ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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遅れたンゴ
一部分で話が詰まる時は描写の順序を変えてみると上手く行ったりします



その7.人類史の彼方から

 発端は、一通の手紙だった。

 

『キーオブパンドラを返せ。さもなくば爆破する』

 

 これにより、秘密結社にも衝撃が走る。

 

「ば、爆破予告ですのーーーー!?」

 

 ハグレ王国、消滅の危機です。

 

 

 ◇

 

 

 ――ハグレ王国 拠点地下遺跡深部。

 

 召喚士エステルの活躍によって魔物の出現を止めた場所のさらに先。大部分が水没したそこは、未だに多くの魔物が蔓延っていた。

 とはいえ、魔物の多くは湿気の多い場所の例に漏れず雷属性が有効であり、それらが得意なメンバー達によって魔物を追い払いつつ、ハグレ王国は脅迫状の送り主の下へと歩みを進めていた。

 

「宝箱でち!」

「何だと!?」

「よっしゃ開けるぜ!」

「待て俺が先に様子を見る!」

「いやここはヅッチーに任せな!」

「何だと!?」

「こらこら、争わない」

 

 道中見つけた宝箱を最初に開ける権利を取り合う妖精とチンピラ。

 古代遺跡にどのような罠が仕掛けられているかは不明で、中にはデーリッチ達の常識に当てはまらないものもあるだろう。そこで遺跡探検の経験が王国の中で最も豊富なルークが斥候として同行することにした。

 ……とは言ったものの危険な仕掛けは特になく、現在までにルークがその腕を発揮する機会は訪れず、もっぱら近接アタッカーとしての仕事以外はなく、たまに見つけた宝箱はこうしてぐだぐだに取り合う始末。

 ぶっちゃけ、魔物相手だと奇襲とか考える前にゴリ押しした方が手っ取り早かったりするんだよねとはエステルの談である。

 

 

 あと道中でヤエちゃんとヅッチーがアイデンティティの奪い合いでじゃれ合ったりして、なんとも締まらない雰囲気で目的地へたどり着いた一行を迎えたのは、浮遊する椅子にどっかりと座る女性であった。

 

「ほう、手紙をよんですぐ来るとは、盗人にしてはなかなか素直じゃないか」

 

 その人物は自らを遺跡と化した古代人街と召喚鍵――キーオブパンドラの番人だと名乗り、さらに言えば古代に作られた千年以上前から現存している魔導ゴーレムなのだと言い張ってみせた。緑を基調としたボディスーツに身を包んだその姿は一見して人間にしか見えないが、よくよく観察すれば人形めいた関節部が見え隠れしている。

 

 とはいえ、突拍子もない情報を一気に浴びせられたローズマリーは混乱して曖昧な返事しかできなかった。

 

「はあ?じゃあお前ら何も知らずに来たってのか……?」

 

 これでは鍵もまともに扱えてないなと番人はあきれ返る。

 実際、デーリッチは結構フィーリングで扱っているので言い返せない。

 

「まあいいさ。せっかくだから歴史についてレクチャーしてやる」

「えー、デーリッチ達は鍵の件で……」

「はあ? 鍵だけ返してもう帰るってか?」

 

 人のもの盗んでおいてそれは虫が良すぎる話だろうという怒りはまあごもっとも。

 とはいえ、こちらも爆破なんていう脅しを受けたからやってきただけであり、その心配がないならこれ以上用もないわけで。

 

「いや、今後ともお貸し頂ければと……」

「ああ!?」

 

 図々しい物言いにさらに怒りを露にする彼女は、説教をすると言ってデーリッチ達を奥の椅子に座らせ、紅茶とお菓子の準備をし始める。

 

(あれ、これ歓迎されてない?)

