物語もそろそろ1つの山場が近づいてきております。
「ねぇ?どうして一人でいるの?」
初めて声をかけたのはいつだっただろう?小学校の低学年の頃、ずっと教室の隅にいた彼に自分から声をかけたのは間違いない。
「関係ない、ほっといてくれ」
少年はそう突き放すように言い捨てたのだった。
「なんで?一緒に遊ぼうよ」
「子供の遊びなんか興味ない」
「君も子供じゃん、わたし松浦果南。君は?」
「…湊博樹。どうしておれに構う?周りみたいに『親無し』とか陰で言ってればいい」
「え?」
自己紹介をしたら、少年も名前を教えてくれたがその後の発言に思わず言葉が詰まる。
後から少し掘り下げて教えてくれたのだが、彼は物心ついてすぐに事故で親を失っていたのだ。そして子供というのは残酷なもので自分たちと違う存在は敬遠してしまうもので、その結果孤立してしまっていたのだ。
それから毎日声をかけ続けるのだが、よくて「ほっといてくれ」悪い日には睨み付けるだけで素通りする。でも果南も折れなかった。どうしてかは解らないが、恐らくやめてしまったら負けた気がするとか、そんなことを当時の自分は思っていたのだろう。
そんな日々もひと月程たって、ようやく進展が訪れた。
「お前も懲りないんだな?」
「だって人数足りないんだもん」
呆れ気味でそう言った博樹に、果南は頬を膨らませてそう答えた。
「…今回だけだぞ」
「ホント?ありがと」
それから「人数が足りない」と言っては博樹を誘っては、みんなで遊ぶようにしていたのだった。
それから博樹を周りもだんだん受け入れていったし、博樹も元々の言い方のキツさや自分から積極的に接しようとしないところは変わらなかったが、少しずつ周りに馴染んでいった。
そして、ダイヤや鞠莉とも話すようになって、そして中学に上がるころには天才少年と周りに騒がれ、色んな発明をするようになっていった。その頃には世界中で若い天才たちがネットを通じて情報を共有したりしていたらしく、博樹は最年少メンバーとしてちょっとした有名人だった。
「ねぇ?今度は何作ってるの?」
「クリシスっていって、まぁ果南に解るように言えば…世界一凄いコンピューターってところだ」
「なんかそれ馬鹿にしてない?」
「してないさ、ただ難しい言葉を避けて俺が説明できない」
中学の時、休み時間も何やらノートPCを持ちこんでなにやらやっていたので聞いてみたところ、そういった返事が返ってきたのだ。
「博樹さん、また学校にそんな物持ち込んで…」
「いいじゃない、また例のジーニアスグループの発明なんでしょ?」
休み時間とはいえ教室で私物のPCを触っているのは如何なものかとダイヤに苦言を呈されるが、鞠莉はアルケミースターズでの発明だということを察してフォローを入れる。
「まぁな、今作ってるプログラムを今日中になんとか区切りをつけたいんだ」
そう言って休み時間はずっと何やら唸っていたっけ。
そんな彼は15歳、高校に上がる頃には『クリシス』そう呼ばれる世界最高のスーパーコンピューターを完成させていた。
でも、そんな時だった。完成させて、世間でもニュースになるような出来事だったのに、彼は開発に関わっていた時より何かに悩んでいるように思えた。
でも聞いても答えてくれないのは今までの付き合いで解っていたし、何より専門的なことだとばかり思っていたから力になれるとも思えなかった。
そんな時だった、東京のイベントに招待されたのは。そしてイベントが終わった数日後、彼は学校を辞めて私たちの前から姿を消した。
そんな訳で、彼自身は私たちがスクールアイドルを始めた頃は開発が佳境に差し掛かっていてあまり接する機会もなく、できたらできたで居なくなってしまったので、高校に上がってからずっと疎遠だったといって間違いない。
