ざくざくアクターズ・ウォーキング   作:名無ツ草

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どうにか早めに仕上げられました。ザンブラコ編、後編です。


その9.タコ、すなわち海の悪魔

 海岸洞窟へと到着したデーリッチ達が見たのは、妖精達が道を封鎖しようとする様子だった。

 後ろからやってきたプリシラ達から話を聞くと、なんと港町からここを封鎖するという仕事を妖精王国が請け負ったのだという。

 

 危険な遊びは制限するべきだというプリシラに対し、海の男達が代々行ってきた真剣勝負なんだと主張するベル。双方の主張は決して交わらない。ザンブラコの状況をに付け込んだとはいえ、妖精王国も相応の根回しや努力を行って勢力を築き上げたのだ。

 

 プリシラはこちらの価値観を通すこともまた真剣勝負であると言い、ならばと妥協案をハグレ王国に……いや、妖精王国のリーダーであるヅッチーに持ちかける。

 

 即ち、ここ封鎖するのか通るのか。

 自分達とハグレ王国、どちらが正しいのかを彼女に決めさせることにしたのだ。

 

 この問いに思い悩むヅッチー。

 彼女は妖精たちを統べる女王だ。その言葉、決定は妖精王国そのものの言葉であり、そしてプリシラの方針に異を唱えることは現在の妖精たちを否定することでもある。

 

 浪漫と博打を取って妖精達との亀裂を決定的なものにするのが良いわけがない。町の活気を取り戻す方法ならほかにいくらでも考えられ――

 

「――いや、それは違うな」

 

 そんな、自分らしからぬ答えは切って捨てた。

 プリシラの、妖精たちの想像する自分は何と答えるか?

 

 通りたい? 通りたくない?

 

 全く持って論外。

 そうやってうじうじしていること自体が、自分らしくもない。

 

「悩まねえもんな……通りたいって思えば通る! 面白さ優先主義! そいつが、ヅッチーってもんだぜ!?」

 

 プリシラと喧嘩はしたくないが、自分を曲げることもできない。

 ヅッチーの答えにプリシラは何度も確認を取る。

 明らかに別の意図を含んだ確認。再三も聞くなとばかりにヅッチーは即答で返す。

 自分の思い。妖精王国の本来の在り方。こんな手段に頼らなくても自分たちはやっていけるのだとわかってもらうために。

 

 そうしてプリシラは折れた。

 彼女は最終的に通っていいと許可を出してその場を去った。

 

「……バイバイ」

 

 その目に、一つの未練を残したまま。

 

「よ、良かったんでちか、これで?」

「良かったんだよ。自分の喧嘩にお前達まで巻き込んだら、それこそ三日は後悔するわ」

「それでも三日かよ……」

 

 何か後味の悪いものを感じたデーリッチに、悔いはないと笑うヅッチー。

 

「ところで、大明神は口を挟まなかったけど、よかったんですか?」

 

 ルークは妖精王国の発展のきっかけであるかなづち大明神に問いを投げる。

 妖精たちから追放されたとはいえ、保護者のようなものである大明神は、ヅッチーに助言かあるいは諫言を与えるだろうと考えていた。しかし実際はただ見守っていただけ。

 大明神ならまた別の方策を示せたのではないか? というルークの視線に、大明神は自分の思惑を口にする。

 

「私が何か言ったところで意味はないですよ。あくまで私は妖精を見守る神です。二人の問題に口を挟んでしまっては、むしろ彼女たちのためになりませんよ」

「成程。たまには神様らしい立派な事言うんですね」

「これで普段のセクハラが無くなってくれればね……」

「セクシーは私の生きる目的ですよ!?」

 

 一同は気を取り直し、洞窟へと足を踏み入れる。

 

 ――ここで一つ誤算があったとすれば、

 ヅッチーの選択は『ヅッチーの率いる妖精王国』であれば最善だったが、『プリシラが率いる妖精王国』としては最悪だったということだ。

 

