ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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最後ではなかった

ちょっとシリアスが続きすぎていたので、ボス戦はフィーバータイムです。
新演出も試験的に活用しています。


その71.帝都動乱・終戦記念式典(3)

『総進撃』

 

 

 

 アプリコによって出現した巨大魔物アンノウンプラントは、巨大な蟲から無数の蔦を触手めいて生やしたような異形の姿をしていた。

 急速な成長によって飢餓状態にある魔物は、まず一番近くにいたデーリッチ達を餌を定めてその成人男性の腕ほどある蔓を鞭のように振るう。

 

 迎撃のためにキーオブパンドラを振り上げたデーリッチ。

 そこに横から飛んできたフレイムが蔓を焼き払う。

 

「デーリッチ!」

「ローズマリー!」

 

 安堵と呆れの混ざった表情でローズマリーが駆け寄って来る。

 

「まったく、一人で勝手に飛び出すなんて……」

「いやー、あんなこと好き勝手に言われたらハグレ王国の沽券にも関わってくるからつい」

「でも、素晴らしい演説だった。見直したよ」

「えー? やっぱりデーリッチのカリスマ溢れちゃってたかー。……でも、アプリコさんは駄目だったみたい」

「そうだね。彼はどうやら引き返せないところまで行っていたようだ」

 

 デーリッチの言葉はアプリコの本音を引き出しすぎた。

 突きつけた矛盾はその大義を崩すと同時に、彼がその復讐心で覆い隠していた野望を白日の下に晒してしまった。

 そのアプリコの姿はもうない。魔物に気を取られたわずかな間に彼は逃走していた。その逃げ足の速さは、彼が撤退戦を幾度となく成功させてきた証拠である。

 

「過ぎたことを悔やんでも仕方ない。今回最後の大仕事だ。ハグレ王国総出でこいつをぶちのめすぞ!!」

「おうとも!」

 

 一方、リリィの傍らには側近クリストファーが傅いていた。

 

「見事な演説でした女王陛下。これで帝都にもエルフ王国の威厳を知らしめることができたでしょう」

「世辞はいいわ。とりあえずこれを片付けるわよ。杖は?」

「こちらに」

「ありがとう。さてと、久しぶりに戦うから腕が鳴るわね。そこの妖精もサポートを頼むわよ。足手まといにだけはならないでよね」

 

 リリィはプリシラに呼びかけるが、返事がない。

 というか近くにいると思っていたのだが、よく見ると来賓席に留まったままだ。

 

「……? そんなところに突っ立ってないで早くこっち――」

 

「――――」

 

「し、死んでる……!?」

 

 プリシラは鼻血を出してその鼓動を停止していた。

 どうやらヅッチーの宣言が痺れるを通り越して心停止まで行ったらしい。

 まあ、妖精なので心臓とかあまり意味ないのですがね。

 

「おーい、プリシラー。大丈夫かー?」

 

 仕方がないのでヅッチーが起こす。

 目の前で愛しのイカヅチ妖精に目覚めの言葉を懸けられた氷妖精は、至福の表情でハッと我を取り戻した。

 

「ひゃっ、ヅッチー!? 確か今ヅッチーの天にも昇るようなヴォイスで痺れるようなセリフを聞いていたような……!?」

「なに寝ぼけてんだ? とりあえずこの魔物片付けるからさ、プリシラも力を貸してくれ!」

……!!!! オッケー、ヅッチー! 妖精王国が武力も優れていること、帝都に宣伝してみせるわ!!」

「おう! その意気だぜ!!」

 

 

 

「……なにあれ、キャラ変わりすぎじゃない?」

「忠誠心……ですかねぇ」

 

 TP満タン状態ハイテンションなプリシラを見て、リリィはただ一言コメントを残した。

 

 

 

 

 

 広場はまさに過去に類を見ないほどの戦場だった。

 

 冒険者たちから集中砲火を受けるかと思われた巨大魔物であったが、そうそう簡単にいかない厄介な性質を備えていた。

 蔓に点々と咲く花弁からばら撒かれる種。一見なんの害もないように見えるそれが地面に落ちた途端、新たな魔物が芽生えてくるのだ。

 

 

「くそっ、倒しても倒しても生えてくるぞ! キリがねえ」

「アニキぃ、他の連中が集まってるからってやっぱ帝都になんて来るんじゃなかったんっすよ! 逃げましょうよ!!」

「過ぎたことを喚くんじゃねえサブ! こうなったらこいつら狩って報酬たからなきゃどの道大赤字なんだよ!」

「言い争いしている暇があるなら手を動かせ! そろそろこっちのMPが尽きそうなんだ!!」

 

