男女混合超野球連盟ぱわふるプロ野球RTA   作:飴玉鉛

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ちょっと唐突かなと思わなくもないですが、三回戦に突入します。
体感時間で一週間ぶりの投稿なので初投稿です。


秋季大会第三回戦(そのいち)


 

66:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 お、始まったぞ。

 

67:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 八王子かー。おれあそこいたことあるし応援してるんだ(隙自語)

 

68:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 中坊の野球は低レベルなの多いし、保護者目線でしか楽しめねえよ。

 

69:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »68

 時々バケモノ混じってるから一概にそうとは言えねえけどな。

 

70:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 今回の大会にその化け物はいるんですかね……。

 

71:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 夏の大会も見てたけど、八王子には蛇島くんってのがいるな。

 化け物かって言われるとちょい物足りないけど、才能はあるっぽい。

 一応天才の部類かな?

 

72:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 武蔵府中にはいねぇの?

 

73:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 早川あおいちゃんが可愛い。

 

74:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »73

 分かる。あの歳であの尻は凶器ですよ……。

 

75:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 尻www ロリコンかお前www 選手能力はどうなんだよ?w

 

76:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 エース張るだけの能力はあるんじゃね。

 エフェクト付き魔球も投げれるらしいし、こっちも天才かな。

 ちなみに早川ちゃんはアンダーで130後半投げるゾ。

 嘘じゃありません、現実……これが現実……!

 

77:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »76

 うっそやろお前www

 そんなんただの化け物やんけ!!

 

78:名無し20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »76

 ゴリラかな?

 

79:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 恵まれた下半身から繰り出されるゴリラの如き直球()

 エフェ魔が霞むインパクトである。

 

80:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 制球厨のワイ、ゴリラに苦言。

 受ける手が痛くなるから、球速だけのゴリラは動物園に出荷よ〜。

 

81:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »80

 動物園のことパワフルズって言うのやめろよ!

 

82:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ってか今回エース早川登板しねえから。

 

83:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 先発は控えかな?

 

84:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »83

 うんにゃ。この試合で登板すんのはこの世代の化け物筆頭だゾ。

 

85:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »84

 誰それ。

 

86:名無し名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 通なワイが答える。ソイツは力場専一ってイケメソ。

 あだ名はパワプロで、この世代は『パワプロ世代』とか言われてるゾ。

 転校&シニア移籍コンボで一年間封印されてて、この大会が初出場。

 ちなみに一回戦で、初打席初球本塁打。以後の打席全部本塁打。

 二回戦目の試合だと初打席本塁打、以降全部敬遠されてる。

 

87:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »86

 控え目に言ってただの天才では?

 

88:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 十w割w打w者w 全w部w本w塁w打w うぇっwww

 

89:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 野球ゲーかな?

 それはそれとしてググったらなんか出た【パワプロ本塁打映像集】

 

90:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ほへぇ……綺麗なスウィングんごねぇ……。

 え、これリトル?

 

91:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »90

 リトル。大会記録コイツが何個も塗り替えてる。

 

92:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 嘘つけリトルのレベルじゃねえぞこれ。

 中坊の時点でかなりのイケメンなんやが……イケメン子役霞んで見える。

 神は幾つギフト上げたのかな? 贔屓とか許されざるよ。

 

93:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 その成績でピッチャーが本業? なんじゃそりゃwww

 

94:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 いまテレビ写ったキャッチャー可愛くね?