 

 

 

 

 

 海岸洞窟に入った一行は、上流に向かって流れていく海水に違和感を覚える。

 

「下から上に流れるとは、これもその大ダコの仕業か?」

「いえ、そんな事は聞いたこともないなぁ」

 

 ルークの疑問をベルが否定する。

 例年海の男たちがあの大ダコと戦ってきたが、海そのものに不自然な変化があったという噂は聞いた覚えがない。

 

「そうか、デカイ魔物とかが水を吸っていると思ったがやっぱり違うか……」

「まさか、そんな子供じみた発想が……ん、吸い上げる?」

 

 ルークの発想を笑おうとしたエステルだが、ふと何か思い当たったように黙る。

 

「エステル、どうしたんだい?」

「……何でもないわ」

「そうか、大ダコも棲み処にいるとは限らないみたいだからね。今はそっちに集中しようじゃないか」

 

(((……水の流れに、吸い上げる。嫌な予感がするわね)))

 

 その後、大ダコ退治の前に一行はメンバーの編成を組み直す。

 エステルが同行したいという旨を伝え、彼女を組み込んだパーティでデーリッチ達は棲み処である洞窟奥地へと乗り込んだ。

 

 だがそこで、彼らは驚愕のものを目にすることとなる。

 

「おい、なんだあの大きさは!?」

「ここからじゃ足しか見えないけど、相当な大きさだね」

「成程、筋肉の発揮しがいがあるぜ」

 

 水面から飛び出している巨大な蛸足に驚愕するルーク。

 ジーナが全体の大きさを目測し、ニワカマッスルの筋肉が力比べに湧き立った。

 ベルは近くにあった桟橋へと駆け寄り、何かを確認する。

 

「ああ、良かった。まだ舟は無事だった……!!」

「えっ、こんな小舟で行くんでちか!? だめだー! 死ぬ―っ!」

 

 それは舟だ。しかしボートと呼んでも差し支えないほどに小さな船だ。

 巨体に立ち向かうには明らかに頼りない小舟を前にデーリッチは慌てだす。

 

「落ち着いてください、デーリッチちゃん! 海の男たちはいつもこの小舟で戦ってました!」

「ああ、全敗の理由が今分かった……こりゃギャンブルじゃなくてただの沼だ」

 

 自信満々に言うベルにルークは仮面の上から目を覆って天井を仰いだ。

 

「勝負は時の運です! 今度こそいけます!」

「その前にもっと人事を尽くそう!? ルーク君何か持ってたりしないでちか?こういう時の秘密道具!」

 

 流石に無謀だとデーリッチが止めに入り、何かうってつけのおたからが無いかルークに尋ねる。

 

「なんで俺に……? 残念だが、こんな状況に対応したおたからは流石に無いな。それとも、コレを使うか?」

「確率8/9でこっちに当たる弾丸はダメでち!!」

 

 ルークが取り出した【死の弾丸】を却下し、頭を抱えるデーリッチ。流石にジョークである。

 

「待って、デーリッチ。何だか様子がおかしいわ……」

 

 エステルの言葉で大ダコに目を凝らす一行。

 そこで大ダコは何かと既に交戦しているのか、その足をざわざわと動かしている。

 

「ん……角度が悪いな」

「ちょっと借してください……これは、こちらに向かって泳ごうとしているのでしょうか?」

 

 ルークが取り出した双眼鏡*1を受け取ったかなづち大明神が、その体躯を活かして観察すると、どうやら大ダコは潮の流れに抗っていることが分かった。

 

「そこまで急な流れかな……?」

 

 見たところゆっくりとした潮流にあれほどの巨体が流されるとは思えない。ローズマリーが疑問を抱いていると、目標の大ダコは洞窟の奥へと流れていってしまう。

 

「い、行っちゃった」

「追いかけましょう!」

 