 

 全員の思考が一致した瞬間である。

 

「え、どうするんすかこれ?」

「とりあえず大人しくしておこう……特に敵意はないようだしね」

「んじゃあ二人が話の相手をして。この件に関しての当事者は貴方たちでしょ?」

「それが無難じゃの」

 

 よく分からない雰囲気にマッスルが困惑する。ひとまず話に付き合おうとローズマリーは言った。デーリッチとローズマリーが応対をして、残りのメンバーは外野として口を噤いでおくことにする。

 

「もぐもぐもぐ……」

 

 そして並べられた茶菓子をお子様二人早速貪り始め、その様子を番人の彼女はどこか微笑ましく見つめ、そして口を開いた。

 

「さて、どこから語ったものかね――」

 

 そうして、彼女は語り始める。

 

 

 この世界が、人類が、どのようにして始まったのか――どのようにして、この世界が歪んだのかを。

 

 

 ……千と二百年ほど前。この世界にはヒトと呼べる生命は存在しなかった。動植物のみが存在する世界に、古代人と呼ばれる異世界の民が移民してきた。それが今この世界に生きる人間たちの祖先であり、彼らもまた広義の意味でハグレと呼べる存在だった。

 

 だが人間の歴史は千年以上あるというローズマリーは反論する。しかし千年前の歴史は曖昧に記述されているだろうと番人は言った。曰く、千年前よりも以前の詳細な歴史は捏造されたものであり、内容を精査すればそもそもここまで記録を残せるほど発達した文化ではないことは一目瞭然だろうと。

 

 ではなぜそうなったのか。それは古代人たちが元の世界において溢れた人口問題を解消するため、新天地として別世界へと移住する計画を建てたからだ。

 そうして彼らは世界と世界の間の次元に孔を開け、生じたマナの流れを利用してこの世界へとやってきたのだ。

 

「つまり……ファンタジーと見せかけたSFものだったわけね!」

「うん、お主は黙っておれ」

 

 ぶっちゃけ古代文明が発展しているファンタジー物は大量にあるだろうというツッコミもあるが、そもそもこの世界が現状ジャンルのごった煮であった。

 

「それが本当だとすると、私達は全部――ハグレだの、人間だの言い争ってますが、元々、全部同じハグレだったってことですか!?」

「滑稽だろう?」

 

 この世界の宗教が破綻する事実に戦慄するローズマリーに対して、くけけと意地の悪い笑みを番人は浮かべた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 それからもあれやこれやと衝撃の事実が明かされながらも話が終わり、これからどうすると言った話し合いが行われている中。少し下がったところではヤエとルークが暇つぶしとばかりに駄弁っていた。

 

「エステルやマリー、結構衝撃を受けているみたいね」

「まあ、これまで生活を支えてきた価値観が崩されれば、誰だってそうなるさ」

「その割にはあんたは動じていないみたいだけど?」

「あいにく、俺はそんなの気にしてられるような生活は送れなかったのでね。……というか、やっぱり()()()は俺たちと同じなんだな。知ってたのか?」

「わざと隠してるわけじゃなさそうだし、言わなくてもなんとなくわかるものよ。特に私とかはね」

「お得意のテレパシーってやつか?」

「ふふ、どちらかと言えば真実を見抜くサイコアイの力ね」

 

 あちらが聞いているかどうかはわからないが、一応気を使って内容をぼかしておく。

 

「……ま、そういうのもあるけどさ、こっちはハグレとそれなりにつるんできた。そんな中で過ごしているとあることに気が付くんだ」

「何に?」

「簡単な話さ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()っていう、そんな当たり前の事にだよ」

 

 美味い飯を食えば笑い、酒を飲めば酔っ払う。

 悲しみ、怒り、喜んで、そして些細な事で死んだりする。

 

「俺たちもハグレも同じヒトでしかない。差別なんかするよりも、これぐらいの気持ちでいたほうが楽に生きれると思うぜ俺はよ」

「……そうね。でもそのことに向き合えるほど心は強くないものよ」

 

