遅筆で申し訳ない。
追加ダンジョンの攻略に専念していました。おかげで意欲も湧いてきました。
最後のやりこみダンジョンが実装されたので未プレイの方もこの機会に是非。
『式典、その直前にて』
式典開催まで数刻。
活気に満ちていた帝都は、打って変わって静寂と緊張に満ちていた。
それ自体は毎年のものだ。だが今回は例年に増して空気が張り詰めている。
それもそうだろう。
魔物召喚。暴徒騒動。その他多数の犯罪組織の検挙。
これまで祭り騒ぎの喧騒の裏で行われていた数々の戦いの総決算。最も激しい戦いが予想されるといって過言ではない。
騎士団、冒険者、傭兵。
衝突に備え、今日この時に雇われた戦士たちは気を引き締めている。
そしてこれまで帝都周辺の哨戒に当たっていたブーンも同様に、衛兵詰め所にて装備の最終確認を行っていた。
「ブーン」
そこへ声をかける女がいた。
言うまでもない。彼の召喚主にして雇用主。この式典の防衛に際しての問題解決を委任された召喚士協会の実質的な主導者アルカナだ。
いつになく真剣なその声色に、ブーンは少しだけ眉を動かす。
この女傑は大体の状況において余裕を持っている。デーリッチが異世界に遭難した際すら、助けられるという確信をもって振舞っていた。
ここまで余裕を無くした様子は、それだけで異常事態だ。
「どうかしたお?」
「ヴィオからの連絡がない。予定時刻一時間オーバー。この意味はわかるな?」
「――、そうか。ならば腰を据えなければならないおね」
ロマネスクとはかつての世界からの仲。仕事は確実にこなす男だ。意味もなくボイコットをするはずがない。つまりは備えていた
「襲われたか、深入りしすぎたか。つながりは途切れていないからまだ死んではいないのだろうが……」
アルカナと彼女が召喚した三人の間には一つの
占星術を扱うが故か、『縁』というものを人並み以上に感じとるアルカナだけが感じることのできる希薄なラインではあるものの、それでもアルカナが直々に世界の壁を越えて繋いだ運命の糸が存在する。
それがまだ途切れていない、ということはロマネスクの生存は証明されている。
だが予定していた時刻での連絡がないということは、彼は身動きが取れない状態にあるということだ。ブーンはその中でも最悪の場合を想定する。
「捕まってると思うかお?」
「……半々だな。奴にもハグレ達を動かすための大義名分がある。同じハグレであるヴィオを表立って捕虜や人質にはできないはずだ」
「希望的にすぎる観測だおね」
「仮に人質だった場合、私は彼を切り捨てなければならないからね。そっちの想像はあまりしたくないんだ」
アルカナの行動方針、今回の目的は式典を問題なく完遂させて帝都とハグレ王国の友好関係を築くことであり、そのためにやむを得ない犠牲が生じる可能性は受け入れている。それは長年の時を経て絆を育んできた戦友であっても変わらない。悩んで悩んで悩みぬいた末に、最後には切り捨てる道を選ぶ。
だが、それは決してアルカナが冷徹ということではない。
当たり前だ。十年以上も共に過ごしてきた戦友。そうそう気軽に動けない自分の代わりを何度も務めてくれた右腕と言ってもいい。それだけの信頼を置いてきた者を苦渋の末に見捨なければならないかもしれないのだ。
反則と言ってもよいほどの強者の弱弱し気な姿に、ブーンはどんと広い胸をさらに広く張った。
「大丈夫だお。ロマは生きて帰ってくるお。僕たちはできることを最大限やるだけだお。今までだって、君はそうして色んなことを乗り越えてきたじゃないかお」
「……なかなか気楽に構えるじゃないか」
だがその様子に元気づけられたのも確か。彼の大らかさ、肝の太さは昔から頼りにしてきた。アルカナの楽観さも、元をたどれば彼譲りなのだ。