 何らかのトラブルが起こっているのなら逆にチャンスだとベルが勢いよく小舟に乗り込む。続いてハグレ王国も乗り込むが、いかんせん8人も乗り込むことは想定されていない。巨体の大明神がいるならなおさらである。

 

「あっ、待てって。仕方ねえな!」

「せっま!」

「ああ、すみません。重心が偏るのでそっちによってもらえないでしょうか」

「そんじゃあたしはここで」

「オイオイ、まあ仕方ねえか」

 

 ハピコがマッスルの上に乗っかる形でどうにかこうにか八人乗り込んだ小舟をつなぎ留めていた岩から外す。

 

 すると、漕いでもいないのに小舟はぐんぐんと進んでいく。

 

「はぁ!?」

「やっぱり水流がおかしいってぎゃわあぁあ!?」

「な、なんだあれは!?」

 

 一行の目に映ったのは、大ダコに塞がれる形で空中にぽっかりと開いた黒い穴。

 どうやらあの穴に何もかもが引き寄せられているらしく漕いでも漕いでも小舟は流れに逆らえない。

 

「てことはだ……」

「ああ、穴が潮の流れを変えてしまっている……。最近、急に魚が取れなくなった原因はおそらくこの穴だ!!」

「でも姐御、具体的にどうするんですかい!?」

「そうだな……、イメージとしては次元の裂け目なんだが……」

「次元の裂け目……?そうか、それだわ!」

 

 ローズマリーの発言にエステルは気づきを得た。

 水は空気よりも含まれるマナの量が多いため、召喚に用いられるような世界の穴であるならばそこに水が流れ込んでもおかしくはない。

 ひとまずは次元の穴だと仮定して対処するとして、それをエステルの召喚術で塞げないかとローズマリーが尋ねる。

 

「こんな水面でどうやって魔法陣を描くのよ!」

「とりあえず攻撃してみますか!?ひょっとしたら何か通じるかもしれない!」

「そうだな、やってみよう!」

 

 大ダコを避け、黒い穴に特技と魔法を放っていくハグレ王国。

 マナ的に塞がっているからか、次元の穴に物理的な干渉を行っても穴に呑み込まれるということはないようだ。

 しかし特にこれといった手ごたえが確かめらない。

 このまま攻撃を継続するかとローズマリーは考えていると、穴から発生する雷がデーリッチに集中していることに既視感を覚えた。

 

「そうだ、ヘンテ鉱山の召喚装置! あの時も確か、デーリッチが狙われていた!」

「ああ、あの時のか!」

「てことは、デーリッチの鍵が効くってか!?」

 

 その発言に当時の状況を知る何人かは思い出した。デーリッチのキーオブパンドラは召喚装置の機能を停止させることが可能で、それに対するカウンターとして召喚装置も暴走を始めていた。この次元の穴から発生する雷も、そうした強制的に穴を閉じる外部要因へのカウンターと考えられる。

 つまりキーオブパンドラがこの次元の穴に干渉できるということであり、、ブリギットの発言からもこの鍵が召喚魔法で生み出された次元の穴を閉じるために作られたものであることが判明している。文字通りこの状況を打開する鍵だ。

 

 しかしそんなことは感覚で使用しているデーリッチにはわかるはずもなく。

 

「どどどどうやって!? 特別な技とか知らないでちよ!?」

「分からんのなら、とにかく叩きつけてみろ!」

「そうだぜ、筋肉に任せてドカンとやれば何でも解決するはずだ!」

 

 つまり力押しである。

 ニワカマッスルほどではないが、ローズマリーも大概のごり押し思考だ。

 

「なんじゃそりゃあ!?」

「てことは思いっきり近づく必要があるな、どうする?」

「はいはい、あたしが運びますよっと!」

「うわっと!?」

 

 ハピコがデーリッチを足で掴み、空中を飛んで穴へと近づいていく。

 

「でこっち、行ってきな!」

「うわわわ……っ!!ええい、宇宙の果てまで吹っ飛ぶでちーー!!」

 

 デーリッチは体ごと振り回すように限界突破フルスイングを次元の穴へとお見舞いする。

 すると穴は明らかにその大きさを縮めていく。効果は抜群だ!

