ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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その64.帝都動乱・三日目(2)

 戦闘の口火を切ったのは、やはりというかエステルだ。

 

 

ニャルブレイズ!

 

 

 我らが爆炎ピンクの炎が煉獄の如き勢いで殺到する。

 《ニャルブレイズ》は通常の炎魔法とは異なり、対象の周囲に留まって炎上し混乱を誘発する魔法だ。毒性のガスを発生させる《ガスクラウド》ではなくこちらを用いた理由は、相手の外見から耐久力に自信のあるパワータイプだと判断し、まずは攻撃の正確性を奪うことが重要だと考えたからだ。

 

 ……しかし、彼女の魔法はクックルに届く寸前で跡形もなく霧散する。

 

「うそぉ!?」

 

 実のところ、魔導鎧は魔法そのものを無効化してはいない。

 魔導鎧の仕組みは虚数魔法の術式を用いて分解したマナを吸収し、装着者の回復と強化を行う。そのためには一度魔法を受ける必要があり、軽減したダメージ以上の回復によって無効化を実現している。だからこそ状態異常が有効打となる。

 しかし、今のは魔法が届く前にかき消された。表面に油を塗った紙が水を弾くように、鎧の表面に刻まれた幾何学的な紋様が光り輝いて魔法そのものを拒絶した。これでは状態異常すら意味を為さない。

 

クルァァァァァァァ!!

 

 鉄仮面から覗く鋭い瞳が眼前の敵対者を捉えた瞬間、振り下ろされた斧は石造りの床を叩き割っていた。

 

「あっぶなぁ……」

 

 間一髪で回避したエステルはその破壊力に肝を冷やす。

 もしまともに喰らっていれば、彼女は脳天から真っ二つになっていただろう。

 

「チッ。すばしっこい奴め。さっそくミンチにできると思ってたんだがな」

「……その紋様は迷宮装甲ですか。ハグルマの対魔法加工を用いたわけだ」

「正解だよ。流石は期待の特務召喚士さまだな」

 

 クックルの後方から苛立ちの声が聞こえる。

 メニャーニャの推察通り、クックルが着る特式魔導鎧は神聖ハグルマ資本主義教団の青銅ゴーレム「タロス」の対魔法装甲と同じ仕組みが施されている。そもそもの話、魔導鎧自体がハグルマと共同開発したようなものであり、そこに新しく異界技術を組み込むことはさほど支障はない。その分機械を増設する必要があったが、強化されたクックルの膂力では大した問題にはならなかった。

 

 サハギン族の巣窟で同じ異界技術を目撃しているとはいえ、僅か一度の動作でその原理を見抜いてみせたメニャーニャの観察眼は優れたものだ。マクスウェルは知らずのうちに嫉妬を含みながら称賛を口にする。

 一方、メニャーニャはこの鎧の脅威を分析すると同時に問題点にも気が付いていた。

 

(確かに圧倒的ではあるが。元々の持ち味を殺しているんじゃないのか?)

 

 魔法を分解してマナを得ていたと言うのに、その魔法を受ける前に弾いてしまうなど本末転倒にもほどがある。大気中のマナを吸収しているとは言え、急速な回復や障壁に回す動力のほうがどう見ても大きいだろう。この矛盾に気が付いているのかいないのか。

 

「まあ、気づいてないんでしょうねえ」

 

 発想はいいのだが、そもそもの着眼点がズレていたりするのがマクスウェルという人間だ。これはもう性格と言うか、生まれ持った(さが)としか言いようがあるまい。

 

 とはいえこれらの問題点を指摘してやる理由もない。メニャーニャは得意げにしているマクスウェルを冷笑する。

 その態度を余裕と受け取ったのか、マクスウェルは眉間の皺を増やす。

 

「クソ。シノブやエステルもムカつくが。二人の後ろに隠れて人を食ったような態度をするお前も気に入らなかったんだよ……。おいクックル、そこの白衣を先に潰せ!」

クルァァァァァァァ!!

