ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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その76.おたから争奪戦

『森のキノコにご用心』

 

 

 

「さあとっちめてやるんだド! ぶっかませ舎弟1号!」

「うぇぁー」

 

 キノコニンジャの号令を下し、涎を垂らしたままのワタナベが杖を振り上げる。キノコの生えた地面がもこもこと励起していき、あっという間に全身にキノコを生やしたロックゴーレムが出現した。

 

MUUUUSH!!

「うおおっ、なんだこりゃ!?」

「これぞキノコ忍法、土人形の術! 巨人どものサイズ差もこれで同じだべ!」

「なんてことだ……」

「ぬはは、流石の巨人どもも肝を冷やしたかド!」

「くそっ、見た目が最悪だ!」

「ええ。こんなものとても文章でも描写できませんね」

 

 人型のロックゴーレムにあちこちにキノコが生えているという見た目は場合によっては非常に危険だ。これが単純なキノコ怪人なら恐ろしいと思えるのだが。いやこれも色んな意味で恐ろしいが。

 しかしてその見た目によらず、熟練の大地魔法使いが生み出したロックゴーレム――いやマッシュゴーレムは強さもまたひとしお。エステルの初手フレイムを何ともないように突っ切り、ゴウンと唸りを上げて襲い掛かってきた。マーロウが剣で斬りつけて大きく弾き飛ばすが、マッシュゴーレムは未だ健在だった。

 

「キノコ塗れとはいえ、やはりワタナベ殿のゴーレムか。これは手ごわい……」

「さっさとあの人を気絶させるなり、正気に戻すなりしなくちゃいけませんね」

 

 術者であるワタナベを確保すれば、とりあえずこの面倒な増援は止められる。

 プリシラの冷気を纏った刺突がゴーレムの身体を突き崩し、追い打ちとばかりにヴォルケッタの火球がドゴンドゴンと着弾する。

 

「おーほっほっほ! そんな菌まみれのものを近づけないでくださるかしら!」

MUSH!?

「うぼぁーっ!?」

 

 体に食い込んだキノコがこんがりと焼け、食欲を誘う香ばしい匂いが周囲に漂う。炎に巻かれたワタナベは突然襲ってきた高熱に反射的に立ち退く。どうやら自律的な行動はキノコの支配下にあるだけで、指示を受けたり咄嗟の防御などの受動的な行動は行えるらしい。

 マッシュゴーレムは動いてはいるものの片腕が落ち、体中にひび割れが入って端から崩れ始めている。

 

「よーし、大分削れてきたな」

「うぎゅぎゅ……ならばこれじゃ!」

 

 ドロンという音と共に霧が立ち込め、中から三人のキノコニンジャの姿が現れた。

 

「キノコ忍法、攪乱の術! おめぇらに本体のオラが見切れるかド!?」

「おー、忍者の定番だな」

「こういうのは全体攻撃で一掃してしまえば本体を探す必要もないわい。エステル、頼んだぞい」

「んじゃ悪いけどフレイム!」

 

 容赦なく炸裂するフレイム。しかし炎は分身を掻き消すどころか、なんと跳ね返ってデーリッチ達に牙を剥く結果となった!

 

「な、何ぃーー!?」

「ふははー! その程度の小賢しい考えはばっちり対策済みド!」

 

 幻術を用いた鏡面反射体は与えられた攻撃を跳ね返す。伊達にニンジャというクラスを極めていないわけではない。

 迂闊に全体攻撃を行えばこのように反射による大惨事。かと言って全体攻撃を止め、本体を見極めて集中攻撃を行えばワタナベによって生み出されたゴーレムが野放しになる。 なんと恐るべきキノコブンシン・ジツによる全体攻撃を誘発した上での反射攻撃による二段構えの狡猾!!