 厄介なことに、この魔物――オシャベリフラワーはそのコミカルな外見に反して普通に手ごわい。その落書きめいた口から発せられる奇怪な超音波で混乱させてくるだけでも危険なのだが、アイスやファイアなどの魔法まで使ってくるのだ。

 口があるから呪文も唱えられるということなのか、とにかくこの魔物がぽこじゃか増えているせいで冒険者たちの数の利はあっさり覆った。単純に魔法を連打されることの鬱陶しいこと。雨後の筍のように増殖するこの魔物の存在に冒険者たちはてこずっていた。

 

「この子分たちは魔法を使ってくるお! 放っておくと増え続けて手が付けられなくなるお! 親玉はハグレ王国に任せて、君たちは取り巻きを優先して処理してほしいお!!」

 

 その巨大な戦斧で蔓を伐採しながらブーンが冒険者たちに指示を出す。その攻撃は他の冒険者とは一線を画しており、一振りで目の前にいたオシャベリフラワーがボトボトと間引いていく。

 冒険者たちは歴戦の戦士である彼の言葉に従ってオシャベリフラワーの対処に専念するか、あるいはこれ以上戦線が拡大しないように発生源を抑え込むように動いていた。

 

「ばっきゅーん☆ 的当てならオレ様の得意分野だぜ」

「木を刈るなら、わしらの得意分野じゃな!!」

 

 例えば二丁の魔導銃を操る女冒険者が蔓に咲いた花弁を次々と撃ち落としていき。 

 また別の方向を見れば、鎧を着こんだドワーフが豪快な斧捌きで蔓を切断していく。

 

「ああもう、アプリコさん面倒なもの残していきやがって!」

 

 そんな中で一人、ルークはズバズバと魔物を切り払いながら戦場をひた走る。

 鞭めいて跳ね回る蔦を躱して仲間と合流するために中心部へと向かっていると、ちょうど行く手を遮るように大量の蔦が生い茂っていた。

 切り刻んでみるものの、即座に新たな蔦が補っていき一向に突破できない。

 

「こういう時薙彦の奴がいればなあ……」

 

 思わず愚痴がこぼれる。始末ヶ原薙彦ならばこの程度文字通り薙ぎ払っていくだろう。だが彼は昨日の大怪我で入院中だ。ラプスもその見舞いで付き添っている。あるいは治療費を踏み倒さないように監視する役目か。どちらにせよいないものは仕方がない。

 

「これじゃ全然前に行けねえな。かといって、登ったら登ったで餌食になるし、回り込むしかねえか」

「おやおや。足、というか羽が必要かい?」 

 

 バサバサと羽ばたく音と共に上から声がする。

 

「ハピコ。丁度いいや、向こう側まで連れて行ってくれよ」

「あいよ。戦場宅配サービス、特別価格で1000Gね」

「高いなぁ。まあ、払ってやるけどよ」

「まいどあり~。ほれっ、ご到着だ」

 

 肩掛けしたハーネスから下げられたロープをルークが掴む。

 実際にはほとんど距離はなかったのだろう。ハピコが飛び上がれば中央まで一瞬だった。

 ルークが探していた二人も既にそこにいて、後方に控えていたミアラージュがこっちを見た。

 

「あ、やっと来たわね」 

「すいませんねミアさん。あれが魔物の本体っすか」

「そうなんだけど、あそこの魔術師が邪魔してて中々攻撃に移れないのよね」

 

 ミアラージュの言葉通り、ザナルは植物魔物の前に立ちふさがる様にして火炎魔法を馬鹿打ちしている。

 対するエステル達は迫る火球に各々の魔法をぶつけ、小さくなったところをニワカマッスル、エステル、クウェウリを中心とした防御陣形で耐え忍ぶ。幸いだったのはクウェウリが炎上に対して対策を行えたことだ。少なくとも余波で全員火だるまなどという大惨事は避けられた。

 その合間を縫ってハオやドリントルが遠距離攻撃を仕掛けてはいるが、彼が周囲に展開する炎のカーテンによってこちらもあまり有効打になっていない。相手側の目論見通りの膠着状態だ。

 

「余波だけでも熱くて仕方ないわ。まるで火葬されてるみたい」

「洒落になってませんわよお姉ちゃん!」

 