 

 咆哮するクックル。

 

 そこにルークが横合いから攻撃を仕掛ける。左手に備えたホビットの弓*1を惹き絞り、毒の塗られた矢を放つ。

 超小型の弓から放たれた矢は螺旋を描き、鎧の関節部分を貫こうとする。

 しかし矢は固い音を立てて弾かれた。どうやら装甲以外の部分も加工が施されているらしい。

 

「おっと、狙いはいいがコイツの装甲に穴はないよ」

「らしいな……」

 

 クックルの間合いの内側へ詰め寄ったアルフレッドが目にも留まらぬ三連撃を放つ。彼の刺突はリビングアーマーに大きな穴を貫通させるほどの威力を誇る。

 だが、魔法合金製の装甲を貫くには能わず。甲高い金属音が響いた後には、表面に浅いひっかき傷ができただけだ。

 

 クックルはアルフレッドへ斧を持たない左腕でフックを繰り出す。反撃を読んでいたアルフレッドはマインゴーシュでいなすが、拳圧で生じた風は必要以上にアルフレッドの身体を後退させた。

 

「……ッ!」

 

 受け流しきれない衝撃で手が痺れる感覚にアルフレッドは僅かに目を見開く。

 

(なんて力だ……)

 

 先日のがしゃ髑髏の薙ぎ払いを受け流した時よりも残る衝撃が強い。墓場でアドベラによって召喚されたあの悪霊の集合体は、アルフレッドがこれまで相手にしてきた魔物の中でも上位に食い込む手ごわさだった。

 だが、目の前の巨兵はその記録を無造作な一撃で塗り替えた。

 機械で補強されている分もあるだろうが、それ以上に中身の強靭さが無くては成り立つまい。

 

ウィンドブレスト!

 

 ヘルラージュが呪文を唱え、風の古神の加護がパーティ全体を包み込む。

 ルークは軽やかな動きでクックルの大ぶりな攻撃を回避する。

 魔法攻撃が通用しない以上、ヘルは援護に徹していた。

 

 だがクックルとていたずらに斧を振り回すだけではない。

 例え理性が消えていようとも、屈強なハグレの中にある闘争本能はこの弱敵を屠るために最適な攻撃を導いている。

 端から見ればただ暴れ回るだけの行為も、丸太の如く太い四肢で繰り出されれば竜巻にも等しい。

 

 薙ぎ払うように繰り出される斧。

 ルーク達は飛び下がって回避するが、その勢いを利用した回し蹴りと、もう一回転した斧の追撃が用意されていた。

 アルフレッドは間合いを計って回避。ルークもかろうじて捌いたが、斧の追撃がエステルに襲い掛かる。

 

「レイジングウィンド!」

 

 地表より巻き上がる烈風が斧を逸らす。

 回転の勢いを殺し切れなかったクックルは不意に重心が上に動いたことでバランスを崩し、斧はエステルの頭上スレスレを通り過ぎて行った。

 

「ひぃ~……」

「本人に魔法が通じないなら、他のところを動かせばいいのよ」

 

 ミアラージュはそう不敵に言い放った。

 もしかしたら武器には魔法無効化の力がないのではないかという仮定から行った行動は見事に的中した。

 体勢が崩れた隙にエステルが冥界で購入したよく伸びる杖で殴打するが、やはりアルカナとは杖の素材も練度も違うからかあまり効果は見られない。正直に言って焼け石に水だ。

 

「おいおいどうした? まさかそんな体たらくで僕を捕まえに来たとか言うんじゃないだろうね?」

「うるせえ黙れ、お前から先にぶっ殺すぞ!」

「おお怖い怖い。チンピラ崩れは威勢だけは達者らしい」

 

 ルークがドスを聞かせて中指を突き立てるが、はっきり言ってそんな暇はない。この遠距離からマクスウェルを殺す手段など既に20は考えついているが、実行に移せばアルフレッド一人に対応を任せることになるし、クックルがインタラプトする可能性も高い。

