ちなみに今回は、三年生組以外は登場しません。
ラブライブの決勝から数日後、もう卒業式を残すのみとなった三年生は休みの期間に突入していた。
それぞれ、進学先や就職先の近くに引っ越すための準備など思い思いの時間を過ごしていた。
「やっと来た」
「オレから言い出した約束だからな」
淡島で、果南の実家の営むダイビングショップに博樹は客として訪れていた。高校に入学してすぐに交わした約束を、卒業を目前にしてようやく叶えることが出来た。
「それで、何が見たいの?」
「ただ海の中が見れればそれで」
相変わらず素っ気ないなと感じながらも、そんな博樹の態度に果南は笑みをこぼす。ずっと待っていた日常が、やっと帰ってきたんだと。
道具を一式準備していると、博樹も「手伝う」といってボンベ等を運ぶのを手伝ってくれる。
そして道具の説明等を受けて、博樹と果南は海に出る。
「やっと来れたね」
「そうだな…」
「もっと嬉しそうにしてよ、相変わらず素直じゃないなぁ…」
一言だけ素っ気なく返す博樹に、果南は苦笑いしながらそう漏らす。
「本当は優しいのにね、遥くんに聞いたよ?お正月に星を見に行った時、雨雲を払ったのはヒロの提案だったって」
「アイツ余計な事を…」
そう博樹は少々イラつき気味にぼやく。事実、ブリッツブロッツとの戦闘でお互い消耗した身体で無理をして雨雲を二人がかりで吹き飛ばしたのは、博樹が遥に手伝えと言って連れ出したのだが。
「みんなありがとうって喜んでたよ」
「そうか…」
そう告げられて、博樹は恥ずかしそうに顔を逸らしてしまう。
「へー?珍しく照れてるんだ?」
「うるさい…もう一人で潜る」
「初めてなのにホントに大丈夫なの?」
「………」
そうやって茶化すと、博樹はそっぽを向いて暫く一言も発さなくなってしまった。さすがに果南もおちょくりすぎたと思って「ごめんって」と謝ったが、それでも博樹の機嫌はすぐには戻らなかった。
目的の地点で船を停めると、上着を脱いでウェットスーツ姿になった2人は酸素ボンベを背負って海へ入る。
まだ三月なので、ダイビングにはまだ幾分寒いがそれが功を成して他に客はいない。果南の先導で、2人は海へと潜っていく。
その先で見たものは、綺麗に透き通った水中を自由に泳ぐ魚たち。そしてその中を、まるで魚になったかのように泳ぐ2人。
博樹はふと、頭上の海面を見上げるとその向こうに見える太陽の輝きに手をかざす。この美しい景色が、自分が求めてきたもの。これが、自分の守りたかったものなのだと実感した瞬間だった。
「どうだった?」
海から上がると、果南はそう博樹へと問いかけるが。返ってくる声は大体想像ついていた。
「綺麗だった…本当に、ありがとうな。連れてきてくれて」
「どういたしまして、でもわたしもこの三年間ずっと楽しみにしてたんだよ?」
「そうだったな」
博樹から礼を言われて、そう笑顔で返すと博樹もそう言葉は素っ気なくても笑顔で応じてくれる。
「お前がこっちにいるうちにこれて、ホントに良かった」
そう博樹は続ける。卒業したら果南は海外に行くので、ここでダイビングを一緒にすることは出来なくなる。
だから卒業までにとここ最近はひたすら念を押したのだが…。
「ま、でももう帰ってこない訳じゃないから。またその時行こうよ」
「そうだな」
そうだ、自分達の夢の為にこの場所を離れてもまたきっとここに戻ってくる。だってみんな、この町が大好きだから。
「それにさ、鞠莉とダイヤが言ってたんだ」
そう切り出して果南は空を見上げる。
「『この空は繋がってる、どんなに離れてても』って」
「そう…そうだな、オレ達はずっとこの空で繋がってる」
そう言って博樹も空を見上げる。どんなに離れていても、姿が見えなくてもみんな同じ空の下でこれからも生きていくのだ。
「何見てるの?」
帰りの船の上で神妙な面持ちでタブレットを睨む博樹に、果南がそう問いかける。
「ん?あぁなんでも南極の氷の下から、古代怪獣『アルゴナ』の卵が見つかったんだと」
「怪獣の?なんか怖いなぁ…」
