これは憧れが紡ぐ輝きの物語。
お楽しみください。
悪魔王 ルシファー、司る業は傲慢。
キラーズは必中の弓、フェイルノート。
ケイオスリオンの皇帝にして、魔を統べる王。
それが私を形作る全てだ。
心を許せる者などいない。いるのは忠実な部下だけ。
信頼などありはしない。あるのは信用と利用価値のみ。
並び立つ者など存在しない。
私と対等でいられるのは、私と同等の輝きを放つ者だけだ。
だが、明けの明星の輝きの前では皆等しく灯火同然。
故に孤独。
実力主義であるケイオスリオンのトップを務めるということは、そういうことだった。
「フェイルノート」
「……どうしたのかしら、お前様」
マスターという主を得て、今の私は一人のキル姫となっていた。
彼の要件など、すぐに察しがつく。
「また皆と揉めたそうだね」
「そうね。問題があるのかしら?」
「ある。このままじゃ君が孤立してしまう」
「…………」
孤立。
その言葉に沸々と苛立ちが湧いてくる。
「お前様は弱者に同調しろと言いたいのね。皇帝であったこの私に」
「仲良くしてほしいんだ」
「無理ね」
ルシファーをギアハックしたあの日から、皇帝という座を捨てた今でも変われずにいる。
「本物の輝きを持たない者は認められない。私の輝きに並ぶ者など存在しないわ」
私はずっと独りだった。
「歩みよれば、今よりも彼女達の輝きが見えるハズだ。そうすればきっと」
仲良くなれるよ、とマスターは戯言を述べた。
「…………ふん」
たまには、悪くないか……。
この隊の誰よりも戦果は挙げている。
戦闘は私一人いれば充分だが、使える駒を遊ばせておくのは勿体無い。
ーーー数で劣るなら質で勝負すればいい。私が分断した敵を各個撃破に持ち込むべきね。
ーーーお前の本領は狙撃にあるわ。援護に徹して、接近した敵を優先的に仕留めなさい。
皆に役目を与え、指揮を取り、完璧な勝利をおさめる。
力も、知略も、誰も私に敵わない。
昨日揉めたキル姫から、「ありがとう」と頭を下げられた。
「……別に。活かせるだけの力を持っているから、私がそれを使ってやっただけのこと。他意はないわ」
皆が私を認めた。
もう尊大な物言いを指摘する者はいなくなっていた。
誰も。誰一人として。
私は隊で尊敬の対象になっていた。
並び立つ者など、いない。
ーーー仲良くなれるよ。
「…………嘘つき」
依然、私は独りのままだった。
「最近、皆と仲良くできるきるみたいだね」
「私が力を示したのだから当然の結果ね」
持ち上げられているだけで仲良くはなっていない。
彼は少し嬉しそうだったので指摘はせず、適当に相槌をうっておいた。
「少し暇つぶしに付き合ってほしいんだけど」
「……お前様は私のことを何だと思ってるのかしら?」
「大切な……、仲間だと思っているよ」
嘘のつけない人だ。
「仲間」だと言うのに逡巡したことには目を瞑ることにした。
こういうことにはもう慣れている。
「チェスしない?」
「……ふぅん。お前様にしてはいいチョイスね。勝負ごとは嫌いじゃないわ」
ーーーーーー
ーーー
端的に言うと、彼の腕は普通だった。
私の相手は到底務まらないが、まぁ暇つぶしくらいにはなるかといった具合だ。
「もう一回!もう一回だけやろう!」
「……お前様は諦めるという言葉を知らないのかしら?」
もう三度目だ。
……だけどまぁ、久方ぶりの戯れに退屈なんてしている筈もなく、再戦の申し出を受けることにした。