 

95:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 ひじりたん(;´Д`)ハァハァ

 

96:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 れいりたん(;´Д`)ハァハァ

 

97:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 あおいちゃん(;´Д`)ハァハァ

 みずきちゃん(;´Д`)ハァハァ

 ひろみちゃん(;´Д`)ハァハァ

 (;´Д`)ハァハァ

 (;´Д`)ハァハァ

 (;´Д`)ハァハァ

 うっ……ふぅ。

 なんやこのチームおにゃのこばっかやんけ。

 顔面偏差値高い娘しかいねえし、男も平均以上ばっか。

 野球はアイドルグループじゃねえぞ。まったく、けしからんな。

 

98:名無し 20☓☓/10/27(木) ――ID:――

 »97

キモすぎワロスwww

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「先輩、機嫌悪そうだな……」

 

 試合開始五分前。ベンチに入ったシニアの面々は、長身痩躯の二塁手である主将の様子に声を潜めた。

 見る者を絡め取る粘着質な視線は、伏せられた顔からは伺い知れない。人の良い笑顔も鳴りを潜めて、何事かに思いを馳せているかのようだ。

 

「仕方ねぇよ。今日の試合にはあの()()()()どもがいるんだからさ」

「ああ。ムカつく奴だったってのに、先輩は庇ってやってたよな。なのにアイツ一言も入れずに消えやがった。幾ら先輩が温厚でも気ぃ悪くすんだろ」

「あの野郎、向こうでも女侍らせて良い気になってるっていうぜ。ウチからも氷上さん引き抜いて行きやがったし、ちょっと顔が良いからって調子こき過ぎだっての。マネ抜けた後おれらで雑用やらなけりゃならなくなったし……」

「その氷上さん狙ってた田井中センパイ、あん時ゃマジギレしてたよな。クワバラ、クワバラ」

 

 程度の低い恨み言。それに口の中で舌打ちを漏らす。

 折角集中しようとしているのに、低能な遣り取りが耳に入って苛立ちが過ったのだ。

 

「――皆さん。そろそろ試合に意識を切り替えていきましょう。過去の蟠りを捨てろとは言いませんが、気を引き締めずに当たって勝てる相手ではありませんよ」

「う……ウッス!」

「サーセンっした()()先輩っ」

 

 蛇島は再度口の中で舌打ちする。チームの面々の実力は、高校のスカウトから目をつけられるほどではない。唯一注目を集めているのは高い守備力とミート力で知られる蛇島だけだ。

 その蛇島は既に強豪校への内定を取っている、故に蛇島はこの試合で勝とうが負けようがどうだっていいと思っていた。自分が無様を晒さければいいだけの事で、敗戦の責任を蛇島が負う事はないのである。

 何せ野球は一人でやるものではないのだ、負けた理由を一人に押し付ける輩などいるはずがない。

 蛇島はこの試合、普通にやったのでは勝てる要素がないと冷静に判断していた。対戦相手の前試合での点差は聞いている。試合内容もビデオで見た。故に負けるなら負けてもいいと割り切っている。

 ただ……この試合に向けてやれる事はやっていた。――普通にやったのでは勝てないのなら、普通にやらなければいいだけの事だろう。

 チラリと視線を向けるのは、この試合で登板するエースピッチャーだ。そこそこの球速とそこそこの制球力、そこそこのスタミナと変化球の持ち主だ。蛇島からすると弱くはないが、特筆するほど強くもない。去年抜けたエースの先輩ほどではないだろうと評価していたが――扱いやすい輩ではあった。

 

『お待たせしました。20☓☓年ミズチ旗杯関東連盟秋季大会()()()()――八王子シニア、対、武蔵付中シニアの試合を間もなく開始いたします』

 

 ウグイス嬢のアナウンスが流れる。それを聞いた蛇島は立ち上がり全員に声を掛けた。

 

「行きますよ、皆さん。くれぐれも()()()()()()()()()を忘れないように。()()()()とやりましょう」

 

 ウーッス、と気のない返事が返されるのを顧みず、蛇島は嘲笑を滲ませた。

 嫌っている相手を低く見積もりたいのが人というものだが、さすがにここまでくると滑稽というものである。

 ホームベースを間に挟んで、両チームの面々が整列する。両チームの面々は相手の顔を見ず、言葉も交わさず、形式上の礼を示すだけだった。

 そんな中、蛇島はちらりと相手チームの少年を一瞥する。「ッ……」その少年も蛇島を横目に見ていた。目が合って、知らず生唾を呑み込む。蛇島はその目に吸い込まれそうな何かを感じ、咄嗟に視線を逸らした。

