男女混合超野球連盟ぱわふるプロ野球RTA   作:飴玉鉛

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今回は本作オリジナル要素ふんだんとあります(今更)

昨日四度寝してたら一日が終わってて愕然としたので初投稿です。


覚醒・逆襲のひじりん

 

 

 

 屋上へ行こうぜ……久し振りに……キレちまったRTA再開します。

 

 シャワー浴びました。あーさっぱりした(皮肉)

 いやね。元々そういうシーンが入るのは既定路線だったんですがね、それがこんなに早くクるとは思いませんでしたね。

 あーもう滅茶苦茶だよ。こっちの事情も考えてよ、こんなんじゃ動画になんないよ〜(棒読み) 

 

 ――え。()()()()()()()ってどこの事か、ですか?

 

 言わせんな恥ずかしい。

 いやホントお恥ずかしい限りですよ。このわたしともあろう者が、睡眠薬もなくコロリと逝かされるなんて……しかも相手はロリ。

 不可抗力だったとか言い訳にもなりませんよ? 紳士として言うなら、ロリと合体してしまった時点で、末代までの恥と言っても過言ではありません。

 ハジメテですよ……ここまでわたしをコケにしたロリータさん達は……絶対に赦さんぞロリータ共! じわじわと嬲り尽くしてくれる!(憤怒)

 ですがわたしがシてヤられても、ただでは起きないのがパワプロくんです。些細な事でもコツを掴むパワプロくんは、今回の件で弾道が上がりました(意味深) いやまあ選手能力的な弾道は上がりませんでしたが、コツを掴んでくれたようなんですよ。それも二つも。

 

 一つはお馴染の超特『変幻自在』です。特能『緩急』の上位互換の、過去シリーズだと金特とも言われるアレですね。

 わたしは超特という呼び方の方を気に入ってるのでそちらで通しますが、その超特『変幻自在』のコツをレベル5で手に入れましたよ。

 

 ……うん? と首を捻るかもしれませんが、聞き間違えではありませんのでご安心を。レベル5で、つまり最大効率のコツをゲットしたんです。

 言うまでもなくこれは聡里ちゃんがくれたコツですね。恐らく昼間の水分補給などの練習補佐、夜間の夜襲による流れが緩急ついてたので、それがコツ取得の流れになったのでしょう(意味不明) 言うほど緩急付いてなかったと思うとか言っちゃいけません。コツゲットのメカニズムは少し謎な部分がある、開発陣の一存になるので分析は横に置きましょう。

 そんな事よりなんで超特を最大効率でくれたんです? こんな情報わたし知らない! wikiにも載ってない! どういう事なの? 教えてエロい人!

 

 で、もう一つ手に入った超特が、わたしをますます困惑させてくれました。

 

 それは『同心術』という未知の超特です。下位特は無し。

 

 えー……恐らく。多分。これを齎してくれたのは礼里ちゃん、かな?

 仮にそうだったとしても、流れ的に手に入るとしたら『追い打ち』の上位超特『ハゲタカ』か、『連打』の上位超特『つるべ打ち』とかの方が適切だと思うんですが。ここにきて本作初出の超特ですかそうですか……。

 これは推察するに、聡里ちゃんに自分の意見へ同意させ、事に及んだ経緯を見てたパワプロくんがコツを掴んだのでしょうが……えぇ?(困惑) 効果は相手打者、相手投手の双方に、決め球や狙い球を絞らせる……? つまりこうですか。こっちがフォーク投げる! と念じたら相手も投手がフォーク投げてくると感じ、裏掻いてストレート投げれる、みたいな? ストレート待ってますと打席で待ち構えてると、相手はそれを感じて遅い球でタイミングをズラそうとして、それを狙い打てる……みたいな感じに使えるんでしょうか?

 

 えっ。強くね……? 『読心術』のように心を読むのではなく、偽の狙いや決め球を相手に悟らせるとか……しかも野手と投手の両方で発動する超特とか強すぎない……?

 しかもいつぞやの神社でゲットした『モテモテ』が変化してますよ。モテモテが『LOVEPOWER(ラブ・パワー)』になってます。効果は、閲覧不能?

