このまま最後まで突っ走っていきます。
それでは39話、お願いします
「え?父さん帰ってくるの?」
「えぇ、今度の地区予選は観に来れるみたいよ?」
こちらに引っ越してきてからすぐに、仕事の都合ですぐ家を離れていた父が帰ってくる。夕食時に母にそう言われた遥はそう聞き返す。
この引っ越しも生物学者として働く、父の仕事の都合の側面が大きかったのだが、結局半年ほど父だけ東京に残る事となってしまっていたのだ。
「本当!?」
地区予選を観に来る、その言葉で梨子の表情が明るくなる。ピアノの発表会も中学の頃に一度来てくれたきりで、高校に上がってからは家にいることもほとんどなかった父も、最初は梨子のスクールアイドルとして活動を始めたことを驚いていたが応援してくれている。
「梨子は美人だから絶対人気が出る!」なんて親バカ全開な話をこの夏、電話でしたのも記憶に新しい。
「そっか、お父さん観に来てくれるんだ…」
「行きまーす!」
それから5日ほど経過した日の放課後、体育館のステージに怪我をしないようにマットを敷いて千歌は体育館で練習していた他の部活の生徒や皆が見守る中ノートに記されたパフォーマンスに挑戦する。
「頑張ってー!」
その声援を受けて、いざ挑戦するのだが今現在一度も成功しておらず。今回も千歌はマットにしたたかに背中を打ち付ける。
「大丈夫!?」
「だ、大丈夫…も、もう一回」
自身を心配する声がすぐ飛んでくるが、千歌はそう答えると再び挑戦すべく最初の位置に戻る。
「少し休もう?」
そう梨子が心配して声をかける。
「5日もこんな調子じゃホントにけがしちゃうよ…」
「ううん、大丈夫。もうちょっと…もうちょっとで」
「地区大会まで二週間しかないんだよ?ここで無茶してけがしたら…」
「うん、解ってる、でもやってみたいんだ」
そう曜が心配する声を飛ばすが、千歌は譲らない。しかし、今までの練習での転倒のせいで彼女の身体は擦り傷だからで、頬や肘に貼られた絆創膏が技の難易度を物語っている。
「ラブライブ地区予選の時も、この前の予備予選も、皆が一緒だったから頑張れた。学校の皆にも、町の人たちにも助けてもらって…だから、一つくらい恩返ししたい…怪我しないように気を付けるから、もうちょっとやらせて」
結局、一回も成功することは無かった。しかし下校後も、家の前の砂浜で一人練習を続ける彼女を梨子と曜、そして果南が見守る。
「気持ちは解るけど、やっぱり心配…」
「なら止めたら?私が言うよりふたりが言った方が千歌はいうこと聞くと思うよ」
そう呟く梨子に、果南がそう告げる。でも二人は座ったまま千歌を見守るだけで動こうとはしない。
「嫌なの?」
「言ったじゃない、気持ちは解るって」
「うん」
そう返す梨子に、曜も同意する。やれることは全部やりたい。学校を守る為に、その気持ちはみんな同じだから。
「千歌ちゃん、普通怪獣だったんです」
「怪獣?」
突然梨子にそう話を振られ、果南は困惑気味に聞き返すと梨子は話を続ける。
「普通怪獣ちかちー。何でも普通で、いつもキラキラ輝いている姿を遠くから眺めてて、本当は凄い力があるのに…」
「自分は普通だって、いつも一歩引いてて」
そう曜も付け足す。
「だから自分で何とかしたいって思ってる。ただ見てるんじゃなくて、自分の意思で」
そう梨子が告げると、果南も思い当たる節があったのか何か考えるような素振りを見せた後立ち上がると、千歌の方へ歩み寄る。
「千歌―」
一方で遥は、東京の湾岸地区出現した怪獣とガイアとして対峙していた。
黒い身体に一本角を持つ、全体的に刺々しい印象を持つ怪獣はワームホールから現れると街を攻撃し始める。すぐにXIGのファイターとガイアが現れたことで、被害はほぼ出なかったが今から始まる戦闘による被害は免れない。
「シュワッ!」
ファイティングポーズをとったガイアは、じりじりと怪獣と見合うが怪獣は角から光線を放つ。ガイアはそれを咄嗟に躱すが、光線は海の中へと入っていく。
ガイアはその隙に怪獣へ近寄ると、腹部を連続で殴打する。
しかし怪獣にはあまり効果がなく、その巨体はビクともしない。今度は怪獣は口から霧状の物を発射し、ガイアを退ける。
攻めあぐねていると、今度はガイアの真後ろ。海中から緑色の触腕がガイアの胴と足をを絡めとる!