 

「反撃じゃー!」

「うぼあー」

 

 焦点の合わぬ目をしたワタナベが魔法を発動する。唱えられるのは代表的な地属性の全体魔法ロックブラスト。意識が無いようなものだが、どういうわけか発動できている。キノコによって思考が制御されているのだろう。

 

「そーら喰らえ、キノコ忍術奥義・胞子めちゃおこの舞!」

 

 岩の散弾を必死で耐えるルーク達。そこへキノコニンジャが畳みかけるように小さな体を生かして木々を飛び回り、上からばっふんばっふんと胞子を振りかける。エステルの展開したフレイムウォールが多くを焼き払ったが、運悪くモロに食らった男が一人。

 

「げほっ、ごほっ! ……っ、やべ。意識がだんだん……」

「大丈夫でちか!?」

 

 状態異常に対する耐性を持ち合わせていないルークは、胞子に含まれる毒と疫病と混乱のフルコースを受けてしまった。まず視界がぐらぐらと揺れ、泥濘に嵌ったように脚がおぼつかなくなる。皮膚の中で無数の蟲が蠢いているような感覚で身体を掻きむしり、次に痛みという概念が身体から消え失せた。朦朧とする意識は一周回って冴えてきたようにも思えた。視界も極彩色に満ちてきており、素晴らしい多幸感が全身を包みだした。ルークはおもむろに持っていた魔香草*1の紙巻に火をつけて吸った。もっと、もっと極彩色に! 

 

「スゥー……フゥ……うん、大丈夫。世界は一つ、俺たちはみんな大地に生まれた子供なんだ。ハハ、つまり俺はお前。お前は俺。武器を取っていがみ合う必要ナンテ無いじゃないカ。ハハハ」

「何一つ大丈夫じゃねー!?」

「またラリってるじゃねーか!」

 

 アップとダウンのジェットコースターと洒落込んだ結果、どうやら彼は自分と世界をオープンにつなげてしまったらしい。まるで大量に酒を買いこんで延々と飲み続けた亜侠*2のように、バッドトリップのループに陥ったルーク。そんな彼の耳に誰かの声が響いてきた。

 

『おや、またやってきたのですか。どうやら分身を出すボスに翻弄されているみたいですね。搦手を使うボス相手にアナンタさんみたいに突っ込んでいくのはお勧めできませんね。よーく相手の動きを見て本体を見極めるのです』ハーレルヤ

「ハハッ、簡単だな!」

 

 勿論自分にしか聞こえていない神託に従い、ぐるぐるの瞳でルークは周囲を見渡す。そしてハイテンションにナイフを手で数回弄んでから適当な方向目掛けて投擲を行った。

 

「そこだぁ!」

「みぎょっ!?」

 

 放たれたナイフの柄が見事キノコニンジャの額にぶち当たる。痛みでごろごろと転がるその姿は、微動だにしない分身と比べれば本物だと一目で分かる。

 

「おお、あれが本体か!」

キュアスペシャル(首斜め45度)!」

「ばぬぅ!? ……ハッ、俺は一体!?」

「だがこれで分かったぞ。みんな、動くのは本体だけだ!」

 

 ルークもタイガースイングで復帰して一転攻勢。最早ただのカカシでしかない分身には目もくれず、一斉にキノコニンジャへ攻撃を加えていく。対するキノコニンジャは分身の数を増やして対抗するが、数が増えたところでカカシはカカシ。一呼吸おいてから再び本体に集中攻撃が降り注ぐ。

 

「にょはー!? お、おのれー! だったら土人形の術で……」

 

 最早万事休すなキノコニンジャはワタナベに命じてさらなるゴーレムを召喚させる。マッシュゴーレムが二体追加で出現し、そこで彼女らの上空に影が差した。

 

「およ?」

「あら。ごめん遊ばせ」

 

 浮遊する大ブタ……ヴォルトントンに乗ったヴォルケッタが上空から大量に爆弾を降り注がせた。

 

「あばばばば!?」

「みぎゃー!」

「「「MUSH……」」」

「よーし、今だ!」

 

