「そんな…僕は…」
呆然と遥が見つめる先。そこには父親が倒れていた。
怪獣の正体は父親だったのだ。アルテスタイガーのクローニングはまだ未完全でそれだけでは怪獣を生み出せなかった敵は、施設にいた父親を核に使ったのだ。
それを知らずに倒してしまった遥は、父親を手にかけてしまったのだ。
「遥、何があったの?」
梨子たちが、遥を探してこちらへ駆け寄ってくる。そして皆も、信じられない現実を目撃してしまう。
「この人…」
「お父さん…遥…何で…どうして?」
はたから見ても、遥が父親を手にかけたように見えてしまう。遥はふらふらと立ち上がるが、何も言わない。
「遥、何か言ってよ!?」
「梨子ちゃん落ち着いて!」
遥に詰め寄る梨子を、曜がそう言って止めようとする。すると遥はゆっくりとこちらを向くと、震える声で告げる。
「あの怪獣は父さんだったんだ…僕はそれを倒した…でも仕方ないじゃないか!こうしなきゃ、もっと沢山の人が傷ついたんだ!」
そう次第に強めな口調になりながら告げる遥を、梨子は引っ叩いた。
「え…?」
「どうして…そんな風に言えるのよ!…お父さんなのよ?…なのに…どうしてなの…」
「梨子ちゃん…」
「返してよ…お父さんを…」
そう遥の肩を掴んだまま泣き出してしまった梨子に、誰も何も言えなくなる。博樹も合流してきたが、この光景を見て息を呑む。
そして意を決すると、梨子を遥から離す。
「やめろ、そんな事をしても変わらない」
「博樹さん…」
「ウルトラの力は神じゃない。失ったものは、もう戻らない」
そう告げる博樹の表情も、苦しげだった。自分が戦うべきだったと責任を感じているのだ。
「このままだとG.U.A.R.D.が来る、今はここを離れるべきだ」
そう博樹が提案する前に、遥は一人先に帰ってしまう。
「待って、遥くん」
その時に花丸とぶつかってしまうが、遥は何も言わず。そんな花丸の呼び止める声に立ち止まる事もなかった。
「これって…」
花丸の足元には、エスプレンダーが転がっていた。
「遥は、迷いながらあの怪獣を倒したんだ。同じ地球の生き物を怪獣化されていたのは解っていた。でもああしなければ、もっと多くの生き物が怪獣にされていたんだ…それに君が、君の父親に殺されていたかもしれないんだぞ」
博樹はそう真剣な目で梨子を見据えて告げる。それはまるで、だから遥を責めないで欲しいと言っているようにも聞こえた。
「そうですね…私、遥に酷い事言った…遥の方が…辛いのに…」」
色んなことが重なって皆動揺している。少し、気持ちを落ち着ける時間が必要だった。
次の月曜日、全校集会が開かれた。理事長である鞠莉の口から、正式に学校が統廃合となり、現在の1、2年生は来年から沼津の高校へ通うことになることが彼女自身の口から語られた。
だからと言って今迄の学校生活が変わってしまうことは無く。今まで通りに授業は行われるし、クラスの皆も変わらない。
ラブライブだって無くなったりしない。決勝への切符は握ったままだ。でも、皆悩んでいた。
学校を存続させることを目的としてきたのに、それを果たすことができなかった今、決勝に出場することに意味はあるのか?そういう気持ちを全員抱えていた。
ルビィは、姉であるダイヤ達三年にとっては最後のラブライブ。だから必ず優勝したい。そう告げる。もちろん皆その気持ちもある。
しかしそう簡単に割り切れるものではないのだ。
更に昨日の怪獣騒ぎで、梨子も父を喪った。誰も気持ちを簡単に切り替えることなどできないのだ。
結局その日は練習は中止となってしまい。翌日は葬儀の為に梨子も学校を休んだ。
あの後、自分がどうやって帰ったのか。遥は覚えていなかった。
あの後家に、G.U.A.R.D.の関係者が来て、父が亡くなったことを知らされ、母はその場で泣き崩れてしまったらしい。
らしいというのは、遥はあの後部屋から出ることは無かったからだ。
あの時、父のいる研究所は破滅招来体によって破壊され。怪獣として差し向けてきた。そしてそれをウルトラマンが倒したことで、人間に戻ることが出来たと。
こっちに来て、初めて学校を休んだ遥だったが母も何も言わなかった。ショックでふさぎ込んでいるのだろうと。
「遥、昨日はごめんなさい…私…」
部屋の前で、梨子がそう遥に呼びかけるが遥は何も言わない。正確には聞こえていないといった方が正しいのかもしれない。
ヘッドホンをして、カーテンを閉め切った部屋で電気もつけずに外からの情報を遮断してしまっていたから。そんな事は知らない梨子は、諦めて自室に戻ってしまう。
流石に翌日は流石に外に出て、葬儀にも出席したのだが。親戚や家族に何を言われても上の空で何も入ってこなかった。
でも、葬儀が終わった後自然と遥は認めてしまった。もう父は居ないんだと。自分のせいだと、そのせいで姉を傷つけてしまった。
そして姉から拒絶されてしまったと。
―あの子なんでも知ってる風で気味が悪いわ
―あの子もあれよ、地球の自己防衛本能が生み出した忌み子とか言われてるアレ。不気味よね
―何考えてるか解んないし
―男のくせにナヨナヨしてそのくせ何でも解ってる顔してむかつくんだよ
昔言われた事が、脳裏から離れなくなってしまった言葉の数々が今まで記憶の底に沈めていたものがこみ上げてくる。
科学者でもあった父だけは遥の才能を認めてくれていた。だからアルケミースターズを知るキッカケをくれた。でもその父はもう居ない。
―オレハ生キル!ガイア、オレハ生キル!子供ノ為ニ!