帝都に入り込んだ尖兵を倒し、マクスウェルが保有する魔導兵の軍勢を潰し、さらにはそこから解放軍と繋がる貴族のいくつかを摘発した。
人事は尽くした。あとは天命をどれだけ自分たちの方へ手繰り寄せられるかの勝負だ。
アルカナはぴしゃりと頬を一つ張って気合を入れなおし、その場に集った傭兵たちに大声で呼びかけた。
「やあやあ君たち。よく今日は集まってくれた! 聞いているだろうが今回は例年よりも抵抗勢力が激しい。昨日の今日で知っているだろう。解放戦線はハグレの戦士を集めている。君たちの役目は突っ込んでくる馬鹿を絶対に通さないことだ。そして聞くまでもないことだが、ここで怖気ずく臆病者はいないな?」
「勿論だお!」
ブーンが威勢よく巨大な武器を掲げる。
それに続いて各々の得物を掲げる傭兵たち。
「ようし! それじゃあいよいよ開幕だ。クソ野郎どもが出てきたら容赦なく追っ払え!」
◇
『開幕』
帝都城門前中央広場。
慰霊碑の建てられたそこには、多くの帝都民が参列しており、帝国騎士団がそれを一定以上のラインから先へ入れぬよう、バリケードを並べて空間を仕切っている。
そのラインの向こう側、国賓の席には様々な国の使節が控えている中に、ハグレ王国の国王と宰相としてデーリッチとローズマリーは並んでいた。
ハグレ王国は拠点遺跡に住む仲間全員が国政に関わっているようなものだが、対外的な交渉の場においてはやはりこの二人が権力上のトップとして扱われる。
他の面々は一般参列者と同様の場所に参列するか警備に回っており、他に彼女たちが見知った顔ぶれは妖精王国代表のヅッチーとプリシラ、獣人側からマーロウ。そしてエルフ王国の王女リリィとその側近クリストファーだ。割と結構いた。
プリシラはさっそく他国の使節たちと何らかの取引と思わしき会話を繰り広げており、リリィはエルフ特有の高貴さによる近寄りがたくも神秘的なオーラを発している。
そうして一角の存在感を持った女たちはともかく、見た目はただの少女でしかない二人はいくら正装に身を包んでいるとはいえ、いささか場違いであった。
「なんだあの子供たちは、どこから迷い込んだ」
「確かあれはハグレ王国とかいうらしいですな。なんでも半年ほど前に立ち上がったハグレ達の国だと」
「あんな幼い子供が国王とは冗談ではないか?」
「どうせお飾りですよ。いくらハグレの寄り合い所帯が国などと息巻いたところで……」
品定めするような好奇の視線。
所詮は子供だと侮る声。
ハグレが集まっていることを危惧する者もいる。
「やっぱり侮られるな……いかんいかん。気にしたらいけない」
それなりに名が知れ渡っているとはいえ、国として評価を受けるにはまだまだ功績が足りない。
肩身が狭くなるローズマリーの心境を思いやってか、デーリッチは自分たちの王国を軽んじる戯言を一蹴する。
「そんなの好きに言わせておけばいいでちよ。どうせこそこそ言うことしかできないんでち。後からハグレ王国の素晴らしさに気づいて平伏するんでちよ」
「デーリッチ……!」
「そして毎日プリンを献上しにきたらいいな」
「…………」
株が乱高下する王様だった。
「――皆様。式典の時間となりました。これより皇帝陛下の入場でございます」
アーサー右大臣が開始の宣言を告げる。
場の空気が一斉にしんと静まり返り、その場にいたすべての参列者の視線が一つの方向に注がれる。
広場の北。王宮区より儀仗兵が楽器を打ち鳴らして進み、その後ろに騎乗した騎士団が行進。その隊列の中央には近衛兵で囲まれた豪奢な馬車。そこに皇帝ユーグレア3世は座している。
「あれが帝国の皇帝か、実際に見るのは初めてだな……」
「年々顔に無理が出てるのに、よくも頑張るものね」