すると海中からその正体、緑のタコのような怪獣が出現する。後ろから体の自由を奪われたガイアに、正面の怪獣は口から触手状の舌を出すと、ガイアの腕、首に巻き付ける。
「グワァァア…」
するとそこからガイアのエネルギーを吸収すると、ガイアのライフゲージはたちまち明滅し苦しみ始める。
ファイターもガイアを援護すべく攻撃を始めるが、怪獣は意に介さずガイアを攻める。
「ドゥワァアア!」
そんなガイアの窮地を救うべく、アグルが現れタコのような怪獣を蹴り飛ばす。そしてアグルセイバーでガイアのエネルギーを奪っていた怪獣の舌を切断する。
悲鳴を上げ仰け反る怪獣に反して、タコの怪獣は立ち上がるとアグルを威嚇するように触腕を振り回す。エネルギーの急激な消耗によってガイアは思わず膝を付くが、アグルが庇うようにタコ怪獣へと駆け出す。
「ダァッ!トワァ!」
触腕を躱し、怪獣へ的確に蹴りや拳を入れるアグルは優位に戦いを進めるが舌を切断されたことに怒った怪獣は背後からアグルを攻撃しようとする。
「デュワッ!」
ガイアは立ち上がると、それを阻止すべく怪獣と戦闘に入る。エネルギーを消耗していることでスプリーム・ヴァージョンにヴァージョンアップするだけのエネルギーを残していないガイアだったが、それでも怪獣に食らいついていく。
「ウォアアアア!デェイッ!」
するとアグルがタコの怪獣の触腕を掴み、その巨体をもう一体の怪獣目掛けて放り投げる。気が付いたガイアはすぐにその場を飛び退き、アグルの隣へ着地する。
そして二体の怪獣へ止めを刺すべく、ガイアはフォトンエッジ。アグルはフォトンクラッシャーを怪獣目掛けて放つ。
しかし怪獣は吠えると、タコ怪獣は盾になるように動きもう一体の怪獣を庇う。タコ怪獣は2人のウルトラマンの攻撃に耐えられず爆散するが、もう一体の怪獣はその爆炎に逃れるようにワームホールへと消え去る。
「これは…タコ?」
変身を解除した遥が、タコ怪獣を倒した場所で力尽きているタコを見つける。海から離れた場所にタコが居ることに違和感を覚えるが、博樹がある推論を立てる。
「取り逃がした怪獣は、生物を怪獣化する能力があるのかもしれない」
「じゃああの光線は…」
「あぁ、当たった生物を怪獣に変化させるものだろう」
ガイアが避けた光線は、生物を怪獣化させる効果がある。そして恐らく、死ぬまであの怪獣の傀儡として操られる。というのが2人の結論だった。
「遥、お前は帰れ。オレはもう少し調べてみる。今のお前に、戦うエネルギーは無い」
そう言われた遥は、悔しそうにするが大人しく従うのだった。
その日の夜、千歌の部屋に電気が付いていないことに梨子はベランダに出た際に気付いた。
「あら?どうしたの?梨子ちゃん」
そんな時、廊下を通りかかった志満が梨子に気が付き窓を開けて声をかけてきた。
「あっ志満さん、千歌ちゃんは…?」
「何か、少し練習するって」
「練習って…こんな時間に」
そう呟く梨子に対して困ったような表情を浮かべるが、姉である彼女でも今の千歌を止めることが出来なかったのだろう。
視線を砂浜に移せば、人影が練習しているのが見える。
「よっ…うあっいってぇ…」
心配になった梨子は心配になり、毛布を持って外に出る。そこには千歌の様子を見守っている曜がいたので、もうこの時間は冷えるので毛布をかけてあげる。
「梨子ちゃん…ごめんね。千歌ちゃんが梨子ちゃんに言ったら止められそうだからって」
「でも、こんな夜中まで…」
「あんな事言われちゃったらね…」
曜がそう一言謝るが、千歌が言われた事とは
『千歌、約束して。明日の朝までにできなかったら諦めるって、よくやったよ千歌。もう、限界でしょ?』
夕方、果南にそう言われた。だから今夜中に成功しなければ諦めねばならなくなる。それが嫌だったのだ。
「二年前、自分が挑戦してたからなおさら解っちゃうのかな?難しさが」
そう呟く用の視線の先で、千歌は何度も挑戦を続ける。しかし、何度挑戦してもあと少しで…と言った所でうまくいかず、彼女の身体は地を転がる。
「あと少しなんだけどな…」
「うん、あと少し…」
そう見守る2人の前で、千歌は力なく倒れこむ。
「どこがダメなんだろ…わたし」
確かに、果南程の身体能力は持ち合わせていない。それは認めるが、練習量でカバーできるはずだ。なら何が自分には足りないのか?そう今悩んでも、答えは出ない。
「千歌ちゃん、焦らないで練習通りに」
「梨子ちゃん…」
「できるよ、絶対できる」
「曜ちゃん…」