 これぞ爆炎ヴォルトントン。魔力で生み出した使い魔の豚風船に乗って敵の頭上を取り、これまた魔力で生み出した爆弾で敵陣を焼き払うというヴォルガノン流奥義。次々と爆発が起こり、周囲のフィールドが炎上する。そこにエステルのフレイムが炸裂した。

 炎への耐性を下がったところにこの劫火。耐えきれるはずもなく、菌糸を焼き尽くされたマッシュゴーレムはただの土くれへと還った。

 

「申し訳ないがワタナベ殿、お覚悟っ!」

 

 完全に動きの止まった隙を逃さずにマーロウがワタナベへと駆け寄る。そのまま脳天に生えたキノコを掴み、力任せにぶちっと引っこ抜いた。

 

「ウギャーッ!?」

 

 乙女にあるまじき悲鳴を上げて、ワタナベは気絶する。

 

「今、結構ヤバい音しなかったか……?」

「大丈夫ですかねあれ」

「まあ、アルカナさんの部下ですし、生存能力は高いんじゃないですか?」

 

 実際、倒れた身体はビクンビクンと痙攣しているので、まあ生きてはいるのだろう。

 

「おにょれー! おめぇら覚えてるだドー! うわーん!!」

 

 泣きべそをかきながら、キノコニンジャは森の奥へと消えていった。

 これで戦闘終了。徹頭徹尾締まらない雰囲気での戦いだった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「うーん……」

「気が付きましたかな。ワタナベ殿」

「……はっ!? ダンディなイケオジボイス!?」

 

 ガバっと身を起こしたワタナベはきょろきょろと周囲を見渡し、知っている顔が自分を取り囲んでいることに気が付いた。

 

「ん? あれ、マーロウさん?? なんでここに?」

「貴女がはぐれていたとヴォルケッタ殿から聞きましてな」

「あっ、ヴォルケッタちゃんだ! よかった~、無事だったんだね」

「無事じゃなかったのは貴女の方ですわ! ……全く、心配かけさせないでくださいまし」

 

 そう言ってぷいと顔を背けるという、お手本のようなツンデレを発揮するバーニングお嬢様。今日日ここまで純正のツンデレというのも珍しい。

 ワタナベはそんな彼女の仕草をにへへ、とほほ笑んでその隣にいた見覚えのある二人に視線を移し、さて誰だったかなと記憶を漁り出す。

 

「えーっと……エステルちゃんとメニャーニャちゃんだっけ?」

「正解。よく覚えてたね」

「アルカナちゃんの少ない生徒さんだもん……流石に覚えてるよ」

 

 アルカナは召喚士協会設立時から在籍しているが、彼女の研究室で育った召喚士というのは極々少ない。単純にアルカナが多忙であり、かつ主力だった貴族派の幹部たちに組織としての業務から遠ざけられていたという事情もあるが、それ以上に意図的に召喚士としての生徒を取らないようにしていたというのが大きい。

 表立って標榜したことはないが、アルカナの研究分野は「ハグレの送還方法について」。勿論これは召喚士とハグレの関係及びハグレ搾取が横行した帝都の平穏をぶち壊しにしかねないものであったため、これを迂闊な若者に教えるわけにはいかなかった。そこにシノブという規格外の天才が入ったことは、ある意味で運命のようなものだったのだろう。

 

 と、そんな裏事情はさておき。

 

「えへへ……どうも、ワタナベです」

 

 ワタナベは初対面の方々に挨拶をする。ほんわかな声とゆるい雰囲気が合わさって、人に好かれやすい印象を与えてくれるだろう。もっとも、デーリッチ達からの第一印象はキノコに乗っ取られて正気を失っていた哀れな冒険者なのだが。

 

「どうも初めまして。私たちはハグレ王国というものです。ご存じとは思いますが……」

「ハグレ王国??」

「え、知らないの?」

「うん」

 

