今回は1話にどうしても纏まらなかったので前後編の前編の立ち位置となります。
後編も完成していますのでそちらも楽しみにしつつ読んでいただければ幸いです。
燃える夜の沼津の街を逃げ惑う人々、そして街を破壊する巨大な目玉の化け物。
以前現れたガンQと呼ばれることとなった怪獣に酷似しているが、違いはグロテスクに全身がただれてボロボロなその姿だった。
「さぁ私の元に来い!そして我らが國を創るのだ!」
そう言って追いかけてくる化け物、そしてその手が目前に迫ってくる…。
「嫌ッ!…ハァ…ハァ…夢?」
夢で良かった。そう思いながら少女は布団から出た。
最近急に見るようになったこの夢が、一体何を示しているのか解らない。だが、これもきっと何か意味があると思うと言い表せない恐怖が心にのしかかる。
数日前、善子が拾った犬の飼い主に連絡を取り。引き取りに来てもらったのだが、飼い主は小学校に上がるか上がらないかくらいの少女と、その母親だった。
「あんこ、よかったね」
そう言ってあんこを嬉しそうに抱える少女に、あんこも甘えるようにして顔を舐める。
梨子もこれでお別れなのは寂しいが、これで良かったとも思った。結局触れてあげることはできず、ほぼ一日中ケージに閉じ込めていたのだから、悪いことをしたなとすら思う。
「よかったですね」
嬉しそうに犬と戯れる少女を見て、ふと少女の母親と目が合ったのでそう言った。本心のはずだが、どこか寂しかった。善子はきっともっとつらいのだろう、渋い顔をしたまま一言も発さない。
「本当にありがとうございました。ほらあんこもお礼言いなさい」
そう母親が言うと、少女はあんこを抱えたまま梨子の前によって来る。せめて最後くらい触れておきたい、そう思ってあんこへ手を伸ばすがあと少しが踏み出せない。
するとあんこが舌を伸ばして梨子の手をぺろ。と舐めた。
「それでは、失礼します」
「ばいば~い」
そう言って母親が頭を下げると、少女もこちらに手を振って一緒の車に乗り込む。そして車が走り去ると「ライラプスゥ~」と今迄一言も発さなかった善子が泣き出す。
梨子はその隣で、あんこが舐めた自分の手を凝視していた。
それから数日間、梨子も善子もずっとあんこが居なくなった事に寂しさを感じ続けていた。
その時の様子は、曜から見て情緒不安定。グラウンドに犬の絵を描いて、それに使った棒切れを「取ってこい」と言って投げる。もちろん絵が動くことはあり得ないのでその棒は地を転がる。面白いことに投げるまでの動作が完璧に梨子と善子でシンクロしていて、その棒の転がっていく動きまで一緒だった。
「でも…どうして2人が?」
「まさか、悪霊に憑りつかれたずら?」
ルビィがもっともらしい疑問を口にすると、花丸が目元にピースサインを持ってきてそんな事を口走る。
「今の、善子ちゃんぽい」
「ずらん」
なるほど善子の真似だったのか…。
「遥くんホントに知らない?」
などとぼーっと考えていると、ルビィにそう聞かれる。
「へ?いやわかんないけど…」
実際あの犬の事なんだろうなと思ってはいるのだがやはりここで言ってしまうのも気が引けるので、少し心苦しさはあるが誤魔化しておく。
「でも一緒に住んでるじゃん」
「いや、一緒に住んでるからって姉さんの事なんでも把握してるわけじゃないから…」
などと墓穴を掘らないかヒヤヒヤしながら会話をしていると、2人は落ち込んでいても仕方ない、練習で体を動かして気持ちを切り替えようと言う事で「練習しよ」といってこちらに来てくれたので助かった。
だが練習中も2人はどこか上の空といった感じで、やはりみんな心配そうにしていた。
「今日は2人とも辞めといたら?それじゃ怪我するよ?」
少し言い方は厳しいかもしれないが、地区予選も控えている今怪我をしてしまえば元も子もないそう思ってあえてこういう言い方を遥は選んだ。
「そうね…」
「そうするわ…」
てっきり言い返されるかと思ったが、そう言って2人は大人しく帰ってしまった。
「ホントにどうしたんだろ?」
流石にここまで重症だと事情を知っていても不安になってくる。
「やっぱりこんなの間違ってる!」
バス停まで二人で移動すると、善子が唐突にそう告げる。
「よく考えてみれば、あの人が飼い主だって証拠はないはずよ?本当に飼っていたとしても、その犬がライラプスとは違う犬という可能性も…」
「そんな無茶苦茶な…」
