ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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最後!


その72.帝都動乱・終戦記念式典(4)

『インディペンデント・ロストチャイルド』

 

 

 

「……少しばかり予想外だな、これは」

 

 

 ジェスター・サーディス・アルバトロスは広場に出現した巨大魔物を見て苦笑する。

 今回の作戦目標は式典を占拠し、ハグレ達の決起を促すこと。そして王族を拘束してアルカナ達の行動を大きく制限することだった。

 

 ただ帝都を襲撃して攻め落とすだけでは理想的な世界の構築は不可能。帝都の現状に不満を持つ者たちを先導して政治体制を崩壊させる。すなわち今を生きる人間にこの世界を否定させること。それが完全な新世界を築くことに必要な要素であり、アルカナに対する意趣返しとして最も効果的なものであるとジェスターは考えた。

 

 現状に不満を持つ人間というのは帝都民、ハグレ問わず掃いて捨てるほど存在する。

 召喚術に手を染めたことで十年以上も停滞を続けるこの国に見切りをつけ始めた者も多い。大陸に訪れ、世情を調べることでその事実を理解したジェスターはまず自分の手駒となる人物を求めた。

 

 まず最初にハグレ側の野心家であるアプリコに話を持ち掛けることでハグレを集め、魔術結社に白翼の技術を与えて味方につけることで解放戦線の下地を作った。

 

 次にその人員を持って各地に眠る古代文明の遺跡から使える異物を拝借し、召喚士協会を追放されたマクスウェルを引き込んでそれを復元させた。そして彼のコネクションを利用して貴族社会へのパイプを手にすることで活動資金や潜伏場所を確保した。

 

 最後に世論を政府転覆に持っていくことで王族の権威を失墜させ、各地の野心的な貴族たちを味方につける。そうすることで帝国を掌握した後の新たな秩序の構築をスムーズに行う算段だった。

 

 最も、その下準備による計画はたった今ハグレ王国によってご破算と相成ったが。

 水晶洞窟にて彼女らを排除できなかったことはあまり重要に思ってはいなかった。所詮はアルカナが自分の目的のために用意した布石の一つ程度の認識だった。まさかそれがここにきて一番計画を乱す要素になるとは、アルカナが注視するだけのことはある。

 

「仕方ない。では王の首だけ獲って帰るとしよう」

 

 しからば自分が直接打って出るまで。勿論王族には彼女が護衛にいる。戦闘の余波で帝都そのものが崩壊する可能性はあるが、それならそれで一から新しく築き上げればいい。

 

 まずはアルカナの不意を打って王族を暗殺するために影の転移を行おうとして――

 

 

「炎神よ、我が敵を滅ぼし給え。

 

 

 ――サモンアグニ

 

 

 あらゆるものを灰塵と帰す獄炎がジェスターを飲み込もうと殺到する。

 

「ン――」

「そこまでです。ジェスター」

 

 炎は隆起した影の壁に遮られ、その熱が届く前に防ぎきられるが、その圧倒的な威力でジェスターの足を止める役割は果たした。

 ボロボロと崩れ落ちていく影の向こうに、ジェスターは一人の少女を認める。確かあれは、マクスウェルが執着していたアルカナの一番弟子だったか。

 

「これはこれは。まさか私の下まで来るとは、どうやって突き止めた?」

「状況判断です。あなたが出張ってくるとは先生も予測していましたから。先生を倒すことに固執するあなたなら、先生が一番身動きの取れなくなるタイミングを狙ってくるとは思っていました」

 

 ですが、と言葉を区切る。

 

「何よりも嫌な予感がしたから、でしょうね」

「はは。なるほど。その実、私の居場所を勘で探り当てるとは実に才覚がある。だがあいにく君にはさほど興味はない。せいぜい奴への釣り餌として利用する程度か」

「そうですね、私もあなたに興味はありません。ただ先生の邪魔をさせないことが私の目的ですので――」

 

 

 

――最初から、全力で参ります。

 

 

 

「天を統べる神の雷霆よ。極寒の星、厳冬の女神よ」

「サモンゼウス」
 
「サモンセドナ」
         

 

 

 ――シノブは二つの魔法を同時に使用した!