気が付けば左右の手を、梨子と曜が握ってくれていた。二人は千歌を立ち上がらせる。
「頑張って」
「見てるから」
「うん!」
三人は顔を見合わせると、千歌はそう力強く頷く。
「千歌ちゃーん、ファイトー!」
海岸から道路へ向かう石階段から、そんな声が聞こえ振り向くと。そこには一年生4人が立っていた。
「頑張るずらー!」
そんな応援する声に千歌は頷くと、前をまっすぐ見て駆け出す。そして砂に手をつけようとするが、バランスを崩して背中から地面に落ちる。
「あーっ!できるパターンだろこれぇ!」
そう言って悔しがるが、思わず口調も荒くなってしまう。しかしそう言った所で現状は変わらない。
「何でだろ…何で出来ないんだろ…?梨子ちゃんも曜ちゃんも、皆が応援してくれてるのに…」
どうして自分には出来ないのか?自分には何もないのか?そう思うと目頭が熱くなる。右腕で両目を隠すと、心の底に閉じ込めていた感情が立ち昇ってくる。
「イヤだ…イヤだよ!わたし、まだ何もしてないのに…何もできてないのに…」
自分には何もない、曜みたいな器用さや運動センス、梨子のようなピアノの才能。みんなと違って何もない普通な自分には何もできない。そう思ってしまう。
「ぴー!どっかーん!」
「ズビビビビー!」
「普通怪獣ヨーソローだぞー」
「おっと好きにはさせぬ!りこっぴーもいるぞー」
などと突然梨子と曜が怪獣遊びに興じ始めると、千歌は怪訝な顔をしながら立ち上がると2人は千歌に笑いかける。
「まだ、自分は普通だって思ってる?」
「え…?」
そう曜に聞かれ、千歌はすぐに答えることが出来なかった。悩むように視線を逸らす彼女に今度は梨子が。
「普通怪獣ちかちーで、リーダーなのに皆に助けられてここまできたのに、自分は何もできていないって。違う?」
「だってそうでしょ?」
そう聞かれて、今にも消えてしまいそうな声で千歌はそう答えた。
「千歌ちゃん、今こうしていられるのは誰のお陰?」
それを聞いて、曜は優し気な笑みを浮かべると今度はこう聞いてきた。
「千歌ちゃん、今こうしていられるのは、誰のお陰?」
「それは、学校のみんなでしょ?町の人たちに、曜ちゃんや梨子ちゃん。それに…」
「一番大事な人を忘れてませんか?」
「え…?」
皆が居たからわたしは今こうしていられる。そう答えようとした千歌だったがそれは曜に遮られる。しかしこの問いは本気で答えが解らなかった。答えあぐねていると、梨子が助け船を出してくれる。
「今のAqoursができたのは誰のお陰?最初にやろうって言い出したのは?」
「それは―」
「千歌ちゃんがいたから、わたしはスクールアイドルを始めた」
わたしじゃないと言おうとした千歌を遮って、曜がそう告げる。すると梨子も。
「私もそう、皆だってそう」
そして再び曜が、
「他の誰でも今のAqoursを創れなかった…千歌ちゃんがいたから、今があるんだよ?その事は、忘れないで」
「自分の事を普通だって思ってる人が、諦めずに挑み続ける。それができるってすごいことよ?凄い勇気が必要だと思う」
「そんな千歌ちゃんだから、みんな頑張ろうって思える。Aqoursをやってみようって思えたんだよ」
「恩返しなんて思わないで。皆ワクワクしてるんだよ?千歌ちゃんと一緒に、自分たちの輝きを見つけられるのを」
そう2人に言われる。これが皆の総意だった。千歌がスクールアイドルを始めなければ、ここにいる誰一人として、スクールアイドルを目指すことは無かっただろう。それに、自分の殻を破って出てくることもできなかった。
そしてみんなが向かい合って立ち、千歌の前に道を創る。千歌がこの先にあるものを見つけてくれるのを楽しみにしているように。
「新たなAqoursのWAVEだね」
そう鞠莉の声が聞こえる。ダイヤと果南と一緒に、その先に立つ。
「千歌、時間だよ?準備はいい?」
そう果南が聞くと、千歌は力強く頷くと、まっすぐ駆け出す。大丈夫、絶対にできる。今ならそう確信できた。皆の前を駆け抜け、そしてその先にある輝きを、皆と見るために。
「ありがとう、千歌」
そして迎えた地区大会当日、遥は駅前で父親を待っていた。
「遥!」
「父さん、来てくれたんだ?」
「当たり前だろ?久しぶりだな、たくましくなった」
「そうかな?」
現れたのは、遥よりも頭二つほど背の高く眼鏡をかけた優しそうな、40代の男性だった。
「ところで梨子は?」
「姉さんは会場、母さんも他のメンバーの親とか町の人と一緒に向かってるからそろそろ来ると思うよ?」