 

 

「よし!一斉攻撃だ!」

 

 

 仲間達の攻撃を当てる度に穴は縮小していく。そして何度目かの攻撃が当たった途端、穴は縁から内側へと崩れていくようにして塞がっていき、最後には元通りの洞窟の風景のみが残された。

 

 その後、激闘による衝撃で小舟が浸水して沈んでいくアクシデントが発生するも、小舟を大ダコが拾い上げてくれたことで無事陸地へと生還したデーリッチ達。

 タコ足を持ち帰ることはできなかったものの、それよりも大きな収穫を得てハグレ王国はザンブラコへと帰ることにしたのであった。

 

 

 

――それから二日後。

 

 

 街のたこ焼き屋ではハグレ王国を主賓としたたこ焼きパーティが開かれていた。

 

 潮の流れが元に戻った事で不漁も解消され、これからまた漁業で賑わうことになるということで町の問題も解決した。

 これでもう憂うことなしとベルの送別会も兼ねて盛大に祝っていたのだが……

 

「もう、ルーク君がいないなんて」

 

 はむっとたこ焼きを頬張りながらヘルラージュは相方がこのパーティに不在であることの不満を口にする。

 

「仕方ないさ。あの洞窟の調査にエステルの護衛として同行しているんだからさ。それに彼だけじゃないだろ、一緒に行ったのは」

「それでもお」

 

 彼がエステルの都合を優先したことに納得のいかないヘルラージュ。

 ルークはエステルが洞窟の調査に行くと言った時に同行を願い出た。彼女が心配というよりは、トレジャーハンターとして自分も探索がしたいという動機からだろうが。

 

「もういいです。帰ってくるまでに全部食べてしまいますわ」

「食べ過ぎは太りますよ……?」

「え、そうかしら?」

「……んん??」

 

 ピクッ、とその発言に福ちゃんが反応するのを気にも留めず、ヘルラージュは次のたこ焼きを口に運ぶのであった。

 

 

 

――海岸洞窟

 新造の舟に乗り込み、調査へと向かったエステル。

 その護衛として、ルーク、ヤエ、ジュリアの三人が同行している。

 

「ふむ、とくに怪しいものは見当たらんな」

「わたしのアンテナにも引っ掛かるものはないわ」

 

 目星に長けるルークが双眼鏡で辺りを見回す。

 ヤエもサイキックで探索を試みているようだが、全くもって相手にはされていなかった。

 

「……ん、なんだあれは?」

「えっ、どこどこ!?」

 

 何かを発見したルークの手から双眼鏡をひったくり、エステルはその方向を確認する。

 

 そこにはある大きめの岩礁に何らかの柵が設けられ、その中に何かが浮かんでいた。

 

「あれは……!」

 

 エステルは舟を着け、上陸してその物体を近くで見る。

 予想通り、それはかつて地下遺跡にあった緑色のタマネギめいた植物であった。

 

「やっぱりこれか。ご丁寧に柵までつけちゃって、まぁ……」

「おい、これって……」

「地下にもあったあれだよ。ここでマナを極限まで高めて、本来のマナの流れ――つまり潮の流れを逆転させたわけか。全く、とんでもないことをするな……」

 

 この光景を見れば、今回の事件のあらましはおおよそ推測できた。

 この植物を用いて洞窟内のマナ濃度を高め、本来ならばこちら側へと流れ込むはずの召喚術を逆転させた。潮が逆流していたのはその副産物だ。そしてエステルはそれを行った人物について思いを馳せる。

 

「どうするよ、一方通行だったマナの流れを逆にできるなら、召喚だってもう一方通行のものじゃない。シノブがその気になれば、この世界の人間をハグレとして別の世界に送り込むことができる。これで、覆ったじゃん……私たちの優位性、安全性は……」

 

 このままいけば、シノブはこの世界のハグレの立場をひっくり返すことができる。

 そうなれば、ハグレと比較して非力なこの世界の人間はどうなる?帝都は、協会はどう反応する?

