無いもの貸し升!損料屋   作:紫 李鳥

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 空想に(ふけ)るお沙希の顔はデレっとしちゃって、まるでアホづらよ。あ~あ~、だらしねぇ。

 

「……お嬢さん?」

 

「ああああ、どうも。じゃ、お言葉に甘えて、明日、遊びに(うかが)います」

 

「ええ。お待ちしてます」

 

 

 

 翌日、お沙希は、箪笥(たんす)の肥やしになってる、山ほどある呉服の中から、

 

「どれにしようかな。か・み・さ・ま・の・い・う・と・お・り」

 

 と、人差し指が止まったのを選ぶと、お亀に着せてもらった。

 

 最後に、お気に入りの珊瑚(さんご)(かんざし)を挿すと、(しな)を作った。――

 

 

「……こんにちは」

 

 お沙希は、来る途中で棒手振(ぼてふり)から買った朝顔の鉢を手土産にした。

 

「は~いっ」

 

 中から、お稲の声だ。すぐに障子戸を開けたお稲は、お沙希を見るなり、満面の笑みよ。

 

「まぁ、お嬢さん。これはこれは、よくおいでくださいました。さあさあ、どうぞお入りください」

 

「これ。来る途中で花売りに()ったもんですから」

 

 鉢を差し出した。

 

「まぁ、キレイ。こんなことして頂いて、ありがとうございます。さあさあ、どうぞ。汚いとこですけど」

 

「では、失礼しま~す」

 

「太助はもうじき帰りますので、お茶でも淹れましょうね」

 

「どうぞ、お構いなく」

 

「さあさあ、くつろいでください」

 

「は~い」

 

 とりあえずぶりっ子か?

 

 お稲は朝顔を隅に置くと、

 

「まー、キレイ。掃き溜めに鶴ですね。ありがとうございます」

 

 と、涼しげな朝顔にご心酔(しんすい)だ。

 

「そんな大したものじゃ……」

 

 気が緩んだお沙希は、手を横に振りながら、じじぃみてぇな仕草で恐縮した。

 

 ったく。お沙希、じじぃみてぇになってるよ。(小声で教えてやる語り)

 

 

 お稲が団扇(うちわ)でお沙希に風を送りながら、たわいない話に花を咲かせていると、間もなくして、鯉口シャツに黒腹掛けの太助が帰ってきた。

 

 太助と目が合った途端、お沙希は頬を染めた。

 

「あっ」

 

 太助のほうも予期せぬ客に驚いた。

 

「……こんばんは」

 

 お沙希は正座をし直すと、恥じらうように俯いた。

 

「あ、こんばんは」

 

「太助、おかえり。母さんが無理矢理誘ったんだよ」

 

「そんなこと……」

 

「こんな小汚いとこに、ようこそおいでなすった」

 

「こちらこそ、こんな時分に伺って……」

 

 まつげをパチパチさせながら太助を見た。

 

「どうぞ、ゆっくりしてください」

 

 太助は、杓子ですくった水で手を洗うと、掛かった手ぬぐいで拭いた。

 

「さて、夕飯にするかね。お嬢さんも一緒に食べてくださいね」

 

 そう言って、お稲は膳を出した。

 

「ええ。遠慮なく」

 

「お嬢さんがいらしてくれたんだから、今夜は酒をつけるかね。お嬢さん、酒は大丈夫ですか?」

 

「あ、たしなむ程度で」

 

「じゃ、たしなんでください」

 

 お稲はそう言いながら、徳利を出した。

 

「先日は、鍋をありがとうございました」

 

「え?あ、いいえ。お風邪のほうは、お治りになられました?」

 

 あら、ヤだ。お沙希ちゃん、間違った敬語の使い方してますよ~。(小声で教える語り)

 

「え、おかげさんで。けど、今日も親方に叱られて」

 

「え?」

 

「おめぇは、筋がねいって」

 

「……お仕事は何を?」

 

「あ、左官の見習いです。いい歳こいて、まだ一人前になれなくて。今日も、うまくできなくて、親方に大目玉を食らって」

 

 お沙希は、ぼそぼそ(しゃべ)る太助の横顔に見とれていた。

 

「……そのうちに上手(じょうず)になられますわ。……きっと」

 

「だといいんですが……」

 

「はいはい、出来ましたよ。さっき棒手振りから買ったお寿司ですが」

 

 お稲が寿司と一緒に徳利と猪口(ちょこ)を盆で運んできた。

 

「わあ~、おいしそう」

 

 お沙希は、感激すると、

 

「さあ、どうぞ」

 

 と、お稲が徳利を持った。

 

「あ、はい」

 

 お沙希は猪口を手にすると、お稲が注いだ。

 

 太助とお稲は自分で注いだ。

 

「お嬢さん、おいでくださって、ありがとうございます」

 

 そう言って、お稲は猪口を上げた。

 

「ようこそ、おいでくださった」

 

 太助も猪口を手にした。

 

「お招き頂き、ありがとうございます」

 

 そう言って、猪口に口をつけた。

 

「寿司も召し上がってください」

 

「は~い」

 

 お稲の言葉に甘えると、()める程度で猪口を置き、寿司に箸をつけた。

 

「う~ん、おいしい」

 

 お沙希は、(うま)そうに寿司を頬張ると、ご満悦の表情だ。

 

 

 

 お稲に勧められて、猪口の二、三杯も飲むと、お沙希は顔がまっかっかになっちまって、まるでゆでダコみてぇだ。

 

 

 

 ――ふらつくお沙希を支えながら、太助がエスコートしてるんですがね?太助の胸元に寄りかかったお沙希の(かんざし)が、月明かりに光沢を帯びて、ん~、なかなかのシチュエーションじゃねぇか。

 

「ヒック」

 

 ったく、しゃっくりか?折角、いいムードなのによ、色気もへったくれもないな。

 

「あっ、痛いっ」

 

 ど、どうした?……あああ、よろけた拍子(ひょうし)に足を(くじ)いたみたいだ。

 

「お嬢さん、大丈夫ですか?」

 

 太助はそう言いながら、急いでお沙希の足を(さす)ってやった。

 

「ヒック」

 

 ったく、またしゃっくりか?酩酊(めいてい)状態のお沙希は、脳だけじゃなく、感度まで(にぶ)くなっちまって、(うつ)ろな目を開けたり閉じたりだ。

 

「ふぁ~~~」

 

 ったく、今度はあくびかぁ?おーう、お沙希、起きろっ!太助がおめぇの足を擦ってるぜ!嬉しくねぇのかー!(大声で教えてやる語り)

 

「ヒック」

 

 駄目だ、こりゃ……。

 

 

 ――戸を開けた新蔵にお沙希を届けると、太助は来た道を戻った。

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