半ば開き直りに近い惚気を浴びせ続けられたエステルの精神は糖分過多であった。

 

「で、久々に吸った感想は?」

「やっぱまずいわコレ。大麻のほうが好きだな」

「堂々と問題発言かましたわね」

「別にいいだろ。なんかとやかく言われたら『この小説はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません』って言っておけばいい」

 

 ぶつくさ言いながらも、吸うのは辞めない。

 そこに、おずおずと声がかけられる。

 

「……あの、私にも一つくれますか?」

 

 その言葉にルークは少々眉をひそめた後、視線を隣に移す。

 しょうがなさそうに首を振る姉を見て、ルークは煙草を一本だけ手渡した。

 

「無理すんなよ。火は貸してやる」

 

 ヘルは慣れない手つきで煙草を咥え、と先端をゆっくりルークの煙草に近づける。

 

「……ッ!? けほっ、けほっ……!」

「だから言っただろ。ほら、無理なら俺が吸ってやる。旦那への香代わりだ」

 

 

 返却された二本目を半ばまで吸ったあたりで、ルークは火を押し消して捨てた。

 

 

「おや、墓参りはもうおしまいですか?」

「ああ」

「折角お父様の墓に来たのにですか?」

「別に、今更親父に言う事なんかねえし――それに、こんな場所まで来たんだ。()()()()()()姿()()()()()()()()()()()()

 

 ルークは視界の端に移る大きな墓石に視線を向けた。

 

「さっきからコソコソと……いくら下水にいたからって自分までネズミみたいな真似することはねえよなあ、()()()()さんよぉ」

 

 

 

「――いっひっひっひっひ」

 

 

 怖気立つような笑い声。

 音もなく姿を現したのは、つい昨日相まみえたばかりの血濡れ髪。

 

 

「左腕の借りを返しに来てやったよヘルラージュ。今度こそ、アタシの作品の一つになりな」

 

 

 狂気を孕んだ目をヘルに向けながら、死霊術師は裂けるような笑みを浮かべた。




次回、またまた中ボス戦。

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