 これにはローズマリーも思わずキョトンとしてしまう。アルカナの関係者は大体ハグレ王国のことを知っていたからまあ今回もそんな感じだろうと思っていたのでこれは予想外だった。

 

「……先生とはどれくらい連絡取ってないんですか」

「う~んと、三か月くらいかな?」

「……どこまで行ってたの?」

「最初はカーネ王国行きの船に乗ったんだけど、途中でクラーケンとキングオーシャンの戦いに巻き込まれて船から投げ出されちゃって」

「呼吸をするようにトラブルに見舞われてるな……」

「それで気が付いたら、独立鉄拳皇国ってところに流れ着いてましてな」

「え、何その今ダイス表振って決めた感じの名前の国は?」

「帝都とは国交がないから手紙も届けられなくて、仕方ないからそこで冒険者として活動してたらついこの前に次元の塔に入れるワープゾーンを見つけたの。そこでヘルパーさんとヴォルケッタちゃんと一緒に小人さんたちを助けてたんだ」

「……なるほどな。でだ、それでどうして頭からキノコ生やすような羽目になってたんだアンタは」

「うーんと、そうだね。とりあえずヴォルケッタちゃん達とはぐれた辺りから説明するね。ほわんほわんナベナベ~」

「自分で言うのかよ」

 

 

 

 ◇

 

 

 

『ふええ……キノコ美味しいよお。ヘルパーさんもヴォルケッタちゃんもいないけど……探してればそのうち会えるよね。だってここ小人ばかりだもん……とっても目立つもん……二人とも魔物に襲われてないか心配だな……』

『おんどりゃー! てめえ大事なキノコたちに何しょっとばー!』

『あれれ? 小人さん?? こんなところにいたら危ないよ??』

『この森はオラの庭だベ! おみゃーは何勝手にキノコ食ってるだ! しかもそんな大量に、完全にこの辺のキノコ達が禿げ上がってるド! どうしてくれるんだド!』

『おなかが空いていたから……多分毒キノコじゃないから大丈夫だよ。とっても美味しいし、小人さんも一つ食べる?』

『さては喧嘩売ってるド!? 良い度胸だベ。おめーに食われたキノコらの仇ド。くらえキノコ忍術超奥義、ウーパーキノコの術!』

『え、ちょなにってにょわあああ!?』

 

 

 

 ◇

 

 

 

「……って感じで。その後はずっとキノコを採りに来る人を敵だと思いながらうろうろとしてたような気がします……はい」

「つまり俺たちが襲われたのはコイツのせいってことか?」

「全くあなたって人は! どうしてこうやることなすこと裏目に出るんですの!?」

「えへへ……ごめんちゃい」

「可愛く言っても誤魔化されませんからね!?」

 

 この女の余計な行動のおかげでこの上ない徒労を味わった身としては、小首を傾げてこつん、と頭を小突いて、手屁☆彡って感じで乗り切ろうとするのは返って逆効果であった。

 

「……で、私はこのまま君たちのパーティに加わればいいのかな?」

「なんか着いてきたらまた余計な面倒が起こりそうなんで一先ず帰って……ああいや、それも不安だな。うちの拠点に送るので、そこでしばらく待機していてください。アルカナさんには迎えを寄越すように手紙を出しますから」

「はーい」

 

 

 

 ◇

 

 

 

『おたから争奪戦』

 

 

 ワタナベをハグレ王国に送りつけて探索を再開した一行は、砂漠にあるピラミッドへと乗り込んだ。

 一面砂の世界に聳え立つ巨大な四角錐は王家の墳墓であり、その中には王の遺体と同時に埋葬された多数の秘宝が眠っている。勿論、財宝目当ての盗掘者に対するトラップも満載。

 内部に蔓延る死霊たちは侵入者に目もくれずに徘徊するだけだが、油断してトラップに引っかかり少しでも傷つけば血の匂いを嗅ぎつけて一斉に襲い掛かり、欲深く浅はかな盗掘者たちを同胞に加え入れるのだ。

