『三日目・工業区』
――二か月前。
「さて、同志マクスウェル。君は最強たるものの定義とは何だと思う?」
召喚人解放戦線のアジトの一つにて。
ジェスターはマクスウェルへ唐突に問いかけた。
「なんだいきなり? そんなもの、圧倒的な力に決まっているだろう」
要領を得ない質問に、マクスウェルは怪訝に思いながらも即答する。
認めがたいが、マクスウェルにとっての"最強"とは生きる伝説のアルカナであり、魔導の巨人として君臨するシノブを指す。あらゆる存在を歯牙にもかけない圧倒的な魔力。文明そのものを進化させうる天才的頭脳。神域に達する魔導の技術。魔導の道を志した者にとって、それらを兼ね備えた存在であるあの二人は紛れもない最強だ。
「それも一理ある答えだが……私からすれば違う。真に強いものというのはね、"死なない"ことだ。"底なし"と言ってもいいだろう。自分たちの何百倍もの軍勢。どれだけ倒しても現れる増援。いつまで経っても終わりの見えない戦い。どんな英雄であっても疲れるし、かすり傷は負う。蓄積される負債はいずれ破産を引き起こす。生命だろうと機械だろうと、その体を動かすエネルギーの総量には限度がある」
ジェスターの発言は意外なほどに腑に落ちた。
シノブは見かけだけで言えば些細なことでその命を終わらせてしまう儚い小動物のような小柄なインドア系少女であり、実際に運動神経や体力は年相応の少女でしかない。かつて協会で行われた野外活動ではほんの少し険しい山道を進んだだけで息切れしていた光景は印象に残っていた。
どれだけ化け物めいた存在であっても、人間である以上はどこかに限界がある。
だからこそ、人は永久機関や不老不死のように限界の存在しないものを求めるのだ。
「我々が発見した魔導鎧……いや、元々は
――だが、強い力には代償がつきものだ」
ジェスターが指で示した先には、鎧を装着した兵士が苦痛に悶え、のたうち回る姿があった。
表向きはミドルネームであるサーディスを名義とするジェスターによって連れられたマクスウェルは、ジェスターが潜伏先の一つで発見した古代兵器の復元を任せられた。
かなり高度な兵器ではあったが、まがりなりにも一級召喚士の地位にまで上り詰めたマクスウェルは見事これを復元することに成功した。そして現在、このように実際の駆動実験を行っている最中だ。
もしこれがマクスウェル独りであればその辺の冒険者や傭兵を実験台にする必要があったかもしれないが、ここにはジェスターが白翼の一族から持ち出した錬金術の奥義によって生み出されるホムンクルスが何人もいる。彼らは伝承に謳われたような万能の叡智は持たず、寿命自体も短いがその分汎用性に富んでおり雑兵としては申し分ない。長い潜伏期間の中でハグルマとの協力関係を築き、工房を稼働させたことで製造されたホムンクルスは今や一小隊に匹敵していた。
つまり、今の所は実験台に困ることは無いと言う事であり、このバイオ鎧を身に着けたホムンクルスによる対魔物・対人実験を行ったことで彼らはその強力な性能とそれに伴う副作用を把握していた。
「強力な分かなりの量のマナを消費し、大気中に漂うマナはあっという間に枯渇する。だが足りないマナを求めて、最も近くにあるマナの保有者、つまり着用者の身体を侵食する。そして着用者は痛みの余り暴れ回り、敵味方の区別なく襲い掛かってマナを奪い取る」
同胞だった人造兵を屠り、血液を啜ってマナを取り込む様子はまさに狂戦士。
並みの相手ならば1体で十分に事足りる相手ではあるが、ジェスター達にとって目下の仮想敵はアルカナとシノブという規格外の二人。この鎧であっても一つ二つでは足りず、編成した軍隊でなければ勝負にもなりはしない以上、同士討ちや暴走の危険性は決して看過できなかった。
「じゃあどうするんだよ?」
「簡単だよ。足りないのなら、足りるようにする。魔物ならともかく、人間相手にあれだけの武装は過剰火力だ。余計な武装はそぎ落とし、マナを装着者の強化に回す。マナがある限りは回復し続けるようにすれば、生半可な攻撃は通用しなくなる。
問題は着用者を侵食する特性だが、マナを吸収する仕組みは十分に有用だ。後はこれの供給先を制限すればいい。魔法はマナによって引き起こされる現象だ。ここに魔法を分解する術式を組み込み、マナへ還元する仕組みへと改良する」