 

「先生は、多分知ってるんだろうな。あんだけ可愛がってたシノブを引きとめもせず、一体何考えてるんだろうなあの人は……」

 

 おそらくその事実に自分よりも早く気が付いていながらも、それを止めようとはしない自分達の師について考える。

 

――シノブ、エステル、メニャーニャ。私はこのゼロキャンペーンに期待しているんだ。魔物がこの世界に発生するプロセス。それを知り、制御することができるのなら、きっとハグレ達の問題も解決できるとは思わないか――?

 

 自分達が精力的に行ってきた活動の延長にこの結果がある。ならばハグレがこの世界から出ていけるようにするのは、アルカナの目的の一つなのだろうか――?

 

「……おい、何かいるぞ」

 

 自分たち以外の気配に気が付いたルークが短剣を構え、他の面々も警戒態勢に移る。その言葉で思考に没頭していたエステルも顔を上げて杖と札を構えた。

 

「まあまあ。あまり物騒にしなくても大丈夫だお」

「誰ッ!?」

 

 自分たちとは反対方向の岩影から聞こえた声。

 靴音が響き、それが次第に近づいてくる。

 

「先客がいるかと思えば……エステル殿だったか」

「久しぶりだおね。エステルちゃん」

 

 姿を現したのは、紫の猫人と体格の良い戦士の二人組だった。

 なかなか奇妙なその二人にエステルは見覚えがあった。

 

「あんた達は確か先生の……!?」

「覚えていてくれてうれしいお」

 

 エステルの言葉に、機嫌を良くする大男。元から浮かべている人当たりの良い笑みが、さらに深まったような気がした。

 

「エステル、この二人は知り合い?」

「ああ。ブーンさんとロマさん。先生が昔から贔屓にしてる冒険者達だよ」

「吾輩がヴァイオレット・ロマネスクである。こちらの白饅頭が――」

「ブーンだお。そっちはハグレ王国の皆さんでよろしいかお?」

「……ええ、その通りですよ。どうやら私達の事はご存知のようだ」

 

 ルークが答える。

 先ほどの崩けた物言いとは正反対に丁寧なその口調は、彼が仕事状態、あるいは最大の警戒を向けていることを意味する。

 大柄の戦士は知らないが、猫人の方についてはルークも良く知っている。彼は歴戦の冒険者であり、決して油断ならない相手。そして彼に同行している戦士もまた、かなりの実力者であることを彼は瞬時に理解した。

 

「ふむ、お主は《おたから使い(ガジェットマスター)》だな? 新人気鋭のハグレ王国と聞いてはいたが、そのような人材まで引き入れているとは意外であるな」

「おや、そっちの顔をご存知とは。ありがたいことです。……それで、貴方がたはどのような要件で此処に?」

 

 尊大とも言える口調で、ルークの素性を当てるロマネスク。

 それに動じることなく、ルークは相手の目的に探りを入れる。

 

「シノブ嬢の実験が何かしらの悪影響を及ぼしておらぬか、確かめに来たまでの事」

「まあ、当の本人はいないんだけどおね」

 

「なっ……!?」

 

「案の定、厄介ごとを起こしていたようだな」

 

 ルークは少しばかり呆気にとられる。

 流石に何か誤魔化すだろうと予想していたところ、ハグレ王国にとって重要人物であるシノブの関係者であることを隠さなかったからだ。

 

「ほう? つまり君達はこの異変に少なからず関わっていたということかな?」

「いや、僕達はここを見にいけと言われただけだお」

「それは誰の依頼で? シノブ殿か? あるいは……」

「依頼主の情報を話すのは傭兵としてご法度だお。ジュリア隊長ならその辺わかっているはずだお」

「……やれやれ、相変わらず律儀だな。ブーンは」

「君ほどじゃないお」

 