 どこか悟ったような目で語るルークにヤエは感心する。彼女が見てきたこの世界の人間の中で、彼はこれ以上なくハグレへの接し方がマシな方だったからだ。

 

 結局のところ、自分と他者を区別する要素など、自己防衛のための記号以外の意味はないのだろう。

 そのことを理解できる人間は少ないが、ハグレ王国が大きくなれば、或いは――、

 

「ヅッチー達は妖精で福ちゃんやティーティー様は神様だけどなー」

「言葉の綾だっつの!」

 

 余った菓子をこっそり食べていたヅッチーが茶化し、シリアスが中和される。

 

「というか、あんた結構ぶっきらぼうな喋り方するわよね。やっぱりそっちが素?」

「まぁな。丁寧な喋り方のほうが何かと都合が良くなるんだよ。ほら、どれだけ身なりを固めても、口を開いて台無しじゃ恰好がつかないでしょう?」

「えー、別にそんな気を遣う必要ねぇって」

「ぶっちゃけ胡散臭いわ。詐欺とかやってそう」

「全身ピチピチスーツで頭に目玉焼き乗っけた自称サイキッカーには言われたかねぇ」

 

 余り者が適当に話をしていただけなのだが存外話が進む。奇天烈な女だと思っていたが、中々話が合うじゃないかとルークはヤエへの評価を内心で上げる。ハグレ云々で差別はしないが、それでも王国民とそれとなく距離を測っているのはお見通しだったらしい。

 

「そういやさ、ヘルちんもこっちの人間だろ? でもハグレの事は大して気にしてないよな」

「……深く考えてないだけですよ。もしくは、そもそもハグレとは離れた生活を送っていたのどちらかかと。育ちの良さがにじみ出てるんだよ、彼女」

「ふーん。もしかして世間知らずのお嬢様ってやつ? そんでルークが彼女を言いくるめてたぶらかすチンピラっと」

「誰がそんな事言いましたかねえ!?」

 

 実際、ヘルラージュが世情に疎く生活力ZEROなのは確かであり、冒険者として組んでいた頃はあっという間に所持金を好物のスイーツに当ててすっからかんにしてしまうことから、財布の管理にはルークの方が頭を使っていたりするのだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 そもそもの話。

 古代の番人――ようやくわかった名前をブリギットと言う彼女がスリープモードから復帰したのは、トゲチーク山地下に存在する古代文明の住居区画にて異常な数値のマナ濃度が検出された結果警報が鳴ったからであり、その確認のためにブリギットを連れてハグレ王国は調査へと向かう事となった。

 

 そして翌日。トゲチーク山の地下にゲートを開いて突入したデーリッチ達は、ブリギットの案内の下、居住区画跡を探索していた。

 

「ところで、ブリギットさんよ」

「あん、どうした(あん)ちゃん?」

 

 そんな中、ふとルークが口を開く。

 

「古代人が地下に潜ったと言っていましたが、もしかして海底にも都市を作った奴らがいたってことですかね?」

 

 質問に対して、ブリギットはポリポリと頭を掻くといういかにも人間らしい仕草を見せた。

 

「あー、どうだろうな。俺は移民計画の後期に作られた個体だからな。そういう、他の連中がどうだったとかの知識は入ってねえんだわ。だけどまあ、色んな方法を試したって言ったよな。その中には海底に居住しようとした奴らがいてもおかしなことはない。……まあ、さっきも言ったが人間はお日様の下じゃねえとまともにいられねえんだ。よっぽどのことがなけりゃここの連中と大体同じ結末だろうよ。けどよ、何でまたそんな事を聞いたんだ?」

「あー……そうですね。俺は何度かこういった遺跡には潜ってるんですが、その時に昔の仲間が言ってたんですよ。『遺跡はあたしの街と空気が似ている』って。んでそいつ、海底にある都市から脱けてきたとか言ってたのを思い出したんですよ。まあお互い大した詮索とかはしない方針だったんで今の今まで忘れてたんですがね」

「――――。」

 