 

 なんだこれ(素)

 

 ……ちょっと待ってくださいね。情報過多なんで考えを纏めます。

 

 ……。

 ………。

 …………。

 

 ……………恐らくですが、聖域として看做されている少数の女子勢、または女の子プレイで攻略できない男子勢は、本作だと攻略できるようになってはいるものの、その攻略難易度は桁外れに高い。その代わり、攻略できたら恩恵が凄まじく大きいとか、そういうバランス調整がなされているのでしょう。

 そうでないと説明がつきません。そしてそれぞれに本作初出の超特が設定されている、と見るべきですね。まだ一例しかないのではっきりしてませんが、そんな気がします。逆にそうでないと『同心術』ゲットが理解不能です。

 『LOVEPOWER』に関しては名前から察するに『モテモテ』の上位互換かな、って感じですかね(曖昧) ――ちょっと開発? これ何よ。説明して。しろ(豹変)

 

 ――分からないもんはしゃあないんで、後で問い合わせます。

 

 これ。

 多少のリスクは負っても、聖域攻略に舵を切ってもいい感じですね。

 

 この『同心術』からも分かるように、恩恵が半端ない。上手くやればわたしの想定してたものよりも、パワプロくんが一回りは強くなりますよ。

 懸念すべきなのはやはり人間関係になりますが、そこはわたしの腕の見せ所さんですね。リスキーですが、こんな強力な超特が他にも手に入るのだとしたら実行に移る価値はあるはず。中坊時代だと超特取得は二つまでという縛りがあるんで、『鉄人』と『ハイスピンジャイロ』を既に取得している今は、『変幻自在』も『同心術』も取得はできませんが……コツ自体は高校時代にも持ち越せるので気にする必要は無いです。

 聖域勢の男女を問わず、下心センサーの感度は抜群ですが――既に知り合ってそれなりに仲良くなってる聖域勢なら、なんとかそのセンサーを潜り抜ける事も可能だと思います。何せ人の感情とは『認識』に依存してますから、今まで一度も下心を懐いてなかったパワプロくんに、そうしたものがあるとは彼女達も認識しないでしょう。しても気のせい、パワプロくんに限ってそんな事はない、と築き上げてきた信頼関係がセンサーの下心検知を誤魔化すはず。

 

 言ってて自分のゲスな考えにヘドが出そうですが、RTAに情けは無用。効率的にやれるなら、多少の冒険は――えっと。なんと言えば良いのか。

 

 ……。

 ………。

 …………。

 

 ああもうオリチャー発動ですよそう言えば良いんでしょ?(逆ギレ) ってかロリ二人に逆○された時点でもうグチャグチャになるの確定なんですよ! 再走するには今のとこ全部がいい感じですし、最悪今回のRTAは参考記録にすげ替える覚悟で行きますよ! ダメだったら再走する、それでいいじゃないですか(全ギレ) 結果としてタイム短縮に繋がればヨシ!

 掌クルーして攻略に前向きになったのはですね、そういう事情があります。聡里ちゃんはともかく礼里ちゃんまでとか……人間関係崩壊不可避です。隠せばいい? もうね、そんな発想が出てくるようだと甘ちゃんだと言わせていただく。聡里ちゃんがパワプロくんの彼女というのは、一応隠していてもほぼ暗黙の了解的に気づかれてますし、女の子はそうした気配に敏感です。隠し通そうだなんて虫の良い真似は、最初は上手くいってても必ずどこかで気取られます。そうなるとあれ? ってなりまして……某井戸端会議好きなモブ女子が話題にして『教えてあげなきゃ(使命感)』と噂を流し始め評判が死にます。評判が悪いとプロのスカウトからの評価が落ち、最高評価まで持って行ってもドラ指名に掛からない――プロに入れない、なんてオチになる可能性があるんですよ。プロ野球選手の不祥事は好ましくないとかなんとか言ってね。

 

 野郎ゼッテェ赦さねぇ!(二敗)

 

 なので、隠し通すのは不可能と思っとくのが前提。女遊びしまくりのヤ○チ○扱いは今後に差し障ります。ならどうすんの? と言われたら、やはり隠し通すしかないワケなんですが。どうやって? と言われますとね。これが笑えるほど酷いことに、選択肢は実質一つしかないんですよ。

 すなわち仲間内全員を共犯者にする、です。

 全員が知ってて『まあしゃあないわ』となり、全員がプロ目指してるんなら不祥事は御免だという事で自発的に口を噤んでもらう。これがベストな状態です。聡里ちゃんと礼里ちゃんだけに関係を留めて、他の皆が黙ってくれてても噂好きモブ女子が広めてくれやがるリスクはあるので、やはり大人数が共犯となり和の力で情報を秘匿したい。二股とかは異様に悪く見られる向きがありますからね。