 同じチームにいた頃よりも一回り大きくなっていたその少年は、蛇島の様子に微笑んだような気がして――冷や汗が浮かぶ。なぜ自分を見る? その見透かしたような目はなんだ? 腹立たしい、その『全部分かっている』とでも言っているかのような目が。蛇島の神経を逆撫でして止まない。

 

(――相変わらず目障りですねぇ? 力場くん……ですがもう、私には関係のない事。普通に野球をしましょう。普通に、ね……)

 

 

 

 

 

 

 

 

  †  †  †  †  †  †  †  †

 

 

 

 

 

 

 

 

 先攻は八王子シニア。故にウグイス嬢が先に読み上げるのはそちらのスターティングメンバーである。

 後攻の武蔵付中・宮本シニアは円陣を組み、気合を込めて吼える。そうしてゆったりとした所作で守備位置についていった。

 

『武蔵府中シニアのスターティングメンバーは一番ショート、霧崎礼里さん。二番キャッチャー、六道聖さん――』

 

 銀髪を翻し、冷気を纏っているように冷たい空気を湛える少女。紫髪を赤い紐で結わえた平静な少女。共に男女を問わずにファンが付き始めている。

 何せ容姿端麗だ。傑出した打撃成績と抜群の守備能力とも合わさり、脚光を浴び始めている。何よりその二人は()()()()と縁深い存在という事もあって、そこになんらかのドラマ性を見出している者達は一定数存在した。

 駆け足で遊撃に付く少女のすぐ後ろを歩いていた少年。その少年がマウンドに立つと、フェンスの外のスカウト陣が目を光らせる。

 ようやくか、と。三回戦目にして初の登板か、と。ホームベースの手前で肩を回し、内野手の面々に守備位置の微調整を指示しているのは六道聖だ。そしてその正面に立つのは、

 

『――四番。ピッチャー、力場専一くん』

 

 背負う背番号は10番。1番こそ早川あおいに譲っているが、その実力は世代ナンバーワンの呼び声高い。少なくともその打撃能力に関しては疑う余地は既になく、守備能力に関しても極めて高いと評価されていた。

 では、投手としての実力はどうか。遂に日の目を見る事になるその力に、強豪校のスカウト陣は静かにしながらも色めき立ちつつある。そしてその中にはプロのスカウトである影山もいた。この試合の内容次第で、影山は力場に対してコンタクトを取るか否かを決めるつもりでいる。

 

(打撃と守備はリトルよりも明確に進化していた。ピッチングだけはその限りではない、と見做すのは過小評価が過ぎるというものだが、しかし――)

 

 打撃に特化したが故のあの成績であり、投手としてはさほど成長していない可能性もある。事前に練習を見ていればよかったのだろうが、生憎と影山も暇ではない。中学生よりも高校生の目ぼしい選手に時間を割くのは当然だ。

 だがその当然の時間割を変更してでも、接触する価値があるというのなら。影山は如何なる努力も惜しまず力場専一を優先するだろう。何せこの試合内容次第では、よそのスカウトもまた本腰を入れると予想されるからだ。

 だが影山はそんな当たり前の行動に関する試算より、久し振りに一野球ファンとして胸が踊るのを感じていた。まるで少年だった頃、プロ野球のマウンドに立つエースピッチャーを観客席から見ていた時のような――

 

(――なんとマウンドの似合う少年だろうか……)

 

 ホームベース側に座る六道聖(キャッチャー)を正面にし、ロジンバッグを握って滑り止めをしながら試合開始の瞬間を待つ。

 影山はその姿に、かつて憧れた往年の大エースの姿を見た。

 心の片隅に湧き上がる、熾り火のような期待。少年の心を思い出させる、ワクワク感。一握りの存在が有する存在感に影山は目を吸い寄せられる。

 

