せや! 一話で全員を均等に出そうとするから駄目なんや、
一話区切りにメインを張る娘を替えてイケば……もっと絡める!
個別間の関係性を描いたりとか……!
そういうのを高校編からやりたいと思いました、まる
個々のキャラが影と個性が薄味な風味だと気づいたので初投稿です。
パワプロ:というわけで、蛇パイセン勧誘しといた。
寺っ子:待つのだ。何が『というわけで』なのだ。
合気の気:センくん? 蛇パイセンというのは、もしかして蛇島先輩の事?
パワプロ:そうだぞ。
合気の気:遂に狂ったのね……私が付いていたら正気に戻せたのに。
パワプロ:ナチュラルに狂った扱いされる俺氏、遺憾の意を表明。
彼岸島雅:ガァァァ! ガァァァ!
パワプロ:雅様どうした(笑)
彼岸島雅:マイブーム彼岸島ムーブイマ見てる。
合気の気:ラップ調?
パワプロ:それに手を出してしまったのか……。
雅様の事だからネタアニメ版だろうけど。
マリーン:( •̀ㅁ•́;)誰の影響なんだろうね……。
彼岸島雅:話が分からないで僕困惑。知らない人にも分かる説明求む!
パワプロ:蛇パイセンは古巣の善良な人。ナカーマ。
三日月娘:今北産業よろしくぅー!
パワプロ:(・д・)チッ 空気嫁。
三日月娘:露骨な舌打ち!?
レイリー:レイリーは俺の嫁? 唐突な告白に戸惑いを禁じ得ないな。
寺っ子:そんな事言っていないぞ( ・ิϖ・ิ)?
パワプロ:嫁の字しか合ってねえぞ。
合気の気:蛇パイセンとは、センくんや私の古巣にいた先輩。黒幕。以上。
三日月娘:把握。合気の教えてくれる優しさに、
2ちゃんねるのレスバで荒れた心が癒やされたわ……。
マリーン:三日月娘なにしてるの……。
三日月娘:ウチのチームで誰がNo.1ピッチャーか議論があったんです……。
三日月娘:もちろん私は可愛いサイドスロー娘を推しました!
最強はあの最可愛ピッチャーで間違いなし!
パワプロ:おっ、そうだな(対面上位者面)
マリーン:うんうん、そうだね。エースは別の人だけどね。
ヒロピー:じゃ、あたしは二番で良いよ(ニッコリ)
パワプロ:!?
マリーン:?!
三日月娘:!?
寺っ子:強かに育ったなヒロピー(後方正捕手面)
レイリー:話は脱線事故を起こしてるが。
合気の気:話戻す?
ヒロピー:蛇さんは黒幕。その認識でOK?
マリーン:OKだよ。というかパワプロくん? それだとさ、
蛇がボク達と同じ高校に来る事しか解んないよ。
ちゃんと説明して。ボクだけ先に蛇と過ごしちゃうんだよ?
パワプロ:説明か。実はさっきの事なんだけど、
ジョギングしてたら襲撃受けたんだった。市山田とかに。
寺っ子:!?
レイリー:!?
合気の気:?!?!?
彼岸島雅:??????
三日月娘:はいぃぃぃ???
マリーン:待って。ねえ待って。
ヒロピー:大丈夫なの!? それ!! ケガとか!
パワプロ:八人いたので平均半秒ずつでノシたからへーき。無傷だぞ。
相手も俺も。
合気の気:肝が冷えたわ……。
三日月娘:ですよねー。たった八人でキャップ襲うとか自殺志願者なの?
彼岸島雅:ガァァァ! ガァァァ!
マリーン:また雅様が発狂してる(笑)
彼岸島雅:待って! なんで襲撃されたのに平然としてるの!?
八人も来たのに!? これ僕がおかしいの!? ねえ!!
寺っ子:何もおかしくない。おかしいのはパワプロだ。
マリーン:うん、おかしいよね……色々……。
合気の気:センくんはバグキャラ。
三日月娘:バグと言えば、この間キレッキレなダンス踊ってたわね。
動画撮ってツイッ○ーに上げたらバズったわ……。
ダンスも上手いとかどうなってるのキャップ……。
ヒロピー:あのダンスって文化祭の時、クラスの人とやったんだよね。
眼鏡の男の子も動きキレてた。あと賢そうな()青髪さんも。
パワプロ:え、なに? あの動画勝手にupしてやがったのかお前。
三日月娘:あっ。
マリーン:やっちゃったね……。
パワプロ:今度、踊ろうか……ソロで。禊は必要だよな?