リリィが指摘するように、老年期に差し掛かろうとする皇帝の顔には隠し切れぬ心労が見える。それは十年前の混乱からいまだに立ち直れていない帝国の在り様でもあった。
その後ろにはシャルル皇太子を始めとした王族とその家臣が続く。その脇を騎士団が一糸乱れぬ統率で固めているが、その様子を見る軍務大臣カーチスとジャスティス公爵の表情もまた疲れ切っていた。
「ああ、あれがアルカナさんの言っていたジャスティス・ヒルベインですね。どうやら彼、シロだったらしいですよ」
「要するにただの脳筋だっただけよ。自慢の騎士団を増強するために、解放戦線を自力で追い返して功績を示したかったらしいけど、結果はご覧の通り。市街地の警備をケチるからね」
「いやあ、アレが相手じゃあ何人いたところであまり変わらなかったと思うけどね……」
とはいえ、一部隊がハグレ一人にズタボロにされたという事実は大きく、そのせいで騎士団は見かけ上は堂々としているが内心の士気は低い。召喚士協会の開発した新兵器の武力は心強いが、推している騎士団の株がこれ以上下がるのも避けたい。かくなるうえは式典の完遂を以って、騎士団のメンツを保つ必要がある。
(来たか……)
そんな内情の渦巻くパレードを、他の王国民の誰よりも離れた場所、広場を一望できる高層建築物の屋根の上でルークは眺めていた。
彼の役目は周囲の哨戒と狙撃手の排除だ。
式典の内容は勝利と平穏を祝うパレード。そして戦死者を悼むための黙祷を行い、その後いくつかの演説を経て終了とする。
まず警戒するべきは暗殺だった。解放戦線が仕掛けてくるならパレードの後、慰霊碑の前に皇帝が上がる時。暗殺の効果が最も高まる瞬間を狙ってくるだろう。
(狙撃できる位置に怪しいやつは……いないか)
それを受け取ったのは警備隊の総監督を務めるメニャーニャだ。
(そのまま警戒を続行……と)
メニャーニャは簡潔に返事を済ませると、何気なく顔を前に上げた。
今のところ、式典はつつがなく進行している。
広場周辺の狙撃ポイントとなりうる部分はおおよそ洗い出した。
参列する帝都市民の周りは傭兵隊が見張り、王族を騎士団が護っている。特に民間人が近い正面はジュリア、ブーンと歴戦の傭兵揃い。衛兵の巡回ルートから外れる場所はルークや柚葉のように身軽な者たちが順次見回っている。
外部からの侵入には外壁に召喚士と妖精の混成部隊が睨みを利かせ、新型大砲に加えて奥の手の魔導兵器が各門に二基ずつ配備されている。さらにそれら召喚士隊にはシノブが参加しているという脅威の体制。魔導鎧であってもこれを強行突破するのは難しいだろう。
そして肝心の皇帝の近くにはアルカナが直々に護衛を行う。宮廷魔術師や将軍の並ぶ横は『衛星帯』による自動迎撃の適用範囲内。もし狙撃が来るならそこから迎撃するつもりだった。
「壮観ねー。この大陸で一番の国なだけはあるわね」
「うむ。催事はド派手でなくては民草の活気だけでなく他国に対する沽券にも関わるものじゃからな。どれだけ無理があっても見栄だけは張らなければならん」
「だからここまでガッチガチの警備体制ってわけね」
「暗殺騒ぎ自体は毎年あるらしいからな。わらわのドリンピア星もそこまで荒れてはおらんが、賊に対する備えはガチガチじゃったしな」
何気ないヤエのぼやきにドリントルが実感のこもった言葉で返す。
「お姫様はいうことが違うわね。経験則?」
「こちとら星間国家じゃぞ? 革命も反乱も大体どこかの星で起こっておった。……考えてみれば、ドリンピア星も王室は陰謀バリバリやっとったわ。本当によく逃げ延びられたなわらわ」
「中々物騒ね……。ま、その分スペースヤエちゃん編での活躍が増えると思っておきましょう。で、どうなの実際?」