 本当に消し炭にされかねない火力の前でそんなゾンビジョークをかませるミアラージュの胆力はなかなかのものである。

 

「ふうむ。吾輩の火炎を受けてここまで立っていられた者は始めてだな!!」

 

 エステルがその仕組みを見抜いたとはいえ、シェルフレアの広範囲爆発は圧倒的だ。

 魔法を同じく魔法で相殺し、爆風をファイアウォールと雪乃ヴェールで軽減してどうにか耐えきれるといったところ。

 加えて巨大魔物が無差別に襲い掛かってくるのも、彼女たちが攻め手に回れない現状に拍車をかけている。

 唯一ザナルに対しては従っている……というよりは彼の炎を疎んで勝手に避けている。

 

「つーかこの魔物、ここまで元気なのもおかしくない? 帝都のど真ん中でしょここ、マナの噴出孔が開いてるわけでもないのにこの強さって……」

「マクスウェルもαトランス*1を使用していましたし、こいつにもなんらかの増強剤が投与されているのでしょうね」

 

 基本的にマナの少ない環境で魔物は衰弱するのだが、この魔植物はそんなことを気にせずに暴れまわっている。今のところ犠牲者は出ておらず、このままでは飢死するのを先延ばしにしているだけだが、その間だけでも起こりうる被害は甚大。市民の捕食が始まる前になんとしてても倒さなくては。

 

「ふーむ。しかしお前たちも中々揃ってきたところか。流石にこの人数ではいささか不利よな」

「おっと、流石にガス切れ? こっちはまだまだ余裕あるけどね」

 

 ベロベロス、ジーナ、アルフレッドら姉弟、柚葉など外回り組が次々と合流してくる様子を見てなお、ザナルは不遜な態度を崩さない。

 

 

「いやいや、我らの同志も粗方撤退が完了した頃合い。吾輩の仕事も終わりということよ」 

「な、逃がすか――!」

「ではさらばだ、王冠の弟子よ!! 決着は次に預けておこう!!」

 

 ザナルは足元に特大のシェルフレアを叩きつけた。

 極大の爆炎。蔦もいくつか燃え、巻き起こった黒煙でルーク達の視界が覆われる。

 

「ぐおっ」

「レイジングウィンド!」

「目がっ、目がぁ~~!!」

 

 咄嗟に手で目を保護する。その後ろでもろに目に砂が入ったヤエが苦しむ*2

 ヘルラージュが即座に風魔法で煙を払うが既にザナルの姿はなく、代わりにどろどろに溶けた石畳による穴がぽっかりと口を開けていた。

 

「下水道までぶち抜いていったか。こりゃ追跡は無理だな」

「くっそ~~、やりたい放題やって逃げやがって! 今度は絶対に負けてやるもんか!!」

 

 エステルが悔し気に地団太を踏む。得意分野の炎で上回られた屈辱は計り知れず。次こそはと雪辱の念を強く誓った。

 

「とにかく、これで邪魔者はいなくなったな」

「ええ。あとはこいつを片付けるだけです」

 

 

 巨大魔物を見上げて、ハグレ王国の精鋭たちは腕を鳴らした。

 

 

「よーし、それじゃあ気合入れていこうじゃ「むぎゃ~~~~っ!?」って」

「で、デーリッチ!?」

「国王様!?」

 

 

 悲鳴と共に放物線を描く人影。

 ルーク達が慕う国王デーリッチが彼らの真っただ中に落下してきた。

 

「ごめん、そっちにデーリッチが吹っ飛んだ!!」

「任せな!」

 

 ローズマリーが走りながら伝えてくる。落っこちてくる王様をニワカマッスルがその逞しく香ばしい筋肉*3で受け止める。その強靭さはまさに筋肉由来素材100%のエアバッグ。デーリッチの運動エネルギーのほとんどを吸収した。

 

「おっとっと! 大丈夫か?」

「ナイスキャッチだマッスル!」

「ふひ~、油断したでち」

 

 でへへとばつが悪そうに笑うデーリッチ。

 

「おいおい、しっかりしてくれよ」

「あんなカッコいいこと言ったってのに、これじゃあ締まらねえなあ」

「まあ、その方がこの子らしいかもね」

「言えてる」

 

 どっと笑いが巻き上がる。

 死地の真っただ中ではあるものの、これぐらいの気構えこそが彼ららしい。

 そしてローズマリーやヅッチー、プリシラがやってきて、全員が顔を見合わせた。

 

「……さて、それじゃほとんど揃ったかな?」

「正門にいるブリギットさんや大明神を除けば、これで全員ですね」

「滅多にないフルメンバーってわけだな。クライマックスにはおあつらえ向きじゃないの」

 

 敵は巨大魔物一体。

 対してこちらはハグレ王国。

 戦力、士気、共に不足はなし。

 あとは一つ、王の声を待つだけだ。

 

「それじゃあデーリッチ、号令……熱いの一発頼んだわよ」

「総攻撃の開始でち! ハグレ王国、出撃!