そう梨子は苦言を呈す。それだとあの犬は誰にでもホイホイついていくと言う事になる…。
「取り戻しに行くわよ!」
「はい?」
「言ったでしょ?あの子と私は上級契約の関係…
「無茶よ、それに迷惑でしょ」
「じゃあいい!私一人で行くから」
結局、今の善子だと本当に連れて戻ってきそうだったので放っておけず梨子も付いていくのだった。
気が付けば雨がアスファルトを叩く。結局二人で飼い主の家の前まで来たのだが、そのタイミングで買い物から帰ってきた母親に声をかけられ思わず逃げてしまった。
それからずっと家のすぐ近くにあるコインパーキングの前であんこが出てくるのを待っていたのだが雨が降り始めてしまった。
「どうして運命なの?」
「何が?」
「犬…」
「運命は運命よ」
「そうかもしれないけど…」
納得のいかない表情の梨子に、善子は観念したのか本心を語り始める。
「堕天使って…いると思う?」
「え?」
「私さ、小さい頃から運が悪かったの。外に出れば雨に撃たれるし転ぶし、何しても自分だけ上手くいかないし…」
そう真剣な表情で話す善子の言葉を、梨子は黙って聞き続けた。
「それで思ったの、きっと私が特別だから。見えない力が働いてるんだって」
「それで堕天使?」
「勿論、堕天使なんて居る訳ないって…それはもう何となく感じてる、クラスじゃ言わないようにしてるし…」
小さい時の自分は、そう思うことで自分の運の悪さを納得させていた。でも現実としてそんなものがいる筈ない。それは理解できているつもりだ。でも最近は怪獣だのウルトラマンという、未知の存在を多く見てきた。もしかしたら堕天使もいるのかもしれない。でもそれは自分ではない、それは理解しているつもりだ。
「でもさ、本当にそういうの無いのかなって…運命とか、見えない力とか。そんな時、出会ったの。何か見えない力に導かれたみたいに、吸い寄せられるみたいに…これは絶対偶然じゃない。何か不思議な力に導かれたんだってそう思った…」
それで出会ったのが、あの犬だった。だから、もしかしたら見えない力はあるとそう思ったのだ。
「雨、止んだね」
気が付けば雨雲は去り、あたりは夕日のオレンジ色に染まっていた。
「やんだねぇ」
ふと、そんな少女の声が聞こえた。飼い主の女の子だ。犬をリードに繋いでこれから散歩に行くのだろう、玄関前の門を開け犬と少女が出てきた。
「もえちゃーんちょっと」
すると家の中から母親の声が聞こえる。するとリードを門に括り付けると「あんこ、ちょっと待っててね」そう言って少女は家の中へと戻っていく。
善子はすっとコインパーキングの精算機の屋根の下から出てくると、あんこの方に手をかざし何やら念じ始める。
―気が付いて、リトルデーモンライラプス…。
暫くそうしていると、犬がこちらに振り向いた。
「気が付いた」
そう少し後ろで見守っていた梨子が驚くように呟く。
「私よ、わかる?」
そう語り掛けるように言うが、尻尾を振って嬉しそうにしているのは伝わったが首を傾げられてしまう。
「あんこ、ごめんね。雨あがったばっかだからお散歩はまだダメだって」
そう言って玄関から出てきた少女に抱えられ、家の中へと戻って行った。
「やっぱり偶然だったようね…この堕天使ヨハネに気が付かないなんて」
「でも、見てくれた。見えない力はあると思う。善子ちゃんだけじゃなくて、誰にでも」
帰りのバスを待っている時、そう善子が肩を落として呟くと、梨子がそう告げる。
「そうかな?」
「うん、だから信じている限り、その力は働いてると思う」
もしかしたら遥の持つガイアの光のような、未知のものを誰しも持っているのかもしれない。
「流石私のリトルデーモン、ヨハネの名において上級リトルデーモンに認定してあげる!」
「ふふっありがと、ヨハネちゃん」
「善子!…あれ?」
悪戯っぽく笑う梨子に、善子も笑みがこぼれた。
「ちょっとお嬢さん」
「え?私?」
梨子と別れてバスを降り、沼津駅から家の方へ歩いていると、道端で何やら露店のようなものをやっている。黒いドレスに黒いベールで顔を覆った、何やら怪しげな女性に声をかけられた。
「そうそうあなた、ちょっと見ていかない?」
そう言って見せてくる商品は、一見するとガラクタの様にしか見えないようなものばかりだったのだが、その中に一つだけベルトのようなものに縛られた一冊の分厚い本に目が留まる。
「あの、それ…」