そんな彼が春になって戻ってきて、役二年ぶりに再会したのだが。ウルトラマンとなっていて、地球を救う為に人類を滅ぼす。そう言った時はショックだった。
元々人に心を開くタイプでは無かった彼だが人を傷つける事は嫌っていたハズだったし、何よりみんなの為にとアルケミースターズに入ったはずだった。
そんな博樹がなぜ、怪獣を呼び覚まして人を襲わせたのか?どうして鞠莉に記憶を失うような怪我を負わせたのか?そしてどうして自分の事は助けたのか?きっと二年前からずっと悩んでいるのだろう。
でも今の自分にはどうする事もできない…。ましてや鞠莉に対して自身も突き放すようなことを言っている自分には偉そうなことは言えないか。
そう自虐的な笑みをもらすと一通のメールが届く。
『今すぐ部室に来て』
ただそれだけが記されたメールの差出人は鞠莉だった。
いい加減彼女にも諦めてほしい。そんなことを思いながら夕立が止んだのもありもう一度学校へ向かうのだった。
「何の用?」
「いい加減、決着をつけようと思って」
わざと不機嫌な声音を作って部室に入りながら鞠莉に声をかけるが、鞠莉の返事も今までの雰囲気とは違っていた。それに一歩部室へ入ると、『ぴちゃり』と水たまりを踏んだような感覚に陥り、足元を見ると鞠莉の方へとかなりの量の水滴が落ちていた。
まさかあの雨の中を傘もささずに外に出ていたのだろうか?そんなことに一瞬気をとられるがこちらに背を向けたまま鞠莉は話し始める。
「どうして何も言ってくれなかったの?思ってる事ちゃんと話して!果南が私の事を想うように私も果南の事を考えてるんだから!!」
ダイヤはついに全部教えたんだな。ならもう誤魔化すことなんてできない。そう覚悟を決めるのだった。
「将来なんかどうでもいい…留学?全く興味なかった!だって果南が歌えなかったんだよ!?放っておけるはずない!」
そう言ってこちらを振り返った鞠莉は目に涙を浮かべていた。思わず果南は目をそらしてしまう。
こんなやり取りをするために二年前にスクールアイドルを諦めた訳じゃない…こんなはずはなかった…。
春に内浦に戻ってきた時も、この二年間を無駄にしないために冷たく突き放してきたけどやっぱり本気でそんな事を思っていた訳じゃなかったし、この前怪我で入院して記憶喪失になったと言われた時は頭の中が真っ白になったし、涙も出た。
口ではどれだけ強く突き放すことを言って悪役になろうとも、鞠莉は果南にとって大事な親友なのだ。
『パシィン』
唐突にそんな音がした。一瞬何が起こったか解らなかった果南だったが頬の痛みで自分が鞠莉にビンタされたことに気が付く。
「私の果南を想う気持ちを、甘く見ないで!!」
その叫びが、鞠莉の本心だった。
「だったら素直にそう言ってよ!リベンジとか負けられないとかじゃなくて、ちゃんと言ってよ!」
どうして一番肝心な事は言ってくれなかったのか。言ってくれればあんな真似する必要もなかった。二年間こんな気持ちを抱えなくて済んだのに、再開した後も冷たくし続ける必要もなかった。
そう思うと、こちらも強めの言葉で言い返してしまう。
「だよね…。だから…」
そう言って鞠莉は自分の頬を指さす。私がやったように果南も…。これでこの話は終わりにしよう。そういうつもりだろう、それを察した果南は右腕を振りかぶる。
そこで果南は、鞠莉と初めて出会った時の事を思い出した。
小学校低学年の頃、ホテルのオーナーの娘が海外から引っ越してきたと聞いて敷地内にダイヤと二人で忍び込んだっけ。
ダイヤは「見つかったら怒られますわ」と生真面目なことを気にしてたけど「平気だよ」って返したらそれを聞かれたのか、こちらに気が付いた鞠莉に「あなたは?」って聞かれてなんて返そうか迷って咄嗟に出た言葉が…「は…ハグ…」
