かつて、一人の少女がいた。
少女は天才で、幼くして大人顔負けの知識を身に着けただけでなく。学者レベルの学問さえも己の力として吸収していった。
天才である娘を誇らしく思う両親の愛情をその身に受けて育った彼女は、とても幸せだった。
だが、そんな幸せは長くは無かった―
人々は恐れたのだ、周囲と比較にならないレベルで突出した能力をもつ少女を。彼女は小学校に上がった時点でもう彼女の才能はもう本業の学者に引けを取らないレベルだったのだ。
その結果彼女は「悪魔の子」と呼ばれ迫害され、やがて両親からも拒絶された。
それにより絶望した少女は、10歳を迎えることなく自らその人生に幕を閉じた。
この悲しい出来事を繰り返さない為に、天才たちはネットワークを介して集まり『アルケミースターズ』が生まれた。
これが、創設メンバーしか知らない本当の理由。
クラウスの言っていた事は、遥のトラウマを刺激するためのでっち上げではなく事実だったのだ。
そして少女は呪った。自身のその
「そんな…じゃあ彼女が戦う理由って……」
「あぁ、許せないんだろう。人間が」
遥は、博樹がアルケミースターズのネットをハッキングして得た情報に言葉を失う。
「お前は手を出すな、俺が決着を付ける。知ったらもうお前は、戦えない。そうだろ?」
そう博樹は遥を試すように告げる。だが遥は譲らなかった。
「いえ、僕がやります。彼女の気持ちは解る、それに彼女に言われたんです『身勝手な人間を守る意味があるのか?』って…僕もゾグの一件からそう考えることがあります…」
そう言って遥は一度目を伏せる。結局社会は、遥をありのままで受け入れてはくれない。そう感じてしまったから。だがそれでもと遥は前を見る。
「でも、それでも僕は…大切なものの為に戦う。それが彼女を倒すことになっても…!」
「…いいんだな?」
その博樹の言葉に、遥は無言で頷く。何があっても大切なものを守る為に戦う、きっとそれが自分が光を授かった意味だから。
「それにしても、天使の次はウルトラマンだなんてな。ヤツらかなりいいセンスしてるよ」
そう博樹が皮肉っぽく笑う。
「でも、破滅招来体もそれだけ必死なんですよ。どうしてそこまでするのかはわかりませんが…」
「前にヤツらの一人と話をした。『滅ぼされたくない』んだと」
そう死神との会話を思い出した博樹が、そう遥へ告げる。すると遥は表情を更に曇らせてしまう。
「このままいけばいずれ人類は宇宙の破壊者になる…でも、そう仕組んだのも破滅招来体じゃないですか…」
遥が思い出しているのは、ワームジャンプミサイルの事だろう。確かに結局は中止に終わったが、あの作戦が遂行されていれば、人類はもっと沢山の巨大生物の住む星をワームホールで繋がれた端から滅ぼしてしまっていただろう。
「そうだな、確かに奴らも身勝手だ。でもな遥、人間は過去の過ちを自分たちの痛みとして受け入れなければ、変わることは出来ないんじゃないか?」
博樹はそう諭すように遥に告げる。結局人類が今のままでは、地球の環境そのものも破壊してしまう可能性を持っていることに気づけなければ。
そしてそれを自覚していくことが、人類全体に求められるのではないか?博樹はそう考えているのだ。
博樹は表情を和らげると「ふっ」と笑い遥に笑みを向ける。
「明日は卒業式だろ?もう帰れ、お前の大事な場所を最後までちゃんと守るんだ。ちゃんと終わるまで、外はオレが守る」
「…わかりました、お願いします」
そう告げる博樹の目には、強い決意が宿っていた。だから遥は、その提案を受け入れた。
―学校の最後を、ちゃんと見届けて欲しい
そう口にはしなかったが、それこそが博樹の本心だったのだと遥は思った。
そして翌日、卒業式と閉校式は予定通り行われた。
桜が咲き誇る校庭に、学校の生徒や保護者が居る光景は嫌でも今日が最後なんだと思い知らせて来る。
「おはよう遥くん」
「おはよう」