 

応!!

 

 そこからはまさに快進撃。

 

 

「いくでちよベロベロス、全部燃やしてやるでち! 地竜ちゃんはこいつを根っこから引き抜いてやるでち!」

「わおーん!」

「ぐごーご!」

 

 先陣を切るはベロベロスに乗ったデーリッチ。主の命に応じ、三つ頭の魔犬はそれぞれの口から劫火を吐き出し、幼き六魔もその膂力で根を張る足元を崩していく。

 

「ふん! そりゃ、おらあ!」

 

 赤い牛人はその屈強な肉体を生かしたパワーファイトで蔓を破壊する。一切の防御も回避もしないそのスタイルは鞭めいた猛打に晒されるも同然だが、彼の鍛え上げた筋肉はびくともしない。肌を走る痛みも彼の熱いハートの前では何の効果もない。

 

「そんなんじゃ俺の筋肉はビクともしねえな!! ……ってあれ、ちょっとそれは不味いって!?」

 

 猛打をものともせずに引き受けていたニワカマッスルの屈強な体に蔦が巻き付く。アンノウンプラントはそのままマッスルを持ち上げてガバリと大口を開けて丸のみにしようとする。

 

「なーにやってんだか!」

 

 上空からきりもみ回転で落下してきたハーピーが魔物の口を強引に塞ぐ。そして下から鋭角に飛んできた槍が蔓を切断して、拘束されていたニワカマッスルを解放した。

 

「やったハオ!」

「わっとと……これ、あまりはしゃぐでない!」

 

 光の巫女は全身で成功の喜びを表現し、その頭に乗っかっていたティーカップが大きく揺れる。

 

「流石ねー。雪乃、私たちも負けてられないわね」

「うん! それじゃあカタナシュートいっくよー!」

 

 サイキッカーの隠された目が光り、魔物をほんの僅かに硬直させる。そして雪の妖精は大学で研鑽して生まれ変わった得意技を力いっぱいに叩き込んだ。

 

「■■■■■■――!!」

「よーしっ、ブルズアイ!」

「いつにも増してやる気満々ね」

「とーぜん! 私のカタナシュートは四つ取られてからが本番だからね!」

「そうね、あんたがやれる子なのはわかってるけど。今日はちょっと違う気がするわ」

「なあに?」

「何だか大きな思いに突き動かされている感じがするのよ。使命感、っていうのかしら。デーリッチの宣言で、何か変化でもあった?」

「あ~……ヤエちゃんにはわかっちゃうか」

 

 内心を見抜かれていたことを恥ずかしそうにしながらも、雪乃はぽつりと自分に起こった変化を吐露した。

 

「あのね、デーリッチの言葉を聞いて、私もちょっと頑張らなきゃなって思ったの」

「? 雪乃ちゃんはいつも頑張ってるヨ?」

「ううん。そうじゃないの……私、この世界に来てから待ってばかりだった。独りぼっちだった私をヤエちゃんに見つけてもらって、その後すぐにデーリッチと友達になって、それからは拠点のみんなに優しくしてもらって。……そして、アルカナさんの計画が始まった」

 

 雪乃はこれまでの自らの歩みを振り返る。

 少しでも恩を返すために彼らの旅に同行し、唯一の取柄である蹴りを活かして戦力として貢献しようとする一方、皆が店舗を提案する中で自分だけは手伝いに留まっていた。そのことを王国の誰も責めることはなかった。むしろ彼女の境遇に気を遣うように、仲間たちは雪乃に寂しい思いをさせないように多くの工夫を凝らしていた。

 

 『いつかは帰るから』

 

 ……そんな願いを言い訳にした雪乃の行動原理は常に受動的で、消極的だった。

 

 そしてその望郷の念は降って湧いたように叶おうとしている。相互ゲートの理論は立証できている。あとはハグレ王国と召喚士協会を取り巻く面倒ごとが片付けば、帰還計画はすぐにでも実行できる段階。願いが成就する時は着々と近づいていた。

 