三日月娘:カタカタカタ(((;゚;Д;゚;)))カタカタカタ
パワプロ:むしろシニアの皆で踊るか? カメラマンは監督で。
ヒロピー:いいね!
彼岸島雅:ガァァァ! ガァァァ!
寺っ子:雅様それやmてほsいぃぞ(笑) 笑って手が震える。
彼岸島雅:僕だけ仲間外れヤダァ! 仲間に入れてよー!
ミカぁ!:仲間外れはワタシもです……あ、今来ました。
パワプロ:何やってんだミカぁ!(挨拶)
ミカぁ!:止まるんじゃねぇですわよ……!(挨拶)
マリーン:キボウノハナー(挨拶)
寺っ子:ミカはすげぇよ……(挨拶)
三日月娘:あ、チョコレートの人だ(挨拶)
レイリー:ウザいな(挨拶)
ヒロピー:パンパンパン(挨拶)
彼岸島雅:可愛いと思ったから(挨拶)
合気の気:次は何をすればいい?(挨拶)
ミカぁ!:ダンスの件、ワタシにお任せを。
ホットでポップでキレッキレなのを撮りましょう!
ここのワタシ達、パワプロ様のシニアの皆さん、
女性陣、男性陣、全員の分で五つですわ!
パワプロ:任せた(腕組)
彼岸島雅:際限なく脱線していってるけどなんの話だっけ。
パワプロ:明日の試合の事じゃね。
ヒロピー:あたしが先発だよ! けどその話じゃないよね(´-﹏-`;)
合気の気:誤魔化されないから。
寺っ子:それで、何がどうなったら蛇を誘う流れになるのだ。
パワプロ:色々あったんだよ色々。
パワプロ:俺のイケメンな顔に免じて許してくれ。
パワプロ:許せ。
マリーン:え、偉そう……。
三日月娘:O○E P○E○Eの海○女帝並みに背筋反り返ってそう。
パワプロ:市山田とかに逆恨みされてる蛇を庇った。蛇改心した。以上!
明日に備えて寝る! 皆も寝ろ!
ミカぁ!:露骨に端折ってる部分が多いですわ……!
彼岸島雅:そういえば明日も試合なんだっけ。
いいなー。僕も試合出たい……。
パワプロ:雅様は高校まで封印される運命。
彼岸島雅:やーだー! 僕だけ仲間外れなんてやーだー!
彼岸島に封印なんてひどいよー!
パワプロ:しょうがねぇなぁ。
パワプロ:どう足掻いても雅ちゃんに出番ねえし、今度デートすっか。
彼岸島雅:えっ。うん。うん? デート!? わかたたねしむにしねる
パワプロ:誤字(笑) わかった楽しみにしてる、かな?
合気の気:(〈●〉〈●〉)ジー
ミカぁ!:恐い! 恐いですわ合気さん!
パワプロ:綾。言葉の綾だから。
マリーン:………。
三日月娘:デートって言葉簡単に使うからこの男は……。
みずきちゃんとかいう最可愛美少女とは何回デートしたっけー?
寺っ子:( ・ิϖ・ิ)フーン?
パワプロ:遊ぼうって誘っただけだろ? なんでこんな空気になるんだ?
合気の気:鈍感系主人公のフリしても無駄。
覚悟完了。当方に殲滅の用意あり。
寺っ子:明日はカカシの刑だぞ。
レイリー:パワプロ、後で話がある。
パワプロ:カタカタカタ(((;゚;Д;゚;)))カタカタカタ
パワプロ:そういえば明日の試合の後、猪狩のとこが試合やるな。
楽しみ。
合気の気:話題逸らし露骨過ぎ。この事は明日追求するからそのつもりで。
パワプロ:蛇パイセンの事だろ? 分かってるってちゃんと説明するよ。
彼岸島雅:デート楽しみだねパワプロくん!✧(๑•̀ㅁ•́๑)✧
パワプロ:言葉の綾だって言ってんだろうがコラ!
