ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

60 / 89
27話辺りに若干の改稿と追記がございます。
当時では考えが及んでいなかったジェスター達の信条とか言い回しの修正です。


その59.帝都動乱・二日目(4)

 

 ルークが違和感に気が付いたのは、暗殺ギルドにカチコミをかけた瞬間だった。

 あの時の襲撃は誰にも察知されていなかった。見張りはいたがルークからすればザルの一言。奇襲のために窓から爆弾を投げ込むのに何の支障も無かった。

 

 だが、いざ突入となった途端に背後から殺気を感じた。

 

 こちらを執拗に舐めまわす様な陰気に満ちた殺意。

 慌てて背後を確認するが、敵の姿はなく物陰からの遠隔攻撃の気配もない。

 

 再びその殺気を感じたのは、暗殺ギルドを片付けた直後だった。

 

 戦闘後のクリアリングで注意を張っていたからこそ気が付けた僅かな殺気。

 そこに意識を向けると、即座にその殺意は遠ざかって行く。

 

 ルークはそのことをすぐさま全員に知らせようとして、

 ――ふと、その粘つくような殺気が一日も立たないうちに経験していたものであることに思い至った。

 

 ……成る程。

 であればここで知らせて皆を警戒させると逆に手を出さない、あるいは開き直って襲い掛かってくるかもしれない。

 アレが自分たちにつき纏っているリスクを取るか、街の中を戦場にするリスクを取るか。

 

 悩んだ末、彼は相手をおびき寄せることに決めた。 

 色々と都合のいい理由をつけ、人気がなくその上で相手が出てきたがる場所――すなわち墓場にやってきた。

 勿論、墓参りをするというのもある程度は本音だったが。

 

 そして、ルークの目論見通り、彼女は姿を現した。

 

 

「昼間からつけてきてたのは知ってたさ。街ン中で堂々と暴れられても困るからな。ここなら誰にも迷惑が掛からねえ」

「まさかまさか、そこの坊やがピンピンしてるとはねえ。流石はラージュ家、解呪もお手のものかい」

 

 死に至る呪いを受けたはずのルークが立っているという事実は、アドベラからすれば不愉快な話だ。

 解呪のために捕縛した呪術師を殺したか、あるいは他に呪いを除去する術を知っていたか。

 どちらにせよ、これで損害を受けたのは自分だけ。プライドの高いアドベラは目の前の相手を凌辱するしかなくなった。

 

「アドベラだと!」

「こいつが……!」

 

 面識のある者もない者も、その顔を見た瞬間に一斉に身構える。

 ルーク達三人からすれば一日経つかどうかの凶相。

 そうでなくとも相手はかの死霊術師(ネクロマンサー)。顔を知らぬものなどこの場にはいない。むしろ半分にはそれぞれの因縁があるほどだ。

 

 例えば、この小さな姉とか。

 

 

「久しぶりじゃないアドベラ。私の可愛い妹をダシにするつもりが、左腕を奪われた気分はどう?」

「これはこれはミアラージュ殿。わざわざお出ましになられるとは手間が省けた。その黄泉還りの秘密、存分に解体(バラ)させてもらうよ」

「私に飽き足らず大事な家族にまで手を出した分際でよく言うわ。そっちこそ死んだ上で殺される覚悟はできてるんでしょうね?」

 

 お互い笑みを浮かべてはいるが、その目は限りない殺意に満ちている。

 アドベラは何が何でも黄泉還りの術を求め、ミアラージュは矜持にかけて死霊術を濫用する彼女を見逃せない。

 

 そして、他にも彼女を許さない者がここにはいる。

 

「……死霊術師(ネクロマンサー)アドベラ。死霊を操り、多くの人々に危害を加えるお前をゴーストハンターとして見過ごすことはできない。ここで君の首を獲らせてもらう」

「俊英サマまでいらっしゃるとは。随分とまあ豪華だこと」

 