 そんな雪乃の心境は嬉しさ半分、焦燥感半分だった。

 

 ようやく帰れるという気持ち。まだ何も恩を返せていないという焦り。

 何かしなければ、という漠然とした思いを抱えながらも、皆のように店舗を構えるなどの腰を落ち着かせる真似を実行に移すことはできなかった。

 目まぐるしく流れていく情勢に、彼女はまた流されることしかできていなかった。

 

「デーリッチの言葉、すっっごく胸に響いた。あの子は本気でみんなの居場所を作ろうとしている。私と同じか、それ以上に悲しんでる人たちを受け入れると言ったんだ」

 

 自分よりも幼いのに、自分以上に過酷な目に遭ってきた子供が、この大陸の真ん中で自分の存在を高らかに知らしめた。

 

 なら、自分もただ突っ立っているだけではいられない。

 せめて自分の足で歩くぐらいはしなくては、ハグレ王国の一員として恥ずかしい。

 

「だから、私もついていくだけじゃない。アルカナさん達がゲートを開いてくれる日をただ待つんじゃない。この世界を、皆の帰る場所を守るために自分の意思で戦うんだ。いつか元の世界に帰った時、家族や友達に、私は頑張ったよって胸を張って言うために。私は、私の全力を尽くすって決めたんだ――!」

 

 決意と共に放たれた渾身のシュートが、雪だるまを空高く打ち上げる。

 最高頂点に達した雪だるまははじけ飛び、無数の雹となって種を撒こうとする触手をまとめて射貫いた。

 

「おお~っ」

「へっへーん! 新技大成功!」

「やるじゃない雪乃。それじゃ、私も張り切っていきましょうか!!」

 

 超能力を全力で解放する。天から降り注ぐ雷の瀑布が、魔植物の表皮を剥がれるまで焼き焦がす。

 

 だが、巨大魔物は息絶えない。アンノウンプラントは体液を圧縮し、口から鉄砲水のように放つことで邪魔な敵を押し流そうとする。

 

「おっと、そうはいかないな!」

「ふんッ!」

 

 鉄砲水をジュリアが盾で防ぎ、その影から飛び出したジーナがハンマーで脆くなった表皮を完全に叩き割る。

 

「アルフレッドさん!」

「ありがとう、ベル君!」

 

 そこへからくり大博打の援護を受けたアルフレッドの強烈な一撃。

 目にも止まらない神速の刺突は脆くなった部分を的確に射貫き、脚の一つを根元から切り落とした。

 

「やった! アルフレッドさん!」

「うん。まずは一手だ」

「アルフレッドめ、すっかり一人前の戦士だな」

「私から見ればまだまだ半人前だけど、ね!」

 

 見事なヒットアンドアウェイで後退するアルフレッドに感心するジュリアとは対照的に、ジーナは辛口な評価と共にハンマーのアッパーを魔物に食らわせた。

 

「はは。流石に姉は厳しいな」

「正当な評価よ。あいつの目標からすれば、この程度の相手でも全然足りないぐらいだしね?」

 

 そう言って弟の背中を見るジーナの眼には、憧憬と郷愁、そして期待が重なっていた。

 

 

 

 

 

 

「いってらっしゃいませこたっちゃん!」

「まさかまさかのカタパルト再び!!」

 

 一方、乱れる触手を宙を飛んで撃ち落とす存在がいる。

 それはガ○ラのように霧のブレスを吐きながら回転するこたつである。

 

「ああ、国王様。私は感激しております! この大陸、いや世界を平らげようとするその覇気。不肖なれど、このゼニヤッタ、国王様の覇道にどこまでもお供いたしますわ!!」

「ウン。でもそのインプレッションをこたつを投げることで表現するのは違うと思うゾ」

 

 流石にこんなトンチキ極まる光景には引き気味のイリス。しかし彼女もまたデーリッチの言葉にいくらか無視できないものがあったのも確か。

 

「この国がビッグになるなら、その分乗っ取った後の地上征服もやりやすくなりマース。だから、全力で走れよリトルキング? 腑抜けるようなら、そこでペロリと平らげてやるからな」

 

 悪意に満ちた期待を胸に、冥界の姫は襲い来る蔓触手を一瞥もせずに氷像へと変えていった。

 

 

 

 

 

 

 オシャベリフラワーが怪音波を放ち、また別のオシャベリフラワーがファイアを唱える。

 混乱した隙に叩き込まれる魔法に、奮闘していた武道家があえなく沈む。

 