ここぞとばかりに煽ってんじゃねぇぞコラ!
寺っ子:普段他人にマウンティングしてるから、
流れが来るとやり返されるのだぞ……。
秋季大会準々決勝・好敵手の猛追
――アスリートの中には自らの経験則に則り、自分だけの儀式的所作を持つ層が一定数存在している。
儀式的所作とは、場に即したメンタルモデルを起動するスイッチである。
所謂ルーティンワークと言われるものだ。それはここぞという局面で集中力を研ぎ澄まし、最高の力を発揮できる精神状態を作り出す、自己暗示の一種と言えるものである。
たかが自己暗示、思い込みに過ぎないものだろう、などと軽んじられるものではない。身体を鍛え、技を磨いた人間ほど、心の強さという漠然としたものの大事さを痛感する事だろう。
極度の緊張状態に陥ると実感する。緊張した人間は、最高のパフォーマンスを発揮する事は至難である、と。心技体を高次元で揃えなければ届かない領域があると、自ずと悟ってしまう瞬間が必ず訪れる。故にこそ、心を強く持つ事の大切さ、如何にして心を強くするかの術を、著名なアスリートほど揃って説くのだ。それを単なる精神論と片付けるのはナンセンスだと言える。
だが現実問題として、心を鍛えるのは至難を極める。何せ肉体とは違って、目に見えて成果が出るわけではないからだ。故に自分の動作に暗示を込め、自らの動作に紐づけてメンタルを整えるのである。
猪狩守の求める最高の性能は、マウンドの上でこそ発揮されねばならない。故に守もまた、意図的に自身のスイッチを作り出した。
守のルーティンは帽子の鍔の位置を調整し、ロジンバッグを触る事。
簡単で誰もがやっているような動作で、最善の精神状態を呼び覚ませるようになっている。力と力、技と技、そして駆け引きの世界だ、自身が集中している事を悟られるのは得策ではない。
相手の集中を乱す手段はそれなりに存在しているからだ。そのような合理的な判断から、守のそれは才覚に反比例して平凡なものに落ち着いている。
『お待たせしました。20☓☓年ミズチ旗杯関東連盟秋季大会準々決勝、横浜北シニア、対、佐倉シニアの試合を間もなく開始いたします。横浜北シニアのスターティングメンバーは、
一番セカンド、冴木創さん。
二番サード、
三番ピッチャー、猪狩守くん。
四番ショート、友沢亮くん。
五番ファースト、武秀英くん。
六番レフト、
七番センター、鏡空也くん。
八番キャッチャー、猪狩進くん。
九番ライト、新島早紀さん。
――以上九名が守備位置に付きます』
背後を守る三年生は、たったの二人。残りは全員二年生で、捕手の進に至っては一年生だ。
横浜北シニアは完全なる実力主義である。年功序列などという古臭い、カビの生えたような旧時代の遺物は存在しない。
故にこの世代でもトップクラスの選手達で固められたこのチームは優勝候補として目され、事実としてチームの総合力は一、二を争うものだろう。
猛禽が、悠々と空を舞っている。
猪狩守はマウンドの上からそれを見上げた。頭の中は次の試合で当たる相手の事で一杯だったが、頭を振ってその事を忘れる。今は、目の前の相手を叩き潰す事に集中しよう。
投球練習を簡単に終わらせ、後ろを振り返る。そして全員の顔を見渡して、守は気負うでもなしに言い放った。
「打たせて取る。いつも通りミスなく完璧に処理してくれ。この試合も四回で締めて、次の相手のために体力を温存しておきたいからね」
コールドで終わらせる。その宣言に横浜北のナインは薄く笑った。当然だとでも言うように、あるいは単純に守の強気な発言に。
正面に向き直ると、左打席に入った相手打者が、苛立った様子で守を睨みつけていた。それに失笑する。相手はここまで勝ち抜いてきたチームだが、油断さえしなければどうという事もない相手だと見做している。
それは天才の驕り。上を見るばかりで、下を見ようともしない傲慢さ。だが天高く飛翔する鷹を、地を這う蟻が捕まえられる道理などありはしない。