 クックルは巨体だが、鈍重ではない。筋肉とはすなわち脚力であり、体格の大きさはつまり間合いと歩幅の大きさだ。理性が飛んでいるせいで急な状況の変化への反応は遅れるが、極限まで発達した筋肉が生み出す速度は神速。ルークの反射神経とアルフレッドの俊敏性、どちらが欠けても拮抗は崩れるだろう。

 

「なあ、これいっぺん引いたほうがいいんじゃねえか!?」

「確かに、私たちだけじゃ決定打が無いかもしれないわね」

 

 何度も打ち合いを続け、一向に傾かない戦況に撤退の選択肢が見え始める。

 

 外にいるジュリア達と合流すればまだ対処の余地はある。

 デーリッチ達が駆けつけてくれれば勝ち目が見えてくる。

 生きて情報を持って帰れるならば、討伐の可能性はいくらでも出てくるだろう。

 

「とは言っても……こいつを放置するほうがもっとヤバいでしょ」

「はい。この魔導兵を止めなくては、どこかで被害が確実に出ます」

 

 居場所が割れたマクスウェルが大人しくするはずもない。

 ルーク達が退却して時間を与えてしまえば、その間にマクスウェルはクックルを帝都に解き放ち大規模な破壊テロに移るだろう。そうなれば被害を最小限に抑えるという目的は達成できなくなる。もし撤退するにしても、この魔導兵を機能停止に追い込まなくてはならない。

 

「どうにか一発、デカいの決めるしかないわね」

「それなら狙うは当然……頭よね。できるかしら? ルーク」 

「オーケーオーケー。死ぬ気で頑張りますよっと」

 

 有効打を叩きこむため、彼らは陣形を組みなおす。

 その様子を見てもマクスウェルは己の優勢を疑わない。彼は無限に調子に乗り続けている。

 

「よく足掻く。でもさ、気づいてるんだろ? コイツの腕力も防御もスタミナも、お前たちが全員分を軽く上回っているってことにさ!」

 

 

 クックルは無敵だ。

 魔法は効かない。物理は叩き潰す。

 あらゆる敵を正面から粉砕する、まさに夢の最強兵器。

 

 だから相手がどんな作戦を練ってこようが意味はない。

 そんな自信に満ちているからか、ルーク達の作戦についても特に注意を払わなかった。

 いや、注意したところで細かい指示を下すことはできないのであまり意味はないのだが。

 

 そして次の瞬間、マクスウェルは驚愕に目を見開くこととなる。

 

 痺れを切らして襲い掛かるクックルの前に、アルフレッドが立ち塞がった。

 クックルの猛攻を巧みな剣捌きでいなし、攻撃の手を自分一人に引きつけている。

 

 その間にヘルが圧縮された詠唱を一息で終える。

 禍神降ろし。物理アタッカーを超強化する大魔術を受けたルークが禍々しく力強いオーラを身に纏う。

 

 クックルの横へ回り込むルーク。

 目の前のアルフレッドに夢中になっているクックルはそれに気が付かない。

 

「クエイク!」

 

 見計らってミアが大地励起の魔法を発動する。 

 地形そのものを変化させる術には装甲も効果を為さず、足元を崩されたクックルの身体ががくんと崩れる。

 

「今です!」

 

 メニャーニャは今が好機だと合図を送る。

 ルークは跳躍し、クックルの丸太めいた太さの腕を蹴ってもう一度跳躍。

 

 

 狙うは一点。

 急所目掛けた会心の一撃。

 

 

 ルークはクックルの肩に着地し、その勢いのまま屈強な首筋へと刃を突き立てた。

 

「……くそっ」

 

 ルークは苦し紛れに悪態をつく。

 奇襲は上手くいった。上手くいったが、それまでだ。

 クックルが頑強なのは鎧だけではない。そもそも、クックルはほとんど生身でありながら剣も槍も矢も通さないような頑強さを誇る存在として暴れ回った男だ。その岩の如き筋肉は首も例外では無い。首の駆動部を覆っているミスリル繊維を切り裂き金剛のように固い皮膚を貫いた短剣は、しかし数ミリほど食い込んだところで止められていた。

