ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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久しぶりの幕間です。
いつもの文量に比べると1/2でお手軽です。


その74.彼ら彼女らの一幕・漆

『道場破り』

 

 

「ぐわーっ!」

 

 木剣の競合いに推し負け、ルークは床に転がる。

 受け身を取り、敷かれているのは畳なので怪我はない。

 しかし体力は既に底を尽き、散々打ち据えられた体の節々が痛みを上げている。

 

「大丈夫か?」

「バテただけです……お気遣いどうも。マーロウさん」

 

 手を差し伸べて立ち上がる手助けをしたのは、つい先日に王国の一員となった獣人マーロウであった。

 

「ひとまず休憩しよう」

「うっす」

 

 既にあるハグレ道場の代わりに、昔取った杵柄を活かして劇場を開設したマーロウではあるが、それはそれとして道場には師範役として通うこととなった。

 単純な戦士としての経験値ならば王国の誰よりも多いマーロウ。ジュリアが護りの大楯ならマーロウは攻める豪剣。彼の指導によって得られるものは大きく、多くの仲間たちが彼との交流も兼ねて道場での鍛錬に励んでいる。ルークもその一人だ。

 他の王国民たちが鍛錬する様子を、壁にもたれかかった二人は眺める。

 

「君も意外と熱心なんだな。よく前線に出ているからあまり鍛錬の必要はないと思っていたが」

「――ん、ぷはっ。そっちは冒険者としての経験を買われてるんですよ。正直、ここまで連れまわされるとは思ってなかった」

 

 マーロウの問いに、ルークは口から水筒を離して答えた。

 

「実力で言うなら俺は王国の男連中じゃ誰よりも貧弱だ。この前にはついにベルにも腕相撲で負けちまいましたよ」

「子供は成長が早いからな。……それを抜きにしても、ハグレの身である我々とでは体のつくりからして違う。その向上心と克己心は素晴らしいが、必要以上に悩むよりは持ち味を活かすのが良いと思うよ」

「お気遣いどうも。まあ、この世界の人間のくせにわけわからん強さしてる奴らもいるけどさ。柚葉さんとか」

「彼女か……力はほどほどだが何よりも速さが秀でている。特に抜刀の瞬間は私でも目で追えなかったよ」

「和国ってのはそういう修羅ばっかりいるんすかねえ」

 

 などと談笑していると、道場の門が唐突に開かれる。

 噂話が呼び水となったのか、現れたのは和装に身を包んだ男。

 ……というか薙彦だ。

 

「どうもどうも。ここがハグレ王国の道場で合ってますかな?」

「おや、君は確か……」

「こうして言葉を交わすのは初めてですね。小生、始末ヶ原薙彦と申す者に候」

「なるほど。君がアプリコの言っていた始末ヶ原くんか……」

「左様に。そういうあなたはマーロウ殿、で合ってますかな?」

「その通りだ。奴から多少なり話は聞いていたか?」

「ええ。策の練りがいがある益荒男。理想の将軍だったと聞き及んでおります」

「あの馬鹿……話を盛りすぎだ。私はあの中で最も戦いというものに慣れていただけだ。決してもてはやされるような存在ではないよ」

「ふむ、力を誇りつつもそれに驕るような真似はしない……よい心構えですね」

 

 袂を分かった旧友からの賛辞を又聞きして少し面映い思いを抱えるマーロウ。しかし戦士として純粋な尊敬の念を送られることを悪く思ってはいないようだ。

 

「ところで薙彦殿、何の用事でこの道場を訪れたのですか?」

「そうですねえ……」

「道場破りだ!」

 

 と、そこで道場の主であるハオが嬉々として駆け寄って来る。その背中の槍には、既に手がかかっていた。

 

「やめないかハオ殿。申し訳ない、私の時も同じようなことをして槍を投げてきたのですが、彼女に悪気はないのです」

「おや、あなたがここの道場主ですか?」

「そうだよ! あなたも訓練に来たの?」

「そうですねえ、ではあなたと手合わせを一つ」

「いいよ!」

「てか、お前右腕大丈夫なのか?」

「骨は繋がりましたよ。なので調子を確かめておきたいんですよね。というわけで」

 

