「――力場ッ、居眠りとは余裕だな! そんなに余裕があるという事はこの問題も分かるってことだろう。答えてみろ!」
「○○です」
「むっ……、……正解だ。座って良し」
おぉ、と教室がざわつく。
――さあ糞に塗れた実況RTA再開しますよ(迫真)
わたしが離席したのでパワプロくんは一時的にスリープモードに入り、授業中に居眠りかましてましたが問題ありません。
厭味ったらしさに定評のある、プレイヤーの進学した先々に何故かいる数学教師からの出題にさらっと答えておきましょう。
この時代の学生にとっては難しい問題だったらしく、間髪空けずに答えたのでクラスメイト達からの評価が少し上がりましたね。
そう……(無関心)
興味無いね(クラウド並感)
いやマジでどうでもいいですよ。わたしの往く
中断前の話題に移ります。さっきのモブ娘――本名は聞き出しているのですが、今後出す事のない名前なので、通りの良さからモブ娘で通しますが……そのモブ娘からのメールで今後の予定が完全にパァになりました。
完全に予想外だったんで、大慌てで一時中断してまで原因を調べて来たんですが……はい、ちゃんと解明できましたよ。
類似のイベントとして似たような事があるんですよ。該当キャラは我々の業界ではある意味名高い、あの『片桐恋』です。
根はメチャクチャいい子なんですが、この娘は激重なヤンデレ気質でして。詳細は省きますがプレイヤーに好意を懐くと、放っておいても好感度が上がっていきます。そして依存してきます。
本作内で明らかになる、彼女の境遇は洒落で済まないほど闇が深く、ちょっとジャンルが変わってきちゃうレベルなんですよ。具体的に言うと『パワプロがパワポケになる』レベルです。
で、この娘は本作だと行動力がグレードアップしてまして。彼女は別に何もしていないんですが、恋ちゃんの激重プレイヤーLOVEっぷりに気づいたモブ娘は『この娘の想い人に関わったらヤバイ気がする』とビビリ、モブ娘がプレイヤーに関わるのを止めるイベがあるんです。
いや恋ちゃんヤンデレ気質だけど人に危害加えたりしませんからね……? 人に暴力をチラつかせる三流ヤンデレと一緒にしてはいけませんよ? ただしプレイヤー次第で七変化するので取扱注意ですが。恋ちゃんはプレイヤー色に染めやすいけど、染まり易すぎるのが難点なピーキーな娘です。
とまあそんな訳です。え、よく分からない? ヒントは聖ちゃんと礼里ちゃんですよ。
容疑者はあの二人しか思い当たりません。や、彼女たちが何かをしたとは思いません。伝説のパワポケシリーズ含め、パワプロシリーズのヒロインに畜生みたいなのはいませんからね。それっぽく見える娘がいたとしても実際はぐう聖ですよ。間違いない。そこは信じていいです。
よくよく考えてみたら、わたし、あの二人と仲が良すぎるんですよね……。礼里ちゃんとは小1からのセカンド幼馴染で、聖ちゃんはなんと、調べてみると生まれた日からの付き合いというファースト幼馴染でして。ずぅっと一緒にいて一緒に野球をしてリトルリーグで優勝したりもしてました。そしてシニアでも一緒です。そりゃあ……ねえ? 新参の彼女枠も聖ちゃん達の存在を知れば気後れするのに不思議はありません。
ほんでパワプロくんは超絶完璧超人です。顔よし頭よし性格よしの上、運動神経まで超絶抜群の天才ですよ。『人気者』『モテモテ』を獲得しているパワプロくんが、女子にとって競争率が高いのは自明でしょう。女子からの注目度は非常に高く、今まで知らなかった娘もパワプロくんの身の周りの人間関係は簡単に把握できるはず。となると聖ちゃん達の事もすぐに知れ渡ります。
天才パワプロくんにベッタリな二人の幼馴染美少女。野球してるから距離感もメッチャ近く、こりゃ勝てねえわと判断するのに時間は掛からないはず。この時点で関わるだけ時間の無駄と、ガチ恋してるわけでもないモブ娘勢力は自然と駆逐されるわけですね。『片桐恋』の時と似たような流れです。
なのでそういう先入観に負けない、強いメンタルを持つ原作キャラ勢としか親密になれないんですよ。仲の良い奴が他に居る? 知るか私もパワプロの事が好きなんだよ負けてたまるか! みたいになれないといけないわけです。
いや……これ、別に聖ちゃん達に非はありませんわ。一瞬でも疑ったのが申し訳ないです。
ただ愕然とさせられるのは、聖ちゃん達が非攻略対象である事ですよ。非攻略対象なのに、恋愛感情なんて皆無なのに、なーんでこんな糞イベが発生するんですかね……? おかしくない……? おかしいでしょ! 誤解から敬遠されるようになるとかそこまでリアルである必要なくないですか!?
