春香ちゃん先生って……最高だよな。


本作はほぼ台詞の小説ですので、閲覧の際はその点も踏まえてご覧ください。

キャラ
芦田:関西弁のスタイル重視。
石沢:一途な元吹奏楽部員。
上島:「草」多用系。
榎田:今回の語り手。

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春香ちゃん先生!?

一月第二月曜日、都内某所。飲み屋にて。

「あ、来た来た、お疲れー」

「おっせーぞ、もう一杯飲んじまったよ」

高校の同級生との飲み会。成人式、二次会。戸を開けた途端、汗と酒の湿気、そしてその場を包む騒音が一気に襲い掛かる。その中をかき分けて案内されるまま奥へ進む。個室の暖簾をくぐると、オレンジの照明がテーブルにある酒の肴たちを照らしていた。

「とりあえず、はい」

来るや否や、コートを脱ぐ間もなく中ジョッキを手渡される。

「じゃあ、成人祝いってことで」

「「「「かんぱーい!!」」」」

成人式の帰りの日。ビールを喉に通す。喉の奥から快感の音があふれ出して、体中にその冷たさが染み渡る。ジョッキを置いてコートを脱ぐ。

「で? 今何の話題だったんだ?」

「高校時代の先生で誰推しだったかって話」

「結構きついの一発目から行ってるんだな……」

顔を真っ赤にした芦田がにやにやしながら話題を言うと、そのまま通路を通った店員に声をかけ、生ビールをもう一本注文した。

「うちの高校はやっぱ粒ぞろいだったと思うんだよなぁ……」

「分かるよ。確かに美人ぞろいだったけど、ただ、それを踏まえても推しは千早先生一択なんだよ。……音楽の授業を取らなかったことが悔やまれる」

「石沢……お前何度目だそれ。っていうか、音楽の授業での千早ちゃんマジで怖いからな?」

「なんだよ芦田、びびって美希ちゃん推しとか言ってるわけ?」

「なわけねえだろ! 美希ちゃん先生の国語の授業最高だっただろ!?」

「先生本人が五十分のうち十分も睡眠するとかいうあの授業か」

「普通に授業崩壊だよねそれ」

ビールが超速でやってきて、さっと扉を開け、流れるように空のジョッキと交換していく。照明の光がジョッキに跳ね返ってきらきらと輝いた。

「その点俺の推しの伊織たん先生は、自らでツンデレの美学を証明する最高の美術の先生だった」

「上島の謎理論マジで意味分かんねえ」

「確かにいおりん先生もよかったよ? 美術の授業普通に面白かったし。だけど、千早先生のあの優しさに満ちた笑顔の前には誰も勝てないよ。うちの部の指揮振ってくれた時は、注目のサインでなくてもガン見してた。ついでに言うと、その時のドレスが僕の好みにドストライクで最高で最高だった」

「連合音楽会の吹部演奏の時のあれよな? 分かるんやが……千早先生には胸がねえんだわ、そこがもったいない」

「気にしてらっしゃる千早先生も可愛いだろぶち〇すぞ」

「石沢キレるとキャラ崩壊するのほんと草」

コートを脱いで戻った時には既にヒートアップしていたテーブルからまた少し離れ、芦田、石沢、上島と好き放題言いまくる同級生を横目に、静かに酒の肴を楽しんでいた。……いや、確かにうちの学校はかなり美人ぞろいだったと思うけど……。

「で? 榎田はどうなのよ」

「そうそう、俺らはお前が来るまでに結構出してる訳」

「そうだよ、僕らがこんなに恥晒してるんだから、榎田も出してくれないと」

ついに番が回ってきた。ジョッキに入ったビールを一気飲みする。

 

「俺は……」

「なんや、出し渋るんかこの状況で」

「さすがにそれはないだろ」

「榎田むっつりだからなー……ありえそう」

「誰がむっつりだ! ……ごほん、至極当然だが、春香ちゃん先生だな」

 

