余剰の力が示すもの    作:四季乃

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少し間が空いてしまいました。すみません。

さて、ここからの数話は作者が書きたかったシーンだけに、筆が乗りまくりました。本来は、このお話と次回のお話は、1話の予定だったのですが、6000字を超えたので、泣く泣く2話に分けました。

そのはずなのに、なぜか、このお話・・・5000字近くあります。ちょっと少なくなったし、書きたそう!のはずが。ごめんなさい。ほんの出来心だったんです。

長くなりましたが、その分、私は楽しかったので、皆さんにも、その共有ができればと。


5話 葛藤

side:翼

 

今の私に足りないものは何だ?

 

答えは明白。

黒いノイズを消し去る力。誰かに頼らず、1人で敵を駆逐することのできる力だ。

 

彼女達にあって、私にないものは何だ?

 

それも明白。やはり、力だ。

 

連携?仲間?そんなものは、二の次だ。今の私に、一番必要なものは、

 

何者にも劣らぬ、護國のための、無類の強さだ。

 

 

あちらこちらで建物が倒壊する音や、切れた電線からスパークして発生したであろう火が、周りのものを燃やしていく匂いが充満している。五感にもたらされるそれらの情報は同時に、ノイズ達が闊歩する音や、ノイズによって炭素化されたものが発生させる独特の匂いも伝えてくる。

 

着慣れている2課の制服ではなく、お爺様から支給された防御スーツに身を包みながら、眼下の光景を眺める。

 

この状況を1人で作り出したのだと思うと、少しだけ恐怖を感じるが、今はそれ以上に、

 

【黒いノイズを1人で倒すことができる】という、この現状に胸が高まっていた。

 

今までは、誰かの力を借りなければ、こいつらを倒すことはおろか、相対することさえ不可能だった。

 

誰かを私の目的のために危険に晒すわけにはいかない。そういえば聞こえはいいかもしれない。だが、今ならもっと素直に自分の気持ちを表現できる。

 

「私にだってできる。1人でノイズを倒し、奏の敵をうつという目的を果たす」

 

言葉に魂と決意を含めるために、声に出す。もうここまで来てしまったのだ。

後戻りは、できない。

 

私は、起動させたばかりで、まだあの刀ほど手に馴染んではいないその「杖」をもう一度握り締めた。

 

 

「来たか」

 

眼下で私を睨み付けている、イチイバルの奏者を見ながら、私は期待と絶望が一気に押し寄せるのを感じていた。

 

カルマノイズが発生すれば、必然的にシンフォギア奏者は現場に急行するだろう。それが2課との取り決めだ。

だが、「フォニックゲインを観測することができなかった」という報告を櫻井女史が司令(叔父上)に上げている以上、聖遺物であるこの杖を起動し、その力を公使している私の行動は、2課への反逆にも等しい。

 

そう。彼女達がこの現場に居合わせた瞬間、私は「特異災害対策機動部二課」という帰る場所を失った。

 

ーーーだが同時に、湧き上がる、この期待感はなんだ。私は、彼女達に、何を期待している。

 

ふとそんなことを考えている隙に、イチイバルの奏者、雪音クリスは私の死角に入って見えなくなった。はっと息を飲んだ瞬間、彼女は私の後頭部に銃を突きつけていた。

 

「聖遺物の起動はできないんじゃなかったのかよ」

 

あの時とは真逆だな。

そう心の中で思いながら、奏者の問いに答える。

 

「そうだな。あの段階ではできなかったのだろう」

 

「・・・あの段階だと?」

 

「ああ。観測者が変われば、貴様らが言うその【フォニックゲイン】とやらも測定でき、聖遺物の起動実験も晴れて成功したというわけだ」

 

しかし、もう私に戻る場所はない。なら、彼女にどんな言葉を投げようと、どう思われようと、知ったことではない。

 

「まさか、フィーネかっ!?」

 

「ほぉ、驚いたな。並行世界でも、彼女の存在は明かされているのか」

 

予想外の名前が出てきたことに少しだけ驚いたが、動揺を見せることはない。そんな訓練は、幼少期に嫌というほど受けている。

 

「その通り。これは終わりの巫女たる、フィーネよりもたらされたもの。私はこの力で、カルマノイズを殲滅し、この国を救う」

 