 その言葉に対してブリギットは少し考えこむ仕草を見せ、

 

「ルークとか言ったな」

「はい?」

「お前、中々貴重な体験してるぜ。それこそ、この世界の誰よりもな」

「……はあ」

(さて、こいつの話が本当なら、()()()()()()()()()()()()()ってことなんだろうけどさ……ま、俺が気にしてもしょうがないか)

 

 思いがけない報せを聞き、古代人形は昔に思いを馳せるのだった。

 

「んで、どんな奴だったんだその仲間って」

「えーと、紫の髪に褐色肌、尻尾があって鹿みたいな角が生えてた。右は根元から折れてたが、喧嘩の名残だとか言ってましたね」

「……人間なのか?」

 

 

 

 

 異常なマナ濃度が検出された原因は、マナを含んだ水を散布する機械の出力が限界で固定されていることによって引き起こされた飽和状態であった。

 さらに奥へ進んでいくと、起動させられていた古代兵器が立ち塞がった。

 

「でりゃー!」

「せいやぁ!」

「バルカンフレア!」

 

「ピーガガガー!?」

 

「よっし倒した!」 

「端的すぎない?」

「いいんだよ。一々ただのボス戦を描写しても仕方ねえからな」

 

 弱点を突いたパーティで防衛用ゴーレムを蹴散らした一行。

 

 マナウォーターの貯水槽を開くと、そこはマナジャムの農地へと改造されていたのであった。

 エステルは一連の現象はシノブが行ったものであると確信する。

 確かに地下にいたのならば彼女が駆けつけられたのも説明がつく。

 ではなぜ古代兵器まで動かしていたのか?

 

「ん、これはなんだ?」

 

 何かないかと上の階層でガサ入れを行っていたルークが、壁に描かれたあるものに気が付いた。

 

 円と線で形成された、鳥を抽象化したものであるように見えるそのシンボルは、よく見てみれば部屋の景色から浮いており、不自然極まりなかった。

 

「何だそりゃ? そんなただのラクガキなんざ……!? 待て、こいつは……」

 

 一笑に伏そうとしたブリギットは何かに気が付いたのか一転。模様に近づき、そっと指でなぞった。

 向き直り、一同に見せつけた指は、黒く汚れていた。

 

「やっぱりだ」

「インクが…!?」

「ああ、こいつは昔に描かれたものじゃない。ここにいた奴が残していったメッセージだ。それも濃いマナの反応がある。さっきのマナの実を潰した液体で顔料でも溶かしたか?」

 

 経年でこびりついたのではなく、最近になって描かれたものであるために湿気の多いこの場所では乾燥しきっていなかったのだろうと推理する。

 

「となると、これも古代言語で……?」

「いや、これは知らん。ただまあ、こうやって目立つように書いてるなら自分たちが先に入ったことを示すための目印か何かだとは思うが――」

「……違うわ」

「エステル?」

「これはラクガキなんかじゃない。……白翼の紋章。先生だけが使う星属性の魔法陣。きっと、あの人もここにいたんだ」

 

 以前、シノブと再会したときに交わした言葉。

 

 協会を抜けたというシノブに、エステルは大丈夫かと心配する。

 後始末は済ませたと語るシノブは、続けて言った。

 

――先生も助けてくれるから心配しなくていいわ。

 

 連絡を取り合っている、と彼女は言っていたが、それだけではないとエステルは確信する。

 彼女の師――星術士アルカナがシノブと共に、何らかの暗躍をしているという事実に――、

 

 

 

 

「へっくち!」

「うわっと、汚いですよ」

「すまんな。ずずっ……誰か私の噂でもしたか?」

「知りませんよ……はい、これが値段です」

「ふーむ……ちょっと高くない?」

「元々私達用にしか生産していませんから。これでも譲歩した方ですよ?」

「だよなあ。こっちで栽培できるのが一番なんだが、マナを潤沢に含んだ水なんて中々。あそこは通い詰めには物騒だったし、機材運びのために転移陣をいちいち起動とか面倒だからなー」