 

「よっと」

 

 そんな恐ろしきピラミッドだが、ここには優秀なスカウトがいる。

 乾いた血痕のある床にルークが石を投げれば、落ちた先の空間をカシュンと矢が通過する。その方向を目で追って、壁に空いた僅かな隙間を適当な石で塞いでおく。

 

「おっ、分かりやすいところにレバーがあるでち」

「このレバーを操作すれば、きっと向こうにあるキューブが消えるのですわね」

「じゃあ早速倒してみるで「ちょい待ち」え?」

「あー……こいつを倒したら爆発するな。他には何の仕掛けもついてねえハズレだ」

「よく分かるわね……」

「どうやったら間抜けが引っかかるかって考えるのが肝だからな、こうやって露骨なのはわかりやすいもんだ」

「誰が間抜けですって!?」

「言ってませんよ……」

 

 これ見よがしに置かれたレバーを作動させようとしたデーリッチを制止し、ダミーであることを看破する。なお正解のレバーは二階への階段の陰にあった。いやらしい。

 そうして次の階へと上がった彼らの前に、今度は断続的に雷が落ちる廊下が立ちふさがる。

 

「……雷耐性持ちの方ー、お願いしまーす」

「おい」

「いや現在作動中の罠に突っ込むとかできねえよ。こういうのはタフなマーロウさんか同じイカヅチ妖精にでも任せようぜ」

「お"? 今ヅッチーを罠に突入させるとかいいましたか??」

「ハイ、スカウトとして行って参ります」

 

 物理的にも精神的にも凍てつく視線を背中に感じたルークはマーロウと共に雨雷の中に突っ込んだ。

 

「……あれ、痛くねえ」

「私もだ」

「おーい、大丈夫か?」

「大丈夫だ。ダメージはねえぞ。けどなんかダルくなってくるぜ」

「どれどれ……あぁ、これは魔力が吸われていきますね」

「地味に厄介なタイプだなぁ、とっとと突っ切ってしまおう」

 

 消耗した状態で魔物と接敵すれば致命傷だがそれ以外は特に害のないトラップの雨を走り抜ける最中、ルークは罅の入り方に規則性のある壁を見つけた。

 

「お、多分この先に部屋があるな。マーロウさん、一発頼んます」

「ぬうん!」

 

 屈強な獣人が繰り出すのは、雷を纏った張り手という名のマスターキー。破砕した壁の向こう側から人工的な空洞が顔を出した。

 

「宝箱でち!」

「よっしゃー! ヅッチーが一番乗りだぜ」

「だから待てってば」

 

 隠し部屋は大量の宝箱が収められた宝物庫だった。はしゃいで開けに向かおうとする子供たちを押さえつけ、十フィート棒を片手にコツコツとトラップを確かめていけば案の定地面からトゲがせり出してきた。

 トレジャーハンターの面目躍如とばかりに、ルークは数々の罠を見抜き、手際よく解除していった。

 悪質なブービートラップもなんのその。ショートカット開通という甘い罠にも惑わされず、探索判定を無難に成功させ続ける姿は、まるで近頃の不運(ファンブル)の揺り戻しのようにも見える。

 

「ははっ、ちょろいもんだぜ」

「あいつ、イキイキしてるわねー」

「久しぶりのダンジョン攻略だからかな」

 

 

 そうやって宝を回収しながら進んでいく一行。しかし彼らの快進撃は三階に上がったところで止まることとなる。

 

「おい、誰かいるぞ」

「いや待て、この見慣れたSilhouetteは……」

「ああ、ヤツだ……」

「ヤツ……?」

「ん? ――うおっ、ハグレ王国!?」

 

 それは紛れもなくはむすけ&どらごん君、ハグレ王国の行く先々にて毎度余計なことをしては騒ぎを大きくする厄介者コンビ……ああいや、厄介なのははむすけだけであった。

 また悪事を働くつもりなのかと問い詰める、しかしそれはこちらも同じ。目的が同じ盗掘である以上、言いがかりをつけて襲い掛かるのは筋が通らないとはむすけは反論を振りかざした。

 

「そういうわけなんで、僕たちは正々堂々と盗掘を続けますんでー攻撃はしてこないでねー?」

 

(こいつ……もうここでやっちまうか?)