「うっわ出よった」

「確か保健室の先生だったよね?」

「そうそう、看病上手な先生で有名な」

「でもどうして? 千早先生の方が最高でしょ?」

「は? 春香ちゃん先生こそ至高だろ、どう考えても一番は春香ちゃん先生JK」

「お前もしかして当時保健室行くの多かったのってもしかして……」

「いやそれはない。あれは体調崩しやすかったのと数学の授業が嫌すぎただけ」

「うわぁ……美希ちゃん先生みたいな合法ずる休みじゃないやん、違法やん……」

「数学って……確か榎田は三年間ずっと律子先生だったよね?」

「申し訳ないが草」

「春香ちゃん先生はな……なんといってもあの笑顔が最高で最高なんだ……」

「いやそれみんなそうじゃん」

「笑顔最高だよね、千早先生」

「お前は一旦千早先生から離れろや」

「今まで腹痛、頭痛、熱、擦り傷、切り傷、だるさによる体調不良と、色々保健室にはお世話になったが、春香ちゃん先生が一番上手なのは傷の手当で、膝の擦り傷の手当をしてもらった時のあの笑顔が今でも忘れられない」

「榎田いろんな理由で保健室行き過ぎで草」

「……榎田、ひざの傷の手当してもらってるっちゅーのに、笑顔ガン見とかお前ほんまに男か?」

「芦田ならどこ見るのさ」

「胸」

「〇ね」

「いったぁぁ……お前ぐーでいったな、ぐーで……」

「胸の話題出ると必ず石沢キレるの、千早先生そっくりになってきてて草」

「まぁ、千早先生もいいよな、はるちはわっほい」

「それはごめんさすがに同意せざるを得ないよ」

「さっきまでマジギレの顔してたのに、急に笑顔になるやんお前……怖いわ……」

「ただそれを差し置いても一番は春香ちゃん先生。人工呼吸の実技指導の時、どんだけ俺があの人形と代わりたかったか」

「人工呼吸の実演用のあれやんな? ……美希ちゃん先生ならワンチャン同じこと思ってたわ」

「芦田あの時女子困らせて春香先生にがっつり怒られてたよね」

「もしかして芦田が春香ちゃん先生苦手なのって……」

「いやいやいや、別に苦手とかやないって!」

「は? 春香ちゃん先生苦手とかマジでお前人見る目無さすぎでしょ」

「榎田必死で草」

「確かに美希先生ほど胸はないしウインクとかもしないし、千早先生みたいに歌が綺麗とか部活の指導が熱心とかはない。いおりん先生みたいな可愛くて可憐なお嬢様な感じもない。だけどな、春香ちゃん先生はその遭遇レア度もあって、笑顔見られた日はなんか一日幸せになれそうな気がするのが最高なんだ」