 薙彦は穏やかに対応する。そして、

 

「――ここの看板、貰っていっても構いませんか?」

 

 人当たりの良い笑みを浮かべたまま薙刀を構えた。

 

「道場破りだったー!?」

「うん。実はなんとなくそんな気はしてた」

 

 驚くマーロウと、遠い目で納得するルーク。

 このナギナタボーイ、割とこういう喧嘩にはノリノリで参加する馬鹿であった。

 

「道場破り! ハグレ道場の看板は渡さないヨ! このハオといざ勝負!!」

「投げ槍……ふむ、長物での試合は幾度と行ってきましたが、投げる相手とは珍しい」

「やめないか君たち! 周囲にはまだ他の人たちもいるだろうが」

「マーロウさん、こいつらには無駄ですよ」

 

 もはや一触即発……その時!

 

「よーっす、()ってるか?」

「居酒屋みたいなノリで来るんじゃねえ!」

 

 再び道場の扉が開き、気さくに顔を出したラプスにルークのツッコミが炸裂する。

 

「戦場も酒場も同じようなもの。血に酔うか酒に酔うか……それぐらいの差です」

「うまいこと言ったつもりか!? ここは道場だ、流血沙汰は禁止だっつーの」

「そうか? あたしの実家の道場とか、骨折ぐらいはいつもの事だったけどな」

「物騒すぎないお前の家?」

 

(((まずいな……だんだん戦闘馬鹿が揃ってきてやがる。このままだと収拾つかねえぞ)))

 

 ルークは冷や汗を流し、これ以上面倒なことになる前に逃げだそうとする。

 

「ちわーっす! ここでは可愛い女の子が道場主やってるって聞いてきました!」

「また変なのが来やがった! もう帝都編は終わったんだよ出しゃばってくんな!!」

 

 そこへ投入されるおっぱい紳士。

 ついこの間に見た顔が揃ってしまったことへのツッコミを入れるも、事態は既に後の祭り。

 バトル馬鹿が四人も集まってしまったこの飽和空間はどの戦場よりも激しくなることが予想される。

 

「ハオオオーーっ!? 道場破りがこんなにいっぱい!? こうなったら光の巫女、全力で相手するよ!」

「うっひょーっ、ビッグじゃないけどちょうどいいサイズ。しかも野生児スタイルとはつまり体と体が触れ合う距離での肉弾戦がご所望でよろしいんですか!?」

「光の槍の前に敵はなし! ハオ参る!!」

「あっ、槍ですかそうですか……」

「だから止せといっているだろう君たち!!」

 

 マーロウも木剣を手に取り、暴れだそうとする彼らを実力行使で抑えようと飛び込んだ。

 ルークはその騒ぎの傍ら、こっそり場を抜け出そうとしていた。

 

「知らん知らん。おれは帰るぞ……」

「おいルーク、ちょうどいいからお前も鍛えなおしてやるよ。来い!」

 

 むんず、とルークの首根っこをラプスが掴む。もう逃げられないぞ。

 

「もうやだ……」

 

 

 この後、ルークは無事筋肉痛となって丸一日寝込みましたとさ。

 

 

 

『罪と誉』

 

 

「ひー、疲れた疲れた」

「あ、ルーク。ベルもお疲れ様」

「アルフレッドさん! お疲れ様です」

「珍しいな、お前が昼間に拠点(ここ)にいるの」

「今日はゴースト発生率がどこも10%を切っててね、ちょうどいいから休みにしたんだ。せっかくだから一緒に昼ご飯でも食べるかい?」

「はい!」

「なんならマッスルも誘うか」

 

 よく晴れた昼下がり。

 男たちがぞろぞろと食堂へと向かう。そのうちの一人を、じゅーっ、とクリームソーダをストローで吸い上げながらイリスは眺めている。

 その様子を珍しく思ったゼニヤッタはイリスに尋ねる。

 