 

 煽り倒すはむすけに静かにキレたルーク。彼はポケットに忍ばせたチーフスペシャルに手を伸ばして仁義なき戦いを仕掛けようとして、取りやめた。はむすけは調子に乗っているように見えるが、その実一挙一動を見逃さないようにちらちらと全員に目配せをし、特にルークには注意を払っていることに気が付いたからだ。同じ穴の狢。こういった場合に相手がどう出るかは概ねお見通しということか。

 

「まだ話は終わっとらんでち! こうなったら財宝の取り合いで勝負するでち!」

 

 煮え切らないのは国王も同じ。彼女は非戦を前提としたトレジャーハントの勝負をはむすけに持ち掛ける。逃げ足に自信のあるというはむすけはこれを受諾した。大方、軽く揉んでやろうという魂胆だろう。

 

(へえ、やるじゃねえか)

 

 敢えて相手の得意分野での戦いを挑むことで、相手をその気にさせる。我らが国王は人に好かれるのが上手ければ、人を乗せるのも巧い。愛し愛されて、侮られもする。無害という概念が人の形をして歩いているような存在だった。

 さて、とルークは考える。この勝負、実際はクソ不利だ。足の速さで言えばどらごん君は中々早い。はむすけの開錠技術がどれくらいかは不明だが、恐らく泥棒と走り屋の罪業を多く背負っている彼の自信を見れば相当なもの。真っ向から挑んで、まず勝ち目はあるまい。

 

「……なあ、俺に考えがあるんだが」

「何じゃ?」

「まさか掟破りの不意打ちですか? それは流石にこちら側の悪評が……」

「いやいや。そんな姑息な真似しませんよっと。まあ皆は普通に競争してくれればソレでいいっすから……」

 

 どこからどう見ても悪巧みなそれを耳打ちし、聞いた一行もその案に頷いた。何だかんだ言って全員このあん畜生には思うところがあるようだ。

 

「そんじゃマリーさん号令お願いします」

「分かったよ。それじゃあ、3、2、1、スタート!」

「ほい」

 

 スタートが切られた直後。ルークだけはデーリッチ達とは逆方向に、すなわちはむすけと同じ方向へと走り出した。

 

「お? 別行動っすか? まあそれぐらいはハンデとしてやっても――おや、何か落ちたっすよ?」

 

 全速力で前に出た瞬間、ルークの背中から革袋が零れ落ちた。

 

(ぷぷっ、焦って荷物を落っことすとかドジな奴~)

 

 折角だ、マウントを取るついでにあの気取ったいけ好かない野郎の間抜け面でも拝んでやろう。そう思って拾い上げようとしてみた袋の中から顔を覗かせたのは、ピリッと鼻腔を刺す香ばしい匂いを漂わせた茶色の物体だった。

 

「ん……なにこれ?」

!!

 

 それは肉の燻製。霜降り肉を用いてじっくりこんがりと作られた特製のおいしいおにくである。

 

「なんだハズレじゃないか……って、あっ、ちょ、何食べてるんだいどらごんくーん!?」

 

 金目の物ではないことを看破したはむすけとは対照的に、どらごん君は目の色を変えてその肉にがっつき始めた。そうなると当然、騎乗しているはむすけの動きも止まる。

 

「ははっ、やっぱりだ。あいつ、ヘルが前にやったやつの味覚えてやがるぜ」

 

