わたしの前に立っていた少女はわたしの為に死んだ
熊の悪魔のひと薙ぎで折れた大樹が散弾のように弾け飛び
もうひと薙ぎで枝々が矢のように襲い掛かる
それを繰り返して繰り返す中
生存出来る生物は居らず
例え悪魔だとしても
1人しか守れない
この世界で生きようと思う理由とここまで来た理由を肉片に変えられて
わたしは呆然としていた
かつて抱きしめた胴体には枝や石礫がめり込み
抱きついてきた両の腕は大木の質量に押しつぶされ
かつて撫でた頭部は石榴の如く爆ぜていた
わたしはこのクソ熊を殺さんとジャックの腰帯と散らばった刃物を握り締め
その首を落とさんと駆け上がった
熊の悪魔は投げるものの無くなった空白地帯で
「死ねば糧と成れたものよ、貴様に用はないが我らの噂が広まっては困る、だからこそ餌として持ち帰ろうぞ」
誘い込まれた
所詮は水子の悪魔と同じ身体が契約で丈夫なだけの少女
熊の悪魔にとって俊敏さ以外は脅威ですらない、だからこそ
隠れられず逃げられず避けれない場所を作った
わたしは糞熊の脇下に鉈を叩き込むもお返しとばかりに腕を折られ
指を潰しつつも返す包丁の切っ先でその左手を抉り
脇腹を殴られ視界の眩む中、糞熊の頬を食い破った
かくしてその場に残ったのは満身創痍のわたしと布地が破け地毛が見える熊の悪魔だった
「まあまあだ、これなら生き餌としては充分役立つ」
意に介さず熊の悪魔は動けないわたしをどうやら文字通り手土産にするらしい
ぼぅとする頭で動くことも出来ず
熊の悪魔は布地からはみ出した別の顎門でわたしをくわえようとし
肩が膨らんで爆ぜた
「ぬぅぅおおお
熊の悪魔は理解出来なかった、水子の悪魔は死んだ、契約者らしきメスもただ強いだけのニンゲンで次の交渉の餌としていいだけ
ここで傷を負う原因がない
内側からの異物感、己が血を奪われる感触、
吐き気と共に襲われる倦怠感
ここに居る全ては制した
ではこの原因は?
我が内から何かが爆ぜて出てきたコレはなんだコイツハナンダ?
「おかあさん、ただいま」
水子の悪魔がここに居た
死んだ骸はそのままに、今熊の悪魔の肩口に上半身を覗かせて生まれるが如く
わたしは最後の力を振り絞り斧と山刀を投げ渡した
わたしのジャックは血塗れたままに刃を受け取りそのまま熊の悪魔の肩ごと切り飛ばし生まれた
ジャックはわたしを熊の悪魔から引き離し守るように熊の悪魔と対峙して
片腕をなくした熊の悪魔は唸るように背後の森に近付いた
熊の悪魔は鼻をひくつかせ
そしてそのまま
「時間か」
唐突に視界を火炎に覆われた
熊の悪魔は森に消え、いなくなり
わたしたちは疲れきって倒れた
その後やけに厳ついおっさんと人の姿じゃない生物に背負われて
車に載せられ気がついたら
留置所でした
アカン
日時
■月■日3時■■分
場所
■■県■■市旧■■村近くの山中にて
出動理由
■■■■■と■■の悪魔の情報提供により対象の活動を確認
対処のため担当地域近くの所属デビルハンターに急行要請
現場では半径■■■メートル以内にて悪魔と思わしき戦闘痕を発見
現場では3名の重軽傷者を発見
うち1名は全身を強く打って死亡残る2名は全治1ヵ月の軽症と栄養失調による失神
現場の痕跡から推測し3名を悪魔関係者と断定
当社で確保し収容することを決定した
推測では対象のいずれかを悪魔との契約者と推定し交渉を進めるものとする
ーーあるデビルハンター事務所の報告書よりーー