「おや、イリスさん。ルークさんを見つめているようですがどうしたのですか?」

「まあナ。あのチェリーボーイ……いや、もう卒業したからナイスガイだな。中々面白いやつだとな」

「はい。帝都での一件を得てより逞しく、素晴らしくなったと思いますわ」

 

 その言葉に反応を示したのは、対面でもぎゅもぎゅとハンバーガーを頬張るヘルとチキンナゲットにチョコソースを付けてつまむミアだ。

 

「何、あんた達ルークの事タイプだったりするわけ?」

あげませんわよ?

「誰も取って食わねえから安心しろ。特に妹、目が一切笑ってねーぞおっかねーな。……そうじゃなくて、元からいい感じに罪背負ってる奴が、より男前になったと思っただけダ」

「つ、罪?」

 

 想像とは明後日の方向で彼が評価されていることに首を傾げるヘルラージュ。その頭にはハテナが大量に浮かんでいる。

 

「確かにアイツは結構やんちゃしてたらしいけど……そういうのが良いってこと?」

「はい。悪魔にとって罪とは誉れ。悪行を重ね、より大きな罪を背負えば背負うほど、魔界では畏れを抱かれるのです」

「あー、なんかそんな感じのこと前に読んだ気がするわね」

 

 どうやら悪魔の価値観では善人と悪人の基準が真逆、ということらしい。いや、善と悪は人間と同じだが、賞賛されるのは悪徳であるというべきか。確かに地獄や冥界といった死後の世界に住み、人を誑かして悪の道に貶める悪魔らしい発想ではある。

 

「そういうワケで、ルークという奴は中々に見ていて面白い。どれくらい面白いかというと、アイツの持ってる呪物を管理してる死神が、奴の駆けずり回っている様が酒のつまみになるからってわざわざ身近な死を遠ざけているぐらいだな。アレがなかったらアイツはもう10回は死んでるな」

「それ《死の弾丸》よね!? そんなにヤバいものだったのアレ!?」

「あいつやけにしぶといなと思ってたけど、そういうことだったのね……」

 

 帝都でも3回以上は死にかけていたルークだ。最早そう易々と死ぬことは許されていないのだろう。

 

「で……前科と言ってましたけど、ルーク君は今どれくらい罪があるんですの?」

 

 ヘルは戦々恐々ながらもイリスに尋ねる。

 とはいえ、彼のこれまでの発言からすれば罪は同じ悪人相手の殺人と窃盗ぐらいのもの。同じならず者相手では帝国の司法が取り合うことはないレベルだ。いや、何度か貴族相手の強盗を行ったことはあったか。こうして考えてみるとかなり危ない橋を渡っているな彼。

 

「今のアイツなら、ンー……前科50犯といったところカ」

「いや多いな!? どんだけ悪さしてきたんだアイツ!」

「凄まじい前科の数ですわ……。私などまだまだ10犯も行きませんのに」

「いやいやいや……。一体どういう内訳が為されているんですの!?」

 

 ゼニヤッタが自身の未熟を省みるが、問題はそこではない。

 

「そうだナ。まず『レベル上げすぎの罪』で2犯、『盗みを極めしの罪』で10犯、『やられすぎの罪』で2犯、『遭遇表振り過ぎの罪』で6犯、『カルマ取り過ぎの罪』で6犯、『キャンペーンをクリアした罪』で10犯、『金稼ぎすぎの罪』で2犯……」

「無茶苦茶な内容ですわね!?」

 

 指を折ってひとつひとつルークの罪を数えていくイリス。中には明らかに罪かどうか怪しいものまで混ざっていることにヘルはツッコまざるを得ない。最早言いがかりとかそういうレベルではない。

 