やっぱり、あの時と同じようにしよう。そう思って振り上げた手を下ろして…。
「ハグ、しよ?」
そう言って両腕を広げると、鞠莉は涙を流して泣きながら胸に飛び込んでくる。もうきっと二度とこんな日は来ない。そう思っていた果南も再びその日が来た事に思わず涙が流れた。
遠くから二人の様子を眺めていたダイヤは校門まで戻って安堵のため息をついた。
「ダイヤさんって本当に二人が好きなんですね」
そこで千歌達7人がダイヤを待ち受けていて千歌がそう声をかける。
「それより、二人を頼みましたわよ。ああ見えて二人とも繊細ですから」
照れ臭そうに誤魔化しながらダイヤにそう頼まれる。
「それなら、ダイヤさんもいてくれないと」
「私は生徒会長ですわよ?そんな時間はとても…」
千歌からの返しは想定外だったのか驚く仕草を見せた後そっぽを向いてしまう。
「それなら大丈夫です、鞠莉さんと果南ちゃんと、あと7人もいるので」
他のみんなもダイヤへ笑顔を向ける、彼女はどうしたらいいか迷っている様子だったが、ルビィが彼女の、姉であるダイヤの正面に立つ。
「親愛なるお姉ちゃん、ようこそAqoursへ!」
そう言って差し出したのはかつて作った衣装だった。曲とダンスも作成中だったがあの一件によって結局一度も袖を通さなかった衣装…。
ダイヤもほほ笑み、その手を取った。
『未熟DREAMER』
この前話した、花火大会で9人となってから初めてステージで披露したこの曲はかつて三年生が三人で活動していた時に作ろうとしていた曲。それが二年の時を経て9人となったAqoursによって完成したのだった。
花火をバックにステージ上で踊る彼女達の姿はとても輝いていた。
そして博樹もまた、会場の端からそのステージを見ていた。
「よかったな、お前の言っていた。かけがえのない時間を取り戻せて」
二年前、海外でたまたま鞠莉の留学先の学校の近くの研究所でパーセルの基礎設計を行っていた博樹は鞠莉と数か月ぶりに再会していた。
「ヒロじゃない、どうしてこんなところに?」
「鞠莉…お前こそスクールアイドルはどうした?」
そこで博樹は自身がアグルの光を手に入れ、クリシスの示した地球を根源的な破滅から救うには人類を排除するしかない。それを実現させるための準備を始めるために故郷を離れた直後に幼馴染達の間で何があったのかを知る。
「ねぇ?ヒロはどうして学校を辞めてしまったの?みんな心配してたわよ?」
「もう俺には行く必要がないと思ったからやめただけだ。それにアルケミースターズなんて仲良し集団もな」
「どうしてそんな事言うの?この前まであんなに楽しそうに…」
「お前には関係ない」
以前は大変そうではあったが楽しそうに開発に打ち込んでいた博樹は今となっては正反対と言っていい思想で行動しているのでその事を指摘されてしまい思わず語彙が強くなり睨み付けてしまう。
「…っ、でも放っておける訳ない…何があったの?」
『何だよ喧嘩か?』
心配そうに話しかける鞠莉に何か言いたげな博樹だったが、それは乱入者によって遮られる。
「姉ちゃんこんなやつ放っといてオレらと遊ばないか?」
「てかこいつ東洋人か?何しに来た?」
俗にいう不良というやつだろう、博樹も標準的な体系だし背も170程度なのでこの国の同年代と比べると小柄に見えてしまう。それに不良たちは結構がっしりした体系をしていたので、ここは逃げるべきだと思った鞠莉だったが、2人組の不良の片割れに肩を掴まれてしまう。
「やめて離して!」
鞠莉は叫びながら抵抗するが体格差もあって全く振りほどけそうにない。
「俺が何しようとお前たちに関係ない、今すぐ立ち去れ」
博樹は不良たちの神経を逆撫でするようなセリフを吐くので鞠莉は一瞬呆気に取られてしまう。