「花丸ちゃんにルビィちゃん、おはよ」
登校して姉たちと別れて教室に向かおうとすると、そこで花丸やルビィと出会う。
「善子ちゃんは?」
まだ来ていないのだろうか?そう思って聞くと、クラスメイトが木の上に向かって「降りておいで~」と声をかけてるのに気が付く。
「何があったの?」
「それが…」
話を聞くと、クラスメイトは気まずそうな表情を浮かべる。最初猫か何かが降りてこれなくなったのかと思ったがどうやらそういう訳ではないらしい。
「もうヨハネの事はほっといて~」
どうやらその正体は善子だったらしい。何があったのかはよくわからなかったが、意地でも降りないといった様子にみんな困惑気味だった。
だがしかし、乗っていた枝が折れて善子が落ちてくる。
「見るなぁ~!」
だが綺麗に着地すると頭を押さえたまま走り去ってしまう。
「どうしたんだろ?」
「…さあ?」
そう呟くルビィの隣で、遥もそう漏らす。ともかくここは女子陣に任せた方がいいと思い遥はそれ以上追及することはしなかった。
そのまま式の開始まで手持無沙汰だったが、何となく今日で最後だしと部室へ向かうのだった。
「あれ?千歌先輩?」
部室ももう片付けてしまっていて、中は広々としていたのだが。その部屋の真ん中で千歌は一人パイプ椅子に座って天井を見上げていた。
「遥くん、いやここってこんなに広かったんだなって」
「そうですね、初めて来た時にはもう色々置かれてましたし。」
そう言って遥も笑いながら返すと、千歌も「そうだったね」とこちらに視線を向ける。
「みんな、いろんなもの持ち込んでたから」
「ちゃんと整理すれば、ここでも練習できたかもね」
不意に背後からそう梨子と曜の声が聞こえる。最初に部室として使い始めた時に粗方掃除したが、その後もライブで使う為の小物だったり、練習ノートだったり教本だったりと。色んなものをみんな部室に置いていた。
流石に9人で練習するほどの広さはないと思うが、それでも多少はここでもできたかもしれない。でももう、そんな機会は巡ってくることは無い。
他に唯一残っているホワイトボードも、記されていたものは全てきれいさっぱり消えて新品同様と言っても差し支えない程まっさらになったいる。
「そうかも」
そう言って体育館側から果南が入ってくる。物憂げな表情でそんなホワイトボードに触れる。彼女達が一年生の時から、歌詞だったりフォーメーションだったりを書き記していたこのボードには、もうそんな形跡も残ってない。
「全部、無くなっちゃったね…」
「そんなことないよ」
そう寂しげに告げる曜に対して、果南はそう告げる。その顔は晴れやかなものだった。
「これからもずっと、残っていく」
「そうですね。ずっと、ここに…」
そう続ける果南に、遥もそう同意する。
たとえ学校が無くなっても、校舎はまだ取り壊されて無くなるなどという話は無い。それにここでの思い出は、みんなの心の中から未来永劫消えてなくなることは無いのだ。
「校舎に、寄せ書き?」
「うん!中庭を開放して、みんなで学校に寄せ書きしようって」
千歌達と別れた遥の目の前を、ペンキを持ったルビィが横切って行ったので思わず何事かと尋ねたところ。そう返事が返ってきたので遥は首を傾ける。
「いいの?そんなことして」
「鞠莉ちゃんがみんなでって。遥くんも」
「そう言う事なら、まあ…」
本当に怒られたりしないだろうか?そんな不安も少し抱えながら、遥もペンキを受け取る。
やがて全校生徒で、中庭にペンキでそれぞれ思い思いの事を校舎に描いていく。
やがてAqoursの9人も揃い、みんなで一つの物を校舎に描いた。それはそれぞれのメンバーカラ―でできた、9色の虹。
他にも「ありがとう」だったり、制服の絵だったり、「頑張ルビィー!」なんてものも。気が付けばみんな顔やら制服やらにペンキを付けてすっかり汚れてしまっていた。