(一回戦の木場を打ち砕き、二回戦では33点差で完封。三回戦は28点差でパーフェクトゲーム――ライバルであるこの僕のチームに、同じ事ができないはずはない。できる、僕たちなら)
元々高校では、自身の集めた最強の選手を集めようと思っていた。
だが幸運な事に、この横浜北シニアの面々は才能豊かな人材の宝庫で、ほぼ全員が守と同じ高校――暁大付属高校に来てくれると約束してくれた。
中学の三年間と、高校の三年間を共にするチームメイトだ。既に信頼関係は十全のものとなっている。
唯一約束を取り付けられなかったのは、一番セカンドの冴木創だけだ。彼女はストイックに自分を鍛える一流選手だったが、心に期しているものがあるようで、高校は別のところに進学するつもりでいるようだ。
創は守も認める二塁手。脚は速く、守備も上手い。ヒットの延長で本塁打も打てる巧打者だ。彼女が抜けるのは痛いが、別に遺恨はない。
プレイボール! と球審が告げる。守は帽子の鍔に手を触れ、視界の広さを調整し、ロジンバッグを拾って軽く握った。
雑念が散る。守の意識と思考の全てが目の前に向く。
精神力、集中力も消耗品だ。初回から消費するのは馬鹿げている。だがその馬鹿げている事を、試合中は常にやり通せるぐらいでなければ、守は己の目標に届かない事を知っていた。
守は天才だ。自認するだけでなく、他者からも認められている。だがそんな自分でも未だに影すら踏めない怪物が存在した。その怪物を打ち取り、超えるには一球ごとに進化して、自分の100%を更新し続ける必要がある。
力を配分する余裕などない。針の穴を通す制球、どれだけ延長しても投げ切るだけの体力、打者を惑わせる変化球と豪速球。これらを常に磨き上げる精神が、守に不屈の魂と極限の闘魂を齎していた。
――兄さん。相手の先頭打者は来た球に逆らわず、流して打つタイプです。カット技術も高く、速球に強いので気をつけてください。
(関係ない。流し打てるというなら、是非実演してもらおうじゃないか)
偵察班、分析班から受け取ったデータを咀嚼し、余さず記憶している進は、守がマウンドに向かう前にそう言っていた。
だがそれがなんだというのだ。守は不敵に口元を緩め、ゆっくりと両腕を掲げる。――ワインドアップ。一般に球威を上げる効果があると言われるが、実際はそんなに関係ない。しかし守は好んでワインドアップをしていた。
見栄のためだ。しかし単なる見栄ではない。それは相手に猪狩守を印象づける手段でしかなく、大袈裟で大仰で印象的であるほどに、打ち取られたら守の力を思い知らせる事が出来るのだ。要するに――相手の心を折りたいのだ。折れた相手ほど、食いやすい獲物はいない。
初球。オーバースローで投じられる守のそれは、ストライクゾーンのど真ん中に向かった。打者は一瞬困惑する。だがここまでの試合で守のデータも把握されている。もしやと思い、絶好球に見えるそれを見逃すと、チェックゾーンでそのボールは小さく落ちた。ストライクカウントが一つ増える。
スプリットフィンガー・ファストボール――SFFだ。球速は129km/hで、打者のバットの芯をズラし、ゴロに打ち取るのが主目的の変化球である。それを見逃して、打者は鼻を鳴らした。
簡単に振ってやるかよ、と。後続の為に球筋を見るのが先頭打者だ、守の球種は既に割れているが、今日の調子を見極める為にも粘り、そして打つ。体力の温存などという甘い考えを打ち砕いてやると打者は思った。
進からの返球を受け、守は進のサインを見る。そして頷いた、配球の意図が読めたのだ。
(僕の球数を多く食いたいようだが。できるかな、君に? 下手に打てば胃もたれするよ)
今度もど真ん中に、球速を上げたボールを投じる。それは直球と同じ回転、SFFよりも球速は5km/hは速くなっている。体感的にそれを感じ取った打者はスプリットではないと判断し、それをカットするべくバットを振った。
ヒットを打ちにいったのではない。今日この日の、自身の『当て勘』がどれほどのものか確かめる一振りだ。カットしてファールにする技術に自信がある故に、打撃のタイミングを図る試金石にしようとしているのである。
