ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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その79.腹が減っては会議もできぬ

『腹が減っては会議もできぬ』

 

 

 ウズシオーネと名乗ったその女性の姿に、一同は謎の圧力に襲われていた。 

 

 エメラルドのように輝く髪。人当たりの良い微笑みを称えた顔。頭に乗ったカメさん。肌面積の広いビキニとパレオは水棲種として自然な服装なのだろう。これだけでも男性を魅了し、女性にも好感を覚えさせる美貌だった。

 だが、それらの特徴よりも彼女たちはある一点に目を奪われる。

 

 スキュラという種族のことはあらかじめ聞いていた。上半身が人、下半身が蛸という奇怪な見た目に露骨に驚くような失礼はしないようにと心構えはしていた。

 

 だが、実際に目の当たりにすれば、そんな覚悟はなまっちょろいものであったことを思い知らされる。

 一般的な知識としてタコの足はその殆どが筋肉であり、そこから発揮される桁違いの膂力を以って堅い貝の殻をこじ開け、自分よりも巨大な獲物を絞め殺す。まさに海のボディビルダーなのだ。

 

 では彼女はどうだろう。人間の上半身に従ってその足も人間と同等の大きさ。華奢な上半身を支える八本のたこ足は全長2メートルを超え、その一本一本が成人男性の脚並みの太さを誇る。それらがぬるぬると滑らかに動く様子はまさに視界への暴力。荒れる水流をものともせず、水をかき分け押し出して海を自在に駆け回る健脚にして獲物を捕らえる剛腕。

 その下半身の圧倒的ボリュームは、初めて見る者を否応にも圧倒させた。

 

 すなわち。

 

 

「ご、ごんぶと……!」

「え、ごん……なんですか?」

「いや、あの、ダイナミックなお体ですねと……」

 

 ルークの口から自然と感想が漏れる。

 珍しいとか、奇妙だとか。そんなのよりも前に存在感がすごすぎる。

 言葉を失う一同に、アルカナはしてやったりという笑みを浮かべた。

 

「どう? びっくりしたでしょ」

「びっくりしますよそりゃあ……」

「怖いのには散々慣れてると思ってたけど、こりゃまた別のインパクトがあるわねぇ」

「猛スピードで迫り来るマッスルの顔といい勝負でちね」

「おい、何しれっと失礼なこと言ってるの?」

 

 初対面時のエピソードを引き合いに出すデーリッチ。絶叫しながらこちらに走り寄ってくる身長186cm、赤肌で腰蓑一丁な筋肉モリモリマッチョマンの変態ファッション牛頭はそれだけでホラー映画として完成している。実際あの時の首なし幽霊(デルフィナ)よりもよっぽど怖かったというのがハグレ王国では定番の語り草だった。

 

「えーと、すいません。初対面なのに少し失礼な発言を……」

「いえいえ。第一印象で驚かれるのは慣れていますから。むしろ初対面でリアクションを取ってくれるなら、それだけあなた達の記憶に残るってことですよね!」

「ポ、ポジティブだなぁ……」

 

 ローズマリーが謝罪するが、ウズシオーネは気にした様子もなくそれどころか奇異の視線も印象に残るならアドだとまで言った。これまでにも多くの偏見を受けてきただろうに、その感想を持てるのは中々にたくましさだ。

 上半身が人の形をして会話も通じる。おまけにこちらの少々無礼な言動も笑って流してくれる。頭部までタコでこちらを完全に見下していたあの脳漿喰らいに比べれば、人間と会話しているのと大差ない。ルークは記憶の中の蛸から連想させる絵面を秒で上書きした。

 

「そういうわけで、彼女がシオーネちゃんだ。みんな、仲良くしてあげてくれ」

「ハグレ王国の方々ですね。お会いできるのを楽しみにしておりました!」

 

 どうやらアルカナからある程度の評判は聞いていたらしく、その声色には歓迎の意がとても込められていた。曰く、この奇怪な見た目からトラブルを避けるため他人との関わりは少なくしているが、それでもたまに人恋しくなることがある。アルカナ達がたまに会いに来るので孤独ではないが、やはりハグレが堂々と顔を出せるハグレ王国の活躍を耳にして一度会ってみたかったということらしい。