「おい、それはまさか……」
「その通り、マナある限り決して死ぬことのない軍隊が完成する。戦士を凌駕し、魔法使いの力を吸い取り、圧倒的な物量で蹂躙する不死の兵団。喜べ、君はどの世界よりも究極の魔導を目の当たりにする機会に恵まれた」
そうしてバイオ鎧をひな形として、攻撃性能をグレードダウンさせながらも魔法を吸収し、身体強化と回復に特化した対魔法用兵器・魔導型機動装甲具――通称、魔導鎧が誕生した。
マクスウェルはこの時、確かに勝利を確信していた。していたのだ。
アルカナの管理下にいたアプリコを始めとした、現状に不満を持つ獣人たちを仲間に引き込み、彼女たちが行おうとする帰還計画を知ることができた。ゼロキャンペーンを発展させた相互ゲート理論を把握し、彼女たちがマナの薄い環境へわざわざ赴くことを理解したジェスター達は、その時を狙って襲撃を仕掛けた。
懸念事項であるハグレ王国の持つキーオブパンドラを封じ、洞窟という閉鎖環境でアルカナの大規模破壊の星魔法を制限したうえでジェスターが引き受ける。そして残りを魔導兵10体で追い詰め、デーリッチかシノブを排除するという計画に瑕疵は無かったはずだ。
だが現実はマクスウェルの思い通りにはいかない。
結果として、水晶洞窟での戦いでジェスターは織り込み済みとは言えアルカナに敗れ、肝心の魔導鎧は誰一人殺すことができなかった。
その後に魔導鎧が投入されたエルフ王国との戦争においても、ハグレ王国に攻略方法が知れ渡ったことで攻略された。
勿論、魔導鎧が帝都の騎士団など一般の戦士たちにとっては途方もない脅威であることに変わりはない。しかし一番の敵であるハグレ王国にとっては魔導鎧は『多少厄介な相手』の認識を出ない。マクスウェルにとってはそれが不満だった。
唯一自らの功績とも呼べる魔導鎧。その力を以って勝利を収められなければ気が済まない。ジェスターの人外めいた再生能力は確かに強力だ。ハグレの軍勢を率いれば帝都は落とせる。だからこそ、マクスウェルは自らの持つ手札で彼女たちを上回ることを証明しなければならなかった。
幸いにもそれを実現するための道筋は整っている。
ジェスターの見立ては甘いが、決して間違ってはいない。シノブの魔法は魔導鎧でも吸収しきれないほどに強力だったが、確実に倒すには仲間の手を必要としていた。仮にあの時の10体をシノブただ一人に仕向けていれば、倒せただろうと言う確信があった。
強靭な装甲。魔法吸収機能。極めつけは即死でなければ復活する回復力。
これらを兼ね備えた兵士が強くないわけがない。
それでも敗北したのならば、残るは中身の問題となる。
人造人間であるホムンクルスは、強化されていようと身体構造は人間と同じだ。だから装甲の防御力を上回る攻撃では倒されてしまう。
要するに、出力が足りていなかったのだ。アプリコのような軍師の指示を受けていればその弱点を補って余りあるが、そうでなければ咄嗟の判断力に乏しいホムンクルスでは足りなかった。
ならばどうするか? 簡単だ、人間でない種族に着せればいい。具体的には屈強なハグレに着せるのがベストだ。適当な戦士よりも、根本から人間を上回る存在を補強する方が効率的なのは誰の目にも明らか。そしてその存在は他ならぬジェスターが把握していた。
鳥人クックル。
アプリコから話を聞き、是非仲間に引き入れたいとジェスターはクックルの解放をマクスウェルに依頼した。
マクスウェルもクックルの事については伝聞程度には知っていた。
そして、使える。と彼は思った。
10年前のハグレ戦争にて破壊を尽くした男。
あのアルカナですら殺し切れなかったほどに強力な力を持つ生物。
そんな存在に自らの魔導鎧を装着させ、意のままに操ることができれば……。
マクスウェルは二つ返事でその指示に従った。
クックルは政治犯として重犯罪区に収監されていたが、自らの財力を使えば連れ出すことは難しくはなかった。凍結される前に確保しておいた資産は目減りしたが、その程度は後で帳消しにできる。