 

 もっと簡単な方法は、実はあります。わたしがこのグループを抜け聡里ちゃんや礼里ちゃんの前から姿を消す事です。そうすればこんな頭を悩ませたりする必要はないんですが……ここまで来て有力な仲間候補達を捨てるとかありえません。それに聡里ちゃん達が泣いてしまうので更にありえません。合理性と感情面双方からこの選択肢は無し寄りの無しです。感情が嫌だと言っても合理的ならやりますが、流石に無意味というか……ハイリスクでもハイリターンが望めるなら今の環境に残り続けますよ。そのためには――ええ。腹ぁ括ってパワプロくんと聡里ちゃん、礼里ちゃんの関係を前向きに捉えてもらい、皆が自発的に黙っててくれるように仕向けるしかありません。

 

 調子に乗ってはなりませんし、ヤケになってもならないんですが、聖域勢を全員攻略してハーレムにしたら鉄壁やん! とは思っちゃいけませんよ。そんな不誠実な姿勢は紳士として言語道断ですし、それ以前にハーレム形成を安易に受け入れる娘達ではありません。超特をくれたので、育成面で言えば用済みではあるものの、聡里ちゃんや礼里ちゃんとこの状態で別れるのは無理筋。以前から考えていた円満に別れる方法は使えません。

 やはり二股を維持するしかないのが辛い。純愛は持て囃される一方、二股やそれ以上は蛇蝎の如く忌み嫌う世間様。リアルでもその傾向はあるんですが、ぱわぷろ(平仮名)世界観だとそれはより顕著です。個々人は善良でも社会という集団はそうでもないんで、やはり隠し通すしかない(再確認) 一夫多妻制やら多夫一妻制、多夫多妻制は本作の日本だと成立しないです。

 

 以上の観点から結論を纏めますと。

 

 1,聡里・礼里と別れるのは状況・心情的に無理な上に非合理的。

 2,二人との関係は外野には秘密に。

 3,身内の皆が気づいても黙っててくれる関係作り。

 

 この三つですね。なんだこれはたまげたなぁ。難易度高杉君。

 で、方針も纏めましょう。

 

 1,聖域ヒロインは未知の強力な超特をくれるっぽいので、攻略できそうなら迷わずやる。寧ろ巻き込んだ方が情報秘匿に持ち込みやすい。

 2,最速記録樹立を目指すのは当然ながら、今回は参考記録に留めるという割り切りを念頭に置く。

 

 この二つがわたしの方針です。ミスったら終わりとか草も生えませんね。

 RTA的に妥協はしません。当たり前です。ですがわたしにもプライドがあります。某所だと畏れ多いことにわたしをセンセー呼びしてくれる人もいる、その人達の敬意を勇気に変えて挑みますよ。ダイジョーブですって安心してください。勝算はありますから。なかったら流石にこんな真似はしません。

 

「ぅ……」

「っ……」

 

 ベッドに裸で寝転がってる娘二人。こりゃこの二人は今日は動けませんね。そりゃそうだ、互いに対抗意識バリバリでハッスルしてましたから。

 パワプロくんは全然なんともありませんよ。寧ろやる気が『LOVEパワー』モードで、しかも体力全快。気力が溢れまくってます。房中術の使い手か何かかってぐらい超絶好調になってますね。

 流石だぁ……。

 

 とりあえず目は覚めてるみたいなんで、何か声掛けて出掛けましょう。

 

「二人で寝てろ。皆には今日は休むって言っといてやるから」

 

 服を着て嘆息混じりに言っておきました。というかこれ以外に掛ける言葉が見つからない……。

 

「二人掛かりだったのに……!」

「か、勝てる気がしない……」

 

 おう、聞こえてっからな?

 流石にロリ二人にその勝負で負けるほど耄碌してません。

 反省を促すべく本気出した甲斐があるというもの。今後を考えるならマウントは取っとかなきゃマズイですからね。ベッドヤクザなパワプロくんです。

 にしても……ホント厄介な事になりました。……え? 二人との合体の経緯について詳しく?