 

「とりあえず皆さんお疲れ様でした。こちらで昼食の用意をしていますので、依頼の話の前にまずはこちらでどうぞ食べていってください」

「さっきからめちゃくちゃいい匂いがするでち!」

「はい! もうすぐ出来上がる頃合いですから、どうぞ入って!」

 

 デーリッチの言う通り、店内からは海の香りが混ざった香ばしい匂いが漂ってきており、全員の鼻腔を刺激していた。

 ぱちぱちと景気よく油の跳ねる音に加え、フライパンと思わしき鉄の音がガンガンと鳴り響いている。店内に足を踏み入れれば、その匂いは一段と濃くなった。この小さな海の家には似つかわしくないほどの豊潤な香りに胃袋が空腹を訴えてくる。

 ごくり、と思わず涎を呑み込む音が鳴る。程度の差はあれど、全員が空腹を覚えているのは明らかだった。中に入れば匂いは当然より濃くなり、食い意地の張った連中がそわそわを隠しきれなくなっている。内装はこじんまりとしているが、そんなものが気にならないぐらいには既に期待が高まっていた。

 

「おっし、カニとホタテのチャーハン一丁上がりだ!」

 

 威勢のいい声と共に、黒々と焼けるような褐色肌と頭に巻いた布の合間から覗かせる立派な角が特徴的な女性がキッチンの暖簾から顔を出す。

 見間違うはずもなく、それは波濤戦士の異名を轟かせる旅の武道家ラプスであった。

 

「ラプス!?」

「ようルーク、ちょうど飯ができたところだ」

「何やってんだよこんなところで」

「バイトだバイト。用心棒のついでにな」

 

 『ドナウブルー』の文字が入ったエプロンをつけ、二の腕までを露出して頭にバンダナを巻いたその姿は立派な厨房スタッフだ。なんだか店の前で自慢げに腕組みしてそうだなとルークは思った。

 

「闘技場はどうした?」

「名誉チャンピオンってことで卒業した」

「要するに賭けにならねーから追い出されたんだな」

「ま、そういうこった。で、この前帝都でドンパチあっただろ。その後にそこの女にここを紹介されたんだよ」

「ラプスちゃんの実力派なら放っておくほうが勿体ないからねー」

 

 いい拾い物したわーとほくほく顔でアルカナは言う。これからの戦いに備えた戦力確保の一環としてスカウトをかけていたらしい。なんとも抜け目がないことである。

 

「てかお前が料理作ってるのか」

「おうよ。たまにはがっつり作らなきゃ腕も鈍るからな。帝都で食べ歩いてインスピレーションも出たし、久々にご馳走してやるよ」

「マジか、やったぜ!」

 

 どうやらラプスは腕によりを振るって料理を振舞う気満々らしい。しかも彼女の創作料理ときた。というのも、この店本来のメニューをそのまま出すのがラプスのプライド的に許せなかったのだが。それをルークが知る由もなく、単純に仲間の料理を再び味わえる機会を無邪気に喜ぶ。

 

「そこまでかい?」

「ああ。昔チームを組んでた時もよ、暇な時はラプスに屋台を出させりゃがっぽり稼げたもんさ」

「止せって。あたしの故郷じゃ、もっとうめえの作るやつがいるし、そこまで褒められるようなもんでもねえよ」

 

 ルークの言葉にラプスは気恥ずかしそうに笑った。ラプスの料理技術は故郷で学んだものだが、そこには当然本職の料理人もいる。故に魚の捌き方も野菜の下ごしらえもまだまだと謙遜するのだが、ルークからすれば下手どころか三ッ星にも匹敵する腕前だと思っている。だから期待していい、と自分のでもないのに自信満々に言うのでデーリッチ達のワクワクは止まらない。

 そしてその言葉に違わぬ凄まじき料理の数々が彼女たちを襲うのであった。

 

 

「ちゅーわけで、まずはエビシューマイを食え!」

「ひゃっほーう!」

「このエビ、プリップリだ!」

「すり身の滑らかさと食感を損なわない程度に荒く潰された身の弾力。それでいて噛んだ時のあふれ出す旨味! 醤油とからしで味変してやめられない止まらない!」

「そして極めつけはこのデカさよ。口を開けてかぶりつくのがたまらんのう!」

「これで前菜とかちょっと怖いわね」

 