「ぐわあああ!」

「はーい、ヒールですよ」

「おお……ありがとうございますおっぱい神様。ついでにその見事なおっぱいを揉ませてもらえれば元気百倍です」

「あらあら。それじゃあゴールデンハンマーを一発入れておくわね?」

「問題ありません! それでは倒してまいります!」

 

 うおおおお! と鎖を振り回して魔物を駆逐しに向かったジョルジュを福ちゃんは見送る。

 周囲で頑張っているがジリ貧な冒険者たちを支援することが重要であると判断した彼女は、クウェウリと共に、冒険者や彼らに加勢して戦うケモフサ村の住民たちの援護に回っていた。

 

「元気いっぱいなのはよろしいことですわね……あら、クウェウリさんどうしました?」

「……パパが、広場の外に走っていくのを見ました」

「マーロウさんが?」

「はい。きっとアプリコさんを追っていったんだと思います」

 

 クウェウリは物憂げな表情で目を閉じる。

 瞼の裏に映し出されるのは、この村にあの老獣人がやってきた時の記憶。

 

「あの人がケモフサ村にやってきた時、パパはとても喜んでいました。生きていたこと、各地を放浪してきた彼がようやく安住の地と呼べる場所を得られたこと。あんなに穏やかで嬉しそうな顔のパパは今まで見たことがなかった」

 

 マーロウは責任感が強く、また仲間思いの誇り高き戦士だ。

 各地に散逸した敗残兵たちのことを気に掛けていた彼は、同じ思想のもと肩を並べた戦友が無事であったことを知り、長年あった心のしこりの一つが取れた。

 父が滅多にない屈託なき笑顔を浮かべてアプリコを歓迎した時には、クウェウリも我が事のように喜んだものだ。

 そして、それらのすべてが妄執の炎に浮かんだ幻に過ぎなかったと知った時の激情と落胆もまた、これまでに見たことがなかった。

 

「アプリコさんはすぐに村に馴染んだわ。武器屋のオルグさんからは英雄として尊敬されて、雑貨屋ではよくプシケさんと談笑していた。週末になればよくパパと二人でお酒を飲んで煙草を吸っていたわ。健康には悪いからやめてほしいけど、パパがあそこまで楽しそうに笑うものだからその時だけは許してたわ」

 

 村長であるマーロウの旧友だったこともあってか、アプリコは村の御意見番として多くの村民から頼られることになった。例えそれが、反旗を翻すための同胞を集めるための策略であったとしてもだ。

 

「アルカナさんも、彼にはいくつか便宜を図ろうとしていたわ。あれはきっと、自分たちの手で息子さんの命を奪わざるを得なかったことへの負い目だったのね」

 

 異世界からデーリッチを救出した後、マーロウから告げられた獣人参謀の事情。

 故人を偲ぶが故の壮絶な思いに対してクウェウリは何も言えなかった。

 もしマーロウが自分を失ったらどうなってしまうのか。血ではなく心で繋がる親子であるからこそ、アプリコの心中は察するに余りあった。

 

「だから、私はアプリコさんはその心をジェスターに利用されたのだと思っていたわ。でも違った。あの人は本心から戦いを望んでいた。デーリッチちゃんに論破されても、あの人の眼には炎が宿っていた。せっかく戦わなくても平穏を手にできる選択肢があるのに、あの人は自分から戦う道を選んでしまった。私はそれが悲しいんです」

 

 勿論、クウェウリだって帝都への恨みは残っている。マーロウが未だに幾らかの悪感情は持ち合わせているように、故郷から引き離され、元の家族を奪った帝都を許すつもりはない。

 それと同時に、彼女はこの世界にはハグレと歩み寄ろうと考える人がいることを知っている。マーロウが平和のために尽力したアルカナの意思を尊重したように、クウェウリは彼らと共に平和への道を歩むことほうが誇らしいと思っているからこそ、その悪意をさらけ出すことを善しとしないのだ。

 

 だからこそ、穏やかな日々を自ら捨て去り、戦火へと身を投じる同胞に何もできないことが辛い。

 多少貧しくとも平穏だったあの日々を知るからこそ、各地で虐げられて流れてきたハグレたちの心に寄り添えないことが心苦しくて仕方がない。

 

「……そうですね。何もかもを失ったことで、その後に得られたはずの幸せすらも手放した。未来を夢見ることができなくなり、かといって現実にも目を向けられず、ただ失った過去の傷を拭うことに固執する。彼を止めるにはもう、戦うしかないのでしょうね」