 稀代のゴーストハンター・アルフレッド。かつて自らが残した置き土産を打倒した男の冷徹な宣言を受けても、アドベラに焦りはない。

 

「ああ。大事なゾンビを全滅させられたアンタじゃ、この面子に適うとは思えないがな」

「そっちこそ、あたしのホームグラウンドがどこなのか知らないわけじゃないだろう?」

 

 アドベラは手に持った脊髄の杖を打ち鳴らす。

 静寂なる墓地に響き渡ったその音に呼応するように、地面から蠢く影が続々と這い出る。

 土葬によって未だに形を残す死体から、完全に白骨化した死体。つい先ほどまで生きていたような新鮮な死体までもがその中にはいた。

 

「おいおい。俺たち相手にこの程度か?」

 

 確かに死体の数で言えば下水道の時を上回る。

 だがこちらには炎魔法が得意なエステルに、対アンデッドなら右に出る者はいないアルフレッドまでいる。相手の手駒がアンデッドだけならば、アドベラに勝ち目など万に一つもない。

 

「そうだねえ。アンタたち相手にはそれだけじゃあ児戯(ぬる)すぎるよねえ」

 

 だが、アドベラは決して余裕の表情を崩さずに()()()()()()()()

 

 

「……ッ! なによそれ……!」

 

 

 ミアラージュはその異常を瞬時に理解した。

 その左腕は肘の部分までが黒く染まっていた。

 黒い肌などという話ではない。

 のっぺりと、しかしどこまでも続くような奥行きを感じさせる虚無。

 腕のカタチに世界を切り取ったような暗黒、というのが相応しいだろう。

 

「ちょっと、それってまさか……!」

 

 その正体にエステルはいち早く思い至った。

 

 水晶洞窟の戦いにおいて、白翼の後継ジェスターがアルカナに対して振るった影の魔法。

 その後に師が語るところによれば、それは宇宙(ソラ)の根源を二分する属性の片割れ。

 星の光と対を成す虚無の暗黒。

 混沌を司る闇が、その左手に存在していた。

 

「さあ、祭りの始まりだよ!」

 

 アドベラが左腕を地に突き刺す。

 地面にしみ込んだ影は瞬く間に墓場全域に根を広げ、アンデッドへ纏わりついていく。影に侵食された死体は欠損を補われ、命が消えた筈の肉体に力を滾らせていく。

 

 最初に動いた屍人(グール)が得物に定めたのは、槌を持った金髪の女性。

 髪を纏めて露わとなったうなじに歯を突き立てようと迫り、

 

■■■■――!!

「ふんッ!」

 

 寸分たがわぬスイング。

 襲いかかってきた屍人の頭蓋をジーナのハンマーが砕く。

 頭部を失った屍人は地面に崩れ落ちると、奇妙にも影の中へ溶けるように消えた。

 

「なんだと?」

「ジーナ、後ろだ!」

「……っ!?」

 

 訝しむが、異常はそれだけに非ず。

 影は沸き立つ瘴気となって地面より染み出し、悪霊(ゴースト)としての姿を形成する。

 ずるりと出てきた悪霊は、死体の消失に気を取られたジーナの背後からその腕を伸ばし、

 

 

 ――目にも留まらぬ一閃に貫かれて霧散した。

 

 

「大丈夫? 姉さん」

 

 弟はいつもと変わらぬ笑みを浮かべる。

 とっくの前に追い越されたその背は、やはり大きかった。

 

「別に、この程度なら反応できたわよ。

 

 ……でも、助かった」

「うん。湧き出る悪霊は僕に任せて」

「ああ。背中は任せたよ――!」

 

 照れ隠しのように振るい続ける槌から伝わる感触は、予想よりも軽かった。

 

 

 その一方で、周囲を冷静に観察していたミアラージュは、この状況がどれだけの異常事態なのかを把握していた。

 