 

 別枠に該当シーンを上げてはいませんよ。カットもしてません。見れてない方がいるなら、それは視聴者側が18歳未満だったからでしょう。動画を上げてるサイトは18禁の該当シーンに検閲を掛けてくれますからね、見たかったら18歳以上になるまで待ち、この動画をもう一度見直したら見れると思います。18歳以上なのに見れなかった場合は、お使いの端末になんらかの問題があるんだと思います。わたしには関知できない問題なので諦めてください。

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 女の勘というものは、女に生まれた者になら大なり小なり備わっている。

 それは原始時代から連綿と受け継がれ、培われてきた本能から発される信号(シグナル)だ。いや、感知器(センサー)と言うべきかもしれない。

 より強い男に惹かれるのは勿論として、自分を護ってくれる、自分と相性が良い――そうしたものをより鋭敏を感じ取る本能――女同士の縄張りを察知する嗅覚――そうしたものを総称して女の勘というのだ。

 男には理解不能で、女しか持ちえず、持っていたとしてもセンサーの鋭さは個人差がある。だがどんなに鈍くても、気に掛かっている男に対しては、ほぼ例外などなく鋭敏な女の勘を発揮するのが女の性だ。

 

「――どうした?」

 

 ビーチマラソン。炎天下で実行される地獄の特訓。その開始前、ストレッチを入念にしている少年を見た瞬間に、()()()()の勘が働いていた。彼の身に何かがあったのだ、と。

 ()()()()()()()()()()。元々目を引いて、存在感のある少年だったが、こうまで引き寄せられる引力めいたものはなかった。

 振り向いて問い掛けてくる際に見せる、何気ない仕草と薄い笑み。それを見た瞬間に、身体の芯が火照っていくような感覚がする。フェロモンとでも言うべき何かが、むんむんと匂い立って少女たちの胸を撃ち抜いた。誰も答えられずに赤面し、目を背けてしまうのに、少年は首を傾げて変な奴らと笑った。

 

「ぁ、あー……なんか私、体調良くないみたい。ちょっと今日のマラソンはパスさせて」

「なんだなんだ? みずきちゃん、サボりか?」

「べっ、別にサボろうってんじゃないわよ!」

 

 顔を真っ赤にして怒鳴るみずきは、そんな自分の状態に強く戸惑っていた。みずきだけではない、あおいや雅、広巳、美香もまた未知の感覚に挙動不審になっている。少年を見ていると猛烈に気が散るのだ、戸惑いもするだろう。

 ただひとり六道聖だけは、聡里と礼里が体調不良で休むと聞いた瞬間から険しい顔をしていた。だがそれに気づく者は現段階ではどこにもおらず、少年はみずきに歩み寄ってしげしげとその顔色を伺った。

 不用意に触ったりせず、赤い顔を見て、少年は「風邪か?」と気遣わしげに問いかける。「そんなんじゃないからっ!」とみずきが強く返すと、「声は枯れてねえし元気はあるみたいだな。けど念のためマラソンは不参加でいい」と判断を下す。しかしそれで終わらせないのが野球狂たる少年の由縁だ。

 

「適当な石、海で投げてろよ。膝まで海に浸かって、普段のサイドスローでこう……水切りする要領でな」

「な、なんでよ……?」

「体調が悪いってんならすぐやめていいけど、そんなんじゃないんだろ? なら不安定な足場でもフォームが崩れないように練習してたら、スタミナが切れてもコントロールが乱れたりはしにくくなる」

「へ、へぇ〜。みずきのこと、そんなに考えてくれてるんだ〜。さてはキャップ、私の魅力にやっと気づいたんだ?」

「はあ? んなもん()()()()()()()()()()()っての」

「へぅっ?」

「バカ言ってないで、無理のない範囲でやってろよ。こっちは足腰の強化に忙しいんだ」

 

 何気なく返されたセリフ。昨日までなら意地悪く笑って流し、混ぜっ返していたところだ。だがみずきは何も言い返せず、赤面したまま固まってしまう。

 少年はそのまま走り去り、集団の輪に加わってマラソンを始めた。みずきが再起動したのは、それから暫くしてからだった。頭を振って()()()()()()()、素直に海での投球練習をするみずきは――はっきり言ってらしくないと言える。

 

 聖はずっと一番後ろにいる。この面子の中では一番脚が遅いというのもあるが、何よりどんどん膨れ上がる不安や焦燥の正体を、冷静に見極めようとしているから、敢えて最後尾に陣取っているのだ。