(魅せてくれ、力場くん。君の実力を……)

 

 ――世界的最大のスポーツである野球。故にその注目度は極めて高い。

 だからこそシニアの野球大会にも関心は集まり、三回戦からはテレビ中継もされるほどだ。

 テレビのカメラマンもいる。実況と解説もそれなりに名の知られた面子であり、そしてそれだけ集まれば2ちゃんねるの『なんでも実況ジュピター』こと『なんJ』も賑わいを見せるようになってきていた。

 

 だが真剣勝負の場に、外野の意志や見解などなんの価値もない。――三球のみの投球練習。以前は七球を割けていたが、近年規定は様々な面で変更されていた。投球練習の球数もその一つだ。

 規定の変更にはきな臭いものを感じなくもない影山だが、そうした諸々に苦言を呈するのは影山の仕事ではない。力場はその三球を明らかに手を抜いたスローボールで消費する。そうして打席に八王子シニアの先頭打者が入ると、キャッチャーの後ろに立つ審判が宣言した。プレイボール! と。

 

 

 

 空気が張り詰める。

 

 

 

 普段は明るく闊達な少年だという風評を聞くが、マウンドに立つとそんな印象は霧散してしまっている。

 見下してはいない。だが見下ろしていた。お前は俺より下だ、と。お前に俺の球が打てるかよ、と。傲慢なる強者の佇まいで、キングのようにマウンドへ君臨している。

 

 そんな投手を、先頭打者は澱んだ目で睨んでいた。

 投手――パワプロは薄い笑みを口元に佩く。その目は明瞭な意志を宿す双眸で打者を見下ろしていて、打者は投手の視線に侮りを感じて口元を歪める。

 過去、同じチームにいた時。対戦結果は全打席三振。薙ぎ倒されて終わった苦い記憶があった。むしろパワプロからヒットを打てた者など、今は敵チームにいる霧崎だけだ。

 

 捕手のサインを見もせずに、ゆったりとした所作で投球フォームに移る。

 三回戦、一回表。先頭打者に対する第一球。両腕を掲げるワインドアップの後、身体を畳むように右脚を上げ、踏み込むのと同時に体重移動が滑らかに行われる。腰の回転、背筋の緊張、肩で力を溜め肘で軌道を操り指先で切る。

 それは空の王者であるイヌワシが、地上に降りて片翼を広げるような大きなフォーム。プロの世界でも滅多に見られない完成された型だ。

 野球を深く知る者ほど魅せられる。瞠目させられる。繊細にして精緻な指先の支配力が生み出す回転力は、フォークボールと同じ軌道を辿る四シームジャイロを生み出して、捕手の構えたミットに寸分の狂いなく突き刺さった。

 

「―――」

「……審判?」

「す、ストライク、ワン!」

 

 球審すらも目と心を奪われる芸術のような型と、綺麗な球筋。この試合でのパワプロの調子と球筋を見るため、わざと見逃した打者も目を細めた。

 乾いた音を立てて捕球した聖に水を向けられ、球審は思い出したようにコールする。聖は肩を竦めて返球し、パワプロは自然体のまま構え直す。

 やはり、聖はサインを出さない。ただ目を合わせているだけだ。

 以心伝心。投げたいボール、投げたいコース、それらを伝え合うのにサインを挟む必要がない。聖の野球人生はパワプロと共に在り続けたのだ、完璧に受け止めるのに意思表示など無用である。

 

 125km/h

 

 第一球目の球速がそれだ。だが弾丸のように奔った球は、それよりもずっと速く見えた。ボールが多段式に加速し、手元でグンと伸びたような錯覚――ありえないと打者はその錯覚を忘れた。