 

「続いて海のフライ盛りだぁ!」

「ほぎょー!?」

「このエビフライ、みたこともないぐらいデカいぜ!」

「この辺りで獲れるシャリンエビはプリップリで美味しいんですよ! さっきのシューマイに使ったのは若干小ぶりで、このフライは30cm以上の個体を揚げました!」

「ふおぅ、衣がざっくざく! エビ汁じゅわじゅわ!」

「お、イカリングもあるじゃないか。やっぱりシーフードフライにはイカが入っていないとな」

「あんたホントにイカ好きよね」

「姉さんもしょっちゅうスルメを齧ってるような……あだっ」

「カキもでけぇしうめぇ……やべえビール飲みたくなってくるわ」

「だと思った。勿論、あるぜ?」

「最高だぜ料理長!」

「もう、飲み過ぎないでね?」

 

 

「ちょっとテーブル開けてくださーい。極上サザエのつぼ焼きの登場です!」

「……え。なんか普通に壺出てきたんだけど」

「でもつぼ焼きってそういう意味じゃなくない?」

「それじゃ御開帳っと」

「グワーッ!? 蓋を開けた途端スパイスの香りが一面に!」

「それをサザエの殻に戻して盛り付けるとは……なんて優雅な料理ですの!?」

「オーブンで6時間ぐらい焼いた本格的なブツだ。覚悟しろよな?」

「ちょっとプリミラで撮っときましょ。めっちゃ映えますわ」

「え、何々? 魔力反射を用いた光学記録媒体? ちょっと貸してみ、ほらシノブこっち来て。エステルはメニャーニャ持ってこい」

「なっ、腕の角度20度……完璧な自撮りを心得ていらっしゃるというの!?」

「はっはっは、こちとら先進文明出身よ。この程度余裕のよっちゃんよ」

「ネタが先進じゃねぇ……」

 

 

「そしてお待ちかね、こいつがメインの冷ラーメンとチャーハンだ!」

「すっげー、スープに氷が浮いてるぜ」

「そこのメニューにある冷やし中華じゃなくて?」

冷やし中華なんぞ料理とは認めるかぁ!」

「あうぅ……すみません……」

「なんでウズシオーネさんが謝ってるんですか……?」

「むむ! 昆布と鰹のしっかりした味に煮干しのアクセントが効いたスープは味が冷えてることできりっとした味わいを出して、それをモチモチの太麺が余すところなく絡め取って冷やしたラーメンという新境地を拓いているでち!!」

「言うまでもなく最高のチャーハンの合間としても素晴らしい相方だ……余裕で飲み干せちゃうぜ!」

「健康に悪いからやめようねー」

 

 

「はーい。そしてデザートのトロピカルヤシの実ジュースですよー」

「トロピカルヤシの実ジュースってヤシの実からストローぶっ刺して飲むあれだよな?」

「いえ。今は開封サービスをやっているんです。ラプスさんお願いします!」

「ふんっ」

「チョップで割りやがった……」

「あ、でも常温だから生ぬるいな」

「温度調整はこちらの氷をどうぞ!」

「セルフだ……なんでこれだけ微妙なんだ」

「え? この滑らかな切り口は素晴らしいと思いませんか?」

「なるほどパフォーマンス代」

 

 

「げふー、もう入らんでち」

「ういっぷ、食った食った」

 

 そうして大分おかしなテンションで料理を完食したデーリッチ達。

 冷えた麦茶で口の中をさっぱりさせながら、美食の余韻に浸っていた。

 

「いやぁごっそさん。お前また腕上げたな」

「おう、お粗末様。いい食いっぷりだったぜ」

 

 ルークの賞賛に、ラプスは頭のバンダナを取り外しながら満足そうに笑った。

 

 

「……ん?」

「なんだよルーク。あたしの顔に油跳ねでもついてんのか?」

「いや、顔っつーか。それ」

 

 指を刺せば、他の者たちもすすっと視線が誘導される。

 その先には、ついこの前までは無かったはずのものが存在していた。

 

「お前そんな髪飾りしてたっけか?」

「あ~……こいつのことか。これは、あ~、どうすっかな」

 