 

「はは、クックルの頑丈さを侮ったな!」

 

 マクスウェルの嗤い声が聞こえる。

 ルークはさらに短剣を押し込もうとする。この回復力でどれだけの致命傷になるかは分からないが、少しでも大きな深手を与えるために力を込める。

 

ゴアアアアアアアアッ!(#゚∋゚)」

 

 クックルは煩わしそうに身をよじり、その巨体に圧縮された気を一息に解き放った。

 なんと凄まじき筋肉!

 

「ぐおっ」

 

 肩にしがみつこうとするルークだったが、筋肉の脈動に呼応して放たれた屈強なマナの圧力によって振り解かれ、宙に投げ出される。

 

「そら、早速一人脱落だ」

 

 空中で身動きの取れないルーク。

 クックルは獲物を捕らえた猛禽の如く目を細め、斧を振りかぶった。

 

「ごッ…………!」

 

 豪腕の一撃を腹部に受け、ルークの身体が吹き飛ばされる。

 その勢いはすさまじく、石壁を砕いて通路にまで突き出るほどだ。

 

「ルーク!」

「ヘル、あなたはアイツの側に行ってあげなさい!」

「でも、それじゃあ……」

 

 ヘルは当然ルークの側に駆け寄りたい。

 だが自分が欠ければクックルに攻撃を通す手段が無くなることも理解している。私情で戦況を傾けるわけにはいかないのだ。

 

「ここは私たちに任せて、ヘルちんは早くアイツの側に行ってやりな!」

「……ごめんなさい、任せました!」

 

 仲間の言葉で決意が固まり、ヘルは瓦礫を越えて姿を消した。

 

「おっといいのかな。大事な戦力を向こうに行かせてさ」

「構いませんよ。ルークさんの行動は確かに次に繋がりました。後は私たちでどうにかしますとも」

「……? たかがかすり傷一つ負わせた程度で、勝った気になられても困るんだよねえ」

「そうですか……それじゃあ、サンダー

「おいおいさっきの一瞬で忘れたのか? お前たちの魔法じゃコイツには効かないって……何ッ!?」

 

 メニャーニャが呪文を唱え、電光が迸る。

 対魔法装甲に阻まれるかと思われた雷は、ある一か所に吸い込まれてクックルを焼いた。

 

「私たちは先生みたいに力押しはできません。できることといえば、こうして隙間を作ってねじ込むぐらいしかとてもとても」

 

 首の関節部。その隙間に突き刺さっていたルークの短剣。

 クックルの体表面で唯一防護障壁の加護がないそれを避雷針のように扱うことで、内部に電撃を通すことに成功した。

 

 機械鎧の内部回路に強い電流を流し込んでショートさせる。それがメニャーニャの狙いだった。

 

■■■■■■■■■!?

 

 初めて上がるクックルの苦悶の声に、マクスウェルは狼狽する。

 まさか、まさかこんなところで敗れるのか?

 

 自分が手掛けた最強の兵器が。

 自らのものにした最強の生物が?

 

 バツン。と何かが弾ける音がして、クックルが沈黙する。

 見れば首筋の辺りからバチバチと火花が散っている。素人目に見ても機械がダメになったことは明白だ。

 

「……やったか?」

「先輩、それフラグです」

 

 

 刹那の沈黙。

 ごくりと誰かが息を呑んだ瞬間、クックルの眼光は鋭く光った。

 

 

ゴアアアアアアアアッ!