「なんてこと……!」

「ミアさん、こいつは一体?」

「あいつ、この墓地に染み付いた死者全てを一気に呼び起こすつもりよ! 死体だけじゃない、もうこの世にいない筈の魂すら呼び寄せて悪霊に変えている。このままじゃこの墓地がアンデッドで埋め尽くされるのも時間の問題よ!」

「なんだと!?」

 

 帝都の共同墓地に眠る無数の魂。

 土地に染み付いた人間たちの痕跡。

 それが湧き出る悪霊たちの正体。

 

 ジェスターが授けた虚数の魔力は、アドベラの死霊魔術を促進させ、失われた生者の記憶を呼び起こし悪霊として自在に呼び出すことを実現させていた。

 

 なんという死者の尊厳を侮辱して余りある禁断の魔術か。

 ミアラージュは憤怒の表情でアドベラを睨みつける。

 

「この外道め……この期に及んでさらに禁忌を侵すつもり!?」

「どうせやるなら盛大にさね! 折角もらった力なんだ、どこまでいけるか試してやろうじゃないの!」

 

 血濡れた杖がさらに打ち付けられる。

 この世のものとは思えぬ唸り声が響き、大地が揺れる。

 

 

■■■■■■■■■――!!

 

 

 ガラガラガラと音を立て、地面が罅割れる。

 崩れていく墓石から、ひとりでに出ていくものがあった。

 

 割れて砕けて、あらゆる場所から出てくる白い欠片。

 納められていた人骨は影の手によって一か所に集められ、組み合って巨大な姿となる。

 

「おいおい……流石にこりゃどうかと思うぜ」

 

 顕れるはハグルマの巨人兵(タロス)に匹敵する巨体。

 生きる者たちを睥睨する威容、まさに和国に伝わる大怪異の如し。

 

「アッハハハハハハ! あたしの生涯最大の術だ。存分に味わいな!!」

「地獄に落ちろ、このクソ女!」

 

 哄笑する死霊術師に悪態をつきながら、ルークは短剣で屍人の首を落とす。

 

 本日最大の馬鹿騒ぎが、ここに幕を開けた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 帝都商業区。

 メインストリートの近くを、二人のよく似た顔の男たちが歩いていた。

 

 

「はあ……まさかアイツが二股かけてやがったとは」

「やっぱナンパはダメだって兄者よ。そんなのに乗ってくるやつなんか男に貢がせることしか考えてねえんだからよ」

 

 しょぼくれた様子で歩く片方を、もう片方が慰める。

 彼らは流石兄弟。

 昨晩ナンパで引っ掛けた女と遊びに行った兄者の初デートは、相手側のもう一人の交際相手が乱入してくるというアクシデントによって大失敗に終わった。

 

「けどよ、フラれフラれてやっと答えてくれた女の子だったんだぞ。そりゃ少しぐらい脈ありって思ってもいいじゃないか」

「いい加減立ち直りなよ。捨てる神あれば拾う神あり。いつかお前をちゃんと拾ってくれる女の子に会えるって」

 

 かなり最低な発言である。

 

「それでもよお、せめてあの胸は味わいたかった」

「それはわかる」

「……あれ? 俺、お前に彼女の姿教えたっけ?」

「抜け駆けは腹立ったからな。物陰からこっそりと見ていたんだ」

「んなっ!?」

「いくらなんでも初っ端からホテル直行はダメだって」

「それにノリノリなあの女も大概だとは思うがな」

「いやでも尻の軽い女の子って良くないか?」

「ああ、同感だな」

 

 そんなどうしようもない会話を繰り広げている時だった。

 

 

■■■■■■■■■――!!