 バッティングセンターのピッチングマシンで、140km/hの直球を打ち込んで来た。これぐらいならどうとでもなると思い、リベンジする好機にほくそ笑んで――その笑みが凍りつく。

 

 135km/h

 

 続く二球目は、ど真ん中に突き刺さった。だがその球速は一気に10km/hも速くなっている。反応できずに見送ってしまって、打者は思わずパワプロを睨みつけた。なに見てんだよ――薄ら笑いは消えていない。

 (おれを、見下してんじゃねぇぞ……!)打者は今度は見逃してたまるかと全神経を尖らせた。パワプロと聖のバッテリーは知っている、どんな組み立て方をするのかも。故に次に来る球も予想が付いていた。

 (どうせまたストレートだろ? ど真ん中に来る! ゼッテェ打つ!)そうだ、分かりきっている。どこまでも人を舐め腐っているこの男は、一巡目なら特にその傲慢さを見せつけて見下ろすのだ。

 

 パワプロが三球目を投じる。だが――消えた。ボールが、リリースされた瞬間に打者の視界から消えたのだ。

 乾いた音が鳴る。思わず振り返ると、聖が捕球し終えているではないか。なにを投げた――いつの間に――? 愕然として電光掲示板を見ると、そこに表示されていた球速に目を剥いた。

 

 145km/h

 

『――見逃し三(シィン)! 三球三振です! 八王子シニアの先頭打者、滓田くん手も足も出ません!』

『は、速いですね……彼の最高球速は140だと聞いていたのですが、かなり上回ってます。これ以上ないストレートでした』

 

「……は?」

「投球練習への協力、感謝するぞ。お帰りはあちらだ」

「ッ……!」

 

 呆気に取られる打者に、捕手の聖が温度を感じさせない声音で打席を離れるように促す。それに打者は唇を噛み締め、屈辱に肩を震えさせながら離れた。

 クソッ。毒吐く声は汚い。最高球速は140じゃねぇのかよ――

 知ってたら打てた。負け惜しみのようにそう思う。事実負け惜しみだ、彼の正直な印象では、打てる気がしなかった。少なくとも一打席目は。

 続く二番打者も、一番打者と同じパターンで見逃し三振に倒れた。125kmから10kmずつ球速を上げての三球三振である。ならばと三番打者が初球から打ちに行くと、まるでストライクゾーンに入る手前でパラシュートを開いたかのようにブレーキの掛かった、凶悪なチェンジアップに空振りし、残りの二球は143kmと145kmの直球で捻じ伏せられた。

 

「季節外れの扇風機だったな。肌寒くなる時期だ、あまり振らないでくれると助かるぞ」

 

 聖が淡々と煽る。棒読みだ。だが、だからこそ神経を逆撫でにされて三番打者は歯噛みする。

 

『一回表の攻撃は終わり、一回裏、武蔵府中シニアの攻撃に移ります。……にしても解説の松井さん、力場くんのピッチングは凄まじかったですね』

『そうですねぇ。リトル時代から頭一つ分は抜けていた印象がありましたが、シニアでもその印象が変わっていません。球速もそうですが、特に凶悪だったのは三番に初球から投げたチェンジアップですよ。非常にブレーキが掛かっていて、一番と二番を仕留めたストレートが頭にあった事もあり当てるのは困難だったでしょう。コントロールもキャッチャーの構えた所にピタリと決まってますし……ん?』

『……どうしました?』

『いやね……ふと思ったんですが、彼、既にプロ級なのでは……?』

『ははは! まさか! 松井さん今日はジョークが冴えてますねぇ!』

『は、はは……そうでしょう。って()()()ってなんですか。ワタシはいつも冴えてますよ。しかし……冴えてるのは力場くんもですね。三者三振、きっかり三球ずつで仕留めてます。これは期待できますよ』

 

