ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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お久しぶりです。
なんかモチベが上がってこなかったので無理やりケツを蹴り上げて書きました。
山なし落ちなしでキャラが駄弁ってるだけの回。イチャイチャしかしてないです。


その77.彼ら彼女らの一幕・捌

『ガールズトークウィズメン』

 

 

 

「前々から気になってたんだけどよ。これ、結局何でできてるんだ?」

 

 昼下がりのおやつタイム。

 甘ったるい緑色の粘液が詰まった瓶を指さしながら、ルークはかねがね思っていた疑問を口にした。

 

「それって、宇宙ジャムのこと?」

「ああ。姫さんがUFO呼ぶたびに貰ってくるせいで消費追い付かねえし、何なら今も在庫処分のために食ってるわけだけどよぉ、じゃあこいつの材料って一体何なんだろうなってさ」

「やっぱりジャムだから果物なんじゃない? そんな感じの味がするし」

 

 スコーンを大口で貪るエステルがざっくりした答えを言う。

 いちごジャムとクリームをどっかり乗せたスコーンが口の中に消え、紅茶で流し込まれる様子には品の欠片もなかった。

 

「というか、ドリントルに聞いた方が早くない?」

「最初に聞いた。知らんって返ってきた」

「それじゃあ誰も分からないわね。宇宙はまだまだ私たちの理解が及ぶ世界じゃないわ」

 

 エステルの投げ槍な言葉によって一瞬で話題が終わってしまった。

 

「……話続かないじゃない。どうしてくれんの」

「てめえが『なんか面白い話しろー』って無茶振りした癖に文句言うんじゃねえよ。つか、なんでこの中で男が俺だけなんだよ」

「そりゃまあ、私たちがヴォルちゃんのティータイムに参加してる中、食堂の隅っこで寂しそうに珈琲啜ってたキミを憐れんで参加させてやってるわけですよ」

「寂しくねえよ。一人の時間を楽しんでたんだよ」

「よかったな。ヴォルちゃんがお前の参加受け入れてくれて」

 

 食堂ではティータイムという名のほぼ女子会が開催されており、ルークはその端っこで慎ましく座っていた。この女所帯でとっくの前に慣れているので別に肩身が狭いとかではないが、流石にその渦中へわざわざ突っ込んでいけるほど心臓に毛は生えていない。故に空気を乱さないようにしながらヘルが甘味に顔を綻ばせる様子を眺めていたのだが、微妙に空気を読まないエステルのせいでこうなっているのであった。

 

「おーほっほっほ! ド高貴なわたくしは風雅を解すのなら誰であっても受け入れますわ。お爺様とも何度もお茶をしたものです。あ、でも流石にニワカマッスルさんとかはちょっと考えさせてくださいます?」

「あいついたら雰囲気がティータイムじゃなくてバーベキューみたいになるもんな」

 

 真っ赤な筋肉が優雅に紅茶を啜る姿を想像するが、うーんこれはよろしくない。なんか口の中がしょっぱくなってくる。肉を頬張りアイスティーを呷るのもまた素晴らしいものだが、そんなジャンキーな食事風景を人前でするなど貴族らしくない。

 

「紳士な方なのは知っておりますし、あの熱の入った性格はとても好感が持てますわ。でもあの汗くさい筋肉むき出しはちょっとどうにかなりませんこと?」

「その辺に突っ立ってるだけで画面の半分持っていくし、存在感がパないわよねー」

「流石うちのディフェンス代表だね!」

「盾役としては優秀だし実際頼りなんですけど、あの腰蓑一丁は流石に……。パパのふんどしと同じくらい恥ずかしいわ……」

「うーんこの評価よ」

 

 女衆からの散々たる半裸Disを決められるマッスルへ哀れみの念を送るルーク。手放しで褒めてるのが同じ薄着族の雪乃だけだ。ついでに言えば彼女も何だかんだお洒落力はある。だがマッスルにはない。彼にあるのは熱気に揺らめく腰蓑だけだ。

 残念だが当然たる結果だとは思いつつ、同じ男としては何かしらフォローを入れてやりたくなるのが人情であった。

 