 

 奇妙な遠吠えと、唐突な揺れ。

 

 

「地震か?」

「いやどっちかといえば爆発だろ」

「どっかで火薬の事故でも起きたか?」

「でも住居区のほうだよなアレ」

 

 互いに先ほどの現象について話し合う。

 当然何が起きているのかなど分からず、半ば他人事だ。

 

「つか、その前に変な声しなかったか?」

「何の動物だろうな」

「魔物じゃねえの?」

「おいおい。帝都に魔物が湧くわけねえだろ」

「そうだな。ところで兄者」

「なんだ弟よ」

 

 

「今あっちのほうに顔を出している奴。一体何だと思う?」

 

 

 弟者が指で示した先には、巨大な何かが鎌首をもたげる姿が。

 

 

「そりゃあ、デカい骸骨に決まってんだろ」

 

 

「そうだよな!」

「「はっはっは」」

 

 

 

「「……」」

 

 沈黙。

 二人はしばし互いに顔を見合わせた後、

 

「「なんじゃありゃああああああああ!?」」

 

 絶叫の共鳴を響かせた。

 

 

 

 

「ふむ。アドベラはさっそく始めたようだな」

 

 

 

 墓地の方角から禍々しい魔力が噴き上がり、巨大な骸骨がその巨体を持ち上げる様子を見つめる者達あり。

 

 白髪黒衣の先導者、ジェスターは今まさに繰り広げられようとしている惨状を興味深そうに眺める。

 

「流石は『カルメンの悪夢』を引き起こした一人と言うべきか。中々にやってくれる」

「貴方が直々に力を与えるとは、よほど彼女のことを高く買っているようですな」

 

 燻る目を持ったザナルの問いにジェスターは頷く。

 

「そうさ。奴の叡智もさるものだが、アルカナと対峙して生き延びたというだけで称賛に値する。事実、私が彼女に抱いた期待は間違いではなかった。見給え、あれこそはまさしくテロル。世界に自らの存在を知らしめる叫びよ」

「……だが、アレではそう長くは持ちますまい」

 

 確かにアンデッドの大群を帝都に解き放てば、大打撃となることは間違いない。

 だがそれには多大な準備が必要だ。ジェスターの与えた魔力が後押ししているとはいえ、それでも最低二日はかかる。

 

 しかし、当のアドベラは秘密裏の行動よりもハグレ王国への復讐を優先した。

 憎き相手を殺せればそれでいいと、自分へ降りかかる負担を度外視した。

 半ば制御を放棄したことによってあれだけの大術式を僅かな時間で行使してみせた。

 

 当然その対価は重い。

 虚無の魔力によって湧き出る無尽の魔力があるとはいえ、あのような禁呪の行使は相応の危険がある。

 最期には溢れる魔力に浸食されて自我が耐え切れず、見るもおぞましい結末が待っているだろう。

 

「そうだろうな。そしてそれは彼女自身が何よりも分かっていることだ」

 

 だがそれでも、ジェスターはアドベラが生存よりも復讐を優先したことを肯定する。

 

「我々の行動は全てに意味がある。彼女はいわば狼煙。この世界に嘆く者達を決起させるための一歩よ」

「その通りだ。投じられた火種は、やがて全てを灰燼に帰す劫火となるだろう」

 

 ザナルも同意するように頷く。

 弱者。敗者。落伍者。異端者。無法者。

 

 今の世では受け入れられなかった逸れ者たちの叫び。

 自分たちはここにいたという証を世界に刻み付け、決して忘れ去られることのない傷跡を残すために。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 ルークは一閃し、屍人の首を断つ。

 そのまま次の屍人の掴みかかりを回避し、頭部を二つに断ち斬る。

 

 彼の動きをカバーするように真空の刃が悪霊を飲み込み、灼熱の雲が腐った肉を溶かす。

 押し寄せるアンデッドを大盾が食い止め、スケルトンをハンマーが砕いて薙ぎ払いが一掃する。

 

 そして最前線にて大立ち回りをするのが二人。

 

 浄化の力を纏ったアルフレッドの一閃と、エステルの炎は屍者を影ごと焼き尽くし、悪霊の発生を防いでいる。

 