 

 アプリコという獣人の奥底にあったものは戦いへの未練だ。

 アルカナの参戦により、無残な敗北に終わった記憶。圧倒的な蹂躙によって不完全燃焼に終わった戦争への情熱こそが彼を突き動かしている。

 

「とにかく、今はあの人はマーロウさんに任せましょう。きちんと思いをぶつけ合うことができるのは、共に背中を預けあった相手のみです。大丈夫、貴方のお父さんを信じなさい」

「……はい。ありがとうございます福の神様」

 

 

 

 

 

 

「かんらかんら! どうしたどうした? その程度ではわらわは捕まらんぞ!」

「ああもう。皆好き勝手に動いて、作戦も何もあったもんじゃないな……」

「なあに、祭りの締めの馬鹿騒ぎじゃ。好きにやらせても構うまい!」

 

 銃を撃ち、踊るように戦場を駆けるドリントル。その華麗な立ち振る舞いはハグレ王国のみならず、周りで戦う冒険者たちの士気も上げており、戦況の改善に大きく貢献していた。それに追随するローズマリーはファイアで時折けん制をしているが、どちらかというと救急薬をばらまくのが仕事である。何しろ王国民のほとんどが参加するという異例の状況。王国の頭脳であるローズマリーとはいえ、流石に二十人以上の戦闘指揮の経験はない。こうして誰かが戦闘不能に陥っていないか目を凝らすだけで精一杯だ。

 

「のうマリー、わらわはとても楽しいぞ!」

「それはよかった。こっちは忙しくてそれどころじゃないけどね……!」

「なんじゃ、折角我らが国王が気持ちの良い啖呵を挙げたというのに、テンション上がらぬのか?」

「勿論アゲアゲだよ。それはそれとして、私はこの狂騒に身をゆだねられるほどお気楽じゃないってだけ」

 

 彼らのようにはね、とローズマリーはこの帝都を巡る馬鹿騒ぎのメインキャストを見る。

 

 この中で最も魔物の本体に近い最前線。そこが彼らのダンスホール。

 縦横無尽に駆け回って刃を煌めかせる仮面の男と、烈風を繰る黒衣の女。

 秘密結社の二人は息のあった立ち回りで本体に傷を負わせていく。

 そんな彼らの立ち回りを邪魔しないように、死の風が蔓を腐敗させ、鯨のような人魂が粉砕していく。 

 

 普段なら笑っている暇なんかないはずの死地。

 しかし魔物の攻撃を捌いていくルークの顔は自然と笑みを浮かべていた。

 

「なあ、リーダー」

 

 背中合わせに立つ彼女に呼びかける。

 

「なあに?」

「不思議なこともあるもんだよな。帝都のど真ん中で、油断したら自分だけじゃなくて誰かが死ぬような魔物を相手にしているのに、それが楽しいなんて思ってる俺がいる」

 

 ルークは改めて己を省みる。

 ふとしたことで容易く命の灯が消えるようなチンピラ。命知らずの無鉄砲。富と名誉を求めて自ら危険を冒す大馬鹿者。

 そんな自分が、この大陸の真ん中で大勢のために命を賭して戦っている。

 昔ならそんなことはしない。最低限の線引きはして、割に合わないととっくの前に逃げ帰っている。

 

 

「だから改めて思ったんだよ。俺たち、ハグレ王国に来て良かったなって!」

 

 

 彼らとの出会いに感謝を。あの小さくも偉大な王に出会えたからこそ今がある。

 珍妙な仲間たちと共に歩み、素晴らしい冒険譚の中にいる。

 

 そんな無邪気な子供のような告白を受けて、ヘルは。

 

 

 

「……うん! 私も同じ気持ちよ!!」

 

 

 

 同じように、無邪気な笑みを返した。

 ヘルラージュは小心者だ。臆病だ。へなちょこのヘタレだ。

 痛いのは嫌だ。疲れるのは嫌だ。怖いのは嫌だ。

 そんな甘ったれだけど、今は不思議と戦うことに恐れはない。恐いけど、恐くない。

 仲間のための傷は痛いけど誇らしい。みんなで頑張ったあとの疲労はなぜか心地いい。

 自分を認めるための研鑽とは違う、負い目のない充足感を得られるのが嬉しい。

 

 自分も彼も、デーリッチ達と出会ったことで変われたのだ。

 このお人よしたちの王国には、何度感謝してもし足りない。

 