だが――その球は、打者のチェックゾーンに入った瞬間に、落ちた。
「……!?」
当たりは平凡なセカンドゴロ。創は難なく捌いてファーストの秀英に送球。アウトカウントがこれで一つだ。
二球目もスプリットだった。一球目が単なる釣り餌、二球目が初球の餌に掛からなかった魚を釣る餌である。眼鏡を掛けた巨漢の秀英からボールを投げ渡されながら、守は人差し指を立てて全員に示す。この調子だ、と。
打者は唇を噛みながらベンチに戻り、二番打者と擦れ違い様に囁く。SFFがキレてる、ホップしないストレートはSFFだと見做した方がいい、と。
頷いた二番打者が右打席に入る。相手の打線は左と右を交互に据えたもの。投手に慣れさせない打順が組まれていた。
スタンダードなバットの構え。守はそれを見て、再び失笑する。こうした笑いは相手に不快感を与え、挑発として機能する。露骨過ぎたら流石に品が悪いが、守のそれは強気な心の発露だと解釈される程度だ。
とはいえ打者からすると面白くはない。気に食わない奴だと睨まれる。それに涼し気な目を向けて、眼中にもないと大上段に構えると――少しムキになってくれる。未熟な相手なら簡単に処理できる程度に。
初球は、またしてもSFFだ。先頭打者に投じた二球目と同じ球速とキレ。内角に落ちたこれを打者は見逃した。ワンストライクだ。
(進、どうだい?)
(ツーカウントまで見送ると思います。次はカーブを。その後は――)
(OKだ。打者二人を五球以内に抑えられたらまずまずとしよう)
守は要求通りに緩い変化球を投じた。ストライクゾーンの外から外角に入るカーブ。変化量はトップギアのものより一段落ちるが、キレがよく打者はそれも見送る。慎重派な姿勢だ。
それに守は薄く笑い、テンポ良く三球目を投じる。今度は139km/hの球速である。今度こそストレートだと見切って打者はバットを振り――また落ちる。引っ掛けた当たりはサードの目の前に転がり、三年の項が猛チャージを掛けて素早く処理した。ツーアウト目は、またしてもスプリットである。
返球を受けながら、守は何気なくスタンドを見渡した。高校のスカウト、テレビのカメラマン、チームの応援団や一般観客。その他、よそのチームからの偵察やら何やら。賑わうそれらと、解説と実況のいる席。
スプリットを習得したのは、変化球が三種類だけでは駄目だと思ったから。スライダー、カーブ、フォーク。それ以外でも勝負できるボールを増やし、かつ全ての球種のレベルを上げ続けた。そして――この大会からお披露目した新球種のスプリットの他に、もう一つ会得した変化球とも合わさり、守はさらなる進化を遂げたと見せつけねばならない。
「―――」
ふと、守はレフトスタンドに、見知った少年を見つけて目を見開いた。
それは、守の永遠のライバル。観客席で寛いで観戦しているその目は、守を見ていて。目が合ったと気づいたのか、ニヤリと悪戯っぽく笑った。
それに自然と笑みが浮かぶ。これは、無様な内容は見せられないな、と。
本当は隠しておくべきなのだろう。だが、関係ない。守は常に進化しているのだ。次の試合で当たるまでに、守は秒刻みで成長している。――好きなだけ見ていくといい、そのデータが次の試合までには使い物にならなくなっている事を教えてあげよう――守は会心の気迫を宿した。
三番打者。名前はなんだったか――どうでもいい。相手が誰であってもやることは同じだ。守は進のサインに、首を横に振る。それを何度か繰り返して、進は兄の考えを察して仕方なさそうにサインを出した。
それに頷く。ギアをトップに入れ守は振りかぶった。投じるのは145km/hの速いボール――コースはど真ん中。打者はその初球から手を出した。速い球に釣られてつい、といった様子。それでもジャストミートする軌道をバットは辿り、しかしそれはファースト正面に転がった。
スプリット。
アウトカウントが三つになり、攻守が入れ替わる。目を見開いて守を凝視する打者に肩を竦めて見せた。