「何だとお前生意気だな」
そう言ってもう一人の方の不良が博樹の胸倉を掴むが、博樹はすぐさまそいつを殴り飛ばすのだった。
「てめぇ!」
すぐさま立ち上がると殴り返すが、博樹はそれを捌いて見せていたが、鞠莉を掴んでいた方が加勢に入ったことで一転して一方的に殴られてしまう。
「やめて!」
そう鞠莉が叫んでも聞く耳など持たない不良だったが、次の瞬間。博樹の姿が光ったと思うと不良二人は吹き飛ばされ壁に激突して気絶してしまったのだった。
「え…?」
鞠莉は状況が飲み込めず暫く呆気にとられていたが光の中から博樹の姿が見える直前、青い身体を持つ見たことのない存在を目にしてしまう。
博樹はそのままその場から立ち去ろうとするが、鞠莉は「待って!」と声をかけたので彼は立ち止まる。
「ねぇ?今のがヒロの変わってしまった原因なの?その姿は何?」
アグルの姿を見られてしまった博樹は、観念したのかクリシスの予測した事、それを踏まえて自分が何をしようとしているのか。それを全て話したのだった。
「だったら私も手伝う」
「本気で言ってるのか?第一、何ができる?」
「クリシスの開発だってウチの親のグループが資金提供とかしていたのよ?そのメンバーのヒロの支援だってうまく誤魔化せば場所とかくらいは私でも何とかして上げれる」
鞠莉はもう博樹を説得して止めることはできないと思った。だから協力すると言い出したのだった。
最初は幼馴染一人に重い十字架を背負わせたくないという気持ちからだった…。それは博樹も察していたんだと思う。でもそれはやがて、彼なら引き返せる段階で無理だと理解して道を踏み外さないで済ませてくれるはず。だからそれまで彼が一人ぼっちにならないように…。
そんな思いに変わっていった。そして鞠莉が日本に戻ったとき、同じタイミングで根源的破滅招来体が現れ、それに対応するかのようにもう一人のウルトラマンが現れた。だから行動を起こすために博樹も日本へ戻ってきたのだった。
「鞠莉、もうお前の助けはいらない、だからこれでサヨナラだ」
そう呟いた博樹は踵を返すと、お祭りの会場から立ち去るのだった。
「それにしてもAqoursかぁ…」
パフォーマンスを終えて、舞台裏へ戻った時にふと果南がそう切り出した。
「私たちのグループもAqoursって名前だったんだよ」
「え?そうなの?」
「そんな偶然が…」
驚く千歌の隣で梨子は顎に手を当て何やら考え始める。
「私もそう思ってたんだけど…」
果南は偶然か鞠莉の入れ知恵かと思っていたのだが、鞠莉も何も知らないらしいし…。
そこまで考えたところで一人輪から外れて余所を見ている人物に視線が向く。
「千歌達も私も鞠莉も、多分まんまと乗せられたんだよ、誰かさんに」
全員の視線の向く先は、きっとここにいる誰よりもスクールアイドルが大好きで、二年間ずっとその気持ちに蓋をし続けてきた生徒会長だった。
そしてそのステージを遠く離れた場所で木の枝に腰掛けて眺める人物がいた。
「綺麗…でも、あの花火みたいにもうすぐ全部消えてしまう…ヤツがもうすぐ来る。そうなれば、もうこの星は終わり…そうなればもうここに用はない。残念ね、お姉さん…あなたの輝きも花火のようにすぐに消えてしまうの」
会場から遠く離れた場所からAqoursと花火を眺めていた少女はそう抑揚のない言葉でそう呟くが、その表情はどこか寂しげだった。
そして、座っていた木から飛び降りると夜の闇へと溶けていった。
まるで最初から少女など居なかったかのように。
地球に、過去最大の脅威が迫ろうとしていた―。
いかがでしたでしょうか?
いよいよ物語も佳境に差し掛かっていきます。次回もなるべく早めに投稿できるよう頑張ります。