 ――神々の力が天罰となって敵を襲う……!

 

 

「ごかっ!?」

 

 

 重なる二つの音。

 その言霊に込められた膨大なマナに身構えたジェスターへ無慈悲な天罰が下る。

 

 電光が半身を焼き焦がし、絶凍がもう片方を芯まで停止させた。

 並みならぬ神々の力を借り受ける召喚魔法の奥義。さらに異なる属性を同時発動する並列詠唱(マルチスペル)。ミクロコスモス論を用いて体内のマナを増幅、制御し、効率的に運用する天体航路理論をわずか一年で習得して見せたシノブだからこその神業である。

 

 文字通りの瞬殺。

 

 

「――ん、ンン。なるほどなるほど。流石はアルカナに見初められるだけのことはある。立場が違えば、是非エルセブンに招くほどの逸材よ」

 

 だが、この程度で白翼の十三家。その一角を落とせるなどとは片腹痛い。

 

 右半身が炭化していながら、ジェスターはその魔法の威力に感心する。

 左半身が凍死していながら、ジェスターは余裕の笑みを浮かべる。

 

「しかしあと一歩足りなかったな。私を滅ぼすには」

「……ッ、やはり死にませんか」

 

 湧き出た影がジェスターの遺体を呑み込み、瞬く間に無傷のジェスターが現れ出た。

 

「私を一度殺した褒美だ。我が虚数の一端を教授しよう」

 

 ジェスターの足元。蠢く影から這い出る黴あるいは霞。瞬く間にあふれ出したそれはシノブの足元に纏わりつく。

 ぞぶりと怖気のする感触から咄嗟に振り払おうとするシノブは、得体の知れない減衰感に襲われる。

 

「これは……!?」

「『影蟲』。魔力に反応し、マナを貪り増殖する。その身をもって学びたまえ」

 

 

 マナを食い荒らす魔物を生み出すそれは、魔法使いの天敵ともいえる術。

 いかに魔導の巨人といえども、片っ端から魔力を奪い取られれば矮小な少女に過ぎない。

 だがその侵食速度を上回るのがアルカナの用いる天体航路理論。シノブは体内のマナを急速に練り上げてこの影蟲を焼き払おうとする。

 

 

「サモン――」

崩れよ(Thwart)

 

 

 

 ――シノブはサモンアグニを唱えた!

 ――ジェスターはその魔法を打ち消した!

 

 

 

 指を一つ鳴らす。ただその仕草だけで練り上げたマナが霧散し、サモンアグニが不発に終わる。

 

 

「っ、打消呪文(カウンタースペル)……!」

「然り。素晴らしきマナの回転数だが、影とはあらゆるものに侵食する。高度な術式ほど、一つの乱れが致命的だ」

「《スター》!」

 

 吸い上げられていくマナを振り絞ってシノブは魔法を発動する。

 光が煌めき、ジェスターの身体に幾つもの穴が開く。

 

「――ッ、この魔法は……ッ!!」

 

 致命的な臓器を的確に破壊され、おびただしい血を吐き出すジェスター。彼の命がまた一つ消え、その手段をとった彼女の評価を見直す。

 

「白翼の血を引かぬ者が星魔法を操るとは……なるほどお前の才能は我々すらも凌駕しているか!」

 

 ジェスターの傷から靄めいた黒が溢れる、混沌が肉体の欠損を埋め合わせて魔術師は再び蘇る。

 そのまま影が蠢き、シノブの手足を絡め取った。

 

「ッ……!!」

「しかし解せぬな。それだけの才能があってなぜこのような弱国に留まっている? 私から見てもわかるぞ。お前は世界を変革できる器だ。だというのに、このような間違った文明の粛清も、新たなる秩序の構築も行わず。ただ現状維持に甘んじて大樹の芽を腐らせてるなど、愚かとしかいいようがないな」

「……そう、でしょうね。皆が私を天才と褒めたたえる。先生も私は世界を変える存在だと言った」

「その通りだ。君はここで命を落としてよい存在ではなく、この偽りの平和の中で無為に時間を過ごす存在でもない」

 