梨子の姿を探す父に、参加メンバーだからもう会場入りしている旨を伝えると少し残念そうな顔をされる。
「そう思うならもっと早く来てくれればよかったのに、でも暫く家に居るんでしょ?話す機会なんていっぱいあるさ」
「そうは言ってもな?やっぱり大会前に顔を見ておきたかったんだよ」
なんて親バカ全開で話すので遥は少し困る。
「今から行けば余裕で間に合うからステージを楽しみにしててよ」
「そう言えば遥。お前正式にアルケミースターズに入ったんだってな?」
駅のホームへ移動していると、ふとそう聞かれる。
「うん、今までずっと悩んでたけど…やっぱり、みんなの為に自分の能力を使いたいって思ってさ」
「そうか…でも安心したよ。ずっと悩んでたもんな、父さんは何もしてやれなかった」
「いいんだって、感謝してる。僕は今僕にできることをやってる、それを受け入れてくれる人がいる…だから浦の星に来て良かったって思ってるんだから」
子供というのもは残酷で、周りと比較して明らかに頭脳で優れていた遥は周りから疎外されていた。父はそれを気にしていた。アルケミースターズの存在を知って、遥にネットを教えて彼らと関わるように仕向けたのは父だった。でも遥は、それ以外の場所では孤独だった。姉に憧れて始めたピアノもやめ、勉強も学校ではできないフリを始めてしまった。ずっとその事をきにしていたのだ。
「そうか…なら良いんだ。お前が良い仲間に出会えたのなら」
「うん、僕は今、幸せだよ?それより父さんは今何の研究してるの?」
「今か?今は絶滅生物をクローン化して復活させる実験だ」
「絶滅生物を?」
そう聞き返す遥に、父は続ける。
「そうだ、かつて人類が絶滅させた生物を蘇らせる研究だ。今はその第一号として、アルテスタイガーをな…」
「てことは…最後のアルテスタイガーのイザクを?」
その質問に「そうだ」と応じる父は、実験は上手くいっている筈なのにあまり嬉しそうではなかった。
「嬉しくなさそうだね?上手くいってないの?」
「そうじゃないんだ、でも人類の都合で滅ぼした生き物を、人類の都合で蘇らせていいものなのか?って考えるときがあるんだ」
「それは…」
それには、遥は答えられなかった。皆の為と言って、沢山の怪獣を葬ってきた遥には。
「お父さん!」
会場に付くと、まだ出番まで時間があるからと梨子が楽屋を抜け出して会いに来た。
「梨子、久しぶりだな」
「うん、本当に来てくれたのね?」
「可愛い娘のステージだからな、それにやっと仕事が落ち着いたから」
父の顔をみて、嬉しそうに駆け寄る梨子と父の会話を遥も笑顔で聞いていた。久しぶりの顔を合わせて行う家族の会話だ。嬉しくないはずがない。
「決勝も絶対観に行くからな!頑張れよ」
「うんっ!じゃあそろそろ行くね、頑張るから」
そう言って梨子は会場に戻っていく。
「僕らも行こうか?お父さん、絶対びっくりするよ」
今日のステージは絶対過去最高のものになる、そう確信している遥が父にそう告げ一緒に客席へと向かうのだった。
ステージ上でチアガール風の衣装に身を包んだアイドルが舞う。
これが今回の衣装だった、今回取り入れたフォーメーションを行う為に普段よりも動きやすい衣装で。
だがこの曲の最大の見せ場はサビの前。観客が見守る中、千歌を除くメンバーのドルフィンウェーブから千歌はロングダートからのバク転を決める。
―MIRACLE WAVE
挑戦とWAVEをテーマとしたこの曲は、この先学校を救う為、前大会で越えられなかった壁への挑戦。そして今までのAqoursの殻を破る新しい波。
「今日ここで、この9人で歌えたことが本当にうれしいよ」
沢山の歓声の中で、千歌がそう告げる。
「わたし達だけの輝き…それが何なのか?どんな形をしてるのか?わたし達9人が見た事、心を動かされた事、目指したいこと。その素直な気持ちに、輝きはきっとある!みんな、信じてくれてありがとう!」
「イエーイ!」
ステージの上で、9人がハイタッチを行う。きっとみんなとならどんな奇跡も起こせる。この時は皆、そう確信していた。
今回お父さんついに登場です、まぁアニメには出てこないので完全に作者の勝手なイメージです。
そして前回登場した怪獣を説明していなかったのでここで、Σズィグルという怪獣でガイアを捕獲するために送り込まれた存在です。
そして今回登場した怪獣はガイアに本来登場しません、今後重要になるので名前はその時まで伏せさせていただきます。
それでは次回、お会いいたしましょう