今回はあんまり進展ナシです、肩の力を抜いてご覧ください。
「わぁあ~」
翌日、函館観光としてまず五稜郭を訪れている面々だったが。タワーからの光景に興奮する彼女達を横目に、遥は昨日の戦闘の形跡はないか見ていた。
「すご~い」
「なんかおいしそうな形ずらね」
「今食べてるじゃん…」
千歌が興奮している隣で、パンをもしゃもしゃしながらそう呟く花丸に思わずツッコミを入れてしまう。
「ところで昨日、あの後どこ行ってたずら?」
「え?まぁあの…後で話すよ…」
気に入らなかったのか、そう意地悪な表情を浮かべて耳打ちした花丸に大人しく降参してそう答える。
「何という光景!これぞ、夢にまで見た魔法陣!これで超巨大リトルデーモンを…」
「それは大きいの?小さいの?」
同じく大興奮な善子にそう梨子が呆れ気味に問いかける。正直相手にしない方がなんて思ったりもする。
どういうわけか、昨日の戦闘の影響は残っていないようだった。まるで最初から戦闘などなかったかのように…。
それが精神寄生体が作り上げた空間のようなものに知らず知らずに飛ばされていたのかもしれない。
「全然平気平気!」
後ろを向くと、果南がガラス張りの上に立ってそう強がっていたが。顔は引き攣っており、下を向くと「はぐぅ…」と鞠莉とダイヤにもたれかかってしまう。
「何か落ち着くね、ここ」
Saint Snowの2人が通っている学校、函館聖泉女子高等学院の前からの景色を眺めていた。
「内浦と同じ空気を感じる」
そう果南が言うと、遥はなるほどと思った。学校の前に坂があって、そこを下れば海に繋がる。それは自分たちが通う浦の星学院の学校前の景色に似ている。
「海が目の前にあって、潮の香りがする街で。坂の上にある学校で」
そう千歌も同じことを思ったのかそう告げる。
「繋がっていないようで、どこかでみんな繋がっているものね」
そう梨子も感慨深そうにつぶやく。意外なところで、意外な共通点もあるものだと遥も思っていた。
その後も、函館の街中をぶらぶらと彷徨っていたのだが、雪がちらちら舞い始めて体感気温も下がってきた。
「うぅ…寒い…」
「ティータイムにでもしますか」
予想以上に冷え込んだので思わずそう呟く千歌に、そう鞠莉が提案すると「賛成!」と満場一致で決まったので、とりあえず軽食のとれるお店を探す。
「くじら汁?」
「渋い…」
すぐさま見つけたお店の前には、そう書かれたメニューが店の前に置かれた古風な雰囲気漂うお店が目に留まる。
「もうだめずら…限界ずら…」
そう背後で花丸も震えていることだし、ここにしようということになったのだが「すいませーん」と千歌が入り口から声をかけるが返事がない。
「商い中ってありまーす」
そう店の入り口横の看板を確認した鞠莉がそう告げる、すると花丸が「とりあえず中に入れて欲しずら…」と今にも凍え死にそうな声で言うので「仕方ないね」と千歌が再び店内に顔を覗かせる。
「じゃあ失礼しまーす」
「やっと助かるずら…」
そう言うと、みんなで店内へ入っていく。
最後にルビィが店内に入ると、みんなの話し声とは別の声が奥から聞こえた気がした。そしてその声の方へと、店の奥へと進んでいくのに誰も気づかなかった。
そしてルビィが少しだけドアが開いていた部屋の中を覗くと、そこにはベッドに顔を伏せて泣く鹿角理亞が居た。
全員の目の前には、綺麗に盛り付けられたぜんざいが置かれていた。まさかの鹿角姉妹の実家だったのだ。
「綺麗~」
「おいしそ~」
そう梨子と千歌が各々の感想を述べる。
「とても温まりますよ、ぜひ召し上がってください」
そう笑顔で聖良が告げる。彼女の人当たりのよさは、こうして身に着けたものなのかもしれない。
「雰囲気のある、いいお店ですね」
「制服も可愛いし」
そう梨子と曜が告げる、古風な作りで趣があり制服も大正浪漫のようなかわいらしい作りになっている。
「このおいしさ…天界からの貢ぎ物!」
「おかわりずら」
「はっや…」
