海底から飛び出した無数のトビウオに世界は騒然となる。
ドビシの一件以降、通常のG.U.A.R.Dの戦闘機もかなり火力の強化が施されたのだがそれでも巨大なトビウオを撃ち落とすまではたどり着かない。
XIGからもファイターチームが出撃するが、それでも三機のファイターの火力を集中してようやく一匹落とせる程度で苦戦を強いられていた。
ドビシ程の物量はないとしても、それでもかなりの数だ。このままではじり貧になってしまう。
だが復活したアグルが、そのトビウオを次々に撃ち落としていく。
アグルスラッシュで次々と撃破していくアグルは、函館の空のトビウオを一掃し沼津を目掛けて同様に次々に撃破しながら飛び去って行く。
一方沼津でも、ライブの余韻に浸る間もなくすぐに全員で避難することになってしまった。
「もしかして、また新しい破滅招来体の…」
「地球すら、この事は予測していなかった…」
そう呟く花丸と遥だったが、その答えを知る術はない。今できることはただこの場から避難する事だけだった。だが敵はトビウオだけでは無かった。
時を同じくして、海底でリナールから力を奪い続けていた存在がワームホールを使って沼津の街に降り立った。
金色の角、そして二足歩行のトカゲのような姿。それでいて腕や背には金色のヒレのような器官が備わっている赤い目の怪獣―
トビウオのような怪獣、根源破滅飛行魚バイアクヘーを従える存在、根源破滅海神ガクゾムが現れた。
「怪獣…」
ガクゾムを見て、思わず千歌はそう呟く。
その巨体は歩くだけで街を破壊していく。そしてガクゾムはこちらへと向かってきていた。
「みんな早く!」
そう言って外へと出るように遥が促す。だがそこに、ガクゾムが両腕を振りぬくと手から破壊光弾が放たれ、先程まで屋上にいたビルの中腹に直撃し瓦礫が降り注ぐ。
「ッ!危ない!!」
花丸の頭上に落下していく瓦礫に気がつき、遥は咄嗟に彼女を突き飛ばすが遥は瓦礫に閉じ込められてしまう。
「遥くん!」
「僕は大丈夫、他の所から脱出するからみんな先に行って!」
瓦礫越しに遥の身を案じる花丸に、遥はそう返す。
「遥、大丈夫なの!?」
「姉さん、僕は大丈夫。後で合流するから、みんな急いで」
姉の声に、遥はそう花丸に告げたのと同じように答える。だがその返事を聞いて、梨子は一瞬顔を伏せるがすぐにまた瓦礫の山の方を向く。
「…約束よ?」
「うん…」
そう一言、姉弟は言葉を交わす。
「みんな行きましょう」
そう言って梨子は振り返る。
「でも、遥くんが…遥くんが…」
そう花丸が目に涙を浮かべながら訴えかけるのを、他のみんなは目を伏せてなにも言わない。
「花丸ちゃん、僕を信じて?約束、絶対守るから…」
「今は、遥を信じましょう?」
そう花丸に告げる梨子の目には、涙が浮かんでいた。心配していない訳が無かった、父を喪い今度は弟まで…そんな嫌な考えが彼女に付きまとう。
だがそれでも梨子は、遥を信じようと決心したのだ。
「遥くん、また後でね?」
「遥…信じてるから」
そうルビィと善子がそう告げると、「みんなをお願い」と遥から告げられる。そして少女たちは少しでもガクゾムから離れるべく駆け出した。誰一人、その間言葉を発することは無かった。
「信じて…か、ごめん花丸ちゃん。約束、守れないよ…」
みんなが去ったのを察して、遥は自虐的にそう笑う。今の遥は、先程切ってしまったのか額から血を流し。瓦礫に片足を挟まれ身動きが取れないのだ。目の前には、花丸を突き飛ばした際に落としたのか光の灯らないエスプレンダーが転がっていた。
遥の表情には、諦めの感情が現れていた。
そして遥の意識は、闇へと沈んでいったー
そんな時、ガクゾムの背後に盛大に土砂を巻き上げて巨人が着地した。
その巨人は、立ち上がりゆっくりとガクゾムへと振り返る。すると土煙が晴れ、その全貌が明らかになる。
青い身体に銀のライン、胸元の金に縁どられた黒いプロテクター。額に煌めくブライトスポットに切れ長の目、その巨人に見覚えのないものなど居ない。
「アグル…ヒロ!」
現れたアグルを見て果南がそう声を上げる。あのアグルは間違いなく博樹だという確信が彼女にはあった。再び彼が光を手にしたのだと。
「グォォォオオオオ!」
現れたアグルに、ガクゾムは吠えると駆け出す。そしてそれに対抗してアグルも向かって行く、するとガクゾムが腕を振り上げる前に腹部に拳を叩き込み後退させる。
「デヤッ!」
だが負けじと反撃すべくガクゾムが腕を振り上げると、アグルはそれを左腕で受け止めすぐさま腹部に右拳を叩き込む。さらに左腕で相手の腕を振り落とすと、左拳の連打をガクゾムの腹に撃ち込む。
ガクゾムは腕を振り回しアグルを振り切ろうとするが、全て紙一重で躱。され腹部にさらに拳の連打を食らい、思わず大きく仰け反ったところに飛び上がって回し蹴りを食らう。