そう告げられて、果南は難色を見せるが。博樹は何でもないといった表情で目を合わせる。
「どうせ生きてないだろ、何千年昔の卵だと思ってる?」
「いや、だって怪獣でしょ?嫌な予感するけどなぁ…」
「心配性だな、いざとなれば倒すさ」
そう不安げに呟く果南に、博樹は笑ってそう返す。
だがその不安は、的中することになるのだがこの時はそんなことはまだ誰も知らない。
その卵は、南極から日本のジオベースまで調査の為に輸送されていたのだが、なんとその輸送機は突如機体下部に穴が開いて墜落。卵も行方知れずとなってしまった。
「ヒロいるー?」
翌日鞠莉は、博樹が今現在腰を落ち着けている『プロノーン・カラモス』を訪ねてきた。
元々母親が働いていた研究施設で、居住空間もあるので母を喪って身寄りの無い博樹はここに住んでいた。
「何の用だいきなり…?」
「ちょっと見て欲しいものがあるんだけど…」
普段と違って真剣な表情でそう告げる鞠莉に、博樹も何かあると察して彼女を中に入れる。
「これなんだけど…」
そう言って鞠莉は一枚の紙を手渡すと、博樹は真剣な表情でそれを読むと。一転してかなり渋い表情をして鞠莉に返しながら告げる。
「なんだこの汚い字は…」
「だから脅迫状だって」
「いやそれは解るが何だってこんな…」
『脅迫状』そう告げる鞠莉が持ってきた用紙には、手書きで内容が記されていた。
―地球人へ告ぐ
怪獣の玉子はわれわれ
フルータ星人が貯かっ
た。われわれには、
みのしろきんと引
きかえに王子を返す
用意がある。すみやか
にGURDにしらせない
フルータ星人―
そうあり得ない程汚い字で誤字脱字だらけの文章が、それともう一つ。恐らくアルゴナの卵であろう写真とカセットテープが付随していた。
「小学生みたいな字と文章だが…まぁ写真は本物みたいだな…」
「じゃあこのテープも…」
「今時カセットテープなんて使わんだろ…」
そう言ってカセットテープをしげしげと見つめる鞠莉とは対照的に呆れたような顔で博樹は立ち上がると、しばらく他の部屋を漁ってから戻ってくる。
「それは?」
「これでそのテープを流すんだよ、母さんの私物も残してたのが役に立った」
そう言ってテープをセットして、そこに録音された音声を再生したのだが…
「…っ!?」
「こっこれは…」
思わず耳を塞いで博樹は慌ててテープを止める。恐らく何かの鼓動だと思うのだが、それ以外にも不快な音が混じっておりとてもではないが聞けたものではなかった。
「なんだこれ…?」
「すっごい不快な音だったわ…」
「ともかくこのテープは保留だな…」
そう言ってテープの事は一旦忘れることにしたのだが、他の資料は概ね本物の様だった。
「それに金の延べ棒を寄越せって続いてたのよ…ヒロはどうすればいいと思う?」
そう鞠莉は不安げに聞いてくる。無理もない、いきなりこんなものを送り付けられれば不安にもなるだろう。
「こういうのはG.U.A.R.Dの仕事だろ?通報したらどうだ?」
「でも知らせないって書いてるし…」
「だからって、お前が身代金払ってどうする?怪獣の卵渡されても困るだろ?」
「それはそうだけど…」
そう諭すように告げると、鞠莉はそう言って視線を落とす。するともう一人来客が飛び込んでくる。
「ヒロ、本当に大変な事になってるよ」
そう言って訪れて来たのは果南だった。「どいつもこいつも…」とあからさまに嫌そうな顔をした博樹だったが、それでも果南も中に入れる。
「鞠莉、どうしたの?」
「それが…」
鞠莉もいることは想定外だったのか、そう果南が聞くので事情を追って説明するのだった。
「そんな事になってるんだ…やっぱり通報するべきじゃない?」
「果南もそう思うだろ?」
そう提案する果南に、博樹はそう同調する傍ら。何やらパソコンで調べ物をしていた。
「何見てるの?」
「アルゴナがどんなもんかと思ってな?肉食で卵ごと巨大化して生まれてすぐ50m程度になるらしい」
そう告げると、果南と鞠莉の顔は青くなる。
「まあ何千年も南極の氷の下に卵のまま眠ってたんだ、もう生きちゃいないだろ」