善子のキャラに聖良が困惑しないか心配だったが、その隣でもう食べきっている花丸に思わず聖良の方を気にしてしまうが彼女は優し気な笑みを浮かべていた。
「学校に寄られるかもとは聞いていたのですが、でもびっくりしました」
「あぁはい…あちこち見て回ってたら偶然というか…」
聖良にそう言われ、千歌は申し訳なさそうにそう正直に答える。まさかここが2人の家だったとは誰も思いもしなかった。
「そういえば遥さん…」
そう聖良が遥の方に視線を向ける。あの後逃げるようにホテルに戻ってしまったので遥としては正直気まずい。
「あ、えーと…僕もおかわりください」
そう誤魔化すように器を差し出す。
「解りました」
そうにこやかに笑って器を受け取ってくれるので、余計に罪悪感が募るので小声で「すいませんでした、あとあの事は内緒にしてもらえると…」そうお願いすると「大丈夫です、解ってますよ」と返してくれた。
こういう優しさが、逆に罪悪感を募らせてしまうので受け取ると「ありがとうございます」と言ってかき込む。
「遥も食べるわね…」
その光景を隣に座っている善子が言ってくる。
「最近色々考えてたじゃん?だから体が求めるんだよ、甘いものをさ」
そう言って誤魔化しておく。帰る前にもう一回ちゃんと謝っておこうと心に誓うのだった。
「街並みも綺麗ですね、落ち着いてて」
「ありがとうございます。私も理亞もここが好きで、大人になったら二人でこの店を継ぎたいねって」
そう窓から街並みを眺めていた梨子にそう言われ、聖良はそう嬉しそうに笑って答える。彼女も、自分たちの生まれ育った街が大好きなんだなと遥は感じた。
「残念でしたわね、昨日は」
ここでダイヤが、誰も触れようとしなかった事をはっきりと告げる。
「いえ、でも―」
「食べたらさっさと出てって」
聖良が何かを言いかけたのを、理亞がそう遮る。
「理亞、なんて言い方を!」
そう聖良が諫めるが、理亞は両腕を組んだまま聞く耳持たないといった様子だった。
そしてルビィに何か耳打ちすると、厨房の中に消えていった。
昨日の事は、恐らく一番彼女が悔しいだろうし責任も感じているだろう。だからこの事に触れられると虫の居所が悪くなるのも無理はない。
「会場でもちょっと喧嘩してたらしいじゃ…むぐっ」
「善子ちゃん!」
余計な事を言いかけた善子に、花丸はスプーンを口に突っ込んで遥は言葉で遮って止める。
「いいんですよ、ラブライブですからね。ああいうこともあります、私は後悔してません。だから理亞も、きっと次は―」
「嫌!」
最後の大会でこういった終わり方になって彼女も悔しいはずだ。だがそんな様子を全く見せない、それどころか妹を気遣うような素振りを見せるが、それは厨房から出てきた妹によって遮られた。
「何度言っても同じ!私は続けない!スクールアイドルは、Saint Snowはもう終わり!」
「本当にいいの?あなたはまだ1年生、来年だってチャンスは―」
「いい!もう関係ない、ラブライブもスクールアイドルも!」
本当にそれでいいのか?そんな視線を聖良は投げかけるがそれ以上は何も言わず、理亞も再び厨房へと戻ってしまう。
「お恥ずかしい所をお見せしてしまいましたね…ごゆっくり」
そう申し訳なさそうに、聖良は千歌達に言うのだった。
結局ぜんざいを食べ終わったら、すぐにお店を後にした。だがまだすぐ観光といった気分にもなれず、ご当地のバーガーショップに入った。
「未来ずらぁ…」
みんなドリンクとフライドポテトを分け合う程度の中、花丸だけは顔くらいの大きさはあるのではないかという巨大なハンバーガーを頼んでいた。
「あんた、コレひとりで食べる気?」
「ずらぁ~」
善子にそう怪訝そうな顔で聞かれるが、意に介さずそのままかぶりつく。あまりに幸せそうに食べるので「一口、一口だけ」なんて言い出すが「ダメずら」と一蹴される。
「何も辞めちゃうことないのに…」
ふと、千歌がそう呟く。