 実況の鈴木と解説の松井の遣り取りをBGMに、攻守が入れ替わっていく。

 マウンドに上がるのは、市山田。投球練習を終えて、薄暗い眼差しで捕手を見る。二塁を見る。二塁には蛇島がいた。

 蛇島は、やめておけとでも言いたげに、真剣な顔つきで見詰め返してくる。だか市山田は鼻で笑った。善人な先輩様には分からねえだろうな、と。――自分が己の妬心を煽られ、蛇島の掌の上で踊っている自覚もなく。

 打席に入ったのは、銀髪銀瞳の少女、霧崎礼里。宮本シニアの切込み隊長にして、水先案内人。ネクストバッターズサークルには六道聖だ。その二人に対して粘着質な視線を向けた市山田は、クッ、と笑う。

 

 彼は自分の能力を把握していた。この二人は抑え込めれば僥倖といったレベルで、才能と努力量の次元が違う。故に――

 

『打ったァ! 初球から霧崎、振ってきました! 打った打球はセンター方向へ伸びて、伸びて……入ったァ! 先頭打者ホームランだぁ!』

『まるで狙い澄ましたかのような一打でしたね……強振したとはいえ、あそこまで運ぶとは男子顔負けです』

 

 初球から霧崎が、心を読んだように狙い打った一撃にも。

 

『打った打った! 武蔵府中シニア、初回から全開で攻めます! 二番・六道左中間へのツーベースヒットォ!』

 

 ツーストライク、ツーボールから放たれた六道の二塁打にも、市山田はこれといって動揺しなかった。

 平静、平常。市山田は気遣わしげな捕手に心配すんなと手振りで示して、三番の和乃に対して初球からスプリットフィンガー・ファストボール――SFFを投じる。和乃はそれを打った。絶好球に見えたからだろう。

 ストレートを打つつもりが打たされ、しかし三遊間を抜けてシングルヒットになる。おいおいあれを初見でヒットにすんのかよ、と市山田は苦笑した。

 ランナーは一塁と三塁。六道は三塁で止まっている。脚が遅ぇのは変わってなくて安心した、と市山田は安堵し――そして、打席に入るのは。

 四番。力場専一。

 

「―――」

 

 スッ、と心が冷え込む。あの男が右打席に入ったのだ。

 ピッチングの時に腕を伸ばした瞬間が、まるで翼を広げたようだと言われている。そして打席に立つと、反対の翼を広げているように、ホームベース上にバットを寝かせて構えるフォームには華があった。

 神主打法。弛緩しているかのような上半身。反面、どっしりと根を張った下半身。肩幅程度に開いた脚と、悠然と構えるその打撃フォーム。四番としてのその貫禄は、こうして対面しただけで格の違いを思い知らせるかのようだ。

 パワプロ。パワプロは市山田を見ていない。まるで、マシンを見ているかのような、温度のない目。捕手が立とうとする。敬遠しよう、と。捕手の弱木田もパワプロの実力は知っているのだ。その判断は間違いではない。

 それを手振りで座らせた。この男から逃げるなど、有り得てはならない。

 だって、だってコイツは――

 

 力場くん、氷上さんと付き合っているようですねぇ。

 でなければ説明が付きませんよ。なんで氷上さんは力場くんについて回っているのかなんて。

 ――おやおや。氷上さんもチームから抜けましたね。どうやら付き合っていたという予想はアタリだったみたいです。祝福しましょうよ。ねえ?

 あーあー……氷上さんも可哀想に。力場くんはプレイボーイだったみたいですよ。六道さんと霧崎さんともそういう関係だったようで……

 

 ――いや、関係ない。ただただムカつくんだ。野球一本で、一筋でやってきたならともかく。女と遊び歩いてるようなクソ野郎が、さも天才でございとばかりに調子に乗ってるのが。

 思い知らせてやる。ぶっ潰してやる。この時をどれだけ待ち望んだか。

 なぁに、その実力だけは認めてやってるんだ。お前が投げてる限り、点は取れっこない。ウチの一番から三番に見せた投球内容だけで察してる。打てるとしたら四番の蛇島先輩ぐらいなものだ。それだって単打に収まるだろう。

 だからこれは、チームが勝つためだ。チームのためなんだ。それに……不幸な事故ってのは、いつだってあるもんだろ……?