チャート組み直さなきゃ(嗚咽)
修正が必要です。『センス◎』と『幼馴染・霧崎礼里』の組み合わせを求めて再走するのはもう嫌だ……今回はここまでメチャクチャ順調だったんです。矢部くん枠に聖ちゃんがつくミラクルラッキーも重なってるんですよ、ここで諦めるには惜し過ぎるでしょう?
下手に欲張るなよわたし……頭を冷やすんです。トータルで考えると、パワプロくん専用捕手たる聖ちゃんがいるお蔭で、ここまでの育成はマジで大成功中。クレバーな判断を下すなら想定より一回りは強くなれてるんですよ。
……。
………。
…………よし、決断しました。
本当はここから先のチームメイトは乱数に任せておこうと思っていました。何せ強豪校に進学すれば、ほぼ安定して高い能力を持つモブとネームドが揃うので、特にこっちからアプローチを掛ける必要はなかったんです。
ですがモブ娘勢力で彼女枠を埋められず、その分の経験点をゲットできなくなってしまった今、座して待つのは効率の面から見て非合理的です。こちらから働き掛けてやりましょう。
現時刻を以ってチャート変更を視野に入れる事を宣言します。
リトル時代から引き続き、シニアでも無双し強豪校からのスカウトをゲットする。この流れは据え置きですが――わたしは敢えて強豪校に進学するという甘えた考えは捨てます。スカウトを受けていながらそれを蹴る、そして野球部のない高校に進学し自分で野球部を作り甲子園優勝を目指します。いわゆる王道サクセスストーリーに舵を切りましょう。
こうするとスカウトを蹴って弱小校に行った馬鹿として注目度が集まり、無名校ゆえの経験点ボーナスが見込めるんですよ。まあ練習設備がクソザコナメクジなのが難点ですが、名門校レベルに引き上げる手段があるのでそちらに賭けます。それでモブ娘を彼女枠に据えての経験点ゲットができなくなった穴を埋められるはず。
そのための面子を集めるのが急務ですね。聖ちゃんは確定で同じ高校に来てくれるんで、まずは礼里ちゃんも誘っておきましょう。礼里ちゃんもほぼ確実に来てくれる……はず。友好度はとうの昔にカンストしてるはずなので。
で、そこから先はまだ不確定ですが、マネージャー枠に氷上聡里ちゃんを引き連れていきたいですね。遊撃手と捕手を除いた内野陣、外野、わたし以外の先発陣と中継ぎと抑えの投手を最低でも三人は確保したい。足りなければモブで我慢しましょう。モブだからと侮れないのが『ぱわぷろ(平仮名)』世界でして、一線級の戦力になる場合も多々あります。そういうモブとは是非お近づきになりたいものです。
今の所は絵に描いた餅でしかありません。しかしこちとら『ぱわぷろ(平仮名)』ガチ勢の一人。在野武将、もとい現時点でフリーのネームドの所在をわたしは知り尽くしています。
そうと決まれば早速行動に移りましょう。もしやってみて、王道サクセス・ストーリーの開幕が無理そうなら……素直に諦め名門校へのスカウトに応じます。時には日和る事も大事なんですよね。安定性のために。
で。日和らざるを得なくなった時の事を考えると恥ずかしいので、今はまだ礼里ちゃんや聖ちゃんにわたしの案を話すのは控えておきましょう。あ、それから二人にメールしておきましょうか。『なんか彼女からフラレた。元々こうなるとは思ってたけど早すぎて頭が追いつかない。気持ちを整理するために少し一人にしてくれ』……っと。こんな感じですかね。
『分かった』
『余り悩むな』
二人共クール系なので、対応が少し似てるのが笑いを誘います。
さて……これで二人から離れて行動する名目を作れました。いきなりですがシニアチームに入っていない、かつ野球経験者で野球大好きネームドと面識を作りに行くとしましょうか!