 蓮華の花を象った、精巧な髪飾り。

 折れた右角を隠すようにつけられたソレは、ラプスの外見だけを見れば実に映える出来栄えだった。

 ラプスは少し照れくさそうな顔をして、僅かに逡巡してから言った。

 

「帝都で、あの後な。馬鹿ナギがくれたんだよ」

「薙彦がぁ?」

「職人街でなんかやってると思ったら、そういうことだったのね」

 

 ラプスと薙彦。彼らがなんとなく関係を持ち、薙彦(クズ)の問題で破局したことはルークの口から語られており、教訓としてハグレ王国中でも知られた話題である。そんな彼がラプスに髪飾りを贈った。それが意味することが何なのかは、言わずもがな。

 

「ふーん。あいつクズの癖に粋なところあるのねぇ」

「こういうことをしれっとやれるのがまた性質悪いところなんだわ。で、アイツのこと許したのか?」

「あ? んなわけねーよ。この程度であたしが機嫌を直すと思われてるとか嘗めてんだよ。大体、コイツをオーダーメイドで頼める金があるくせに、まだ借金が残ってるとかふざけてるだろ? やるならちゃんと全部綺麗にしてからやれってんだ。ま、あのちゃらんぽらんクズ野郎には土台無理だろうけどな」

 

(すっごい上機嫌な声で言ってますわね……)

(チョロいわぁ……)

(こいつ案外その辺純情だからなぁ)

 

 本人は気づいていないのだろうが、早口で言い訳をまくしたてる口元のニヤつきが抑えきれてない。乱暴な男をあしらうのには慣れているが、一度距離を詰めた相手にはとことん弱い。そんな恋愛クソ雑魚深海系ガールなラプスであった。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「さーてと、お腹も膨れたことだし、依頼の話をしようじゃないか」

 

 

 食後の一服も終え、アルカナは今回の作戦について切り出した。

 その一言で全員が彼女のテーブルまで集まり、じっと話を聞く姿勢になる。

 

 

「はーい、皆さん聞き分けよろしくて大変結構。んじゃまずここまでの説明からいこっか」

 

 シオーネちゃん、と呼びかけられた声にはい、とウズシオーネは頷く。そして彼女はここまでに至る経緯を語り始めた。

 

 事の発端は数週間前、ハグレ王国が帝都で活躍した話がこの辺りまで届いてきた頃。その時期を境としてドンコッコ海岸に見慣れないハグレの方々がちらほらと見え始めたらしい。

 彼らは水棲種を主体としたハグレのグループで、ここ最近の混乱で行き場をなくし、どうにか一目のつかない場所を探していたという。ウズシオーネは彼らを哀れみ快く迎え入れた。とはいえ、流石に海の家は手狭だったため、ドナウブルー本舗を仮宿として提供することにしたのだ。

 

「雲行きが怪しくなったのはその辺りですね」

 

 水棲ハグレ達はドナウブルー内部に侵入していた魔物たちをあっさりと手なずけた。そこまではいい。むしろ手荒な真似をすることなく運営上の懸念事項を解決できたと喜んだ。問題は彼らがそのまま魔物の湧きスポットであるマナ噴出孔を発見し、そこを占拠してしまったことだ。

 

『ああ、貴方がここの管理人ですか。申し訳ありませんが、ここを明け渡してもらいましょう』

 

 そうして遅れてやってきた黒いスーツ姿の人間――ハグルマの指示の下、瞬く間にその場所は海僧正(シーモンク)が取り仕切る神殿となり、ドナウブルーは深人たちの要塞になった。

 

「彼らは召喚の準備を整えて、自分たちの仲間たちを呼び込み始めました。最初から自分たちの勢力を蓄えるための基地が欲しかったんです」

 

 流石にそれはホテル運営の支障に障ると止めようとしたのだが、いかんせん多勢に無勢。いくら水中ではめちゃんこ強いウズシオーネと、戦士として申し分ないスパイクであってもたった二人ではホテルの奪還は無理な話だ。

 ウズシオーネ達はひとまずその場を離れ、対岸であるアッチーナ海岸の磯に備えておいた隠れ家まで逃げ込んだ。そこで定期連絡に訪れたロマネスクと情報交換し、現在に至るという。