「全く…ヒロは相変わらずジョークが面白くないんだから」
「そーだよ、脅かさないでよ。」
そう言って和ませるつもりだったのだが、2人にそう強く反発される。
「やっぱりヒロに相談するんじゃなかったわ」
「いきなり来ておいてそれは無いだろ…」
などと言い始める鞠莉に、博樹もさすがに困惑した様子だったのだが。鞠莉はそんな彼を余所にスマホをとり出すと、ある人物に電話をかけ始める。
そしてそれから小一時間程経過した後、ダイヤもこの場所を訪れる。
「で、なんで私が呼ばれたのですか…?」
いくら休みの期間中だとしても、いきなり淡島まで呼び出された彼女には正直同情する。そんな彼女に事情を話すことから始まる。
果南もダイヤも、まず字が汚すぎることに顔をしかめることから始まる。そして『宇宙人が頑張って手書きしたから』という結論に落ち着く。
「じゃあ金の延べ棒は?」
「金なら足が付くからか…それか純粋に金属として利用するのに一番理想的だからかのどちらかだな」
そう博樹が思いつく推論を述べるが、もうすでに宇宙人であることは確定で話が決進んでしまっていた。
「それにしても…なんで鞠莉さんの家にこんなものが届いたのでしょう?」
「さぁな…大方金のために、金持ってそうな奴の家ってことで目星をつけられたのかもな」
「ただ、私も通報するべきだと思いますわ。こういうのはやはり私達の手に余りますし……」
「ダイヤまで…」
四人中三人が、通報すべきと言い切った事で鞠莉も渋々といった様子だったがそれに従う。するとG.U.A.R.D.もすぐに対応してくれて、調査が開始された。
そして翌日、事態は急速に動き始めた。
アルゴナの卵内の音を録音したテープは本物らしく、やはり卵は生きているということで間違いないというものだった。そして、日本の気候によって早くも卵が孵ってしまうかもしれないと。
「ほら、本物じゃん…生きてるってよ?」
「悪かったよ…」
果南にそう言われて博樹はめんどくさそうにそう返す。
「だが、卵から電磁波が出てることが解った。これをたどればフルータ星人の居場所が分かる」
そう言って博樹は一つのUSBメモリをとり出す。なんだかんだ言って、博樹も鞠莉達があまりにも不安がるのを不憫に思って一人動いてくれていたのだ。
「じゃあマリー達で、そのフルータ星人を懲らしめに行きましょ」
「そうだね」
「ちょっとお待ちなさい。危険すぎます」
そう告げる鞠莉と果南をダイヤがそう言って止めようとする。
「そうだ、いくらなんでも危険すぎる。大体、こんなもん送ってくる宇宙人と出くわしてたら命がいくつあっても足りん」
そう呆れた様子の博樹は、G.U.A.R.D.に自身が解明した電磁波の情報を送る。ここはプロに任せるべきだといった様子だった。
「ちょっとヒロ」
「ただの一般人、それも女の子がそんな危ない目にあいに行く事ないだろ」
脅迫状なんて送り付けられて当初は怯えた様子だった2人は、相手の尻尾を掴んだ途端に強気になっていく。
そんな二人にやれやれといった様子だったが、博樹はそう言って引き留めようとするもすぐに態度を改める。
「ま、言っても聞かんだろう。条件がある」
「条件?」
「オレも行く、それが条件だ」
その言葉によって、4人はその電磁波を追う事にする。博樹がノートパソコンを鞠莉の車の車内で操作し。そのナビに従って運転するといった手法を用いて。
だがその時、想定外の事が起きる。卵が動き始めたのだ。
「移動し始めた…?まさか感付かれたのか?」
「どこに向かってるの?」
「そのまま北へ真っ直ぐ、山の方へ向かってる」
「やっぱりやめません?」
博樹がそう告げると、鞠莉は周りに車が居ないのをいいことにアクセルを踏み込む。その助手席でダイヤがそう青ざめながら告げるが、聞く耳をもたない。もっともダイヤが怖がっているのは鞠莉の運転かもしれないが…。
結局G.U.A.R.D.の車両が後ろをついて来るといった事態に発展したまま、とある無人の山岳地帯にまでたどり着いた。