だがその事でアグルとガクゾムの間合いが開いた。そのことによってガクゾムは尻尾を振りぬきアグルを吹き飛ばそうとするが、今度は飛び上がると回転して尻尾の僅か上を回転しつつその勢いのまま側頭部に蹴りを二発叩き込む。
さらに着地すると再び飛び上がって空中で二弾蹴りを放つ。アグルに一方的にやられていたガクゾムは、たまらず地に伏す。
「強い…」
「きっと大丈夫だよね」
そんなアグルの戦闘の様子を見つつ、どこか不安げにそう曜と千歌が呟く。彼女らの心配は、遥の事だった。アグルが勝利しても、遥の安全は確実ではないのだから。
「アグルは戻ってきたんだよ?ガイアだってきっと…」
そんな声を聞いて、ルビィがそう呟く。そんなルビィの声に、花丸は無言で頷く。
「そうね、遥は絶対生きてる。大丈夫よ」
そう梨子も呟くが、やはりその表情は少し不安げだった。
立ち上がったガクゾムは、両腕から光弾をアグル目掛けて放った。だがアグルは一瞬で空高く飛翔するとそのまま急降下してガクゾムを踏みつける。
勢いの乗った一撃をまともに受けたガクゾムは、土煙を巻き上げ地響きを起こしながら崩れ落ちる。そんなガクゾムに背を向けて着地したアグルは、すぐさま立ち上がるとフォトンスクリューの発射態勢に入る。
「フンッ!ウオォォオオオ……」
だがそこで、空からバイアクヘーが4匹アグル目掛けて急降下してきた!アグルの首や右腕腹部、右脚に翼を全身をさす又状に変化させ、尻尾を巻き付けてアグルの身の自由を奪う。
「グァアアア!」
さらに全身から電撃を放ち、アグルに追い打ちをかけるとその隙にガクゾムが腕から光弾を放ちアグルを吹き飛ばす。
「ヒロ!」
「このままじゃ…」
先程までの優勢が嘘のように圧され始めるアグルを見て、鞠莉とダイヤは悔しそうに呟く。
なんとか立ち上がったアグルも、絡みついたバイアクヘ―のせいで思うように動けず自由な左腕で殴りかかるも逆に腹を蹴られ地を転がる。
ガクゾムがアグルをいたぶるのを、人々は見ていることしかできなかった。
ウルトラマンと言えど、絶対的な地球の救世主ではないことは解っていた。それでも、現状ほぼ唯一ガクゾムやバイアクヘーに対抗できる存在であるはずのアグルが苦戦していることが、希望を持ち始めていた人々を再び絶望へと落とそうとしていた。
「ヒロ…頑張って」
果南はそう祈る事しかできなかった。しかしその視線の先では、膝を付いたアグルに無数の光弾が襲い掛かり、遂にライフゲージが明滅を始めていた。
―遥くん
「…ん……」
花丸の声が、遥の脳裏に響く。そこで遥は意識を取り戻した。すると目の前には、優しい緑色の光が見える。
『起きて。貴方は、ここで死ぬべきじゃない…』
「君は…?」
光の中から、少女の声が聞こえた。そしてその少女の姿が見えた時、遥は思わず息を呑んだ。
「シルビア…?生きていたのか?」
目の前にいた少女は、かつてガイアやアグルと戦い、その結果消滅したと思っていた少女の姿だったのだ。だが、シルビアは優しくほほ笑むも首を横に振る。
『少し違う、今の私は思念だけの存在。貴方にもう一度光を与えるために、リナールに力を借りた』
「リナール…?」
聞きなれない言葉を反芻する遥に、目の前の少女は頷く。
『海底からずっと貴方達人間に、コンタクトを取ろうとしていた生命体の事』
「じゃあ最近ずっと送られ続けていた知的生命体からだって言われてた通信の正体って…」
『そう、貴方達に助けを求めていたの。あの怪獣、ガクゾムによって力を奪われ続けていたの』
遥に、そう真実を告げる。地球の怪獣たちが活発化したのも、ガクゾムの脅威を知らせるためだったのだと。
『今この星を救うには、ウルトラマンの力が必要なの。だから貴方に、もう一度力を…』
そう言ってシルビアがエスプレンダーへと手を翳す。すると緑色の光の粒子がエスプレンダーへと注がれていく。更によく見ると、シルビアの手からだけでなく小さい生物も一緒になって光を注いでいるのが見える。
「君達が…そっか、君達もこの星に生きる命なんだね」
そう遥は本来の姿のリナールの命へとそう告げると、代わりにシルビアが答える。
『そう、この子たちも人間と同様に文明を持った生命…でも戦う力は持っていないの。でも、光をもう一度力を与える事は出来る。後は、貴方達に任せるわ』
エスプレンダーに光が戻るのを確認すると、シルビアは光の粒子となって消えていく。恐らく、リナールを海底へと送り届けて、彼女は今度こそ役目を終えるのだろう。
「ありがとう」
そう告げる遥に、シルビアは頷くとその場には遥だけになる。遥はエスプレンダーへと手を伸ばすと、そのグリップを掴む。
「僕は守りたいんだ。みんなを…この星を!」
その決意と共に、エスプレンダーを突き出すと、その中に再び宿った地球の光を解き放つ!