「まあ、お前たちも知ってるようにマッスルは実際いい奴なんだし、もっと恰好をちゃんとすればまだモテる目があるとは思うんだよ。ハグレ云々とかじゃなくて、あの蛮族スタイルじゃ誰にもそういう印象しか与えられねえんだわ。マーロウさんだってちゃんとしたところじゃしっかりした服着るだろ? まず外見からちゃんとやらねえと最初の土俵にも立てねえってのは間違ってないと思うんだわ」

「流石、王国の伊達男二大巨頭の一人は言う事が違いますなぁ」

「こちとら嘗められたら終わりの世界だからな。ちょっとでも隙がありそうだと見られたらすぐに追いはぎがやって来るんだぜ?」

「そうそう。ハグレだから泣き寝入りだろうって遠慮なく襲ってくるの、困っちゃうわよねぇ」

「あらまぁ、この世界の冒険者は品がなっておりませんのねぇ。法整備と取り締まりがなっておりませんわ」

「ふーん、ヴォルちゃんのところは治安いいんだな」

「いえ、うちの領土周りでも食い詰めて夜盗に成り下がった冒険者が月に一回ぐらいの頻度で湧きますので、その度にお爺様が焼き払って退治しておりましたわ」

「そっちもそっちで大概だったわ」

「炎帝の名は一日にして成らずですわ!」

 

 貴族だろうと腕っぷしが物をいう時代である。

 

「でもさ、ヘルちんと一緒だと結構絡まれて面倒だったりしたんじゃないの? こんな性格で、美人だし」

「いやそうでもねえぜ。俺は普通に顔が利くし、ヘルも一見したら黒魔法使いだったからな」

「あぁ、そりゃよっぽどの馬鹿以外関わらないわね」

「どういうことですの?」

「ここ数年、黒魔術系の魔法使いが何度かデカい事件起こしてるのよ。一時期はマイナーな魔法使ってるだけで白い目で見られてた時期まであったらしいわ」

 

 ついこの前に戦い、そして倒した死霊術師の顔を思い出しながらエステルは語る。

 召喚術もだが、何事も悪用する連中の顔だけが目立ち、きちんと真面目にやっている者たちは表舞台に立てることは少ない。世知辛い話である。

 

「そんなわけだからある程度分かってる連中は逆に手を引く。むしろ何も分かってない新米冒険者の方が勧誘にしつこく声かけてきて面倒だったな」

「苦労してますのねぇ」

「ルーク君のおかげで、秘密結社も恰好がついてますわ」

「あなたの頬っぺたについてるクリームが全部台無しにしてるわね」

「ルークく~ん」

「しょうがねえなぁ」

 

 ルークはヘルの頬についたクリームを指で拭い、そのまま自分の口に放り込んだ。

 

「ちなみにもう一人の伊達男は?」

「アルフレッド以外いないでしょ。外じゃ結構人気あるんだぜあいつ」

「こっちじゃあジーナかジュリア隊長の尻に敷かれてるイメージしかないけどね。初対面の時だってさっそうと現れたかと思ったらジーナに追っかけまわされて即座に頭が下がってたわ」

「いいんですよ。弟なんて生意気にもこっちの心配も知らずに調子に乗っていくんですから、多少マウントとってわからせておくぐらいでいいんです!」

 

(え、今の流しますの!?)

 

 ナチュラルに繰り広げられた甘々仕草をスルーした他の面々にヴォルケッタは内心、いや優雅な表情を保てないぐらいに驚愕した。13歳という思春期に突入したばかりの多感な年頃の乙女には刺激が強すぎて一瞬思考が止まり、赤面すらしていたというのに。この女子(おなご)どもと来たら全くの無反応! 思わず出そうになった黄色い悲鳴が引っ込んでしまったではないか。

 

「でもぶっちゃけさ、マッスルって別にモテない心配いらないよね」

「まぁねー」

「あれだけ仲がいいのにお付き合いされてないって本当ですか?」

「いつも一緒にいるのにねー」

「これ以上おアツいのが増えたら胃もたれするわ」

 