 ジェスターは勿体づけるようにかぶりを振る。煽動者として彼に染み付いた仕草は、これから語らせる言葉を容易に想像させた。

 

「よかろう、気が変わった。どうかなシノブくん、君は我が理想たる完全秩序を築き上げるための同志として実にふさわしい。確執のあったマクスウェルがいなくなった今、我々と意を違える理由もあるまい? どうだ、せっかくなら私と共に世界を変えてみないか? 善悪の測りなどに縛られず考えてみるといい、視野を遠く、より大きくするのだ。さすれば――」

「お断りします」

 

 大仰な仕草。的を射た言葉。声色の緩急。()()()()()()()()()()()()()()

 なるほど。これは魔的だ。

 人の罪悪感、劣等感につけ込むのがうまい。敵対しているというのに安心感を錯覚させる。絶妙なうさん臭さが、却って疑念を伸長させる。

 ただ赦しを願っていたかつての自分なら、この誘いに乗ったのだろう。

 ……でも。

 

「私にはその資格はない。先生は私に教えてくれた。この世界の広さ。人の醜さと弱さ。……そして、そんな世界でも輝こうとする、人の強さを。私はこの世界のことを何も知らなかった。そんな未熟者が結論を出していいほど、この世界は弱くない――!」

 

 犯した罪。失ったもの。

 そのすべてを抱えると決められたわけではないけれど。

 それでも、彼女は選んだかもしれない未来と改めて決別する。

 それは愛を知り、出会いを経て少女が抱いた、断固たる決意だった。

 

「何を言うかと思えば、結局はアルカナの受け売りとは! よほど寝首を掻かれるのが恐ろしかったようだなあの女は!! その愚かさこそが世界そのものへの侮辱。己の使命に胡坐をかいたツケを見せつけてやるとしよう」 

 

 問答は終わる。

 影から伸びた牙が鎌首をもたげる。

 シャドウバイト。影の牙で相手を捕食する技だ。

 

「才能は惜しいが、憂いは早々に刈り取っておかねばな。我が混沌の中で糧となるがいい」

 

 先ほどの一撃で余剰魔力は尽きた。影蟲が魔力を回復した傍から捕食していくこの状況ではこれ以上魔法を行使できない。

 影に拘束されたシノブに最早為すすべはなく……。

 

 

「私の可愛いシノブに何しようとしてんだ。残骸」

 

 

― スター・アサルト ―

 

 

 

 ――アルカナはスターアサルトを唱えた!

 ――無数の流星が敵陣に降り注ぐ!

 

 

 

 幾つもの流星が降り注ぎ、ジェスターを影蟲ごと焼き払う。

 解放されたシノブの身体を優しく抱き留めたのは、星の輝きを身に纏って現れたアルカナだ。

 

 

「先生……」

「よく頑張ったねシノブ。ここからは私の出番だね」

 

 

 微笑み、撫でてからシノブを降ろし、アルカナは黒い沼から這い出したジェスターを見下ろす。

 

 

「やはり現れたかアルカナ。しかし大事な皇帝の御守はよいのか?」

「そんなもの、もうじき片付く。あとうちの子のほうが大事だし。というわけでもっかい死ね」

 

 そう言ってアルカナが無造作に構えた手の指には、銀色の液体が滴っていた。

 

「"小さく速く。其は星の海を流れるもの。固まらず、溶けず、消えず。この手に在るは戦を拓く刃なり"」

 

 

― 水星の剣(ソード・マキュリア) ―

 

 

 

 ――アルカナは水星の剣を唱えた!

 ――目にもとまらぬ刃が敵を両断する!