 回復役がヘルラージュのみという不安はあるが、それでも対アンデッド戦においては極めて相性の良いパーティだ。

 

 だがそれでも、状況の好転には程遠い。

 際限なく現れては斬り伏せられ、そこからさらに召喚される屍者の群れ。

 斬っても斬っても戦局が変わらない様子は、体力だけでなく精神を疲弊させる。

 

 

 そして一番厄介なのがあのがしゃどくろだ。

 あの巨体が腕を振り下ろせば、それの回避に意識を裂かれる。火球を吐き出してくれば、一心不乱に下がる必要がある。

 周囲のアンデッドが見境なく巻き添えになるとはいえ、そこから悪霊が発生するのだから損害になどなりはしない。

 これだけの数は流石に制御できていないのか、倒した死体が武器となって射出されないのがせめてもの救いか。

 

 ルークは解放軍が敵に回って以来、何かとこのような戦いが多いなと思った。その考えはあながち間違いでは無かろう。

 ハグレ王国という質を集めた集団に勝るには、それを押し流せるだけの量を揃えるのがもっとも有効なのだから。

 

 

「流石に湧き出るペースが速すぎる……このままではじきに街へ溢れかえるぞ」

「それだけは何としても止めないとね!」

 

 アルフレッドの剣閃が煌めけば、次々と腐肉を爆ぜさせる。

 

 これほどの異常事態。

 異変が起きたことはすぐに外に伝わり、デーリッチ達は駆けつけてくるだろう。

 だが、その間の僅かな時間こそが命取り。

 一体でも市街地に侵入を許せば、瞬く間に帝都には阿鼻叫喚の地獄絵図が描かれることになる。

 

 状況を打破するには術者を仕留めるのが一番だろう。

 だがアドベラとの間は夥しい数の屍者で固められている。

 安全圏でなぶり殺しにされるのを見物する腹積もりなのだろう。

 

「こうなりゃ一か八かだ。リーダー、()()でいくがどうだ?」

「……ええ、勿論!」

 

 ルークの提案をヘルラージュは快諾する。

 チャンスは一度きり。

 失敗すれば死。

 確率的には五十パー……否、百パーセント成功する。

 ヘルラージュと共にやることだ、失敗などどうして在り得ようか。

 

「もしかして、あなた達アレをやるつもり?」

「お、何々? 秘密の大技でもあるわけ?」

「ああ。後ろは任せたぞ」

「分かったわ。全力でぶちかましてきなさい」

 

 頼もしくも、穴埋めは義姉たちが請け負ってくれる。

 二人が考えるのは一つ。

 

 この一撃で決めること、ただそれだけだ。

 

 

「何をする気か知らないが!」

 

 

 アドベラの叫びに応じてルークとヘルラージュに殺到する魔物たち。

 

 死者どもによる殺戮の饗宴。

 

 その渦中にて踊るは二人の愚か者。

 

 片や荒れ狂う風を巻き起こす黒衣の魔術師。

 片や刃を滑り躍らせる黒紫の衣と仮面の男。

 

 

「ヘルズラカニト!」

 

 

 限界まで凝縮された魔力を解き放つ。

 放たれた魔力は空気を破壊し、前方から後方まで次々と屍人の群れを吹き飛ばして腐肉の破片を砂塵や石礫もろともに攪拌する。

 

 そして、生み出された真空は気流を生む。

 吹き込んだ空気は突風となり、ヘルの前方からアドベラの下まで突き進んでいく。

 

 しかしこれはただの風。

 ローブを靡かせる程度の強風では、死霊術師には僅かな傷も負わせられない。

 確かに道は開いた。だが、この程度の綻びは周囲の屍人で即座に塞げる程度でしかない。

 

 

 にも関わらず死霊術師が目の前の光景に目を見開いたのは、その吹きすさぶ烈風の中に飛び出る人影がいたからだ。

 

「なんだと……ッ!?」

 