 

 まずは、外角高めにすっぽ抜けたようなSFFを投じ、ボールカウントを一つ取る。わりぃわりぃと半笑いで返球を受けた。

 武蔵府中シニアのベンチから、ガタリと霧崎が立ち上がる。凄まじい形相で睨みつけられるのに、乾いた笑いを浮かべる。二球目は外角低め。ストライクゾーンからボール二つ分外した。今日は調子が良い、狙った所にボールがいってくれる。いいぞ、と思いながらも市山田は必死に表情を殺した。

 布石は打った。外角に逃げるボールばかりを投げた事で、パワプロはやや立ち位置を内側に移している。バットも長く持って、外角の球も打てるようにしていた。だが市山田は知っている。この男は、この立ち位置とバットの握りでも、内角のボールをフェンスの外まで運ぶのだ、と。だから仕方ない、内角を攻めるならかなり際どくなければ。

 

(左投げのピッチャーが右打ちするって危なくね?)

 

 市山田はさも気遣っているように装いながら、内心せせら笑う。

 肩から先は投手の命だろうに。それを投手の側に向けて立つのは、ちょっとばかし不用心だと思う。これはかつてのチームメイトとしての、ささやかな心配だ。そんなんじゃいつか、ケガしちまうぞ、と。

 

 市山田は、三球目のボールを投じる。MAX136km/hの速球だ。捕手は外角に構えている。そして球は、その真逆に向かった。逆球――それは市山田の狙い。好いていた少女を盗られたと逆恨みした小者の悪意。

 市山田の冴え渡る制球力が操る速球がパワプロの左肘に直撃し故障させた。デッドボール。痛みの余り打席に蹲る男。いきなり降板し控えにいた女投手が登板。それを打ち崩して勝利する。市山田は批難を浴びたが、不幸な事故として片付けられた。そうして市山田のチームは関東大会決勝まで駒を進め、対戦相手と正々堂々と戦い激戦を繰り広げて市山田は熱投し強豪校のスカウトからも注目を集め――

 

「――へっ?」

 

 ――駆け抜けた妄想を、斬って捨てる踏み込み。

 市山田が第三球目を投じた瞬間だった。打席に立つ打者は(バット)を畳み、半身に構えていた身体を捻り、下からゴルフボールを打つように掬い上げたのだ。鮮やかさ極まるフォームに翳りなく、流れるような斬撃である。

 その斬撃は、市山田を真下から真上に斬り裂く。

 快音が鳴った。木製バットの真芯で、危険球を完璧に捉えたのだ。翼持つ最強打者の一閃は、市山田のストレートを打ち砕いて――空を魅了するように、センターのスタンドに白球を叩き込んだ。

 

 出鱈目で、非常識な打撃。悪意すらも踏み台にする天才の一撃だった。

 

『――うっ、打ったぁぁぁ! アレを打ったッ! あわやデッドボールかと、冷や汗が浮かびかけた瞬間でしたッ! 代わりに浮かんだのは鳥肌ッ! まるで時間が止まったかのような一瞬の間、次の瞬間に歓声が爆発するゥッ! 四番・力場専一、堂々のスリーランホームランだァッ!!』

 

 呆然とする市山田など眼中にも入れず。蛇島に一瞥を向け、バットを投げ。塁をゆっくりと走り、パワプロはホームベースでチームメイトから祝福を受けた。

 

 その目は、やはり、古巣の存在を見てもいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 




俺は止まんねえからよ、みんなが感想評価をくれる限り、その先に俺はいるぞ! だからよ、止まるんじゃねえぞ……。
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