 

「なんて奴らでち! ウズシオーネちゃんの優しさに付け入るなんて許せないでちよ!」

 

 一部始終を聞き、デーリッチは素直に憤りを露わにした。その想いは少なからずこの場に集った全員が同じとするところだ。

 ウズシオーネが困っていることを解決したいという気持ちもあるが、何より大きいのはハグルマへの義憤だ。連中はウズシオーネの厚意を無下にし、あまつさえ我が物顔で住居を乗っ取った。ハグレ達が受けてきた非道をあろうことか同じハグレ側であるはずの彼らが行っている。それが何よりも許せないのだ。

 

「全く、サハギンにも困ったものですね。エルフどころか同じ海のハグレにすら牙を剥くとは、ああいや、確かサハギンは蛸が苦手なんでしたっけ? ならむしろ縄張り争いにも発展しますか……」

「いいや、あいつらの姿はなかった」

 

 メニャーニャの言葉にスパイクが首を振った。ドナウブルーを占拠した集団、その中にかつての同胞であるサハギンは一人も見当たらなかったという。

 

「おそらく、あいつらもあの一件でハグルマを見限ったんだろう。元々、無駄に担ぎ上げられて調子に乗っていただけだ。あの悍ましい蛸頭どもがくたばって目が醒めたんだろう」

「つまり今回はハグルマ単体での犯行ということか。それなら後腐れがなくて良い」

 

 これ以上サハギン族との関係が悪化することが懸念事項だったが、無関係ならなんの遠慮もなく叩き潰せる。そんなニュアンスを込めてアルカナは好戦的な笑みを浮かべた。

 

「目的地はここから北に海岸沿いに進んだ先にある。途中、海路に切り替えてドナウブルーまで向かう。おそらくこの辺りから奴らの姿も見えてくるはずだ」

「海路?」

「あ、言い忘れてた。例のホテル、海の真ん中に建ってるのよ。元々古代遺跡だったのをそのまま使ってるらしいから、多分その関係で連中も目を付けたんだと思う」

「なんでそんなところにまで……」

「古代人については知ってるでしょ? 要するに、地上からだけじゃ飽き足らず、デカい海の真ん中から都市をおっ建てていけば効率よくマナが得られるんじゃないかって考えたんだよ。まあ普通に考えて無茶苦茶だし、ほとんどは途中で頓挫したんだけどね。いいところまで行ったものもある。それの一つがドナウブルーなんだろう」

 

 古代人の遺跡はその多くがマナを別世界から取り入れるための機構がある。勿論、そうでなく自然に開いた孔も存在するだろうが、人為的に開かれていた次元孔のほうが制御機構がある分扱いやすい。

 マクスウェルの証言によれば、ジェスターは解放戦線を結成するための前準備として多くの古代遺跡を下調べしていた。だからドナウブルーが占拠されたのも決して偶然連中がやってきたのではなく、元々計画されていたものの一つと考えられる。

 

「それじゃあ班分けだ。今回は相手側もそれなりの規模が想定される。こっちは留守番のスパイク君を除いた五人。十六人態勢で乗り込むつもりだから、そちらからは王様を除いて十名選んでくれ」

「水棲種の例に漏れず、雷系統の敵と水中戦が重要になるだろうね」

「つまりヅッチーと!」

「私の出番ってわけね!」

 

 妖精とサイキッカーが名乗りを上げる。そもそも名乗らずとも内定しているようなものだが、やはり自己主張は大事である。

 

「んー、まずはヅッチー女王にヤエちゃんか。それならメニャーニャも確定で」

「おっと、先生直々のご指名ですか。それはそれは、断れませんねぇ……」

「頑張りましょうね、メニャーニャ」

 

 後輩との共同戦線にシノブがぐっとガッツポーズを取り、それに合わせてその豊かな胸元がたゆんと揺れた。

 

「ラプスが同行するなら、君にもいてくれた方がいいかな」

「また俺っすか、分かりましたよ。この中で付き合い深いの俺だけだからな」

 

 ラプスとのチームワークを考えてルークも加わる。何かと理由をつけて同行させられている感じがしなくもないが、ともあれやるからにはきっちりとやる。

 