 風の一押しを受けて限界以上に加速したルークの跳躍はアドベラの反応測度を越えた。

 斬撃が左肩を抉り、遅れて来た激痛にアドベラは怒りで顔を歪める。

 

「小僧――!」

 

 注意が逸れたのは一瞬。

 だがその一瞬があれば十分だ。

 

 

「レイジングウィンド!」

 

 足元から吹き上がる竜巻。

 死霊術師の身体が浮き、周囲のアンデッドが切り刻まれる

 そのまま風は吹き続け、アドベラと周囲を隔離する。

 

「ハッ。これで動きを封じたつもりかい? この程度の風、たやすく破って――ガッ!?」

 

 下方から飛んできた一撃。

 凄まじき速度でアドベラに肉薄したルークの一閃が肉を裂く。そのまま着地するかと思われたルークはなんと風の壁を蹴って方向転換。すれ違いざまに再び一閃! さらにまた風を蹴って跳ね返り、上昇気流に乗って追撃する。

 

 ルークはアドベラとすれ違う度に斬る。斬る。斬る斬る斬る斬る!

 

 死角から次々と斬りつけてくるルークの総攻撃数、八回!

 宙に打ち上げられ、風に巻かれるアドベラに為す術なし!

 

 

  ――これぞ奥義・ダンスマカブル!!

 

 

 無論、彼に風を蹴る異能などない。彼は天狗でもなければ、翼人(ハーピー)でもないただの人間だ。空に飛べば自由落下という物理現象に囚われるだけの陸上生命に過ぎない。

 

 ではなぜこのような芸当が可能なのか? その答えはアドベラに巻き付く一筋の線にある。

 それはルークが数多く持つおたからが一つ《透明ワイヤー》。

 

 その身に巻き付けて手繰るルークと、同じく事前に示し合わせたヘルラージュのみが視認を可能とするその透明な繊維は極めて頑丈な素材で造られており、かなづち大明神ほどの重量であってもつるし上げることを可能にする。

 つまりルークは風を蹴っているのではない。吹き荒れる風に巻かれたワイヤーによって、ルークはアドベラの下へと自動的に引き戻されているのだ。この突風の中において、人間二人分の重量に引っ張られても千切れることはなく、ただ使い手であるルークを宙に舞わせている。当然これはヘルラージュの緻密な魔力操作も要求される。少しでも加減を間違えばルークはあらぬ方向に飛ばされてしまうだろう。

 

 だが彼らはお互いが失敗するなどとは考えていない。

 あるのはお互いが成功すると言う確信。

 

 信頼の深さこそが成しえる、二人だけの合体技だ。

 

 

 

 

 

 切り裂かれたアドベラから血が吹き出す。

 四方八方に散るその様子は空に咲いた薔薇か。

 

 

「ルーク!」

 

 

 竜巻が消え、二人の人間が地に落ちる。

 地面に叩きつけられるのは死霊術師。対してルークはヘルの側へと着地する。

 

「わっとと」

 

 勢いあまってヘルの身体を掴んで一回転。

 多少不格好なそれは、この狂騒を締めくくる最後の舞踏のようだ。

 

 

「クソガキどもが……調子に乗るんじゃ……ッ!」

 

 

 だがアドベラにはまだ息がある。

 

 彼女は最期に、左手の虚無を解き放とうとして、

 

 

「駄目よ。二人の仲を邪魔するなんて女の子として最低だわ」

 

 最後の活力が吸い取られる。

 声の主に視線を向ければ、ミアラージュが杖を掲げながら地に伏すアドベラを見下ろしていた。

 

 

「ミアラージュ、おのれ――」

 

 

 二つの破裂音。

 

 アドベラの額へ続けざまに穴が開く。

 ルークの手には、硝煙を吐き出す拳銃が握られていた。

 

 

「じゃあなアドベラ。秘密結社をナメんじゃねえ」

 

 

 

 ◇

 

 

 

「おっと。向こうは片付いたようだな」

 

 アンデッドの大群を引き受けていたエステル達は、ルーク達の方角から剣戟の音が止んだことを察知した。

 

「やるじゃんアイツ。こりゃ私も負けてられねえな!」

 

 

 エステルが両手を広げる。

 

 それぞれの手に三つずつ火球が育つ。

 

 

「新技行くわよ、バルカンブレイザー!