「ガイアーッ!」
ガクゾムとアグルの間に、深紅の光が立ち昇った。
「あの光…」
「良かった…」
その光を見て、善子と梨子は安堵の声を上げる。もうその光が何なのか解り切っていたのだ。
「デャア!」
その光の中から巨人が現れると、そのまま突き上げていた腕で裏拳を放ちガクゾムをなぎ倒した。
銀の身体に赤いライン、アグル同様金色に縁どられた黒いプロテクター。ウルトラマンガイアV2だった。
「ガイアも復活した!」
「遥くん!」
ガイアの出現によって、ずっと暗かった花丸の表情にも笑顔が戻ってきた。ガイアはアグルへとガイアスラッシュを放つと、アグルに当たる前にスパークし、バイアクヘーを吹き飛ばした。
「ジュワッ!」
ガイアとアグルは互いに頷き合うと、まだダメージによってすぐ立ち上がれないアグルに変わってガイアは振り返るとガクゾムへとファイティングポーズをとる。
ガイアは、ガクゾムへと駆け出すと顔面に回し蹴りを食らわせる。更にガクゾムが反撃に腕を振り下ろすと、それも回避してがら空きになった腹部へ膝蹴りを食らわせる。
ガクゾムが腹部を抑えて一瞬蹲った隙に、背後に回り込むと尻尾を掴んで投げ飛ばし、さらに起き上がったところを頭を掴んでもう一度投げる。
そしてなぎ倒したガクゾムへと駆け出すガイアの背後から、バイアクヘーが取り付かんと飛来する。
「ハアッ!」
だがそれはアグルの放ったアグルスラッシュによって撃ち落とされる。その際の爆発音に思わずガイアは振り返るが、何とか状態を起こして技を放って援護してくれたアグルと目が合う。
2人は頷き合うと、ガイアは再びガクゾムへと構えた。
「ギャオオオオオオオ!」
このままでは不利なのを悟ったのか、ガクゾムは立ち上がると空に向かって吠える。すると空から無数のバイアクヘーがガクゾム目掛けて飛び込んで来る。
ガクゾムは両腕を広げて降ってくるバイアクヘーを全て体内へと吸収すると、その姿をより戦闘に特化したものへと変化させる。
両腕は黄金の鎌へと変化し、胸にも金色の突起のようなものが生まれ背中のヒレが展開しより禍々しい姿へと変わった。
「グオオオオオ!」
「デュワッ!」
コッヴのものより大型な両腕の鎌を振って威嚇するガクゾムに、ガイアも構えるが鎌で引き裂かれてしまってはいくらガイアでも致命傷となりうる。
鎌の攻撃を警戒しつつ、ガイアはガクゾムへと肉迫するも、左右の鎌を躱すのに精いっぱいで中々攻撃に転じることが出来ない。さらにここは街中、まだ逃げている人もいるであろう現在であまり派手に光線技を多用するわけにもいかずガイアは攻めあぐねていた。
だが、大振りの一閃をバク転で回避するとそのままガクゾムの腹にドロップキックを叩き込む。だが先程までより防御力も向上しているのか、数歩後退させるのが精一杯といった様子だった。
そして遂に、ガクゾムの両腕の鎌がガイアの身体を捉える。だがガイアの身体も頑丈にできているのですぐに切断されるといった事態は避けられた。
だがガイアはその攻撃によって体勢を崩されると腹部へと蹴りを受けてその身体は地を転がる。
だが追撃の鎌の振り下ろしは腕で受け止めると腹部を殴りつけ、今度はガクゾムをのけぞらせる。
だがガクゾムは両腕の鎌を振りぬくと、破壊光弾をガイア目掛けて放つ。ガイアにとっては初めて見る攻撃だったが、横に転がってこれを回避する。
「ハアァアッ!」
そして起き上がりざまにエネルギーを溜め、クァンタムストリームを放つ。そしてその一撃は、ガクゾムの腹部に吸い込まれるようにして直撃する。