魔導鎧も、発見されたバイオ鎧の中でより大型のものを基盤に改造した。思考を誘導する機能に加え、もしもの為の仕掛けも抜かりはない。
そうして、彼は望み通りの切り札を手に入れたのだ。
「はっ、あいつら。今頃右往左往してるんだろうな」
拠点とした研究所にて余裕ぶった笑みを浮かべるマクスウェル。
彼の視線の先には、培養槽の中に眠るクックルの姿がある。
クックルはマナを多量に含んだ特殊な薬液に浸かっており、酩酊状態にありながらも生命力を活性化させ続けている。子分のベルベットは薬学に秀でており、クックルの強化に最適な調合を行ってくれた。ビロード機材の細やかな調整を行う助手としてはそこそこの働きをしてくれる。
「マクスウェル様」
「なんだ」
「報告します。昨晩、提供元であるドロブネ様の邸宅に賊が侵入しました」
「なんだと?」
ドロブネ伯爵はこの研究所跡を提供している貴族だ。召喚人解放戦線の内容にも理解を示し、政治的な野心を持った貴族として利用しやすい相手だった。
その人物の屋敷に賊が? 何のために? マクスウェルは最悪の事態を想定した。
「被害状況は?」
「警備員を襲撃し、伯爵の蒐集物を強奪して逃亡しました。盗品は取り戻したが、犯人は取り逃がしたとのことです」
「んじゃあただの泥棒だな」
ドロブネ伯爵は蒐集家として有名だ。ならば貴重品目当ての盗賊が帝都の浮ついた雰囲気に乗じて押し入ったのだろう。
マクスウェルはそう納得して視線を元に戻す。
……途端、手元の無線機から着信音が響いた。
「どうした?」
ハグルマは主要な拠点の一つと軍勢の過半数を失ったが、その技術力は未だ健在。無線通信のための設備ぐらいならば設けることができた。
声をかければ、警備兵からの報告が返ってきた。
『報告します。正門前にて、何者かが襲撃を仕掛けてきたようです』
「襲撃だぁ? どんな奴らだ」
『薙刀を持った男と、鎧を着た女性と交戦中。データによればアプリコ様の知己、始末ヶ原薙彦および、ハグレ王国に属する傭兵ジュリアと推測されます』
「はぁ? なんでそんな奴が……いや、そうか。そういうことか」
始末ヶ原薙彦はアプリコが昔所属していたチームのメンバーだ。それはつまりハグレ王国に属しているルークの知り合いでもある。アプリコは勧誘に失敗したと言っていた以上、ルークを通じてハグレ王国が始末ヶ原を引き入れたのだろう。
そして彼らが襲撃を仕掛けてきたということは、つまり此処が何なのかが連中に露呈したということだ。
「役に立たねえな、あの獣が……おい、そこにはエステルはいるか?」
『いえ。彼以外は見当たりません』
「ちっ、だとしたら既に侵入してるな……。
とりあえず、絶対にそいつはそこから動かすな」
『了解しました』
「……まあいいさ、仮にここがバレたなら、ちょっと早いコイツのお披露目ってわけだ」
ハグレ王国が総勢で押し寄せてくることは難しく、またアルカナの魔法は帝都の中では制限される。シノブやエステルが来るなら願ったりだ。高火力で焼き払えばいいと高をくくったすまし顔を絶望に歪めさせられる。
そして時を間もなくして、近い場所から金属の打ち合う音が聞こえ始める。
ホムンクルスが報告に来たのは、すぐの事だった。
「マクスウェル様、侵入者です」
「だと思ったよ。丁度いい。適度に相手しながら此処に誘導しろ。折角だ、叩き潰してやる」
「了解しました」
「ビロード、ベルベット。準備しろ。今すぐクックルを動かす」
「えっ、でもまだ調整が……」
「それに起動試験もしていませんが」
「良いからやれ! 何、いざとなったら"コイツ"がある」
手に持った小型機械を見せびらかして子分たちを急かせば、急ピッチで起動準備が進められてゆく。
配線を通じ、マナが供給された後、培養槽の中身の薬液が排出される。
特型魔導装甲兵が目覚めるまでの様子を見て、マクスウェルは口元を釣り上げる。
「ああそうだ。僕が最強である必要なんてない。いつの時代も、英雄よりも英雄を従えられる奴が誰よりも優れているんだからなあ」
マクスウェルはその眼に童子のような期待を込め、執念に満ちた言葉を口にした。
◇
振るわれる武器を躱し、ルークは反撃の蹴りを兵士に叩き込む。
後ろを巻き込んで倒れる警備兵に目もくれず、ルークは一目散に通路を駆け抜ける。