「お前にとって春香ちゃん先生は占い師かなんかかいな」

「占いと言えばあずさ先生もすごかったよなぁ、胸が――っていったぁ!」

「予見できたから、つい」

「予見で殴ってええもんちゃうで……」

「いや、でもこれはマジで、春香ちゃん先生を生で見られた日は小テストの点がよかったりするんだって」

「それはお前がハッスルしたからやん」

「家でも自家発電ハッスルとか草」

「上島、別に芦田そこまで言ってないよね?」

「と、とにかく、春香ちゃん先生は可愛くて最高な訳。スタイルもいいし」

「結局スタイルとか草」

「榎田やっぱり敵だね」

「まぁそれは認めるわ。春香ちゃん先生は可愛いし、美希ちゃん先生ほどやないけどスタイルもいい。ついでにあの年でリボンがあんなに似合うのもそうそうおらん」

「なんで芦田何でも知ってるみたいな顔してるんだ……」

「そりゃ色々知ってるからやろ、学校外の春香ちゃん先生」

「でも保健室の先生だし、プライベート聞くようなタイミング少ないと思うんだけど。榎田じゃなければ」

「あれ、お前ら見せてもらってないん?」

「何を?」

「美希ちゃん先生が授業で、先生同士の飲み会に行ったときの春香ちゃん先生の写真見せてたのよ」

「ああ、あれか、美希先生に卒業式の日、画像でもらったわ」

「榎田ちゃんと持ってるの草」

「上島の草率上がってきてるの草―」

「石沢が草とか言いよると、マジで区別付かんくなるからやめて……」

「で、どんなのなのさ」

「これ」

「……うっわぁ、すげぇ大胆」

「この時の胸すっごいやん?」

「〇ね」

「おっと、もうその手には乗らへんで!」

「暴れんな……いやまぁ確かにこういう春香ちゃん先生も好きだけど、俺は保健室で白衣の似合う春香ちゃん先生が好きなの……」

「清純派の榎田がジョッキ片手に悶えてるのマジで草」

「っていうか美希先生の授業受けてた芦田は分かるけど、なんで授業受けてないし接点もない榎田が持ってるのさ?」

「卒業式の日に土下座で頼んだ」

「こいつ春香ちゃん先生のことならなんでもしよるな……」

「恥なさすぎで草」

「まぁ春香ちゃん先生とは卒業してから二か月ぐらいして、プライベートでデートしてもらったがな」

「は? ふざけんな」

「〇ねズル〇す」

「暴言のオンパレードやめろよ」

「推しの先生と卒業後にデート……? マジでズルやん」

「僕だって千早先生と水着選びに行きたかったよ……」

「草。お前はどんなデート想像してんだ」

「まぁ、言っても一緒にご飯食べただけだけどな」

「なんだよびびらせないでよ」

「てっきりそのまま別の卒業までしたかと思ったやん……」

「は、はぁ!? さ、さ、さすがにそれはないだろ!?」

「榎田動揺し過ぎで草」

「さすがにそこまでしたら千早先生とか黙ってないと思うよ」

「いや黙ってないのは律子先生ちゃうか? うちの先生に手を出すなんて……出すなら私にしなさいよ! 的な」

「芦田の脳内りっちゃん先生デレデレ過ぎでは?」

「そう、春香ちゃん先生は他の先生方とも親睦が深いのも、またすこなポイントなんだ……」

「すことか言い始めよったぞこいつ」

「すっかりオタク語録も使いこなすようになったよね、榎田」

「春香ちゃん先生の、特に千早先生と話す時のあの絶妙な距離感、めっちゃすこだ……尊い」

「はるちはは尊い。これは間違いない」

「さすがにそれは当然やろ」

「芦田もしっかり沼に浸かってて草」

「千早先生のことを、わざわざ千早ちゃんって呼ぶ春香ちゃん先生尊すぎる……同期の他の先生はたいてい下の名前プラス『先生』なのにな……」

「そういやそうやな。なんでなんやろ」

「俺一推しの伊織たん先生のことも、いおりんとか呼ばずに伊織先生、ってちゃんと呼んでるよな、尊い」

「上島、いおりん先生推しのキャラ薄れかかってたよ」

「マジ?」

「んなこたぁどうでもええわ。今は春香ちゃん先生の話よ」

「それに、あの寝顔もめっちゃ笑顔で最高だったんだ……ああ、尊い部分しかない、尊い尊い……」

「は? 寝顔?」

「なにそれ〇す案件?」

「ダイナミック暴露飛んできて草」

「ふんふん、それで?」

「え、お前ら知らないの? 入学後の全体オリエンテーション中に教員席で転寝してる春香ちゃん先生が、学校のカメラマンの人が撮った写真の中にばっちり写ってた話」

「草」

「可愛すぎやん……」

「千早先生のはないの?」

「お前は一旦千早先生から離れなはれや」

「卒アル候補の写真選びのアンケートあったじゃん? 当時のクラスメイトに、あれに投票してくれって男子全員に頭下げに行った記憶ある」

「えっ」

「こいつマジで恥もなんもないな」

「さすがの僕でも千早先生にそこまではできないよ」

「石沢も引き始めてて草」

「しかもだ、その写真を含めて、一年から三年の写真が全部まとめて買える時あったじゃん? あの写真含む春香ちゃん先生写ってる写真全部買ったよ、五枚ずつ」

「えぐすぎるわ、怖なってきたわ」

「そ、そっかぁ……そんな風に思ってたんだぁ」

「あは、あはは……すごいね、榎田……」

「さすがの俺も、それは草生やせないレベルだわ」

「個人的には修学旅行の時の私服の写真がすこだ……赤いリボンがここまで似合う先生絶対他にいないし、転びやすい春香ちゃん先生でも膝の傷が見えづらいロングスカートとかマジでチョイスぴったりだし、春先の修学旅行なだけあって春色のブラウスとかもう最高すぎて――」

 

ぴしゃっ。本当にそんな音がしたような気がした。頭がすっとさえわたって、ぼやけかかっていた視界がクリアになる。オレンジ色の明かりがあちこちあったさっきまでとは違い、もう薄暗くなり始めた店内の中、妙に寒気のする背筋。あれ、何故俺の話にこたえる人が、「四人」なんだ?