 ルークがこのような行動に出たのにはワケがある。

 それはルーク達がハグレ王国に加入する前。つまり次元の塔3層での一件。

 ハグレ王国に戦いを挑むために彼が準備をしている間、ヘルがどらごん君にルークが残していたジャーキーを与えたのだ。流石に甘いものはどうかなと思い、肉なら大丈夫だろうと無許可で与えたのだが、これが意外と食いつきが良く、あまり人懐っこいとはいえないどらごん君がすんなりとヘルに懐いた経緯である。

 この経験は後々に加入した地竜ちゃんのお世話にも活かされており、地竜ちゃんもまたルークの作る加工肉がお気に入りのおやつである。いつの時代も、魔物を懐かせるのに必要なものは肉であるとかの有名な青色の魔物使いは言っていた。ちなみにこの時にヘルがジャーキーを勝手に餌付けに使用したことが発覚したのは余談である。

 

「おたから取り放題だヤッホーイ!」

 

 この競争であの駄獣にくれてやるおたからなど一つもない。かなり大人げない恨みを晴らした爽快感を胸に、ルークはパカパカと宝箱の中身を回収していく。

 

「こういう姑息な手段はすぐ思いつくよな、アイツ」

「ま、戦わないってだけで、妨害全般をするなって取り決めではありませんからね。勝手に別のものに注意が逸れたなら仕方ありませんよね」

「それに、こうやって出し抜いてやるのは痛快じゃからのう。かんらかんら♪」

 

 反対側のデーリッチ達も順調に宝箱を開けていき、息も絶え絶えの様子で最奥の部屋で走り込んできたはむすけを悠々と拍手で迎え入れた。

 

「ゴールおめでとさん。そっちはどれだけのおたからが手に入ったかな? かな?」

「ぐぬぬぬ……」

 

 煽り散らかしイキリ倒すルークに、負けた手前何も言い返せないはむすけ。すごすごと帰っていくその後ろ姿は哀愁漂うものであった。

 

「さて、と。位置的にここが最奥部か?」

「上りの階段も見つからなかったし、そうかな。……それにしても、あまり空気が良くないね、ここ」

「確かに、なーんか嫌な空気が漂っているわね」

 

 ローズマリーはローブの端を口元に当てながらそう言い、エステルもきょろきょろと何かを探る様に周囲を見回す。

 

「というか、なんか別のところから瘴気が漏れてきてる感じがしませんか? こう、マナの流れがじんわりと偏っているというか……」

「まぁ、ここが王様の墓っていうなら、一番大事な棺の部屋が隠れてそうだけどな。ほら、そこの割れ目とか滅茶苦茶怪しいだろ」

 

 ルークは宝箱の後ろにあった壁の割れ目を指す。これまでも散々あった隠し部屋への入り口となっていた罅だが、これは特別に危険な匂いが漂っている。

 

「十中八九ボス戦の気配がしますわね……」

「どうする? このメンバーで挑んでみようか?」

「んー……やめるか。そこはまた後で来ようぜ。正直、結構疲れた」

 

 人間引き際が肝心である。何だかんだここまで結構な数の魔物と戦ってきたので回復アイテムも厳しい。ゆえに彼らはここで補給を兼ねて一度帰還することとした。

 

 勿論、その後はきっちりと隠し部屋に挑戦して王の亡霊を打ち倒して財宝を手に入れたのは、言うまでもないだろう。

*1
ソード・ワールドシリーズに登場するMP回復アイテム。軟膏にしたり、抽出してお茶にしたり、火をつけて吸ったりする。ちなみにサタスペにおける大麻の効果はMPを3点回復。点と点が線で繋がりましたね?

*2
ダイス運が悪いと本当にバッドトリップはループする。しかし極まったマンチどもはバフや回復のために酒を飲み麻薬をキメ続け、バッドトリップ表を嬉々として振るボンクラばかり。オオサカ故致し方なしである




 ちなみにルークはこの後肉を使い切ったことでミアお姉ちゃんに怒られました。
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