その後をエステル、メニャーニャ、ヘルラージュ、ミアラージュ、アルフレッドが続く。
彼らの目的は内部へ突入し、マクスウェル及び一味を捕縛すること。マクスウェルへの逮捕権を行使するためにメニャーニャが同行している形だ。
薙彦とジュリアが正面で陽動し、ジーナは後詰めとして控えている。仮にマクスウェルが施設外に逃亡した場合、すかさず抑え込む役割だ。
外で騒ぎを起こせば騎士団や衛兵が駆けつけてくるだろうが、それはこの場所の正体を白日の下に晒すのと同義。突入するには絶好の機会であった。
「なあ、今更なんだけどよ」
「何?」
疾走しながら、ルークはある懸念事項について話す。
「マクスウェルやアプリコさんならいいが、ここにジェスターがいるかもしれねえんだよな」
ジェスターはアルカナと同じ白翼の一族。アルカナにはあっさり敗れたとはいえ、ルーク達からすればラスボスそのものだ。遭遇してしまえば全滅は避けられない。
「あるかもしれませんが、可能性としては低いですね。おそらくですが、ここは魔導鎧を置いておく場所です。式典と同時に待機させておいた兵士たちで宮殿を制圧するつもりだったのでしょう。重要拠点なのは間違いありませんが、その分敵に乗り込まれる可能性が極めて高い。先生が直々に乗り込んでくるリスクを冒してまでジェスターがいる理由はありませんよ」
「そうね。あの人、必要だと思ったら帝都の中だろうとブチかますだろうし」
「もしそうなったら?」
「建物ごと一帯が吹き飛ぶわね」
「やっぱヤベえなあの人!」
「同感ね」
ちなみにアプリコも同様の理由で除外できる。ルークの見立てでは、おそらく帝都中に潜ませた獣人たちと共に機会を伺っているに違いない。ここのような都市の中心部から外れた大きな場所よりも、廃屋や安宿などの目立たず市井に紛れる場所にアジトを構えているのだろう。そちらの炙り出しもできれば行いたかったが、商業区でハグレ王国が捜索を続けても見つけられなかった以上はどうしようもない。ひとまずは分かりやすい拠点を潰すことを最優先だ。
「ま、もしジェスターがいたら
「はわわ、出てきませんように……」
「お化け扱いかよ」
そうしている間にもぞろぞろと通路の向こうからやってくるホムンクルスたち。
多くは軽装だが、中には魔導型機動装甲具を着た兵士もいる。
「おっと、出てきやがった。ミアさんお願いします」
「はいはい。ほら、働きなさいアンタ達!」
ミアラージュが死霊たちを呼び出してのデスこっくりさんを発動する。
死の風に巻かれる兵士たち。魔導兵は含まれるマナを吸収しようとしたが、身体を痙攣させて倒れ込んだ。
魔導兵は傷の回復は速いが、毒や呪いなどの状態異常の治癒は遅い。さらには吸収系の攻撃にもめっぽう弱いことが発覚していた。ミアラージュの真ソウルスティールやゼニヤッタのダブル噛みつきなどによって動力となるマナそのものを完全に枯渇させた場合、魔導鎧は機能を停止し、ただ重すぎるだけの鎧となるのだ。
勿論そのためにはある程度消耗させないといけないのだが、止めを刺し切る以外の攻略法があるというのは実に心強いことだ。
「メニャーニャ、次は!?」
「角を右に曲がってください!」
「オーケー!」
あらかじめ間取り図を抜いていたメニャーニャ*1の案内に従い、エステルとヘルラージュが曲がり角を先行する。
そこには魔導兵が5人並んで立ち塞がっていた。彼らは一様に銃を手にしており、二人の姿を認めた瞬間に容赦なく引き金を引いた。
「ウィンドブレスト!」
「ファイアウォール!」
一斉に射出される鉛玉。
対して展開されるは魔法による二重の防壁。
風の壁で弾丸は勢いを殺され、続く炎の壁が弾丸を歪ませて役立たずに変える。
一流の魔法使いであれば、来るのが分かっている飛び道具はこうして防ぐことも可能だ。
「ほいっと」
弾幕が終わる刹那、兵士たちの足元にころりとグレネードが投げ込まれ、炸裂する。
魔導兵は轟音と閃光に目が眩み、その隙を見逃さずにアルフレッドの一閃が接合部を貫く。あるいは飛来したナイフがフェイスガードの隙間から突き刺さって沈黙させる。
「これで片付いたわね」
「そのまま直進してください!」