放課後になると街に繰り出します。監督やチームメイトには事情を話してませんが、風邪を引いたとでも言っておけば信じてくれますよ。
なんせパワプロくんとしてのわたしは野球狂です。練習をサボるとは思われていません。こういう時のために評価を上げておく必要があったんですね。
街で回るのはバッティングセンターや、シニアの練習を見物できるスポットです。この時期はこの辺を回ってると、結構高めの確率で見つけられるネームドキャラがいるんですよ。
他のシリーズではフリーじゃないんですが、この『ぱわぷろ(平仮名)』世界ではフリーなんです。そのネームドキャラは、わたしの元々のチャートだと見向きもしないのですが――二塁も守れる礼里ちゃんと組める優秀な内野手なので、チャート変更を視野に入れた今拾っておかない手はありません。そのネームドにはちょっとした問題がありますが、本人はとてもいい子です。その問題も解決する手立てがあります。他力本願ですがね。
そんなわけでジョギングがてら怪しいポイントを走って回りましょう。
しかし流石に一日目から見つけられると思っては――お? おお! いました! どうやら天はわたしに味方しているようですよ!
では早速声を掛けましょうか! わたしの勧誘テク、見てろよ見てろよ〜?
って、あれ? ……なんだこのオッサン!?(驚愕)
な、何をするだぁー!
† † † † † † † †
僕は野球が好きだった。
『何が』と言われれば『全部』と答える。全てのポジション、全てのプレー、とにかく全部が好きなんだ。
小さな頃からテレビで野球の試合を観戦するのが楽しみだった。
けど、見ているだけでは終われない……いつしかそう思うようになって、実際にリトルで野球をした。
自画自賛になるから口には出さないけど、そこそこ活躍できたと思う。
だから僕はこのままシニアでも活躍して、高校では甲子園を目指して、プロには行けないかもしれないけど……大学でも、そして社会人野球にも関わっていけると思っていたんだ。
けど、そんな僕の幻想は、すぐに砕け散ってしまった。
単純な話。僕の家は母子家庭で、金食い虫の野球を続けさせてくれるほど裕福じゃなくて。お金が足りないから野球を続けられなくなったんだ。
ごめんね、ごめんね――申し訳無さそうに何度も謝ってくるお母さんに、僕は何も言えなかった。薄々無理をさせてしまってる気はしていて、どんどん窶れていっていたお母さんに……文句なんて言えるはず、ない。
気にしないでいいよ、と笑顔で言えたと思う。けどその日の夜は悔しくて悲しくて、一晩中泣いた。僕の野球人生は、小学校で終わってしまったんだ。
――けれど。
野球が、好きなんだ。本音を言えば諦めたくなんてなかった。
だから僕は、なけなしのお小遣いを貯めて、バッティングセンターに月一で通ってる。僕が入りたかったシニアチームの練習風景を、未練がましく遠くから眺めている。
(いいなぁ……)
羨む気持ちは強い。
一生懸命に野球に打ち込む同年代の男の子達が、とても――とっても、羨ましかった。
今日もバッティングセンターに行った。カキンとボールを打つ。シニアの練習風景を眺めて、自分ならこうバットを振る! なんて事を思いながら。
分かってる。いい加減、諦めるべきなんだって事ぐらい。一度バットを振る度に、泣きたくなる気持ちを切り離して――勉強を頑張って奨学金制度を掴み取り、大きな企業に就職できるように努力するべきなんだ。
だけど――そう簡単に諦められるものじゃなかった。
「はぁ……こういうの、女々しいって言うんだっけ」
ポツリと呟き、バッティングセンターから出る。
虚しかった。こんな機械を相手にしても意味がない。僕は、野球がしたいんだ。バッティングセンターでバットを振ってるだけだと満足できない。
最近知ったけど、人の夢と書いて儚いというらしい。――ほんとうに、儚い夢だったんだなと虚しく笑った。
けれど――人の夢と書いて、儚いと言うのと同じ様に。『
――もし運命ってものがあるなら、きっとこの出会いの事を言うんだろう。僕はこの日、僕の運命に出会ったんだ。
「――――!」
「――――」
「――! ――!」
「……? なんだろ」
トボトボと帰路につくと、街角で一人の少年がスーツ姿の男性に捕まっているのを見つけた。いや、捕まっているんじゃなくて……勧誘されてる……? それもかなり熱心に。
なんだろうと様子を見てみる。すると少年の方はテレビでしか見られないぐらいカッコいい男の子だった。
その男の子は名刺を押しつけようとする大人の人を相手に、とっても困っているように見える。
(ど、どうしよう? これって警察に通報した方がいいのかな?)