「ふざけんな!!!そんなもんで、本当に世界が救えるとでも思ってんのか?」

 

突きつけられている銃が少しだけ上下に震えている。怒りの感情によるものか、それとも別の何かか。

 

「あぁ、思っているとも。我々の脅威は眼前のカルマノイズ。それを何としても倒す絶対の力が今、私の手にはある。であるならば、世界の敵を私が殺し、私がこの国を護るのだ!!!」

 

もう、会話は十分だろう。

 

彼女達がこの世界でカルマノイズを倒してくれていたのは、自分たちの仲間を助けるためだという。そのためには、このカルマノイズたちを殲滅する必要があるらしい。

 

ならば、その目的は間も無く達成される。私と、この「ソロモンの杖」によって。

 

私は突きつけられた銃を杖で振り向きざまになぎ払い、彼女との間合いを作る。そして、杖を起動させるために、胸に浮かぶ旋律を歌った。

 

かつては、奏が褒めてくれたこの歌声を、ノイズを使役するために使う。そのことに関して、迷いなど微塵もない。

全ては、私を防人たらしめるために。

 

歌によって増幅された力で、杖からノイズを発生させる。次々と産み出されるそれらは、「バビロニアの宝物庫」から転送されてきているらしいと、フィーネは語っていた。

 

「邪魔をしてくれるなよ、雪音クリス。日本に残る黒いノイズはあと2体。そいつを殺せば、貴様らの目的も果たせよう」

 

フィーネはこうも言った。黒いノイズの発生原因は、日本に限った話で言えば、霊脈の乱れであると。増えた人口と乱雑な土地開発により、古来から制御されてきた霊脈が乱れた結果が、黒いノイズの異常発生だと。

 

ならば、今の黒いノイズを全て倒したところで、いつかはまた発生するのではないか。そう問いかけると、

 

「問題ない。あのカルマノイズは、流れが悪くなった霊脈の膿のようなもの。そうだな、あと3体ほどで出し切るのではないか?あとは、また膿が溜まる前に、霊脈の整理をすればいいだけのこと」

 

そう、解決策はすでに出ている。私が今やるべきことも、もう分かりきっている。

 

私は、2課の戦闘員である以前に、どうしても「風鳴」翼なのだ。

 

あのノイズ達が彼女の足止めになるとは思っていない。ただ、彼女には、この「杖」について何か思うところがあるらしい。

 

彼女が少しの躊躇いを見せた瞬間に、ビルの屋上から飛び降りた。

 

けしかけた大量のノイズによって、今にも消されかけているカルマノイズを完全に消し去るために。

 

 

side:クリス

 

翼がノイズを発生させている瞬間を見ていない以上、少しだけ期待をしていた。

彼女はあの杖を握らされただけではないのか。あの杖は他の誰かによって起動され、ノイズを召喚したのではないかと。

 

最後まで、先輩を信じていたかった。

 

しかし、眼前で私の知っている先輩と同じ声で、同じ歌声を聞かされた後に、ノイズを差し向けられては、もう思考の逃げ場など残されてはいない。

 

その現実を受け止めるのにかかった僅かな時間で、先輩は屋上から飛び降りてしまった。

 

「くそっ!」

 

この世界にきた時に感じた杞憂は、全て現実になった。

欠けていない月、2課で笑うフィーネと同じ顔をした女技師、その二つを見たときから、何となくフィーネの存在を意識せざるを得なかった。私にとっては、「櫻井了子」という女性は「フィーネ」でしかない。

 

「フィーネ!また、お前は!!!」

 

私が争いを無くしたいと願った時、力でねじ伏せれば争いは無くなると、フィーネは言った。力こそが正義なのだと。そのための力をくれてやろうと。それが、あの「杖」だ。

 

私がかつて犯した過ちを、今度は先輩に押し付けるつもりなのかよ。・・・そうはさせねぇ。あれは、私だけの罪だ。

誰にも、背負わせはしない!!