ルーク達の進撃は止まらない。
時折襲い来る兵士を蹴散らしながら、建物の中を進んでいく。
そうして突き進むことしばらく、彼らは突き当たりの通路に出た。
「あそこ、左の大部屋と思われます!」
「よっし、任せな!」
目の前にそびえる鉄扉を前に、エステルは両手に炎符を構えて直進する。
「バルカンフレア!!」
投げ放った術符が火球となって、扉へ直進して強烈な爆炎を上げる。
黒煙を突っ切った先は、精密な機械が配置された空間。
それらは今も尚稼働しており、ここが中心地点であるのは明白だった。
「随分と騒がしいな。人の部屋に入る前はノックをしろと教わらなかったのか? ゴリラですら礼儀は弁えているぞ」
呆れたような声が響く。
部屋へ入ってきたルーク達の正面には、マクスウェルが取り巻きを引き連れて立っていた。
「だがまあいい。僕は寛大だからな、お前たち相手でも歓迎してやろうじゃないか。ようこそ、僕の工房へ。お前たちが帝都の中を必死こいて走り回って探していた場所はここだよ」
「ようやく追い詰めたわよ。帝都で好き勝手しようなんて、この私が許さないわ」
「ヒュー! 流石は爆炎ピンク。まるで主人公サマじゃないか、カッコイー!」
気迫のエステルを前に、マクスウェルは嘲笑の賛美を浴びせる。
追い詰められた、というには余裕に溢れた振る舞い。それもそのはず、彼からすれば現状はピンチでもなんでもなく。むしろ待ち望んだ蹂躙劇がようやく幕を開けようとしていたのだから。
「オイオイ。ちょっとコイツ余裕がありすぎるっつーか、このテンション前にも見たぞ」
「どうせ虎の威を借りているだけですよ。最も、手勢を潰せばすぐにボロが出る程度の威勢しか晴れないでしょうがね」
「フン、イキがっていられるのも今のうちだ。
……見るがいい! これぞこのマクスウェル様が作りし特型魔導鎧だ!!」
その言葉に一同はマクスウェルの背後へと焦点が向き――、
佇む大きな影を見て、息を呑んだ。
2メートルを超える巨躯に、それを覆うは脈打つ鋼鉄の鎧。
携えるは機械仕掛けと思わしき巨大な両刃斧
頭部を覆うヘルムに輝くは『真理』の二文字。
これまでに相手にしてきた兵士たちよりも、ひと際大きな威圧感を放つ魔導兵がそこに立っていた。
「はっはっは! 言葉も出ないようだな!! そうとも。コイツは今までの雑魚どもとは訳が違う。油断してようがなかろうがお前たちの死は決定しているのさ!!」
「よっぽど自信があるようですね。改造でもしましたか?」
「勿論。兵器の出力を上げることは当然だからね。そして手を入れたのはそれだけじゃない。お前たちが相手にするのは最強のハグレが、僕の手によって生まれ変わった最強の兵器なんだからな」
「最強のハグレだと?」
「まさかあんた、別の世界からハグレを召喚して鎧を着せたってわけ!? 召喚人の解放とか言ってるくせに、随分と舐めた真似するじゃないの」
「何か勘違いしているようだが、コイツは元々いたハグレだよ。かわいそうなことに檻の中に10年間も入れられていたからな、僕が出してやってこうして装備も整えてやったわけだ」
「10年前? それって確か……」
「召喚術の全盛期ですよ。それで最強というのは……なるほど、反乱軍の残党でしたか」
ハグレ戦争において帝国の軍隊を手こずらせたハグレ達。
中でもひと際凶悪な存在は投獄されたと聞いていたが、それを引きずり出してきたということか。
……どうやら、あまり油断はできない相手のようだ。
緊張感を高めていくルーク達に、その反応こそを待っていたマクスウェルはその戦意がへし折れる瞬間に期待しながら彼らにある事実を突きつけた。
「精々頑張れよ? なんたってコイツは
「……は、はぁ!?」
驚愕を前にマクスウェルは悪辣な笑みをさらに深め、その
「さぁ、目覚めろ僕の最終兵器、
――魔導式殲滅機兵・クックル!」
鎧に刻まれた回路が緑色に輝く。
クックルと呼ばれた魔導兵はゆっくりを鎌首をもたげ、
耳をつんざく破壊の意志に満ちたけたたましい咆哮を轟かせた。
(真理っておま……)
(だっさ)
(自己顕示欲の塊ですねえ)
(恥ずかしくないのかしら……)
(なぜ真理……?)
(折角のフォルムが台無しだよ)