暖かくなってきた季節。
初心者冒険者で賑わうアクセルの街に、1人、部屋から出てこない男がいた。
「カズマさーん。ご飯できたからここに置いとくわよー。」
ドアの前に、作った料理のスープが溢れないようそーっと置くアクア。
「今日のご飯は私が作ったからー。残したら嫌だからねー?」
返事が返ってこないか体を横に揺らしながら待つも、一向に返ってくる気配ない。
ずっとドアの前にいては料理をとりに来れないと思い、心配そうな顔で何度も振り返りながら、居間へ戻っていった。
「アクアー。カズマの様子はどうでしたか?」
「今日も出てこないわ。何がなんでも出てこない気ね。物音一つ聞こえてこなかったわ。」
1週間ほど前、突然カズマは部屋から出てこなくなった。
「ここまで引きこもるカズマは初めて見たな・・・。本当にどうしたのだろうか。」
「一応食べてくれているみたいですし、部屋にはいるみたいですが、どうしちゃったのでしょうね・・・。ちょっと、寂しい、です」
カズマの席だけ空いたテーブルの席に腰をかける3人。
いつ部屋から出てきても一緒にご飯を食べられるよう、3人は晩ご飯の際、カズマの分の料理をいつもの席に置き、テーブルを囲って待っていた。
「この分だと明日もダメそうね。いつまで昔のカズマさんになっているのかしら」
ため息をつきながら、どことなく寂しそうな顔をするアクア。
「カズマのことですし、変に言いふらすようなマネはしたくなかったのですが、これは何かあったのか聞き込みをするしかなさそうですね」
カズマの部屋の方向を見ながら、そう呟くめぐみん。
「このままだと何も進展することもなさそうだしな。私も手伝うぞ」
最近顔を合わせておらず、何度もカズマの部屋の前を通りかかるようになったダクネス。
カズマが引きこもり始めてからと言うもの、日にちが経つにつれて3人は徐々に元気がなくなっていった。
「よし、決めたわ!明日、ギルドで聞き込みをしましょう!カズマさんはなんだかんだで顔が広いんだし、手がかりの一つや二つ、簡単に手に入るわ!」
「そう・・・ですね!もし、変な女に恋をして振られて引きこもったなんていうしょうもない情報が手に入ったら、ドアを突き破って服を剥ぎ取って、引き摺り回してやりましょう!」
「そ、そこまでしなくてもいいんじゃないか?!」
聞き込みをすることにした3人は、朝早く起きるため、少し冷めてしまった料理をかきこむのであった。
翌日、アクアが寝坊しお昼になってしまったが、ギルドに行き聞き込みを始めた。
「あまり情報が集まりませんね・・・。引きこもる前も、寒くて家にいることが多かったからかもしれませんが、目撃情報自体少ないですね。2週間前に飲み屋でみたという情報はありましたが」
「クエストを受けていなかったしな。外に出る機会がほぼ無かったのだろう」
「セシリーやお世話になったバイト仲間の人達にも聞いてみたけど、手がかりなしだったわ・・・」
昼という事もあり、ギルド内には昼ごはんを食べている冒険者でごった返してはいるのだが、決め手になるような情報は集まらなかった。
「とりあえず、飲み屋に人が集まる時間になるまで待つしかないですし、ご飯でも食べに行きませんか?」
「そうだな、ひとまず英気を養っておくことにしよう。それでいいな、アクア?」
「うー・・・そうね、そうしましょう・・・」
カズマとは長い付き合いだからだろうか、アクアはまだ情報収集していたいそうだ。
情報収集の協力してくれた冒険者に礼を言い、ギルド出ようと扉を開けようとしたその時、見慣れた2人組が先に扉を開けた。
「あれ、お前ら久しぶりに見たな。今まで何してたんだ?」
「あら、3人とも久しぶりね」
クエストから帰ってきた、ダストとリーンだ。
「え、カズマに何があったのか知らないかだって?」
単刀直入に、アクア達は質問した。
「最近ね、元々ヒキニートだったカズマが進行系ヒキニートに戻っちゃったのよ。引きこもる前まではよく夜遊びもして失った時間を取り戻すように楽しんでいたのに、急によ!それで、だらしない仲間のあんたにカズマの身に何かあったのか知ってると思って聞いてみたんだけど。」
「だらしないとは失敬な。今日も俺は稼いだ金で遊んでいただけ・・いたっ!?」
隣に座っていたリーンがダストの足を踏んだ。
「それはパーティーメンバーの私が払ったんでしょ。私が払わされることになっちゃったんでしょ!何回目よ!もう・・・。ごめんね、真剣な話なのに水差しちゃって。」
疲れてた顔で言うリィン。
「大丈夫よ。カズマで慣れてるわ。それで、何か心当たりはないかしら?」
足の痛みに悶絶しながら、ダストは答えた。
「すまねぇが、俺は心当たりないわ。最後に見たのは2週間くらい前だが、あんときゃめっちゃ楽しそうにしてたしなー。サシで飲んでたんだけどよ、たらふく食って飲んでバカ騒ぎしたが、とてもだがそんな状態になるとは思えないな」
本気で蹴りやがって・・・と小さい声で呟くダストの足を再び踏むリーン。
「えっ!飲み屋で目撃情報あったけど、カズマと飲んでいたのってあんただったの!?」
バンっ!と机を叩き、ダストを問い詰めようとするアクア。
「そ、そうだよ悪いかよ!男の付き合いは大事なんだ!何かおかしいか!?」