「いくらここの作者がEXエピソードをいくつか考えているとはいえ、お前の主役話はないぞ?」
「そうじゃなくて! いやそっちも欲しいけど……解放軍、このまま大人しくすると思う?」
「そんなわけないじゃろ。アルカナ殿も言っておったが、連中にとってもこの日が本番じゃからな。どういう状況でも突っ込んでくることを考える。例えば、自爆覚悟で突貫してくるものがいれば警備の頑丈さも意味はない。こういう時は集団よりも少数のほうがかえって恐ろしいものよ。それらに照らし合わせて言うなら――」
ひと悶着は起きるぞ。と言うドリントルの言葉通り、状況は大きく動き出していた。
「……うわあ、マジかよ。アルカナさんの予想通りになりやがった」
高所から見張っていたルークは、いち早くそれを目撃した。
赤いマントに身を包んだ壮年の男性が帝都の東から進んでくる。その後ろに付き従うのは複数の亜人。
ほんの十数人で構成されていたその列は、次第にわき道から幾人ものハグレが合流してきたことで、広場の前にたどり着く頃には数倍に膨れ上がっていた。
あれはおそらく、帝都内に潜りこんでいた解放軍の部隊だろう。
「こりゃまずいな……報告報告……っと」
一切隠しもしないその様子に、急いで緊急事態の信号を送るルーク。
そこでふと、彼はあることに気が付く。
「……おい、アプリコさん。
一方、西の大通り。
こちらでもまた、真正面から一人の人影が堂々と歩いてくるのを傭兵たちが見咎めていた。
「何者だ」
「警備ご苦労。献花のために通してもらいたい」
「既に入場時間は過ぎている。悪いが今は立ち入り禁止だ」
外套に身を包み、フードで隠したその内側からはしゃがれた声。語り口は年季を感じさせ、老人の男であることが判別できる。その腕には確かに花束を抱えているが、見るからに怪しい風貌の者を通すつもりはない。
当然の反応に、ローブの男は肩をすくめた。
「かつての戦で散っていった同士のために、花を手向けたいだけなのだがね。ならばせめて、君たちが後でこの花を捧げてはくれないか?」
「……ま、まあそれぐらいなら」
流石にそう言われて無碍なく断るというのもはばかられ、傭兵は花束を受け取ろうとする。
傭兵として、戦場で散っていく命を悼む姿勢にはいくらかの同情があったのだろう。
「おい、何勝手に受け取ってんだよ。というか、顔ぐらい見せろよ」
「だってさ。俺の親父だってあの戦争で死んだんだ。この爺さんの仲間にだって花ぐらい届けてやっても――」
それをもう一人の傭兵が窘め、この人物の素性を確かめようとする。
だがその手がローブをはぎ取るよりも早く、彼――アプリコは自らの顔を晒した。
「そうだな。私も多くの同胞を、息子を失ったよ。――お前たちの手によって」
長い毛に覆われた犬の顔が露わになる。
手配書に記されていたその顔に、傭兵たちは驚愕する。
「なっ……!」
「君の判断は正しい。一見無害なものであっても、油断せず近寄らないこと。それが戦場の鉄則だ」
その言葉で傭兵が花束を捨てるよりも早く、アプリコは身を翻す。
「まず――」
中に込められた爆薬が炸裂して、広場に轟音を鳴り響かせた。
◇
「あ、また来た――って、遂にですか」
緊急連絡の信号を受け取り、メニャーニャは意識を切り替えて師に目を向ける。アルカナはその視線を受けて事態を把握。演説中の皇帝に意識を配る。
「かの痛ましき戦争から十年。我が国は一つの節目を迎えることとなる。国が負った傷も癒える頃合い。繁栄への道を新たに歩む時だ。だが同時に、平和のため尊い犠牲となった民たちがいたことを決して忘れてはならない。一度は犯した過ちを、過去を無かったことにはできない。ゆえに――」
直後、西の方角から爆発が起きる。
爆心地は会場のすぐ側。