「ちなみにオマエは『レベル上げすぎの罪』と『男誑かしすぎの罪』、そして『深夜お菓子罪』で累計6犯だ。まだまだ甘ちゃんダナ、精進しろヨ」

「そんな励ましいりませんわ!」

「……ヘル? あなた午後九時以降のお菓子は禁止って言ったはずだけど?」

「ひぃっ!? ごめんなさいお姉ちゃん! もうしないからぁ!」

「……まあいいわ。今日からちゃんと気を付けること」

「はぁい……」

「だだ甘だなオマエ……」

 

 妹に厳しく振舞っているようで、滅茶苦茶に甘やかしているお姉ちゃんである。

 とはいえ、叱られたことは事実なので、ヘルは背中を小さくながら食器を返しに行く。

 

「しかしヘルでも6犯って……それじゃあ私はどうなるのかしら?」

 

 妹が立ち去ったことを見計らって、ミアは自分の前科を尋ねる。

 人の生き血を奪い、両親を殺し、妹を無益な復讐の道に走らせた。そんな自分はきっと大罪人だろう。

 

「ハッ」

 

 ミアの思惑を見透かしたようにイリスは鼻で笑う。

 

「オマエも妹と大して変わらんナ。せいぜい『黒魔術を極めた罪』でボーナス12犯程度だ」

「……は?」

「おっと、伝わらなかったカ? お前の期待しているような罪はゼロだ。お前らの親殺しなんぞ罪に数えるまでもない」

「なによそれ、ふざけてんの!?」

 

 抗議の余りテーブルを勢いよく叩いてしまう。

 自分の所業が罪ではない? そんなわけがないだろう。両親の行いは確かに罪だ。そして自分のためを思って行われたそれを拒絶し、彼らの命を奪った自分の行いも罪でなければならない。それが自分の存在意義で、それを贖うことだけが生きる意味。妹の幸せのために、この穢れた命を費やすことだけが己の価値。今のイリスが言った言葉は、そのすべてを否定するに等しかった。

 それとも悪魔だから最初からいい加減なことを言って、自分に甘い言葉を言って弄んでいるのか?

 

「ミアさん、少し落ちついたほうが……」

 

 ゼニヤッタが制止する。それほどの視線をミアはイリスに向けている。実際に何かしらの呪いが混ざっていると言われてもおかしくはない凄みを放っていた。

 だがイリスは最高位の悪魔だ。その程度の悪意で動じることはなく、ストローがずごっという音を立ててからようやく口を開いた。

 

「そうそう。一つ教えてやるヨ。悪魔にとっての罪とはな、自分のために他者を踏みにじる行為のことだ。弱肉強食は魔界の鉄則。妹のために親と自分を犠牲にしたオマエは、吐き気がするような善人だヨ」

 

 イリスはわざとらしく舌を出す。

 お前の抱えている罪悪感なんぞ、最初から見当違いのものだと言っているようだった。

 

「だいたい、お前たち人間が生きてる間の罪の重さなんか気にしたってしょうがねーダロ。ワタシは1000犯は下らないからナ。冥界の姫嘗めるんじゃネー」

「そんなのでマウント取られても別に悔しくないわよ」

 

 冥界の姫は底の底まで飲み切ったグラスを返却しに立ち上がる。

 そこでちらりと振り向いて彼女は一言、

 

「自分の終わりにビクビクするような真似はやめときナ? そんな死んだように生きてる奴なんか、見ていたってつまんねーからナ」

「……あなたを楽しませるために生きてるわけじゃないわよ、私は」

 

 ミアラージュは遠ざかっていくイリスの背を見つめ、

 

 所詮人を誑かす悪魔の言うことだと、あまり真に受けないようにした。

 

 

 

 彼女の凝り固まった死生観に変化が起きるのは、まだ先の話である。




○ルーク
 ダイスの女神と死神に愛されている。

○悪魔の罪
 要するに某やり込みすぎなSRPG第二作目のアレ。
 真に受ける必要はないです。

○イリス→ルーク
 フラグとかはないです。単に地獄行き確定のおもしれーやつ程度の認識です。
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