行き止まりまで車を走らせると、目の前に町工場の人間と町医者の四人の男性が丘の方を必死に上ってきた。
「ここのはずなんだが…」
そう言って博樹は周囲を見渡すが卵らしきものは見当たらない。そこで目の前の人間に気が付いた果南が「どうしたんですか?」と声をかける。
「待て果南、こんな所にこんな格好した人が普通居る訳ない。アンタらがフルータ星人だな?」
「いや私ら、古田鉄工所のもので…」
そう言って誤魔化そうとする初老の男性の言葉で、博樹は納得した顔をする。
「なるほどな…鞠莉、こっからは警察の仕事だ。通報」
今のやり取りで全てを悟った博樹は、馬鹿馬鹿しいといった様子で車へ戻っていく。
そう、フルータ星人というのは古田鉄工所の人間の自称だったのだ。たまたま卵が輸送機から落ちてきたので、悪知恵を働かせたとの事だった。
「そこまでだ!フルータ星人!!」
そこでやっと追いついてきた隊員がガトリングを鉄工所の人間に向ける。
「大人しく卵を返せ!」
その言葉で、全員が卵の存在を忘れていた事に気が付く。そして真後ろの崖から、怪獣アルゴナが顔を覗かせる。そして怪獣に気が付いて腰を抜かしたダイヤを真っ直ぐ涎を垂らしながら見つめると手を伸ばしてくる。
「ピギャァァアアアア!!」
そう悲鳴を上げるダイヤだったが、誰も咄嗟に助けに入れない。そのまま食べられてしまうのかと思ったその時だった―
「オラァア!!」
だがそこで博樹が変身したアグルがアルゴナを蹴り飛ばす。そしてゆっくりと着地するアグルに、アルゴナは腕を振って威嚇した後真っ直ぐアグルへ突進する。
だがそんな相手をアグルは回し蹴りで後退させ、振り下ろす怪獣の腕を回避してその腹に的確に拳を撃ち込んでいく。完全にアグルに手玉に取られていた。
そんな状況に、アルゴナは頭に血が上ったのか強引にアグルを押し返すと、尻尾で薙ぎ払おうとする。しかしそれも飛び上がったアグルにそのまま両足を使ってに連続の蹴りを側頭部に叩き込まれて怪獣は昏倒する。
そして怪獣は何とか起き上がるが、そのままか細い鳴き声を上げて再び倒れ込むと動かなくなってしまう。
「やった勝った!」
「さすがヒロね」
「た、助かりましたわ…」
そう言って三人はほっとするが、それはアルゴナの死んだふりで警戒を解いたアグル目掛けて口から光線を放つ。
アグルは棒立ちのままそれをモロに食らい、辺りは爆炎に包まれる。
「ヒロ!」
果南が博樹のみを案じるが、アルゴナは勝ち誇るかのように立ち上がると両腕を振って喜ぶが、煙が晴れると無傷のアグルが現れる。
アグルは両拳を握りしめるとアルゴナへ駆け出し、連続で顔面を殴りつけるとそのまま頭を掴んで投げ飛ばす。
普段のカウンター重視の戦闘スタイルから一転、相手に攻撃の隙を一切与えず苛烈な攻撃を与え続ける。
アルゴナもなんとか反撃しようと再び光線を放つが、アグルは一瞬で空中へ飛び上がるとそのまま急降下キックを繰り出す。
「フンッ!ウォォォオオ…」
その蹴りによって派手に転倒したアルゴナに止めを刺すべく、アグルはエネルギーを胸の前に球状に集中させる。
「ハァッ!デリャァ!!」
そしてそのエネルギーの塊を両腕で押し出す必殺の一撃、フォトンスクリューでアルゴナを貫き粉微塵に爆殺するのだった。
そしてそんな様子を確認するまでもないといった様子でアグルは果南達の方に振り返ると、車に戻れとジェスチャーで伝える。そして車に戻った三人を手に乗せてそのまま飛び去ってしまった。
そして現場には、古田鉄工所関係者とG.U.A.R.D.の隊員だけがその場に残された。
古田鉄工所関係者の人間を未だに、アルゴナを暴れさせようとした凶悪な宇宙人『フルータ星人』だと思い込んでいる隊員によってあの四人がどうなったのか。博樹たち四人は知ることは無かった…。
続きがどうしても書けず、急遽博樹と果南メインの回として書き始めたのですが、鞠莉に出番を食われがちに…
というかギャグ回になってしまいました。ダイヤさんごめん…
次回からは真面目に進めていくので今までお待たせしてしまった分も含めて頑張っていく所存です。それではまた次回で