 

 

 ――紅蓮六道(ぐれんりくどう)

 六つの炎球で敵陣を屠るアルカナの焼却魔法。

 それを自己流に継承し、最近になってようやく様になってきた技をアンデッドの群れに叩きつける。

 

 一撃一撃が全力の収束火炎魔法(ファイア)に匹敵する威力。

 それを広域火炎魔法(フレイム)並みの効果範囲で適用すればこれこの通り。

 彼女たちの前に広がっていたアンデッドが綺麗さっぱりと消え失せていた。

 

 唯一残っていたがしゃどくろはその多腕で魔力を使い切ったエステルを叩き潰そうとする。

 

 

「ぬん!」

「ほい」

 

 

 献身の大盾が一撃を防ぐ。

 神域の一薙ぎが腕を砕く。

 

 思わぬ方向への力にバランスの崩れた巨体。

 そこにさらなる攻撃が横から襲い掛かった。

 

「アル!」

「分かってる!」

 

 

 装甲すら破壊する鉄槌の一撃(クラッシャー・ワン)を受け、完全に体勢を崩したがしゃどくろ。

 絶好のチャンス。

 アルフレッドはその巨腕に飛び乗り、瞬く間に核たる頭蓋目掛けて駆け上がる。

 

 がしゃどくろも残った腕で払い落そうとするが、鋼の集中力で突き進むアルフレッドをその鈍重な動きで捉えるなど不可能だ。

 バチバチと右腕に雷光が迸る。

 

 繰り出されるは彼の代名詞。

 かつて憧れ、その背を追い、そして継承した勇者の技。

 

 

ヘヴンズ・ゲート!

 

 

 浄化の力を込めた一撃が頭蓋を砕き、その奥底で燃える黒い炎を消し飛ばした。

 

 

 白骨の巨体が崩れ去る。

 死者を冒涜して作られた怪物は、跡形もなく消え去った。

 

「よっしゃ!」

 

 エステルはガッツポーズを決める。

 アンデッドはまだ残っているが、供給源を断たれた以上はただの雑魚だ。

 

 がやがやと墓場の入り口が騒がしい。

 おそらく騒ぎを聞きつけて駆けつけたのだろう。

 振り向けばそこには、自分たちの仲間たちが勢ぞろいしていた。

 

 

「――みんな、大丈夫でちか!?」

「遅かったな。あまりにも遅いから俺たちで片付けちまったぞ」

 

 

 血相を変えて飛びこんできた王様に、ルークは不敵な笑みを向けた。

 

 

 死霊術師アドベラ。

 ここに討伐完了。




カットインとしてフォントを活用するのにハマっています。


○アドベラ
 ぶっちゃけ魔王タワーのミトナの劣化版。
 彼女との戦闘シーンは『罪な薔薇』を流しながら書いていました。

○今回のオリジナル技
★ダンスマカブル 消費MP20% 消費TP90
 前衛にヘルラージュが必要。
 驚きの八回連続ダメージ(近接物理/会心あり)。TP回収率が極めて高い(一撃につきTP+4)。
 秘密結社奥義。ヘルラージュの風に乗ったルークが猛攻を仕掛ける。

 王国大学でこっそり二人で練習してたりする。


★禍神降ろし(本作仕様)
 ルークには効果が二倍で適用される。


★バルカンブレイザー 消費MP30% 消費TP95
 広域版バルカンフレア(炎)
 師匠の技を見よう見まねで覚えました。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。