 

 

 再びの咆哮。

 脈動する筋肉。

 鼓膜を破りかねないその声には、限りない怒りの感情が満ちていた。

 

「げ、コイツまだ動くのかよ!」

「止むをえません、こうなったら一度体勢を……うわっ!?」

 

 メニャーニャの言葉は途中で遮られた。

 

 クックルは眼前に斧を叩きつけ――爆発が起こる。

 瞬間的に圧縮されたマナの解放。

 爆発の直撃は受けなかったが、エステル達四人は爆風によって部屋の端まで吹き飛ばされた。

 

「は、ははっ。驚かせやがって…。だがいいぞ、クックル! そのままあいつ等を踏みつぶせ!」

 

 突然の事に理解が追い付いていなかったが、すぐに調子を取り戻し指示を出すマクスウェル。

 クックルはその言葉にピクリと反応し、くるりと振り向いた。

 

「何ぼうっと突っ立っている!? 早くあのピンク髪どもを叩き潰せ!」

 

 いう事を聞かないクックルを急かす。

 クックルの表情はフルプレートヘルムに覆われて伺うことはできない。

 

 しばしの沈黙の後、クックルはゆっくりと歩き出した……マクスウェルに向かって。

 

 

「……おい? 相手が違うぞ。お前が潰すのは向こうの奴らだ、わかってるのか? 行けッ!」 

 

 だがクックルは止まらない。

 屈強な鳥人はどういう訳か自らの意志を持ってマクスウェルの方に歩いてきている。

 

 

「おい、忘れたのか? お前の主人はこの僕だ! なのになぜ言う事を聞かない!?」

「……あっ」

 

 その時、取り巻きのベルベットが何かに気が付いたように声を漏らした。

 

「なんだベルベット!?」

「いやあの、マクスウェルさん。大変言いにくいことなんですが……」

「何だ!? もったいぶらずに言え!」

 

 しどろもどろな取り巻きの様子にマクスウェルは苛立ちながら急かす。

 ベルベットは非常に言いづらそうにしながら、予想を口にした。

 

「さっきのメニャーニャさんの電撃……首筋に当たったんですよね? そしてそのまま魔導鎧の内部に流れて……。だとしたらそのう、魔導鎧に組み込んでいたクックルの思考を制御していた装置が破損した可能性が……」

 

 

 

「…………は?」

 

 

 

「つまり今、クックルはマクスウェルさんの制御下にないどころか、もしかしたら命令したことを怒っているのではないかと……」

「おい、おい……そんなバカな。ふざけんなよ!」

 

 クックルは自らを見世物扱いにした貴族に反乱したハグレだ。

 そんな彼を拘束し、あまつさえ上から目線で道具扱いしたマクスウェルは、何処からどう見ても憎悪の対象だ。そのことは分かっていたからこそ、マクスウェルは思考を制御する装置を取り付けたのだ。

 もしそれが何らかの要因で失われたら? 考えるまでもない。

 

「止まれ、止まれっ! 止まれって言ってんだよ!」

 

 必死の制止も虚しく、クックルは止まらない。

 

「ぼ、ボクはもうわかんないんです。なのでここは避難が一番なんです!」

「……すいませんマクスウェルさん。一応借りはこれで返したと言うことで、わかってください」

「は、はぁ!? 待て、お前たちだけ逃げる気か!?」

 

 ベルベットとビロードはスタコラと逃げていく。

 もとより弱みに漬け込んで従えた連中だ。こうなってしまっては、見放されるのは当然だったとも言える。

 

 運の悪い事に、解放戦線の幹部メンバーはこの場にはいなかった。

 

 ザナルは別のアジトに移動し、ジェスターもまた同様にどこかへと向かった。

 アプリコは……いたところでマクスウェルを助けるかも怪しい。

 

 使えるホムンクルス達は、当然だがエステル達に突破されている。

 

「く、……くそっ、こうなったら仕方ない。僕が殺されるなんて冗談にも程がある」

 

 マクスウェルは右手にある機械を見せつけるようにして言った。

 

「おいクックル、ボクの手にあるものがわかるか? これはお前の鎧を制御するためのリモコンだ。万が一の場合、このスイッチを押せばお前の着ている鎧が爆発するようになっている! 折角檻から出られたのに死にたくないだろ? だから僕の言う事を聞け!」

「…………( ゚∋゚)」

 