しかしそれは、腹部に新たにできていた金色の突起のような器官に吸収されてしまう事を意味していた。暫く、クァンタムストリームとおなじオレンジがかった色で光っていたそれは紫色の光に変わる。
そしてガクゾムの腹部から紫色の光線として、ガイア目掛けて撃ち返される。そして想定外の反撃に反応できなかったガイアの胸にその光線が直撃し、ガイアの身体は大きく宙を舞う。
そして背中から勢いよくビルへと落下したガイアに、ガクゾムは勝ち誇るように腕を振り吠えるとガイアへと歩み寄っていく。
だがガイアも何とか起き上がると、ふらつきながらも立ち向かっていく。
そんなガイアへと、ガクゾムは両腕の鎌を振り下ろす。その一撃は、ガイアの両肩へと直撃し肩のプロテクターが火花を散らしながらもなんとか受け止める。
すると鎌を寝せて、ガイアの首を両の鎌で切り落とそうとする。ガイアも負けじと腕を掴んで耐えるが、バイアクヘーを吸収した事で強化されたガクゾムの筋力によってじりじりと追い詰められていく。
「このままじゃ…」
そう梨子が呟く視線の先で、ガイアは窮地に立たされていた。
「デェイッ!」
だがそこでアグルがガイアを救うべく、ガクゾムへと飛び掛かると顔面にひじ打ちを食らわせる。するとガクゾムはガイアを放り投げると、アグルを鎌の腹で殴り飛ばす。
その一撃に、疲弊していたアグルがよろけるとアグルへと向かって行き鎌でアグルを切りつけようとするもアグルも何とか防ぎ腹へと拳を撃ち込む。
しかしもうガクゾムはその程度ではビクともせず、2人にウルトラマンを鎌で切り付けていく。
ガイアがアグルをフォローしようと飛び掛かれば、ガイアのわき腹を薙ぐように切り付け。今度はアグルが立ち向かえばアグルの胸を切りつける。
そのダメージによって2人のウルトラマンの身体からは光の粒子が漏れでていて、なぎ倒された勢いでそのまま地面に倒れこんでしまう。
そして肩で息をする2人のウルトラマン目掛けて、ガクゾムは両腕から破壊光弾を連射していく。その爆風に包まれダメージを負うウルトラマン達だったが、ガイアのライフゲージも遂に明滅を始める。
「立つのです…立ってください…」
「ヒロ、遥…頑張って」
ガクゾムの攻撃によってうめき声をあげる2人を見て、ダイヤと鞠莉はそう呟く事しかできなかった。しかし他の皆も同じ思いだった。出来る事なら、2人の為に何かしてやりたい。しかし自分達には、今現在2人を救う方法など持っていない。
その事実が、余計に心に影を落とす。自分達はただ、2人の勝利を祈る事しかできないのだ。
そして連射された光弾のダメージで、もはや立ち上がる事も出来ないウルトラマンへとトドメを刺すべく。ガクゾムは勝ち誇るように腕の鎌を振って2人へと近寄っていく。
だがそんな2人のウルトラマンを救うべく。空からファイターチームが現れた。ファイターの集中砲火を浴びガクゾムはその場に釘付けになる。
この星を護る為に戦うのは、ガイアとアグルだけではないのだ。そして奮戦するファイターたちの援護を受けるが、ガイアとアグルはまだダメージによって立ち上がることが出来ないでいた。
「ぐぁ…」
「ぐう…」
だが何とか立ち上がろうとする2人に、少女たちは必死に声援を送る。
「がんばって!」
その声を受け、ガクゾムを睨みつけるとさらに全身に力を込める。
―ヒロ!
―遥くん!
自分に想いを寄せてくれている少女が、自分を呼ぶ声が聞こえた。その時、周囲は一層強い光に包まれる。
何度でも、奇跡は起こる。
次回、物語は輝きの先へ
最終話「虹を越えた先」