守の最高球速は、今のところ
手本としたのは――最高にして最強の敵、パワプロのジャイロフォークである。パワプロのそれを完全に真似する事はできなかったが、研究する過程でこの速い変化球を生み出せたのである。
守は、天才だった。それも才能に胡座を掻かない、努力する天才で、際限なく進化する天才であった。
ナイピー、と褒めてくるチームメイトに不敵に応じながらベンチに戻る。相手チームの投球練習を見ながら、ベンチにいる全員に――特に、自分が知る限り最強の同志である少年に向けて言った。
「――レフトスタンドに、アイツがいたよ」
名前は出さなくてもほぼ全員が察した。察せられなかった者も、レフトの方を見て瞠目する。よくよく探そうとしなくても――オーラとでも言うべきものがある。それが自然と目を引き、その人物は遠目でもすぐに見つけられた。
友沢亮が、震える。常の冷静さが崩れかけるほどの闘志に。創が打席に向かい、笑いながら言った。
「無様は見せられないな」
「どういう意味だい?」
守の問いに、創は苦笑する。
「言ってなかったか。自分の先生だよ、あの人は」
「――へえ」
「リトルの時にね。ホームランの打ち方というものを教わった。――それを今から見せてこよう」
初耳だ。まさか自分のチームにライバルから薫陶を受けた選手がいたとは。
だが守は納得する。創のバッティングスタイルは、教科書通りのような基本的なスタイルだが、どこか――あの少年に似ている気がしていたから。
果たして創は先頭打者でありながら、初球からバットを振っていく。強振で振り切られた金属バットは快音を鳴らし、ライトスタンドに叩き込まれた。
おいおい、と二番打者の項が笑う。独特な苗字だが、純粋な日本人だ。長身痩躯に見えて、筋肉質な身体を持つ赤髪の三年生は、創とハイタッチしながら守に言った。
「――後輩に魅せられたんじゃ、オレも続かないわけにはいかんな。ホームラン競争だ――守、オレに続けよ」
「項羽先輩、そんな事言いながら扇風機になるのは勘弁ですよ」
「ほざけ。ホームラン以外は三振と同じだ。メジャーだと二番は強打者の打順だからな――世界クラスの一撃を魅せてやるよ」
果たして項関羽――項羽とあだ名される、赤壁高校の監督の息子である先輩は、宣言通りにセンターへの本塁打を放って帰還した。
それを打席の前で出迎えた守は、呆然とする相手投手を見て思う。
次の試合が待ち遠しい、と。そしてその反面思うのだ。まだ早い、と。まだこの手はあの高みに届いていない。超えたと思えない。故に――燃える。
(パワプロ。僕の――僕達の敵になれるのは、この大会だとやはり君だけだ。負けるかもしれない、だけど――いつまでもこの僕の前を走れるとは思わない事だ)
守は渾身の一打を放つ。友沢が続く。秀英が追い打つ。呂布鳳仙が強打し、鏡空也が適打を打った。
進が守備の穴を突き、女子外野手の新島早紀が走者一掃のツーベースを放った――驚異の九打者連続ヒット。打者一巡して、なおノーアウト。
準々決勝にして、なおも見せつける圧倒的な力の差。相手チームは既に愕然としていた。
デモンストレーションはこれぐらいでいいだろう。守は――いや、友沢や創がレフトスタンドに目をやる。げんなりした風な顔は、確認した古馴染み達の成長速度に脅威を覚えてのものだろうか。
だとしたら、久し振りに嬉しく感じられる。見ていろ、怪物。お前を玉座から打ち落とす日まで、僕達は決して止まらない――
ワンパターン蹂躙劇を避ける為に守くんサイドを描写したら蹂躙していた。何を言ってるか分からないと思うが作者にもよく分からない――
一度パワプロくんサイドの蹂躙劇を書いたのですが、あー……とげんなりしたので消してこの話を書きました。そのせいで遅れてしまい申し訳なく思います。ゴメンナサイ。
次の試合は勇者猪狩くん対魔王パワプロくんです。事実上の決勝戦。
その前に誰かさんとのお話を描いてワンクッション置きます。
たくさんの感想評価ありがとうございます。今後も楽しんでいただけるように頑張ります。