「でも理亞ちゃん、来年から一人になっちゃうんでしょ?」
「新メンバーを集めてリスタート!」
「って簡単に割り切れないでしょ」
曜がそう言うと、鞠莉がいつものテンションでそう告げるが果南にばっさりと切り捨てられる。
「私達もそうでしたものね…」
ダイヤもそう呟く。思い返すのは二年前の東京での事だろう。
「結局ステージのミスって、ステージで取り戻すしかないんだよね」
「でもあの2人にその機会は…」
あっけらかんとした様子で告げる果南に対し、遥はそう呟く。最後の最後でミスをしてしまったのだから…
「そう簡単に切り替えられる程、人の心は簡単ではないってことですわ…」
「自信…無くしちゃったのかな?」
そう曜がストローで中身をかき混ぜながらそう呟くと、一人を除いて何も言えなくなる。
「違うと思う…」
口を開いたのはルビィだった。同じ三年生を姉に持つ者として、理亞の気持ちに共感できるものがあったのかもしれない。
「聖良さんが居なくなっちゃうから…お姉ちゃんと続けられないのが嫌なんだと思う。お姉ちゃんがいないなら、続けたくないって」
「あんた…」
「凄いずら…」
ルビィはそこまで言ってしまったといったようなリアクションを取るが、向かいに座っていた花丸と善子にそう感心される。
「そうだよね、寂しいよね…」
そう梨子も呟くが、なぜかルビィは誤魔化しにかかった。
「ううん違うの!ルビィはただ理亞ちゃんが泣いて…」
そこでルビィの顔が青くなる。「泣いて?」と千歌が首をかしげると「ぴぎぃ~」と悲鳴を上げて外へと飛び出してしまう。
「多分…そうなんだよな、悔しいし寂しいんだよ…」
その遥の呟きは、隣にいた鞠莉にも気づかないほど小さいものだった。
あの時、鹿角姉妹の実家の店でルビィが目にしたのは泣いている理亞だった。そしてその事を「言ったらタダじゃおかない」と言われていたのに、うっかり漏らしてしまった。
まだ雪の残るベンチに腰掛けて、上着も羽織らずに海を眺めながらその事を後悔していた。
「理亞さんに何か言われたんですの?」
背後からダイヤの声がすると、自身の肩に店に置いてきた上着がかけられる。自分が大好きな姉は、店を飛び出したことを咎めずそう声をかけてくれた。
「ううん、ただ…きっとそうなんじゃないかって…ルビィもそうだから」
これが姉と一緒に出られる最後のラブライブ。それが理亞とルビィの共通点。次のラブライブに、姉は居ない、この大会が最後なのだ。
「お姉ちゃんも、決勝が終わったら…」
姉の顔を見れないまま、ルビィはそう言いかけるが続く言葉を口にする勇気は無かった。
「それは仕方ありませんわ」
「でも…あんなにスクールアイドルに憧れていたのに、あんなに目指していたのに、もう…もう終わっちゃうなんて…」
「私は十分、満足していますわ。果南さんと鞠莉さん、2年生や1年生の皆さん。そして何より、ルビィと一緒にスクールアイドルをやることが出来た。」
それはダイヤの本心だった。だが、ルビィにはまだその事実は受け入れたくなかった。無意識に頬を伝う涙を誤魔化すように、ダイヤの背へ抱き着く。
「それでラブライブ決勝です、アキバドームです。夢のようですわ」
「でもルビィは、もっとお姉ちゃんと歌いたい…お姉ちゃんの背中を見て、お姉ちゃんの息を感じて…お姉ちゃんと一緒に汗をかいて…」
ダイヤは立ち上がると、涙ながらにそう話すルビィを抱き寄せる。
「ルビィを、置いて行かないで…」
二歳年上の姉、だがその二年という決して埋まらない差が2人を引き離そうとしている。姉がどういった進路を取っても、もう一緒にスクールアイドルはできない。ルビィにそれは、とても辛いことなのだ。
「大きくなりましたわね」
そんなルビィの頭を撫で、ふとそう口にするダイヤに、ルビィは顔を上げる。
「それに、一段と美人になりましたわ」
「そんなこと…」
「終わったら、どうするつもりですの?」
そうダイヤはそっと体を話してからそう聞く。ルビィは迷ったが、まず口にすることにした。