 なんなら既に胸やけしているわ。そうツッコミたいヴォルケッタであった。

 

「で、話を戻すけどよ。結局これって原材料なんなんだろうな」

「まだ引っ張るのそれ?」

「だって似た味が分かれば宇宙味って売り捌けるかもしれねえだろ」

「うちにある分がまだピラミッド作ってるのに早くない?」

「無くなったら無くなったで怖いし……」

「雪乃さんなら何かわかるんじゃないかしら?」

 

 自分では判断できないと早々に判断したヘルは、ジャムについては一家言あるジャム大使こと雪乃に意見を仰ぐことにした。

 

「宇宙ジャムについてですか? うーん、それが私にもわからないんですよねぇ……桃みたいに甘くて、ベリーのような酸味も感じるし、リンゴのような瑞々しさに、ブドウの豊潤さも広がる……こんなジャムがあるとは知らなかったなぁ。流石は宇宙、奥が深い」

 

 ジャムで宇宙の何を感じるというのだろうか。雪乃はしみじみと宇宙の神秘に感心していた。

 

「マナジャムは分かりやすいんだけどな」

「マナ水を豊富に吸収する以外は、コケモモと同じ味ですわね」

「あと緑色の果物ってのもそんなにないよな。メロンとキウイぐらいだろ」

「メロンってジャムにしてもあんまりおいしくないですよ」

「案外適当に果物混ぜたら同じ味になったりして」

 

 あーだこーだと意見が交わされるが、結局これという答えも見つからず。

 

「ま、わかんねえんじゃ仕方ねえか」

 

 そこまで重要な話題でもない。自分で出した話を打ち切ったルークはパイへとかぶりついた。

 

「お、うめえなこのパイ」

「そのユノッグチェリーパイは新作なんですよ。この様子ならお店に出しても問題なさそうで良かった」

「クウェウリさんの作る料理なら大体美味いっすよ」

「おいおい、ヘルちんの前で浮気か~?」

「そうね~私もクウェウリさんのパンなら毎日食べたいですわ」

「おっと?」

「ヘルは作るより食べるのが好きだからな。二人で冒険してた時の料理当番は俺とヘルで5:2だったし」

「ルーク君の料理もちょっと濃いけどおいしいですわ」

「あら。ルークさんも料理できるんですか? パパと一緒に色々おつまみ作ってたりするのは見てましたけど……」

「そっかクウェウリちゃんは知らないか。ミアちんとキャサリンが来るまで王国の料理は当番制だったんだよ。マリーとか福ちゃんでさ、後は意外にもマッスルが料理できるんだよ」

「大体は王国に来るまで一人で生きてきた連中だからな。最低限の自炊スキルぐらいは持ってるよ」

 

 ちなみにルークの料理ジャンルはザ・男飯とでもいうべき、その場その場の食材を普通に食える感じに調理するサバイバル系である。とはいえ、オオサカ人たるエルヴィスから伝えられたごった煮料理*1の知識に加え、薙彦とラプスの意外にも料理上手な二人からも色々と教わっているのである程度の料理は作れたりする。

 

「そんな話をしてたら久々にルーク君のコーンポタージュが食べたくなってきましたわ」

「じゃあ今度作ってやるよ。甘めの奴だろ?」

「わーい!」

「……すみません。紅茶、もう少し濃くお願いできます? 砂糖もジャムも要りませんわ。正直、口の中が甘くなりすぎてまして」

 

 そんな二人の甘ったるいやりとりに、ヴォルケッタの舌は限界であった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

『氷上のワルツ』

 

 

 

 大陸の北、常冬の地サムサ村では今、ウィンタースポーツが熱い!