あの時の怪獣の叫びは、自分が最後の一頭だと知らなかったアルテスタイガーのこの星で生きていたい。そういう心の叫びだと思って戦った。でもそれだけではなく、父の梨子と遥の為に生きていたいという思いも混じっていた。
そしてそれを皮肉にも息子である遥が握りつぶした。
「…なさい…ごめんなさい…」
父の墓前でそううわごとのように繰り返す遥。二日ぶりに出した声は掠れていたが、次第に聞き取れるようになっていく。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
「遥?遥どうしたの?」
近くにいた梨子と母が気が付いて駆け寄ってくる。
「遥しっかりして!遥は悪くない!悪くないの…大丈夫よ遥、もう大丈夫だから…」
そう梨子が遥に寄り添って言いかけるが、遥は振りほどいて走り出してしまう。
「遥!」
呼び止める声も届かないまま―
遥は家からも離れた場所で海を眺めていた。
エスプレンダーは気が付けばどこかで落としてしまったらしく、ずっと手元にない。でもこれでいいと思った。もう自分に、何かを護る資格なんてない。
「僕は一体…どうすればいいんだろ?」
そう呟いたところで、答えなど返ってこない。
「遥くん?」
「花丸…ちゃん?」
「遥くんにノート届けようと思って…そしたらここにいるのが見えたからバス降りてきたずら」
遥に声をかけたのは花丸だった。その後ろには、善子とルビィもいた。
「このヨハネがノート取ってあげたんだから、感謝しなさい!」
「ルビィも、前にしてもらったから…」
科目ごとに分担して三人で遥の為に。
「ありがと…」
そう言って受け取ろうと手を伸ばそうとするが、震える手が伸びることは無かった。
「遥くん…」
「あれ…変だな…」
心配そうに見つめるルビィの前で、遥は自分の手を見つめる。その声もはやり震えていた。
「ごめん、明日でいい?明日は…ちゃんと行くから…」
「ダメ、待って!」
心配してくれている皆から逃げるように去ろうとする遥の手を、三人は掴む。
「…離して」
「今の状態で放っておける訳ないでしょ!」
「ルビィ達、いつも遥くんに守ってもらった。だから…だから遥くんの支えになりたい!」
「もう無理しなくていいよ…遥くんには、もっと自分を大事にしてほしいずら…」
「みんな…」
三人の本気で遥を心配する声に、振りほどこうとしていた腕の力を緩める。
「僕は…僕は、皆を守りたかった…怪獣から、破滅招来体から。なのに、父さんを…母さんと姉さんから奪った…解らないんだ、学校も守れなかった僕はこれからどうしたらいいか…」
今の遥には、悔しさ、悲しさ、怒り―様々な感情が渦巻いていた。それだけ今回の出来事は、遥の心に大きな影を落としたのだ。
「僕はもう…戦いたくない…」
そう言って泣き出す遥に、ルビィと善子は何も言えなくなる。しかし花丸は遥に抱き着くと優しい口調でこう告げる。
「今までありがとう。マルたちを守ってくれて…でも遥くんが無理に戦う必要なんてないんだよ?もう戦わなくてもいいんだよ?」
「花丸…ちゃん?」
「前にマルは言ったずら。もっと自分を大切にしてって。でも遥くんは優しいから…」
違う。最初は梨子が守れればよかった。でもAqoursの皆と出会って、自分を受け入れてくれるこの場所が心地よかったから…それを失うことが怖かっただけだと。
そう否定したかった遥だったが、言い出せなかった。今は花丸の、彼女達の優しさに甘えてしまった。
「ありがとう…ありがとう…受け入れてくれて」
そう涙を流しながら言う遥だった。自分を受け入れてくれている人がいることが、嬉しいから。
「本当にそう思っているのかい?」
「誰!?」