彼の癖はもう大体分かっている。
暫くすると彼の手番で滞るようになった。
盤面は私の有利。
持ち駒は彼より少ないが、確実に王を追い詰めている。
「チェスの面白いところはわかるかしら?」
「ポーンでもクイーンやナイトに成れるところ、かな」
「お前様は見る目があるわね。その上で私の考えを聞かせてあげる」
駒を取られながらも、王の逃げ場を無くしていく。
チェスは本当によくできたゲームだ。
チェスが面白いのはーーー、
「どれだけ劣勢になろうと、他の駒を何枚犠牲にしようと……、王さえとってしまえば勝ちになるところよ」
もう彼の王の逃げる場所がなくなった。
「チェックメイト」
「あぁ!?」
「王は唯一無二よ。それは言い変えれば他の駒など代わりがきくということ」
クイーンですら、ポーンで成り上がれるのだ。
王だけが真の意味で孤独。
そこまで考えて、少しだけ胸が痛んだ。
「……お前様は、弱い駒を大事にし過ぎてるわね」
「そうかもしれない」
盤面に残された王。あれは私だ。
逃げ回ることしかできず、特別であるが故に理解されない。
「もう少し王に気を回すべきじゃないかしら」
どうしようもない寂しさに、目頭が熱くなった。
「………君は王じゃないよ」
「…………は?」
彼は突然意味の分からないことを言い出した。
「私以上に王に相応しい者がいると言いたいのかしら?」
そういうことが言いたいんじゃない、と彼は首を横に振る。
「君を孤独な王になんて絶対にさせない」
「今まで気づけなくてゴメン。もう君を独りにはさせない。寂しい思いはさせないから」
胸中を見透かされ、頭の中が茹だってしまう。
「的外れもいいところね。同情なんて要らないわ!」
「同情じゃない。僕は……」
「もういい、勝手に言ってなさい!」
部屋を出て乱雑に扉を閉める。
胸が苦しい。動悸が全く治まらない。こんなにも顔が熱い。
アレは正真正銘の莫迦だ。
土足で人の心に入り込んでくる無礼者。
私を王でないと言い切り、対等に接してくる彼こそ……、
ずっと私の求めていた理解者だった。
それから事あるごとに彼と行動を共にした。
ーーー今日は買い出しに付き合ってほしいんだ。
ーーー……私にそんな雑事をさせるつもり?随分と偉くなったものね。
ーーーまぁまぁ、そう言わないで。お菓子買ってあげるから。
ーーーお前様、私をお子様扱いするなんていい度胸ね。私への狼藉は寿命を著しく縮めるものと知りなさい。
悪びれもせず、無遠慮に私を連れ回して。
ーーー買い出しは終わったから、このまま街を見て回ろうか。
ーーー……お前様、最初からこうするつもりだったわね。
ーーーデートだって言ったら来てくれないと思ったから。
ーーーそうね。癪だけどお前様の判断は正しいわ。
私は仏頂面で終始仕方ないといった具合に彼と接していた。
ーーーあのぬいぐるみ可愛くない?
ーーーず、随分と幼女趣味なのね、お前様は……。
ーーー……何でチラチラぬいぐるみを見てるのかな?
ーーーチラ見なんてしてない!
彼の笑顔は絶えることがなくて。
ーーーお前様、これは……。
ーーー今日一日付き合ってくれたお礼だよ。受け取ってくれると嬉しいんだけど……。
ーーー……ぬいぐるみに罪はないわ。仕方ないから貰ってあげる。
陽だまりの中にいるような暖かさに感化されたのかもしれない。
ーーー今日は楽しめた?