「そうなるとヘルちんとミアさんにも入ってもらおうかな」

「ふふ、私たちの価値をよくわかってるじゃない。雷なんかよりも即死でバッタバッタとなぎ倒してやってもいいのよ。ギュっと締めてやりましょ、ヘル?」

「あのうねうねぬめぬめでぎょろっとした魔物の相手を、私にやれと申しますの!?」

「それよりもっと酷いのと戦ってきたでしょ。全く、帝都でバリバリに活躍していた君の姿はどこにいったのか……」

「いや、そのあれは都会のテンションというかぁ……デートみたいなものだからってはしゃいでたからで……。そもそもここまで来るのに暑くて疲れちゃってぇ……お腹いっぱいで一歩も動けなくてぇ……」

「はいはい。そういうのはわかったから行くぞリーダー」

「こういう時にリーダー呼びはズルくありません!?」

 

 などとほざいてはいたが、なんやかんやパーティに加えられるヘルラージュであった。

 

「うーん、でもなんかあれだな。戦闘スタイルが魔法に偏っててちょっとバランスが悪いね」

「それならわらわもどうかの。射撃はもちろん、ひとつワルツを踊るだけでこの大人数がいっぺんにバリ強化じゃぞ?」

「前々から思うけど、そのワルツも大概不思議だよね。なんで皆纏めて強化されるのか謎なんだけど」

「アイドルはバードの上級職じゃからのう。味方を鼓舞(バフ)って、敵には様々な弱体を付与できる。この隙の無さはまさに完璧で究極の――」

「はいストップ! ストップ!」

 

 何事か言いかけたドリントルの言葉をルークは慌てて遮った。とにかくこのお姫様も採用する。

 

「というか、物理役考えるならマーロウさん入れたほうがいい気がするんだがな。雷でいいだろ?」

「流石にマーロウまで入れるとほら、この前(第7層)の面子とほぼ同じになっちゃうじゃん。そういうのってあんまりよろしくないと思うんだよね。マンネリ防止的な意味で」

「すっげえギリギリの発言っすねそれ……」

「別にいいんじゃないですか? 普段は一部のメンバーばかり固定で戦争イベントの時だけ使わないキャラ使うプレイヤーの方が大多数ですって。よっぽどの物好き以外わざわざ使い分けとかしませんよ」

「もう完全にアウトだからその発現ンンン!? 何、今回そういう回なの!? 作者が忘れないうちにネタを全力投球(ブッコミ)していくつもりなのか!?」

 

 よりにもよってメニャーニャがヤバいことを言い始め、ルークのツッコミは切れ味を増し続ける。

 

「さて、これで七人まで揃った。あと三人を誰にするべきか……」

「私は? ねー私はー? 連携取るのに誰か足りてないと思わなーい?」

 

 後輩にお呼びがかかる中、ここまで完全にスルーされたエステルが駄々をこね始める。

 

「うーん、深人に炎はイマイチだし、というか水辺だし。フレイムウォールもそんなに使うとは思えないからなぁ……」

「すいません先輩、このパーティ11人用なんです」

「めっちゃ余裕あるだろ! ちくしょー、私だけ留守番とかひどくない!? ちゃんとフレイムだって活躍するって! とにかく一発燃やせばなんとかなるって絶対!!」

「思考が蛮族と大差ねえんだよなこのピンク」

 

 納得がいかぬとエステルはアルカナの腕にしがみつく。シノブほどではないが十分にたわわな二つの感触が伝わり、アルカナは内心ほくそ笑んだ。勿論エステルもそれを知った上での交渉術だ。その様子を見たウズシオーネの口からふひっ、という声が漏れたが、幸か不幸かそれを耳にした者はいなかった。

 

「仕方ありませんわね……わたくしがいれば炎の弱体化は完璧でしてよ?」

「ヴォルケッタちゃんが言うなら、まあ連れてくかぁ。それで良いマリーちゃん?」

「え、えぇ。別に構いませんが……」

「え、ちょ。なんかそっちには甘くない!?」

「学に励む若人には優しく、そして厳しく試練を与えるべきなのだよ……」

「私もまだピッチピチのヤングなんですけどー!」

 

 やっぱりただのロリコンではないのだろうか、この教師。

 