唐突に割って入った男の声に、遥は花丸から離れ三人を庇うように立つ。その視線の先には黒いコートに身を包んだ男が立っていた。そしてその男が近付いてきたことで月明かりによってその顔が明らかになる。
「僕は…キミさ!桜内遥」
「何…?」
その男は、遥と同じ顔、同じ声をしていて背恰好まで同じだった。
「嘘…遥くんが2人…?」
「まさかドッペルゲンガー?」
「そんなんじゃないずら…貴方は一体…?」
ルビィ、善子、花丸がそれぞれの反応を示すが、黒い遥はそれを気にせず遥へ語り掛ける。
「僕は君だ。頭脳と直感に優れ、アルケミースターズに入って世界を救う?格闘技まで習得して挙句ガイアの力を―」
「やめろ!」
まるで責めるかのような口ぶりで話す相手を、遥はそう叫んで遮る。
「アルケミースターズがどうして存在すると思う?どうして僕たちはネットワークを介して集まらなければいけなかった?」
「それは…」
「他の大人や子供達が気味悪がったからじゃないか?他と少し違うだけで、すぐに人間は異端を排除する。人間なんてその程度の生き物だ、僕らこそ生き残るにふさわしい存在」
「違う!」
そう否定するが、黒い自分は全て見透かしたような不気味な笑みを浮かべたまま続ける。
「本当にそう思っているのかい?遥、そこの3人だって昔のお友達と一緒さ。僕らから見ればただの凡人、本心では僕らを気味悪がっている…!」
「そんな訳…」
そう言うが、強く否定することが出来なかった。遥は本当はそう思われているのではないかと恐れている。昔の同級生の様に…だから強く断言することが出来ない。
「そんなことないずら!」
「そうよ!遥の顔してそんな適当な事言うなんて許せない」
「遥くんは、ルビィ達の大事な友達だもん」
「みんな…」
黒い遥へそう反論する三人に、遥は思わず振り返ると3人の真剣な目を見て思わず微笑む。少なくともこの3人は自分にそんな感情は持ってない。そう確信できたから。
「美しい友情だね、でも本当に信じるのかい?遥」
「何…?」
「僕は君さ、君の心だ」
それでもなお、黒い遥は不気味な笑みを浮かべ自身をそう称した。
「ふざけるなぁ!」
珍しくそう声を荒げて殴りかかる遥かだったが、相手の身体をすり抜けてそのまま前に倒れてしまう。
「フフフ…フハハハハ…」
黒い遥はそのまま輪郭だけ白くぼんやりとした半透明の存在になると、不気味な声で笑い始めると。そのまま巨大化する。
そしてそれは、全身が黒く首のない胴体に縦に真っ直ぐ走る黄色い目のような器官をもち、左腕からは鋭く鋭利な爪を伸ばした異形へと姿を変える。
「ピギッ…」
「悪魔…?」
「とにかく逃げるずら!遥くんも」
突然の怪獣の出現に、パニックになりかけるが、花丸は冷静にそう告げると遥の手を引いて逃げようとする。
「あれが…僕の心の姿だっていうの…?そんな事…」
しかし遥は、そう呆然と呟いて動こうとしない。
「ダメだよ、遥くん逃げよう?」
「できないよ…だって、逃げたら僕はアイツを認めることになる…そんなの…」
そう言って逃げることを遥は拒む。するとふっと花丸は笑うと、あるものをとり出した。
「じゃあ、戦って勝って?これ、あの後拾ったんだけど…渡すタイミング逃しちゃったずら。だから今、渡すね」
「これ…エスプレンダー?やっぱりあそこで落としたんだ…」
「マル、本当は遥くんにもう傷ついてほしくなかった。戦ってほしくなかったずら…でも、それで遥くんがつらい気持ちになるなら戦う選択は、ありだと思う。だから、返すね」
そう涙目になりながら告げる花丸が差し出したエスプレンダーを、遥は受け取った。
「ありがとう、花丸ちゃんでも…」
だが、遥は光を開放することを渋ってしまう。
「いつだってどんな時だって助けてくれるんでしょ?ならまず、自分の為に戦いなさいよ」
「遥くん、がんばルビィ!」