 

 

「がぱっ」

 

 

 人差し指と中指を揃えて横に振る。

 それだけで再生中のジェスターの身体が上下に両断された。

 

 反応を許さない速度での遠慮のない一撃。

 その正体は速度と流体を司る惑星(水星)の力を模した斬撃であり、そこから語源を経た水銀をも引用した文字通り流れるように繰り出される攻撃だ。

 抵抗も許されない無様を晒した革命家は、遥か届かぬ領域にいる女を見上げて笑う。

 

 

「ハハハハ。今回も私の負けか」

「ああそうだ。サハギンも魔導鎧もハグレ達も、お前の用意した軍団はこれで全部おしまいだ」

 

 見ろ、とアルカナは今まさにアンノウンプラントが滅んでいく姿を後ろ手に親指で示す。

 

「何を言っている……我が手勢は未だ健在。帝国を掌握できぬというのなら、手段を新たに講じるまでよ」

「何度やっても同じだよ。()()()()()と解放戦線。どっちが()()()()()()()()()()()かなんてのは既に決着がついた。何度やっても同じ結果になるのは流石にわかるだろ? お前はとっととエルセブンに帰って頭の固い連中の御機嫌取りでもやっていろ」

「――――なんだと?」

 

 一笑に伏そうとして、思わず聞き返す。

 

 今、この女は我が解放戦線を何と比較した?

 帝国を存続させることが、彼女の抱いた命題ではなかったのか?

 

 未だ道化の身にすぎない男は、そこで己の失点に気が付いた。

 

「なるほど。つまるところ私は仮想の敵すら見誤っていたか。やはり、貴様を倒すにはまず同じ土台に立たなくてはならないな――」

「なんだと?」

 

 

 聞き捨てならなかったが、既にジェスターの姿は影に覆われている。

 

 

「私は諦めぬぞアルカナ。貴様を打倒し、この腐敗した世界に完全なる秩序を築いてみせよう――」

 

 

 その言葉を最後にして、影は消えた。

 

 

「……コッテコテの捨てセリフ吐きやがって、芸がないんだっつーの」

 

 

 

 

 

 

『獣人の誇り』

 

 

 

 

 ――石畳の一部がガコンと動き、下から持ち上げられる。

 

 

 そこから顔を出したアプリコは、ぐるりと周囲を確認する。

 

 地下水道の中に設けた隠し通路。そこから進んだ先にあるのがここ、帝都工業区の外壁部。すぐ側に森が隣接し、さらに西に向かえば山間部がある。ひとまずはそこに潜伏し、待機させていた部隊との合流を図るつもりだ。

 

 正門の待機組の多くはケモフサ村で引き込んだ勢力だ。彼らもあの演説、すなわちハグレ王国の言葉は聞いていたはずだ。各地でハグレ差別の被害を受けてきた彼らにはハグレ王国よりも先にこちら側へ味方するよう誘導したが、不和を防ぐためにハグレ王国が悪だとは吹き込んではいなかった。彼らの中にも元の世界への帰還を望むものもいるだろう。果たしてどれだけの数がこちら側に残るのか。例え一人残らずハグレ王国に向かったとしても徹底抗戦を掲げるつもりではあるが。

 

 思案と共に周辺の確認を終える。どうやら出た瞬間に包囲されている、などというこの手のお決まりは避けられたようだ。

 

 

「こっちだ」 

 

 

 そして穴から這い出て、部下たちを促したその時。

 アプリコは急速に近づいてくる気配を察知してナイフを構えた。

 

「どこへ行く、アプリコ」

 

 現れたのは青毛の獣人。普段なら決して身に着けないだろう、お世辞にも似合っているとは言い難い仕立て服を着こんだその男――マーロウの姿にアプリコは驚愕を顔には出さず、ただ一言問うた。

 

「なぜここがわかった?」

「十年前、私は帝都に奇襲を仕掛ける計画をお前と共に組んだ。段階を分けて行う内部破壊工作作戦……結局は立案後すぐにアルカナの襲撃によって降伏したから実行に移されることは無かったがな。その時お前が考案していた退路を思い出しただけだ」

「……盲点だったな。結局私は、最初から敗北の屈辱を挽回することに固執していたようだ」

 

 懐古するように自嘲の言葉を口にしてから、アプリコは部下たちを地上に出す。彼らは自分たちの前に誰かが立ちはだかっていることに気が付いて身構え、それがマーロウであることを認めて驚愕する。

 

「あ、マーロウさん……」

「久しぶりだな。皆、元気そうでなによりだ」

 

 元村民を案じながらも、彼から発せられる気迫は衰えない。その巨躯の立ち姿のみで、彼らの逃走を阻む意思は十全に伝わってきた。

 