「わかんない…でも学校無くなっちゃうし、お姉ちゃんたちも居なくなっちゃうし…」
「そうですわね…」
「お姉ちゃんは?」
「そうね…解んないですわ、その時になってみないと…ただ、今はラブライブの決勝しか考えないようにしていますし」
「うん…」
逆にダイヤに聞いてみたが、彼女も今のところは考えていないらしい。だからルビィも決勝が終わるまでは、この気持ちは閉まっておこうと思った。
「ただ、あなたが私にスクールアイドルになりたい。そう言ってきた時、凄く嬉しかったのです。私の知らないところで、ルビィはこんなにも一生懸命考えて、自分の足で答えに辿り着いたんだって」
今まで一度も言わなかった、本当の気持ちをこの時、ダイヤは最愛の妹に告げた。
「お姉ちゃんってどんな感じなの?」
「うーんどうだろう…?」
その日の夜、お土産を整理しながらふと曜がそう千歌に聞いてみると千歌は少し考えてから答える。
「うちはあんな感じだから、あんま気にすることないけど…でも、やっぱり気になるかな」
「ふーん」
「ほら、最初に学校でライブやった時さ、美渡姉雨の中来てくれたでしょ?なんかその瞬間、泣きそうになったもん。ああ美渡姉だって」
いつも喧嘩しているイメージがあったが、お互いを思い合っている。だから何かあった時は駆けつけてくれる。
「いいなぁ~わたしそういうのよくわかんないけど」
そう曜は返すのだが、一人っ子としてやはりそういうものに憧れた時期もあったものだ。
「わたしもよくわからないよ。だってあまりにも自然なんだもん、産まれた時からずっといるんだよ?お姉ちゃんって」
そう千歌は告げる。姉という存在は、産まれてからいてずっと一緒に生活してきた。だからいざどういうものかと聞かれると、しっかりと説明はできなかった。
「それなら、弟がいるってどんな感じ?」
それを横でずっと聞いていた梨子に、千歌がそう話を振ると「そうね…」とやはり少し考える素振りを見せる。
「遥は一つ下だし、物心ついたころからずっと一緒にいたから千歌ちゃんとあんまり変わらないかも?」
「そんな感じなんだ」
「じゃあさ、遥くんってどんな感じだったの?」
やはり居るのが普通なので、あまり千歌と変わらない。そう答えると、今度は曜がそう聞いてきた。
「今と違って泣き虫でいっつも私の後ろにくっついてたわ。幼稚園くらいまで髪も長くて、私と似たような服ばっかり着てたし、妹と間違えられて喜んでたっけ」
「なんか意外」
「でも遥くん、梨子ちゃんが昔から大好きなんだね」
そう意外そうな顔をしている曜の隣でそう告げる千歌に、何となく照れ臭くなってしまって「そう…かも?」なんて答え方をしてしまう。
「なんかいいなぁ兄弟が居るって」
「とりあえず頼まれていたものは終わらせたよ」
遥はダニエルに昨夜渡されていたデータを元に、破滅招来体の母性と思わしき惑星の特定に協力していた。
『ありがとう遥、すまないね。折角の旅行を邪魔して』
「いいんだ、どうせホテルだとやることないし」
申し訳なさげな表情を浮かべるダニエルに、遥は笑ってそう答える。
『でもこれで、破滅招来体への攻撃の足掛かりができた。これは大きい』
「そうなのかな?」
『遥…?』
「いや、何でもないよ。ゴメン、でも僕が担当した範囲には破滅招来体の手掛かりもなかったそ」
『いや、でも遥が早く仕上げてくれたおかげで予定より早く絞り込めそうだ。ありがとう』
「どういたしまして、また解ったら教えてよ」
そう言って通話を切ると「ふぅ…」とため息をついてふと考えてしまう。
「やっぱり、攻撃は最大の防御…ってことなんだろうか」
遥の胸の中で、それが正しいと思う気持ちと。そうだという気持ちが競り合っていた。
という訳で次回からあの曲を作るお話に入っていく…と思います。
そして何やら危険な事を始めようとしているアルケミースターズ。そしてさらっと紛れ込む幼少期遥くん。
それではまた次回お会いしましょう。