そう言って善子とルビィがほほ笑む。そこでようやく決心がついたのか、遥の表情は明るくなる。
「ありがとう、僕…負けないから!」
そう言って遥はこちらを見下ろし嘲笑う怪獣の方を睨む。そしてエスプレンダーを掲げ、遂にその光を解き放つ。
「ガイアーッ!」
夜の内浦に、赤い光が立ち昇るとウルトラマンガイアが現れた。
「フッハハハハ」
ガイアの姿を見て尚も不気味な笑い声を上げる怪獣に対して駆け出すが、目のような器官から破壊光弾を乱射される。
咄嗟にバリアーを展開し、背後にいる花丸たちに流れ弾が行かないように全て防ぎきるとガイアスラッシュを放ち怪獣の態勢を崩す。
それを確認すると、一気に距離を詰めるべくガイアは駆け出す。
しかし、怪獣も肉迫してくるガイアに対して左腕の爪を横に薙ぐ。ガイアはこれを飛び宙返りをして躱すと怪獣の後ろに着地してそのまま両腕を広げ蹲るようにしてエネルギーを頭部に収束させる。
「デヤッ!ァァアアアッ…デヤァアアア!」
渾身の力で放たれた光子の刃―フォトンエッジ―は怪獣の身体を切り裂く。すると怪獣の身体は量子となって霧散する。
「フハハハハ…」
しかし、その不気味な笑い声だけは暫く辺りに響いていた。
―結局君は、自分に不都合なものを誤魔化す事しかできないんだ。今までそうだったように―
そんな自分の声が、聞こえた気がした。
変身を解いた遥は、その場に座り込んでしまった。
「僕は、なんでみんなと違うんだろ…」
思わず口を突いて出てしまった言葉、元々もって産まれた頭脳もだが。一番はガイアの力を手にしたこと。
「遥くん大丈夫!」
そう言って花丸たちが駆け寄ってくるが、幸い今の独り言は聞かれていなかったようだった。
「うん、大丈夫だよ…」
「嘘ね、明らかに無理してるわ」
そう善子にあっさりと見破られてしまうと、遥は観念した様子で話し始める。
「僕さ、あいつの言ってたことと同じこと…全く考えた事ない訳じゃないんだ…」
「え?」
「実際、周りの人らに気味悪がられたりしたのも事実だしさ…だから怖かったんだ、皆に怖がられるのが」
そう告げる遥の表情は寂しげだった。
「そんなこと絶対ない!遥くんは大事な仲間ずら、だからそんな事…言わないで…」
「花丸ちゃん…でも、でも僕は父さんを…」
「遥は悪くないわ、遥は招来体に怪獣にされたお父さんを人間に戻したのよ…」
自分の父親すら手にかけた自分に、そう思われる資格なんてない。そう言おうとするが、それは善子に遮られた。
「遥くんがみんなの為にって戦ってたの、ルビィ知ってるよ?だから…」
「うん、ありがとう…でもさ、本当かどうかは僕が一番よく知ってる。どうして僕は周りと違うのかってずっと悩んでた、なんで僕は普通じゃなかったのか?なんで気味悪がられるのか?なんで皆が僕のレベルについてこれないのか?そんなことを僕は、思ってたんだよ…」
そう言って遥は疲れた顔で笑う。そして立ち上がると三人に背中を向けてしまう。
「もう遅いし帰ろうか。次が終バスでしょ?明日は学校いくからさ、今日はありがとね」
それだけ言うと遥は歩いて帰ってしまう。自分で考えても答えなど出ない悩みを抱えたまま。
遥くんが過去最高に沈んでいますが、前回までに登場した怪獣をここで紹介しておきます。
まず他の生き物を怪獣にして操る恐ろしい怪獣『ギマイラ』
ギマイラに怪獣にされたタコの怪獣『ダロン』
そして同じく怪獣にされたアルテスタイガー『イザク』
イザクは本家とトラの品種としては同じ名前の架空のトラなのですが、本家との違いはクローニングが不十分で怪獣とするには足りずに、遥の父親が混じっていることですね。その結果遥の心に影を落とす事になります。
ギマイラとダロンはウルトラマン80に出てくる怪獣です、興味がある方はそちらも視聴してみることをお勧めします。
それではまた次回