「これから式だというのに、こんなに汚れてしまってどうするんですの?」
なんてダイヤが呆れたかのように口にするが、その表情は笑っていた。
「でも昔からこんな感じじゃん?わたし達もこの学校も」
「なんかこうしてると、色んな事があったなって思い出すよね」
そんなダイヤの言葉に果南がそう告げると、その横で曜もそう言って笑う。
「練習したり、みんなでふざけたり」
梨子もそう漏らすと、ぽとり。と刷毛が足元の芝に落ちる音がする。それからすぐ、ルビィが顔を覆って肩を震わせていた。
「ダメだよ、ルビィちゃん。最後まで泣かないって、みんなで約束したんだから」
そう花丸がルビィの肩をもってそう優しく告げる。「うん…」と弱々しく答える、すると千歌が。
「だね、明るく一番の笑顔で」
そう告げた。最後まで笑って、この学校とお別れしよう。それがメンバー間での約束だったから。でも、本当に心から笑うことは、遥は出来ているか不安だった。
昨日の戦闘だって学校の近くだったのだから、誰も知らないと言う事は無理がある。またいつここが戦場になるか解らない不安を抱えている生徒だって必ずいるのだ。
誰も口にこそしないが、それを解っているからこそ。遥は今、自分が…いやここにいる何人が心から笑えているのか、それが解らなかった。
卒業式は全校生徒、そして教職員に来賓。体育館を埋め尽くすほどとはいかないが、普段と比べて多くの人がいる中執り行われた。
だが、生徒はペンキまみれ。そして理事長としてみんなの前に立つ鞠莉もという、どこかしまらない雰囲気の中で式は進んでいく。
鞠莉が理事長として、卒業生代表の果南に卒業証書を手渡し。最後にダイヤが生徒会長として生徒を代表して挨拶を行う。
「今日この日、浦の星学院はその長い歴史に幕を下ろす事になりました。でも私達の心に、この学校の景色はずっと残っていきます。その事を胸に、新たな道に進めることを、浦の星学院の生徒であった事を、誇りに思います。みなさんもどうか、そのことを忘れないでください」
ここにいる全員、きっとこの学校での日々は一生忘れられない思い出になるだろう。それくらいここでの日々は、去年の春ここに来た遥にとってもかけがえのないものだったのだ。
「ただいまをもって、浦の星学院を閉校します」
そう告げてダイヤは一礼する。するとダイヤの少し後ろで、その挨拶の様子を見守っていた鞠莉が奥に立てかけてあった優勝旗を手に声高に宣言する。
「わたしたちはやったんだ!」
「ラブライブで!」
これは立ち上がったルビィが、そして千歌も。
「優勝したんだ!」
そう、Aqoursはラブライブで優勝して、学校の名前をラブライブの大会の歴史に刻んだのだ。
これが、輝きを追いかけてきた少女たちが手にした。一つの『輝き』なのだ。
「これで終わりずら」
図書室にあった本全てを最後の段ボールに詰めると、花丸はそう告げて段ボールを閉じる。
「全部、無くなっちゃったね…」
花丸の作業を手伝っていたルビィが、そう寂しげに告げる。本棚も殆ど無くなったこの空間は、あまりにも広かった。
「捨てられたわけじゃないずら、鳥みたいに羽ばたいていったずら」
「ぱたぱたって?」
「新しい場所で、また沢山の人に読んでもらって。とてもいいことだって、思えるずら」
ここにいた本たちも、自分達と同じようにまた新しい場所へ向かう。他の施設で、また違う人たちに読んでもらえる。このまま処分されてしまうわけではない。
「ルビィたちも、新しい学校に行くんだよね」
「ちょっと怖いずら…」
「ルビィだって。でも、花丸ちゃんたちとスクールアイドルやってこれたんだもん。大丈夫かな」
新しい場所へ行く事への不安ももちろんある。でも、この一年みんなでスクールアイドルとして活動したことがルビィの自信になった。
「そうだよ。ここでの経験が…思い出が、これからの僕たちの力になる。新しい所に行ったからって、それは無くならないよ」