疑いの目で見てくるアクアの視線に、ダストは少しだけ萎縮した。
「落ち着いてくださいアクア!あ、あの、ダスト・・・さん。カズマは悩みか何かを打ち明けてはいませんでしたか?酒の席で、愚痴の一つや二つ、こぼれていても不思議ではないと思うのですが・・・」
情報を引き出すため、ダストの機嫌を損ねないよう丁寧に言葉を選び聞いてみるめぐみん。
「愚痴ねぇ・・・。そういや言っていたぞ。3人のお守りで大変だとか何とか。あとダクネスやめぐみんに襲われそうになるが結局何もない!欲求不満になるわ!て」
突然こちらに爆弾を投げられ、顔を真っ赤にする2人。
「べべつに私は襲っていませんから!ただ一緒にいたいなぁと思って行動しただけです!ダクネスは襲おうとしてましたけどね!!」
「わ、私は襲ってなんかないぞ?!ただタンスの中に入って待ち伏せしていたとか、そ、それぐらいだからな?!」
周りに人がいるせいか、いつもより早口になり反論する2人。
それを他所に。
「乙女になっちゃった2人は置いといて。ほんっっとうに、何も言ってなかった?それか何か言った?」
真剣な目で聞いてくるアクアに、ダストは、頭をかいて、真面目に答えた。
「これといって大した愚痴も悩みも言ってなかったし、俺も何も言ってねぇよ。酒飲んでたから忘れてることはあるとは思うが、カズマは楽しそうにしてたぞ。あいつは酒を何飲むことが何よりの楽しみだしな」
嘘は言ってないと気づいたのか、アクアは少し落ち込んだ。手がかりがなくなってしまったからだ。
「ほんとに?あんたの事だから、冗談言おうとして逆鱗に触れちゃうようなこと言っちゃったんじゃないの?カズマは誰かさんと違って優しそうだし、酒の席とはいえ気を遣って何も言わずに言いたい事飲み込んだとか?」
「だから何も言ってねぇって!お前達は知らないかも知れないが、俺達は仲がいいんだ!言いたいことはお互いに言うっつうの!あと誰かさんって誰の事だ!?」
今度はダストの機嫌が悪くなり始めてしまった。
まぁまぁとなだめるダクネス。少し落ち着いた後、めぐみんがリーンに声をかけた。
「あの、リーンはカズマに何か言われたり、何か悩んでいたそぶりを見たりはしませんでしたか?」
「うーん・・・。ごめんね、何か言われたり悩んでそうなカズマは見てないなぁ。」
やっぱり手がかりなしか・・・と落ち込む3人。
それを察したのかリーンが
「と、ところでさ、カズマはいつ頃から引きこもり始めたの?」
「そうねー。ちょうど1週間ぐらい前だったわ。そうよね?めぐみん、ダクネス?」
「えぇ、確かそうだったはずです。」
「あぁ、4人そろって晩ご飯を食べなかったのは昨日で7回目だからな」
「なるほどねー・・・。最後の目撃情報からして、こいつに会った日以来外には出ていないみたいだけど、ねぇ、あんたほんっっとうに心当たりないのよね?」
今度は爪先をぐりぐり踏みながら問い詰めるリィン。
「本当にないんだって!クドイぞ!だから足踏むのやめろ!」
痛そうにするダストに、アクアはヒールをかけようとするも断りを入れるリーン。
俺をもっと大事にしろよと涙目になるダスト。
「引きこもるようになるまではいつも通りでしたし、ダストが何か言ってしまったと言うことはないと思いますよ。感情が表に出やすい方ですから。何かあったら帰ってきた途端愚痴りますよ。」
一応フォローするめぐみん。
めぐみんと比べてお前はーと言いそうになるが、また踏まれそうなので我慢するダスト。
「しょうがありませんね。これ以上聞いても情報は集まりそうにありませんし、一旦引き上げてお昼ご飯を食べに行きましょうか。聞き込みはその後再開しましょう」
「それもそうだな。時間も勿体ないし、いったん休憩にするか」
めぐみんの意見に同意するダクネス。
「ごめんねー?大した情報もってなくて」
「大丈夫ですよ。カズマが楽しそうにしていたことはわかりましたし、少し気晴らしにもなりました。ありがとうございます」
「いいってことよ。カズマはダチだしな。礼なら何エリスか置いといてくれたらそれでいいよ・・・いった!?今度は耳引っ張るな!冗談だよ冗談!」
リーンがごめんねーと手を振って見送ってくれたので、手を振り返す3人。
「それにしても、振り出しに戻ってしまったな。カズマのやつ、一体何があったというのだ」
「カズマのことだし、引きこもっているのは普通だけど、本当にどうしちゃったのかしらね・・・」
「今は考えても答えは出ませんし、しょうがないです。ご飯食べた後、引き続き頑張りましょうか」
3人はギルドから出ようとしたそのとき、まだ耳を引っ張られているダストが「あっ!」と叫ぶ。
「そうだ、もしかしたら・・・」
ダストが何か思い出したのか、アクア達は振り返った。
「なに?あんた失言しちゃったこと思い出したの?」
「違えよ。カズマの身に何があったのか知ってそうな人を思い出したんだ」
めぐみんダクネスを置いていき、ダッシュでダストに駆け寄り胸ぐらを掴むアクア。
「誰!誰なのよその人って!!」
「おお落ち着けって!ほら!いるだろう!何でも見通す旦那が!人っていっていいのかわからんが」
3人の頭には仮面の男の名前が浮かび、アクアは心底嫌そうな顔をした。