「あぁこれ?俗に言う魔導書なのだけれど、魔力が無いと開けられないのよね」
なぜかその本にとても惹かれてしまう、するとその視線に気が付いた女性はこれは魔導書だと告げる。
「これ、幾らですか?」
他にもランプのようなものやら金属製のカップやら色々あったのだが、この本だけは気になって仕方がなかったので思わずそう聞いていた。これで高ければ諦めればいいし…。などと思いながら。
「これね、タダでいいわ。私はこのベルト外せないし、これもあなたの所に行きたがってるようだから」
「え?でも…」
流石にそれは気が引ける、そう思い断ろうとする善子だったが、「いいからいいから」と言って差し出されたそれを手に取ってしまう。
「あ、ありがとうございます!」
そう言って頭を下げると、足早に家に帰る善子だったが。やはりベルトは外せず、色々試す気も起きなかったのでそのまま本棚の片隅に置きっぱなしになった。
その日からだった、善子が悪夢を見るのは…。
ある日の夜、沼津にガンQが出現し街を破壊した。XIGも出動しすぐ攻撃に移ったのだが、ファイターの弾丸は、ガンQの身体をすり抜けダメージを与えることが出来なかった。
「あれ…夢で見た…」
『私の元に来い、そして我らの國を創るのだ…』
ガンQが消えた時、善子の脳裏にそんな声が聞こえた。
「嫌…嫌よ…」
善子は震える自分の身体を抱きしめる。だがその声は暫く善子の耳から離れることは無かった…。
「おはよ…大丈夫?凄いクマだよ?」
「お、おはよう…眠れなくて…」
次の日登校すると、遥がそう声をかけるが善子は見るからに顔色も悪く目元にもクマが出来ていた。
「もしかして…昨日の夜の?」
「えぇ…ちょっとね…」
きっと夢の事を言っても信じてもらえない。そう思った善子は、そう答えていた。
「顔色悪いし、保健室行った方が…」
そうルビィも提案するが、善子は首を横に振る。
「いやいいわ、大丈夫だから」
「無理にとは言わないけど…今日の練習は休みなよ?」
「解ってる…」
そう言うと善子は自分の席に向かう。すると花丸がそっと遥に耳打ちした。
「後でちょっと見て欲しいものがあるずら。きっと昨日の怪獣に関係あると思う…」
「ホントに?解った」
一体何を花丸は見つけたのか?それと昨夜現れたガンQ。それに善子が心配でその日は授業どころではなかった。もっとも、遥にとっては聞かなくても解るような内容ばかりではあるのだが…。
そして放課後、昨日の騒ぎもあって、全生徒はすぐに下校するように言われたのでその日の練習は休みとなった。
「それで、見せたいものって?」
「家にあるから一緒に来てほしいずら」
そう言われ、遥も特に異論はなかったのでそれに応じる。そして花丸の実家のお寺の敷地内にある書庫に案内された。
「この前休みの日に偶々見つけたんだけど…」
そう言って花丸が一つの書物をとり出してくる。そしてそこに記されているものは、驚愕の内容だった。
「これは…ガンQ?」
「それにこれ…コッヴっていう最初に現れた破滅招来体にそっくりずら…」
花丸がとり出した書物、それは500年前に描かれたものなのだが、そこにはコッヴの出現を時間までぴったりと予言していた。
「これには、江戸時代の呪術師『魔頭鬼十郎』が根源的破滅招来体が現れるのを予知して、その力を利用して国を征服しようとしたって書いてあるずら」
「それでその魔頭は?」
「その力を恐れた徳川の軍によって、討たれたみたい…でもその前に呪術を施して自害したってあるずら」
「じゃあこのガンQは…」
「魔頭鬼十郎ずら…」
何と言う事だろうか、破滅招来体の先兵だと思っていたガンQは昔の人間が呪いの力で産み出したものだったのだ。
「だから…生命反応もないし、あんな不可解な力を…」
「ねぇ、これがあれば、最近の騒ぎは解決するかな?」
「解決の手掛かりにはなると思う」
そう答えると、花丸はこれをアルケミースターズに渡して欲しいと遥に書物を預ける。
「いいの?持って帰って」
「これで解決して、善子ちゃんが元気になるなら」
「解った、ありがとう」
遥は託された書物を持って、ジオベースに向かったのだった。
(嫌な予感がする…頼む、間に合って…)
遥の直感が、よくないものを感じ取っていた。その予感は、望まぬ形で現実となる…。
今回登場したのはガンQの不完全体です、本当に気持ち悪いビジュアルなので気になる方はぜひ画像検索を笑
そして善子はどうなるのか?お楽しみに