 

「え、榎田?」

「あの……盛り上がってるとこ悪いんやけどさ」

「この状況は草」

「え?」

 

そう、扉は開いていて、そこには。

 

「転びやすい私が、なんですか?」

 

「ひっ……いつから……」

「えっとね、寝顔の話から、かな」

「私生徒にそんな風に思われてたんだぁ……びっくりしちゃったなぁ……」

「えっと、あの、は、春香先生……?」

「あれぇ、おかしいなぁ……春香『ちゃん』先生じゃなかったかなぁ……?」

「は、春香ちゃん先生……その、これは……」

「寝顔の写真……いっぱい選ばれてたのは……榎田君のおかげだったんだねー……へぇ……」

「そ、その……」

「草」

「草は黙っとれ」

 

そこにいたのは、顔を真っ赤にした、フォーマルにまとまった大人びた服の、春香ちゃん先生だった。

 

「う……」

「う……?」

「うぅぅぅぅぅ、千早ちゃあああああん……私、私ぃぃぃぃ」

「ふぇっ!?」

 

扉が急に全開になる。そこには、私立聖765学園高等部の美人教師、十三人が勢ぞろいしていた。

 

「あらあらー……? こっちであってたのかしら?」

「あってますよ、あずささん。……石沢君? 私について色々話してくれてありがとう。そして謎の鉄拳制裁も」

「えっ!? えっと……何故それを……」

「隣の部屋で打ち上げしてたのよ。だってここ、水瀬の系列店だし」

「い、伊織たん先生!?」

「上島その名前で呼ぶのやめなさいって言ったわよね!? 言ったわよね!?」

「うっうー! なんだか騒がしいけど何かあったの?」

「やよいおりわっほい」

「何がやよいおりじゃあ!」

「ふべっ」

「伊織ちゃん! さっき店員さんがだし巻き卵持ってきてくれたよ!」

「そ、そう?じゃあ私たちは――」

「伊織―! ミミガーも来たぞ! 本場から仕入れてるなんてさすがさー!」

「ああもう響は会話に割り込まないの! ……じゃあ、私たちは先戻るから」

「さて……わしもそろそろ帰るか……鬼が居ぬ間に……」

「誰が鬼ですって?」

「り、りっちゃん……」

「誰がりっちゃんよ! ……芦田にとって、私は随分都合のいいキャラになってたみたいねぇ……嫌な数学教師、デレ担当、最後には、鬼……」

「ご、ごめんて、謝るから、謝るから!」

「あはっ、謝って済むなら警察はいらないの!」

「み、美希ちゃん先生……」

「美希の授業のあくひょー? を流してた芦田君には、オシオキが必要なの!」

「奇遇ね、美希。私もそう思ってたところよ」

「ひっ……」

「私たちと、みっちり、お酒飲みましょう? 夜は長いしね」

「亜美もー! 今日はイタズラする側に回って良いんだよね?」

「いいわよ? ただし、物を壊さなければ、ね」

「ラジャー!」

「うわぁぁぁぁぁ…………」

「うぅ……私、一度も話題に上がらなかったなぁ……」

「こんなところで話題に挙がらないことで嘆くことないんじゃない?」

「ま、真ちゃぁん……」

「ゆきまこわっほい」

「お前は何でもカップリングするなぁー!」

「ふべっ!(戻ったんじゃねえのかよ)」

「追加のらぁめんはまだでございますか……? もう十五分も待っております……」

「おひめちーん……頼んだの一分前だよー?」

「はて、そうでございましたか」

「真美の分、食べる?」

 

たかだが五人程度用の部屋に、十七人がぎっしり。どんがら……いや、どんちゃん騒ぎ状態が続く中、数人が隣の大部屋へ戻っていき……

 

「うう……」

「は、春香ちゃん先生……」

「榎田君、だったわよね?」

「は、はいっ」

「春香は……決して落ち込んでる訳じゃないの。ただちょっと……びっくりしてるだけ」

「そ、そうですか……」

いや涙目で赤い顔でうつぶせで「うう……」ってもう完全に泣いてますよね……?

「まぁ色々物申したいところはあったけれど……それでも、私たちのこと、よく見てくれてるんだ、って、それは素直に嬉しかった」

「ち、千早先生……」

「でも寝顔を卒アルに載せようっていうその魂胆は許せないわ」

「えっ」

「私にも一枚くれない?」

「えっ!?」

 

騒がしい聖765学園高等部、教師との二次会はそのまま店の閉店と共に幕を閉じ、そして三次会のカラオケへと足を進めた。

 

千早先生もありだな、って思った。

 

「あんたは歌で簡単に鞍替えしない!」

「ふべっ!」

 




これを機に、アイマス×教師の概念が広まりますように……。

そして、もっとみんな春香ちゃん先生をすこってください。
イラストも是非(?)。


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