ーーー別に。…………でも。
いつの間にか、私の口元は緩んでいた。
ーーーお前様となら、何をしても退屈はしないわね。
「フェイルノート、リベンジに来たよ」
彼はチェス盤を片手に私の部屋へ訪れた。
「お前様は本当に懲りないわね……。いつになったら私を追い詰めてくれるのかしら?」
「全然上達してないかな……?」
「誰もそこまでは言ってないわ。……そうね、私が相手をする程度には認めてるつもりよ」
「良かった」
実際に彼の腕はそこそこ上がっている。
前回と比べ、打つのに迷いが見られない。ただ……
「……王に気を回すべきだと言ったこと、覚えてないのかしら?」
「覚えてるよ。でも、これが僕だから」
やはり彼は、弱い駒を大事にし過ぎている。
リターンを考えれば犠牲にするべき駒を、彼は見捨てない。
「…………」
ーーーもう君を独りにはさせない。
「……以前相手をしたとき、私を独りにさせないと言ってたわね」
「同情じゃないなら、どうしてお前様は私の在り方に拘るの?」
彼の手が止まった。
「……気づいて欲しかったんだ。君は、君が思うほど特別なんかじゃないってことに」
「……え?」
「君がルシファーを零装支配していて、ケイオスリオンの皇帝だったとしても君は君だ。もう皆にとって、君は大切な仲間だよ」
「……そう」
本当に隊の皆がそう思ってくれているかなんて、正直分からない。
でも、信じてみたいと思えた。
ありのままの私を受け入れてくれる、目の前の彼を。
「だからお前様は私を特別扱いしないのね……」
「…………」
彼は気まずそうに目を逸らし、黙り込む。
…………イラっとした。
「ふぅん?私を特別じゃないと偉そうに語っておきながら、自分は特別扱いしてたと?お前様はそう言いたいのかしら?」
「お、怒らないで……。最初は手のかかる子が隊に入ったな、程度にして思ってなかったんだけど……」
「どうやら死にたいらしいわね」
「その、気がついたら、君のことを目で追うようになって……、それで……、」
「……は?」
この男は何を言い出してるのだろう。
「フェイルノート、君が好きだ。やっぱり他の子と同じ様には見れないよ」
「な……!」
頭の中が沸騰しているのかと思う程に、顔が熱くなった。
必死に平静を取り繕う。
「やっと私の魅力に気づいたということかしら?それなら仕方ないわね」
「それで、返事の方は……?」
「…………」
確かめたいと思った。
この気持ちを、私の在り方を。
「私に勝てたら、返事を聞かせてあげる」
私と対等でいられるのは、私と同等の輝きを放つ者だけだ。
彼の輝きは灯火程度に過ぎない。
この隊の中でもっとも弱々しい光、吹けば飛ぶ命。
だが、限りがあるからこそ美しい。
目を灼くような私の輝きとは全く違う。
懸命に己を燃やして輝く、見る者を惹きつけるソレは、まるで線香花火だ。
彼の輝きに目を奪われている自分がいた。
もう、とっくに認めていた。
「……私も、お前様のように変われるのかしら」
盤面は終盤に差し掛かる。
手を抜くつもりは毛頭ない。
私と彼が対等であればこそ、彼はハンデなど望まないと分かっているから。
付け焼き刃で勝てる程、勝負の世界は甘くない。
「チェックメイト」
だからこそ、これは当然の結末だった。
「……慣れない戦い方をするものではないわね」
完敗、だった。
取られた駒の数は圧倒的に少ないが、王を上手く掠めとられた。
「普段の打ち方じゃなかったね」
「……少しだけ憧れてしまったのよ。お前様の輝きに」
彼の様に、弱い駒を活かす打ち方で勝負に臨んだ。
戦い方を変えてはいるが決して手は抜いてない。
少しでも駒を取られないようにと立ち回っていたが、所詮は付け焼き刃。
「私には向いてなかったみたいね。お前様のようにはなれないわ」
「……フェイルノート」
「お前様は違うと言ったけれど、私は王よ。そして私のキングはお前様に奪われてしまったわ」
「王であることの孤独に苛まれたこともあったけど、お前様が傍に居てくれるなら……」
彼に右手を差し伸べる。彼は私の前にかしづき、私の手を取った。
「離れるつもりも、離すつもりもないよ」
「いいわ。お前様が望むのなら、私の傍で生涯仕えることを許してあげる」
彼の唇が差し伸べた手の甲へと落とされる。
忠誠を誓う口付け。
「……ふふ」
ーーー特別扱いも、こういうものなら悪くないわね。
悪魔王 ルシファー、司る業は傲慢。
キラーズは必中の弓、フェイルノート。
ケイオスリオンの皇帝にして、魔を統べる王。
・・・
それが私を形作る全てだった。
「今度はどこにいこうか」
「お前様は本当に勝手ね」
独りだった頃の私はもうどこにもいない。
「どこでも構わないわ。私の手を引いてくれるなら」
繋いだ手から伝わる温もりが、寂しさをさらっていく。
「お前様となら、何をしてても退屈しないわ」
気がつけば笑みを零していた。
「見せて貰いましょうか。お前様の輝きを」
お前様の傍で、この先もずっと。
Fin
フェイルノートの可愛さが伝われば幸いです。
最後まで読んで頂きありがとうございました。