 勿論その言葉はハッタリだ。

 

 いや、自爆装置があるのは本当の事ではある。マクスウェルの持つリモコンのスイッチが押されれば、魔導鎧の動力源は過剰駆動し、オーバーヒート後もって五秒で爆発。屈強なハグレの身体を焼き尽くす。だが問題なのはその威力で、膨大なマナで駆動する鎧が自爆すればその影響は周囲にまで及ぶ。マクスウェルが安全を計るには、少なくともこの建物から出る必要がある。当然そんなものを悠々と見過ごしてくれる筈がない。

 だからこれはあくまで脅迫。流石に命を握っていることをわからせれば矛先を変えるぐらいはしてくれるだろう……。

 

 

 そんな甘い考えの返答は振り下ろされた斧だった。

 

「――え?」

 

 ぶしゃり、と鮮血が舞う。

 一拍置いて床に落ち、ごろりと転がる細いナニカ。

 その先端にはさらに五本の細かい棒が付いており、その中心にはスイッチのついたリモコンらしきものがある。

 

 それが失われた自分の右肘から先であることを、三度ほど視線を交互させてマクスウェルはようやく理解した。

 

「うわああああああああああ!? 血が、手が、僕の腕が!?」

 

 ぐしゃりとリモコンが腕ごと踏みつぶされる。幸か不幸か、自爆装置への信号が送信される前にリモコンはその生涯を全うしたらしい。

 

 何度も何度も。クックルの大きな足はマクスウェルの右手を執拗に踏み付ける。

 自分の腕だったものの骨が砕け、肉がつぶれる音を聞いて、マクスウェルは痛みに悶える暇もなく一目散に逃げ出した。

 

 

 

 肉のペーストを作り上げた後、クックルはふと周囲にあの男がいないことに気が付いた。

 

 理性は完全に消えているが、それでも彼の中には傲慢な弱者たちへの憎悪と憤怒が渦巻いている。

 それはもはや、長い投獄生活の中で組みあがった本能と言ってもいい。

 

 真新しい血痕が、通路の先まで続いている。

 そして僅かに走る音と、つい先ほどまで自分に命令を下していたあの貴族の男の情けない声が強化されてさらに鋭敏になった聴覚に伝わってきた。

 

 獲物はまだ、生きている。

 ならば、どうする?

 

「…………」

 

 野生の狩人の本能に従い、クックルは一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

「なんだよ……なんだんだよぉ! なんでこんなことになったんだよぉ!」

 

 全てが自業自得であることを棚に上げ、マクスウェルは喚き散らしながら走る。

 

 機関室を抜けて通路に出る。

 途中、戦闘不能になったホムンクルス達の中から息のあった者たちが何名か起き上がってくるのが見える。

 後ろからは壁の破砕する音が聞こえる。どうやらクックルは道中の障害物を無視してマクスウェルの跡を追跡し始めたようだ。

 

「おい、何を寝ているんだお前たち! クックルが、クックルが来る! 暴走しやがったあの野郎を止めろ!!」

 

 慌てて出した命令に、ホムンクルス達はほんのわずか怪訝な顔をするが、命令を遂行するべく彼の逃げ道を確保するべく武器を構えた。

 

 走って走って、ひとまずは撒けたか……。

 

 

 

「ふざけるな……ああくそ、僕の腕がどうしてくrKABOOOOOOOOMM!!

 

 

 

 直後、背後の壁が爆発と共に砕け散った。

 ばらばらと砕ける魔導鎧の残骸に、先ほどまで兵士たちだった肉片が撒き散らかされる。

 巻き上がる粉塵の中からゆっくりと進み出てきたその影は、ただ殺意に満ちた目でマクスウェルを見つめていた。

 

■■■■■■■■■!!

「うわああああああ! 来るなあああああああああ!」

 

*1
投擲装備。とても小さいらしい




はい。まだクックル戦は続きます。
というか三日目は大体クックル戦です。

感想、ここすきよろしくお願いします。
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