「結局私達に頼ることになったわけですね」

「……もしかして次善策にしたこと怒ってる?」

「何の事でしょう?」

「(拗ねてるな……可愛いやつめ)ま、これで契約しようじゃないか。効能を知ればいくらでも経費で落とせる」

「はい。ありがとうございます」

 

 場所は妖精王国。

 執務室にて向かい合うのは青髪の女性と白髪の女性。

 

 片や妖精王国代理女王。

 片や召喚士協会の古株。

 

 それなりに威圧感すら放つ二人の女性は軽口を混ぜながらマナジャムについての取引を行っており、どうやらひと段落がついたようである。

 

「おおおお!」

「へもげー!」

「おお、やってるやってる」

 

 ふと、外に目をやれば妖精達が陣形を組んで魔法や弓矢を放つ訓練をしている。

 ただ陣形を組んでいるだけではなく実戦を意識した軍事訓練であり、相手役を務めている大柄な冒険者は巨大な武器を手に妖精達の攻撃を突破して薙ぎ払っていた。

 

 ひゅんひゅんと体躯以上もある戦斧を振りまわし、安易な射撃を牽制する男に、妖精達は攻めあぐねていた。

 

 そこにやってきた二人に気が付き、男が武器を収める。

 張りつめた雰囲気は解け、妖精達は地面にへたり込んだ。

 

「おっお、話は終わったかお?」

「ある程度は。そっちはどうだい?」

「……妖精って成長早いおね。昨日より魔法の威力がワンランク上に上がってたお」

「そりゃ全身マナみたいなものだからね。魔力効率を改善してやれば上達もぐんぐんよ」

 

 それなりに疲労した様子を見せる男にアルカナは笑う。

――事のあらましを説明しよう。

 

 しばらく前のこと、シノブとの連絡を取り合う中でアルカナは妖精王国の事を知り、単身妖精王国へと向かい、プリシラとの会談の席についた。

 マナジャムについて実際に目にしたアルカナは、自分に売ってくれないかと提案する。

 だがマナジャムは生産を始めたばかりであり、妖精達が摂取する分で精一杯でありとても外部への販売などできないという状況だった。

 

 それでは仕方がないということでお開きになるところ、アルカナがプリシラにある提案を持ちかける。

 

「強くなりたいんだって?じゃあ私が見てあげようじゃないか。

 なあに、私は君みたいな頑張っている女の子を応援するのが大好きでね。

 心配はいらん。独学で学ぶよりも充実した鍛錬計画を建ててやろう!

 あ、その代わりでいいからマナジャムできたら頂戴ね」

 

 要は自分達の技術を教えるのでそっちの技術も教えてという取引であった。

 この時点ではほかの妖精と余り差が無く、気弱でもあったプリシラは勢いに押されてその提案を思わず承諾してしまう。

 

 こうして軍事顧問の座に獲得したアルカナによる、鍛錬という名の妖精王国増強計画が始まった。

 

 まず妖精達がマナを効率的に扱えるようにするためにアルカナは自身が用いている天体航路理論――人間の体である小宇宙を実際の天体図に見立てて魔力を循環させることで、二倍三倍にと魔力を増幅させる*1という霊子星術の基礎を教え、妖精達の戦闘力を向上させようと試みた。

 

 結論を言うと、成功した。

 肉体をマナで構成している妖精は生まれつき魔法を扱う力に長けており、人間とほぼ同じ形をとっていることから、この方法は相性が良いと考えていたが、

 それを証明するようにプリシラは魔力循環を身に着け、以前とは比較にならない魔力を操ることができるようになった。

 ただ相性が良いとは言え、それは上級召喚士でも一握りが習得できるかできないかという高等技術のため、モブ妖精は五人程度が良い所まで行ったという結果に終わった。

 

 そうして理論を学んだ後は、魔法なんて後は使って覚えるしかないということで、実戦形式で鍛えていくことになった。

 

 とは言ったものの、アルカナは魔法タイプの戦闘である。現在妖精達が必要とする集団戦闘の技術を教えるには分野が違っていた。

 じゃあどうすればいいか?