そんなふうに悩んでしまう光景だ。オロオロとしてしまい左右を見渡すも、道行く人達は我関せずと通り過ぎていくばかり。なんて冷たい人達なんだと憤る前に、僕がなんとかしなくちゃと思い立った。
その瞬間だった。男の子はバッと僕の方を見たかと思うと、笑顔を作って駆け寄ってきたじゃないか。
「よ、よぉ! やっと来たか! あっすみません、ツレが来たんで行かせてもらいます! それじゃあ!」
「あ、きみ! 待ってくれ、せめて名刺だけでも受け取って――」
「え? え? えぇぇぇ!?」
後ろから大声で制止されても知らんぷりして、男の子は僕の手を掴んで走って行く。
どんどん僕の帰り道から離れていく事よりも、その力強さと強引さに僕は目を回してしまった。
漸く男の子が脚を止めた頃には、僕は少し息を切らせてしまっていて。対して男の子は汗一つ掻いていないまま、申し訳無さそうに謝ってくる。
「ゴメン、無理に付き合わせちまったな。けど助かったよ。あのオッサン滅茶苦茶しつこくてさ……俺にアイドルにならないかとか、もう少し人を見ろっての。話してみたら脈無しだってすぐ分かるだろ? 普通はさ」
「そ、そう……なんだ……」
「……悪い。関係ないのにお前に迷惑掛けちまった。なんか埋め合わせさせてくれ」
「い、いいよ別に。気にしてないから」
本当に気にしていなかった。結局何もしていないけど、僕の存在を口実に逃げ出せたんなら嬉しい。それにこんなにカッコいい男の子に手を引かれて走るなんて――まるで少女漫画の出来事みたいだった。
このままサヨナラしてもよかったんだけど、どうも男の子の方はそうしたくないみたいだ。迷惑を掛けたんだから何かしたいと思っているのかも。
ほんとに気にしてないよ? そう伝えようとすると、その前に男の子が脈絡なく唐突に言ってくる。
「……お前、野球やってるだろ」
「えっ? な、なんで……?」
「手の感触が日常的にバットを振ってる奴のものだからな。俺も野球してるんだ、それぐらい分かる」
「そ、そうなんだ」
――普通はわからないと思う。
けれどなんでか、僕は居た堪れない気持ちになった。確かにバットを振らない日はないけど、言われるほど熱心じゃない。本気でやれていない。
だって僕は、もう野球に関われたりしないから……。
僕の表情に陰が差したのに気づいたのか、男の子は眉を落とした。そして聞いてくる。――もしかしたら僕の表情から、何かを感じ取ってくれたのかもしれない。それは密かに僕が、誰かから掛けて欲しかった言葉で――
「――お前、今ヒマか?」
「え、ぁ、うん……」
「じゃ、一緒に野球しようぜ! 俺ピッチャーでお前バッターな!」
「へっ?」
「この近場に空き地があるだろ。そこの壁をキャッチャーに見立ててボール投げてやるよ。お前に俺の球が打てるか?」
「わ、分かんないよ。それより待って! 僕、今道具持ってない!」
「俺ん家が近くだから俺のを貸してやるって。ほら行こうぜ! それとも今は野球する気分じゃないのか?」
そんな事はない。いつも、いつも僕は野球がしたかったんだから。
たとえそれが、一対一の勝負でも良い。生身の人と、一緒にやりたかった。
その想いを口に出せず、口ごもってしまうと――男の子はにかりと笑って僕の手を再び取ってくれた。
強引に――止まっていた僕の時間の針を、力強く動かしてくれたんだ。
「答えは決まったな。そんじゃ俺ん家まで案内してやるから付いてこいよ」
「――き、君ってかなり強引だね」
「相手を見てやってるから気にすんな」
それは気にする。けど不思議と悪い気はしなくて、胸が高鳴った。
素直に嬉しくて、ワクワクしてきたんだ。
「あ。そういやお前、名前なんて言うんだ?」
「……え」
「俺は力場専一、仲の良い奴らにはパワプロって呼ばれてる。お前もパワプロって呼んで良いぞ」
「ぼ、僕は……僕は――」
突然名前を聞かれ、言われ、どもってしまう。それに赤面してしまいながら僕はなんとか自分の名前を口にした。
「僕は――小山雅! よろしくね、パワプロくんっ!」
(非攻略対象なら問題ないやろ)