張り詰めた緊張の糸が途切れた反動は重く、瞬く間に動揺が走る。
「おい、何があった!」
「爆弾だ! 誰かが爆弾を投げ込んだぞ!!」
「こっちも怪しい連中が来た、応援を頼む!」
衛兵たちが収拾に奔走する。
怪我の功名か。ここ数日で立て続けに起こった異常事態で危機感が研ぎ澄まされていた彼らは、この不意打ちにも迅速に動くことができていた。
「例の解放軍とやらの攻撃か!?」
「ええい、帝都の守りはどうなっている守りは!?」
「皆様ご静粛に! 念のため避難をしますので我々に従って……」
国賓席にて各国の大使たちが慌てるのを騎士団員が必死に宥める。
その喧騒を横に、デーリッチとローズマリーは動こうとするのを我慢していた。
「来てしまったか……デーリッチ、準備だけはしておくんだ」
「わかってるでち」
敵の狙いが不明瞭な以上、下手に動くのは愚策。
プリシラやリリィも、事の動きを冷静に見据えるために沈黙を貫いている。最も、ここに襲撃がくれば即座に迎撃に移れるように警戒は怠っていない。
そして広場の東でも状況が動こうとしていた。
通りの真ん中から堂々とやってきたハグレの集団。
エステルとニワカマッスルの二人は、衛兵たちの先頭でこのハグレの集団と睨みあっていた。
「そこを通してもらいたいのだが……駄目かね?」
「悪いな。アンタらみたいなのを通さないのが俺たちの仕事だ」
「ひどいな。君も同じ召喚された者だというのにハグレ差別に迎合するとは」
「社会のルールは守れってだけの話だぜ。今は誰だって立ち入り禁止だ」
この集団がただならぬ目的を持っていることは明白。
ニワカマッスルは一歩も踏み入れさせないと筋肉を盛り上がらせてみせるが、灰色の髪の男は圧倒的筋肉の迫力に一歩も引かなかった。
「そのマント……あんたがザナル?」
深紅のマント。色あせた魔導局の制服。刈り上げた灰色の髪。マクスウェルから聞きだした風貌と一致する。エステルはこの集団を率いる男の正体に気づいた。
灰色の男――ザナルはフン、と鼻を鳴らして肯定する。
「召喚士、それもアルカナの弟子、加えて炎使いとは。開幕として幸先が良い」
挑発的なその言動にエステルたちが身構えた直後、その後方から爆発音が轟いた。
「えっ、後ろ!?」
「同志アプリコが始めたようだな。我々も遅れるわけにはいかん。強行突破と往こう」
「危ねえ、エステルさん!」
ザナルの両手に炎が灯る。
エステルがフレイムウォールを展開し、マッスルが立ちはだかって壁となる。
これまで多くの炎攻撃をこれで耐え忍んできた王国屈指の対炎防御態勢。
迷うことなく構えられたそれを前にして、ザナルの自信に陰りはない。
「他力本願の召喚術など恐れるに足らず。我が魔導の究極、炎の神髄を知るがいい。
――シェルフレア」
その両腕から、煮えた炎が吐き出された。
◇
外壁。
帝都正門にてざっと並び立つハグレ達を防衛塔の上から見下ろしながら、妖精部隊を率いるかなづち大明神は困ったものだと腕を組む。
式典の一時間ほど前から正門に近づいてきたハグレの集団。遠目に見える帝国の国章を打ち消した乱雑な旗は、彼らが召喚人解放戦線に属していることを表すもの。
すわ侵攻かと迎撃態勢に移る防衛隊だったが、繰り広げられる激戦の予感に反してその実態は奇妙なものであった。
ハグレ達はただ突き進んだ。砲門と弓矢を向けられ、杖を掲げられてなお進軍を止めず、彼らはただその旗を掲げて進んできた。そこに雄たけびや怒号の類はなく、ただ何らかの主張を持って帝都へ近づいてきた彼らは正門からおおよそ200メートル離れた地点。柵で作られた境界線の前で止まった。
先頭に立つ獣人が大声を張り上げて要件を伝えた。
式典を中止しろ。我々を虐げたことを称えるなど間違っているのだ。