今まで黙って作業をしていた遥がそう優しく告げる。新しい学校に行っても、きっとやっていける。そんな確信が、遥の中にもあった。
「堕天!!」
ベランダで外を見ていた善子が、不意にそう叫びながら入ってくる。折角良い事言おうとしたのになぁ。などと思いもしたがそれは口にせず、そんな彼女の様子を見守る。
「ほら行くわよ、リトルデーモン達!」
そのキャラクターは何時まで続くのだろう?なんてことも思いつつ、4人は図書室の外へ出る。そして花丸とルビィがドアへと手をかける。
「一緒に閉めよ?」
「嫌よ」
そう花丸は善子に告げるが、彼女は頑なにそれを拒んだ。
「一緒に閉めるずら」
「嫌だってば」
「一緒に閉めるずら!」
思わず声を荒げる花丸に、隣にいたルビィもびくりと肩を震わせる。
「お願いだから…」
「…わかったわよ」
そうか細い声で付け足す彼女に、善子は一瞬の間を置いてそう答え。鹿野署の隣に立ち手を添える。
「遥くんも」
「うん…」
ドアの方を向いたままの彼女の表情は見えないが、遥はそう頷くと同じようにドアへと手を添わせる。
「ごめんね…」
「いいわよ別に」
花丸がそう謝ると、善子はそう言ったものの顔を逸らす。
「今まで、マルたちを守ってくれて…ありがとう」
そう呟いてドアを閉める。
「ありがとね」
「バイバイ」
そう善子とルビィも呟く。もう二度と、自分達がこのドアを開ける日は来ない。だからこそ、言っておきたかった。
「最後はここ」
みんなやはり、最後には自然と部室に集まっていた。
―ここがあったから
―みんなで頑張ってこられた
―ここがあったから前を向けた
―毎日の練習も
―楽しい衣装作りも
―腰が痛くても
―守りたい場所だった
―難しいダンスも
―不安や緊張も、全部受け止めてくれた
―帰ってこられる場所が、ここにあったから
そう思い思いの言葉を残して、ひとりひとり部室を後にする。
「じゃあ、待ってるね」
最後に残った千歌に、曜がそう声をかけてからここを後にする。最後の一人となった千歌も、暫く目を瞑って感慨に浸っていたが、部室を後にする。
そして部室の入口へと振り返ると、頭上にかかっている。『スクールアイドル部』のプレートへ目を向ける。おおざとへんがこざとへんになっていたのをバツ印をいれて書き換えたまんまのプレートがかかっている、部室の前で。
「ありがとう」
そう一言告げると頭を下げ、「よっ」と窓枠を駆け上って枠からプレートを外す。これでここはもう、私達の部室じゃなくなったんだ。そう感じた。
校門へと向かうと、みんな一足先に外に出て待っていた。
そしてみんなで、この学校の校門を閉じて浦の星学院は、本当の意味でその歴史に幕を閉じた。
夕日が赤く照らすこの場所で、だがそんな余韻も轟音によってかき消されてしまう。
少し時間は遡って、まだ卒業式の最中だったころ。学校の前にシルビアが立っていた。
「さようなら、輝きの人…せめて最後は、思い出の中で終わらせてあげる」
そう告げると、校舎に腕を翳しエネルギーを収束させる。遥たちを、このまま消し飛ばしてしまうつもりなのだ。
「待て」
「…来たのね、もう一人のウルトラマン」
「生憎だが、お前の好きにさせる訳にはいかないんだ」
それを遮ったのは博樹だった。シルビアはその手を下すと、博樹の方を睨みつける。すると博樹は、右腕に嵌めたアグレイターを構える。
「お前はオレが止める。お前の人間だった時の事はしっている。それでもオレは、お前に同情して見逃すわけにはいかん」
「そう…なら、まず貴方から倒しましょう。きっと人類は余計に絶望するでしょうけどね」
「オレは負けられない。オレはお前とは違う、人類に絶望しても守るべきものは守る…これで、最後だ!」
そう告げると、博樹は光を。シルビアは闇を開放する。そして学校から離れた無人地帯で、アグルとフェイトの戦いが始まった。
次回、いよいよ決戦
…多分