「じき追手が来るだろう。降伏しろ、アプリコ」

「悲しいな。まさか君が心根まで帝都に下ってしまうとは。どれだけ劣勢されても屈することのない意志はとても頼もしかったのだがね」

「帝都の狗になったつもりはない。だが、お前たちの狼藉を見逃すつもりも無い」

 

 決断的に一歩を踏み出せば、その青い体毛が雷を帯びて光る。その瞳は獲物を狙う狼、食物連鎖の頂点に立つ圧倒的捕食者のもの。獣人たちの本能が彼に恐れを為してその場に釘付けにする。

 

「恨みに引きずられて戦ったところで、誰一人としてお前たちを顧みる者はいない! それではプラムも浮かばれない! お前があれだけ拘っていた息子の名誉すら穢してることがわからないのか!」

「構わないよ」

「――なに?」

 

 吹っ切れたようにアプリコは自らの思いを口にする。

 つまらない理由で飾り立てる必要のない、ありのままの欲望を。

 

「気づいたのだよ。いや、最初からわかっていたのだな。我ら獣人。生まれた世界は違えど、その本能は同じ。名誉だ勲章だと理屈をつけずとも、戦い続けることこそが宿命。ならば息子にするべき弔いもまた、我らの手で敵兵の血を大地に満たし、天に捧げることだ」

「ただ力に溺れるだけのどこが宿命だ! 血に酔い、肉を貪る。それでは知性を得られなかった畜生となんの変わりもない!!」

 

 獣人とは獣としての力と人としての知性を両立する存在。だからこそ、その力を振るう先は大義のため、弱者を喰らうのではなく強者を挫くために振るうのが獣人の誇りなのだとマーロウは説く。

 

「敵を滅ぼすために知恵を捻り、理性によって統率された軍隊を率いる。戦争とは知性ある人間にしか行えないものだ。ただいたずらに暴れる獣の殺し合いとは、天と地の差がある。そして戦争で決まるのは個人ではなく帰属する集団の優劣。我々ハグレが帝都の者たちよりも優れていることを証明し、生存圏を勝ち取るためには戦争を続ける以外にないのだよ」

 

 話は平行線を動かない。

 アプリコは柔軟な思考の持ち主だが、その芯は極めて頑固。

 マーロウは説得を打ち切り、話題を個人的な疑問へと切り替えた。

 

 

「――だったら、なぜ今回はこんな回りくどい真似をした? クックルを手中に収めていたならば、魔導兵と共に帝都を正面から制圧にかかればよかった。お前の策謀ならいくらアルカナが相手だろうとかく乱できたはずだ」

「確かに、アルカナの力を制限するのは我々が帝都への潜伏を選択した理由の一つだ。だがそれ以上に、私の策略を阻むものがハグレ王国にはあった」

「なんだと?」

「小さき王の持つ鍵だよ。キーオブパンドラ。空間と空間を自在に繋げるあの鍵がある限り、どのような戦術戦略を組んだところで後の先を取られるだけだ。仮に部隊を分散させたところで、各個撃破されるのは目に見えている。もし君がハグレ王国と敵対したとしても、真っ先にあの鍵杖を奪うことが最優先目標となるはずだ」

「……ッ!」

 

 業腹だが、その通りだ。

 マーロウも戦士の経験からあの鍵がどれだけ規格外なのかは理解している。仮にアルカナが存在せず、自分たちが帝都への憎悪を募らせて反旗を翻したとして、真っ先に障害となるのはハグレ王国だ。デーリッチの持つキーオブパンドラを押さえるか、転移そのものへの対策がなければ選りすぐりのハグレが揃ったあの王国にはほとんどの国が苦戦を強いられるだろう。

 そして一度確保に失敗した以上、下手に戦略を練るのは時間の無駄であり、むしろどういう方法で転移を使わせられない状況下に持っていくかが肝心となる。

 その点で見れば、転移とハグレ達の行動範囲を制限させられた帝都潜伏は妙手だったと言える。

 