それができないなら帝都に入れろ。せめて自分たちが何をされたのかを主張するのだ。
とはいえ、それを鵜呑みにして帝都に入れるわけにもいかない。
ブリギットが外壁から拡声機能を使って彼らに呼びかける。
「おい! 今は帝都は入国禁止中だ。そっから先に入ったらぶっ放すぞ!!」
「うるせー!」
「私たちはれっきとした目的があって帝都に用があるんだ! いいから入れろ!!」
「不満を主張するのは国民の権利だろうが!!」
「帝都の暴力には屈しないぞー!」
彼らの抵抗は激しくなる一方。
帝都の国旗を持ち出して汚したり破いたり燃やしたり。あるいは貴族の肖像などを踏みつけ唾を吐きつけるなど、下手に手出しできないのをいいことに完全にやりたい放題であった。勿論これらの挑発行動は完全に不敬罪であるのだが、騎士団がここにいない今それを取り締まろうとする者はいなかった。
「うーん……何も仕掛けてきませんね……」
「どうする? もうぶっ飛ばしちまうか」
「いやいや。いくら解放戦線だからってただ立っているだけの人たちに大砲ぶちかましたら駄目ですよ……」
「だったらゴム弾でいいだろ。妖精砲だっけか? 持ってきてるんだからそれで適当に脅しとけ」
兵器の操作役であるブリギットの過激な発言を窘める大明神。
単なるデモの類であるなら彼女たちはこれを問答無用で退散させることはできない。
ハグレ達は帝都への不満を口にしているだけ。このまま何もしないのならいいが、立ち退かないというのは式典が終わった後にまた問題の種となるだろう。それは防衛に関わったハグレ王国の信用にも響きかねない。とはいえ、ハグレと下手に衝突するのも避けたいところではある……。
「本当に何がしたいんでしょうねえ」
「入れろって主張するぐらいなら強行突破すればいいのによ。そうすりゃこちらも遠慮なくかませるんだ」
「ブリギットさんそんなキャラでしたっけ?」
「……入ろうとしているが、実はそうではない?」
ハグレ達の目的と行動の矛盾に対して、シノブが思い至ったように呟いた。
「なんだと?」
「解放戦線は帝都の中にも既に何人かは入り込んでいる……式典の襲撃を実行犯は当然そっちだ。なら余計な邪魔が入らないように陽動役を置くのは戦の常套手段だ」
「中に潜入した連中から注意を逸らすための陽動だってのか? いや、防衛ならあっちのほうがよっぽど多いし、うちの奴らもいる。その全部を抜けて王族を暗殺するなんて真似ができるわけ……」
その言葉を遮るように、突如として爆発音が響き渡った。
「――まじか」
「大明神さん。すいませんが、ここはお願いします!」
「え、ちょ、シノブさん!?」
大明神の制止も叶わず、シノブは正門から離脱し、慣れない全速力で広場まで向かう。
広場の守りを疑っているわけではない。メニャーニャが考案した警備形態だ。例え魔導兵や正門のハグレ達が押し寄せても押し返すことはできる。
けれど嫌な予感はどうしても晴れない。なんの根拠もない杞憂と言ってもいい。
だからシノブは動いた。
この時ばかりは理論ではなく、直観を信じて彼女は動き出した。
「始まったよ。完璧な秩序への第一歩が」
そしてすべてが動き出した瞬間を、ジェスターは俯瞰するように眺めていた。
「勝負だ、アルカナよ。貴様の掲げる理想と、彼らが抱える怒り。どちらがこの世界を正しく導けるか見せてもらおうではないか」
○アプリコ
どれくらいえげつない戦い方をするかっていうと、これぐらいやる
○ザナル
想定外枠。
長くなったのでひとまずキリのいい場面で区切り
続きはもう間もなく……!
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