 そしてそのためにそれとなく雅の後ろにつき、彼女を追い立てる形で徐々に距離を詰めていくと、雅は無意識に走る脚を早めて先頭の少年の傍まで移動していった。それを狙っていた聖は再び最後尾につき、ジッと観察を続ける。

 するとややあって、明らかに調子が狂っていた雅は「あっ」と声を上げて転倒しかけた。それを、素早く察した少年が振り向き、腕を差し伸べて雅が転び掛けたのを支える。

 

「あっ、ご、ごめん!」

「いいって。雅ちゃんでも転びそうになることがあるんだな」

「ぁ、あはは……うぅ、胸触られちゃったよぉ……

「昨日の疲れが取れてないみたいだな。また転んだら助けられるとも限らねえし休んでるか?」

「う、ん……そうするよ……あはは……」

 

 真っ赤になった顔を隠しながら、雅が離れる。

 聖はそれをジッと見ていた。

 

 マラソンは暫く続く。だが今度はあおいが音を上げた。単に昨日の疲れが抜け切っていないだけの様子だったが、少年は腰に手を当てて嘆息する。

 

「ハァ……ハァ……ご、ごめん……ボク、もう限界、かな……」

「……今日のマラソンはここまでにしとくか。疲れてるのに無理して走っても爆弾が付くだけだしな」

「爆弾って……大袈裟だなぁ」

「大袈裟じゃねえぞヒロピー。身体を限界まで苛め抜くのと、無理をするのは全然意味が違う。鍛え上げるのは当然だがな、それ以上に身体を大事にするのは当たり前のことだ。残ってるのは聖ちゃん以外は投手陣だし、後はフォーム研究と改善に時間使おうぜ」

 

 疲れてる時こそ普段出てこない無駄な型が浮き彫りになるもんだしな、と少年が苦笑する。

 

 そうして、投球フォームの改善に残りの時間は費やされた。

 その際に少年があおいに近づく。水着姿のあおいは戸惑いながら動きを止めた。恒例の矯正が来たと悟ったのだ。

 

「ちょ、ちょっと待ってパワプロくん! さ、触ってるからそれ!」

「? いや、いつもやってるじゃん」

「そうだけど! そ、そうなんだけどぉ!」

「んなことよりあおいちゃんさ、アンダースローってのは他のフォームと違って、より効率と連動性を大事にしなきゃだろ。身長がちょっと伸びたからか、はたまた筋肉量が増えたからか知らんが、ちょいズレてんぞ。骨盤の回転はこうした方が良いと思う」

「ぁっ、ぉ、……触ってる、からぁ……!」

「は? 触ってないんだけど……」

 

 完全に気のせいである。だが腰を直に触られ、実際に回転させて捻られるとあおいはあられもない声を上げてしまっていた。直接肌が触れているが、それ以外は普段からやってる事だというのに、あおいの反応は過敏だった。

 戸惑いながら少年は離れる。あおいは気恥ずかしさを誤魔化すためか、大袈裟に気合の声を上げてフォーム改善に取り組み始めたが、心が乱れているため中々要領を掴めない。嘆息した少年が再度あおいの肩に腕を回し、身体を密着させるとそのまま手取り足取り、といった表現そのままに投球フォームを仕込み始めた。そうなるとあおいは操り人形のようにされるがままで、ガチガチに固まってしまった。

 

「……ダメだこりゃ」

 

 少年は諦め、どうなってんだと頭を掻く。

 普段の調子と全く変わっていない少年だ。練習には本気で打ち込んでいる。むかし――自分は才能ないから練習の時にはその事しか考えていない、と少年は聖に語ったことがある。才能がないとは嫌味かと思ったが、少なくとも聖が見る限り、少年が練習時間内で雑念を懐いた所は見たことがない。

 現に今も、微塵も雑念はなかった。いつもより更に深く、注視しているのだから、聖の目が節穴でない限りは見間違う事はないだろう。

 あおいは頭を振って、なんとか練習に復帰する。海辺に走って、みずきの隣に退避して、だ。それを見送った少年は困惑すること頻りだったが、今度は広巳に近づいた。

 

「ヒロピー」

「あ、パワプロくん。なに?」

 

 広巳が普段通りの表情で応対した事に、少年は露骨にホッとしたようだ。聖が見るに、俺なんかしたっけな? と不安を感じていたように見えていた。

 