「……なるほど。彼女たちの事をよく理解しているな」

「私からすれば、帝都なんかよりもよっぽど恐ろしい存在だよ。同志ジェスターはハグレも現地人も平等に扱うが、私に言わせればあれは悪平等だ。アルカナに執心するあまり物事の基準すら彼女になっている。こればかりは私も彼の事は笑えないか」

「笑い話とは、随分と呑気なことをするな」

「勿論、君が始めた話だからな。時間稼ぎとして門から来る衛兵たちを待っているのだろう? 正門に集中させているとはいえ、西門にも何人か配備されていたからね」

 

 ガチャリガチャリと金属を鳴らす音が重なって聞こえる。

 しかしそれはマーロウが背にする南の方角ではなく、ちょうどアプリコ達が逃げ込もうとしていた森の方向から。

 

「どうやら援軍が来たようだ――我々の援軍がね」

 

 色素の失せた髪と赤い瞳。

 酷似した顔立ちをした不気味な集団は、明らかに帝都の兵ではない。

 最早見慣れたそれはホムンクルス兵――ジェスターが錬金術で製造する禁忌の人造人間だ。

 

「お迎えに上がりました。アプリコ様」

「ありがとう。君たちには続いて殿を命じる」

「かしこまりました」

「行かせると思うな……!」

「この人数を相手にか? ホムンクルスは短命な分、能力はハグレに劣らない。加えて君は今、武器を持っていない。戦力差を見てわからぬほど、君が老いたとは流石に思いたくない」

「――耄碌したのはお前のほうだ。アプリコ」

 

 雷光が兵士たちの間を駆ける。斧を叩き落し、槍をへし折る。剣を奪って攻撃をいなし、脇腹に突き立てられた刃はそのまま強靭な皮膚と筋肉で防ぐ。

 文字通りの雷狼となったマーロウは、一騎当千の戦士としての猛威を存分に振るう。

 

「生まれた世界が異なれど、我ら獣人は生まれた時から武器を持っている。牙と爪、この二つがある限り、獣人族の誇りが失われることはない。

 ――だからこそ、戦うための理由を見失っては我らは卑しい獣に堕ちるのが、なぜわからない」

 

 そうしてすべての兵士が倒れた後。

 アルカナが用立ててくれた服を自らの血で濡らしながらも五体満足で立っていたマーロウに、アプリコは感嘆の息を漏らした。

 

「見事だな。十年前と変わらないどころかより洗練されている。だが、おかげで私も時間稼ぎができた」

「なっ――!?」

 

 アプリコの姿が靄にかかる様に薄れていく。

 彼が行使したのは水晶洞窟でも見せた撤退用の魔術。しかし地形操作の魔術は自然界のマナに働きかけるもの。人工物の中では使用できないはずだ。

 

「帝都の内側なら使えないが、ここなら半分は自然だ。多少時間はかかるが使えないというほどではない」

「待て、……ッッ!!」

「我々はしばし力を蓄えよう。次に遭う時はお互いの戦場になるだろう」

 

 薄れていく気配は止められない。

 せめてマーロウは吠えるも、忘れていた痛みが顔を歪める。

 

「さらばだ戦友(とも)よ。欲を言えば、君とは同じ陣営で戦い続けたかったよ」

 

 

 

 

 

「マーロウさん!」

 

 

 西門から報せを受け、急いで駆け付けてきた召喚士たちが見たものは。

 

 

 倒れ伏す兵士たちと、外壁にもたれかかる血塗れのマーロウの姿だった。




○シノブ
 実は原作よりも強い。
 毎ターンMPとTPが回復しているし、二回行動もたまにする。

○アルカナ
 通常だと六属性魔法は一つずつしか使えない(MP効率が悪い)が、星の逸話を用いた各種属性魔法を使うこともできる。
 水星の剣は近接物理。速度補正+1000。
「でもぶっちゃけこれ使うよりも先手取ってステラすればいいし……」

○ジェスター
 最初のコンセプト:カンスペ積みまくって魔法を打ち消しまくる。
 ある意味でざくアクそのものにメタ張ったような敵。
 まだまだ暗躍する気満々で撤退。
 【影蟲】:毎ターンMPを20%削る&MP回復率減少。MPが無くなると解除。

次回は後日談。
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