「それじゃあ、残り一人はマッスルに頼もうかな」

「任せな。へへっ、ここまでの人数を俺一人の背中で守るってのは責任重大だな」

「いや渡辺がアースウォール使えるし、シオーネちゃんも無敵技あるから多少耐久はできるけど、念には念をね?」

「そこで梯子外しますか!?」

 

 そうしてパーティも決め終わり、いざ出陣というところで少し良いかしら? と声がかかる。

 

「差し支えなければ、私たちを同行させてもらってもいいかしら?」

「福ちゃんと、ティーティー様をですか?」

「ティーティー様が行くならハオもついていくヨ!」

 

 二柱の申し出にローズマリーは首を傾げる。保護者的な一歩引いた目線を保ち、王国の方針にはあまり口出ししない彼女たちがこうして積極的に何かを訴えてくるのは珍しく、逆に言えば彼女たちが自発的に助言をする場合それはある種の神託に等しいわけで。

 

「うむ。この辺りに来てから感じられる水気があまり良くない。どうも嫌な予感がするのじゃ」

「何かあった時に私たちが備えていた方がいいと思うんです。だから戦闘には参加できないと思って、言うのが今になっちゃったんだけど、どうかしら?」

「お二方がそこまで言うんですか……先生その辺どうです?」

「どれどれお星さまっと。……む、これは」

 

 メニャーニャの言葉にアルカナが杖の先の天球儀を見せてから霊子星術による簡易的な未来演算を行う。惑星の配列が動いてあるパターンを形成し、さらにはいくつかの小さな光点がぽつぽつと浮かびあがった。

 

「むむ、星辰が揃っているな。水星と火星と土星が正三角を描き、さらにはいくつかの小惑星がこれらと重なって陣を描いている」

「パッと見じゃ何にもわからないわね……」

「惑星だけならともかく、ここまで精密に星を詠むには専門知識がないと無理だよ。とはいえ、これはちょっとまずいかもしれん」

 

 しかめ面で星の並びを凝視するアルカナの様子は、先の神様たちの不安を裏付けるには十分で。

 

「あの……星の並びと召喚術って何か関係があったりするんですか?」

「あるわよ。マナっていうのは世界に満ちる生命エネルギー。ひいては天体そのものが持つ生命力なわけだけど、それは他の並び合う星と互いに影響を及ぼしているの。月の満ち欠けがアンデッド系の魔物の活発さに影響するのは最もたるものよね。召喚術はそもそも宇宙上の距離とかは無視して道をブチ開ける技なんだけど、やっぱり色々と限界はあったりする。でも上手く星の並びを利用して召喚術を用いれば、普段なら届かない場所からの召喚も不可能じゃないらしいわ」

「普段なら届かない場所って?」

「それは……魔界とか、天界とか。そういうところかな?」

 

 ローズマリーの疑問には代わりにエステルが答える。とはいえ、それは召喚術という観点からすると聊かマイナーな分野なので師から多少聞きかじっただけの知識では尻すぼみになってしまったが。

 

「つまり、向こうが召喚術でより強力な魔物を召喚している可能性が?」

「ジェスターも同じことに気が付いていたらな。霊子星術そのものが使えなくても、知識だけで悪用なんて如何様にも思いつくさ。これは、悠長な真似はしていられんか」

 

 幸いなのは、この日が過ぎてから事態の解決に乗り出さなかったことか。

 

 得体の知れぬ焦燥を胸に、一同は海岸を進み始めるのであった。

 

 




 流石に道中で全員は書けない……でも七人選出も難しい。せや、疑似的にパーティを分割して人数倍にすればええやんけ!→結局戦闘外で増えるメンバー。

〇ラプス
 腕っぷしが強くて料理もできてぶっきらぼうだけど面倒見がよくて実は結構乙女な褐色お姉さんは好きですか? 独り立ちしてから出会った男衆が悉くダメ人間なので興味がそっち寄りだったり。
 ドナウブルーの料理は別にケチつけるつもりはないけど冷やし中華は認められないらしい。

〇召喚術と星辰
 二次創作です! まあそれっぽいこじつけというか、なんか無茶苦茶やる時はこういうことがあるんだよ、なんだってー!? ぐらいの話です。
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