 

 元々は辺境の村であったが、ハグレ王国との交易によって経済が活性化し、交通の便となる大橋がかけられたことで各地の街との交流も盛んになり始めた現在、サムサ村は季節を問わず雪を活かしたスポーツが楽しめるとして軽いブームが起こり始めていた。

 

 そしてそれはハグレ王国も例外にあらず。

 

 機を見るに敏なる社長プリシラの下、季節を問わずにアイススケートが楽しめる王国スケートリンクが建設され、日夜観光客で大賑わい。多くの家族連れやカップルが訪れ、氷の上での滑走を楽しんでいる。

 

 そしてここにも、カップルが一組。

 

「ひぃぃぃ……ルーク君、離さないでくださいね!?」

「離さないからまず落ち着いてくれ。そんな足ガックガクじゃあ逆に支えづらいわ」

 

 膝をがくがくと震えさせているヘルの手を、ルークがしっかりと握る。

 

 以前みんなでアイススケートを行ったときに一人だけ補助器具を使用していたヘルラージュは、それをローズマリーに散々けなされたため、こうして自力で滑るための練習を始めた。勿論こんなすぐ転んで氷に頭を打ち付けてそのままナムアミダブツ! なスポーツ(大いに主観が入っております)を小心者のヘルが一人でできるわけがなく、こうしてルークが付き添っているのだった。ちなみに遠くではミアが腕を組みながら生暖かい目で見守っている。

 

 だが現実は無情。ヘタレの魂百まで。ビビリは三年にして成らず。

 ルークがヘルの横で支えとなっているのだが、こうも足が震えていては滑り出すことはおろかまともに立つことすら怪しい。

 

「いいか。まず足首とつま先に重心を預けるんだよ。そんで片足ずつ、ゆっくりとな」

「え、ええ……」

 

 おっかなびっくりではあるが、壁に沿ってゆっくりと前進する。

 おぼつかないが、それでも着実に進んでいる。

 十歩ほど進んだところで、見守っていたルークが声をかけた。

 

「おっし、んじゃあそのまま滑ろうぜ」

「え、もう!?」

「それだけ歩けるなら十分だよ。体重の移動ができてるなら、後はそのままの姿勢を保つ。脚の動かし方なら補助器具持ってる時と同じでいいんだ。簡単だろ?」

「それができたら苦労しないんだけど?」

 

 エステルほどではないが、彼もそれなりに身のこなしは得意な方だ。そんな運動神経がある側のアドバイスなど、へなちょこの参考になるわけがない。

 

「いいからいいから」

「ひゃっ!?」

 

 軽く背を押せば、ヘルの体は前へと進む。

 前のめりになって手をじたばたさせ、必死に体勢を保とうと後ろに傾いて案の定倒れ始める――

 

 前に、彼女の手が横から掴まれた。

 

「足は動かさなくていいからな。後はどっちかの足に体重を傾けるだけだ」

 

 並走するルークが僅かに傾く。それに体を預けるようにして動けば、自ずとヘルの体も同様に滑り出した。

 

「わ、私ちゃんと滑れてるわ……」

「簡単だろ?」

 

 外周に沿ってリングを回る。流れる風景の中、唯一変わらずにいる彼の顔が目に入る。それが妙に気恥ずかしくなり、僅かに視線を逸らした。だがそれがいけなかったのか、足がズレて体勢が大きく崩してしまった。

 

「って、ひゃっ!?」

「おっと」

 

 あわや転びそうになったヘルを、ルークが背中から抱き留める。

 若干シューズが浮き、危なっかしくブレードが空を斬った。

 

「大丈夫か?」

「え、ええ……」

「やっぱりちゃんと滑るのはまだ早かったか。どうする? 今日はこの辺にしとくか?」

「……ううん、もうちょっとお願い」

「あいよ」

 

 そうしてルークがヘルの手を引き、二人は滑走を再開した。

 その様子を、優雅な立ち振る舞いでスケートに興じていたヴォルケッタは見ていた。

 

「……なんでかしら。若干気温が暑くなってきた気がしましたわ。すいません、もう少し寒くしたほうがよろしいのではなくて?」

「残念ですが、これ以上冷気は強くできないので我慢してください」

 

 辟易とした顔でプリシラはそう言った。

 

 

 

 ◇

 

 

 

『おませさん』

 

 

 

「なんなんですのあれは!?」

「き、急にどうした?」

 

 ところ変わって別の日のティータイム。

 やることのない、あるいは店が暇で仕方がない女子が集まって駄弁る中、ドンとテーブルを叩いて叫んだのはヴォルケッタであった。

 