 詰め寄ろうとするジュリアをブーンが止める。お互い顔見知りらしいが、傭兵である以上油断というものはない。

 そこで、冒険者二人が特に様子を伺っているわけではないことに、ルークは気が付いた。 

 

「……ここを調査しにきた自分達を止めに来たわけではなく?」

「そこまでは聞いておらん。好きにすればいいだろう。どうやら、ここも放棄された後のようであるからな。むしろこれ以上面倒を起こす前に、処分してくれるならむしろ都合がよい」

 

 緑タマネギを一瞥するロマネスク。

 今も水を取り込み、マナを蓄えているその植物はなお瑞々しさを増しているように見えるそれを不要だと言ったことに、エステルは目を丸くした。

 魔力の大元であるマナをたっぷり含んだそれは、研究資料や魔術媒体としての価値は魔術師なら垂涎の代物。彼らはアルカナの指示でシノブが放棄したそれを確保しに来たのだと思っていたからだ。

 

「え、いらないの?」

「こんな大きなものを持って帰る用意はしてないんだお」

「とは言え、こんなに潤沢にマナを蓄えた代物を放置しておいて、野良の魔術師に悪用されるのもそれはそれで危険である。ならば少なくともアルカナ殿の弟子であるお主に一任するのが得策であろう」

「……嘘は言ってないようですね」

「理解してもらえたようで助かる」

 

 では吾輩達はこれで失敬する。と、踵を返して岩の向こうへ立ち去ろうとするロマネスクとブーン。

 

「待って! 先生は今――」

 

 エステルは慌てて呼び止める。

 彼らは親友と師について大事な情報を握る相手だ。

 ここでタイミングを逃せば、次はいつになるのかわからない。

 不安に駆られる彼女へブーンは振り返った。

 

「いつも通り、協会にいるお。会いたかったら顔を出しにいけばいいじゃないかお?」

「……っ、それは、そうだけどさ……」

 

 言われたことは確かに正しい。

 すでにエステルの指名手配は解けているのだから、シノブはともかくアルカナにはいつでも会えるはずなのだ。

 だが、エステルには迷いがあった。

 親友の事について、師を頼るのは気が引けるし、何よりも親友の助けとなれなかったくせに合わせる顔などない。

 そんなエステルの逡巡を見透かしたようにブーンは一つため息をつき、

 

「ま、彼女の事だお。来るべき時が来たら向こうからやってくるお」

 

 また会えるのを楽しみにするお、と別れの言葉を残してロマネスクとブーンは舟で去っていった。

 

 岩場に静寂が戻る。

 エステルはどっと疲れたように肩を落とした。

 

「……はあ」

「リラックスしているようで油断も隙もない。いつでも戦闘に移れるって感じだったな」

 

 緊張が解け、額の汗を拭いながらルークが言うと、ジュリアも同意を示すように頷いた。

 

「ルークが襲い掛かっていたら、容赦なくブーンに組み伏せられていただろうな。彼はああ見えて修羅場を相当潜ってる戦士だ。私も、駆け出しのころはよく組手をしてもらったよ」

「ジュリアさんが駆け出しの頃からの付き合いって相当じゃねえか……」

 

 歴戦の彼女ですら世話になったという相手が明確に敵対していなかったことにルークは感謝した。

 

「全く、噂をすればなんとやらって感じよ。シノブや先生のことについて考えていたら関係者がやってくるだなんて」

 

 シノブとアルカナ。

 エステルが知る中で最も強力な魔術師が行く先々で痕跡を残している状況は、自分達の知らない所で物事が動いていることを実感させた。

 