「……いや、さ。ヒロピーはこう、投げるだろ?」

「うん? うん」

「ヒロピーの持ち味は球威の強さだが、その投げ方だと肩への負担が強いのが難点だ。だから――」

「あ、だから普段からあたしの肩のケアに気を遣ってくれてたんだ」

「おう。爆弾が付くと辛いからな。で、球威を維持したまま、肩の負担も今より軽くなる投げ方開発したから、そっち試してみねえ?」

「そんなのあるんだ!? やるやる!」

「そか。サイドアームを、肘鉄を後ろに食らわせる感じでやれば――」

「――でもそれだとクイックモーションが下手にならない?」

「――そこは、こうして――」

 

 投手同士の会話は、聖にとっても聞き逃せない。そちらにも意識を割くが、それよりも太刀川広巳を密かに観察する。

 顔色、表情の変化、手振り、身振り、視線の動き。それらから聖の眼力は違和感を捉えた。広巳は分かり辛いが、明らかに動揺している。いや動揺というよりも、照れている。嬉しがっている。現に、その証拠として――

 

「うっし。雅ちゃんは――美香ちゃんが付いてくれてるな。聖ちゃん、普段は俺に付き合ってもらってるし、今日は聖ちゃんの打撃フォーム改善に付き合うぞ」

「ぁ……」

「うむ」

 

 ――その証拠として。

 広巳は少年の意識が自分から逸れると、明白に落胆していたのだ。

 聖は少年の言葉に頷き、持ってきていたバットを握る。自身の主観と客観性を切り離し、何気なく手が触れ合った際に鈍る主観の意識をよそに冷たい理性が観察を続けた。

 

 少年は、昨日とはまるで別人だ。元々スタミナお化けではあったが、疲労が全く感じられないのは不自然でもある。

 やはり、昨日何かがあったと見るべきだろう。そして昨日と今日の違いは、()()()()()()()()()()()だ。

 

「………」

 

 まだ、結論を出すのは早い。逸りそうな自分を抑え、観察し続ける。

 

 ――日が沈むまで、この中だと二番目に体力のある聖は少年を付き合わせ続けて。ようやく練習が終わると、ホテルに帰る。

 自室に帰る。シャワーを浴びる。そしてすぐに礼里の部屋へ向かった。

 

「礼里、いるか?」

『……いる。今行くから少し待て』

 

 ドアを礼里が開けて応対してくれた。その際に何を話したかは、主観を切り離した自分の客観視点は認知しない。ただ礼里を観察する。礼里は、仄かに笑っていた。勝ち誇っている。そして聖がそれに気づくと、気づいている。

 答えを訊けば分かるだろう。だが敢えて何も訊かなかった。そして話が終わって扉を閉める際に、礼里の挙動が普段と違い、下半身を庇うような動きだったのを見抜いた。

 

 次に、聡里の部屋に行く。表向き体調はどうだ、と心配する演技をしていたが。やはり聡里も下半身を庇っている。

 

 ――確信して。唇を、強く噛み締めた。

 

「考え過ぎ、か?」

 

 呟いて、聖はもう少し間を置く事にした。

 

 

 

 ――翌日も礼里達は休んだ。少年は疲れ知らずと言わんばかりに躍動している。

 その翌日は礼里達も復帰してきたが。

 どこか、肌の艶がいい。別人のような艶があった。

 幸いと言うか、少年ばかりに気を取られていた他の面々は気づいていないようだったが。

 

 聖は、合宿の最終日に、夜――少年の部屋の前に行って耳を澄ませた。

 

 

 

『――――』

『――――』

『――――』

 

 

 

「………」

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()

 

 聖は、強く拳を握り締めた。

 

 頭の中が真っ白になる。

 

 翌日、地元に帰る途中も。帰った後も。聖は心ここにあらずといった様子で呆然としていた。

 そして、聖は悟る。

 

「ああ――」

 

 そうか、と。

 

()()、というのは……こんなに、辛いのだな……」

 

 なら。

 ならば。

 ならば、どうする。

 聖は吹っ切れたように、笑った。

 

 覚悟は決まった。

 

 

 

 

 

 

 

 




面白い、続きが気になると思って頂けたなら感想評価等よろしくお願いします。

そろそろアンケートタイムが迫ってます。
(罠は)ないです。

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