「どうもこうもありませんわ。一体どういうおつもりですのあの二人は?」

「あの二人?」

「ヘルさんとルークさんの事ですわ。ああも人前でイチャイチャいちゃいちゃと……どうして貴女たちは平然としていられるのです!?」

「あ~、ヴォルちゃんには刺激が強すぎたかぁ」

「皆あいつらのイチャイチャに見慣れちゃってたから、新しい子の反応は新鮮でいいわねぇ」

 

 うがーっという勢いでヴォルケッタはこれまで散々見せつけられてきた光景に対する不満を吐き出す。

 

 最初は皆、数少ない恋バナにはしゃいでいたのだ。年若い少女が大多数のハグレ王国。そこにやってきた現役カップルの進展は格好の話題であり、帝都に繰り出す直前はそのピークだった。

 

 だが今はどうだ。ある程度人目を気にしていたのが、帰って来てからというものルークの方がその辺りを隠さなくなってきた。彼の見せるさりげない部分がじれったくもドキドキさせてくれる部分だったというのに、ここまで露骨にイチャつかれては茶化すこともできない。乙女心とは複雑なものである。

 

 だが新参者のヴォルケッタはそんな事情も知らず、ただただ目の前で繰り広げられる甘い生活に目を泳がせていた。そんな恋愛耐性にない者の初々しい狼狽えっぷり見るのもまた一興と、ヤエを筆頭とした乙女(自称)軍団は新しい楽しみにしていたようだ。

 

「というか、あの二人だけやけにお熱くありませんこと? あまりにも甘々すぎて紅茶どころかブラックコーヒーすら飲めるようになってしまいましたわ」

「ブラック飲めなかったんだ……」

 

 甘く、甘く、甘いだけの光景は少女を一つ大人にしたらしい。

 

「でもまあ確かに、帝都から帰ってきて以来、あの二人のイチャイチャっぷりに拍車がかかってるのよね」

「そうだよね。今朝も二人で手を繋いで廊下を歩いてたし、朝も一緒に出ていくときが多くなったよね」

「完全に付き合いたてのバカップルだな……」

 

 昔馴染みの色ボケ具合にエステルは頭を抱える。

 そうなる理由も過程も知っているだけに、責められにくいのが余計に性質が悪い。

 生死の境を共にしてより親密になったと言えばドラマチックだが、結局は男と女が一つになっただけだ。

 

「まあそこで進展があったってことなんでしょうけど。エステルは一緒に行動してたなら何か知らない?」

「え!? うーん、特に心当たりは、ない、かな、ですね」

「何かあったのね。大体想像はつくけど」

 

 テレパシーを使うまでもない。エステルの目はわかりやすく泳いでいた。

 

「一日目の夜。あなた達だけが宿に帰ってきて、ほぼ二人っきりのあの時に何かがあった。こんなところでしょ」

「……うん。まあ、別にいっか。実際そうだよ」

 

 最早隠しても意味なしと、エステルは端的に肯定する。

 というかそこまで隠し立てするようなことでもない。ただ死にかけた後でしっぽりやってますなんて言うのはちょっとアレなので空気を読んで黙っていただけだ。

 ぶっちゃけあの時点で何人には気づかれていたし、耳聡い大人たちならばもう察している頃合いだろう。だから後はデーリッチ達お子様組の耳に入れないようにすればいい。その一線を越えた場合は、あのグレートマザーたるビッグモスの怒りが待ち受けているだろう。本人だって耳年増の癖に過保護なんだからもう。

 

「そ、それってまさか……」

「そりゃ、男の人と女の子が一緒になってやることなんて……ねえ?」

「キャー!」

 

 黄色い声をあげ、雪乃がわざとらしく顔を掌で覆ってみせる。

 

「あの二人、仲が良かったけどそんなところまで……!?」

「むしろあのラブラブっぷりで今までしてないのが不思議だった気がするけどね。まああのヘルちんと青臭さ丸出しのルークだし、人がいるここじゃそういう雰囲気になろうとしてもなれなかったんでしょ。それでこの前の一件で何かしら進展があった、て見るのは当然じゃない?」