 簡単である。

 

「戦闘の達人は冒険者よねーってことでよろしく」

「いきなり呼びつけておいて何言ってるんだお(;^ω^)」

「ええー、じゃあ可愛い女の子たちと触れ合えるし請け負ってくれるならプライベート温泉も使用できるぜ?」

「謹んで受けさせていただきますお」

 

 そうしてアルカナが連れてきたのが冒険者であるブーンである。

 彼はアルカナによって召喚されたハグレの一人であり、この世界では冒険者兼傭兵として名を馳せる戦士として生きていた。

 温泉の誘惑に釣られて戦闘訓練を引き受けた彼は多種多様な武器を匠に操り、様々な相手への対策を妖精達に叩き込んでいった。

 

 そうして仕事を押し付け……もとい分担したことで余裕ができたアルカナは自分でマナジャムの栽培ができないかと試行錯誤していた。

 時にはシノブが廃棄した地下遺跡の農場を活用できないかと単身乗り込んでみたものの、計器の操作に不具合が生じた、そもそも行き来が魔物だらけで面倒臭いなどの理由により断念せざるを得なかったのである。

 置き土産とばかりに自分のサインを壁一面に書き込んだ彼女は妖精王国へ戻り、プリシラとマナジャムの商談を改めて行っていたのである。

 

 

 ――そんな訳で、現在に至る。

 

「すごいよプリシラ、私達強くなってる!」

「これならヅッチーにも勝てるかな!」

 

 レベルアップを体感してはしゃぎ回る妖精達。

 

「……いいえ。ヅッチーの強さはこんなものじゃなかったわ」

「えーっ、だってこんなに強くなれんだよ。もうヅッチーだけが強いんじゃないんだよ」

「それでもよ。私達が鍛えている間もヅッチーはハグレ王国で強さを磨いてるに違いないわ。

 ……そう、ハグレ王国で」

 

 まだまだと強さを求めるプリシラに対し、ぶーぶーと不満を口にする妖精達。

 

「ふーん」

「どうしたんだお?」

「いや、生き急いでるなあってさ」

 

 出会った時と比べ、プリシラという妖精は身体的に成長したが、精神もがそれに伴ったかというとそうではなく、この成長は急速なものであったとアルカナは思い、少しばかりの危うさを感じていた。

 だが、その危うさを解消するのは自分ではないと考え、干渉はしないつもりだ。

 

 彼女の物語に、アルカナという存在は必要ではない。

 私ができるのは、その道行を見守ることぐらいだ。

 

「ああそうだ、しばらく戦闘訓練は中止だとよ」

「どうしてだお?」

「ザンブラコでの活動に本腰を入れるんだと。このまま温泉は使わせてくれるそうだから休暇といこうじゃないか」

「おっお、それはいいおね」

 

*1
毎ターンのMP回復




教えてアルカナ先生のコーナー

Q.なんで妖精王国鍛えてんのこの人?
A.「すごい技術持ってるのに帝都に乗っ取られたら使い潰されるの確定じゃん?だったら強くして発展させたほうが益だよね。あと合法的にちっちゃい女の子と触れ合いたい!!!!」

Q.エステルさんシリアスしてる件について
A.「シノブが関わってたからエステルも来る可能性はあるかなー程度にしか考えてなかった」

Q.キャラ増やし過ぎでは?
A.「安心しろ、どうせオリジナルパートでのゲストが八割だ」

新キャラ紹介
ブーン
アルカナが召喚したハグレの一人。
大柄で温和な性格をしている。
籠手や戦斧、果てはよくわからない力を操って戦う。

元ネタはブーン系小説。

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