 

けしかけられたノイズを消し去り、翼が飛び降りた方向へ向かう。

 

見れば、ビルの直下では、マリアと響が大量発生したノイズ達を掃討している真っ最中だった。巨大型のノイズが複数体、2人の行手を阻むように闊歩している。

 

このノイズの大量発生の原因を、2人も理解しているらしい。

 

攻撃の手を止めず、私の方へ視線を投げながら、無線づてに声が飛んでくる。

 

「行きなさい、クリス!翼を止めて!!」

 

「クリスちゃん、今度は私の代わりに、翼さんを止めてよ。残念ながら、私は行けそうにないからさ」

 

頷き一つでそれらに答えると、眼前に広がるノイズたちの後方で、今まさに杖をふりノイズを産み出している翼目掛けて疾走する。

 

前に、あのバカに言われたことがある。

 

「私たちは言葉が通じる。なら、話し合おうよ!私たちは戦っちゃいけないんだ!」

 

あいつは、どんな敵とだって、話し合うことを、手を繋ぐことを諦めなかった。

 

私が、言葉では通じ合えぬと、人は分かり合えぬと、一度は諦めたその道を、いつだって愚直に、ひたすらに、貫いてきた。

 

その結果が私であり、マリアや切歌や調であり、キャロルや錬金術師たちだ。

 

そんな奴に先輩を託されたんだ。私が、繋がないでどうする。

 

手を繋いでもらった私は、もう手の差し伸べ方を知っているはずなのだから。

 

 

私が翼の元に着く頃には、目の前の大量にいたノイズ達は一箇所へと集結し、今まさにカルマノイズを飲み込むところであった。後数秒で、体の全てが炭素へ変化されるだろう。

 

「止めるな、と言ったはずだぞ。とはいえ、カルマノイズは今倒し切ったがな」

 

振り返らずに、翼はカルマノイズと共に炭素の欠けらとなって散っていくノイズ達を見て呟いた。あれほどいたノイズ達は、カルマノイズへと集結し、共に黒い塊となって、風が吹けば飛んでいく存在に成り果てていた。

 

「さて、カルマノイズがいなくなったこの場所で、貴様は一体何をする?戦うべき相手はもうおるまい?」

 

晴々とした笑みを浮かべながら、翼はこちらを向く。その顔は皮肉にも、今まで見た中で一番いい顔をしていた。

 

そんな顔で私を見るんじゃねぇよ。

 

「私1人でも戦えるのだ。もはや貴様達の支援はいらぬし、2課と言う後ろ盾もいらんな」

 

そんな簡単に、仲間と帰る場所を捨てるんじゃねぇよ。

 

「ソロモンの杖こそ、至高の武器。これさえあれば、護国はなし得る!」

 

「・・・・至高の武器だぁ?ふざけんな!!そんな人を殺すためだけの武器が、人を、国を、守れる訳ねぇだろうが!!!」

 

「私には、もうこれしかないのだ。私は、風鳴(・・)としての使命を果たさなればならない!!!」

 

そう言い放った翼の目には、少しだが、涙が浮かんでいた。

 

「っち・・・そう言うことかよ。どこまでも胸糞悪い。あの糞爺が」

 

お家柄。なんて言葉は、私には分からない。両親の記憶なんておぼろげで、思い出そうとすれば、同時にあの「バルベルデ」の悲惨なシーンが再生されてしまう。

 

だが、先輩には家になんて頼らなくたって、助けてくれる仲間がいっぱいいるじゃねぇか。

私みたいに、奴隷に身を落とさなくたって、生きていける道がたくさんあるじゃねぇか。

 

諦めてんじゃねぇよ。生きるのを。

勝手に絶望してんじゃねぇよ。現状に。

 

真っ直ぐに先輩を睨み返し、ゆっくりと銃口を先輩へ向ける。

あぁ、あの時と真逆だなぁ、風鳴先輩。

 

「何を!?」

 

「決まってんだろ。首根っこ引きずってでも、連れ帰ってやる。あんたの本当の居場所にな!!!!」

 

 





さて、作中のセリフも少しずつ出せていると思います。見つけられましたか?
次回は、お待たせしました!翼先輩とクリスの激突、説得回となります。

クリスは、あの堅物先輩を説得できるのか。そして、黒幕へはどう対処するのか。ご期待いただければと思います。

感想、ご意見、お待ちしています。気が向いて、書いてやるかという方は、是非お願いします。優しい言葉だと、より作者の作成意欲が高まります笑

それではまた次回。お会いしましょう。
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