 

 訳知り顔で語るヤエだが、彼女自身もついこの間やっと気が付いた口である。

 

「ヤエちゃんよくわかったね」

「アルフレッドが遠出している時だけヘルちんの起きるタイミングがミアじゃなくてルークと同じになってるのを何度も見れば、流石に察するわよ」

「あ、うん。そっすね」

 

 要するにあの二人の過失である。

 そうやって姦しく盛り上がる女性たちの中、顔を真っ赤にして震えあがったのはヴォルケッタだ。

 

「なっ、なんて不潔な……! この国では不純異性交遊がまかり通っているというのですの!?」

「不純ではないと思うけどなぁ」

「割と清純なお付き合いを続けてきてようやくって感じよね」

「どちらにしても同じことですわ! そんな露骨な匂わせをしていたら、熱狂的な原作ファンの方々からブチ切れられてしまいますわよ!?」

「んなもんこの話数まで読んできてる時点で今更でしょ。初っ端からサ〇スぺネタでふるいに掛けに来てる時点でお察しくださいよ」

「皆さん毎度毎度読んでくれてありがとうございます!」

 

 斜め四十五度の方角に向かって雪乃のお辞儀が炸裂した。

 

「いやー、それでもついに行くところまで行っちゃったかあの二人」

「これまで長く見守ってきた身からすると感慨深いものがあるねぇ……」

 

 しみじみとする野次馬二人。

 

「あ、でもこれからの女子会どうしよっか。ぶっちゃけこれ以上進展も何も無いよね?」

「だからこそよ雪乃。あの二人ががっつりラブったってことは、他にも触発されて動き出す関係があるかもしれないわ」

「……! それは、つまり……」

「ええ。新しい戦場、見守るべきカップルがそこにいるわ。私たちに休んでいる暇なんてないわ。行くわよ雪乃、まだ見ぬ恋バナが私たちを待っている……!」

「おうともさ!」

 

 そうして勢いよく立ち上がった雪だるまキッカーズ。

 しばし沈黙が談話室を支配し、やがて何事もなかったかのように二人はすっと着席した。

 

 

「――で、あの二人のイチャイチャが激しくて困ってるんだって?」

「よくあの流れで話を続けられますわね!?」

「いやー、なんか走り出しそうな感じで立ちあがってみたけど、正直どこに行けばいいのかさっぱり考えてなかったのよね」

「行き当たりばったりがすぎますわね!?」

 

 常にその場のノリで生きている二人であった。

 

「……とにかくですわ。(わたくし)が言いたいのはもう少し節度ある付き合いをしていただきたいのです。目に毒……とまでは言いませんが、色々と集中できなくて困りますので!」

「いや、それ直接言えばいいじゃん」

「あの振る舞いを直視してそれを言えたら苦労はしませんわ!」

「純情ねぇ」

「ピュアだね!」

「わかったわかった。二人にはそれとなく注意しておくよ」

「本当に頼みましたわよ……!」

 

 

 

 

「ああ、それなら私も一つ伝言を頼もうかしら」

「どうしたんですヤエさん?」

夜にはしゃぐのやめさせてほしいのよ。ピンク色の思念が漏れ出てて寝れないんだけど

「ホントアイツらがすいませんでしたっ!」

 

 うっすらと隈のできた目で睨むようなヤエに、エステルは思いっきり頭を下げたのであった。

*1
サタスペにおける大阪は世界中から難民移民の集まる多国籍地域のためあらゆる地域の料理が食べられる。そして数多の食文化が悪魔合体した無国籍料理も溢れているし、路地裏ネズミやカラス肉などの不衛生な食材を使った料理も蔓延っている。




○ルーク
 カッコつけることは一人前。この後、人前では少し控えるようになった。

〇ヘルちん
 このヘタレっぷりでどうして今まで問題が起きてないんだろうって思ってたがよくよく考えれば恰好がまともではないので割と遠巻きに見られることも多かったんじゃないかと。飽くまで本作だけの設定ですので!

〇ヴォルケッタ
 高飛車純情おませさん。
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