 仮面の下で口角が吊り上がる。

 後ろから肩をぽん、と叩かれれば、それだけで力が漲った。

 足を払いにきた――というには少々大きすぎるぐらいには太い蔓を躱し、逆に足場にする。そのままトン、トンとパルクールで蔓を渡っていく。

 幼馴染には劣るものの、冒険の中で磨かれてきた運動能力は思うままに彼の身体を高くへ高くへ運んでいく。

 そして魔物の顔面とも呼べる部分を見下ろせる位置に来たところで、鋭角軌道で落下を開始。

 

 腕を伸ばし、短剣を振り降ろす。繰り出すのは彼の得意技(サプライザル)

 禍神降ろしの力を受けた渾身の一振りが、魔物の胴体に大きな傷を刻み付けた。

 そのまま結構弾力のある蔓に足をつけ、何度か跳ねるようにして着地する。

 

「クリティカルヒット!!」

 

 深い傷が刻まれたことで各地の蔓触手の動きが鈍くなる。

 ここが畳みかける部分だと判断した王国民は、一斉に攻撃を叩き込んでいく。

 

 妖精の雷と吹雪が舞い散り、エルフの風と矢が嵐となる。

 

 

「それじゃ、デカいの一発食らわせましょうか」

 

 

― 魔神降ろし ―

 

 

 忘れ去られた魔神の力がパーティ全体の魔法力を引き上げる。

 

 

「先輩、お願いします!」

 

 

― トラウマファイアⅡ ―

 

 続いて放たれるのは幻の炎。幻覚と侮るなかれ、対象の精神に作用するこの魔法は炎属性への耐性を著しく下げる。

 それらの下準備から繋がるのは――召喚士協会、ハグレ王国屈指の火力を誇る炎使いによる最大火力。

 

 

「締めは私ね! ブチかますわよ!!」

 

 

― バルカンフレア ―

 

 

 六連炎球。爆炎と衝撃。

 お供のオシャベリフラワーも余波で消し飛んでいく。

 魔物は原型は留めているものの、最早虫の息。

 

 

「ヒューッ!」

「あっはっは。いいねえアオハルしてて」

 

 見てわかる手ごたえにガッツポーズ。

 そこにひらりと舞い降りて衆目を集めたのは白翼の賢者だった。

 

「アルカナさん!?」

「やあやあ君たち。手助けは……あんまりいらないみたいだね」

「いやあの、王族の護衛は!?」

「既に王宮区に避難済み、引継ぎも完了してる。だからあとはこっちを片付けるだけなんだけど……ごめん、ちょっと向こうの方で衝突があったみたいだからそっち見に行くわ」

 

 ちらりと彼方に目を向けるアルカナ。メニャーニャもその視線を追う。確かに大気中の魔力の流れが乱れた感覚がある。ここ以外にも誰かが魔法を行使しているのか。

 

「衝突……? 解放戦線がまだ何かを仕掛けているということですか」

「まあ、ちょっかいかけたのはあの子の方が先なんだけどさ。そういうのはどうでもよくて……」

 

 

 と、一呼吸おいて。

 

 

「――私の可愛い娘に手ぇ出そうとするクソ野郎に、お灸を据えに行くんだ」

 

 

 冷徹な殺意を宿した瞳が引き絞られた。

 

 

 

*1
本当に今更だが、αトランスとは「ダブルクロス3rd」に登場する、超能力の源であるウィルスを活性化させる薬物のこと。技の効果が上がると同時にキャラロストに近づく代物である。基本PLが使うものではない

*2
別に光ってはいない

*3
ほどよくこんがり




○ルーク
 所詮チンピラだと達観した風で斜に構えたところはありますが、その本質はビッグになりたい悪ガキです。じゃなきゃ冒険者になんてなりませんって。

○雪乃
 推しなんだけど思考のトレースが難しい……。
 原作よりも自分のスタンスが早く固まってきた、という風に書いている。

○ザナル
 敵役の炎魔術師として大真面目に考えたつもり。
 とはいえ、結構下駄を履いてこの程度なので、普通に炎のエキスパートが出てきたらまあお察しではある。

○アンノウンプラントくん
 Q.なんか滅茶苦茶強化されてませんか?
 A.実はジェスターが改造した特別製なのです。
  プラントヒュドラと混同していたのは内緒だ。

励ましの感想をくれると作者が喜びます。
伸びる評価を貰えると作者のやる気が出ます。
ざくざくアクターズをもっと好きになってもらえると作者冥利に尽きます。
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