「というかアレは確か《紫風》のロマネスクか。そんな大物まで雇えるとか、どうなってんだお前の先生とやらは」

「知ってたの? ロマさんのこと」

「単独で遺跡に乗り込み続ける冒険者だって有名だったのさ。少なくとも、今の俺たちじゃあかなわん相手だ」

「只者じゃないとは思ってたけど、そんな奴だったのね……」

 

 聞けば聞くほど、先ほどの二人についての情報が増えていく。情報網が広いジュリアとルークだからというのもあるだろうが、それを差し引いても彼らが相当に名の知れた熟練冒険者であることは明らかだった。

 そして、そんな相手を「様子見」として顎で使えるエステルの教師は何を企んでいるのか。もはや彼女はどことコネクションを結んでいてもおかしくはない。昼行灯のようでいて、水面下では糸を引きまくっている相手など、考えるだけで頭が痛くなってくる。

 本当に、シノブの支援をしているだけならどれほど良いだろうか。

 

「ま、ひとまず帰りましょ。このままだと私の分のたこ焼きが無くなってしまうわ」

「……そうだな。はあ、ヘルのやつ機嫌を悪くしてないといいが。拗ねると面倒なんだよなぁ」

「別についてこなくても良かったんだぞ?」

「馬鹿言え、こういう場所にこそ値打ち物とかがだな……」

 

 

 

 

 

 

 大陸の南、とある海岸にて

 

「それでは私はこの辺りで!」

 

 そう言って何者かが海へと去っていった後、ロマネスクとブーンは息も絶え絶えに小船から降りる。

 

「ぜえ、ぜえ」

「全く、彼女に運んでもらうと体力を使うであるな……」

「一番速いのは確かなんだけどおね」

 

 息を整え、依頼主たるアルカナの下へと二人は足を進める。

 

「ところで、ブーンはどうするのであるか?」

「何の事だお?」

 

 唐突なその質問に、ブーンはきょとんとして問い返した。

 

「シノブ殿やアルカナの計画についてだ。吾輩はどうなろうと構わぬが……」

 

「僕も同じだお」

 

 ブーンの即答に、ロマネスクの瞳孔がさらに細くなる。

 

「……意外であるな。お主はそれなりに未練があると思ったが」

「何言ってるお。どんな世界であっても、その世界での役割を全うする、それが僕たちだお」

 

 まるで自分を役者のように表したブーンの価値観は独特だ。正確には、アルカナに召喚されたハグレの3人に共通した価値観というべきか。

 達観と誇りをもって語られた言葉に、ロマネスクはブーンの強さを再確認した。

 

「ははは、そうであったな」

 

 この世界のハグレの中でも、ひと際特異な世界からやってきた二人はそうやって笑いあった。

 

 

*1
工作のおたから、【覗き屋の双眼鏡】。透視効果がある




ルーク
 エステルやヤエ、ベルなどには素で会話する。取り繕う必要がないだけだが。
 他の王国民にはまだ敬語交じり。

ヘルちん
 独占欲とか強そう。

ロマネスク
 前に登場したときはヴァイオレット呼びだったが(※修正済)、元ネタとしては杉浦ロマネスク。
 冒険者としての実績が10年間もあるのでルークもそれなりにリスペクトしている。

ブーン
 傭兵としての人間関係が広い。
 ブーン系はスターシステムなので違うジャンルの世界でもお互いを認識していたりするとかそんな感じの設定。なので別世界に召喚されても「今回はそういうジャンルなのね」というメタ上等の価値観を持っている。とは言っても自分達をフィクションの存在と認識しているわけではない。

シノブ
 今回の事件の原因。
 流石に町の経済に影響与える実験はダメだと思うんです。
 裏でアルカナに指摘されて反省中。

アルカナ
 存在感はバリバリの人。
 妖精王国にいる間も協会の仕事とかは舞い込んでくるらしいよ!

舟を牽引していたスキュラさん
 アルカナが高速水上タクシーとして手配していた。
 一体何シオーネ先生なんだ……?

次は原作でも最初の総力戦イベント……の前に拠点イベントを挟むかも?
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